gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:09.8.24)

第113巻 第8号/平成21年8月1日
Vol.113, No.8, August 2009

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

総  説
1.

胎児発育障害とインスリン様成長因子(IGFs)の役割

長屋 建,他  1195
2.

エビデンスに基づく小児IgA腎症治療

吉川 徳茂  1205
原  著
1.

川崎病の出生年コホート別心後遺症累積罹患率

河合 邦夫,他  1212
2.

硬膜下膿瘍を合併したインフルエンザ菌による化膿性髄膜炎にクロラムフェニコールが奏効した4例

平岩(祖父江) 文子,他  1219
3.

新生児・早期乳児に流行したhuman parechovirus 3型感染症

米倉 圭二,他  1228
4.

日本におけるMenkes病20例の症状・治療の実態

小沢 浩,他  1234
5.

早産児のビリルビン脳症の臨床的特徴

洲鎌 盛一,他  1238
6.

副甲状腺機能低下症の治療により統合失調症様症状が改善した22q11.2欠失症候群の1例

竹本 幸司,他  1245
7.

ADH高値を示し低Na血症を認めた多飲習慣性患児の1例

三輪 明弘,他  1247
論  策
1.

幼稚園・保育所の統合保育の現状と課題

高野 貴子,他  1252
2.

小児救急における危機管理能力獲得のためのシミュレーション教育の有効性

池山 貴也,他  1258
3.

小児三次救急集約化のために救命救急センターをいかに活用すべきか

櫻井 淑男,他  1264
4.

国立大学病院・公立病院は労働基準監督署からどのような是正勧告を受けたのか

江原 朗  1268

地方会抄録(京都,東京,栃木,山形,北陸)

  1271
日本小児科学会薬事委員会

「降圧剤使用中の授乳について」の提案

  1292
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.13 リチウム電池による食道粘膜損傷

  1293

日本小児科学会分科会一覧

  1295

日本小児科学会分科会活動状況

  1296

日本小児科学会理事会議事要録

  1305

第112回日本小児科学会通常総会議事要録

  1308
日本小児リウマチ学会
  若年性特発性関節炎に対する生物学的製剤治療の手引き 2009

II.エタネルセプト

  1344

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2009年51巻4号8月号目次

  1353

雑報

  1354

医薬品・医療機器等安全性情報 No.258

  1355


【原著】
■題名
川崎病の出生年コホート別心後遺症累積罹患率
■著者
福井県南越前町河野診療所1),自治医科大学公衆衛生学2)
河合 邦夫1)2)  屋代 真弓2)  中村 好一2)  柳川 洋2)

■キーワード
川崎病, 出生年コホート, 心後遺症累積罹患率, 心障害急性期累積罹患率, 心障害後遺症期累積罹患率
■要旨
 川崎病の治療法の進歩により心後遺症の発生頻度は低下してきているが,一方で近年の川崎病の年間罹患率は毎年上昇傾向にある.ひとつの学年に川崎病の心後遺症残存者がどれ程いて,世代間の差はあるのかについては今まで明確な検討がなされていなかった.しかし,このことは学校健診を実施する学校医にとっては大変興味深いことである.そこで第8〜18回川崎病全国調査に報告された患児を出生年コホート別に追跡し,心後遺症の累積罹患率(出生10万人対累積心後遺症患者数)を観察した.全国調査の第8〜14回では心後遺症の有無のみの記載だったが,第15回以後は急性期の心障害の有無と,1か月以降の心障害の残存を示す心障害後遺症の有無に分けて記載するように変更になった.心障害急性期,心障害後遺症期それぞれに出生年別に累積罹患率を求めた.7歳時点では,心後遺症累積罹患率は川崎病の出生年別累積罹患率の変動に従い1986年の流行年の前の1984,1985年生まれで高く,1986年生まれで急激に下がり横ばいとなった.その後心障害急性期累積罹患率は毎年上昇を示し,1992年生まれ頃から更に急激な上昇傾向にあり1998年生まれは出生10万対110.4だった.心障害後遺症期累積罹患率は1991年生まれ以降は下降に転じて毎年下がり続け,1998年生まれで35.4であった.ただし,心障害急性期累積罹患率も3歳時や5歳時の累積をみると,1999年生まれから減少に転じた可能性がある.


【原著】
■題名
硬膜下膿瘍を合併したインフルエンザ菌による化膿性髄膜炎にクロラムフェニコールが奏効した4例
■著者
平岩病院1),名古屋第一赤十字病院小児科2),中京病院小児科3),名古屋記念病院小児科4),名古屋大学医学部小児科5)
平岩(祖父江) 文子1)  長谷川 真司4)  渥美 愛3)  糸見 世子2)  羽田野 さやか2)  深沢 達也5)  徳永 博秀4)  後藤 志歩4)  森田 誠4)  夏目 淳5)

■キーワード
化膿性髄膜炎, インフルエンザ菌, 硬膜下膿瘍, クロラムフェニコール
■要旨
 インフルエンザ菌による化膿性髄膜炎の経過中に硬膜下膿瘍を合併した4例を経験した.全例でアンピシリン,第3世代セフェム系,カルバペネム系のうち1〜2剤の抗菌薬で治療を開始するも,持続する発熱,けいれん,麻痺等を認めた.また,頭部MRIにて,急性期に拡散強調画像にて高信号を呈し,経過中にガドリニウム造影T1強調画像で造影効果を認める硬膜下膿瘍を認めたため,全例でクロラムフェニコールの点滴静注を用いた.2例で外科的治療を必要とした.クロラムフェニコールは,臨床症状,検査結果等を確認しながら,10〜25日間投与した.血球減少と発疹を2例で認めたが,投与中止により速やかに改善した.クロラムフェニコールは脂溶性であり,炎症のない血液脳関門を通過し,髄液への移行が良好であることが知られており,インフルエンザ菌に対する感受性も良い.一方で,重篤な造血器障害の副作用があり,インフルエンザ菌に対して強い抗菌力を持つ薬剤の登場で化膿性髄膜炎の第一選択薬として投与される機会はなくなっている.しかし,硬膜下膿瘍を合併するような重篤な状態では骨髄抑制などに注意しながら投与すれば有効な治療薬である.


【原著】
■題名
新生児・早期乳児に流行したhuman parechovirus 3型感染症
■著者
広島市立舟入病院小児科1),国立病院機構東広島医療センター小児科2),県立広島病院新生児科3),広島市立広島市民病院新生児科4),千田こどもクリニック5)
米倉 圭二1)  兵藤 純夫1)  岡野 里香1)  高本 聡1)  金子 陽一郎1)  下薗 彩子1)  岡本 珠緒1)  田辺 真奈美1)  田中 麻希子1)  今中 雄介1)  野本 勝弘2)  羽田 聡3)  沖本 聡志4)  畝井 和彦5)

■キーワード
human parechovirus 3型, enterovirus, 流行, ウイルス分離, 新生児・早期乳児
■要旨
 2006年6月〜8月の期間に,生後3か月以下の新生児・早期乳児の発熱症例を多数経験した.そのうち入院となり各種ウイルス分離を提出された症例は52例であった.その52例のうち17例からhuman parechovirus 3型(以下HPeV-3)が分離された.HPeV-3が分離された17例は男児8例,女児9例.日齢6〜116日(平均日齢47日),発熱期間2〜4日間(平均2.7日間).入院時血液検査所見 白血球数2,500〜10,800/μl(平均5,870/μl),CRP 0.1〜4.3 mg/dl(平均0.59 mg/dl).全例で活気不良・哺乳低下を認めた.主な合併症として無呼吸発作1例,低Na血症2例(うち1例はけいれんを合併)を認めた.
 HPeV-3は新生児・早期乳児に感染し敗血症様の重篤な症状を呈することが多いとされているが,現在までに報告例は少なく,短期間における流行の報告はない.
 今回我々はHPeV-3感染の流行を経験し,その病態・臨床像を解明するうえで貴重な経験となったと考えられたため報告する.


【原著】
■題名
日本におけるMenkes病20例の症状・治療の実態
■著者
島田療育センター小児科1),国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部2),帝京大学小児科3)
小沢 浩1)  大瀧 潮1)  顧 艶紅2)  児玉 浩子3)

■キーワード
Menkes病, ヒスチジン銅, てんかん, 合併症, 治療
■要旨
 Menkes病の男児19名,女児1名(5か月〜24歳)に対して症状・治療についてのアンケート調査を行った.ヒスチジン銅は18名に投与されていた.てんかんは90%,West症候群は回答した17名中9名に認めた.骨折は70%,肺炎は65%,膀胱憩室は80%,尿路感染症は19名中11名に認めたが,膀胱憩室がなかった4名は尿路感染症を合併していなかった.治療については,気管切開は25%,エアウェイ20%,鎖骨下静脈などの末梢以外からのルート確保は45%が施行していた.栄養方法(有効回答19名)は,経口6名,経管11名,中心静脈栄養2名であった.生後2か月未満からのヒスチジン銅治療開始例は,痙攣はなく,本症兄に比較して症状軽減の効果はあったが,1歳10か月で座位不能であり,さまざまな本症症状を認めた.早期からヒスチジン銅治療を行っても障害を呈していることが明らかになり,今後,より有効な治療法の開発が必要であると考えられた.


【原著】
■題名
早産児のビリルビン脳症の臨床的特徴
■著者
国立成育医療センター総合診療部1),東京都立大塚病院新生児科2),日本赤十字社医療センター新生児科3),順天堂大学浦安病院小児科4),北里大学病院小児科5)
洲鎌 盛一1)  岸野 愛1)  岩村 美佳2)  与田 仁志3)  寒竹 正人4)  野渡 正彦5)

■キーワード
早産児, ビリルビン脳症, 核黄疸, 磁気共鳴像, 聴性脳幹反応
■要旨
 近年,ビリルビン脳症のmagnetic resonance imaging(MRI)所見が確立されたこともあって,高ビリルビン血症がなく急性ビリルビン脳症の症状を伴わない早産児ビリルビン脳症の報告が散見されている.早産児ビリルビン脳症と診断した4症例を呈示し,周産期臨床症状,発症危険因子の検討,早期診断の可能性,成熟児との違いを検討した.早産児ビリルビン脳症の早期診断は,臨床的には脳幹障害,基底核障害に起因すると考えられる新生児期の頻回の無呼吸発作と息止め発作,検査所見として12か月前後で最も明瞭になる頭部MRI検査での両側淡蒼球の異常信号,auditory neuropathy型の感音性難聴の存在があれば診断が可能と思われる.慢性期の症状ではアテトーゼが主体の成熟児例と異なり,速い動きのヒョレアにミオクローヌス・振戦が加わる不随意運動が主体で,知的障害が強かった.周産期危険因子の検討では共通した発症因子は得られず,発症予防については今後の更なる研究が必要である.


【原著】
■題名
副甲状腺機能低下症の治療により統合失調症様症状が改善した22q11.2欠失症候群の1例
■著者
愛媛大学大学院医学系研究科小児医学1),愛媛県立中央病院小児科2),市立宇和島病院小児科3)
竹本 幸司1)  松浦 健治1)  徳田 桐子1)  藤澤 由樹2)  濱田 淳平3)  石田 也寸志1)  石井 榮一1)

■キーワード
22q11.2欠失症候群, 統合失調症様症状, 副甲状腺機能低下症, 低Ca血症
■要旨
 22q11.2欠失症候群にはしばしば統合失調症あるいは統合失調症様症状を呈することが知られている.我々は,統合失調症と診断されていた13歳女児例を口蓋裂,副甲状腺機能低下症の合併から22q11.2欠失症候群と確定診断した.向精神薬による治療が奏功せず難治であった統合失調症様症状は,低Ca血症の是正により劇的に改善した.22q11.2欠失症候群に合併した統合失調症様症状が低Ca血症の治療により消失した症例報告はこれまでになかった.統合失調症様症状を呈する症例では,22q11.2欠失症候群を含む全身性疾患の検索が必要である.


【原著】
■題名
ADH高値を示し低Na血症を認めた多飲習慣性患児の1例
■著者
六甲アイランド病院小児科1),順天堂大学浦安病院救急診療科2)
三輪 明弘1)  加藤 隆宏1)  木寺 えり子1)  吉村 規子1)  北山 幹夫1)  津本 尚美1)  大橋 玉基1)  山田 至康2)

■キーワード
低ナトリウム血症, 低張性飲料, 非浸透圧依存性ADH分泌
■要旨
 低張性飲料の常習的多飲による低Na血症は水中毒として報告されることが多く,ADHの著明な上昇を報告した例は少ない.今回我々は,嘔吐,腹痛などの胃腸炎を契機に痙攣重積状態となり,来院時血清Na値の著明な低値,血漿ADH値の著明な高値を呈した低Na血症の1歳5か月男児例を経験した.生活歴に毎晩約1.5 Lの低張性スポーツ飲料の過剰摂取を認め,生活歴,発症様式は従来の多飲による水中毒の報告と類似しており,高張食塩水による治療と水分制限により血清Na値は速やかに改善した.しかし血清Na値115 mEq/lに対して血漿ADH値は来院時70.9 pg/mlと異常高値を示し,約24時間後の測定でも21.9 pg/mlと高値を認めた.ADH分泌亢進をきたす明らかな頭蓋内病変や呼吸器疾患など器質的要因は認めず,血漿ADH値は10日後に正常となった.低張性飲料の多飲習慣患児の低Na血症発症に,嘔吐・痛み刺激に伴う非浸透圧依存性のADH分泌亢進が,関与したと考えられ,Na含有量が少ないスポーツ飲料を,乳幼児の下痢・嘔吐などによる脱水の予防・補正の目的に使用する事は適切ではないと指導する必要がある.


【論策】
■題名
幼稚園・保育所の統合保育の現状と課題
■著者
東京家政大学家政学部児童学科1),帝京大学情報センター2)
高野 貴子1)  高木 晴良2)

■キーワード
統合保育, 障害児, 幼稚園, 保育所
■要旨
 健常な子どもと一緒に障害児を保育している統合保育の現状を2007年秋の幼稚園と保育所への郵送アンケートにより明らかにした.有効回答数は987で,幼稚園が393(39.8%),保育所が594(60.2%)だった.統合保育を行っている(障害児がいる)園は720園(73.1%)にのぼり,そのうち幼稚園は245園(62.5%),保育所は475園(80.1%)で,統合保育実施割合は保育所の方が多かった(p<0.001).預かっている障害児数は平均2.3人,障害の疑いを含めると3.9人であり,幼稚園の方が障害児を多く預かっていた(p<0.02).障害は多彩で,先天異常237,脳障害385,発達障害863,身体障害138,特記されたその他の病名26,疾患の疑い494,病名不明272であった.国・自治体からの補助に関しては,統合保育を行っている園の8割が職員を増員して対応しているのに対して,実際に補助金を受けている園は統合保育を行っている園の6割程度にとどまっていた.その他,障害児に対する配慮,環境面での配慮,統合保育への要望などを抽出した.2007年4月から実施されたひとりひとりのニーズにあわせた特別支援教育は,一般の幼稚園や保育所の延長線上に位置し,統合保育とのスムースな連携が求められる.


【論策】
■題名
小児救急における危機管理能力獲得のためのシミュレーション教育の有効性
■著者
国立成育医療センター手術・集中治療部
池山 貴也  清水 直樹  阪井 裕一

■キーワード
シミュレーション教育, 患者の安全, チーム・ダイナミクス, crisis resource management
■要旨
 【背景】緊急事態においては救急蘇生に関する個々の医学的知識・技術の獲得に止まらず,複数の医療従事者による「チーム・ダイナミクス」の理解と実践が欠かせない.米国のある報告ではsentinel eventsの約7割がコミュニケーション・エラーに起因することを示している.患者の安全の観点から,リーダーシップやコミュニケーションを含む臨床現場の危機管理能力(CRM)が蘇生チーム訓練で強調されるべきである.一方で患者を不要な危険に曝さぬよう,このチーム訓練は現実性を高度に再現した環境下で行われるべきであり,現実に致命的な事例が起きるまで待つべきではない.CRMの各要素を解説した後に自施設でのシミュレーションプログラムとその結果を示し,日本の小児医療における,シミュレーション教育の展望について述べる.【方法】小児ICU内に高機能シミュレータを備え,臨床環境を再現したシミュレーション・センターを設立し,週に一度蘇生チーム訓練を行った.自己効力感とCRM技能を測定し前後で比較した.【結果】観察期間中に,ほとんどのCRM技能は有意に改善した.【結論】シミュレーション教育を単なるひとつの教育手法としての存在にとどめることなく,patient safetyそしてhospital safetyのためのプログラムのひとつとして理解され,厚く支援されることを各病院運営部ならびに小児科関連学会に強く要望したい.


【論策】
■題名
小児三次救急集約化のために救命救急センターをいかに活用すべきか
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科1),同 高度救命救急センター2)
櫻井 淑男1)  長田 浩平1)  森脇 龍太郎2)  堤 晴彦2)  田村 正徳1)

■キーワード
小児集中治療, 救命救急センター, 小児救急, 医療体制, 医学教育
■要旨
 はじめに:我国では全国的に小児三次救急医療体制が整備されているとは言えず,厚生労働省はその解決策として平成19年に全国10か所の救命救急センターに小児集中治療室を併設する計画を示し,小児内因・外因性疾患の集約化の方向性を示した.しかし,現在まで具体化されていない.本稿では当院救命救急センターの小児患者と当院小児科重症患者管理室の患者比較検討から小児三次救急における内因,外因性疾患の集約化の具体的な方略を提言する.
 対象と方法:救命センターの過去5年間の小児三次救急患者群と平成18年の小児科重症患者管理室の患者群を比較検討した.
 結果:救命センターには年間平均56名の小児患者が入院し,94%が外因性疾患であった.疾患別では交通事故が48%と最多であった.一方小児科重症患者管理室では年間178名の小児患者が入室しており,内因性疾患が98%を占めていた.
 考察:“内因性疾患が小児三次救急の大部分を占めること”と“救命センター小児患者の主対象疾患が外因性疾患であること”が今回明らかとなった.以上の結果から今後の小児集中治療室整備においては,小児内因・外因性疾患の集約化を考慮して救命センターを併設した大学病院で小児科が三次救急医療を積極的に行っている施設に集中的に人的・物的資源を投入し内因・外因性疾患を一括して診療できる小児集中治療室の整備を広域行政が推進することが合理的な方略の1つであると考える.


【論策】
■題名
国立大学病院・公立病院は労働基準監督署からどのような是正勧告を受けたのか
■著者
北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野客員研究員
江原 朗

■キーワード
労働基準法, 過労死, 是正勧告, 医療安全, 病院
■要旨
 背景:勤務医の過重労働が社会問題化し,労働基準監督署が病院に対して是正勧告を行ったとの新聞報道も散見される.しかし,どのような違法行為があったのかは不明である.
 方法:是正勧告を受けたと報道された国立大学病院,都道府県立病院および市町村立病院を2つの新聞データベースにより特定し,これらの施設に交付された是正勧告書を開示請求により入手して労働基準法のどの条項に違反したか解析した.
 結果:17病院19件(国立大学病院7施設9件,都道府県立病院7施設7件,市町村立病院3施設3件)の是正勧告がなされたことが判明した.違反が多かった条項は,労働基準法第32条(労働時間)および第37条(時間外,休日及び深夜の割増賃金)であった.また,第34条(休憩時間)や第15条(労働条件の明示),第108条(賃金台帳)に関しても複数の病院が違反していた.
 結論:国や地方自治体が運営する病院においても,労働時間の管理において労働法規の違反があり,今後改善が求められる.

バックナンバーに戻る