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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:08.5.8)

第112巻 第4号/平成20年4月1日
Vol.112, No.4, April 2008

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原  著
1.

喘鳴を来す疾患における滲出性中耳炎の合併

瀬川 孝昭,他  689
2.

小・中学校におけるインフルエンザ流行時の措置と意思決定の実態

杉崎 弘周,他  696
3.

2歳未満児の虐待による頭部外傷の診断基準の提案

藤原 武男,他  704
4.

周期熱を伴ったVici症候群の1例

小泉 沢,他  713
5.

間質性肺炎にシクロスポリンが有効であった抗Jo-1抗体陽性若年性皮膚筋炎の1例

野中 由希子,他  719
6.

多剤併用療法により改善がみられた腹膜透析併発真菌性腹膜炎の小児例

竹谷 健,他  724
論  策
1.

小児呼吸器感染症治療の現状把握に関する検討(第1報) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2004について

尾内 一信,他  729
2.

小児呼吸器感染症治療の現状把握に関する検討(第2報) 小児呼吸器感染症における抗菌薬使用実態

尾内 一信,他  736
3.

二次医療圏に1か所の地域小児科センターが設置された場合,患者アクセスはどうなるのか―広域上位10医療圏の解析―

江原 朗  743

地方会抄録(高知,新潟,京都,岩手,東京,甲信,滋賀,岡山,佐賀,鹿児島,福岡)

  748
日本小児科学会教育委員会

小児科卒前臨床実習に関するアンケート調査結果

  793
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.3 ゴムボールによる窒息

  802
日本小児内分泌学会糖尿病委員会(3)

国際小児思春期糖尿病学会 臨床診療コンセンサスガイドライン2006〜2008 日本語訳の掲載について

  803

次期代議員・理事・監事名簿

  821

理事当選者立候補事由

  824

日本小児科学会理事会議事要録

  828

雑報

  835

医薬品・医療機器等安全性情報 No.245

  836


【原著】
■題名
喘鳴を来す疾患における滲出性中耳炎の合併
■著者
富士市立中央病院小児科1),同 耳鼻咽喉科2),国立成育医療センター研究所3),東京慈恵会医科大学小児科4),同 耳鼻咽喉科5),片山耳鼻咽喉科6)
瀬川 孝昭1)4)  吉川 秀樹1)4)  野崎 和之1)4)  秋山 直枝1)4)  千葉 博胤1)4)  山本 和央5)  斉藤 博久3)  衞藤 義勝4)  高柳 博久2)  米本 友明2)  片山 昇6)

■キーワード
喘鳴, 小児気管支喘息, 急性中耳炎, 滲出性中耳炎
■要旨
 小児の喘鳴(気管支喘息,喘息様気管支炎)を来す疾患と滲出性中耳炎の関連を示した報告はない.今回我々は,小児科医と耳鼻科医が連携して中耳炎671症例の診察を行い中耳炎の種類と喘鳴との関係について解析を行った.対象症例は急性中耳炎311症例,滲出性中耳炎379症例,急性中耳炎,滲出性中耳炎がそれぞれ片耳に認められた19症例(以下混合型とする)であった.さらに滲出性中耳炎をきたした84症例のアレルギー性鼻炎との関係についても検討を行った.
 1)滲出性中耳炎の年齢分布のピークは河本等1の報告されている5歳〜7歳ではなく1〜2歳と低年齢であった.3歳以下の滲出性中耳炎の診断には耳鼻科医小児科医が連携する必要があると考えられた.
 2)急性中耳炎は喘鳴を来さなかった疾患に多く,滲出性中耳炎は喘鳴(喘息様気管支炎,気管支喘息)を来した疾患に有意に多く認められ(p<0.001),滲出性中耳炎は気管支喘息の非発作時に比し発作時或いは発作から4週以内に伴うことが多く(p<0.001)気管支喘息の関連疾患の可能性が示唆された.
 3)滲出性中耳炎とアレルギー性鼻炎の関係は,アレルギー性鼻炎は滲出性中耳炎診断前に38%,診断時に10%認められた.滲出性中耳炎と喘鳴の関係は,滲出性中耳炎診断時に喘鳴を57%が伴っていた.アレルギー性鼻炎だけではなく,喘鳴も滲出性中耳炎の増悪因子であることが示唆された.


【原著】
■題名
小・中学校におけるインフルエンザ流行時の措置と意思決定の実態
■著者
新潟大学大学院医歯学総合研究科国際感染医学講座公衆衛生学分野1),新潟大学医学部保健学科2)
杉崎 弘周1)  齋藤 玲子1)  関 奈緒2)  鈴木 宏1)

■キーワード
インフルエンザ, 学級閉鎖, 実態調査, 措置基準, 問題点
■要旨
 インフルエンザ流行時の学校における措置は1950年代から行われているが,学校や家庭環境の変化からその実態が変わりつつあると考えられる.本研究は新潟県の全ての小・中学校の校長への調査により,インフルエンザ流行時の措置と意思決定の実態を検討した.インフルエンザ流行時に何らかの措置をした小学校は41.4%,中学校は35.4%であり,地域による差はなかった.昼食後に授業や課外活動の停止による放課の措置が約半数で行われており,この他に小学校では学級閉鎖,中学校では部活動の中止が多かった.学校長の9割は措置に効果があると考え,特に学年,学級閉鎖を有効としたが,学校閉鎖には否定的だった.主な相談相手は,養護教諭と学校医であり,参考情報は,小学校で学校医の意見,中学校で付近の流行だった.措置関連の問題として,学習進度の遅れや授業日数減少があげられ,小学校特有の問題として,保護者への連絡・説明があった.インフルエンザ流行時の措置の有効性が支持され,学年,学級閉鎖などの中等度の措置,放課などの軽い措置をする傾向や,措置と関連した多くの問題点が指摘された.今後は,措置の流行制御への有効性を科学的に検証し,パンデミック時の措置を含むこの活動の方向性を早急に検討すべきと思われた.


【原著】
■題名
2歳未満児の虐待による頭部外傷の診断基準の提案
■著者
国立成育医療センターこころの診療部1),同 総合診療部2),同 放射線診療部3),同 眼科4)
藤原 武男1)  奥山 眞紀子1)  松本 務2)  有瀧 健太郎2)  余谷 暢之2)  宮坂 実木子3)  仁科 幸子4)

■キーワード
子ども虐待, 頭部外傷, 診断基準, 硬膜下血腫, 眼底出血
■要旨
 目的:これまでの研究で,乳幼児への虐待による頭部外傷(Inflicted Head Injury,以下IHI)は頭蓋内の所見や頭蓋骨以外の部位での骨折の既往,受傷機転が不明など,虐待に特徴的な所見や病歴を呈することが明らかになっている.そこで,医学的所見に基づく,虐待による頭部外傷の診断基準を作成し,その妥当性を検討した.
 方法:対象は2002〜2005年において国立成育医療センターを外来もしくは入院にて受診し,頭部外傷による頭蓋内病変を疑い頭部CTを施行した2歳未満児の全症例(N=260)とした.これに,Duhaimeら(1992)及びReeceら(2000)の定義をもとに作成した「2歳未満児のIHIの診断基準」を適用し診断した.
 結果:本診断基準により推定IHI,IHIが疑わしいと診断されかつ児童相談所に通告または情報提供・相談していた症例,および非IHIケースと診断されかつ児童相談所との連携がなかった症例の合計は225例で,一致率は全体の86.5%であった.推定IHIと診断され,かつ児童相談所と連携のあった症例のうち,児童相談所によっても虐待と判断されていたのは20例(83.3%)であった.
 結論:医学的所見に基づく「2歳未満児のIHIの診断基準」は妥当であることがわかった.


【原著】
■題名
周期熱を伴ったVici症候群の1例
■著者
国立成育医療センター総合診療部1),同 循環器科2),同 神経内科3)
小泉 沢1)  内山 健太郎1)  篠田 裕子1)  露崎 悠1)  吉田 知広1)  細谷 要介1)  洲鎌 盛一1)  高山 ジョン一郎1)  金子 正英2)  岡 明3)

■キーワード
周期熱, Vici症候群, 白皮症, 心筋症
■要旨
 Vici症候群は白皮症,脳梁欠損,重度の精神運動発達遅滞,心筋症,易感染性を特徴とするまれな先天性疾患である.心筋症,感染症により予後は不良と報告される.我々は,易感染性を認めず,周期熱を合併したVici症候群の1例を経験した.症例は男児,生後5か月時に白皮症,脳梁欠損,精神運動発達遅滞,拡張型心筋症,筋緊張低下,先天性白内障,低色素性虹彩,低色素性網膜,痙攣,高口蓋を認めVici症候群と診断した.生後6か月ごろより,約48時間で自然解熱する39〜40℃の発熱をおよそ2週間(14〜17日間)周期に反復した.コルヒチン,プランルカストの内服は解熱効果なく,アセトアミノフェン,イブプロフェン,アスピリンの効果は一定しなかった.一方ステロイド剤には解熱効果を認めた.患児は1歳10か月時に心不全にて死亡した.周期熱を合併したVici症候群例や,易感染性を認めない例はこれまで報告がない.周期熱がVici症候群の新たな症候の一つである可能性があり,今後の症例の蓄積が待たれる.


【原著】
■題名
間質性肺炎にシクロスポリンが有効であった抗Jo-1抗体陽性若年性皮膚筋炎の1例
■著者
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児発達機能病態学分野1),鹿児島大学医学部保健学科2)
野中 由希子1)  今中 啓之1)  根路銘 安仁1)  前野 伸昭1)  赤池 治美1)  有村 温恵1)  重森 雅彦1)  嶽崎 智子1)  河野 嘉文1)  武井 修治1)2)

■キーワード
若年性皮膚筋炎, 間質性肺炎, 抗Jo-1抗体陽性, シクロスポリン
■要旨
 若年性皮膚筋炎に合併したステロイド抵抗性間質性肺炎に,シクロスポリンが有効であった女児例を経験した.
 症例は初診時1歳10か月の女児.発熱,関節の腫脹・疼痛,皮疹が出現し,近医で膠原病を疑われ,当科へ入院した.発熱,皮疹,筋力低下,四肢の疼痛,関節痛,血清中筋原性酵素の上昇,炎症反応の亢進,抗Jo-1抗体陽性を認め,若年性皮膚筋炎と診断した.また,多呼吸,PO2・PCO2の低下とAaDO2の上昇,KL-6の上昇,画像所見より,間質性肺炎の合併を認めた.
 メチルプレドニゾロンパルス療法は,筋症状,発熱には有効であったが,間質性肺炎には効果不十分であった.そこで,シクロスポリンを併用したところ,皮膚筋炎の所見だけでなく間質性肺炎も軽快し,現在は無治療で寛解状態を維持している.
 若年性皮膚筋炎に間質性肺炎が合併することは稀であるが,呼吸器症状がある場合には積極的に間質性肺炎を検索すべきである.また,その治療において,ステロイド抵抗性の際はシクロスポリン療法が有効な手段となる可能性が示唆された.


【原著】
■題名
多剤併用療法により改善がみられた腹膜透析併発真菌性腹膜炎の小児例
■著者
島根大学医学部小児科1),同 腎臓内科2),わたなべこどもレディースクリニック3)
竹谷 健1)  堀江 昭好1)  安田 謙二1)  伊藤 孝史2)  渡辺 浩3)  山口 清次1)

■キーワード
真菌性腹膜炎, ボリコナゾール, ミカファンギン, 胃ろう
■要旨
 15歳男子.巣状糸球体硬化症による慢性腎不全で10歳より腹膜透析を施行している.糖尿病,心不全および精神運動発達遅滞などを合併し,胃ろうを造設している.入院当日,発熱,嘔吐,腹部緊満および圧痛を認めた.排液中白血球増多および黄色ブドウ球菌の検出により細菌性腹膜炎と診断した.抗菌薬投与により症状は改善したものの入院3日目に再度発熱し,β-Dグルカンの高値を認めたため,ホスフルコナゾール静注を行ったところ,症状およびβ-Dグルカン値は改善した.培養では真菌は検出されなかったが,経過およびβ-Dグルカン高値から真菌性腹膜炎と診断した.微熱が続き,排液細胞数の低下がみられなかったため,アムホテリシンBおよびミカファンギンの併用に変更した.しかし,2剤併用でも軽快しなかったため,ボリコナゾールを追加したところ,症状および検査所見が改善した.発症後1年現在,腹膜機能の悪化はなく,腹膜透析を継続できている.真菌性腹膜炎は早期のカテーテル抜去が必要で治療に難渋することが多いが,本症例は抗真菌剤を組み合わせることにより軽快した.


【論策】
■題名
小児呼吸器感染症治療の現状把握に関する検討(第1報) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2004について
■著者
小児感染症治療薬適正使用研究会
尾内 一信  石和田 稔彦  岩田 敏  岡田 賢司  黒崎 知道  坂田 宏  鈴木 宏  砂川 慶介  堤 裕幸  春田 恒和  満田 年宏  山崎 勉

■キーワード
小児呼吸器感染症, 治療実態, アンケート調査, 小児呼吸器感染症診療ガイドライン
■要旨
 「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2004(以下“診療GL”と略)」の小児科医の利用活用状況をアンケート調査によって検討した結果,回答医師205名中77%が“診療GL”を認知していたが,65%は,抗菌薬の使用方法が“診療GL”発表後も変わらないと回答した.“診療GL”の肺炎の重症度分類は63%が認知し,80%が分類法を「適当」と受け止めていた.
 最近3年間での人工呼吸器管理を必要とした最重症肺炎は203名中10名が15例を経験していることが判明した.


【論策】
■題名
小児呼吸器感染症治療の現状把握に関する検討(第2報) 小児呼吸器感染症における抗菌薬使用実態
■著者
小児感染症治療薬適正使用研究会
尾内 一信  石和田 稔彦  岩田 敏  岡田 賢司  黒崎 知道  坂田 宏  鈴木 宏  砂川 慶介  堤 裕幸  春田 恒和  満田 年宏  山崎 勉

■キーワード
小児呼吸器感染症, 治療実態, アンケート調査, 注射用抗菌薬, 小児呼吸器感染症診療ガイドライン
■要旨
 小児呼吸器感染症への抗菌薬の治療実態についてアンケート調査した結果,「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2004」での原因不明時の肺炎に対する初期抗菌薬療法で推奨されている注射用抗菌薬が概ね用いられていた.また,症例により注射用抗菌薬を1日1回で使用することがある医師は55%と過半数を超えていた.使用薬剤の85%がCTRXであった.1日1回投与が可能な注射用抗菌薬は,外来での治療機会の増大,患者のQOLの維持や精神的安心感,医療費・特に入院費の軽減へのメリットなどが期待されるとする意見が多かった.


【論策】
■題名
二次医療圏に1か所の地域小児科センターが設置された場合,患者アクセスはどうなるのか―広域上位10医療圏の解析―
■著者
北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野
江原 朗

■キーワード
小児救急, 病院小児科, 集約化, 予後, 労務管理
■要旨
 地域小児科センターを二次医療圏に1か所設置した場合,各市町村からのアクセスはどうなるのか.広域上位10医療圏について解析を行った.
 圏内で小児科医が最も多い自治体をセンター設置場所と仮定した場合,センターから50 km以内の地域に在住する15歳未満の年少人口は医療圏全体の75.4%(中央値)に過ぎなかった.したがって,自動車の速度を50 km/hとした場合,小児全員に1時間でのアクセスを保障できない.しかし,圏域の市町村の小児のほぼ100%が,当該地域もしくは隣接地域の地域小児科センターから100 km以内に居住している.全国で最も広域である二次医療圏においても,自動車(50 km/h)で2時間以内であれば,地域小児科センターへのアクセスを保障することができる.

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