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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:06.07.25)

第110巻 第7号/平成18年7月1日
Vol.110, No.7, July 2006

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総  説
1.

タンデム質量分析計による新生児代謝異常症マススクリーニング

重松 陽介  895
2.

食物アレルギー診療ガイドライン

向山 徳子,他  904
原  著
1.

小児期軽症クレチン症の成因に関与する尿中ヨードの検討

西山 宗六,他  912
2.

腸管出血性大腸菌による溶血性尿毒症症候群の中枢神経症状合併例の解析

古瀬 昭夫  919
3.

医療機関における子ども虐待データベースの構築

藤原 武男,他  926
4.

従来の乳幼児突然死症候群の約3分の1は他の死因である可能性がある

竹内 邦子,他  934
5.

PFAPA症候群の1例におけるサイトカインの経時的変動の解析

原 美智子,他  939
6.

Hurler病の1症例における酵素補充療法の効果

田中 あけみ,他  945
7.

四肢巨大血管腫における凝固異常の左右差とその臨床的意義

秋吉 健介,他  951
8.

SP-C遺伝子変異を有しハイドロキシクロロキンが著効した特発性間質性肺炎の乳児例

後藤 幹生  956
短  報

ASP-PCR法によるclarithromycin耐性Helicobacter pylori遺伝子の便からの検出

辻 知見,他  962

地方会抄録(新潟,京都,千葉,沖縄,佐賀,福岡,岡山)

  965
日本小児心身医学会報告

これまでの心の専門医養成研修と将来計画

  990

日本小児科学会理事会議事要録

  1001
Pediatrics International編集委員会からのお知らせ

オンライン投稿料の設定,及び写真作品の募集について

  1039

お知らせ

  1040

雑報

  1044


【原著】
■題名
小児期軽症クレチン症の成因に関与する尿中ヨードの検討
■著者
熊本大学医学部附属病院小児科1),獨協医科大学臨床検査医学2),田尻クリニック3)
西山 宗六1)  請園 なぎさ1)  菱沼 昭2)  田尻 淳一3)  木脇 弘二1)  中村 公俊1)  中村 俊郎1)

■キーワード
軽症クレチン症, subclinical hypothyroidism, 尿中ヨード, ヨード過剰摂取, 高TSH血症
■要旨
 軽症クレチン症の成因を検討するために経時的にヨード摂取量を反映する尿中ヨードを測定し,TSHおよび軽症クレチン症との関連を後方視的に検討した.クレチン症マススクリーニング(MS)精密検査時に高TSH血症と診断された28名の内,1年間に尿中ヨードが2回以上測定してある19名を対象とした.1歳時に無治療でTSHが5 μU/ml以上を呈した5名をA群,TSHが5 μU/ml以下を呈し,その後5.4 μU/ml以上に上昇した9名をB群,TSHが5 μU/ml以下を呈し,その後TSHの上昇が見られない5名をC群とした.A,B群はTRHテストに過剰反応し,C群は正常反応であった.1歳までの尿中ヨードの平均値はA群で53.1±35.6 μg/dl,B群で33.0±10.4 μg/dl,C群で14.2±5.4 μg/dlであり,A,B群の尿中ヨード排泄が有意にC群より高かった.A,B,C群の尿中ヨード排泄の平均値と1歳時のTSH値には有意の正の相関が見られた.一過性高TSH血症と見られている症例の内,大部分にTSHの再上昇が見られ,この成因にヨードの過剰摂取(尿中ヨード高値)が関与していると考えられた.


【原著】
■題名
腸管出血性大腸菌による溶血性尿毒症症候群の中枢神経症状合併例の解析
■著者
熊本中央病院小児科
古瀬 昭夫

■キーワード
腸管出血性大腸菌感染症, 溶血性尿毒症症候群(=HUS), 中枢神経症状, 脳症(HUS脳症)
■要旨
 単一施設における,HUSの中枢神経系合併症について解析した.平成2年から平成15年末までに経験した,HUS 45例中,6例(13.3%)に中枢神経合併症があった.痙攣を6例全例に認め,うち脳症は5例であった.6例中5例が3歳未満で,1歳代が3例であった.男女比は1:5で,女児が多かった.脳症は,乏尿・無尿の出現が早く,24〜48時間以内の早期に痙攣を合併してきた例に認め,4例がCAPDの導入を必要とした.脳症の画像診断は,脳浮腫1例,梗塞1例,大脳基底核病変1例,異常なし2例であった.梗塞,大脳基底核病変を呈した2例と異常なし1例の計3例が麻痺を残したが,2例は早期に改善した.HUSの脳症合併例に対する処置は,脳浮腫の軽減と脳血流の確保を基本とした支持療法を早めに施行していくことが必要と思われた.


【原著】
■題名
医療機関における子ども虐待データベースの構築
■著者
国立成育医療センターこころの診療部1),同 総合診療部2)
藤原 武男1)  奥山 眞紀子1)  石井 徹仁2)

■キーワード
子ども虐待, 医療機関, データベース, 虐待寄与因子, 虐待発見因子
■要旨
 医療機関において子ども虐待に関するデータ集積は少なく,虐待を発見するために必要な統計的根拠はこれまでほとんど示めされてこなかった.そこで,国立成育医療センターの虐待対策チーム(SCANチーム)において過去3年間に報告のあった虐待疑い症例(N=177)について虐待内容,虐待蓋然性の評価,問診項目,検査項目からなる子ども虐待データベースを後方視的に構築し,虐待蓋然性の高さと虐待寄与因子(虐待が発生することに対する子供,親,家族におけるリスク要因)および虐待発見因子(虐待を発見するための親の説明や検査所見等)の関係について定量的に分析した.虐待寄与因子および虐待発見因子の虐待蓋然性の高い症例に対する特異度が90%以上の問診項目および検査項目が17項目,陽性反応適中率が90%以上の項目が12項目あることがわかった.オッズ比が有意(p<0.05)であった項目は虐待寄与因子の1歳未満,3歳未満,基礎疾患の存在および虐待発見因子の「親の説明と検査所見の矛盾あり」であった.医療機関において虐待をこれまで以上に把握し,発見に有効な項目をさらに拡充するためには,今後今回構築した子ども虐待データベースをもとに,前方視的に解析する必要があると考えられた.


【原著】
■題名
従来の乳幼児突然死症候群の約3分の1は他の死因である可能性がある
■著者
東邦大学医学部第1小児科学教室
竹内 邦子  松裏 裕行  蜂矢 正彦  瀬川 昌巳  佐地 勉  月本 一郎

■キーワード
突然死, 乳幼児突然死症候群, 臨床診断, 剖検
■要旨
 乳幼児突然死症候群(SIDS)の発生頻度を剖検例のみから推測することを目的とした.方法は1983年4月1日から1998年4月30日に来院した2歳未満の来院時心肺機能停止例のうち剖検された44例を対象としてSIDSの頻度を調べた.結果:対象例44例中36例は臨床的に死因が全く不明,8例は病歴や検査所見から他疾患や外因死の可能性を否定し得ない症例であった.44例中12例は剖検によって疾患や外因が死因として明らかとなり,SIDSと診断せざるを得なかったのは23例(36例中22例,8例中1例)であった.死因と今回のデータを基にして米国のSIDSの定義に準じてわが国におけるSIDSの発生頻度を概算すると出生1,000人当り約0.26人と推測された.考案および結語:死因不明な乳幼児急死例の約1/3はSIDS以外の疾患によると推定された.剖検率が低く,剖検や死亡状況調査が不充分でも統計上はSIDSとされてしまうことがわが国のSIDS診断における問題点と考えられた.


【原著】
■題名
PFAPA症候群の1例におけるサイトカインの経時的変動の解析
■著者
佐世保共済病院小児科1),長崎大学医学部・歯学部附属病院小児科2)
原 美智子1)  岡 尚記1)  森内 浩幸2)

■キーワード
周期的発熱, 口内炎, 頸部リンパ節炎, PFAPA症候群, サイトカイン
■要旨
 今回我々は,11カ月頃より39〜40℃に及ぶ高熱が6〜11日間持続するエピソードを繰り返し,2歳9カ月までに11回の入院を必要とした男児を経験し,免疫学的検査および臨床経過よりPFAPA症候群と診断した.PFAPA症候群とはPeriodic Fever,Aphthous stomatitis,Pharyngitis,Adenitisの頭文字から名づけられた,5歳未満に発症する,発熱と少なくとも口内炎,咽頭炎,頸部リンパ節炎のいずれか1つを周期的に繰り返す症候群である.無熱期には完全に無症状となり,発育発達は正常である.原因や治療法は確立していないが数年の経過ののち自然治癒し,予後良好といわれている.
 本症の免疫病態の理解を深めるためにサイトカインの経時的変動を解析したところ,IL-1β,IL-6そしてIFN-γの著増と可溶性TNF受容体の軽度上昇を特徴とする,炎症性またはTh1タイプの応答が認められた.PFAPA症候群は小児期の周期性発熱の鑑別疾患において重要な疾患であり,その病因病態を解明するためにも今後さらに症例を蓄積し詳細に解析していくことが求められる.


【原著】
■題名
Hurler病の1症例における酵素補充療法の効果
■著者
大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学
田中 あけみ  澤田 智  藤岡 弘季  山野 恒一

■キーワード
ムコ多糖症I型, 酵素補充療法, Aldurazyme
■要旨
 13歳のHurler病の女児に,遺伝子組み換えヒトα-L-イズロニダーゼ(Aldurazyme)の0.58 mg/kg/weekを点滴投与投与し,1年間の観察を行って効果を評価した.
 臨床所見では,肝脾腫の改善および肝機能の正常化があり,巨舌も改善して努力性呼吸,騒音性呼吸が消失した.皮膚は滑らかになり,また,酵素投与後に伸びた頭髪は粗な性状が無く,滑らかな毛髪が生じてきた.手根骨のレントゲンで,石灰化の改善と骨年齢の成熟が認められた.心臓は,超音波上新たに大動脈弁閉鎖不全が出現した.呼吸機能では無呼吸低呼吸の頻度が減少した.ABRは不変であった.
 生化学的所見では,尿中ムコ多糖量(総ウロン酸量)は,酵素補充療法開始前は238 μg/mg Cr(正常:<50 μg/mg Cr)であったものが,酵素補充開始後2週間以内に速やかに56.4 μg/mg Crと低下した.その後も低値が続いたが,より低下することはなく正常よりやや高いレベルでほぼ横ばいであった.末梢単核球中のα-L-iduronidase活性は,酵素治療前にはゼロであったのが,酵素輸注後半日でほぼ正常下限にまで上昇した.投与1週間後においても活性値はゼロにはならず,正常平均値の約20%の活性を保っていた.


【原著】
■題名
四肢巨大血管腫における凝固異常の左右差とその臨床的意義
■著者
大分大学医学部脳・神経機能統御講座小児科学
秋吉 健介  末延 聡一  古城 昌展  半田 陽祐  是松 聖悟  泉 達郎

■キーワード
巨大血管腫, トロンビン―アンチトロンビン複合体(TAT), アスピリン, ジピリダモール
■要旨
 外科治療が困難な四肢巨大血管腫をもつ2例において,患側と健側の静脈から採血し,局所凝固異常の有無と抗凝固療法の有用性を検討した.
 局所の疼痛や運動障害などの臨床症状の増悪期に一致して,患側におけるトロンビン―アンチトロンビン複合体(TAT)と可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)が健側と比較して高値であった.フィブリン・フィブリノゲン分解産物-E(FDP-E)は常時健側,患側ともに高値であったが,増悪時に患側優位にさらなる上昇が認められたことから,患側局所に過凝固状態が生じ,二次線溶が亢進していることが示唆され確認した.また,アスピリンおよびジピリダモール投与により臨床症状は改善し,患側のTATおよびSFMCは正常化したことから,アスピリンとジピリダモールは血管腫における局所の過凝固状態に対する治療法として有用であることが示唆された.健側と患側静脈のTAT,SFMCの測定と,その対比は局所凝固異常の早期発見と,治療の有効性を判定する指標となりうることが示唆された.


【原著】
■題名
SP-C遺伝子変異を有しハイドロキシクロロキンが著効した特発性間質性肺炎の乳児例
■著者
市立岸和田市民病院小児科
後藤 幹生

■キーワード
特発性間質性肺炎, ハイドロキシクロロキン, サーファクタントプロテインC(SP-C), SP-C遺伝子, KL-6
■要旨
 体重増加不良を主訴とした月齢5の特発性間質性肺炎の男児を経験した.入院時,大気中での安静時の経皮酸素飽和度(SpO2)は60%前後であり,酸素投与下でプレドニゾロン2 mg/kg/日を4週間内服するも改善を認めなかった.ハイドロキシクロロキン10 mg/kg/日の内服を追加したところ,SpO2は2週間で80%に上昇し,8週間で95%となり胸部X線写真・CT画像ともに改善し,酸素投与を中止できた.間質性肺炎マーカーのうち,SP-A,SP-Dの下降は急速に始まり効果判定に有用であったが,KL-6の下降は緩徐であった.ハイドロキシクロロキンは11カ月目より減量中止したが,早期の再燃を認めていない.
 本例でサーファクタントプロテインC(SP-C)遺伝子を解析したところ,ヘテロのミスセンス変異を認め,49番目のアミノ酸が置換されていた.ハイドロキシクロロキンには肺胞II型上皮細胞でのSP-C生成抑制作用があり,本例では異常構造のSP-Cの生成を抑えることで,間質性肺炎が改善に向かった可能性がある.
 小児の特発性間質性肺炎例の中には,SP-C遺伝子変異による異常SP-Cを有しハイドロキシクロロキンが有効な一群が存在すると考えられる.特発性間質性肺炎例に対しSP-C遺伝子解析を行うことで,病因・遺伝相談・ハイドロキシクロロキンの有効性等の情報が得られる可能性があり,今後の症例の蓄積が待たれる.


【短報】
■題名
ASP-PCR法によるclarithromycin耐性Helicobacter pylori遺伝子の便からの検出
■著者
国保日高総合病院小児科1),和歌山労災病院小児科2),和歌山県立医科大学付属病院小児科3),
順天堂大学医学部小児科4),森永乳業栄養科学研究所5)
辻 知見1)  奥田 真珠美2)  林 寛子3)  坊岡 美奈3)  宮代 英吉2)  清水 俊明4)  新 光一郎5)  山内 恒司5)  吉川 徳茂3)

■キーワード
ASP-PCR法, clarithromycin耐性, Helicobacter pylori, 便
■要旨
 近年,小児におけるH. pylori除菌療法の不成功例が増加してきており,H. pyloriのCAM耐性による事が明らかとなってきた.我々はASP(Allele Specific Primer)-PCR法を用いて,耐性の原因となる23SrRNA点変異(A2142G,A2143G)を便を用いて検出した.結果:対象となったH. pylori患児10名では野生型4名,野生型+2142G変異の混合型が1名,野生型+2143G変異の混合型が5名で,ダイレクトシーケンス法とほぼ同様の結果であった.便を用いたASP-PCR法はCAM耐性H. pyloriの23SrRNA変異を検出する有用な方法である事が示唆された.

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