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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:24.11.18)
第128巻 第11号/令和6年11月1日
Vol.128, No.11, November 2024
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第127回日本小児科学会学術集会 |
教育講演 |
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小枝 達也 1379 |
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落合 正行 1385 |
3. |
小児の症例報告をどのように発信していくのか?
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保科 隆之 1388 |
原著総説 |
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小松 陽樹 1394 |
原 著 |
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鷲見 英里子,他 1410 |
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村田 陽,他 1415 |
症例報告 |
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井上 賢治,他 1423 |
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西島 孝治,他 1429 |
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榊原 康久,他 1437 |
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玉井 資,他 1443 |
論 策 |
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倉田 敬,他 1449 |
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地方会抄録(群馬・滋賀・東京・福島・宮城・栃木・富山・佐賀・長崎)
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1454 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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1495 |
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日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2024年66巻9月掲載分目次
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1498 |
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1500 |
【原著総説】
■題名
小児の軽症頭部外傷における頭部CT適用の臨床意思決定ルールと課題
■著者
小松こどもクリニック 小松 陽樹
■キーワード
医療被ばく, clinical decision rule, 予測危険因子, 線状骨折, 共有意思決定
■要旨
Computed tomography(CT)による医療被ばくが小児の発がんリスクを増加させる.海外では不要なCT施行の削減を目指し,小児の軽症頭部外傷に対して複数の臨床意思決定ルール(clinical decision rule:CDR)が開発されている.いずれのCDRもCTが必要と考えられる臨床的に重要な頭部外傷への感度は高いが,包含基準,除外基準,主要評価項目,予測危険因子の定義,が異なるためCDRの個別の適用条件を十分理解する必要がある.CDRの役割は診断の補助であり,専門医の臨床診断に取って代わる道具ではない.小児頭部外傷に多い線状骨折はCDRの評価対象ではなく,CDRにてCTが推奨されない場合でも,外傷によるCTの異常所見は存在する.CDRの単純な導入のみではCT施行率は減少しないため,CDR実行への障害を取り除く支援策が不可欠である.CT施行の是非はCDRのみで判断せず,医師と両親(代諾者)との意思決定の共有(shared decision-making:SDM)により結論を出す事が推奨される.SDMにも両親が頭部外傷や医療被ばくの知識を深める支援ツールが必要である.小児軽症頭部外傷CDRの普及は重要だが,医師の臨床診断成績の精査も必要である.そして,「どの」CDRを「誰」が「どのように」使用すべきか議論する必要がある.
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【原著】
■題名
NICUに入院中の乳児では亜鉛華軟膏塗布により血清亜鉛値が上昇する
■著者
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院小児科1),同 新生児科2) 鷲見 英里子1) 真島 久和1) 服部 俊彦1) 山田 崇春2) 幸脇 正典2) 田中 太平2)
■キーワード
亜鉛華軟膏, おむつ皮膚炎, 高亜鉛血症, NICU, 嘔吐
■要旨
【背景・目的】当院NICUにおいて,おむつ皮膚炎に対し亜鉛華軟膏を塗布した乳児の中で,高亜鉛血症を認める患者を経験した.そこで,亜鉛華軟膏塗布による血清亜鉛値の変動について後方視的に検討した.【対象・方法】2016年4月から2023年3月までの間に当院NICUに入院した症例のうち,入院中に亜鉛華軟膏を塗布し,その前後で血清亜鉛値を測定した症例を対象とした.対象期間中に酢酸亜鉛水和物の内服量を変更した症例や,中心静脈栄養を行った症例を除外した.主要評価項目は亜鉛華軟膏塗布開始前後での血清亜鉛値の変動とした.副次評価項目は塗布期間中における嘔吐回数の増加とした.【結果】17例が対象となり,血清亜鉛値は亜鉛華軟膏塗布前の中央値(四分位範囲)が74.0 μg/dL(66.0〜78.0 μg/dL),塗布後が123.0 μg/dL(85.0〜292.0 μg/dL)で,塗布後に有意に上昇していた(p=0.0013).高亜鉛血症(>130 μg/dL)となったのは8例であった.亜鉛華軟膏塗布期間中に嘔吐回数の増加を認めたのは2例で,そのうち1例が高亜鉛血症であった.【結論】NICUの乳児では亜鉛華軟膏塗布により有意に血清亜鉛値が上昇した.高亜鉛血症との関連性が否定しきれない嘔吐が確認された症例もあるため,高亜鉛血症を生じる可能性があるという認識を持って亜鉛華軟膏を使用することが望まれる.
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【原著】
■題名
HPVワクチンに対する中学生の意識および学校教育を活用した情報提供の有用性
■著者
東京都立多摩北部医療センター小児科 村田 陽 斎藤 雄弥 宮本 知奈美 小保内 俊雅
■キーワード
HPVワクチン, 子宮頸がん, 学校教育, ワクチン忌避, 子どもの意見表明権
■要旨
ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)ワクチンは本邦では定期接種だが接種率は低い.本研究では中学2年生におけるHPVワクチンの知識と学校の授業でのHPVワクチンの情報提供の有用性を検討した.東村山市立中学校4校に在籍する中学2年生女子生徒と男子生徒を対象とした.2023年度のがん教育授業でHPVワクチンの情報提供を行い,授業前後でアンケートを行った.女子278名,男子224名からアンケートを回収した.授業前では女子におけるHPVワクチンの有効性に関する認知度は53%であり,定期接種対象者が主に中学生女子であることに関する認知度は34%だった.一方男子ではそれぞれ19%,8%だった.HPVワクチンに関する情報源は女子では親・家族が最も多く,テレビ・ラジオが続いた.授業後HPVワクチン授業を希望する生徒の割合は女子で89%,男子で86%だった.HPVワクチン接種に関心を持つ生徒の割合は女子では授業前53%だったが授業後89%に上昇し,男子では31%が75%に上昇した.本研究では中学生へのHPVワクチンに関する情報提供は不十分であることが示唆された.また授業を活用した情報提供は中学生のHPVワクチンに関する知識の理解および意識変容に有効だった.学校教育での情報提供はHPVワクチン接種率改善につながる可能性が示唆される.
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【症例報告】
■題名
新たな治療薬による酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の治療経験
■著者
滋賀県立小児保健医療センター 井上 賢治 楠本 将人 寺崎 英佑 石原 万理子 加藤 竹雄
■キーワード
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症, 肝脾腫, 酵素補充療法
■要旨
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)は,スフィンゴミエリンをセラミドとホスフォコリンに加水分解する酵素である,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の酵素活性欠損により,肝臓,脾臓,骨髄,脳,肺胞など全身にスフィンゴミエリンが蓄積するライソゾーム病である.ASMDは神経症状と肝脾腫で大半が3歳までに死亡する最重症型である乳児内臓神経型,幼児期から成人期に肝脾腫などの臓器障害で発症し緩徐に進行する神経症状のない慢性内臓型,両者の中間型である慢性内臓神経型に分類される.ASMDの治療はこれまで対症療法しかなかったが,2022年から疾患特異的治療として酵素補充療法が可能となった.
患者は左季肋部違和感と疼痛,ASM酵素活性低値により前医でASMDと診断された11歳のネパール人男児で,酵素補充療法目的に当院に紹介となった.患者は神経学的異常所見のない慢性内臓型ASMDで,発育不良,肝脾腫,肺間質性陰影,肝機能障害,低HDLコレステロール血症など脂質異常症を認めた.オリプダーゼ アルファによる酵素補充療法開始31週目で全ての所見が改善傾向にあり,治療薬による副作用はこれまでない.
酵素補充療法は早期治療が特に有効であるが,早期診断のためには肝脾腫や低HDLコレステロール血症などからASMDを疑って検査を行う必要がある.ASMDを治療可能である疾患として認識し診療を行うことが望まれる.
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【症例報告】
■題名
保育者による海外製サプリメントの不適切投与で生じたビタミンD中毒の学童
■著者
黒部市民病院小児科 西島 孝治 西橋 祐樹 眞島 星利奈 中坪 久乃 渡辺 一洋
■キーワード
ビタミンD中毒, 高カルシウム血症, サプリメント, 海外製品, インターネット
■要旨
ビタミンDが蓄積し中毒に至ると高カルシウム血症が生じる.中毒の背景として,成人では高齢者を中心にビタミンD製剤の処方による報告や腎機能低下に伴うリスクもあげられている.小児で検索した限り,海外ではサプリメントによる中毒が2019年から2023年の間で26人報告されているが,国内では医療機関での処方による中毒が4人報告されているのみである.
今回,家族がインターネットでサプリメントを購入し,基準の250倍のビタミンDを児に摂取させ中毒に至った.倦怠感や悪心を訴え受診した際,血清カルシウム14.0 mg/dLと高カルシウム血症がみられ,25位水酸化ビタミンD 701 ng/mLと増加がみられた.高カルシウム血症の改善後も中毒域のビタミンDの正常化に2か月を要し,再発のリスクを危惧しフォローアップした.
インターネットを通じ海外製品を含めサプリメントを容易に使用できる現状では,医療者は家庭内で中毒に至るほどサプリメントを内服する可能性も考慮すべきである.ビタミンDの有効性に関心が高まる一方,中毒による危険性について関心は低く,ビタミンDの摂取を勧める際は正確な情報提供をおこなうとともに継続的な評価が不可欠である.サプリメントの過剰摂取による脂溶性ビタミンの中毒の可能性を社会に啓発し再発防止に努めると共に,中毒の経緯に応じて介入し親子の信頼関係を守っていくことも医療の役割である.
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【症例報告】
■題名
蜂窩織炎様症状を認めた小児Buruli潰瘍
■著者
市立砺波総合病院小児科1),同 形成外科2) 榊原 康久1) 岩田 茉由1) 山田 恵子1) 林 瑶2) 海老沢 武志2) 上野 輝夫2) 小西 道雄1)
■キーワード
Buruli潰瘍, Mycobacterium ulcerans, 非定型抗酸菌感染症, 蜂窩織炎, 皮膚壊死
■要旨
Buruli潰瘍は世界で3番目に多い抗酸菌感染症であるが,国内の認知度は低く,広範囲の病変は手術治療を要す.虫刺症後の潰瘍と蜂窩織炎様症状で発症した症例を報告する.
7歳女児,11月に蚊と思われる虫に左前腕を刺された.同部の発赤が持続し,11月末には黒色痂皮へと変化した.翌年1月からは潰瘍化とその周囲に蜂窩織炎様症状を認め,抗菌薬治療では改善せず当院に転院.皮膚生検では広範な壊死があるも,炎症細胞浸潤や肉芽腫病変は認めなかった.そのため抗酸菌染色は当初省略されていたが,Buruli潰瘍との鑑別のため,緊急で染色を行い皮下組織に抗酸菌の集塊を認めた.潰瘍部全体のわずかな滲出液によるスタンプ標本でも同様の抗酸菌を検出した.Buruli潰瘍と臨床診断し,抗菌薬3剤を開始した.生検検体の抗酸菌培養では30°Cの培養を追加し,8週目に陽性となった.質量分析法ではMycobacterium marinumと誤判定された.抗菌薬開始5週目にデブリードマン手術を行い,切除検体を用いたポリメラーゼ連鎖反応検査から確定診断した.
抗菌薬治療で改善しない虫刺症後の持続する皮下結節,無痛性皮膚潰瘍や蜂窩織炎には早期にBuruli潰瘍を想定し,原因菌であるMycobacterium ulceransを検出するためには通常とは異なる抗酸菌検査が必要である旨を各部門へ情報提供することが重要である.
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【症例報告】
■題名
辺縁系脳炎と鑑別を要した大量服薬によるジフェンヒドラミン中毒の15歳男子例
■著者
豊後大野市民病院小児科1),大分大学医学部小児科2) 玉井 資1) 小林 修2) 拜郷 敦彦1) 前田 知己2) 井原 健二2)
■キーワード
小児, 意識障害, ジフェンヒドラミン, 急性中毒, OTC医薬品
■要旨
ジフェンヒドラミン(以下,DPH)は,第1世代抗ヒスタミン薬で,処方箋なしで購入可能なover-the-counter drug(以下,OTC医薬品)である.我々は,OTC医薬品によるDPH中毒を経験したため報告する.症例は生来健康な15歳男子.起床後に室内をせわしなく動き回りペットの餌を部屋中にまき散らす行動異常に家族が気付き,当院を受診した.発熱,意識障害,行動異常から,急性脳炎・脳症を疑い高次医療機関に搬送した.髄液検査に異常はなかったが,頭部MRIで海馬の左右差を認めた.簡易尿中薬物検査で,三環系抗うつ薬が陽性だった.臨床症状と画像所見から辺縁系脳炎を疑ったが,入院7時間後に意識清明となり,その後,本人の申告と血中薬物分析からDPH中毒と診断した.DPH中毒は抗コリン作用による症状や中枢神経症状を呈すが,薬剤特異的な症状・身体所見がない点,簡易尿中薬物検査で検出できない点から,大量服薬した情報がなければ診断が難しい.Social Networking Serviceで,自殺や快楽目的のDPH使用が紹介されており,OTC医薬品が入手しやすい点からも,若年者のDPH中毒の増加に注意が必要である.脳炎・脳症を想定する臨床症状や画像異常を認めた場合でも,急性に生じた若年者の意識障害は,DPH中毒も鑑別疾患に挙げ,診断のために急性期の尿や血液の検体を確保しておくことが重要である.
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【論策】
■題名
小児がん患者における終末期の緩和ケアを行う病室の調査
■著者
長野県立こども病院血液腫瘍科1),九州大学医学部小児科2),第一薬科大学看護学部3),国立成育医療研究センター小児がんセンター4),子ども在宅クリニックあおぞら診療所せたがや5) 倉田 敬1) 古賀 友紀2) 濱田 裕子3) 大隅 朋生4)5)
■キーワード
小児がん, 緩和ケア, 終末期医療, 在宅医療
■要旨
終末期の小児がん患者の看取りの場としての治療病床以外の部屋や施設(以下緩和病室とする)の調査を行った.全国の小児がん拠点病院・連携病院と小児がん患者のための緩和病室を有する施設を対象にアンケートを行い,8施設が緩和病室を有することがわかった.緩和病室のうち病棟内設置型が4施設,独立型が3施設,緩和ケア病棟内設置型が1施設だった.この8施設に対し病室の詳細,看取りの実績,現状の問題点について調査した.病棟内設置型では入院中死亡患者のほとんどが緩和病室で看取られていたが,急性期患者との兼務のため,終末期の患児に対するケアの不足感や,想定よりも高度のケアを要することによるスタッフの疲弊が課題だった.独立型では輸血等の処置の是非が課題だったが,看取りに特化した点は優れていた.緩和ケア病棟内設置型では転棟のタイミングやスタッフの小児・家族に対する対応の困難感が課題として挙げられた.また小児がん拠点病院・連携病院に対する一次調査で自院以外の施設での小児がん患者の看取りを依頼した経験があると答えた37.5%の施設に対し二次調査を行った.他施設に小児がん患者の看取りを依頼する際には89.2%の施設が積極的治療終了時に紹介し,82.1%が地域連携室を経由していた.小児がん施設は移行後もバックアップ体制を取ることが重要で,小児がん患者の看取りに関する研修会の開催も求められていることがわかった.
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