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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:04.07.27)

第108巻 第6号/平成16年6月1日
Vol.108, No.6, June 2004


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総  説
1. 20歳を過ぎた慢性疾患を持ったキャリーオーバーの患者さんと家族
後藤 彰子 843
2. 今の子どもにみられる運動習慣と健康障害
松岡 優 850
原  著
1. 気管支喘息急性発作時のβ2刺激薬反復吸入に関する検討
伊藤 浩明,他 854
2. West症候群の死亡に関する臨床的検討
浜野晋一郎,他 859
3. 過去20年間に当院で経験した被虐待児50例の臨床像と転帰
橋本 卓史,他 864
4. 注意欠陥/多動性障害と診断されていた被虐待児の3症例
古荘 純一,他 870
5. 丘疹,紫斑で発症し,real-time PCR法によりウイルス量の変動を観察しえたヒトパルボウイルスB19感染症
高野 忠将,他 874
6. フィリピンより帰国後に巨大結腸を呈し腸チフスと診断された6歳女児例
李  権二,他 878
7. Cine MRIが確定診断に有用であった無名動脈圧迫症候群の1例
杉本 昌也,他 882
小児医療
文部科学省局長通知後の教育委員会の予防接種に対する対応について
松永 貞一
887
地方会抄録
(沖縄,佐賀,福岡,北陸)
892
日本小児科学会理事会議事要録
906
雑報
947
投稿規定(和文,欧文)


【原著】
■題名
気管支喘息急性発作時のβ2刺激薬反復吸入に関する検討
■著者
あいち小児保健医療総合センターアレルギー科1),中部労災病院小児科2),
名古屋掖済会病院小児科3),名古屋大学大学院医学研究科小児科学4)
伊藤 浩明1)  山田 政功2)  伊藤 和江3)  坂本 龍雄4)
■キーワード
気管支喘息,吸入療法,交感神経β2刺激薬
■要旨
 「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2002」では,気管支喘息発作において,初回β2刺激薬吸入が効果不十分な場合に「β2刺激薬吸入は20〜30分後に反復可能」と記載されている.しかし,名古屋に於ける我々のアンケート結果では,現在でもβ2刺激薬反復吸入を躊躇する小児科医は多い.本研究では,ガイドラインに基づいた反復吸入の有効性と安全性を検証するために,多施設コントロールスタディーを施行した.喘息の小発作・中発作で受診した34名を封筒法によってβ2刺激薬反復群(19名,平均年齢7.8±3.0歳)と対照群(15名,7.1±3.6歳)に振り分け,初回β2刺激薬の効果不十分であった28例について比較検討した.2回目吸入後に軽快・帰宅できた割合は,反復群で16例中11例(68.8%)であり,対照群12例中3例(25.0%)と比較して有意な改善が認められた.呼吸症状スコア,ピークフロー,SpO2も,反復群で有意な改善が認められた.反復吸入に伴う副作用は認めなかった.以上より,ガイドラインに準じたβ2刺激薬反復吸入は安全かつ有効であり,急性発作時に点滴を回避して患児のQOL向上が期待される可能性が示唆された.


【原著】
■題名
West症候群の死亡に関する臨床的検討
■著者
埼玉県立小児医療センター神経科1),同 保健発達部2),東京慈恵会医科大学小児科3)
浜野晋一郎1)3) 望月 美佳1)3) 田中  学1)  山下進太郎1)
南谷 幹之2)3) 齋藤 美香1)  衞藤 義勝3)
■キーワード
ACTH療法,West症候群,死亡,合併障害,点頭てんかん
■要旨
 West症候群200例の診療記録から,死亡を確認できた症例を抽出しその臨床像を検討した.死亡が確認できた症例は29例で,死亡原因は16例(55.2%)で感染症,8例(27.6%)では原因不明だった.また,原因不明のうち7例は自宅で死亡していた.けいれん重積などでけいれん発作と関連した死亡は確認できなかった.10例(34.5%)は3歳未満に死亡し,22例(75.9%)は6歳未満で死亡していた.死亡を確認できなかった非死亡例171例と比較して死亡例ではてんかん発症年齢が低く,先行発作または難聴を有する例,出生前病因例,重度知能障害合併例の比率が高かった.累積生存率は先行発作と難聴の有無,病因,知能障害によって差を認めた.ACTH療法中,および終了1カ月以内に死亡または死亡原因を発症した症例が4例いた.これら4例はいずれもACTHの投与量が0.015mg/kg/day以上であり,ACTHの投与量を0.0125mg/kg/dayに減量した1996年以降はACTH療法との関連が疑われる死亡例はいなかった.副作用の観点からはACTHの投与量は0.015mg/kg/day未満が好ましいと思われた.West症候群の死亡例はけいれん重積などけいれん発作に関連することはまれで,多くは出生前要因で重複障害を有した症例において感染症が原因になっていた.


【原著】
■題名
過去20年間に当院で経験した被虐待児50例の臨床像と転帰
■著者
東邦大学医学部第一小児科学教室1),瀬川小児神経学クリニック2)
橋本 卓史1)  星野 恭子1)2) 麻生 敬子1)
伊藤 祐佳1)  竹内 邦子1)  長谷川 慶1)
徳山 美香1)  渡辺 美砂1)  月本 一郎1)
■キーワード
児童虐待,被虐待児,虐待死,子育て支援
■要旨
 20年間に当院で経験した被虐待児50例の臨床像について後方視的に検討した.患者の受診時年齢分布は日齢15日から12歳0カ月,経過を追った最終観察時の年齢は1歳から27歳,性別は男児17例,女児33例であった.虐待の種類は,身体的虐待38例,養育拒否・怠慢8例,心理的虐待2例,性的虐待2例であり,34例が救急外来を受診し,うち9例が来院時心肺機能停止の状態であった.転帰は12例が死亡し,7例が重篤な後遺症を残した.死亡した12例中7例は剖検所見の記載により児童虐待と診断された.生存している38例中27例で現在の生活(自宅19例,親戚宅5例,児童福祉施設3例)を確認することができた.50例中8例で虐待が繰り返され,この中に死亡した2例が含まれた.虐待の再発を防止するために養育者の決定は慎重に行わなければならない.医師と保健福祉施設,児童相談所等との連携が重要と考えられた.


【原著】
■題名
注意欠陥/多動性障害と診断されていた被虐待児の3症例
■著者
青山学院大学文学部教育学科1),川崎市立川崎病院精神神経科2),松戸クリニック3)
古荘 純一1)  久場川哲二2)  丸山  博3)
■キーワード
注意欠陥/多動性障害,虐待,メチルフェニデート,カウンセリング,学習障害
■要旨
 乳幼児期に被虐待体験があり,幼稚園や小学校で出現した多動症状により,教師,スクールカウンセラーや小児科医に注意欠陥/多動性障害(AD/HD)と診断され,カウンセリングやメチルフェニデート投薬などの治療を受けた3例を報告した.AD/HDは行動評価をもとにした臨床診断名であり,AD/HDの小児に見られる多動・衝動性と被虐待児の多動・衝動性は臨床症状で区別することが難しいのは事実である.しかし,AD/HDは,近年の研究で,遺伝・前頭前野の機能障害・周産期の脳損傷,などに基づく自己抑制の発達障害と指摘されている.虐待などの環境因子による行動異常とは明確に異質なものである.AD/HDが不適切な養育を引き起こすことはあるが,今回我々が提示した3症例は,虐待が多動・衝動性の誘因となったものである.それぞれの症例について,本人の成育歴や家族背景を十分に把握し,その症状の発現時期や病態を察知し治療的対応を行い,その対応により子どもの行動面や家族の不安の改善がみられることについて言及した.以上より多動性・衝動性という臨床症状のみで安易にAD/HDと診断することに注意を促したいと考え報告する.


【原著】
■題名
丘疹,紫斑で発症し,real-time PCR法によりウイルス量の変動を観察しえたヒトパルボウイルスB19感染症
■著者
昭和大学横浜市北部病院こどもセンター1),埼玉県立小児医療センター放射線部2)
同感染免疫科3),昭和大学藤が丘病院小児科4)
高野 忠将1)  荒井  孝2)  大石  勉3)  曽我 恭司1)
野中 善治1)  板橋家頭夫1)  山田耕一郎4)
■キーワード
パルボウイルスB19,伝染性紅斑,real-time PCR,丘疹,紫斑
■要旨
 大腿,体幹,間擦部に集簇する丘疹,紫斑で発症し,それらの症状が消失した後の第24病日に伝染性紅斑を発症したヒトパルボウイルスB19(PVB-19)感染症を経験した.発症時からreal-time PCR法により血清中のPVB-19 DNA量を測定し,伝染性紅斑の発疹が出現するまでの経時的変化から,パルボウイルス感染症における血清ウイルス量と発疹出現の関係について考察した.
 PVB-19 DNAは丘疹の出現時が最も高値で,伝染性紅斑の時期の107倍であった.PVB-19 IgMの抗体価は丘疹出現時が3.63で,伝染性紅斑の時期は7.44と上昇していた.このことから伝染性紅斑の皮疹は,PVB-19による直接浸潤だけではなく,免疫複合体による血管障害が関与しているものと推測される.

【原著】
■題名
フィリピンより帰国後に巨大結腸を呈し腸チフスと診断された6歳女児例
■著者
亀田総合病院小児科
李  権二  宇津木忠仁  岩瀬 真弓  熊谷 忠志
■キーワード
腸チフス,輸入感染症,2類感染症,腹部骨盤CT
■要旨
 厚生労働省が2類感染症に指定している腸チフスは,汚染された食品や水を介して感染する.本邦では衛生環境の改善に伴い発生は激減しており,臨床現場で腸チフスを経験することは稀となってきた.しかし,東南アジア,南アジアの発展途上国においてはいまだcommon diseaseである.我々は,母親がフィリピン人であり,1カ月間の里帰りでフィリピンを訪れ,帰国したあとに腸チフスを発症した6歳女児を経験した.腸チフスにおいて血液培養が診断に重要で,初期には便培養が陰性のこともあり,本症例においても初回の便培養で腸チフス菌が検出されず診断に難渋した.さらに,腸チフスを始めとした新興・再興感染症は,国際化にともない日本で今後増加する可能性がある.今後,初期治療に携わる一般小児科医は発展途上国でのcommon diseasesを熟知しておくことが求められてくる.


【原 著】
■題名
Cine MRIが確定診断に有用であった無名動脈圧迫症候群の1例
■著者
旭川医科大学小児科1),市立稚内病院小児科2)
杉本 昌也1)  梶野 浩樹1)  津田 尚也1)  真鍋 博美1)
森  喜子2)  小久保雅代2)  鈴木  豊2)  藤枝 憲二1)
■キーワード
無名動脈圧迫症候群,cine MRI,吸気性喘鳴
■要旨
 Cine MRIにより,無名動脈圧迫症候群の確定診断を得た例を経験した.症例は吸気性喘鳴を主訴とする1歳6カ月男児.大血管転位のため新生児期にJatene手術を受けた.その後みられた吸気性喘鳴の原因検索として,胸部CT,気管支鏡検査,Cine MRIを施行した.胸部造影CTでは無名動脈が気管の前方を走行している所見が得られたが,圧迫の有無までは評価できなかった.気管支鏡では,気管分岐部から2cm上方で気管が前方より圧迫され,血管拍動を伴っている所見を認め,喘鳴の原因が無名動脈圧迫症候群であると診断できた.さらに施行したCine MRIにより気管が無名動脈により前方から圧迫され狭窄している様子を明瞭に示す動画が得られた.吸気性喘鳴の鑑別診断に本症候群も考慮するべきであると思われ,その際Cine MRIは気管支鏡に代わる非侵襲的かつ有用な手段であると考えられた.


【小児医療】
■題名
文部科学省局長通知後の教育委員会の予防接種に対する対応について
■著者
永寿堂医院
松 永 貞 一
■キーワード
学校保健法施行規則,ワクチン接種率,ワクチン未接種者,就学時健診,事後措置
■要旨
 平成14年3月29日に文部科学省より「学校保健法施行規則の一部改正等について(通知):13文科ス第489号」が出された.これにより,就学時に予防接種歴を調査し未接種者には積極的に勧奨し,その事後措置を講ずることが明文化された.この通知後約1年経過した時点で,県,県庁所在都市,都下の計156の教育委員会に,アンケートを行いこの通知に対する各教育委員会の通知後の対応を調査した.57.1%の教育委員会から回答を得たが,その結果からは,本通知は十分に認知されているとは言い難かった.また事後措置の一環として予防接種の勧奨をしていると明確に回答した教育委員会は全体の16.7%であった.小児のワクチン接種率向上,ならびに小児の健康増進と円滑な教育行政のために,通知が出た今,教育委員会をはじめ,学校現場,学校医,小児科関係者ならびに小児科関係団体などは,本通知の周知徹底とその実施遂行が急務であると考える.


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