学会雑誌


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:05.09.7)

第109巻 第7号/平成17年7月1日
Vol.109, No.7, July 2005

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日本小児科学会雑誌

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総  説
1.

進行性腎炎におけるβ1インテグリンファミリーの役割―細胞生物学的アプローチによる糸球体病変の解析―

香美 祥二  795
2.

糸球体上皮細胞関連蛋白と遺伝性ネフローゼ症候群

中西 浩一,他  805
3.

小児クローン病治療指針案

今野 武津子,他  815
原  著
1.

右室低形成を伴う純型肺動脈閉鎖・肺動脈狭窄症に対する治療戦略

片岡 功一  821
2.

血友病Aの2歳児に発症した急性横断性脊髄炎の臨床経過と髄液サイトカイン値の推移

成相 昭吉,他  830
3.

難治性川崎病に合併した高度難聴の1例

松田 文子,他  834
4.

視力障害を呈した広東住血線虫による好酸球性髄膜脳炎

福島 啓太郎,他  839
5.

HHV-6感染に伴う急性小児片麻痺罹患後数年で発症したもやもや病様疾患の1例

木村 清次,他  845
短  報
 

新規に遺伝子変異を認めた不完全型アンドロゲン不応症の超低出生体重児例

田原 昌博,他  848

地方会抄録(北海道,大分,和歌山,東京,千葉,熊本,栃木,北陸,沖縄,福岡)

  851

委員会報告 日本小児科学会倫理委員会

  933

日本小児科学会理事会議事要録

  940

試験運営委員会からのお知らせ

  972

お知らせ

  972

雑報

  974

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【原著】
■題名
右室低形成を伴う純型肺動脈閉鎖・肺動脈狭窄症に対する治療戦略
■著者
岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学,トロント小児病院循環器科
片岡 功一

■キーワード
肺動脈閉鎖, 右室低形成, 右室overhaul, 2心室修復術, カテーテル治療
■要旨
 右室低形成を伴う重症肺動脈閉鎖・肺動脈狭窄(PA/IVS)例で,2心室修復術(BVR)を目指す治療戦略を検討した.対象と方法:過去9年間に当施設で治療されたPA/IVS例中,右室拡張末期容積(RVEDV)が対正常値50%未満かつ三尖弁輪(TV)径が同70%未満の9例(肺動脈閉鎖6例,肺動脈狭窄3例)を対象とした.段階的に,(1)経肺動脈的肺動脈弁切開術+Blalock-Taussig shunt(BTS),必要に応じて(2)バルーン肺動脈弁形成術(BPV),(3)右室overhaulの後(4)BVRを行い,RVEDV,TV径変化から右室発育を検討した.結果:9例中8例がBVR,1例がFontan手術に到り根治術後平均観察期間6年で全例生存している.初回手術後6例でBPVによる段階的右室減圧を行った.BVR施行の8例では(1),(2)の段階でRVEDV,TV径平均値はそれぞれ対正常値28%から51%(p=0.0123),54%から61%(p=0.0229)と有意に増加した.右室overhaulは4例に施行した.(3),(4)の段階でRVEDV,TV径平均値はそれぞれ対正常値51%から76%(p=0.0485),61%から73%(p=0.0400)と有意に増加した.右室overhaul施行の3例で心カテーテル検査時に心房間交通とBTSのバルーン閉塞試験を行い,著しい右房圧上昇がないことを確認した.6例に右室―冠動脈瘻を認めたが経過中全例で縮小した.結論:低形成右室を発育させBVRを目指すには早期の順行性血流確保,段階的右室減圧の治療戦略が重要と思われた.

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【原著】
■題名
血友病Aの2歳児に発症した急性横断性脊髄炎の臨床経過と髄液サイトカイン値の推移
■著者
横浜南共済病院小児科1),横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学2)
成相 昭吉1)  小林 慈典2)  石田 華1)  藤田 秀次郎1)  菅井 和子1)  鏑木 陽一1)  池部 敏市1)  横田 俊平2)

■キーワード
急性横断性脊髄炎, 髄液サイトカイン, 脱髄, メチルプレドニゾロン, パルス療法
■要旨
 急性横断性脊髄炎(ATM)を発症した血友病Aで治療,観察中の2歳男児例を経験した.患児は誘因なく突然の発熱と腹痛で発症し,第2病日に歩行障害と排尿障害を来たし入院となった.導尿にも痛がらず,腰部以下の痛み刺激への反応はなかった.脊髄MRIでは異常所見を認めなかったが,障害部位はTh10と推測した.髄液検査で細胞数増多と蛋白増加を認めたためATMと診断し,メチルプレドニゾロン(mPSL)によるパルス療法を開始したところ奏功し症状は改善した.
 入院時の髄液ミエリン塩基性蛋白(MBP)は高値であった.また,これまで報告のない髄液サイトカイン値を調べたところ,入院時のIL-6,IL-8およびIL-1βは高値であったが,これらはmPSLパルス療法1クール終了後に髄液細胞数およびMBP値と同期して速やかに低下した.
 以上より,本症例では突然脊髄神経髄鞘に炎症と脱髄を生じたが,mPSLパルス療法の導入により速やかに炎症が抑えられ,病像の増悪・進展が抑止されたと考えられた.

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【原著】
■題名
難治性川崎病に合併した高度難聴の1例
■著者
荻窪病院小児科1),都立清瀬小児病院循環器科2)
松田 文子1)  木内 英1)  菅谷 明則2)  葭葉 茂樹2)  花房 秀次1)

■キーワード
川崎病, 難聴, ステロイドパルス療法
■要旨
 川崎病に持続性の高度難聴を合併した症例を報告する.症例は3歳11カ月女児で,40度以上の熱,高度頸部リンパ節腫脹,潰瘍・疼痛を伴う口腔粘膜所見,一部小水疱を伴う全身の紅斑を認めた.第5病日,第10病日にそれぞれ免疫グロブリン(2 g/kg)を投与したが下熱せず,第19病日からステロイドパルス療法を開始した.しかし,1回目のメチルプレドニゾロン投与後,急速な下熱とともに突然話し掛けに反応しなくなった.意識は清明で,心電図,頭部MRI,心エコーで異常なく,聴性脳幹反応で両側とも100 dBに無反応で難聴と診断された.第22病日に3回目の免疫グロブリン投与後下熱した.経過中,一過性の心嚢液貯留を認めたが冠動脈病変は認めなかった.難聴に対して,ステロイド静注治療を2クール行い聴力はやや改善を認めたものの(平均聴力レベルが発症1カ月後右86 dB左55 dB,7カ月後右68 dB左53 dB)中等度難聴が続き,発病4カ月後から補聴器を装着している.
 これまで,川崎病に難聴を合併する症例の報告は我が国では少ないが,海外でのprospective studyでは,高率(30〜40%)に難聴を認めている.この相違から川崎病は主に乳幼児が罹患するため難聴が見逃されている可能性も否定できない.今後難聴成因の究明も併せて,川崎病患児に対する聴力検査の大規模なprospective studyが必要である.

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【原著】
■題名
視力障害を呈した広東住血線虫による好酸球性髄膜脳炎
■著者
長野県立こども病院血液・腫瘍科1),同 総合診療科2),伊那中央病院小児科3)
福島 啓太郎1)  石井 栄三郎1)  倉田 研児1)  三木 純1)  藪原 明彦3)  川合 博2)

■キーワード
広東住血線虫, 好酸球性髄膜脳炎, 白質脳炎, 視力障害, 副腎皮質ステロイドホルモン薬
■要旨
 症例は1歳女児.フィリピン滞在中に発熱し,その後原因不明の発熱が1カ月以上続くため入院した.発症から5週後に全く追視がみられなくなり,急速に視力障害が現れてきた.頭部MRIで左右対称性に側脳室後角部の白質にT2強調像およびFLAIR像で高信号の炎症所見が認められた.髄液検査では蛋白68 mg/dl,糖16 mg/dlで,細胞数が600/μlと増加し,その33%が好酸球であった.血清および髄液の抗寄生虫抗体の検索から広東住血線虫症と診断した.メチルプレドニゾロンパルス療法とその後のプレドニゾロン投与により速やかに解熱し,視力も回復し,MRIでも脳炎所見が改善した.副腎皮質ステロイド療法終了後,症状の再燃はみられないが,髄液検査値の正常化には発症から7カ月間を要した.
 頭部MRIでみられた病変部は両側の視放線に一致しており,これが視力障害の原因と考えられた.病変部が左右対称性で,髄液中のミエリン塩基性蛋白が上昇していたことや副腎皮質ステロイドホルモン薬が著効したことなどから,虫体の直接進入によるものではなく,免疫反応を介した二次性の白質脳炎と考えられた.

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【原著】
■題名
HHV-6感染に伴う急性小児片麻痺罹患後数年で発症したもやもや病様疾患の1例
■著者
横浜療育医療センター小児科,小児神経科
木村 清次  斎藤 義朗

■キーワード
もやもや病, もやもや症候群, 脳炎, HHV-6
■要旨
 ヒトヘルペスウイルス(HHV)-6感染に伴う急性小児片麻痺罹患の数年後に発症したもやもや病様疾患の1例を報告した.急性小児片麻痺発症の約1カ月後のmagnetic resonance angiography(MRA)はウイリス動脈輪の閉塞やもやもや病変は認めなかったが,脳血管全体の狭小化が存在した.約6年後に頭痛が頻発しMRAで典型的なもやもや病変が確認された.もやもや病は多因子遺伝が考えられているが,他の疾患でもやもや病変がみられることもある(もやもや症候群).しかし,HHV-6の中枢神経感染に伴ってもやもや病変がみられた報告は本例が初めてと思われる.HHV-6は稀に脳炎を発症し,その形態は血管炎が想定される例が多い.本例も中枢神経の血管障害で発症しており,この結果ウイリス動脈輪の閉塞ともやもや病変が形成された可能性がある.

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【短報】
■題名
新規に遺伝子変異を認めた不完全型アンドロゲン不応症の超低出生体重児例
■著者
倉敷中央病院小児科
田原 昌博  松本 亜沙子  北 誠  豊田 直樹
横山 宏司  石崎 裕美子  澤田 真理子  井田 鈴子
西 有子  美馬 隆宏  由良 和夫  西田 吉伸
藤原 充弘  渡部 晋一  脇 研自  桑門 克治
新垣 義夫  馬場 清

■キーワード
アンドロゲン不応症, アンドロゲン受容体遺伝子, 遺伝子変異, 外性器異常, 超低出生体重児
■要旨
 症例は在胎27週4日で出生した超低出生体重児.性別判定が困難でありFISH法でXYを確認した.アンドロゲンレセプター遺伝子解析でエクソン1のコドン55―57に遺伝子変異を認め,臨床症状と合わせて,不完全型アンドロゲン不応症と診断した.この部位での変異は報告例がなく,新たな遺伝子変異と考えた.性別決定は児の一生の問題であり,早期に適切な選択を行うことが重要である.超低出生体重児であることから,より慎重な対応を要したが,最終的に男児として養育することとなった.将来的に生殖機能障害・女性化乳房等も問題となることが予想され,今後も定期的な経過観察が必要である.

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