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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:25.9.19)

第129巻 第9号/令和7年9月1日
Vol.129, No.9, September 2025

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第128回日本小児科学会学術集会
  会頭講演

持続可能な小児医療をどのように実現するか

齋藤 伸治  1117
原著総説

菌血症をきたした梨状窩瘻に伴う化膿性甲状腺炎症例と菌血症合併既報例の臨床的特徴

近澤 茅穂,他  1122
原  著
1.

乳児血管腫に対するヘマンジオル®シロップ小児用0.375%の安全性と有効性

小関 道夫,他  1131
2.

COVID-19患児における基礎疾患と医療資源利用との関連

伊東 藍,他  1146
短  報

起立性調節障害と脳脊髄液漏出症の併存と小児科診療上の注意点

細木 瑞穂,他  1153
論  策

5歳児健診の全国展開に向けた自治体の課題に関するアンケート

永光 信一郎,他  1157

編集委員会への手紙

  1165

地方会抄録(宮崎・中国四国・新潟・長崎・東海・北海道・山梨・北陸・富山・青森・佐賀)

  1166
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 149 半閉鎖空間での日焼け止めスプレー使用による化学性肺炎(同)

  1212

日本小児科学会理事会議事要録

  1216
日本小児科学会ダイバーシティ・キャリア形成委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合50

自分の人生のサイクルに合わせて

  1218

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻7月掲載分目次

  1220


【原著総説】
■題名
菌血症をきたした梨状窩瘻に伴う化膿性甲状腺炎症例と菌血症合併既報例の臨床的特徴
■著者
埼玉県立小児医療センター感染免疫・アレルギー科
近澤 茅穂  佐藤 法子  古市 美穂子  上島 洋二  佐藤 智  菅沼 栄介

■キーワード
下咽頭梨状窩瘻, 化膿性甲状腺炎, 菌血症, 血液培養, 免疫抑制
■要旨
 急性化膿性甲状腺炎は稀な甲状腺疾患であり,本邦小児では下咽頭梨状窩瘻経由の感染が多い.甲状腺は血流豊富な臓器だが,菌血症を合併した化膿性甲状腺炎の報告は限られている.Parvimonas micra菌血症を合併した化膿性甲状腺炎の自験例を,既報の考察とともに報告する.症例は生来健康な8歳男児.発熱と頸部腫脹・疼痛を主訴に来院し,画像所見から化膿性甲状腺炎と診断した.抗菌薬加療を開始したが効果は乏しく,造影CT検査で膿瘍の増大と気管の圧排を認めたため,緊急切開排膿術を施行した.血液培養検査は培養3日目にParvimonas micraが陽性となり,膿瘍検体からはParvimonas micraを含む複数の口腔内常在菌が検出されたため,化膿性甲状腺炎に続発した菌血症と判断した.術後は抗菌薬治療が奏功し,入院20日目に退院した.2か月後の咽頭食道造影検査で下咽頭梨状窩瘻が確認され,再発予防目的に根治術を行った.菌血症を合併した化膿性甲状腺炎に関する既報では,免疫抑制状態や皮膚・血管穿刺歴のある菌血症先行例が多く,免疫正常者における続発性菌血症は稀であった.下咽頭梨状窩瘻の瘻孔検索は本邦報告例で多く行われており,菌血症先行例では瘻孔をみとめなかった.医療処置歴や病原体検出結果から,菌血症先行例か否かを推定することは,瘻孔検索の適応や再検の必要性を判断するうえで参考になると考える.


【原著】
■題名
乳児血管腫に対するヘマンジオル®シロップ小児用0.375%の安全性と有効性
■著者
岐阜大学大学院医学系研究科小児科学1),神奈川県立こども医療センター皮膚科2),マルホ株式会社安全管理部3),国家公務員共済組合連合会斗南病院形成外科/血管腫・脈管奇形センター4)
小関 道夫1)  馬場 直子2)  久保 亮太3)  吉岡 大輔3)  實方 正樹3)  可児 毅3)  松井 慶太3)  佐々木 了4)

■キーワード
乳児血管腫, プロプラノロール, 特定使用成績調査, 安全性, 有効性
■要旨
 ヘマンジオル®シロップ小児用0.375%(以下,本剤)の観察期間76週間の特定使用成績調査を実施し,乳児血管腫に対する本剤の日常診療下における長期の安全性及び有効性に関する情報を収集した.
 安全性解析対象症例は354例であり,副作用は55例(15.5%)に認められた.主な副作用は下痢8例(2.3%),低血糖7例(2.0%),喘息5例(1.4%),徐脈4例(1.1%),低血圧4例(1.1%),低血糖性痙攣,喘鳴及び高カリウム血症は各3例(0.8%)であり,月齢13か月以上の投与継続症例に意識変容や痙攣を伴う重篤な低血糖が4例認められた.有効性解析対象症例は339例であり,初回の治療期間中に有効と判断された症例は326例中308例(94.5%)であった.そのうち,投与開始時の月齢が6か月以下の症例の有効割合は282例中273例(96.8%)であったが,投与開始時の月齢が13か月以上の症例では9例中5例(55.6%)であり有効割合が低かった.投与開始時及び観察終了時の乳児血管腫の治療に対する保護者の満足度アンケートでは,本剤の投与により保護者の不安感や満足度の改善が認められた.乳児血管腫は自然経過により消退することもあるため,1歳を超える患者にはリスクとベネフィットを慎重に比較検討のうえ,治療継続を判断することが必要と考えられた.


【原著】
■題名
COVID-19患児における基礎疾患と医療資源利用との関連
■著者
国立成育医療研究センター総合診療部1),同 感染症科2)
伊東 藍1)  庄司 健介2)  飯島 弘之1)  中村 知夫1)  窪田 満1)

■キーワード
COVID-19, 基礎疾患, 医療的ケア, 医療資源利用, 医療費
■要旨
 【目的】オミクロン株流行期におけるコロナウイルス感染症2019(COVID-19)の小児入院患者での基礎疾患の有無と臨床像や医療資源利用との関係を明らかにすること.
 【方法】2022年1月から4月に国立成育医療研究センターのCOVID-19対応病棟に入院した18歳未満のCOVID-19検査陽性患者を抽出した.基礎疾患の有無により2群に分け2群間での臨床像や医療資源利用について後方視的に検討した.また医療的ケアの有無によるサブグループ解析を行った.
 【結果】対象患者126例,基礎疾患あり51例(うち,医療的ケア児20例)であった.基礎疾患あり群で肺炎の例が多く,レムデシビル・ソトロビマブ,酸素投与をされた症例が有意に多かった.入院日数は基礎疾患なし群で中央値7(四分位範囲5〜8)日,基礎疾患あり群で中央値9(6〜11)日(医療的ケア児のみ12[10〜13]日)と有意に長かった(p<0.05).医療費に関しては基礎疾患なし群430,330(330,680〜529,650)円,基礎疾患あり群616,890(368,290〜982,060)円(医療的ケア児のみ1,065,800[608,620〜1,376,680]円)と有意に高額だった(p<0.05).
 【結論】基礎疾患のある児,特に医療的ケア児ではCOVID-19罹患時に重症化しやすく,入院も長期で医療費も高くなることが示唆された.


【短報】
■題名
起立性調節障害と脳脊髄液漏出症の併存と小児科診療上の注意点
■著者
細木小児科1),福山医療センター小児心療内科2),岡山大学学術研究院医歯薬学域3),岡山大学病院小児心身医療科4)
細木 瑞穂1)2)  岡田 あゆみ3)4)

■キーワード
起立性調節障害, 脳脊髄液漏出症, 体位性頻脈症候群, 二次性, 小児
■要旨
 起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)との鑑別で重要な脳脊髄液漏出症の治療上の注意点を明らかにするため,両疾患の診断基準を同時に満たす7例を検討した.全例が小児科でODと診断後に脳神経外科で脳脊髄液漏出症と診断され,脳神経外科的治療後に症状は改善または消失した.脳脊髄液漏出症に伴う二次的OD症状は改善したが,4例は不登校や残存するOD症状のため小児科での継続治療を要した.OD診療中も受傷歴や治療抵抗性から脳脊髄液漏出症を疑うことが重要である.また両疾患の併存を認める症例では心理社会的要因への心身医学的対応を要する場合があり,両科が連携することが重要である.


【論策】
■題名
5歳児健診の全国展開に向けた自治体の課題に関するアンケート
■著者
福岡大学医学部小児科学講座1),鳥取県立総合療育センター2),鳥取県福祉保健部/子ども家庭部,倉吉保健所3),鳥取大学医学部脳神経医科学講座脳神経小児科学分野4),茨城県立医療大学保健医療学部看護学科公衆衛生看護学5),帝京大学医学部小児科学講座6),岡山大学学術研究院医歯薬学域7),金城大学看護学部8),久留米大学9),横浜市立大学附属市民総合医療センター婦人科10),福岡県立大学看護学部11),名古屋大学心の発達支援研究実践センター12),あいち小児保健医療総合センター保健センター13),獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター14),弘前大学大学院保健学研究科心理支援科学領域15),小児科内科三好医院16),いたのこどもクリニック17),松下こどもクリニック18),いなみつこどもクリニック19),埼玉県立小児医療センター20)
永光 信一郎1)  小枝 達也2)  小倉 加恵子3)  前垣 義弘4)  山口 忍5)  三牧 正和6)  岡田 あゆみ7)  子吉 知恵美8)  内村 直尚9)  榊原 秀也10)  松浦 賢長11)  野邑 健二12)  杉浦 至郎13)  井上 建14)  斉藤 まなぶ15)  宮崎 雅仁16)  板野 正敬17)  松下 享18)  稲光 毅19)  岡 明20)

■キーワード
5歳児健診, アンケート, フォローアップ, 集団健診/抽出健診
■要旨
 5歳児健康診査(以下5歳児健診)の主な目的は,発達課題を有する子どもに対して,就学前より適切な支援を提供することで,子どもや家族が安心して就学を迎え,発達の特性に影響を受けることなく,就学後も集団生活や学習課題に取り組むことができるようにすることである.令和6年1月より,母子保健医療対策総合支援事業として5歳児健診の支援事業が開始となった.今後,全国で5歳児健診が展開される中,自治体が抱えている課題を明らかにすることを目的にアンケートを実施した.1,183の自治体から回答(回収率68%)があり,1,004の自治体(85%)では5歳児健診未実施であったが,そのうち270の自治体(27%)で3年以内の開始を検討していた.多くの自治体が求めている情報としては,「医師の確保方法」「フォローアップ体制の内容」「健診の流れ」「医師の診察内容」であった.5歳児健診を実施している179の自治体の内,94.5%の自治体では,健診後のカンファレンスを実施して多職種が子どもの発達課題に関する情報を共有し,87.5%の自治体でその情報を園・保育所と共有していた.自治体が抱える課題の解決のためには,内科医等の小児科医以外の健診医も参加できる研修体制を実施すること,地域の実状に合わせた多職種カンファレンスを通して適切な支援を提供するための情報共有を行うことが重要と思われる.

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