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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:09.11.27)

第113巻 第11号/平成21年11月1日
Vol.113, No.11, November 2009

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総  説
1.

日本における小児腎腫瘍治療の現況と展望

大植 孝治,他  1619
2.

小児軟部腫瘍の病理診断と遺伝子異常

孝橋 賢一,他  1626
第112回日本小児科学会学術集会
  教育講演

思春期の性の問題

甲村 弘子  1636
  教育講演

光を用いた脳と心の探究

星 詳子  1642
  教育講演

シトリン欠損症研究の進歩―発症予防・治療法の開発に向けて

大浦 敏博  1649
  教育講演

小児科医に求められる食育推進活動

児玉 浩子  1654
  教育講演

心を体と歴史から診る―私的・心身医学序説

冨田 和巳  1664
原  著
1.

小児期孤立性僧帽弁閉鎖不全の臨床経過

齋木 宏文,他  1671
2.

滋賀県心臓検診におけるBrugada様心電図の診断と管理の問題点

高橋 良明,他  1677
3.

高校生の生活習慣病予防検診

宮崎 あゆみ,他  1687
4.

重症RSウイルス細気管支炎に対する非侵襲的陽圧換気療法

田村 卓也,他  1695
5.

スポーク外傷50例の検討

安井 直子,他  1701
6.

短鎖3-ヒドロキシアシル-CoA脱水素酵素欠損症と遺伝子診断した1例

七條 光市,他  1705
7.

頸部,前胸部の腫脹を合併したムンプスの2例

小出 竜雄,他  1711
8.

一過性脳梁膨大部病変を認めたムンプス髄膜脳炎の1例

松本 尚美,他  1717
9.

経皮的人工心肺補助を10日間使用して救命しえた劇症型心筋炎の1例

中本 祐樹,他  1721
10.

一側大脳半球に広範な多発性梗塞様病変をきたした先天性色素失調症の1例

長門 雅子,他  1726
11.

非対称性子宮奇形に伴う留血腫による腹痛を呈した2例

手束 真理,他  1730
12.

呼吸機能検査が診断に有用であった気管原発神経鞘腫の1例

菅井 和子,他  1734
論  策

新生児医療に携わる医師確保のための新しい試み

木下 竜太郎,他  1739

地方会抄録(長野,佐賀,長崎,滋賀)

  1744
日本小児栄養消化器肝臓学会

小児クローン病に対するインフリキシマブ使用に関する見解

  1755
日本先天代謝異常学会薬事委員会

テトラヒドロビオプテリン(BH4)反応性高フェニルアラニン血症診断のためのBH4供給について

  1758
小児医学研究振興財団ファイザー海外留学フェローシップ報告

研究課題:IGF受容体異常を基盤とした子宮内発育遅延の病態解明

鞁嶋 有紀  1759

雑報

  1765

医薬品・医療機器等安全性情報 No.261,262

  1766


【原著】
■題名
小児期孤立性僧帽弁閉鎖不全の臨床経過
■著者
兵庫県立こども病院循環器科
齋木 宏文  鄭 輝男  城戸 佐知子  田中 敏克  寺野 和宏  藤田 秀樹

■キーワード
僧帽弁閉鎖不全, 心不全, 予後, 小児
■要旨
 【目的】小児期孤立性僧帽弁閉鎖不全(以下MR)の原因とその臨床経過を明らかにし,経過観察や方針決定に寄与すること.
 【対象と方法】1989〜2005年に当科で有意な逆流(trivial, mild, moderate, severeの4段階評価でmild以上)を指摘され経過観察1年以降も存続,またはこの間に手術を要したMR40例を対象とし,2006年末までの経過を後方視的に検討した.病変(構造異常)とMRの程度は小児循環器科医による超音波検査で判定した.
 【結果】平均観察期間は7年(1〜18年)であった.器質的異常を伴う23例の病変は弁下組織(乳頭筋,腱索)単独13例,弁尖(cleft,低形成)/弁下組織の両方6例,弁尖単独4例であった.器質的異常を認めない症例(特発性弁尖逸脱を含む)は17例であった.器質的異常のある例は進行性であることが多く,19例に僧帽弁形成術を施行し,13例が初診から1年以内であった.一方,器質的異常のない例は1例に形成術を要したが,他に増悪傾向はなかった.器質的異常を伴う症例は初診時にMRが有意に高度であり,心胸郭比や左室拡張末期径も有意に大きかった.
 【結論】器質的構造異常を伴うMRでは初診から逆流が高度で進行が早い傾向があった.方針決定や予後推定には弁形態や逆流の程度を含めた小児循環器科医による包括的評価が有効と思われた.


【原著】
■題名
滋賀県心臓検診におけるBrugada様心電図の診断と管理の問題点
■著者
滋賀県心臓検診検討会
高橋 良明  奥野 昌彦  近藤 雅典  田宮 寛  中川 雅生  西岡 研哉  服部 政憲  早野 尚志  藤澤 晨一

■キーワード
Brugada症候群, 学校心臓検診, 心電図, 突然死
■要旨
 【目的】滋賀県心臓検診の改善を目的としBrugada様心電図(以後Brugada)の学校検診の頻度を調査し,またBrugadaの管理の実際も調査した.【方法】1:平成15,16,17年度滋賀全県の小学校中学校高校のうち判読医がBrugadaとした心電図(以下1群)2:問診で失神の既往のある生徒の心電図及び3次精密検査医療機関が提出した学校生活管理指導表でST上昇などBrugadaが疑われる診断名のある生徒の心電図(以下2群)3:不完全右脚ブロック(以後irbbb)などの異なる診断名で3次精密検査医療機関を受診し,その結果Brugadaとして管理中の生徒の心電図(以下3群)を取り寄せ検討した.また1〜3群の突然死歴を調査した.【成績】1:3年間の合計でBrugada数/生徒数で表すと,小学校1年生では1人/41,747人,小学校4年生では,4人/40,692人,中学校1年生では,3人/41,297人,高校1年生では,4人/43,524人合計12人(男10人女2人)であった.2:問診に失神の記載のある心電図を15例調査したがBrugadaは1例あった.3:Brugada症候群に類似した心電図所見をとり鑑別に必要な早期再分極症候群(以下ERS)の予後が悪いとの報告1)があり20例のERSの問診を調査したが失神歴はなかった.【結論】1:Brugadaであるのに,心臓検診で精密検査されない例や管理不要になっていた例があった.2:失神歴や家族の突然死歴は重要なBrugada発見の因子であった.


【原著】
■題名
高校生の生活習慣病予防検診
■著者
社会保険高岡病院小児科1),鹿児島医療センター小児科2),高岡市医師会・高岡高等学校学校医3),鹿児島県栄養士会4),富山大学医学部小児科5),筑波大学大学院人間総合科学研究科(医学)6)
宮崎 あゆみ1)  吉永 正夫2)  深島 丘也3)  平田 睦子4)  西村 和子4)  市田 蕗子5)  高橋 秀人6)

■キーワード
生活習慣病予防検診, 高校生, 性差, 腹囲, アディポカイン
■要旨
 本研究は,高校生における生活習慣病関連データを収集し,生活習慣との関連を考察することを目的とする.富山県T高校2年生(男子114名,女子120名)を対象に生活習慣病予防検診を実施し,身体計測,血圧測定,血液生化学検査(脂質,血糖,インスリン,アディポカイン等),および本人,保護者の生活習慣,食習慣調査を行った.その結果性差に関しては,収縮期血圧が男子で有意に高値,HDLコレステロール,インスリン,HOMA-IR,およびアディポネクチン,レプチンが女子で高値となった.特にレプチンは男子に比べ女子が顕著に高値であった(1.1 vs 6.1 ng/ml,p<0.001).BMI,肥満度,腹囲,腹囲身長比の各体格指標と生化学値との相関分析では,その相関関係は4指標ともほぼ同じ傾向を示し,中で最も強い相関を示した生化学値はレプチンであった(r=0.57〜0.69,p<0.001).さらに対象をBMIでやせ群から肥満群まで4群に区分して生活習慣の比較を行った結果,運動時間およびエネルギー摂取量に一部有意差を認めた.以上,今回のT高校生検診では,血圧,脂質,アディポカインに性差を認め,また男女ともBMIや腹囲などの体格指標とレプチンに最も強い相関が認められたが,BMIと生活習慣,食習慣に関しては,運動時間やエネルギー摂取に一部関連を認めるのみであった.


【原著】
■題名
重症RSウイルス細気管支炎に対する非侵襲的陽圧換気療法
■著者
神戸市立医療センター中央市民病院小児科
田村 卓也  廣田 篤史  吉田 健司  岸本 健治  宮越 千智  原田 明佳  田場 隆介  岡藤 郁夫  辻 雅弘  宇佐美 郁哉  山川 勝  冨田 安彦  春田 恒和

■キーワード
非侵襲的陽圧換気療法, 急性細気管支炎, RSウイルス細気管支炎, 急性呼吸不全
■要旨
 RSウイルス細気管支炎は,乳児期に急性呼吸不全を呈する頻度の高い疾患である.しかし,同疾患に対する治療法は,未だ確立されていない.当院では,2007年10月以降,急性呼吸不全を合併した重症RSウイルス細気管支炎に対して,非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)を用いた治療を行っている.
 今回,重症RSウイルス細気管支炎に対するNPPVの有効性を検討するため,当院で1年間にNPPVを行った重症RSウイルス細気管支炎3例について検討した.
 症例は,日齢20,日齢41,日齢52の乳児で,いずれも重症RSウイルス細気管支炎のため,当院へ入院となった.3例ともに,NPPV開始2時間で,心拍数,呼吸数,呼吸窮迫スコア,pH,PCO2が改善し,気管挿管に至らずに軽快退院となった.経過を通じて小児科一般病棟での管理が可能であった.また,NPPVによる合併症は認めなかった.
 気管挿管症例と比較して,呼吸管理の期間,入院期間が短縮し,医療費の削減につながった.
 NPPVは重症RSウイルス細気管支炎に対して,安全かつ有効な治療戦略の一つであると考えられた.NPPVの使用により,入院期間の短縮や集中治療管理の回避から,医療費の削減につながる可能性が示された.


【原著】
■題名
スポーク外傷50例の検討
■著者
国立成育医療センター総合診療部1),同 救急診療科2)
安井 直子1)  辻 聡2)  阪井 裕一1)

■キーワード
スポーク外傷, 事故予防
■要旨
 スポーク外傷とは,主に自転車輪による下肢の骨及び軟部組織損傷を指す.本調査はスポーク外傷の疫学的データを収集解析し,今後の事故防止を進める上での資料とすることを目的とした.
 2006年4月より2008年1月に当院救急外来を受診したスポーク外傷症例を対象に,病歴記録をもとに後方視的検討を行った.
 対象症例は男児27例,女児23例の計50症例で,年齢は3歳より13歳まで,中央値は6歳であった.受傷部位は全例が下肢で,踝部28例,踵部14例,足背部6例,他不明が6例であった(受傷部位が複数例の6例を含む).創部に関して挫創が28例(56%),擦過傷が18例(36%)の他,アキレス腱の露出を4例(8%)に認めた.また5例(10%)に脛骨及び腓骨の骨折を認め,1例では足関節の開放性骨折を認めた.挫創28例は全例,生理食塩水による洗浄の徹底と閉鎖療法を施行し,うち6例に縫合処置を要した.
 挫創28例のうち22例に関して治療経過を追跡調査したところ,疼痛の消失まで平均9.5日,歩行可能まで平均7.1日を要し,創部の上皮化までには平均24.5日を要していた.抗菌薬投与なしに,全例で創感染をきたすことなく良好な回復が得られた.
 スポーク外傷では長期の治療期間を要するが,防止具の装着などにより予防可能な外傷である.小児科医が積極的に関与し,適切な事故予防対策の啓蒙を行うことが重要であると考えられた.


【原著】
■題名
短鎖3-ヒドロキシアシル-CoA脱水素酵素欠損症と遺伝子診断した1例
■著者
徳島赤十字病院小児科1),徳島赤十字ひのみね総合療育センター小児科2),福井大学医学部看護学科健康科学3),愛育小児科4)
七條 光市1)  梅本 多嘉子1)  杉本 真弓1)  松浦 里1)  東田 栄子1)  渡邉 力1)  中津 忠則1)  吉田 哲也1)  内藤 悦雄2)  重松 陽介3)  平岡 政弘4)

■キーワード
短鎖3-ヒドロキシアシル-CoA脱水素酵素(SCHAD)欠損症, 高インスリン血性低血糖症, 高CK血症, 心筋肥大, 遺伝子変異
■要旨
 短鎖3-ヒドロキシアシル-CoA脱水素酵素(SCHAD)欠損症は高インスリン血性低血糖症を来たす疾患の1つである.生後7か月から低血糖によるけいれん発作が繰り返しみられた患児の血液検査では高インスリン血性低血糖症が判明した.患児にはCK値の軽度増加と心筋肥大を認めた.アシルカルニチン分析ではC4-OHアシルカルニチンの軽度増加と尿中有機酸分析では3-OHグルタル酸の増加を認めたため,高インスリン血性低血糖症をきたす疾患の1つであるSCHAD欠損症が疑われた.そこでSCHAD遺伝子解析を行い,エクソン6のI218T変異とイントロン6のIVS6-2a>g変異を認めたので,SCHAD欠損症と遺伝子診断した.生後8か月からのジアゾキサイドの投与により低血糖とCK値は改善し,心筋肥大の進行は認めなかった.本患児の乳児期において頻回の低血糖と低血糖によるけいれん発作および心筋肥大が認められたことより,SCHAD欠損症の早期診断,早期治療は非常に重要である.早期診断にはアシルカルニチン分画,尿中有機酸分析,遺伝子診断の総合的診断が重要であり,早期治療にはジアゾキサイドの投与が有効であった.


【原著】
■題名
頸部,前胸部の腫脹を合併したムンプスの2例
■著者
大阪警察病院小児科1),大手前病院小児科2)
小出 竜雄1)  福田 千世子1)  赤木 幹弘2)  田中 裕子1)  濱本 貴子1)  澤田 敦1)  西垣 敏紀1)

■キーワード
ムンプス, 耳下腺炎, presternal edema, 前胸部浮腫, リンパ浮腫
■要旨
 ムンプスに合併して,前胸部の浮腫を認めることがあり,presternal edemaと呼ばれている.現在までに,数例の報告があるが,一般小児科医におけるムンプスの合併症としての認知度は低いと思われる.今回われわれは,ムンプスに頸部,前胸部の腫脹を合併し,presternal edemaと診断した2症例を経験した.症例1は8歳男児で,両側耳下腺腫脹2日後に頸部前面から,前胸部の腫脹を認めた.超音波検査では皮下に低エコー病変,CTでは頸部下部から前胸部にかけて皮下脂肪織に高吸収域を認めた.症例2は9歳女児で,耳下腺腫脹5日後に頸部前面が腫脹した.前胸部の膨隆はなかった.いずれの症例も無治療で,唾液腺腫脹の軽快とともに腫脹は消退した.
 本邦ムンプス患者のpresternal edema合併頻度を,アンケート調査にて0.024%と算出した.この頻度は従来の報告に比べ低いが,人種,発症年齢,性などの相違による可能性もあり,今後検討を要する.
 ムンプスの合併症であるpresternal edemaは,特別な治療を必要とせず消退し,予後は良好であると考えられる.不要な検査,治療を避けるためにも,ムンプスの合併症としての認識を持つことが必要である.また,前胸部の腫脹のみでなく頸部に腫脹が及ぶ症例,前胸部の腫脹がなく頸部の腫脹のみの症例もあることにも注意すべきである.


【原著】
■題名
一過性脳梁膨大部病変を認めたムンプス髄膜脳炎の1例
■著者
総合病院岡山赤十字病院小児科
松本 尚美  楢原 幸二  木口 朋子  小畠 千明  山内 泉  川田 珠理  安藤 由香  江口 直宏  井上 勝

■キーワード
一過性脳梁膨大部病変, MRI検査, ムンプス髄膜脳炎, 低ナトリウム血症, 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
■要旨
 ムンプス髄膜脳炎の経過中に一過性脳梁膨大部病変を認めた5歳女児を経験した.症例は発熱第3病日に易刺激性および意識障害をきたし入院した.髄液検査で細胞増多と,脳波検査で基礎律動の広汎性徐波化を認め,ムンプス髄膜脳炎と診断した.第4病日に施行したMRI検査において,T2強調及び拡散強調画像で,脳梁膨大部正中に孤立した楕円形の高信号病変を認めた.本症例は抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)によると思われる低Na血症を合併していた.脳梁膨大部病変は第8病日のMRI検査では消失していた.患者は支持療法のみで後遺症なく治癒した.最近,一過性脳梁膨大部病変を認める軽度脳炎/脳症(MERS:mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion)が報告され,一つの臨床放射線科学的単位として注目されている.本症例の臨床所見はMERSと一致していた.一過性脳梁膨大部病変は種々の疾患で認められるが,その臨床的意義や発生病理は解明されていない.本症例は,低Na血症が一過性脳梁膨大部病変の発生に関与する可能性を示唆するものである.


【原著】
■題名
経皮的人工心肺補助を10日間使用して救命しえた劇症型心筋炎の1例
■著者
神奈川県立こども医療センター循環器科
中本 祐樹  上田 秀明  後藤 建次郎  柳 貞光  林 憲一  康井 制洋

■キーワード
劇症型心筋炎, 経皮的人工心肺補助, 免疫グロブリン大量療法, ステロイドパルス療法
■要旨
 経皮的人工心肺補助(percutaneous cardiopulmonary support;PCPS)を10日間使用し救命した劇症型心筋炎の1例を経験した.症例は15歳女子.発熱,消化器症状に引き続いて著明な心不全症状を示し,心筋炎と診断され当センターPICU搬送となった.入院時には心電図上3度房室ブロックとwide QRSの心室内伝導障害を認め,直ちに人工呼吸管理とし,免疫グロブリン大量療法を開始,その後心室頻拍も認めた.PCPSを導入し,同時に持続的血液透析濾過(continuous hemodiafiltration;CHDF)も施行した.入院第2〜3病日は心電図上心室細動で自己の心拍出は全く認められない状態であったが,入院第3病日に免疫グロブリンの追加投与とステロイドパルス療法を開始し,入院第5病日より心電図上QRS波形が明瞭に認められるようになった.その後徐々に左室の収縮力も改善し,入院第10病日PCPSより離脱,入院第20病日人工呼吸器より離脱し,入院第58病日神経学的後遺症なく独歩退院した.
 最重症の劇症型心筋炎であっても初期の循環不全の期間を乗り切ることができれば予後は比較的良好であり,PCPSなどを用いた積極的な急性期治療が救命につながると考える.


【原著】
■題名
一側大脳半球に広範な多発性梗塞様病変をきたした先天性色素失調症の1例
■著者
天理よろづ相談所病院小児科1),神戸市総合療育センター小児神経科2)
長門 雅子1)2)  田中 尚子1)  吉村 真一郎1)  新宅 教顕1)  林 英蔚1)  松村 正彦1)  山中 忠太郎1)  太田 茂1)  吉岡 三恵子2)  南部 光彦1)

■キーワード
片側性多発性梗塞様病変, 先天性色素失調症, 同側皮膚病変
■要旨
 生後,先天性色素失調症と診断された5か月の乳児が,約1時間半の右半身間代性けいれん重積発作を来した.画像検査では,左大脳半球に広範に偏在する多発性脳梗塞様病変が皮質及び皮質下白質に見られ出血性壊死と考えられた.これらは,後に著明な脳軟化を示した.亜急性期以降のけいれんの再発は認めず,患児の粗大運動発達はほぼ正常範囲内であった.しかし,一歳半まで有意語の出現は無く,右同名半盲の疑いが残存した.大脳半球の多発性梗塞様病変,及び亜急性期に新出した皮膚の湿疹・疣贅病変,これらは身体の左側偏在という共通の特徴を有した.このことは,同じ外胚葉由来である脳・皮膚において先天性色素失調症の疾患特異性に基づいた形成基盤の上に生じた現象,つまり,NEMO遺伝子を有する異常な組織前駆細胞の増殖分布状況が反映されたと考えた.


【原著】
■題名
非対称性子宮奇形に伴う留血腫による腹痛を呈した2例
■著者
愛媛大学医学部小児科学
手束 真理  鈴木 由香  日野 ひとみ  檜垣 高史  石井 榮一

■キーワード
重複子宮, 腟閉鎖, 慢性腹痛, Herlyn-Werner-Wunderlich症候群, プルンベリー症候群
■要旨
 小児の腹痛の原因は多彩であり診断に苦慮することも稀ではない.特に10歳以上の思春期女児では,二次性徴や妊娠を考慮し鑑別診断を進める必要がある.治療の遅れは,妊孕性の廃絶にもつながりうるため速やかな診断が重要である.今回我々は,女性生殖器奇形に伴う留血腫が腹痛の原因であった女児を2例経験した.1例目は重複子宮,片側腟閉鎖に伴う子宮留血腫に左腎欠損を合併しておりHerlyn-Werner-Wunderlich症候群(HWW症候群)と診断した.2例目は腟形成術後のプルンベリー症候群で不全型重複子宮,片側腟狭窄に伴う卵管留血腫,卵巣炎と診断した.重複子宮や腟狭窄症では月経がみられる場合でも,腟,子宮,卵管留血腫を発症する.そのため,思春期女児の腹痛では,稀ではあるが女性生殖器奇形に伴う腹痛を念頭において画像検査を行い診断をすすめる必要がある.


【原著】
■題名
呼吸機能検査が診断に有用であった気管原発神経鞘腫の1例
■著者
藤沢市民病院こども診療センター1),神奈川県立こども医療センター救急診療部2),独立行政法人国立病院機構横浜医療センター小児科3)
菅井 和子1)3)  佐藤 厚夫1)  佐近 琢磨1)  立石 格1)  梅原 実2)  船曳 哲典1)

■キーワード
神経鞘腫, 呼吸機能検査, 気管内腫瘍, 気管支喘息
■要旨
 初診時の呼吸機能検査が診断上有用であった気管原発神経鞘腫の1例を報告する.症例は,14歳男児.2か月間近医で気管支喘息として加療.改善なく気管支喘息精査目的にて紹介され受診した.初診時外来でのフローボリュームカーブは,特に気道中枢側の閉塞を示すパターンで再現性も確認された.β2刺激薬吸入に対する末梢側の反応性も認められたため同日入院精査とし,アミノフィリン点滴,プレドニゾロン静注,モンテルカスト,ミデカマイシン内服,β2刺激薬定時吸入を行ったが症状は改善せずフローボリュームカーブの形状も変化はなかった.入院3日目,胸部CT上気管ほぼ中央部に気管内腔約3/4を占める有茎性充実性腫瘤を認めた.切除術のため転送,全身麻酔,気管支鏡下レーザーを用いて切除された.腫瘍は病理組織にてSchwannomaと診断された.良性と考えられるが,定期経過観察が予定されている.気道症状が続く症例においては,器質的疾患による気道閉塞も常に念頭に置き,診断を行うにあたっては可能な限り,呼吸機能の測定などによる客観的な評価を行い,鑑別診断をすすめていくことが重要である.


【論策】
■題名
新生児医療に携わる医師確保のための新しい試み
■著者
福岡大学病院総合周産期母子医療センター新生児部門
木下 竜太郎  瀬戸上 貴資  堤 信  井上 真改  太田 栄治  中村 公紀  森 聡子  小川 厚  廣瀬 伸一

■キーワード
医療体制, 労働力, 新生児科医, 小児科医, 若手医師
■要旨
 近年,新生児医療に携わる医師数の不足による過重労働は重大な社会問題として取り上げられている.この問題の一解決策として当科では2007年4月より個人主治医制からグループ主治医制に変更した.4か月後に医師7名と看護師41名,患者家族70組にアンケート調査を実施した.その結果,グループ主治医制の支持率は医師100%,看護師73%,患者家族68%と高い評価を得た.自由記載では職種にかかわらず「複数の医師で診ることで,偏らず最適な医療を提供・受療できる」といった回答が挙げられていた.医師からは「オン・オフの区別が付くようになり時間にゆとりができた」という回答が多くみられた.
 医療の質を保ちつつこの診療体制を維持していくためには,新生児専門医相当の医師が複数名勤務していることは不可欠な条件であると考えられた.このように新生児医療に携わる医師の労働環境を整備することは,現役医師の精神的及び身体的な安定をもたらすばかりでなく,最終的には若手医師の人的確保につながる有効な手段と考える.

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