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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:25.7.15)
第129巻 第7号/令和7年7月1日
Vol.129, No.7, July 2025
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原 著 |
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横須賀 とも子,他 881 |
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土生川 千珠,他 889 |
症例報告 |
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上原 晴香,他 898 |
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中河 あかり,他 905 |
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岩上 万里奈,他 912 |
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熊澤 大輝,他 917 |
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市川 瑞穂,他 923 |
論 策 |
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小山 典久,他 928 |
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939 |
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970 |
専門医にゅ〜す No. 25 |
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小児科専攻医臨床研修手帳(紙媒体)からKIDS(Web媒体)への移行のお知らせ
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971 |
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自律的意思決定困難な患者の成人移行支援のあり方に関する提言
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972 |
日本小児科学会ダイバーシティ・キャリア形成委員会報告 |
リレーコラム キャリアの積み方─私の場合49 |
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987 |
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989 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻5月掲載分目次
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996 |
【原著】
■題名
治癒が難しい小児がん患者の在宅移行の実態と困難感についての全国調査
■著者
神奈川県立こども医療センター血液・腫瘍科1),国立成育医療研究センター総合診療部緩和ケア科2),北海道大学小児科3),国立成育医療研究センターチャイルドライフサービス室4),同 小児がんセンター5),医療法人財団はるたか会あおぞら診療所6) 横須賀 とも子1) 余谷 暢之2) 長 祐子3) 伊藤 麻衣4) 大隅 朋生5)6)
■キーワード
小児がん, 終末期, 在宅療養, アドバンス・ケア・プランニング
■要旨
【目的】小児がん患者が治癒困難な状態になり,住み慣れた自宅で家族や友人と過ごしたいという希望をもった場合,移行の過程で様々な問題が存在する.本調査の目的は治癒が難しい小児がん患者の在宅療養への移行の実態を明らかにすること,療養場所の意思決定にかかわる小児がん治療医の視点から見た在宅療養への移行の障壁となる要因を明らかにすることである.【方法】日本小児血液・がん学会ホームページに記載されている日本小児血液・がん専門医268人に,医師自身の小児がん診療に対する考え方,終末期を見据えた家族・本人との話し合いの実践,在宅移行に向けた情報共有の現状,地域連携の課題について質問紙調査を行った.調査は二重封筒法を用いて実施し,専門医1人につき非専門医1人の質問紙を同封して回収した.【結果】536人中291人から有効回答が得られ,回収率は54%であった.75.9%の医師が看取りのための在宅移行を経験していた.非専門医は専門医に比較し在宅移行へのタイミングが分からないと困難感を抱え(P<0.01),在宅移行が医療者にあきらめられたと家族が感じるのではないかとの懸念を持つ医師の割合は全体の42%であった.現在の病状の確認を,患者本人と行っている割合は40%前後にとどまった.【結語】医師自身の価値観や葛藤,本人との話し合いの不足,在宅資源の不足や患者への情報提供不足が在宅移行の障壁となる可能性がある.
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【原著】
■題名
不登校予防のための学校健康診断用心身健康調査票
■著者
国立病院機構南和歌山医療センター小児アレルギー科1),大阪大学大学院基礎工学研究科2),長崎県立こども医療福祉センター3),啓仁会堺咲花病院心身診療科4) 土生川 千珠1)2) 中村 亨2) 小柳 憲司3) 村上 佳津美4)
■キーワード
不登校, 思春期, 学校健康診断, 質問紙, メンタルヘルス
■要旨
【背景】文部科学省調査によると不登校は急増し約30万人となっているが,適切な予防的支援策は見つかっていない.【目的】学校健康診断として心身の不調を早期検出するための心身健康調査票を開発する.【対象・方法】複数の専門医が不登校児の診察で聴取する訴えと長期化要因について46項目から成る基礎質問紙を作成した.自記名式で「あてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の4尺度で回答する.小学5年生から中学3年生4,306名を対象に,基礎質問紙と小児心身症評価スケール(QTA30)と子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)を実施し,中学生2,355名に再現性を確認した.【結果】因子分析により「げんき度(9項目)」「生活リズム・体のつらさ(10項目)」「学校で困ること(6項目)」の3因子25項目を抽出し,本調査票を開発した.Cronbach's α係数(0.84,0.82,0.74,各々),Test-retest(級内相関係数0.88),QTA30とSDQとの相関係数(0.81,0.66,各々)の評価により,その信頼性及び妥当性を確認した.QTA30の心身症を判別する得点を基準に,カットオフ値26点(感度84.1%,特異度85.1%,AUC 0.92)を算出できた.【考察】学校生活の困りごとを因子別に可視化し,一般小児科医向けの早期医療介入用自記名式心身健康調査票を開発した.
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【症例報告】
■題名
両側対称性の小脳病変を認めた自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの幼児
■著者
松戸市立総合医療センター小児医療センター小児科1),自治医科大学医学部放射線医学講座2) 上原 晴香1) 森 雅人1) 神坐 優1) 大林 浩明1) 池原 甫1) 森 墾2)
■キーワード
自己免疫性GFAPアストロサイトパチー, 自己免疫性脳炎, 髄膜脳脊髄炎, 抗GFAPα抗体, 小児
■要旨
自己免疫性GFAP(glial fibrillary acidic protein)アストロサイトパチーは,比較的ステロイド反応性の良い髄膜脳脊髄炎を呈する疾患概念で,意識障害,排尿障害,運動異常症,認知機能障害,低Na血症などの症状を呈する.典型的な画像所見として,側脳室周囲に放射状に広がる血管周囲の線状造影効果が報告されているが,多くは成人例の報告で日本人の小児の報告例はまだ少ない.症例は2歳男児.発熱,傾眠で発症し,座位保持困難,歩行困難のため入院した.発語減少,体幹失調などの小脳症状,深部腱反射亢進と両足クローヌスを認めた.検査では髄液細胞数の軽度増加を認め,脳MRI検査では,皮質下白質,脳梁および脊髄に非対称性,小脳半球に対称性な病変を認めた.急性脳脊髄炎の診断で加療開始し,ステロイドパルス療法を合計3クール実施し,病前同様まで回復した.原因検索として施行した髄液抗GFAPα抗体陽性から,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと診断した.本例は2歳と低年齢で症状は自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと他の脳脊髄炎を鑑別する特徴的な所見に乏しく,画像ではこれまで報告のない小脳半球に対称性な病変が特徴的であった.小児では特徴的な臨床像を認めなかったり画像所見が成人と異なったりする可能性があり,症例の蓄積が必要と考えられた.
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【症例報告】
■題名
SNRPNを含まない15番染色体部分欠失によるPrader-Willi症候群
■著者
愛仁会高槻病院小児科1),同 遺伝診療センター2),名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野3),国立成育医療研究センター研究所ダイバーシティ研究室4) 中河 あかり1) 長坂 美和子1)2) 四本 由郁1)2) 齋藤 伸治3) 松原 圭子4) 玉置 知子2)
■キーワード
Prader-Willi症候群, SNRPN遺伝子, SNORD116クラスター, MS-MLPA(Methylation-Specific Multiplex Ligation-Dependent Probe Amplification)法, 15q13.3欠失症候群
■要旨
Prader-Willi症候群(PWS)は,従来は15q11.2にあるSNRPN遺伝子を責任遺伝子とするインプリンティング疾患とされ,FISH法でのSNRPN遺伝子欠失やメチル化試験によるSNRPN遺伝子プロモーター領域のメチル化異常の検出が確定診断に用いられてきた.我々は2020年に,新生児期よりPWSの臨床診断に至りG分染法にて15q12-14欠失を認めた症例を経験した.しかし本症例ではSNRPN遺伝子欠失もメチル化異常も無く,当時はPWSと確定診断できなかった.一方,2008年頃からSNRPN遺伝子の遠位に隣接するSNORD116クラスター周辺の微細欠失がPWSの主要症状をきたすとの報告が散見されていたため,生後7か月で15q11-13領域のみのカスタムアレイCGH検査を施行したところ,SNORD116クラスターを近位端とする欠失を認めPWSの確定診断に至った.その後の全染色体を対象とするマイクロアレイ染色体検査にて,欠失は15q13.3欠失症候群領域を含む11 Mbと判明した.2021年公表のPWSコンセンサスガイドラインでは,PWSは「SNORD116を含む父性発現遺伝子の発現消失を伴う疾患」と定義されており,本症例はまさにこの定義に合致した.3歳時点で15q13.3欠失症候群に伴う症状は明らかではなく典型的なPWSとして経過観察中である.
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【症例報告】
■題名
トスフロキサシンによる薬剤性腎性尿崩症
■著者
富山県立中央病院小児科 岩上 万里奈 作村 直人 本多 真梨子 竹田 義克 谷内 裕輔 上野 和之 宮下 健悟 藤田 修平
■キーワード
トスフロキサシン, 腎性尿崩症
■要旨
腎性尿崩症は腎集合管主細胞のバソプレシン(AVP)に対する感受性が減弱し尿濃縮障害をきたす疾患である.脱水からショックや電解質異常を引き起こしうるため早期の認知が重要となる.
症例は中耳炎の4歳女児と気管支炎の7歳男児.それぞれトスフロキサシンの1回と4回内服後より口渇,多飲多尿が出現し受診した.血清浸透圧284,285 mOsm/kgの時にAVP7.6,4.0 pg/mLと上昇を認め,2症例とも腎前性腎障害を認めた.2例とも内服中止の翌日に口渇,多飲多尿の改善を認め,再診時にはそれぞれ血清浸透圧279,280 mOsm/kgの時にAVP2.7,3.0 pg/mLと低下を認めた.多尿の鑑別として糖尿病や尿路感染症は否定的であり,蛋白尿と潜血は翌日には消失した.尿崩症が疑われ,AVP高値や夜間就寝中にも症状があることから中枢性尿崩症や心因性多飲症は否定的であり,トスフロキサシンによる薬剤性腎性尿崩症と考えられた.トスフロキサシン内服中に口渇,多飲多尿を認めた場合には腎性尿崩症を鑑別に入れ,脱水症や電解質異常に注意する必要がある.
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【症例報告】
■題名
食品添加物によるレボチロキシン吸収障害で甲状腺機能異常を呈した重症心身障害児
■著者
豊橋市民病院小児科 熊澤 大輝 笠置 俊希 田中 達之 伊藤 剛
■キーワード
食品添加物, 炭酸カルシウム, レボチロキシンナトリウム, 中枢性甲状腺機能低下症
■要旨
症例は16歳男子.1歳5か月時に発症した原因不明の脳症により重度の脳障害を来し,在宅人工呼吸器による管理を必要としていた.脳障害に伴う中枢性甲状腺機能低下症に対してレボチロキシンナトリウム水和物(LT4)の補充療法を行い,栄養管理では胃瘻から半消化態栄養剤に加えて市販のプロテインサプリメントを併用していた.定期診察時に心拍数の上昇を認め,血液検査ではfree triiodothyronine(fT3)およびfree thyroxine(fT4)の上昇を認めたためLT4を減量した.当初,甲状腺機能が亢進した原因は不明であったが,この定期診察時の約2週間前に市販のプロテインサプリメントを姉妹品に変更しており,変更前の製品には炭酸カルシウム(炭酸Ca)と鉄分であるピロリン酸第二鉄が含まれ,変更後の製品には含まれていないことが後日判明した.
LT4は炭酸Caや鉄分との併用で消化管からの吸収が阻害されるとの報告があるが,姉妹品に変更した後は炭酸Caと鉄分が含まれなかったためLT4の吸収量が増加したと考えられた.LT4は広く使用されている薬剤で,併用により吸収量が阻害される薬剤も多く報告されているが,特に炭酸Caは栄養強化や食感の改善などを目的に食品添加物として様々な食品に広く用いられており,LT4と同時に摂取する場合は注意が必要である.
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【症例報告】
■題名
パキスタンへの親族訪問後にパラチフスを発症した男児
■著者
名古屋掖済会病院小児科1),同 卒後臨床研修センター2) 市川 瑞穂1) 小出 健三郎2) 玉木 鷹志1) 纐纈 昌樹1) 國澤 由起1) 白川 雄一1) 植田 智希1) 春田 一憲1) 池田 麻衣子1) 伊藤 祥絵1) 松岡 佐知1) 木村 量子1) 長谷川 正幸1) 星野 伸1)
■キーワード
パラチフス, 輸入感染症, セフトリアキソン, アモキシシリン, Visiting Friends and Relatives
■要旨
症例は7歳男児,日本在住のパキスタン人で,家族とともに1か月半パキスタンに滞在していた.日本へ帰国した17日後から発熱と下痢が持続し第6病日に当院救急外来を受診した.補液,血液検査,血液および便培養検査実施後帰宅したが,第7病日に血液培養が陽性となったためセフトリアキソン投与を開始した.第8病日に入院,歩行可能だが活気に乏しく,顔色やや不良,腹部は軽度膨隆し,肝脾腫や圧痛は認めなかった.セフトリアキソン点滴を継続し,培養結果よりパラチフスと診断した.入院後食事量や便性は改善したが,解熱までは1週間程度を要した.抗菌薬投与開始翌日の血液培養も陽性となったが,感受性検査ではアンピシリンおよび第三世代セファロスポリンに感受性であった.第13病日よりアモキシシリン内服へ変更,第22病日に投薬終了し,その後も再発なく経過した.海外旅行者や在留外国人の増加に伴い,今後一般小児診療の中で輸入感染症に遭遇する可能性が高まると予想され,注意が必要である.
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【論策】
■題名
小中学校で医学的知識を教えることに対する学校教員の意見と小児科医の役割
■著者
豊橋市民病院小児科1),国立国際医療研究センター国際医療協力局人材開発部研修課2),旭川厚生病院小児科3),富山大学医学部小児科学教室4),滋賀県立総合病院救急科・小児科5),愛媛県立中央病院小児科6),松戸市立総合医療センター小児医療センター小児科・小児集中治療科7),産業医科大学小児科学教室8),大阪公立大学大学院医学研究科発達小児医学9),兵庫医科大学小児科学教室10) 小山 典久1) 井上 信明2) 竹田津 原野3) 種市 尋宙4) 野澤 正寛5) 山本 英一6) 平本 龍吾7) 楠原 浩一8) 濱崎 考史9) 竹島 泰弘10)
■キーワード
義務教育, 性教育, がん教育, ヘルスリテラシー, 小中学校
■要旨
すべての豊橋市立小中学校教員を対象に,学習指導要領に含まれる健康に関する授業課題のうち対応が難しいと感じているもの,救急医療の基本知識を義務教育に組み込む試み(「救急医療教育」)に対する賛否,学校医,医療関係者に対する要望についてアンケートを行った.調査を依頼したすべての小学校(52校),中学校(22校)から1,789の回答を得た.対応に困難を感じている内容として「性感染症・性教育」,「がん教育」等が挙げられた.「救急医療教育」への賛否は「賛成」668(39.6%),「どちらかというと賛成」599(35.6%),「反対」「どちらかというと反対」は合計71(4.2%)であった.教員からは「必ずしも正しくない情報の氾濫,教育力の乏しい家庭の存在等の現状を踏まえ,正しい知識を教えることは有意義」,「学習指導要領に盛り込むべき」,「発達段階に応じた教材が必要」,「授業時間不足」,「担任が多忙」,「専門家が教えるべき」,「医療関係者はもっと教育現場に関与して欲しい」等の意見が出された.
現状でも教員は医学的な内容を授業で扱う際に負担を感じている.一方で「救急医療教育」には多くが賛意を示した.小児科医の役割として,教育現場の負担への配慮,適切な教材の準備を含め,子どもたちを教育すること,教育現場での子どもたちの健康を守ることの両面から医療関係者のさらなる関与と教育現場を理解した組織的な連携体制が求められている.
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