gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:25.12.23)

第129巻 第12号/令和7年12月1日
Vol.129, No.12, December 2025

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

第128回日本小児科学会学術集会
  教育講演

神経発達症とその周辺疾患について〜保護者および教育との連携を中心に〜

宇野 正章  1415
日本外来小児科学会推薦総説

プライマリ・ケアでの食物アレルギー予防

西村 龍夫,他  1421
原  著
1.

5歳児を含む乳幼児健康診査後に医療機関を受診した児童の特徴と就学後の適応状況

山岸 裕和,他  1432
2.

小学生対象のヒト遺伝教育プログラムの開発と実践,および受講者と保護者による評価

春山 瑳依子,他  1442
症例報告
1.

出生後の血行動態変化を反映した卵円孔狭小化を伴う心房中隔瘤の退縮過程

東 悠太,他  1456
2.

国内製サプリメントの栄養成分表示・品質管理の不備によるビタミンD中毒

鈴木 健太郎,他  1461
3.

発熱と結節性紅斑様皮疹を呈し,皮膚病理組織学的所見から診断し得た結節性多発動脈炎

南部 明華,他  1467

地方会抄録(滋賀・岩手・千葉)

  1474
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 152 炊飯器の蒸気による右手の熱傷(同)

  1482

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻10月掲載分目次

  1486


【原著】
■題名
5歳児を含む乳幼児健康診査後に医療機関を受診した児童の特徴と就学後の適応状況
■著者
国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園小児科1),自治医科大学小児科2)
山岸 裕和1)2)  門田 行史2)  渡辺 浩史1)  関戸 真理恵1)  下泉 秀夫1)

■キーワード
5歳児健診, 巡回方式, 乳幼児健診, 就学支援, 学校不適応
■要旨
 栃木県大田原市では2004年度から,日常生活や集団生活で困難さを来す児を早期に発見し就学に向けて適切な支援につなげることを目的に,5歳児健診を実施している.われわれは3歳児までの乳幼児健診及び5歳児健診からの紹介で国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園を受診した児(302例)について後方視的に解析を行い,5歳児健診の意義について考察した.
 3歳児までに課題を指摘された群の多くは,言語面の未熟さを指摘されて言語聴覚療法を介入した.5歳児健診で初めて課題を指摘された群の多くは,行動面の問題や身体の使い方の未熟さを指摘されて,作業療法を介入した.また,5歳児健診で初めて課題を指摘された群の85.3%は,就学時に通常学級に在籍していた.就学後に学習面や生活面で何らかの困難さを生じた児は,乳幼児健診時に行動面の問題を指摘されていることが多く,また就学時に市教育委員会への報告書作成,就学後もリハビリテーションや薬物療法などのために通院継続が必要な児に多かった.
 5歳児健診では3歳児までの乳幼児健診とは異なる視点から評価を行うことで,就学後に困難が出る可能性のある児を広く拾い上げることができていた.また,就学後に困難さが生じても,事前に関係機関との情報共有ができていたり,通院を継続していたことで,早期に対応することができていた.


【原著】
■題名
小学生対象のヒト遺伝教育プログラムの開発と実践,および受講者と保護者による評価
■著者
京都大学医学部附属病院遺伝子診療部1),京都大学大学院医学研究科ゲノム医療学講座2)
春山 瑳依子1)  和田 敬仁1)2)  鳥嶋 雅子1)2)

■キーワード
ヒト遺伝, 小学生, 多様性, 教育, 遺伝リテラシー
■要旨
 ゲノム医療が推進される現代において,一般市民の遺伝リテラシー向上は喫緊の課題である.我々は,ヒト遺伝の「多様性と継承性」を通して,「遺伝」のネガティブなイメージを払拭し,祖先との絆や自身の存在意義,多様性,遺伝と環境の理解を目標とした小学生向けヒト遺伝教育プログラムを開発した.2015〜2024年に計28回の遺伝教室を実施し,小学4〜6年生の受講者と聴講した保護者を対象にプログラム評価を目的とした無記名自記式質問紙調査を行い,記述統計および質的帰納的分析により解析した.全受講者548名のうち回答者は545名(99.5%)であり,うち93.9%が内容を「理解できた」と回答した.さらに90%以上が「きょうだいが違う理由」「得意不得意がある理由」「一人ひとり違う理由」がわかったと回答した.保護者は246名が回答し,うち88.2%は内容が「受講者にとってわかりやすかった」と答えた.自由記載では「“みんなちがって,みんないい”がよかった」「“遺伝だけでは決まらない”がよかった」との感想が得られた.結果から,プログラムの難易度や構成,運営が適切であったこと,ヒト遺伝のもつ「多様性」の理念が受講者に伝わったこと,受講者を介して保護者も学ぶ効果も期待できることが示された.本プログラムが小児医療職や教育職のヒト遺伝教育への関心を高め,本邦の遺伝リテラシー向上に寄与することを期待したい.


【症例報告】
■題名
出生後の血行動態変化を反映した卵円孔狭小化を伴う心房中隔瘤の退縮過程
■著者
函館中央病院小児科1),北海道大学大学院医学研究院小児科学教室2)
東 悠太1)  山澤 弘州2)  秋元 琢真1)  佐々木 真樹1)  中島 美佳1)  真部 淳2)

■キーワード
心房中隔瘤, 卵円孔早期狭小化症, 卵円孔開存症, 新生児, 脳梗塞
■要旨
 心房中隔瘤は胎児期や出生直後に認められることがあるが,その自然経過などは不明な点が多い.今回我々は,胎児期に異常を指摘されなかったが,出生後に卵円孔の高度狭小化及び心房中隔瘤を認めた正期産児例を経験した.出生後肺血管抵抗低下に伴い左心系の適応障害を示す所見を認めたが,臨床症状は目立たず,水分制限と利尿薬投与により,時間経過で左心系は新生児循環に適応した.これに伴い心房中隔瘤は形態変化し,卵円孔閉鎖と共に経時的に退縮した.心房中隔瘤は胎児循環から新生児循環への移行期の動態を反映しうる指標であると考えられ,さらに長期的には成人期の脳梗塞の危険因子にも関連する可能性があることから,診断後は小児期からの継続的な心臓超音波検査評価の必要性が示唆される.


【症例報告】
■題名
国内製サプリメントの栄養成分表示・品質管理の不備によるビタミンD中毒
■著者
刈谷豊田総合病院小児科1),藤田医科大学医学部小児科学2)
鈴木 健太郎1)  石丸 聡一郎1)  今井 咲樹1)  大橋 悠加1)  村瀬 有香1)  平井 雅之1)  三原 由佳1)  川口 博史1)  木曽原 悟1)  水野 晴夫2)  吉川 哲史2)

■キーワード
ビタミンD中毒, 高カルシウム血症, サプリメント, 健康食品, 食品表示法
■要旨
 海外製ビタミンDサプリメントの誤用による国内でのビタミンD中毒の報告は散見される.しかし国内製サプリメントをメーカー推奨量の範囲内で摂取していたにもかかわらず,ビタミンD中毒をきたした症例の報告はない.症例は7歳男児,全身倦怠感などの症状と,著明な高カルシウム血症を指摘されて入院した.血清25位水酸化ビタミンD(25(OH)D)は727 ng/mLと異常高値を認め,問診の結果入院6か月前よりビタミンDが含有されたX社製のサプリメント2種類を2カプセルずつ服用していたことが判明した.当該サプリメントには成分量表示がなく,X社に問い合わせたところ,1カプセル当たりビタミンDがそれぞれ200 μg(8,000 IU)および25 μg(1,000 IU)含まれていることが判明した.そのため男児は小児推奨量を大幅に超えるビタミンDを摂取していたと考えられた.サプリメントによるビタミンD中毒と診断し,当該製品の中止およびパミドロネート投与で血清カルシウム濃度は正常化し,後遺症なく退院した.その後第三者機関の分析で,X社の提示した理論値と1カプセルごとの実測値に大きな乖離を認めた.1カプセルあたり最大で理論値の12倍超のビタミンDが含まれ,製造工程の品質管理に問題があったと考えられた.成分量表示がなく,消費者が過剰摂取に気づくのは困難であり,今後,品質管理や成分表示規制の見直しが必要と考えられる.


【症例報告】
■題名
発熱と結節性紅斑様皮疹を呈し,皮膚病理組織学的所見から診断し得た結節性多発動脈炎
■著者
埼玉県立小児医療センター感染免疫・アレルギー科1),同 皮膚科2),同 病理診断科3)
南部 明華1)  玉城 善史郎2)  市村 香代子3)  佐藤 智1)

■キーワード
結節性多発動脈炎, 結節性紅斑様皮疹, 皮膚生検, 溶連菌, 結節性紅斑
■要旨
 結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa,PAN)は,全身性の小・中型動脈に壊死性血管炎を来す稀な疾患であり,発熱や関節痛などの全身症状と虚血による様々な臓器症状を呈する.病理組織所見や血管造影検査で壊死性血管炎を同定し,他の既存疾患を除外して診断する.病因は不明だが,小児ではA群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)との関連を示唆する報告が散見される.我々は溶連菌感染に伴って持続する発熱と結節性紅斑様皮疹を呈し,皮膚生検で診断に至ったPANの症例を経験した.症例:10歳女児.入院1週間前に溶連菌による咽頭炎と診断されアモキシシリンを開始されたが,発熱が持続し強い倦怠感や四肢の結節性紅斑様皮疹,関節痛を認めたため当院受診した.溶連菌による結節性紅斑やリウマチ熱を考え抗菌薬を継続しNSAIDsを開始したが症状改善を認めず,入院2日目に皮疹部より皮膚生検を施行し壊死性血管炎を確認した.また,経過中に僧帽弁逆流症と腹腔動脈および上腸間膜動脈起始部の狭窄を認めた.プレドニゾロンが著効し,増悪や再燃なく治療薬を漸減中止できた.PANの発症に溶連菌の関与が疑われたため,退院後は抗菌薬の2次予防投与を行った.PANは重篤な臓器障害や後遺症も起こり得るため,早期診断と適切な治療が重要である.結節性紅斑様皮疹を見た際に,PANも念頭に入れて診療を行う必要がある.

バックナンバーに戻る