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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:24.8.22)

第128巻 第8号/令和6年8月1日
Vol.128, No.8, August 2024

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原著総説

脳保護のための小児神経集中治療

西山 将広,他  1031
原  著
1.

地域中核病院における非専門医による子どもの心の診療の体制構築に向けての調査研究

斎藤 雄弥,他  1045
2.

プレドニゾロンまたはシクロスポリンによる川崎病初期併用治療の有効性と安全性

古賀 健史,他  1053
症例報告
1.

乳児期に軟膜下出血を合併した脳血管奇形の2例

野村 大樹,他  1060
2.

寛解導入療法中にサイトカインストーム型急性脳症を発症した乳児白血病

村澤 玲奈,他  1065
3.

レボチロキシン吸収試験で偽吸収障害と診断された重症甲状腺機能低下症の思春期女子

今川 有香,他  1071
4.

冠動脈拡大を伴い川崎病ショック症候群と鑑別を要したトキシックショック症候群

松岡 高弘,他  1078
論  策

COVID-19流行からみえた地方における小児施設間搬送事業の課題

黒坂 了正,他  1084

地方会抄録(長崎・山口・宮城・広島・熊本・鹿児島・福岡・栃木)

  1089

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2024年66巻6月掲載分目次

  1125

日本小児科学会分科会一覧

  1127

日本小児科学会分科会活動状況

  1128


【原著総説】
■題名
脳保護のための小児神経集中治療
■著者
兵庫県立こども病院神経内科1),同 小児集中治療科2),神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学3)
西山 将広1)3)  青木 一憲2)  黒澤 寛史2)  丸山 あずさ1)  永瀬 裕朗3)

■キーワード
脳血流, 体温, てんかん発作, 脳浮腫, モニタリング
■要旨
 我が国においても小児集中治療室(PICU)が増え,重症例を集中的に治療する体制が整ったことにより,従来は救命困難であった患者を救うことができるようになった.しかし,救命されても重篤な神経学的後遺症を残す小児は多く,脳保護の視点に立った小児神経集中治療が求められるようになってきた.脳損傷のメカニズムは複合的かつ連鎖的な過程であり,低酸素や脳灌流遮断に加えて,脳浮腫,炎症,興奮性アミノ酸蓄積,酸化ストレス亢進,ミトコンドリア機能不全などが複雑に関わりあいながら,エネルギー源であるアデノシン三リン酸が枯渇すると神経細胞死に至る.脳保護のメカニズムとしては,二次性損傷が生じる時期に脳内に安定的に酸素を供給するとともに,脳内での酸素需要を抑制することが重要であり,脳血流量の安定,頭蓋内圧の低下,体温管理,てんかん発作重積の回避などを達成するための治療戦略が試みられる.PICUに入室する全ての患者が潜在的には脳保護の対象となりうるが,そのうち後遺症の危険性が高い患者を選別し,防ぎうる脳損傷を同定するための評価とモニタリングが重要である.脳保護のためには早期介入による治療効果が高く,PICUに到達する前段階の救急外来や病院到着前の対応も重要である.後遺症なき退院のためには,小児神経集中治療の概念の普及と,小児神経学と集中治療医学の学際的な取り組みが求められ,小児医療に関わるあらゆる医療者が脳保護の視点を有することが必要である.


【原著】
■題名
地域中核病院における非専門医による子どもの心の診療の体制構築に向けての調査研究
■著者
東京都立多摩北部医療センター小児科
斎藤 雄弥  大澤 由記子  小保内 俊雅

■キーワード
心の診療医, 専門医, 非専門医, 自閉スペクトラム症, 注意欠如・多動症
■要旨
 心の問題をもつ子どもへの体制の充実が求められているが,対応する医師や医療機関の不足が問題視されている.当院では,小児精神神経学会認定医,日本児童青年精神医学会認定医や小児神経専門医,またはそれを標榜する医師(専門医)が診療を行っていたが,2020年より一般小児科医(非専門医)が中心に診療を行っている.今回,専門医の在籍の有無と患者数,向精神薬の処方,診療報酬の関連について検討した.2011年4月から2023年3月の間に心の問題で外来を受診した者を対象とした.対象となった心の診療患者は1,948名で,担当は専門医1,258名(64.6%),非専門医690名(35.4%)であった.患者数が最も多かった2016年と,専門医が最も少なかった2021年(オッズ比0.04;95%信頼区間 0.023〜0.068)を比較すると,心の診療の初診患者数は226名から191名に減少したが,外来患者に対する心の診療患者の割合は増加(オッズ比2.07;95%信頼区間 1.69〜2.54),向精神薬の処方割合は減少傾向(オッズ比0.58;95%信頼区間 0.34〜1.00),小児特定疾患カウンセリング料取得割合は変化なかった(オッズ比1.07;95%信頼区間 0.73〜1.57).一般小児科医で心の診療の体制を整えることで初診患者数,診療報酬加算を維持することができている.今後,診療の質の評価,検討が課題である.


【原著】
■題名
プレドニゾロンまたはシクロスポリンによる川崎病初期併用治療の有効性と安全性
■著者
埼玉医科大学病院小児科
古賀 健史  田中 萌子  浦丸 知子  龍野 のぞみ  大滝 里美  吉村 萌  田端 克彦  秋岡 祐子

■キーワード
初期併用治療, 経口シクロスポリン, プレドニゾロン, 免疫グロブリン静注療法不応, 川崎病
■要旨
 川崎病免疫グロブリン静注不応予測スコア高リスク例に対する初期併用治療は,プレドニゾロン(PSL)とシクロスポリン(CsA)が推奨されている.しかし,その有効性や安全性を比較した報告は存在せず,臨床的な優越性は不明である.本研究はRAISE studyに則ったPSL併用治療(PSL群:2018〜2019年)と,KAICA trialに則ったCsA併用治療(CsA群:2020〜2021年)を後方視的に比較し,臨床的優劣性と安全性を検討した.さらに,適切なコントロールを目指し,CsA血中濃度動態を評価した.結果,解熱までの期間の中央値はPSL群9時間,CsA群8時間であった.CsA群はPSL群と比較し,急性期治療期間が短く,有害事象発生率が低かった.一方,CsA群は再燃率が高かった(PSL群15%,CsA群43%).冠動脈病変発生率は非劣勢であった.CsA血中濃度動態は14名中9名でC1にピークを認め,血中薬物濃度時間曲線化面積(AUC0-4)と投与後1時間値(C1)は高い相関を示した(r2=0.842).CsA群の1名で投与2日目に頭痛と嘔気を訴えた.この症例のCsA投与3日目のトラフ値(C0)が202 ng/mLと高値であったため投与量を減量した.本研究ではCsA併用治療は急性期治療期間短縮化と有害事象発生を減少させることが判明した.また,CsAでは年齢層や病態を考慮した,より適切なモニタリング法を検討していく必要がある.


【症例報告】
■題名
乳児期に軟膜下出血を合併した脳血管奇形の2例
■著者
安城更生病院小児科
野村 大樹  岡本 尚樹  竹尾 俊希  鈴木 道雄  深沢 達也  服部 哲夫  加藤 有一  宮島 雄二  久保田 哲夫

■キーワード
軟膜下出血, 表在脳実質性軟髄膜出血, Subpial hemorrhage, Spontaneous superficial parenchymal and leptomeningeal hemorrhage
■要旨
 脳実質外出血の中で,くも膜下出血や硬膜下血腫,硬膜外血腫に比べ,軟膜下出血の認知度は低い.新生児領域では軟膜下出血の報告が近年増加しているが,均一な疾患群としての報告は少なく,小児期においての報告はほとんど無い.家族性海綿状血管腫を合併した6か月児,脳動静脈奇形の1か月児の2症例で軟膜下出血の合併を認めた.不浸透性の軟膜下の出血は脳実質を圧排し皮質に障害をもたらす可能性がありうる.我々小児科医はまだ不明な点が多いこの軟膜下出血の存在を認知すべきである.


【症例報告】
■題名
寛解導入療法中にサイトカインストーム型急性脳症を発症した乳児白血病
■著者
聖路加国際病院小児科1),同 放射線科2)
村澤 玲奈1)  足洗 美穂1)  吉原 宏樹1)  梅原 直1)  小野 林太郎1)  細谷 要介1)  野崎 太希2)  横山 美奈1)  小澤 美和1)  長谷川 大輔1)

■キーワード
白血球増多症, 急性白血病, 腫瘍崩壊症候群, サイトカインストーム, 急性脳症
■要旨
 白血球増多症を伴う急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)は,leukostasis,腫瘍崩壊症候群,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC)などの合併症に関連した早期死亡のリスクが高い.中枢神経合併症としては頭蓋内出血など脳血管障害が知られているが,急性脳症は稀である.
 症例は2か月の男児.初診時白血球58万/μLと著明な白血球増多症と肝脾腫を認めた.KMT2A遺伝子再構成陽性のB細胞/単球型混合表現型急性白血病の診断で,少量シタラビンで化学療法を開始し漸増後にエトポシドを追加した.Day 4に急激な腫瘍崩壊に伴ってDICと共に全身性炎症反応症候群を呈した.意識障害とけいれん発作を認めるようになり,day 9の頭部MRI検査で皮髄境界の不明瞭化,びまん性脳浮腫を認めた.血清で各種炎症性サイトカインが高値を示したこととあわせて,サイトカインストーム型急性脳症を来たしたと考えられた.
 単球系AMLは高サイトカイン血症を来しやすいとされる.本症例は単球系AML細胞が半数を占める混合表現型急性白血病であり,腫瘍崩壊の際に生じたサイトカインストームにより急性脳症に至ったと推察された.白血球増多症を伴う単球系AMLにおいてはサイトカインストームによる合併症に留意して初期治療を行う必要がある.


【症例報告】
■題名
レボチロキシン吸収試験で偽吸収障害と診断された重症甲状腺機能低下症の思春期女子
■著者
茨城県立こども病院小児科1),筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター水戸協同病院内分泌代謝・糖尿病内科2)
今川 有香1)  出澤 洋人1)2)  泉 維昌1)

■キーワード
甲状腺機能低下症, 偽吸収障害, Pseudomalabsorption, レボチロキシン, 吸収試験
■要旨
 甲状腺機能低下症の診療で,十分な内服量を処方されているにも関わらず検査所見や症状の改善が乏しいことはしばしば経験される.その中で偽吸収障害と真の吸収障害との鑑別は時に容易ではない.
 今回,甲状腺全摘出術後に重症甲状腺機能低下症をきたし,レボチロキシン吸収試験で偽吸収障害と診断できた13歳女子を経験したため報告する.
 患児は,12歳10か月時にBasedow病と診断され,チアマゾール15 mg/dayの内服を開始された.その後,ヨウ化カリウムを併用,チアマゾールも漸増し60 mg/dayとしたが,甲状腺中毒症が改善せず,13歳3か月で甲状腺全摘出術を施行された.その後,レボチロキシン100 μg/dayの内服をしていたが甲状腺機能低下症を認め,レボチロキシンを300 μg/dayまで漸増されたがTSH 21.410 μIU/mL,FT4 <0.40 ng/dLと増悪した.吸収不全の可能性も考慮され13歳7か月時に入院でレボチロキシン投与による吸収試験を施行された.吸収試験の結果から偽吸収障害と診断され,母とともに説明を受けた.その後はレボチロキシン100 μg/dayの内服にて良好な経過で過ごしている.
 十分な内服量を処方しても改善しない重症甲状腺機能低下症をきたした症例は坐薬や注射製剤等の変更にすすむ前に,レボチロキシン吸収試験で真の吸収障害を鑑別することを推奨する.


【症例報告】
■題名
冠動脈拡大を伴い川崎病ショック症候群と鑑別を要したトキシックショック症候群
■著者
東京医科歯科大学小児科
松岡 高弘  伊良部 仁  金子 修也  真保 麻実  清水 正樹  森尾 友宏

■キーワード
川崎病, 川崎病ショック症候群, トキシックショック症候群, TCR Vβレパトア解析
■要旨
 川崎病の代表的な合併症として冠動脈の拡大や瘤形成が知られている.リウマチ性疾患やウイルス感染症といった種々の急性熱性疾患でも冠動脈拡大を呈することが報告されており,必ずしも川崎病に特異的な所見ではない.今回,川崎病ショック症候群との鑑別を要した冠動脈拡大を伴うトキシックショック症候群の1例を経験した.トキシックショック症候群は多臓器障害を呈する重症炎症症候群であり,主としてブドウ球菌が産生するToxic shock syndrome toxin-1,staphylococcal enterotoxins等のスーパー抗原が発症に関与する.発熱や発疹,リンパ節腫脹といった臨床症状は,川崎病や他の感染症と共通する部分が多く,しばしば鑑別に難渋する.本症例ではフローサイトメトリーによるT細胞受容体Vβレパトア解析がトキシックショック症候群の診断に有用であった.適切な診断に基づく治療方針の決定は予後に影響を与える可能性があり,小児熱性疾患においては個々の病態の考察を丁寧に行う必要がある.


【論策】
■題名
COVID-19流行からみえた地方における小児施設間搬送事業の課題
■著者
長野県立こども病院小児集中治療科1),東京大学医学部附属病院小児科2)
黒坂 了正1)  北村 真友1)  松井 彦郎2)

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, 小児施設間搬送
■要旨
 【背景】少子化の進む日本において,コロナウイルス感染症2019(COVID-19)に対する感染流行政策は,小児重症患者の診療体制を含めた小児医療に大きな影響を与えた.
 【目的】長野県において,COVID-19流行による小児重症患者の集約化を目的とした施設間搬送事業への経済的影響を分析し,地方における小児重症患者搬送に関する今後の方向性を検討する.
 【方法】長野県内でCOVID-19陽性患者が出現した2020年2月を境に流行前24か月間と流行後24か月間の収支を後方視検討した.
 【結果】施設間搬送の件数は,流行前で502件,流行後で334件と流行に伴って減少した.流行前後における搬送件数の減少率は新生児搬送に比べて小児搬送で有意に高かった(P = 0.001).収支差額は流行前の19,487,123円の支出超過に比べ,流行後は25,683,290円の支出超過となり32%悪化した.
 【結語】小児医療の集約化に重要な役割を果たしている小児施設間搬送事業は,地方において小児重症診療を維持するためには,公的な事業支援による持続可能な体制の構築が重要であると考えられた.

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