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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:09.10.29)

第113巻 第10号/平成21年10月1日
Vol.113, No.10, October 2009

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総  説
1.

ブタ由来新型インフルエンザ対策の課題

菅谷 憲夫  1495
付記

小児新型インフルエンザ患者の対応について

菅谷憲夫  1499
総  説
1.

東洋医学用語編纂に携わって―日本漢方と中医学

崎山 武志  1509
2.

後天性脳損傷児に対する早期リハビリテーションの重要性:救急医療との連携を目指して

栗原 まな  1519
第112回日本小児科学会学術集会
  教育講演

新生児外科の現状と傷の目立たない手術

田口 智章,他  1531
  教育講演

難治性若年性特発性関節炎JIAに対する生物学的製剤の展開

武井 修治  1538
  教育講演

学校のアレルギー疾患のガイドライン

西間 三馨  1545
原  著
1.

血液培養陽性26例の臨床的検討

東川 正宗,他  1557
2.

BCG接種後の遷延するリンパ節腫脹から診断された慢性肉芽腫症の1例

福村 忍,他  1564
3.

乳児型Pompe病に対する酵素補充療法2年の経過

安田 真里,他  1568
4.

ロタウイルス感染が先行したGuillain-Barré症候群の1女児例

竹下 ちひろ,他  1572
5.

出生直後に発症したビタミンK欠乏性出血症の成熟新生児の2例

森川 悟,他  1576
6.

アミノ酸調整乳使用中に発症したセレン欠乏による二次性心筋症の1例

古川 央樹,他  1582
論  策
1.

地方における小児・周産期医療を担う医師確保対策調査

是松 聖悟,他  1587
2.

「ダウン症外来」の目的と小児科医の役割

箕輪 秀樹,他  1593
3.

北海道における小児人口あたりの小児科医師数と入院自給率の相関

江原 朗  1598

地方会抄録(奈良)

  1603
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.14 容器の移し替えによる誤飲(ワックス剥離剤)

  1610

日本小児科学会理事会議事要録

  1612

雑報

  1618


【原著】
■題名
血液培養陽性26例の臨床的検討
■著者
山田赤十字病院小児科
東川 正宗  鈴木 幹啓  大森 雄介  小川 昌宏  藤原 卓  井上 正和

■キーワード
菌血症, インフルエンザ菌, 肺炎球菌, 薬剤耐性, ワクチン
■要旨
 三重県伊勢地区の単一施設において経験した小児菌血症26例について臨床的検討を加えた.検出された菌は,肺炎球菌が16例と最も多く,大腸菌4例,B群連鎖球菌(GBS)2例,インフルエンザ菌2例,クレブジエラ・オキシトーカ1例,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が1例であった.月齢別の検出菌は,GBSおよび大腸菌は6か月未満,インフルエンザ菌は1歳前,肺炎球菌は20か月前後で検出されていた.肺炎と化膿性髄膜炎の2例から検出されたインフルエンザ菌は,それぞれβ-ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性(BLNAR)およびアンピシリン感受性はあったがペニシリン結合蛋白質3(pbp3)遺伝子変異を有する菌株であった.体温,白血球数をパラメーターとしてみると,肺炎球菌による菌血症患児は39℃以上の高体温で白血球数が20,000/μlと増加していることが特徴的であった.大腸菌は全例尿路感染症で検出され,体温および白血球数は肺炎球菌による菌血症より有意に低く,それぞれ38℃台,10,000/μl前後であった.Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の旧基準にて,肺炎球菌はペニシリン感受性(PSSP)4株,中等度耐性(PISP)8株,耐性(PRSP)4株で耐性化率は75%と高かった.菌血症の起因菌としての肺炎球菌の薬剤耐性化が進んでいることが推測された.肺炎球菌による最近4年間の5歳未満人口10万人当たりの罹患率は菌血症が39.5,髄膜炎が6.6であった.本報告は肺炎球菌ワクチン導入前の地域の現状を知るデータとして有用と考えられた.


【原著】
■題名
BCG接種後の遷延するリンパ節腫脹から診断された慢性肉芽腫症の1例
■著者
市立釧路総合病院小児科
福村 忍  足立 憲昭  坂井 拓朗  池本 亘  水江 伸夫

■キーワード
慢性肉芽腫症, 好中球殺菌能検査, BCGワクチン, 副反応, リンパ節腫脹
■要旨
 慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease:CGD)は食細胞の殺菌能が低下するため,乳児期より細菌ならびに真菌感染症を繰り返す原発性免疫不全症である.症例は1歳2か月の男児で,生後5か月のBCG接種後に,接種した側の腋窩リンパ節腫脹を認めた.消退せず徐々に腫大したため,1歳時にリンパ節の生検を行い,乾酪壊死を伴う類上皮肉芽腫を認め,BCGリンパ節炎と診断した.BCG後のリンパ節炎として遷延していることから,CGDなどの原発性免疫不全症を疑い精査し,好中球の活性酸素産生能の低下を認めた.詳細な解析でglycoprotein 91phox(gp91phox)発現欠損とcytochrome b,beta subunit(CYBB)遺伝子変異を認めたことから,gp91phox欠損型CGDと診断した.診断時まで発熱の既往がなく,肛門周囲膿瘍などの易感染性も認めなかった.BCG後の遷延するリンパ節腫脹の際は,慢性肉芽腫症を積極的に疑い,好中球活性酸素産生能検査を行うことが重要である.


【原著】
■題名
乳児型Pompe病に対する酵素補充療法2年の経過
■著者
豊橋市民病院小児科
安田 真里  杉浦 時雄  河合 惠美子  金子 幸栄  安田 和志  小山 典久

■キーワード
Pompe病, 糖原病II型, α-グルコシダーゼ欠損症, 酵素補充療法, 遺伝子組換えヒト酸性α-グルコシダーゼ製剤
■要旨
 Pompe病はグリコーゲン分解酵素である酸性α-グルコシダーゼ欠損により心臓,骨格筋,肝臓などにグリコーゲンが蓄積し著明な筋力低下,進行性心不全などを呈する致死的疾患である.これまで有効な治療法はなかったが,近年欧米諸国から酵素補充療法の有効性が報告され,本邦でも平成19年6月に承認され投与可能となった.今回,その発売以前より乳児型Pompe病女児に対し遺伝子組換えヒト酸性α-グルコシダーゼ製剤の使用機会を得た.生後6か月より24か月間酵素補充療法を行い,投与開始後より心不全の改善を認め,その生命予後も改善された.しかし,呼吸筋,骨格筋に対する効果はそれに比し乏しい.経過中明らかな有害事象は認めず,酵素補充療法は本症に対して有効かつ安全な治療法であると考えられた.


【原著】
■題名
ロタウイルス感染が先行したGuillain-Barré症候群の1女児例
■著者
東京医科大学小児科1),獨協医科大学神経内科2)
竹下 ちひろ1)  山中 岳1)  菅波 佑介1)  鈴木 一徳1)  小穴 信吾1)  河島 尚志1)  宮島 祐1)  船越 慶2)  星加 明徳1)

■キーワード
Guillain-Barré症候群, ロタウイルス, 免疫グロブリン大量静注療法, sTNF-RII
■要旨
 症例は4歳女児.下痢,嘔吐の3日後に,歩行障害と構音障害とが出現した.右上肢近位筋に強い四肢筋力低下,深部腱反射は上肢減弱・下肢消失を認めた.入院後、呼吸障害が急速に進行し人工呼吸器管理を要した.右尺骨神経において運動神経伝導速度は正常下限であった.髄液蛋白の上昇はなかったが,便中ロタウイルス抗原が陽性であったことから,ロタウイルス感染後Guillain-Barré症候群(GBS)と診断し,免疫グロブリン大量静注療法とmethylprednisoloneとの併用療法を行った.急性期血清中には,soluble Tumor Necrosis Factor Receptor II(sTNF-RII)が上昇し,治療後症状の改善に伴い低下した.GBSの先行感染因子のひとつとして,ロタウイルスを念頭に置く必要があり,便中ロタウイルス抗原の検索が重要である.更にsTNF-Rの治療との関連性について今後の検討が必要と考えられた.


【原著】
■題名
出生直後に発症したビタミンK欠乏性出血症の成熟新生児の2例
■著者
神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野1),同 外科系講座脳神経外科学分野2),上田病院小児科3)
森川 悟1)  森岡 一朗1)  橋村 裕也1)  三輪 明弘1)  榎本 真宏1)  柴田 暁男1)  上田 達郎3)  相原 英夫2)  横山 直樹1)  松尾 雅文1)

■キーワード
ビタミンK欠乏性出血症, 頭蓋内出血, 成熟新生児, 出生直後, ビタミンK予防投与
■要旨
 我々は,出生直後にビタミンK(VK)欠乏性出血症を発症した成熟新生児の2例を経験したので報告する.
 (症例1)在胎37週6日,出生体重2,734 gの男児.母体は,精神発達遅滞,低栄養状態があった.妊娠37週5日に,母体が脳梗塞を発症し,胎児仮死徴候を認めたため,全身麻酔下に緊急帝王切開で出生した.生後4時間から臍カテーテル留置部からの持続性出血を認め,圧迫や結紮では完全に止血できず,焼灼術を要した.凝固機能検査所見の異常,Protein Induced by Vitamin K Absence(PIVKA)-IIの上昇を認めた.VK製剤の経静脈投与にて症状・凝固検査所見ともに速やかに改善し,VK欠乏性出血症と診断した.(症例2)在胎38週5日,出生体重3,348 gの男児.生後12時間頃より落陽現象,痙攣,無呼吸を認め,当院に新生児搬送となった.頭部CT検査で脳室内出血を認め,凝固機能検査所見の異常,PIVKA-IIの上昇からVK欠乏性出血症と診断した.VK製剤の経静脈投与で凝固検査所見は速やかに改善した.しかし,その後出血後水頭症へ進行し,脳室―腹腔シャント術を要した.
 2症例ともVK予防投与前の出生数時間後の発症であった.出生直後に重篤な合併症を伴う早発型VK欠乏性出血症であり,現在も発症を防ぎえない.


【原著】
■題名
アミノ酸調整乳使用中に発症したセレン欠乏による二次性心筋症の1例
■著者
滋賀医科大学小児科
古川 央樹  藤野 英俊  野田 恭代  藤戸 敬士  丸尾 良浩  中川 雅生  竹内 義博

■キーワード
二次性心筋症, セレン欠乏症, ミルクアレルギー, アミノ酸調整乳
■要旨
 長期にわたる中心静脈栄養や消化器疾患の治療などに際して微量元素の欠乏に留意しなければならないことはよく知られている.今回我々はミルクアレルギーが疑われアミノ酸調整乳使用中にセレン欠乏による二次性心筋症を発症した乳児例を経験した.症例は6か月男児.生後18日に原因不明の著明なアシドーシスおよび左室機能の低下を認め当科入院.原因がミルクアレルギーの可能性も示唆されたため日齢30からアミノ酸調整乳に変更され,以後は調整乳のみで栄養されていた.しかし日齢165に再び左室短縮率14%と心機能低下を認め,当科入院.精査の結果,セレン欠乏症(2.0 μg/dl以下)を認めたためにセレン投与を日齢205から開始した.投与開始後には徐々に心機能の改善を認め,現在も心機能はほぼ良好に維持できている.アミノ酸調整乳使用症例ではセレン欠乏に対して充分な注意が必要であると考えられた.


【論策】
■題名
地方における小児・周産期医療を担う医師確保対策調査
■著者
大分大学医学部小児科学1),同 地域医療・小児科分野2),同 産科婦人科学3),同 地域医療・産科婦人科分野4)
是松 聖悟1)2)  秋吉 健介1)  高野 智幸1)  拜郷 敦彦1)  末延 聡一1)  前田 知己1)  清田 晃生1)  川野 達也1)  関口 和人1)  宮原 弘明1)  半田 陽祐1)  岡成 和夫1)  岡崎 直歩1)  前田 美和子1)  和泉 啓1)  加藤 里絵1)  武口 真広1)  奈須 家栄3)4)  吉松 淳3)4)  楢原 久司3)  泉 達郎1)

■キーワード
教育・研修, 過疎地域医療, 小児・周産期医療, 少子高齢過疎化, 産休・育休
■要旨
 地方の小児・周産期医療を担う医師の確保を目的として,医学生及び大学附属病院とその関連病院の研修医,医師,計1,529名に,アンケート調査を実施した.
 医学生と初期研修医は,卒後研修病院の選択として,「出身地」,「研修プログラム」,「技術,専門医等の資格取得」を,診療科の選択として,「やりがい」を重視した.医学生の小児科,産科婦人科希望者は,それぞれ19%,7%と多かったが,初期研修医では減少していた.
 女性は,医学生,初期研修医では半数を占めたが,それ以降は20%前後に減少し,継続勤務のための条件として,「出産,育児後の再研修」,「パートタイム勤務」,「保育支援」を挙げた.
 また,全対象の70%以上が,「診療,技術取得」の支援,「高収入」,「2〜3年の期間限定」の条件が整えば,過疎地域医療への貢献はいとわないとした.
 地方における小児・周産期医療を担う医師確保には,「教育・研修」に重点をおき,1.過疎地域病院における診療,技術取得の支援体制,2.専門医等取得の研修支援体制,3.休暇と収入が確保された勤務体制,4.女性医師が,産休・育休を取得し,復職後に再研修とパートタイム勤務が可能となる体制を確立することが必須である.


【論策】
■題名
「ダウン症外来」の目的と小児科医の役割
■著者
奈良県立奈良病院新生児集中治療室1),同 小児科2)
箕輪 秀樹1)  大坪 麻1)  坂東 由香1)  安原 肇1)  扇谷 綾子1)  久保 里美2)  中野 智巳2)  吉田 さやか2)  平 康二2)

■キーワード
ダウン症外来, 発達支援, 家族支援, 障害乳幼児福祉, 先天性心疾患
■要旨
 本論文ではダウン症外来に通院中の60例を対象に,それらの医療内容,発達を伸ばす関わり,福祉制度の利用状況を統計も含めて報告した.ダウン症外来の目的は,新生児期に診断を受けた両親がこどもを受け入れるよう支援することである.そのために医療(染色体異常の説明,心疾患や白内障などのチェックなど),発達に関する内容および療育,訓練などの関わり,福祉制度の利用,親の会の情報提供を行い,両親が「今,この子のために何をすればよいのか」を具体的に示し,立ち止まって孤立しないように支えることが重要である.外来を担当する小児科医はダウン症のこども達に関わる医療や療育,訓練などの地域の情報を常に提供できる心構えが必要である.小児科医はダウン症児に負わされた問題の深さ,並びに両親の思いを理解して,家族を支えていく努力が望まれる.


【論策】
■題名
北海道における小児人口あたりの小児科医師数と入院自給率の相関
■著者
北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野
江原 朗

■キーワード
二次医療圏, 北海道, 受療行動, 入院, 小児
■要旨
 平成18年5月診療分国民健康保険患者受療動向調査結果をもとに北海道内の21二次医療圏における15歳未満の入院受療行動を解析した.二次医療圏内における入院自給率は,46.2%から95.2%までばらつきが見られた.
 二次医療圏内の小児科医師数が少ない地域の入院自給率が必ずしも低いわけではなかった.しかし,15歳未満人口あたりの小児科医師数と入院自給率との間には相関が見られた.対数回帰を行うと,
 入院自給率(%)=40.3+48.8*log10(15歳未満人口1万人あたりの小児科医師数)との回帰式がえられ,相関係数は0.587と強い相関を示した.
 過疎地に限らず,小児人口あたりの小児科医師数が少ない地域の医療体制についても注意を向ける必要があると思われる.

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