gakkaizashi

 


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:01.03.05)

第105巻 第2号/平成13年2月1日
Vol.105, No.2, February 2001

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

総 説
インフルエンザ、最近の話題
小倉 英郎 73
原 著
1.入院治療を要した重症アトピー性皮膚炎患者の特徴
大屋 恵子,他 81
2.抱水クロラール及びトリクロリールによる甲状腺ホルモン高値について
宮地  幸,他 88
3.熊本市の学校検尿による糖尿病スクリーニング―24年間の成績と問題点―
木脇 弘二,他 94
4.2種類のインフルエンザ迅速診断キットの比較検討
原 三千丸,他 100
5.新生児大動脈縮窄に対する経皮的バルーン拡張術―透視下大腿動脈穿刺法の有用性―
内山  温,他 104
6.先天性副腎過形成症の新生児マス・スクリーニング―17-OHP試薬キットにおける陽性基準の設定―
山下 啓子,他 111
7.3次元Contrast-Enhanced Magnetic Resonance Angiographyが診断に有用であった乳児Scimitar症候群の1例
中川万樹生,他 119
8.3次元Contrast-Enhanced Magnetic Resonance Angiographyが診断に有用であった乳児Scimitar症候群の1例
南部 光彦,他 123
9.骨髄移植後の肝中心静脈閉塞症の診断と経過観察に超音波パルスドプラ法が有用であった1例
森本 高広,他 127
論 壇
小学校における校医の責務と権限の問題点 131
地方会抄録
(北日本,埼玉,東海,新潟,香川,京都,福岡,滋賀,北陸,富山,北海道)
(135)
日本小児科学会理事会議事要録 (210)
会費納入に係るお願い (214)
認定医にゅーす No.35・No.36 (215)
お知らせ (216)
雑報 (217)


【原著】
■題名
入院治療を要した重症アトピー性皮膚炎患者の特徴
■著者
静岡県立こども病院感染免疫アレルギー科
大屋 恵子 木村 光明 山出 晶子
鶴田  悟 吉田 隆実
 
■キーワード
アトピー性皮膚炎,入院治療,予後,性差,発症年齢
■要旨
 多くのアトピー性皮膚炎(AD)患者が小児科で治療されているが,入院治療についての情報は少ない.今回われわれは1987年から1999年の12年間に当科で入院治療した重症AD患者91名(男46名,女45名)の臨床的特徴や予後について検討した.91名のうち50名は当科外来で治療中の患者であり,41名は院外から紹介され入院した患者であった.延べ入院回数121回(男61回,女60回)の平均入院時年齢は5.4±4.4歳であったが,女児の方が6.3±4.3歳と男児の4.5±4.4歳より有意に高かった(p<0.05).ADの発症時期が記録されていた90名のうち73名(81.1%)は生後6カ月以内の発症であった.重症ADの発生予防のためには乳児期からの対策が必要であることが示唆される.91名のうち71名(78.0%)は1回の入院であり,85名(93.4%)が2回までの入院であった.退院後6カ月以上経過し予後の明らかな68症例のうち59例(86.8%)で症状改善が持続していた.入院治療は多くの症例に症状の持続的改善をもたらす効果があり,重症AD患者の治療法として有用と思われる.


【原著】
■題名
抱水クロラール及びトリクロリールによる甲状腺ホルモン高値について
■著者
都立多摩療育園小児科1),同 精神科2)
宮地  幸1) 川崎 葉子2) 篠崎 昌子1)
■キーワード
抱水クロラール,トリクロリール,発達障害,甲状腺機能異常,甲状腺ホルモン高値
■要旨
 我々は,睡眠脳波検査の目的で抱水クロラール(CH)ないしトリクロリール(TC)を服用した患者の甲状腺ホルモンが高値を示すことをしばしば経験したため,CH及びTCが甲状腺ホルモンにどのような影響を与えるかを検討した.CHないしTCを服用した発達障害児(服用群)52人と,薬剤を全く服用していない発達障害児(コントロール群)9人のTSH及び甲状腺ホルモン値を比較した.TSHには有意差がなかったが,FT3,T4,FT4は服用群が有意に高かった(p<0.001).ボランティア2人のCH服用前後のTSH,甲状腺ホルモン,TBGを測定した.FT3,T4,FT4は服用15分後に上昇した.TSHは服用後 2 時間は変化なく,24時間後に前値の約50%に低下した.これらの所見は,CH及びTCが甲状腺ホルモン値を上昇させることを示唆するものであるので,CHないしTCを服用した患者の甲状腺ホルモン値を解釈する際に,留意が必要であると思われた.


【原著】
■題名
熊本市の学校検尿による糖尿病スクリーニング―24年間の成績と問題点―
■著者
熊本大学医学部小児科学教室1),
熊本市医師会ヘルスケアセンター学校検尿班2)
木脇 弘二1) 西山 宗六1)2) 服部新三郎2)
赤星  泉2) 原口 洋吾2) 遠藤 文夫1)
■キーワード
学校検尿,糖尿病スクリーニング,インスリン依存性糖尿病,インスリン非依存性糖尿病
■要旨
 熊本市の学校検尿による糖尿病スクリーニングについて1975年度以降24年間の成績を検討した.スクリーニングは尿糖50mg/dlをカットオフ値として一次検診,二次検診とも陽性の者を三次検診の対象とし,経口糖負荷試験で糖尿病型,境界型を判定した.三次検診対象者のスクリーニング受診者数全体に対する割合は小学生0.030%,中学生0.070%,高校生0.081%,合計0.044%であった.スクリーニングによる10万人/年当たりの発見率はインスリン依存性糖尿病(IDDM)1.24人,インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)1.54人であった.他の地域で報告されているNIDDMの経年的な増加傾向はなかった一方,IDDMの発見者数が経年的に増加している傾向が見られたが統計学的有意差はなかった.10万人/年当たり2.25人が糖尿病境界型と診断され,学校検尿陽性者に対する追跡システムの確立が重要と思われた.


【原著】
■題名
2種類のインフルエンザ迅速診断キットの比較検討
■著者
原小児科
原 三千丸
■キーワード
インフルエンザウイルス,迅速診断キット,ウイルス分離
■要旨
 2種類のインフルエンザ迅速診断キットディレクティジェンFlu A®とインフルエンザOIA®の比較検討を行なった.1999/2000シーズンに,4病日以内に来院しインフルエンザを疑われた小児を対象とした.吸引鼻汁を検体として,ウイルス分離,PCRによるインフルエンザウイルス遺伝子の検出,迅速診断試験を行なった.なお,迅速試験に際しては,鼻汁に遠心操作を加えて,その上清を最終検体とした.
対象患児91例中,67例よりインフルエンザウイルスが分離された(Aソ連型43例,A香港型23例,C型1例).A型66例に対するディレクティジェンFlu Aの,感度,特異度,一致率は,98.5%,100%,98.9%であった.インフルエンザOIAのそれは,95.4%,100%,96.7%であった.なお,インフルエンザの分離培養とPCRの結果は,陽性例(C型を除く),陰性例とも完全に一致した.


【原著】
■題名
新生児大動脈縮窄に対する経皮的バルーン拡張術―透視下大腿動脈穿刺法の有用性―
■著者
島根医科大学小児科1),大田市立病院小児科2)
内山  温1) 羽根田紀幸1) 田坂  勝1) 田村 良香1)
村田 幸治1) 瀬島  斉1) 宮本 聡美2) 山口 清次1)
■キーワード
新生児,大動脈縮窄,経皮的バルーン拡張術
■要旨
 動脈管開存(PDA)を合併した新生児未手術大動脈縮窄(native CoA)4症例に対して経皮的バルーン拡張術を施行した.大腿静脈造影下に大腿静脈穿刺を施行し,PDA経由でガイドワイヤーを大腿動脈まで進め,透視下でガイドワイヤーを指標にして大腿動脈穿刺・シース留置を行う方法(透視下大腿動脈穿刺法)でバルーン拡張術を行った.ductal shockの1例を除いた3症例は上記方法によって,容易にシース留置することが出来た.4症例ともバルーン拡張術は有効であった.ductal shock例はカットダウンの際に大腿動脈損傷を生じたが,他の3症例は穿刺動脈の狭窄・閉塞を含めた合併症は認めなかった.4症例はバルーン拡張術後それぞれ4〜19カ月経過しているが,明らかな再縮窄(圧較差20mmHg以上)は認めていない.我々の行った透視下大腿動脈穿刺法は,CoAのような大腿動脈の拍動触知困難な症例の場合,有用であると思われる.


【原著】
■題名
先天性副腎過形成症の新生児マス・スクリーニング―17-OHP試薬キットにおける陽性基準の設定―
■著者
兵庫医科大学病院中央臨床検査部
山下 啓子  香川 昌平
■キーワード
先天性副腎過形成症(CAH)マス・スクリーニング,17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP),ω基準値,E基準値,CAH基準値
■要旨
 抽出法の17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)濃度による新生児スクリーニングは,先天性副腎過形成症(CAH)を初期段階で検出するのに有効である.しかし,現行基準値はスクリーニング全国施設で異なっており,比較的低値の17-OHPを示す患児の見逃しが危惧される.実際,全国調査で判明したCAH患児の中には,基準値以下の,5.7ng/mlの抽出法値を示す1名の患児(1.4%)が含まれていた.本研究の目的は有効なスクリーニングの標準を作成することである.直接法(D)と抽出法(E)の17-OHP濃度及びパラメータω(ω=(D−E)/D)に基づいてω基準値及びE基準値を設定した.一方,E値が6.0ng/ml以上の陽性児4群のE及びωを平均値(M)±3SDの範囲で変化させて得た軌跡をG0基準とし,更に,患児を細分類するためにG1〜G4のCAH基準を設定した.精検基準値及びCAH基準によって,CAH患児は選択され,また再採血検査及び即精検の2群に大別された.今回の検討から,新しい判定基準が新生児のCAHマス・スクリーニングの有効性を高めうるものと考える.


【原著】
■題名
3次元Contrast-Enhanced Magnetic Resonance Angiographyが診断に有用であった乳児Scimitar症候群の1例
■著者
日本大学医学部小児科
中川万樹生 唐澤 賢祐 鮎沢  衛 能登 信孝
住友 直方 岡田 知雄 原田 研介
■キーワード
Scimitar症候群,右部分肺静脈還流異常,肺低形成,Gadolinium,MRA
■要旨
 3次元Contrast-Enhanced Magnetic Resonance Angiography(以下3DCE-MRAと略す)が血行動態の診断に有用であったScimitar症候群の乳児例を経験した.症例は4カ月,女児.右胸心,肺高血圧の精査を目的として入院した.心血管造影で心房中隔欠損,右肺静脈が下大静脈へ還流する部分肺静脈還流異常および右肺の低形成と下行大動脈から右肺下部に向かう側副血行を認めた.3DCE-MRA像では,下行大動脈から右肺の下葉に向かう2本の異常血管と,全ての右側肺静脈が下大静脈へ向かう像が一画像で明瞭に描出された.3DCE-MRAは,3次元像を再構築することによる多方面からの診断および,動静脈と隣接臓器を一括した画像としての描出が可能であり,異常血管の描出に有用な診断法であると考える.
 Scimitar症候群の3主徴は,Neilら1)の掲げた右肺低形成,右胸心,部分肺静脈還流異常である.乳児型では成人型に比較して症状は重症で,心不全,肺高血圧の頻度が高い.確定診断は心臓カテーテル検査によることがほとんどである.今回,3次元Contrast-Enhanced Magnetic Resonance Angiographyが血行動態の診断に有用であったScimitar症候群の乳児例を経験したので報告する.


【原著】
■題名
川崎病の経過中に肝性脳症を発症した1例
■著者
天理よろづ相談所病院小児科1),大和高田市立病院小児科2)
南部 光彦1) 藤野 寿典2) 砂川 晶生2) 新宅 教顕1)
須田 憲治1) 山中忠太郎1) 清水  健1) 奥野 毅彦1)
奥野 毅彦1) 松村 正彦1) 高橋 泰生1) 太田  茂1)
■キーワード
川崎病,アスピリン,肝性脳症,生体肝移植
■要旨
 川崎病の経過中に肝性脳症を発症した2歳男児例を報告する.患児は川崎病発症後第6病日に入院し,ガンマグロブリン製剤とアスピリン内服(30mg/kg/日)にて軽快,第13病日からアスピリンを減量(10mg/kg/日)された.第16病日に再び発熱と発疹が出現し,ガンマグロブリン製剤を投与され,軽快した.第27病日,発熱,発疹が出現,肝逸脱酵素の著しい上昇を伴った.原因として薬剤が疑われ,無治療にて経過観察されたが軽快せず,血中ビリルビン値も徐々に上昇した.第37病日にステロイド剤とガンマグロブリン製剤が投与された.発熱,発疹,白血球増多は改善したが,血中ビリルビン値がさらに上昇した.第46病日には血中アンモニア値が上昇,肝性昏睡が出現,第48病日には生体肝移植が施行された.劇症肝炎の組織像を呈したが,摘出肝と血清からはウイルスは検出されず,薬剤性肝炎の劇症型として,アスピリンの関与が疑われた.


【原著】
■題名
骨髄移植後の肝中心静脈閉塞症の診断と経過観察に超音波パルスドプラ法が有用であった1例
■著者
大阪医科大学小児科1),大阪労災病院小児科2)
森本 高広1) 余田  篤1) 風川 美重1) 西野 淳司1)
御前 記良1) 三宅 宗典1) 山崎  剛2) 玉井  浩1)
■キーワード
肝中心静脈閉塞症,門脈圧亢進症,超音波検査,パルスドプラ法,骨髄移植
■要旨
 肝中心静脈閉塞症(Hepatic Veno Occlusive Disease:以下HVOD)は造血幹細胞移植の合併症として重症で死に至る疾患であり,常に留意しておかなければいけない.我々は腹部超音波検査(以下US)を用いて,骨髄移植(以下BMT)後のHVODを診断した.US所見は体重,総ビリルビン値,臨床症状の経過とほぼ一致していた.特にパルスドプラ(以下,PW)法では,症状の改善と共に門脈血流が正常化していく経過がとらえられた.またカラードプラ(以下,CD)法では門脈圧亢進症の所見である側副血行路の傍臍静脈の再開通をとらえ,その血流消失を確認し,治療薬として使用していたヘパリンの投与中止時期を決定する参考になり,診断及び経過観察に非常に有用であった.HVODのUSでの診断及び経過観察例は,本邦初報告である.


【論壇】
■題名
小学校における校医の責務と権限の問題点
■著者
永寿堂医院,昭和薬科大学
松永 貞一
■キーワード
学校医,学校保健,結核集団感染,結核緊急事態宣言,職員健診
■要旨
 平成9年に結核患者数は43年ぶりに減少から増加に転じた.平成11年には厚生大臣が結核緊急事態宣言を発した.それにもかかわらず小学校での結核集団発生は散発している.小学校での学校保健の一環としての対応強化が望まれるところである.しかし,現実には,文部省管轄下の小中学校には,その趣旨が十分に徹底されているとは言えない.さらに,東京都では,多くの公立小学校に,都職員,区職員,人材派遣会社職員の3種類の雇用形態の教職員が働いている.しかし,校長と学校医(いわゆる校医)にはこのうち都職員に対してのみ直接の健康管理上の権限が認められているだけである.区職員の健康管理は教育委員会により行われ直接の医師の関与はない.また,派遣会社職員に対しての積極的健康管理は実際には何ら行われていない.これらの事実と問題点を明らかにし,改善への提言を本論文で述べる.


バックナンバーに戻る