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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:07.01.30)

第111巻 第1号/平成19年1月1日
Vol.111, No.1, January 2007

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第109回日本小児科学会学術集会
  分野別シンポジウム:乳幼児気管支喘息治療の早期介入

小児気管支喘息の疫学

小田嶋 博  1
  分野別シンポジウム:乳幼児気管支喘息治療の早期介入

アレルギー炎症疾患発症に関わる遺伝的背景,エピジェネティック制御と環境因子

斎藤 博久  10
  分野別シンポジウム:乳幼児気管支喘息治療の早期介入

アレルギー性炎症の発症機序

大嶋 勇成  16
  分野別シンポジウム:乳幼児気管支喘息治療の早期介入

気管支喘息の発症予防

近藤 直実,他  23
原  著
1.

発熱と白血球増多を認め血液培養を施行した497例の検討

岸本 泰明,他  28
2.

アデノウイルス5型とTTウイルスの重複感染による遷延する急性肝炎の兄弟例

森嶋 達也,他  33
3.

インフルエンザの経過中に異常言動・行動を呈した症例の検討

原 啓太,他  38
4.

可逆性の脳萎縮を認めた重症アトピー性皮膚炎の乳児例

井上 奈巳,他  45
5.

右上肢麻痺を初発としたMRSA鎖骨骨髄炎の1乳児例

平林 真介,他  51
6.

単心室に対するFontan術後に合併した肝硬変の1例

池本 裕実子,他  55
7.

中枢神経症状を伴ったX連鎖劣性重症乳児型ミオチュブラーミオパチー

疋田 敏之,他  60
8.

ステロイド吸入療法を中止後に副腎不全に陥った超低出生体重児の1例

丹羽 房子,他  65
9.

食器用洗剤(水酸化カリウム溶液)の誤飲による腐食性食道炎の1例

柴田 敦子,他  69

地方会抄録(北日本,中部日本,兵庫,山形,香川,沖縄,福岡)

  73

生涯教育シリーズ掲載方法の変更について

  120

生涯教育シリーズNo.150 第41回応募問題

  120

日本小児科学会理事会議事要録

  124

雑報

  132

医薬品・医療機器等安全性情報 No.230

  133


【原著】
■題名
発熱と白血球増多を認め血液培養を施行した497例の検討
■著者
名古屋掖済会病院小児科
岸本 泰明  川田 潤一  鳥居 ゆか  山田 朱美  伊藤 和江  西川 和夫

■キーワード
血液培養, 採血までの時間, occult bacteremia, 菌血症, 白血球数
■要旨
 38.0℃以上の発熱をきたして来院し,白血球数20,000/μl以上であった生後90日以上6歳以下の児497例に対し血液培養を行い,その結果について検討した.24例(4.8%)が陽性となり,全例4歳以下であった.原因菌は肺炎球菌16例,インフルエンザ菌6例,大腸菌2例であった.血液培養陽性群は陰性群と比較し,発熱から採血までの時間が有意に短く,痙攣の合併が有意に多かった.一方で,体温,白血球数,CRP値に有意差は認めなかった.発熱時に白血球数が高値を示す症例の中でも,発熱から短時間に白血球数が上昇している症例や,痙攣を有する例に菌血症が多く含まれると考えられた.それらの症例に積極的に血液培養を行うことは,occult bacteremiaを含めた菌血症を早期発見する上で重要と考えられた.


【原著】
■題名
アデノウイルス5型とTTウイルスの重複感染による遷延する急性肝炎の兄弟例
■著者
田附興風会医学研究所北野病院小児科
森嶋 達也  上松 あゆ美  西田 仁  小野 麻由子  熊倉 啓  塩田 光隆  羽田 敦子  秦 大資

■キーワード
TTウイルス, アデノウイルス, 肝炎, 川崎病不全型, ウイルス重複感染
■要旨
 アデノウイルス5型とTTウイルス(以下TTV)の重複感染が原因と思われる遷延する肝機能障害の経過中に不全型川崎病を合併した兄弟例を経験したので報告する.
 症例は2歳4カ月男児と1歳1カ月男児の兄弟.繰り返す発熱と肝酵素の上昇を認めていたが,兄に比べ弟の発熱・肝酵素の上昇は高度かつ遷延していた.両者とも血清抗体価の上昇によりアデノウイルス5型感染と診断した.血清TTVDNAは陽性であったが,弟のTTVのウイルス量はより高値であった.両者とも経過中に発熱,皮疹,膜様落屑等の症状を呈し,不全型川崎病と診断した.
 TTVは単独での肝細胞障害性は低く,TTVを肝炎ウイルスとする考えには否定的な見解が多い.本症例ではアデノウイルス5型との重複感染を起こし,TTVウイルス量の多い症例にて遷延する発熱,高度の肝酵素の上昇を認めていることより,TTVは他のウイルスとの重複感染により肝炎を遷延させる可能性があると考えられた.また,両者共に経過中に不全型川崎病を発症しており,TTVがアデノウイルス5型との重複感染により川崎病の発症に関与している可能性が考えられた.


【原著】
■題名
インフルエンザの経過中に異常言動・行動を呈した症例の検討
■著者
市立枚方市民病院小児科1),大阪医科大学小児科2)
原 啓太1)  田辺 卓也1)  中尾 亮太1)  笠原 俊彦1)  岡本 奈美1)  岡空 圭輔1)  森本 高広1)  柏木 充2)  玉井 浩2)

■キーワード
インフルエンザ, 異常言動・行動, せん妄, 熱せん妄
■要旨
 目的 インフルエンザに伴う異常言動・行動の臨床特徴を明らかにすること.
 対象と方法 2005年12月から2006年2月にインフルエンザに伴う異常言動・行動を主訴に市立枚方市民病院小児科を受診した連続症例について追跡調査した.
 結果 調査期間中の小児インフルエンザ患者は1,219例であった.異常言動・行動を訴えた症例は21例(1.7%)で,そのうち追跡調査できた18例を対象とした.年齢は2〜13歳(平均6.9歳)で,6例に熱性けいれんの既往歴を認めた.全例がインフルエンザA型であった.異常言動・行動出現前に10例がリン酸オセルタミビルを服用しており,5例では何ら服薬がなかった.2例を除き,異常言動・行動は発熱後24時間以内に出現していた.異常言動・行動の内容は,意識混濁に伴う,幻視,怯え,行動性の運動症状が多く,症候学的特徴はせん妄に一致していた.異常言動・行動の持続は12例で30分以内であり,全て38℃以上の発熱に伴い一過性であった.受診後は全例でリン酸オセルタミビルによる治療を行い,異常言動・行動消退後は速やかに意識回復した.有熱期間は1〜4日(平均2.2日)で,全例が解熱後は後遺症なく軽快した.
 考察 今回の18症例で認めた異常言動・行動は熱せん妄と考えられた.一過性のせん妄は,小児のインフルエンザ神経合併症として,まれではないと思われた.


【原著】
■題名
可逆性の脳萎縮を認めた重症アトピー性皮膚炎の乳児例
■著者
高松赤十字病院小児科
井上 奈巳  関口 隆憲  松下 正民  須賀 健一  高橋 朋子  秋田 裕司  幸山 洋子  大原 克明

■キーワード
アトピー性皮膚炎, 脳萎縮, 低蛋白血症, 電解質異常, 高アルドステロン血症
■要旨
 われわれは重症アトピー性皮膚炎に合併し,可逆性の脳萎縮,低蛋白血症,電解質異常,高アルドステロン血症,および発育発達遅延を呈した乳児例を経験した.症例は9カ月,男児.生後2カ月よりアトピー性皮膚炎を指摘されていた.両親のステロイド軟膏に対する抵抗感が強く,3カ月時より漢方外用療法を開始していたが改善しなかった.母親の自己判断で離乳食は開始せず,母乳栄養のみであった.生後7カ月より活気がなくなり,9カ月時,湿疹と発育発達不良のため紹介入院となった.体重−2.0 SD,頭囲−3.2 SD,無欲状で定頸はなく,全身に浸出液を伴う湿疹を認めた.入院時検査所見で低蛋白血症,低Na血症・高K血症,高レニン・高アルドステロン血症を認め,頭部MRI検査でびまん性大脳萎縮を認めた.輸液,栄養療法,ステロイド軟膏塗布により,皮膚や検査所見は改善した.これと平行して,体重・頭囲の正常化,脳萎縮も改善した.しかし,発達遅延の回復は遷延している.
 近年,アトピー性皮膚炎にさまざまな全身合併症が報告されているが,頭部画像検査で脳萎縮も合併することが明らかとなった.脳萎縮自体は可逆的であるが発達遅延は不可逆的な可能性も否定できないため,長期的フォローアップが必要と考えられた.


【原著】
■題名
右上肢麻痺を初発としたMRSA鎖骨骨髄炎の1乳児例
■著者
聖路加国際病院小児科
平林 真介  草川 功  神谷 尚宏  一ノ橋 祐子  稲井 郁子  細谷 亮太

■キーワード
MRSA, osteomyelitis, clavicle pseudoparalysis
■要旨
 生後45日女児の鎖骨に生じたmethicillin resistant Staphylococcus aureus(以下MRSA)による骨髄炎を経験したので報告する.症例は,在胎39週2日2,588 gにて他院で出生した.生後45日目,右上肢の麻痺を主訴に当院救急外来を受診し入院した.その後発熱も出現し,翌日には,右頸部から前胸部に発赤,腫脹が出現,右上肢のMRI検査では,右鎖骨とその周囲にT2強調画像で高信号を認め,造影効果も認められた.血液培養,鼻咽頭培養,便培養よりMRSAが検出され,MRSA骨髄炎と診断した.治療としてVancomycinを4週間静注し,臨床症状,検査所見の改善をみた.
 鎖骨に生じる骨髄炎は稀であるが,本症例のように麻痺が初発症状である場合もあり,注意深い経時的観察が必要である.


【原著】
■題名
単心室に対するFontan術後に合併した肝硬変の1例
■著者
関西医科大学小児科1),中野こども病院2)
池本 裕実子1)  藤井 喜充2)  荻野 廣太郎1)  吉村 健1)  野木 俊二1)  寺口 正之1)  金子 一成1)

■キーワード
Fontan手術, うっ血性肝硬変, 肝線維化マーカー
■要旨
 Fontan手術後には様々な合併症,後遺症が報告されているが,肝病変については十分な検討がなされていない.
 今回,Fontan術後14年後に肝硬変を合併した症例を経験したので報告する.
 症例は,16歳の男子.2歳時,単心室・肺動脈狭窄・完全大血管転位に対して,Fontan手術を施行した.術後経過は良好で中心静脈圧は11〜12 mmHgであったが14年後,総ビリルビン値が3.5 mg/dlへ上昇した.精査したところ,画像検査で肝実質内の多発性結節性病変と線維化の所見がみられ,血液中の肝線維化マーカーの上昇が認められた.一般にうっ血性肝硬変は,肝逸脱酵素の上昇をきたすことなく進行することがある.したがってFontan術後合併症としての肝病変を早期に発見し対処するためには,肝逸脱酵素のみならず肝線維化マーカーや腹部エコーなどによる評価も重要であると思われた.


【原著】
■題名
中枢神経症状を伴ったX連鎖劣性重症乳児型ミオチュブラーミオパチー
■著者
帝京大学医学部小児科1),同 病理2),自治医科大学神経内科3),国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部4)
疋田 敏之1)  森 庸祐1)  仲本 なつ恵1)  金子 衣野1)  藤井 靖史1)  藤田 靖子1)  福里 利夫2)  中野 今治3)  埜中 征哉4)  柳川 幸重1)

■キーワード
X連鎖劣性遺伝, 重症乳児型ミオチュブラーミオパチー, 精神遅滞, 病理所見, myotuburalin
■要旨
 11歳の精神遅滞を伴うX連鎖性劣性遺伝をとる重症型ミオチュブラーミオパチーの患児の剖検を行った.患児は2歳9カ月より単語,4歳6カ月で2語文,5歳10カ月では文章を話すようになり,6歳4カ月には家庭用テレビゲームで遊ぶようになった.10歳までは気管切開部のカニューレを自分で動かし,空気のリークを利用して会話をしていた.10歳6カ月より徐々に活動性が低下し,10歳9カ月でほとんど発語しなくなり,自発性低下を主訴に入院をしたが経過中に完全房室ブロックとなり死亡した.脳の病理所見では中心溝と見なされる脳溝の同定が困難であった.組織所見では大脳皮質に限局性の細胞脱落病変が認められ,病変の新旧も様々であった.小脳では,皮質の顆粒細胞が不規則に侵されていたが,Purkinje細胞は相対的に良く保たれていた.これらは,ミトコンドリア異常の神経病理所見に類似していた.延髄錐体はBodian染色では大径有髄線維が全く認められなかった.本症の中枢神経系での組織学的異常の報告はない.本症では先天的な変化に加え,進行性の変化が精神発達遅滞,活動性低下,知的退行の原因になっていると考えられた.


【原著】
■題名
ステロイド吸入療法を中止後に副腎不全に陥った超低出生体重児の1例
■著者
京都大学医学部発達小児科学
丹羽 房子  河井 昌彦  藤本 雄介  石原 温子  中畑 龍俊

■キーワード
フルチカゾン吸入, 副腎不全, 超低出生体重児, 慢性肺疾患, CRH負荷試験
■要旨
 症例は在胎24週4日,546 gにて出生した双胎第2子.出生後より呼吸管理し,慢性肺疾患の予防目的に日齢13よりフルチカゾン(100 μg×2回×7日→50 μg×2回)の吸入を開始した.日齢40に抜管を試みたが努力呼吸が持続し,3時間後に再挿管した.体重増加を待って抜管予定とし,長期投与中のステロイド吸入を日齢52より一旦中止した.その3日後より低血圧,乏尿,低ナトリウム血症が出現し,吸入再開後も改善しなかった.ドパミン,ドブタミン,ナトリウム製剤,アルブミン製剤の投与にも反応せず,日齢56にステロイド静注を行い改善をみた.日齢63に施行したCRH負荷試験では下垂体性副腎皮質機能低下を示した.ステロイドは日齢74に内服に変更し,日齢84に中止し得た.ステロイド吸入による副腎抑制の報告は過去にも見られるが,その投与量は自験例の5〜10倍と多量である.しかし,本症例のように1日量は多量でなくとも長期になると下垂体―副腎機能に抑制が働くと推測され,注意が必要である.超低出生体重児に対するフルチカゾン吸入は未だ使用経験が浅いため,今後その投与量,投与期間,中止方法など再考が必要と考えられた.


【原著】
■題名
食器用洗剤(水酸化カリウム溶液)の誤飲による腐食性食道炎の1例
■著者
愛知医科大学小児科
柴田 敦子  堀 壽成  北川 好郎  馬場 礼三  縣  裕篤  鶴澤 正仁

■キーワード
水酸化カリウム, 腐食性食道炎, 食道狭窄
■要旨
 水酸化カリウム溶液の誤飲により腐食性食道炎の後に食道狭窄を生じた1例を経験した.症例は5歳,男児.ペットボトルに入れてあった食器用洗浄液を誤飲し当科に入院となり,胃粘膜保護剤などの内服,ヒドロコルチゾンと抗生剤の投与などを行った.入院7日目の上部消化管内視鏡検査(GIF)で食道全体の広範な潰瘍と胃の巨大潰瘍を認め,H2ブロッカー・プロトンポンプ阻害剤(PPI)も追加したが,入院21日目に食道入口部の狭窄を認め,その後嚥下困難も進行したため拡張術目的にて他院小児外科へ転院となった.近年稀な小児の事故例として報告した.

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