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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:25.6.17)

第129巻 第6号/令和7年6月1日
Vol.129, No.6, June 2025

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原  著

小児重症貧血に対する赤血球輸血療法

本田 護,他  775
症例報告
1.

急性期の発作制御にイソフルラン吸入療法が奏功した難治頻回部分発作重積型急性脳炎

石田 貴裕,他  781
2.

NBCAによる動脈塞栓術を施行したKCNT1変異を伴うてんかんの体肺動脈側副血管

大坪 善数,他  788
3.

鼠径ヘルニア嵌頓が疑われた鼠径部化膿性リンパ節炎の乳児例

津田 淳希,他  794
4.

腸管嚢胞状気腫症を発症した重症心身障害児の2例

柳澤 俊樹,他  799
5.

長期の静脈栄養による腎障害で血液透析を導入したHirschsprung病類縁疾患

成田 一喜,他  805
短  報

COVID-19パンデミック以降の川崎病発症数の特徴的な推移

鋪野 歩,他  811
論  策

小児集中治療室で働く医師,看護師のバーンアウトとモラルディストレス

西村 奈穂,他  815

地方会抄録(兵庫・徳島・福島・鹿児島・山口・宮城・青森・福井・北海道・北陸・石川・岩手・福岡)

  823

日本小児科学会臨時理事会議事要録

  871

日本小児科学会理事会議事要録

  872

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻4月掲載分目次

  877


【原著】
■題名
小児重症貧血に対する赤血球輸血療法
■著者
埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科1),同 救急診療科2),同 集中治療科3),同 輸血部4)
本田 護1)  荒川 ゆうき1)  水島 喜隆1)  入倉 朋也1)  石川 貴大1)  金子 綾太1)  窪田 博仁1)  三谷 友一1)  森 麻希子1)  福岡 講平1)  大嶋 宏一1)  中野 諭2)  新津 健裕3)  小澤 史佳4)  佐竹 和美4)  康 勝好1)4)

■キーワード
小児, 重症貧血, 赤血球輸血
■要旨
 背景:小児の血液・悪性腫瘍患者は長期間にわたる正常造血の低下により緩徐に貧血が進行し,診断時に重症貧血を認めることがある.輸血関連循環過負荷(TACO)を避けるため,本邦では慣習的にヘモグロビン(Hb)値(g/dL)に体重(kg)を乗じた量の赤血球濃厚液を緩徐に輸血するが,その安全性を検証した報告はない.
 方法:埼玉県立小児医療センターにおいて2013年1月から2022年12月までにHb値5 g/dL未満の重症貧血を合併し赤血球輸血を実施された小児血液・悪性腫瘍患者(栄養性貧血,溶血性貧血を除く)を対象とし,臨床経過およびTACO発症の有無について後方視的に検討した.
 結果:対象は42例(男児20例,女児22例)で,急性リンパ性白血病が26例,急性骨髄性白血病が8例,再生不良性貧血が4例,骨髄異形成症候群が3例,慢性骨髄性白血病が1例だった.診断時の年齢,Hb値,BNP値はそれぞれ5.2歳,3.9 g/dL,31.0 pg/mLであった.(Hb値)mL/kgの赤血球濃厚液の初回輸血時間は6.9時間,輸血前後でHbは0.6 g/dL上昇した(Hb上昇率は1.1倍).Hb値が5 g/dLを超えるまでに要した輸血回数は2回だった(値は全て中央値).TACOを発症した症例はいなかった.
 結論:緩徐に発症した小児の重症貧血に対して(Hb値)mL/kgの赤血球輸血を時間をかけて行う方法は安全である.


【症例報告】
■題名
急性期の発作制御にイソフルラン吸入療法が奏功した難治頻回部分発作重積型急性脳炎
■著者
兵庫県立こども病院小児集中治療科1),同 神経内科2)
石田 貴裕1)  宮下 徳久1)  青木 一憲1)  上田 拓耶2)  西山 将広2)  丸山 あずさ2)  黒澤 寛史1)

■キーワード
超難治性てんかん重積状態, 難治頻回部分発作重積型急性脳炎, イソフルラン吸入療法, アナコンダ®
■要旨
 難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS)は,発熱後に極めて難治性の焦点発作が頻回に認められる疾患であり,Febrile Infection-Related Epilepsy Syndrome(FIRES)やNew-onset refractory status epilepticus(NORSE)と類似する.AERRPSに伴う難治性てんかん重積(RSE)の標準治療としては,バルビツレートなどの静脈麻酔薬を用い,burst suppressionを目標とする治療法が挙げられる.しかし,治療抵抗性を示す症例も多く,長期間のburst suppression維持は認知機能低下のリスクを伴う.特に,従来の治療に抵抗性を示すAERRPS急性期の超難治性てんかん重積状態(SRSE)に対する確立された治療法はなく,その治療選択肢の一つとして,イソフルラン吸入療法が検討されているものの,有効性や安全性に関するデータは限られている.今回,AERRPS急性期のSRSEに対して,人工呼吸管理下でイソフルラン吸入療法を実施し,発作の制御に成功した学童例を経験した.本症例では,知的障害や運動障害をきたすことなく,通常学級への復帰が可能であった.イソフルラン吸入療法の有効性については未解明な点が多く,今後さらなる症例の集積が求められる.


【症例報告】
■題名
NBCAによる動脈塞栓術を施行したKCNT1変異を伴うてんかんの体肺動脈側副血管
■著者
佐世保市総合医療センター小児科1),同 放射線科2),長崎医療センター小児科3),長崎大学病院小児科4),Department of Neurology,The University of Arizona5)
大坪 善数1)  吉岡 佐千佳1)  有里 沙織2)  本田 涼子3)  里 龍晴4)  石井 敦士5)

■キーワード
n-butyl-2-cyanoacrylate, 体肺動脈側副血管, 気管支動脈塞栓術, 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん, KCNT1
■要旨
 KCNT1の病的変異を伴う遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん(EIMFS)は乳児期に発症する難治性てんかんであり,体肺動脈側副血管(APCA)による肺出血の報告が散見される.症例は10歳女児.出生直後からけいれん発作を認め,生後2か月で特徴的な脳波所見からEIMFSの診断に至り,生後3か月でKCNT1の病的変異が確認された.てんかん発作は難治に経過し,1歳で迷走神経刺激装置植込術,4歳で嚥下障害に対し喉頭気管分離術,5歳で胃瘻増設術を行った.その後は夜間の酸素投与のみで呼吸器依存ではなかった.10歳時に2日連続で気管内出血を認め,胸部造影CTで気管支動脈蔓状血管腫による肺出血と診断した.血管造影で右下枝,左上下枝の気管支動脈の屈曲・蛇行と肺動脈シャントを認め,金属コイル,ゼラチンスポンジでは確実な塞栓は困難と判断し,n-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)による塞栓術を施行した.塞栓術後の血管造影でシャント血流は消失し呼吸状態は安定した.
 NBCAは「医療用の瞬間接着剤」で,希釈濃度を変えることで柔軟な使用ができる液体塞栓物質である.気管支動脈蔓状血管腫などAPCAによる肺出血に対して肺葉切除,気管支動脈結紮術が行われるが,それらの侵襲度は高い.出血部位が多発性で再発率も高いEIMFSのAPCA症例においてNBCAは有用な塞栓物質となり得る.


【症例報告】
■題名
鼠径ヘルニア嵌頓が疑われた鼠径部化膿性リンパ節炎の乳児例
■著者
旭川医科大学小児科学講座1),同 外科学講座小児外科2)
津田 淳希1)  長森 恒久1)  佐藤 雅之1)  石羽澤 映美1)  目谷 勇貴2)  石井 大介2)  宮城 久之2)  高橋 悟1)

■キーワード
鼠径部化膿性リンパ節炎, 鼠径ヘルニア嵌頓, 臍炎, 超音波検査
■要旨
 鼠径部化膿性リンパ節炎は,鼠径ヘルニア嵌頓との鑑別を要する疾患である.鼠径ヘルニア嵌頓は腸閉塞や臓器壊死をきたす救急疾患である一方,鼠径部化膿性リンパ節炎では抗菌薬治療や穿刺排膿などの保存的治療が基本となる.我々は4例の鼠径部化膿性リンパ節炎を経験し,その臨床的特徴および超音波検査所見について検討した.4例中3例が鼠径ヘルニア嵌頓を疑われ当院小児外科へ紹介された.症例は1〜2か月児で,主訴は鼠径部の膨隆,発赤,圧痛であり,発熱を認めたのは1例のみであった.鼠径ヘルニア嵌頓で一般的に消化器症状を認めるが,鼠径部化膿性リンパ節炎では我々の症例を含めて,全例で消化器症状は認めなかった.また,3例で臍炎を合併していた.超音波検査において,鼠径ヘルニア嵌頓では腹腔内構造と連続する拡張した腸管や腸管壁の肥厚が特徴的であるのに対し,鼠径部化膿性リンパ節炎では腸管の脱出や連続性は認めず,腫大した低エコーのリンパ節および高エコーの皮下組織が特徴的であった.また臍炎は先行文献でも指摘されているように,本症の原因として考えられた.以上より,鼠径部症状を呈する患児の鑑別において,臍炎の有無,消化器症状の有無の確認,および超音波検査による腹腔内との連続性の評価が特に有用であることが示唆された.これらの所見を適切に評価することで,両疾患の迅速な鑑別診断が可能となり,それぞれの病態に応じた治療方針の決定に寄与すると考えられる.


【症例報告】
■題名
腸管嚢胞状気腫症を発症した重症心身障害児の2例
■著者
川口市立医療センター小児科1),同 小児外科2)
柳澤 俊樹1)  村山 美輝1)  兒玉 昭彦1)  瀧澤 千絵子1)  古川 晋1)  渡邉 浩太郎1)  金子 千夏1)  野村 敏大1)  原田 篤2)  酢谷 明人1)  前田 佳真1)  鈴木 智典1)  横山 達也1)  西岡 正人1)

■キーワード
腸管嚢胞状気腫症, 重症心身障害児, 腸重積, 酸素吸入療法
■要旨
 腸管嚢胞状気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis:PCI)を発症した重症心身障害児の2例を経験した.1例目は乳幼児揺さぶられ症候群(生後3か月)の既往がある14歳女子.腹部膨満を主訴に当院を受診,注腸造影検査,下部消化管内視鏡検査,腹部CT検査を行い,PCIの診断となった.酸素吸入療法を施行し改善した.2例目は脳性麻痺の既往がある9歳女児.血便,胃内残量の増加,間欠的腹痛を認め,腹部超音波検査で腸重積が疑われた.注腸造影で先進部が下行結腸に位置する腸重積を認めたが整復できず,観血的腸重積整復術を行った.術中上行結腸から直腸にかけて広範な腸管気腫を認めた.術後は酸素吸入療法を施行し,気腫性病変は改善した.
 国内外10例の検討から重症心身障害児のPCI例の特徴として,手術を要した割合が高いことが挙げられた.重症心身障害児は自覚症状の訴えが困難なことが多く,重篤な合併症を生じるまでPCIに伴う症状が気付かれない可能性がある.そのため,PCIを生じる明らかな原因がない場合,無症状でも酸素吸入などのPCIに対する治療開始を検討する必要があると考える.


【症例報告】
■題名
長期の静脈栄養による腎障害で血液透析を導入したHirschsprung病類縁疾患
■著者
淀川キリスト教病院小児科1),新大阪バスキュラーアクセス日野クリニック2),淀川キリスト教病院腎臓内科3)
成田 一喜1)  小西 恵理1)  浦上 可奈子1)  小泉 美紀子1)  森田 崇1)  西原 正人1)  日野 裕2)  冨田 弘道3)  吉田 俊子3)

■キーワード
Hirschsprung病類縁疾患, 腸管機能不全, 在宅静脈栄養, 腎代替療法, 血液透析
■要旨
 腸管機能不全で長期に静脈栄養が行われている場合のリスクのひとつとして腎障害があるが,小児期の診療においては認識されていないことも多い.また,原疾患によっては,その合併症のため,腎代替療法の選択と導入に難渋することもある.今回,新生児期からの腸管機能不全・長期静脈栄養に合併する腎障害に対して,成人期に血液透析を導入して安全に実施できたHirschsprung病類縁疾患の症例を経験した.
 症例は,慢性特発性偽性腸閉塞症のため乳児期から腸瘻造設状態,在宅静脈栄養管理中の36歳男性.繰り返すカテーテル関連血流感染症の既往と脱水エピソードの反復があり,徐々に腎機能が低下していた.倦怠感と顔面・下腿浮腫の増強を主訴に受診し,末期腎不全と診断され加療目的に入院した.腎代替療法が必要であったが,腹膜透析は腹膜癒着のため困難で,腎移植は免疫抑制剤による感染リスクの増大が懸念されたため,導入可能なのは血液透析のみと考えられた.長期にわたる中心静脈カテーテル留置のため上半身の主要静脈と下大静脈に高度の狭窄があり,バスキュラーアクセスの作製に難渋した.Hirschsprung病類縁疾患で新生児期から長期に静脈栄養管理が行われる場合は,将来的に腎障害を合併するリスクがあり,小児期から腎機能に注目し,定期的なモニタリングや脱水・カテーテル感染予防に努める必要がある.


【短報】
■題名
COVID-19パンデミック以降の川崎病発症数の特徴的な推移
■著者
千葉市立海浜病院小児科
鋪野 歩  杉田 恵美  小玉 隆裕  金澤 正樹  寺井 勝

■キーワード
川崎病, COVID-19, 呼吸器感染症
■要旨
 2017年から23年における単施設における川崎病,呼吸器感染症,尿路感染症の患者数を後方視的に調査した.感染対策により呼吸器感染症の入院数は2020年に減少し,2023年5月のCOVID-19の5類感染症移行とともに増加したが,尿路感染症は変動がなかった.川崎病の患者数のピークの一部は,呼吸器感染症の患者数のピークが先行しており,呼吸器感染が川崎病発症に関与する報告を支持する結果となった.年齢別分布はCOVID-19流行以前と同様となっており,感染対策の緩和により,川崎病の発症数は増加したが,年齢別分布は回帰していることが示唆された.


【論策】
■題名
小児集中治療室で働く医師,看護師のバーンアウトとモラルディストレス
■著者
上智大学総合人間科学部博士後期課程心理学専攻1),同 心理学科2)
西村 奈穂1)  横山 恭子2)

■キーワード
小児集中治療室, バーンアウト, モラルディストレス, 終末期
■要旨
 [はじめに]医療者のバーンアウトは医療者個人の精神面,身体面だけでなく,患者管理に影響を及ぼし得る.
 [方法]2施設のPICUで働く医師と看護師を対象として質問紙調査を行った.
 [結果]医師30名,看護師50名から回答を得た.バーンアウトの3つの下位尺度得点(中央値(四分位範囲))は,情緒的消耗(Emotional exhaustion)26.0(14.8〜37.0),脱人格化(Depersonalization)6.0(3.0〜11.3),個人的達成感の低さ(Personal accomplishment)23.5(16.0〜32.0),モラルディストレススコアは,102.5(63.0〜143.0)であった.バーンアウトのリスク分類全てにおいてhigh riskを満たしたのは20人(25%)であった.医師と看護師でモラルディストレススコアに差はなく,共通して高い項目として終末期と引き継ぎの場面があった.ストレスを感じた時に取る対処法として「趣味をする」,「所属部門長もしくは指導を仰ぐ先輩と話す」ことは低いレベルのバーンアウトに関連し,「ストレスを無視する」ことは高いレベルのバーンアウトに関連していた.
 [結語]日本のPICUにおけるバーンアウトは諸外国等と比較して同等以上であり,モラルディストレスと相関が認められた.モラルディストレスが高い項目として終末期と引き継ぎの場面があり,モラルディストレスは物質や人的介入にて緩和される可能性が示唆された.

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