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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:07.04.02)

第111巻 第3号/平成19年3月1日
Vol.111, No.3, March 2007

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第109回日本小児科学会学術集会
  分野別シンポジウム:成長曲線から見えてくるこどもの心の問題

成長曲線評価による小児期発症神経性食欲不振症のハイリスク児抽出の意義

井ノ口 美香子  451
原  著
1.

3歳児におけるテレビ・ビデオ視聴時間と発達との関連

加納 亜紀,他  454
2.

小児期の線維筋痛症3症例の経験

横田 俊平,他  462
3.

炎症性腸疾患様症状を呈した慢性肉芽腫症の1例

関口 隆憲,他  469
4.

S388fs変異を有したピルビン酸脱水素酵素複合体異常症の二卵性双生児例―正常二卵性双生児の兄との比較

中村 こずえ,他  475
5.

当院で経験したマラリアの同胞3症例

橋村 裕也,他  480
6.

A型インフルエンザ罹患時に重篤な呼吸不全を合併した3歳女児例

米川 貴博,他  486
7.

突然死をきたしたRSウイルス感染症の1幼児例

斎藤 朋子,他  491
論  策

新臨床研修制度における小児の救命処置講習の必要性に関する検討

福原 信一,他  495

地方会抄録(中国四国,鳥取,青森,福島)

  500

雑報

  519
日本小児科学会社会保険委員会

病院小児科医による365日24時間体制の当直に関する報告書

  520
小児科と小児歯科の保健検討委員会

歯からみた幼児食の進め方

  529

財団設立準備募金について

  532

「小児科学会の百年」の配布について

  533

お知らせ

  535

査読者一覧

  536

平成19年度日本小児科学会分科会開催予定

  537


【原著】
■題名
3歳児におけるテレビ・ビデオ視聴時間と発達との関連
■著者
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科1),岡山大学教育学部2),川崎医科大学小児科3),大阪厚生年金病院4)
加納 亜紀1)  高橋 香代2)  片岡 直樹3)  清野 佳紀4)

■キーワード
小児, テレビ, 発達, 長時間視聴, 3歳児健康診査
■要旨
 3歳児健康診査対象児1,180名の養育者を対象としてアンケート調査を行い,テレビ・ビデオ視聴時間と発達との関連を明らかにした.
 児の視聴時間を2時間未満(I群),2〜4時間(II群),4時間以上(III群)に分けて,「意味のある片言を2語以上言う」ことを基準とした発語の開始時期の頻度を比較すると,視聴時間が長い児ほど発語の開始時期が有意に遅い結果であった.
 また,I群,II群,III群の視聴時間別に発達通過率を比較すると,視聴時間が長いほど,言語(大小理解),社会性(トイレ,順番)の項目で発達通過率が有意に低かった.しかし,保育施設への通園児と未通園児を比較すると,未通園児ほど視聴時間が有意に長く,発達が有意に遅い結果で,保育施設への通園状態がテレビ・ビデオ視聴時間と発達の関連を検討する際の交絡因子となっていた.
 そこで,III群をケース,I群とII群をコントロールとして,発達に影響を及ぼす児の性別,出生日,出生体重,父母の有無,保育施設への通園状態をマッチさせた症例対照試験を行った.その結果,III群は発達通過率が有意に低い結果であり,4時間以上のテレビ・ビデオ視聴が社会性の発達の遅れの頻度を有意に増していた.以上から4時間以上のテレビ・ビデオ視聴時間は,3歳6カ月児の社会性の発達に影響を与えていた.


【原著】
■題名
小児期の線維筋痛症3症例の経験
■著者
横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学
横田 俊平  梅林 宏明  宮前 多佳子  今川 智之  森 雅亮

■キーワード
線維筋痛症, 全身痛, 若年性特発性関節炎, 若年性皮膚筋炎, アロデイニア
■要旨
 線維筋痛症の3症例を呈示した.10歳女児が1例と,12歳男児が2例で,既往に若年性皮膚筋炎,Kohler病,捻挫などの疼痛性疾患があった.疼痛は,当初は関節痛,筋痛とみられていたが,やがて全身に及び,特徴的にはallodyniaを認めた.疼痛にかんする診察では,若年性皮膚筋炎に認められる深部の把握痛や筋膜炎に認められる表在性の圧痛とは異なり,皮膚浅層から筋の深部に至る全域に疼痛を感じ,触覚がそのまま疼痛と感じられるようであった.関節痛は3症例とも認められたが,関節腫脹,熱感はなく,若年性特発性関節炎でみる関節所見とは異なっていた.線維筋痛症の圧痛点18カ所のすべてが陽性であった.いずれの例も一般臨床検査には異常所見はなく,一方,発症の引き金となる心因性負荷が認められ,家族,とくに母親との強い相互依存性と同時に葛藤がみてとれた.性格的には,年齢よりは大人びたよい子で,潔癖主義的,完全論者的であった.入院後,1)母子分離を図る,2)病棟スタッフと看護チームと協議を行い,疼痛に関する話題を避ける,3)段階的にリハビリテーションを開始する,4)院内学級で他の病児との交流を図る,5)疼痛に対しては抗ヒスタミン薬を用いる,などの統一的な対応を行った結果,3〜4週間のうちに全身疼痛は消褪し,臥床から起床へ,やがて歩行できるようになり,独歩退院となった.しかし1女児例は,中学へ進学して再発した.


【原著】
■題名
炎症性腸疾患様症状を呈した慢性肉芽腫症の1例
■著者
高松赤十字病院小児科
関口 隆憲  高橋 朋子  井上 奈巳  松下 正民  稲井 憲人  須賀 健一  秋田 裕司  幸山 洋子  大原 克明

■キーワード
慢性肉芽腫症, 炎症性腸疾患, 肉芽腫性腸炎, プロバイオティクス
■要旨
 症例は生後1カ月にgp91-phox欠損型慢性肉芽腫症(以下CGD)と診断し,ST合剤を投与し経過をみていた男児で,1歳10カ月に嘔吐を主訴に入院した.入院途中から発熱,下痢,血便を呈し,抗生剤に反応なく,ステロイド投与にて改善した.大腸内視鏡所見はS状結腸を除いて盲腸から直腸まで粘膜の透見性の低下と発赤を認めた.病理組織は粘膜が糜爛し,腺窩膿瘍を認めた.粘膜固有層に好中球や好酸球とともに,リポフシン顆粒を含んだマクロファージが浸潤し,境界鮮明な非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が多数みられ,CGDに特徴的な肉芽腫性腸炎と診断した.ステロイドを減量,中止すると腹痛,血便が再燃した.メサラジンやIFN-γは無効であった.プロバイオティクス投与により症状の改善をみた.プロバイオティクスはCGD腸炎の治療,予防に有効と思われた.


【原著】
■題名
S388fs変異を有したピルビン酸脱水素酵素複合体異常症の二卵性双生児例―正常二卵性双生児の兄との比較
■著者
帝京大学医学部溝口病院小児科1),東邦大学医療センター大橋病院小児科2),帝京大学医学部小児科3),徳島大学医学部発生発達医学講座小児医学分野4)
中村 こずえ1)  石黒 精1)  眞々田 容子1)  藤原 順子1)  鈴木 徹臣1)  幸田 恭子1)  四宮 範明2)  柳川 幸重3)  内藤 悦雄4)

■キーワード
ピルビン酸脱水素酵素複合体異常症, 高乳酸血症, 遺伝子診断, 二卵性双生児
■要旨
 ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)異常症は先天性高乳酸血症をきたす主要な疾患の一つである.1歳2カ月で感染を契機に筋力低下で発症した男児例を経験し,PDHC酵素活性低下とピルビン酸脱水素酵素複合体Eサブユニット(PDHA1)遺伝子変異(S388fs)によりPDHC異常症と確定診断した.本例のS388fs変異は本邦2例目であり,患児のPDHC酵素活性は約10%と低下しているが臨床症状は軽症であった.
 また,本例は二卵性双生児の第2児で,第1児のPDHA1遺伝子は正常であった.患児は発症時には兄と同じ発達程度であり,発症後の一人歩きと二語文の発語は,兄に比して2カ月遅れであったが,発症1年9カ月後の2歳11カ月で兄との発達の差は認めなかった.
 本例のように感染後に筋力低下をきたすような症例では,PDHC異常症の可能性も考えて精査することが必要である.このような症例では早期診断が重要で,早期治療により正常に発達することが期待できる.


【原著】
■題名
当院で経験したマラリアの同胞3症例
■著者
六甲アイランド病院小児科1),神戸大学大学院医学系研究科成育医学講座小児科学2),愛仁会千船病院小児科3)
橋村 裕也1)3)  小田 望1)  古賀 千穂1)  小野 淳一郎1)  湊川 誠1)  大橋 玉基1)  山田 至康1)  竹島 泰弘2)  高見 勇一2)

■キーワード
熱帯熱マラリア, 卵形マラリア, 塩酸キニーネ, 輸入感染症
■要旨
 マラリアは再興感染症の一つであり,海外渡航者が増えつつあるわが国でも輸入感染症として重要性が増している.今回,我々は海外渡航後に熱帯熱マラリア,卵形マラリアを発症した同胞3症例を経験した.主訴は活気不良,頭痛,嘔吐などであり,卵形マラリアの1例では,来院時に発熱を認めなかった.各症例とも入院時血液検査でCRP高値,好中球の核の左方移動,軽度貧血,軽度血小板数低下を認めた.診断は血液塗抹標本で行い,ともにマラリア原虫の寄生を認めた.マラリアは感染初期には典型的な発熱期間を示さない場合があり,海外渡航歴などの詳細な聴取が診断に重要であり,マラリア流行地域への渡航者には,マラリアも念頭において早期診断していくことが大切である.


【原著】
■題名
A型インフルエンザ罹患時に重篤な呼吸不全を合併した3歳女児例
■著者
新宮市立医療センター1),坂下小児科2)
米川 貴博1)  足立 基1)  坂下 龍生2)

■キーワード
インフルエンザ, 呼吸窮迫, サイトカイン, KL-6, ステロイドパルス療法
■要旨
 A型インフルエンザ罹患時に進行性の呼吸窮迫を来したが,ステロイドパルス療法が奏効し回復した3歳女児を報告する. A型インフルエンザの診断でリン酸オセルタミビルを内服したが,高熱が持続し,また咳嗽も増悪し,多呼吸と呼吸困難を呈した.胸部X線写真で右上,中肺野と左上肺野に浸潤影が認められ,肺炎の診断で抗生剤を投与された.その後も高熱と呼吸窮迫状態は改善せず,胸部の陰影は急速に拡大した.インフルエンザを契機として生じた高サイトカイン血症が,肺毛細血管透過性亢進型肺水腫を引き起こしたと考え,直ちにステロイドパルス療法を行い呼吸状態は改善した.血清KL-6の上昇はII型肺胞上皮細胞の障害と肺毛細血管の透過性亢進を反映していた.
 インフルエンザの経過中に急速に呼吸状態が悪化し,画像上肺胞性陰影が両側性に拡大する場合,高サイトカイン血症に基づく病態である可能性も念頭に入れ治療を行う必要がある.


【原著】
■題名
突然死をきたしたRSウイルス感染症の1幼児例
■著者
長岡赤十字病院小児科
斎藤 朋子  鳥越 克己  沼田 修  竹内 一夫  榊原 清一  阿部 忠朗  小林 玲  細貝 亮介

■キーワード
RSウイルス, 突然死, 急性気管支炎, 幼児
■要旨
 症例は2歳1カ月女児.前日の当科受診時は,軽い咳嗽,鼻汁,38℃の発熱を認めたのみで,診察上異常所見はなかった.帰宅後も普段と変わりなく元気であったが,翌朝に死後硬直の状態で発見された.
 剖検の結果,検索した全ての葉気管支と区域気管支の内腔は剥脱した上皮細胞,浸潤した炎症細胞,滲出液等により閉塞していた.これら気管支と気管・主気管支には,核に寄り添うように位置する好酸性細胞質内封入体を持った上皮細胞が多数観察され,これら細胞にはRSウイルス抗原が検出された.また肺胞では肺胞壁の浮腫,出血を認めた.炎症性サイトカインにより肺毛細血管が傷害され呼吸窮迫症候群に至ったと考えられる.RSウイルス感染に伴う気管支の閉塞による窒息とならんで本例の突然死の原因と考えられた.
 乳児のRSウイルス感染症は重症化するが,年長児の場合は上気道炎症状のみで,軽症であると認識されている.年長児の急速に死に至るRSウイルス感染症が存在することを強調した.


【論策】
■題名
新臨床研修制度における小児の救命処置講習の必要性に関する検討
■著者
独立行政法人国立病院機構岡山医療センター小児科
福原 信一  塚原 紘平  森 茂弘  木村 健秀  清水 順也  古城 真秀子  古山 輝久  金谷 誠久  白神 浩史  久保 俊英

■キーワード
臨床研修, 小児救命処置, 教育, Pediatric Advanced Life Support
■要旨
 平成16年度からの新医師臨床研修制度の下で臨床研修医が小児の救命処置をどの程度理解しているか,また小児救命処置の講習がどの程度の効果があるのか,について講習を通して検討した.対象は岡山医療センターの臨床研修医で,約3時間の講習とともに筆記テスト・実習・アンケートを行った.成人に関するまたは成人と共通する点を含む設問・実技の項目については正答率が高かったのに対し,小児に特有の設問に関しては相対的に低く,講習後に改善した.受講生のアンケート結果からも,小児の救命処置の成人との違いやトレーニングの必要性は認識されていた.小児救命処置の研修は臨床研修医のみでなく小児科指導医にとっても知識の整理につながると考えられ,その必要性を検討することが望まれる.

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