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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:05.11.09)

第109巻 第10号/平成17年10月1日
Vol.109, No.10, October 2005

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総  説

外表奇形の見方・考え方

近藤 達郎  1173
第108回日本小児科学会学術集会
  基調講演

「21世紀における社会保障と小児医療」―国民医療の将来像

唐澤 祥人  1187
  教育講演

わが国におけるHIV/AIDS医療の現状と課題

三間屋 純一  1192
原  著
1.

日本人におけるシスタチオニンβ合成酵素欠損症の遺伝子解析

勝島 史夫,他  1205
2.

Wilson病の保因者診断に関する研究

池田 周子  1211
3.

幼児・学童におけるインフルエンザワクチン効果

関 奈緒,他  1217
4.

慢性糸球体腎炎に合併した体位性蛋白尿様症状の発現機序についての検討

小柳 貴人,他  1225
5.

縦断的検討による女児の思春期の成熟と初経年齢の標準化

田中 敏章,他  1232
6.

高度の溶血性貧血をきたした低力価寒冷凝集素症の1例

諏訪 友子,他  1243
7.

B型肝炎父子感染キャリアとなった重症アトピー性皮膚炎児の1例

土井 悟,他  1247
短  報

乳児尿路感染症における髄液細胞数増多に関する検討

西崎 直人,他  1252

地方会抄録(滋賀,千葉,鹿児島,北陸,宮城,甲信,島根,福岡,埼玉,高知,徳島)

  1254
日本小児栄養消化器肝臓学会報告

小児期ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断,治療,および管理指針

加藤 晴一,他  1297
イーライリリー海外フェローシップ研修報告

ニューヨーク州立大バッファロー校におけるADHDの子どもと家族に対する包括的治療

山下 裕史朗  1301

小児科専門医臨床研修手帳」の発行に際して

  1308

医薬品・医療機器等安全性情報 No.217

  1309


【原著】
■題名
日本人におけるシスタチオニンβ合成酵素欠損症の遺伝子解析
■著者
東北大学大学院医学系研究科発生発達医学講座小児病態学分野1),鹿児島大学大学院医歯学総合研究科発生発達成育学講座小児発達機能病態学分野2),神戸市立中央市民病院小児科3),
大阪市立大学大学院医学研究科生殖発達医学大講座発達小児医学分野4)
勝島 史夫1)  坂本 修1)  勝島 由利子1)  中村 美保子2)  黒木 茂一3)  岡野 善行4)  飯沼 一宇1)  大浦 敏博1)

■キーワード
ホモシスチン尿症, CBS欠損症, 遺伝子解析
■要旨
 シスタチオニンβ合成酵素欠損症は常染色体劣性遺伝形式をとる先天性含硫アミノ酸代謝異常症であり,ホモシスチン尿症の原因の殆どを占める.その遺伝子解析は欧米人を中心になされており,既に130個以上もの病因変異が報告され,遺伝子型・表現型対応が検討されている.殆どの病因変異は各家系ごとのプライベート変異である一方,高頻度変異としてビタミンB6反応性を示すI278Tの他,ビタミンB6不応性のG307S,IVS11-2A>C,T191Mが知られている.しかし日本人をはじめ,非欧米人において充分な検討はなされていない.今回われわれは日本人CBS欠損症患者12家系13例について遺伝子解析を行い11種類のミスセンス変異(D35Q,A114V,R121C,R121H,G148R,G151R,S217F,H232D,
R266G,I278T,G347S),2種類のナンセンス変異(W43X,K441X),1種類の4塩基欠失(1591delTTCG)の計14個の変異を検出した.新たな変異はD35Q,W43X,G148R,S217F,H232D,R266Gであった.欧米人の高頻度変異でありビタミンB6反応性を示すI278T変異は2家系で見られ,日本人においてもビタミンB6反応性を示した.しかし,同様に欧米人の高頻度変異であるG307S,IVS11-2A>C,T191Mは検出されなかった.これらの結果より日本人のCBS欠損症の遺伝子変異は多様性に富み高頻度変異は存在しないと考えられた.


【原著】
■題名
Wilson病の保因者診断に関する研究
■著者
東邦大学医学部第2小児科学教室
池田 周子

■キーワード
Wilson病, セルロプラスミン, 保因者診断, ATP7B, 遺伝子解析
■要旨
 Wilson病の保因者診断は,臨床上極めて重要であるが難しい.筆者らは,明らかにWilson病と診断された者,保因者と思われる者および健常者の血清セルロプラスミン値,血清総および活性型セルロプラスミン値比を測定し比較検討を行った.また,Wilson病の家族について,原因遺伝子解析を行い,家族内検索を行った.Wilson病保因者の血清総および活性型セルロプラスミン値は患者と健常者の中間値を示した.総セルロプラスミン値と活性型セルロプラスミン値の比では若干の低下傾向を示した.しかし患者と同様な低値,あるいは基準値を示す例も存在した.家族内検索として遺伝子解析を行ったところ,活性型/総セルロプラスミン値比が高い値を示しても保因者である例があった.活性型/総セルロプラスミン値比の測定は保因者診断の一つの目安になると考えられるが,家族内検索として遺伝子解析が極めて有用であると結論した.


【原著】
■題名
幼児・学童におけるインフルエンザワクチン効果
■著者
新潟大学大学院医歯学総合研究科公衆衛生学分野1),佐渡市立両津病院小児科2),佐渡総合病院小児科3),新潟こばり病院小児科4)
関 奈緒1)  岩谷 淳2)  岡崎 実3)  中村 久乃3)  犬尾 成孝3)  鳥越 司3)  坂井 貴胤4)  鈴木 宏1)

■キーワード
インフルエンザワクチン, 乳幼児, 学童, 発病防止, 同居高齢者
■要旨
 目的:大規模離島における2001/2002シーズン,2002/2003シーズンの幼児・学童のインフルエンザワクチン接種状況とその発病防止効果および同居児のインフルエンザ発病と高齢者発病の関連について検討する.
 方法:対象は,新潟県佐渡島内の保育園・幼稚園および小学校に通園,通学中の全幼児・学童である(2001/2002シーズン5,910人,2002/2003シーズン5,721人).両シーズンともインフルエンザ流行期終了後の翌年度5月に園,学校を通じて,インフルエンザワクチン接種状況,インフルエンザ発病の有無,診断根拠等に関する調査票各児1通を保護者に配布し回収した.
 結果:ワクチン接種率は2シーズンで22.9%から27.8%と上昇していた.園児,学童におけるワクチン接種によるインフルエンザ様疾患発病の相対危険度はそれぞれ0.80,0.59(2001/2002),0.69,0.78(2002/2003)であり,いずれも有意に発病を防止していた.なお多重比較の結果,1回接種,2回接種間に発病率の有意な差は認めなかったが,接種なし,1回接種,2回接種と接種回数の増加に伴い,発病率が有意に減少していた.また児の発病による同居高齢者発病の相対危険度は6.76(2001/2002),3.28(2002/2003)と高かった(いずれもp<0.001).
 結語:園児・学童のワクチン接種は児本人のインフルエンザ発病抑制効果が明らかとなった.さらに,児のインフルエンザ様疾患発病と同居高齢者の発病が強く関連することが示された.


【原著】
■題名
慢性糸球体腎炎に合併した体位性蛋白尿様症状の発現機序についての検討
■著者
新潟大学大学院医歯学総合病院小児科
小柳 貴人  池住 洋平  鈴木 俊明  大久保 総一郎  内山 聖

■キーワード
体位性蛋白尿, 慢性糸球体腎炎, 尿中フィブリン・フィブリノゲン分解産物, 尿中γグロブリン
■要旨
 体位性蛋白尿(OA)は健康な児にもみられる予後良好な蛋白尿であるが,潜在性腎炎に高頻度に合併することが知られている.しかし,腎炎例にみられるOA症状の発現機序や原疾患との因果関係は明らかにされていない.今回我々は,OA症状以外に何らかの糸球体障害の所見を有する16例について検討を行い,腎炎例にみられるOA症状の発現機序について考察を行った.
 対象は,腎生検で診断が確定している10例と無症候性血尿の診断で経過観察中の6例の計16例(腎炎群)で,合併所見のないOAの14例を対照群とした.前弯負荷後の尿中蛋白分画,尿中FDP値について比較し,腎炎群の組織所見と併せて検討を行った.
 前弯負荷試験で両群ともに同様のOAパターンを認め,対照群では尿中γグロブリンおよびFDP値の著明な増加を認めた.腎炎群ではこれらの値は有意に低値であった.
 腎炎例に見られるOA症状は,対照例と同様に糸球体血流変化に起因するが,糸球体係蹄壁の構造異常が蛋白尿の発現機序に影響している可能性が示唆された.また,尿中蛋白分画およびFDP値の測定は,OA診断のための補助検査として有用と考えられた.


【原著】
■題名
縦断的検討による女児の思春期の成熟と初経年齢の標準化
■著者
国立成育医療センター臨床検査部1),東洋英和女学院小学部2)
田中 敏章1)  今井 敏子2)

■キーワード
初経年齢, 思春期, 思春期早発症
■要旨
 東京の私立の女子校生の1983年4月から1986年3月までに生まれた女子で小学校1年(6歳時)から中学3年(14歳時)まで経過観察できた226名を対象として,思春期の成熟と成長を検討した.
 思春期開始時,ピーク成長率時,初経年齢はそれぞれ9.49±1.09歳,10.88±0.89歳,12.24±0.93歳で,思春期開始が早いものが,思春期開始から初経までの期間が長い傾向にあった.この初経年齢は,成人身長や初経年齢のsecular trendが終了したこの時代において,標準値として用いても妥当な値と考えられた.
 思春期開始年齢は,6歳時のBMI(r=−0.405,p<0.0001)と有意な負の相関が認められ,6歳時のBMIが思春期の開始に影響を与えるということは,乳幼児期の栄養状態が思春期の開始にも影響を与えていることが示唆された.初経年齢を従属変数,6歳時身長・体重・身長SDS・BMIおよび思春期開始時年齢・身長・体重・身長SDS・BMIを独立変数として,ステップワイズ重回帰分析をおこなったところ,思春期開始時年齢,思春期開始時体重および6歳時体重が有意な因子として選択された(r=0.46,R2=0.21).しかし,脂肪組織が思春期に関与するレプチンを分泌しているという最近の研究の進歩を考えあわせると,体重よりも直接的には体脂肪量が,レプチンを介して思春期の開始や初経発来に影響を与えていると考えられる.
 思春期開始時から14歳時までの伸びは平均25.3±5.7 cmで,思春期開始が早いほど大きく遅いほど小さかった.また初経開始から14歳時までの伸びは平均6.6±3.4 cmで,初経開始が早いほど大きく遅いほど小さかった.これらのデータ,特に低身長群のデータは,成長障害の臨床において非常に有用である.


【原著】
■題名
高度の溶血性貧血をきたした低力価寒冷凝集素症の1例
■著者
京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学1),第二岡本総合病院小児科2)
諏訪 友子1)  森本 哲1)  千代延 友裕1)  太田 智和1)  角田 裕明2)  杉本 徹1)

■キーワード
低力価寒冷凝集素症, 溶血性貧血
■要旨
 症例は5歳の男児.下気道感染症状の発現10日後,高度の溶血性貧血を呈し入院した.寒冷凝集素価は256倍で,間接Coombs試験は25℃で陽性,寒冷凝集素吸収試薬による処理後血清では陽性反応は減弱した.直接Coombs試験は抗IgM血清と抗補体血清で陽性,Donath-Landsteiner(DL)抗体は陰性であった.以上から,低力価寒冷凝集素症と診断した.入院後,加温した濃厚赤血球の2日間の輸血をし,その後自然経過で改善した.なお,先行感染の病原体は特定し得なかった.小児の低力価寒冷凝集素の報告はきわめてまれである.本症は急性一過性の経過をたどることが多いため,その臨床像を明らかにするには診断につながる諸検査を発症早期に行う必要がある.


【原著】
■題名
B型肝炎父子感染キャリアとなった重症アトピー性皮膚炎児の1例
■著者
碧南市民病院小児科
土井 悟  会津 研二  山本 光章  野口 弘道

■キーワード
B型肝炎, キャリア, 水平感染, アトピー性皮膚炎
■要旨
 B型肝炎父子感染にてキャリアとなった重症アトピー性皮膚炎児の1例を経験した.現在12歳の患児は当時湿潤面を有するアトピー性皮膚炎に罹患しており,1歳以後2歳までにHBe抗原陽性の父親から家族内水平感染をきたしたと考えられた.父親がHBe抗原陽性キャリアであることは第1子出生以前から判っており,家族内での血液付着については注意が払われていた.父子のHBVは,塩基配列に99.5%の相同性がみられ,系統樹解析でもgenotype Cの同一ウイルスと考えられた.皮膚疾患を有しない母親,姉,兄は何れも不顕性感染の一過性感染であり,その違いとしてアトピー性皮膚炎を有する患児の乳幼児期のウイルス暴露量が多かったことが予想された.乳幼児のアトピー性皮膚炎患者を診療する際には,家族内のHBVキャリアの有無について十分な問診をとり,身近にキャリアが存在するようであれば,積極的に予防接種をおこなっていくことが必要と思われる.また家庭内にそのようなキャリアがいない場合であっても,特に乳幼児期早期保育を初めとする早い時期の集団生活が予定されている場合などには,起こり得るべき可能性について十分両親に説明をした上でワクチン接種を勧めていくことが望ましいと考えられる.


【短報】
■題名
乳児尿路感染症における髄液細胞数増多に関する検討
■著者
国際親善総合病院小児科1),順天堂大学浦安病院小児科2),順天堂大学医学部小児科・思春期科3)
西崎 直人1)  石川 明道1)  金子 一成2)  山城 雄一郎3)

■キーワード
乳児, 尿路感染症, 髄液細胞数増多
■要旨
 今回,我々は乳児尿路感染症と髄液細胞数増多の関係について検討した.6カ月未満のUTIと確定診断した乳児において,後方視的に入院時の髄液所見を検討したところ,尿培養検査と髄液検査を同時に施行していた15例中3例(20%)において「髄液中の有意菌の存在を伴わない髄液細胞数増多」が認められた.
 したがってUTIの乳児の髄液検査では細胞数増多は必ずしも細菌性髄膜炎の存在を意味するものではないことを念頭において過剰な抗生物質治療を厳に慎むべきであると思われた.近年,髄液中の肺炎球菌やインフルエンザ桿菌の抗原検出による迅速診断が可能となっているので可能な限りその所見も参考にすべきであろう.

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