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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:07.07.23)

第111巻 第7号/平成19年7月1日
Vol.111, No.7, July 2007

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総  説

高機能広汎性発達障害と子ども虐待

杉山 登志郎  839
原  著
1.

小児がん患児のきょうだいにおける心理的問題の検討

小澤 美和,他  847
2.

早産児を出産した母親の搾乳方法についての検討

西田 嘉子,他  855
3.

ダウン症候群患者の思春期発来と成人期の問題

高野 貴子,他  861
4.

呼吸器症状を有するダウン症候群患児における気管・気管支病変の検討

坂井 美穂,他  866
5.

ハムスター咬傷によりアナフィラキシーを来した10歳女児例

宗行 正敏,他  872
6.

頭部MRIの経過観察ができた古典型シトルリン血症の1例

宮地 充,他  877
7.

Streptococcus bovisによる新生児遅発性敗血症を認めた超低出生体重児の1例

古賀 寛史,他  882
8.

肝腎複合移植を目指し生後2か月から維持透析中のオキザローシスの男児例

大坪 善数,他  888
論  策

病院小児科の時間外診療と医師の時間外労働の現状について

和田 紀久,他  893

地方会抄録(大分,東京,佐賀,福岡)

  899
日本小児科学会栄養委員会報告

若手小児科医に伝えたい母乳の話

  922

日本小児科学会倫理委員会報告

  942
分科会委員会報告:日本小児栄養消化器肝臓学会小児B型肝炎診療指針作成ワーキンググループ

小児B型肝炎の診療指針

  949
分科会報告

日本小児臨床薬理学会が目指すもの

  959

日本小児科学会理事会議事要録

  967

お知らせ

  1003

雑報

  1011


【原著】
■題名
小児がん患児のきょうだいにおける心理的問題の検討
■著者
聖路加国際病院小児科1),お茶の水女子大学大学院2),東海大学医学部小児科3)
小澤 美和1)  泉 真由子2)  森本 克3)  真部 淳1)  細谷 亮太1)

■キーワード
小児がん, きょうだい, 年齢, 説明, 不安
■要旨
 小児がん患児のきょうだい23人を対象に面接を行った.きょうだいへは,特性不安検査,ソーシャルサポート授与感,バウムテスト,ベンダーベシュタルトテストを行った.母親にはきょうだいの背景を問う質問紙とTS式幼児・児童性格診断を行った.投影法によるときょうだいらは,とくに10歳未満において,年齢よりも精神的に理性と感情のバランスが未熟であった.また,特性不安の高いきょうだいたちは,相当する年齢に比べ消極的で,自己存在感に乏しかった.ただし,患児の病態について説明を受けていたきょうだいにおいては,これらの傾向は軽減されていた.そして,情緒は不安定で,逸脱行動を取りやすい傾向も認められた.しかし,母親は患児のことで頭がいっぱいで,きょうだいのこのような問題には気づいていない傾向があることがもう一つの問題であると考えられた.


【原著】
■題名
早産児を出産した母親の搾乳方法についての検討
■著者
昭和大学医学部小児科1),北見赤十字病院小児科2),川口市立医療センター新生児集中治療科3),宮城県立こども病院小児科4)
西田 嘉子1)  水野 克己1)  板橋 家頭夫1)  三河 誠2)  佐久間 理奈3)  西田 俊彦3)  奥 起久子3)  堺 武男4)

■キーワード
搾乳, 電動搾乳器, 早産児
■要旨
 早産児を出産した母親は分娩後早期から搾乳を余儀なくされ,搾乳期間も長期に及ぶ事が多い.我が国では手による搾乳が主流であるが,欧米では母親の入院中から電動搾乳器を使用するように指導している.最近開発された病院水準(hospital grade)の電動搾乳器は射乳反射を起こしやすい効果をもつといわれるが,科学的な検証はまだ十分にない.今回,在胎32週未満または出生体重1800 g未満の児を出産した母親20例を対象とし,電動搾乳器群と手による搾乳群の2群に無作為に抽出し,I搾乳量・搾乳効率とII疲労度・痛みについての比較検討を行った.結果として,電動搾乳器群は分娩後72時間以降の搾乳量が有意に多く,また搾乳前後のクリマトクリット値の変動が大きい傾向にあり搾乳効率が良いことが示唆された.また電動搾乳器を使用することで疲労度は有意に減少し,分娩後72時間以内では搾乳時の痛みを感じにくかった.電動搾乳器は,分娩後早期からの搾乳方法のひとつとして有効であり,退院後も安定した搾乳を行える可能性がある.分娩後の母親に手による搾乳と電動搾乳器の両方を紹介し,各母親へ適した搾乳方法を提供することが,よりよい母乳育児支援につながると思われる.


【原著】
■題名
ダウン症候群患者の思春期発来と成人期の問題
■著者
東京家政大学家政学部児童学科1),帝京大学情報センター2)
高野 貴子1)  高木 晴良2)  日暮 眞1)

■キーワード
ダウン症候群, 思春期, 初経, 精通, 高尿酸血症
■要旨
 2004年12月に10歳以上のダウン症候群患者の保護者に郵送アンケートを実施し,本人の思春期発来時期,身体発育状況,思春期以降の健康問題のほか,両親の体格,同胞の思春期発来時期と身体発育状況を調査した.ダウン症候群患者有効回答数は121人,うち女62人,男59人で,平均年齢は20.3±7.3歳だった.同胞総数は121人,うち女66人,男55人,平均年齢は21.2±8.5歳であり,ダウン症候群患者と年齢や男女比に差はなく,比較に適していた.患者と同胞の思春期発来時期を比較し,女では,初経・乳房の発育時期は差がなかったが,腋毛・陰毛の発育は患者の方が遅かった.男の思春期発来はほとんどの兆候で患者と同胞の差がなく,異性を意識しはじめる時期のみ患者が遅かった.総じてダウン症候群の思春期発来時期は同胞と比べて遅れていないことが明らかとなった.成人期の疾患では肥満が男女とも約半数に見られ,ついで睡眠時無呼吸が多かった.男では高尿酸血症が多く,女では甲状腺疾患が多かった.親や療育者はダウン症候群患者の思春期が遅れることなく発来するという観点から思春期の準備を心がけることが望まれる.


【原著】
■題名
呼吸器症状を有するダウン症候群患児における気管・気管支病変の検討
■著者
松戸市立病院小児医療センター新生児科
坂井 美穂  長谷川 久弥  吉田 和司  喜田 善和

■キーワード
ダウン症候群, 気管・気管支病変, 気管支ファイバースコピー
■要旨
 呼吸器症状を有するダウン症候群の気管・気管支病変を後方視的に検討した.1991年から2003年10月までに当院新生児科,小児科に入院し,呼吸器症状を認めたダウン症候群23例を対象に,気管支ファイバースコピーを用いて気管・気管支を観察した.性別は男児11例,女児12例.検査時齢は日齢5から2歳(平均5.9か月).合併症は先天性心疾患20例,十二指腸狭窄1例,ヒルシュスプルング病1例,水腎症2例,早産低出生体重児8例.呼吸器症状は喘鳴5例,陥没呼吸6例,チアノーゼ発作6例,多呼吸2例,dying spell 3例,無気肺1例.検査を施行した中で18例(78%)に気管・気管支病変を認めた.その内訳は気管軟化症5例,気管・左気管支軟化症5例,気管・左右気管支軟化症5例,肺内気管支軟化症1例,気管気管支5例(重複例を含む)であった.気管・気管支軟化症症例が16例と最も多く,気管分岐部付近全体が扁平につぶれた所見を多く認めた.呼吸器症状を有するダウン症候群では症状が軽くとも,様々な気道病変を合併している率が高く,積極的な気管支ファイバースコピー検査をおこなうことが望ましいと思われた.


【原著】
■題名
ハムスター咬傷によりアナフィラキシーを来した10歳女児例
■著者
大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター小児科
宗行 正敏  亀田 誠  西川 嘉英  錦戸 知喜  吉田 之範  高松 勇  土居 悟

■キーワード
アナフィラキシー, ジャンガリアンハムスター, 咬傷, ペット, CAP RAST
■要旨
 近年愛玩動物の飼育に関して,飼育動物の種類やその飼育場所などに様々な変化が認められる.その一つとしてネズミ類の飼育割合の増加もあげられる.今回,自宅で飼育していたジャンガリアンハムスター咬傷によりアナフィラキシー症状を呈した10歳女児例を経験した.ハムスターに指を噛まれ,10分程で息苦しさ・全身発赤を認めるようになり当院に搬送された.全身発赤及び呼吸苦の持続を認め,酸素投与,エピネフリン皮下注射,プレドニゾロン静脈内投与を施行したが十分な症状改善なく入院加療とした.経過は良好で第5病日に退院した.本症例での感作はジャンガリアンハムスターの成分が含まれる現行型ハムスター上皮RASTで証明された.従来型ハムスター上皮RASTに含まれる上皮成分はジャンガリアンハムスター上皮成分との抗原性が一部異なること,かつその上皮成分が含まれていなかったため証明できなかった.家族歴では家族全員がアレルギー素因を有していたが,患児とともにハムスターを直接飼育していた父親も現行型ハムスター上皮RASTが陽性であった.父親・患児ともにすでに咬傷により周囲に発赤腫脹を認めるようになっていたことから,このようなときは咬傷による重篤なアレルギー反応の危険性に十分注意する必要がある.このことから,アレルギー素因を持つ患者のハムスターの飼育に際し,心理的配慮をしたうえで十分な指導及び注意喚起が肝要と考える.


【原著】
■題名
頭部MRIの経過観察ができた古典型シトルリン血症の1例
■著者
国立病院機構舞鶴医療センター小児科1),京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学2)
宮地 充1)  中島 文明1)  小坂 喜太郎2)

■キーワード
古典型シトルリン血症, 頭部MRI, 運動発達遅滞, 嘔吐, 高アンモニア血症
■要旨
 我々は,発育・運動発達遅延,繰り返す嘔吐発作から,1歳時に診断した古典型シトルリン血症の男児例を,頭部MRIの経過とともに報告する.症例は1歳男児.生後2か月時,5か月時に嘔吐発作を認めた.生後6か月ごろより運動発達遅滞,成長障害を指摘され,1歳0か月頃より再度,嘔吐発作を認め,活気も乏しくなってきたため,精査のため入院となった.入院時検査では,高アンモニア血症,肝機能異常を認めたが,アシドーシスは認めなかった.頭部MRIでは右前頭葉に脳浮腫に伴う脳回の腫大とT2強調画像にてhigh intensityの異常信号を認めた.高アンモニア血症に対してアルギニンの投与を開始した.血中アンモニア値は翌日には低下し,全身状態は改善した.アミノ酸分析では,血中,尿中ともにシトルリンの高値を認め,尿中アルギニノコハク酸の増加はみられなかったので,古典型シトルリン血症と診断した.アルギニン内服などの治療により,発育・発達の改善傾向を認めたが,治療開始11か月後も頭部MRIにおいて軽度異常所見は残存した.本症例では不可逆的な頭部MRI所見を認めており,診断までに不可逆的な脳障害が進行していたことを示唆している.古典型シトルリン血症の予後改善のために早期診断,治療が重要である.


【原著】
■題名
Streptococcus bovisによる新生児遅発性敗血症を認めた超低出生体重児の1例
■著者
大分県立病院総合周産期母子医療センター新生児科
古賀 寛史  国東 信隆  久我 修二  長田 明日香  東保 大海  松本 直子  高橋 瑞穂  飯田 浩一

■キーワード
Streptococcus bovis, 敗血症, 超低出生体重児, 頭蓋内出血
■要旨
 Streptococcus bovisS. bovis)による敗血症を呈した超低出生体重児の1例を経験した.症例は在胎28週2日,出生体重998 gで出生した双胎第2子の女児.生後早期の急性期を離脱後,状態安定していたが,日齢46に突然,重篤な無呼吸発作で発症した.感染経路および髄膜炎の有無は不明であった.S. bovisはペニシリン系に良好な薬剤感受性を有し,臨床的にもABPCが有効であった.治療経過中に右脳室内から実質にかけての頭蓋内出血を合併した.退院時に筋緊張亢進を呈し,左片麻痺のハイリスクと考えられた.本症例を含めた乳児期のS. bovis感染報告例34例の検討では,新生児期に発症した低出生体重児に死亡例が多く,また頭蓋内出血を合併した3例中2例は超低出生体重児であった.本症例は遅発性に発症し救命できた点では他の報告例と同様であったが,頭蓋内出血を起こし神経学的症状を残した点は稀な経過であった.


【原著】
■題名
肝腎複合移植を目指し生後2か月から維持透析中のオキザローシスの男児例
■著者
佐世保市立総合病院小児科1),九州大学病院小児科2)
大坪 善数1)  荒木 恵子1)  光武 伸祐1)  岡崎 なぎさ1)  中山 雅彦1)  堤 康2)  中下 誠郎1)

■キーワード
原発性高蓚酸尿症1型(PH1), アラニングリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(AGT), オキザローシス, 肝腎複合移植
■要旨
 原発性高蓚酸尿症1型(PH1)は常染色体劣性遺伝疾患で,肝臓のペルオキシソームに局在するアラニングリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(AGT)の機能異常により体内,特に腎臓に蓚酸カルシウムが蓄積し,腎尿路結石,腎石灰化,そして末期腎不全に至る予後不良の代謝異常症である.PH1の中でも乳児型(infantile PH1)は,初発症状が腎石灰化であることが多く,高率に末期腎不全に移行する.今回我々は,infantile PH1の2か月男児例を経験したが,初診時より末期腎不全の状態で,入院同日よりPDを導入した.現在,自宅にてTidal PDを施行しながら,血清蓚酸除去に努めている.経時的に血清蓚酸濃度を測定しながら,肝移植,腎移植を視野に入れ,治療継続中である.


【論策】
■題名
病院小児科の時間外診療と医師の時間外労働の現状について
■著者
近畿大学医学部小児科1),独立行政法人医薬品医療機器総合機構新薬審査第二部2),東京女子医科大学循環器小児科3),大阪府立母子保健総合医療センター4),大阪市立住吉市民病院小児科5),大阪大学大学院医学系研究科内科系臨床医学専攻情報統合医学小児科学6),エバラこどもクリニック7),国立成育医療センター第1専門診療部アレルギー科8)
和田 紀久1)  青谷 裕文2)  中澤 誠3)  藤村 正哲4)  舟本 仁一5)  日本小児科学会小児医療改革・救急プロジェクトチーム  恵谷 ゆり6)  江原 伯陽7)  大矢 幸弘8)  厚生労働科学研究費補助金(こども家庭総合研究事業)「小児科産科若手医師の確保・育成に関する研究」分担研究課題「病院小児科医のworkforce調査・分析」班

■キーワード
病院小児科, 小児科時間外診療, 小児科医師時間外労働
■要旨
 日本小児科学会員が所属する病院を対象として平成16年に行われた病院小児科・医師現状調査の回答結果のうち,時間外診療と医師の時間外労働の現状について解析,検討した.1,112の調査票が回収され,85%の病院が小児科医の当直を行っていた.74%の病院が時間外外来診療を行っていたが,半数以上の病院がその遂行に必要な医師数は充足していないと答えた.また,時間外外来診療を行っている病院のうち,時間外に検査技師,放射線技師,薬剤師,事務職員のすべてが常時勤務しているのは35%であった.医師個人の超過勤務時間,1か月間の当直回数とも,常勤医師数の多い病院に勤務する医師ほど多かった.医師個人の平日,休日の月あたりの超過勤務時間,休日宿日直,オンコール回数の平均値は,若い年代ほど高く,20歳代の医師は当直も含めれば平常診療時間以外の労働を月に平均130時間以上行っていた.
 病院勤務の小児科医を確保し,質の高い小児医療,時間外診療の提供を継続してゆくためには,一次小児時間外診療は地域の小児科診療に従事する医師の共同参加体制を構築して二次医療から独立させることが不可欠であり,二次小児医療機関を地域において集約化すること,常勤医師数の少ない施設を外来プライマリケアに専念させることが,有効な対策になりうると思われた.

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