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日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:24.3.21)

第128巻 第3号/令和6年3月1日
Vol.128, No.3, March 2024

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第126回日本小児科学会学術集会
  教育講演

希少疾病における臨床試験・治療開発の留意点

中村 秀文  435
日本新生児成育医学会推薦総説

ファミリーセンタードケアとは何か

小田 新  443
日本小児神経学会推薦総説

小児科医と学校教諭の連携による,小児を対象とするゲノム医学普及啓発活動

小林 朋子  453
原  著
1.

小児専門3次救急医療機関単一施設における頭蓋内膿瘍の後方視的研究

山木 亮一,他  461
2.

3歳児健診におけるSpot Vision Screenerを用いた眼科検査の効果

濱田 詩織,他  468
症例報告
1.

心室中隔欠損の経過観察から脱落したために急性循環不全に陥った右室二腔症

荻野 梨恵,他  475
2.

9年間におよぶ酵素補充療法を実施した周産期重症型低ホスファターゼ症

浅沼 秀臣,他  481
3.

低アルブミン血症を契機に診断に至った全身性エリテマトーデスに合併したCrohn病

石井 結香,他  488
短  報

花粉症への効果をほのめかす健康茶のデキサメタゾン含有が判明した経緯

高桑 聖  494
論  策

プレパレーションに配慮した小児服薬指導タブレットアプリケーションの試用と課題

永井 絵里子,他  497

編集委員会への手紙

  507

地方会抄録(高知・鹿児島・熊本・福井・愛媛)

  509

訂正

  519

お知らせ 専門医試験結果

  521
専門医にゅ〜す No. 22

小児科専門医認定期間の変更について

  523
専門医にゅ〜す No. 23

小児科領域専門医更新基準改訂に伴う専門医共通講習の必修講習の追加について

  524
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 138 加湿セラミックファンヒーターへの灯油誤注入による蒸発した灯油の吸入

  525

No. 139 食品用ラップフィルムの用途外使用による窒息

  527

No. 140 クーハンからの墜落による頭部外傷 事例1,2

  529
日本小児科学会成育基本法推進委員会報告

研修基幹施設における成育基本法に関する意識調査

  535
日本小児科学会社会保険委員会報告

小児科における心身症・神経発達症領域の保険診療の現状と課題

  543
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告
  はじめの一本12

田舎の市中病院で執筆したはじめの1本

  552

日本小児科学会理事会議事要録

  554

査読者一覧

  564

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2023年65巻12月掲載分目次

  566

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2024年66巻1月掲載分目次

  566


【原著】
■題名
小児専門3次救急医療機関単一施設における頭蓋内膿瘍の後方視的研究
■著者
埼玉県立小児医療センター感染免疫・アレルギー科1),慶應義塾大学医学部小児科学教室2),埼玉県立小児医療センター脳神経外科3),同 外傷診療科4)
山木 亮一1)  大西 卓磨1)2)  上島 洋二1)  佐藤 智1)  栗原 淳3)  荒木 尚4)  菅沼 栄介1)

■キーワード
脳膿瘍, 硬膜外膿瘍, 硬膜下膿瘍, 髄膜炎, 副鼻腔炎
■要旨
 【緒言】小児の頭蓋内膿瘍は極めて重篤な疾患だが,まとまった報告は少ない.小児の頭蓋内膿瘍の臨床的特徴を検討するため後方視的研究を行った.
 【方法】2013年1月1日から2022年12月31日に当院で頭蓋内膿瘍(脳膿瘍,硬膜外膿瘍,硬膜下膿瘍)と診断された患者を対象に背景,臨床症状,検査結果,治療,経過について検討した.
 【結果】12名が該当し,年齢の中央値は10.5歳で男女比は1:1だった.原因疾患は副鼻腔炎5例,先天性心疾患3例,血液腫瘍疾患3例,歯性感染性疾患3例,髄膜炎3例,その他1例であった.症状出現から診断に至るまでの中央値は5日だった.外科的治療は7例,内科的治療のみ行ったのは5例だった.原因微生物が同定できたのは5例だった.抗微生物薬の投与期間の中央値は7.5週だった.予後は死亡1例,神経学的後遺症を残した症例は4例であり,症候性てんかん2例,片麻痺,高次脳機能障害が1例ずつだった.
 【結語】頭蓋内膿瘍は先天性心疾患や白血病を有する児に発症する重症感染症だが,生来健康な児でも副鼻腔炎や齲歯などから波及し発症することがあり注意が必要である.上記のような原因疾患があり,発熱や頭痛などの症状が遷延する場合は適切なタイミングでの画像評価が重要である.


【原著】
■題名
3歳児健診におけるSpot Vision Screenerを用いた眼科検査の効果
■著者
江別市立病院小児科1),江別市健康福祉部健康推進室保健センター2),川口クリニック3),あずま子ども家庭クリニック4),北海道医療大学生命基礎科学講座5)
濱田 詩織1)  鎌田 晃嘉1)  上村 恵子2)  佐藤 由美子2)  児島 栄弥子2)  川口 聡3)  東 克己4)  小川 泰弘1)  信太 知1)  西 基5)  梶井 直文2)

■キーワード
3歳児健康診査, 屈折検査, 弱視, スクリーニング, Spot Vision Screener
■要旨
 【緒言】3歳児健康診査(以下3歳児健診)における眼科検査は弱視の早期発見・治療の観点で重要だが,従来の絵カード検査や小児科医による診察は自覚的検査の不安定性,診察医が所見を正しく判断できない等の課題があり,他覚的検査の必要性が指摘されていた.我々は江別市3歳児健診の眼科検査に携帯型他覚的屈折検査装置Spot Vision Screener(以下SVS)を導入した.その効果を報告する.
 【方法】2018年4月1日から2019年3月31日までの3歳児健診受診者を比較群,2019年6月1日から2020年3月31日までの3歳児健診受診者をSVS実施群とした.比較群には問診・絵カード検査・診察を,SVS実施群には比較群の内容に加えSVSの検査を行い,異常を認めた者を眼科精密検査対象者(以下精検対象者)とした.精検対象者は眼科医療機関に紹介,このうち要経過観察と判定された者は2021年3月時点の通院・治療状況について電話調査を行った.
 【結果】精検対象者は比較群800名中24名(3.0%),SVS実施群608名中75名(12.3%)であった.このうち要治療判定は比較群6名(0.75%),SVS実施群22名(3.6%)であった.
 【結語】SVSにより3歳児健診での精検対象者数,要治療者数いずれも増加した.従来法で弱視病態の見逃しが少なくないことから,SVSはスクリーニングツールとして有用と考えられた.


【症例報告】
■題名
心室中隔欠損の経過観察から脱落したために急性循環不全に陥った右室二腔症
■著者
広島市立広島市民病院循環器小児科1),中国労災病院小児科2)
荻野 梨恵1)  中川 直美1)  福嶋 遥佑1)  岡本 健吾1)  上桝 仁志1)  片岡 功一1)  鎌田 政博1)  小西 央郎2)

■キーワード
心室中隔欠損, 右室二腔症, 先天性心疾患, 学校心臓検診
■要旨
 小学校の学校心臓検診にて心雑音,右室肥大を指摘され受診した際にプレショック症状を呈し精査で右室二腔症と診断した7歳男児例を経験した.患児は出生後まもなく心室中隔欠損と診断されていたが,心不全症状の軽減から自然閉鎖傾向にあるとされていたため,家族は軽快したものと理解して経過観察を脱落していた.初診時の心エコー検査で右室流出路圧較差は210 mmHgと増大し,左室圧(体血圧117/64 mmHg)を凌駕していた.突然死のリスクも高いため入院管理のうえ手術待機としたが,入院3日目に再度プレショック症状を呈し,持続鎮静管理を要した.入院5日目に緊急心内修復術(右室流出路筋束切除)を施行,術後11日で退院した.術後2年が経過し,学校生活指導管理区分E可として運動制限のない生活を送っている.
 右室二腔症は心室中隔欠損に合併することが知られており,進行して右室圧が左室圧を凌駕すると,欠損孔が有意な大きさでなければ左心系への還流量が減少し体循環量減少となり急性循環不全に陥ることもある.心室中隔欠損に心電図で右室肥大を認める場合や収縮期駆出性雑音を聴取する場合には本疾患を念頭におき,丁寧な理学所見取得に努めることが重要である.


【症例報告】
■題名
9年間におよぶ酵素補充療法を実施した周産期重症型低ホスファターゼ症
■著者
北海道立子ども総合医療・療育センター新生児内科1),札幌医科大学医学部小児科学講座2),北海道医療大学歯学部口腔構造・機能発育学系小児歯科学3)
浅沼 秀臣1)  石井 玲2)  齊藤 正人3)  倉重 圭史3)

■キーワード
低ホスファターゼ症, 酵素補充療法, 精神運動発達, 乳歯脱落, 永久歯萌出
■要旨
 けいれんが先行した周産期重症型低ホスファターゼ症の男児に対し,3か月齢からアスホターゼアルファ投与による酵素補充療法を開始し,その後9年間にわたる治療と経過観察を行った.身体面は治療開始後から1年あまりで急速に発育しその後の身長,体重の増加率は維持できている.粗大運動に関してはバランスを要する運動で弱さがみられたものの暦年齢と比べ少し遅れを示す程度であったが,巧緻運動の発達には弱さが目立った.また,空間認知力と視覚的把握に弱さがあり,視覚を通した情報整理や推論が苦手であった.知的・精神面の発達に関しては,指標間でばらつきはあったものの,暦年齢と比べゆっくりであった.言語面の発達は平均的であり,普段の生活に支障をきたさない水準のコミュニケーションは維持できていた.歯科的所見では,4歳までに脱落した乳歯は2本のみであった.また,永久歯の萌出の遅れはみられず,歯髄腔開大や歯冠形成遅延を認めない永久歯もあり,酵素補充療法の効果が示唆された.本症例では9年間の酵素補充療法で発達面の各領域でキャッチアップの程度に差異がみられたが,弱さがみられた領域が学童期でどのように変化するのか,歯科学的には特に永久歯への効果を知ることが今後の課題である.本症例のさらなる長期経過観察に加えて症例の蓄積も必要である.


【症例報告】
■題名
低アルブミン血症を契機に診断に至った全身性エリテマトーデスに合併したCrohn病
■著者
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児腎臓科1),沖縄県立中部病院小児科2)
石井 結香1)  喜瀬 智郎1)  上原 正嗣1)  譜久山 滋1)  吉年 俊文2)

■キーワード
低アルブミン血症, Crohn病, 全身性エリテマトーデス
■要旨
 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は,自己免疫性全身慢性炎症性疾患であり,多彩な症状を呈する.Crohn病との合併は稀で,消化器症状が診断の契機となる.今回消化器症状に乏しく,低アルブミン血症の鑑別から診断に至ったSLEに合併したCrohn病を経験した.
 症例は11歳からSLEとループス腎炎IVG(A)+Vに対して抗BLySモノクローナル抗体ベリムマブで加療中の20歳女性.2019年10月から腹痛が出現し,11月に低アルブミン血症,12月には8 kgの体重減少を認めた.発熱や下痢はなく,12月以降には腹痛も消失した.低アルブミン血症精査のために消化管シンチグラフィーを行ったところ,S状結腸から直腸にかけてRIが集積し,蛋白漏出性胃腸症と診断した.大腸内視鏡検査では敷石像,縦走潰瘍と著明な腸管狭窄があり,病理像で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めたためCrohn病と診断した.その後はリウマチ膠原病科及び消化器内科へ転科し,ウステキヌマブの加療を開始し症状の改善を認めた.
 SLEにCrohn病を合併した報告は稀だが,低アルブミン血症や消化器症状出現時は炎症性腸疾患も念頭に精査をすすめるべきである.また,ウステキヌマブの導入により症状の軽快を得られており,SLEに合併したCrohn病にはウステキヌマブが有効な可能性がある.


【短報】
■題名
花粉症への効果をほのめかす健康茶のデキサメタゾン含有が判明した経緯
■著者
兵庫県立西宮病院小児科
高桑 聖

■キーワード
健康茶, デキサメタゾン, デヒドロエピアンドロステロンサルフェート, 副腎皮質機能低下, 健康被害
■要旨
 成長ホルモン補充療法中の13歳女子が血清dehydroepiandrosterone sulfate(DHEA-S)の低下を契機として副腎皮質機能低下であると気づかれ,同時期に飲用中であった花粉症への効果をほのめかす健康茶を中止したところ副腎皮質機能の回復を認めた.このことから健康茶に糖質コルチコイド作用物質の含有が疑われ,成分解析の結果,デキサメタゾンが検出された.飲食料品による健康被害を疑う場合は健康被害の原因究明と拡大防止を考える必要があるが,特に甚大な健康被害が予測される場合に,迅速に対応できる公的制度の確立と啓発が望まれる.今回の健康茶の解析を行った国民生活センターへの報告はその一手段になり得ると考えられる.


【論策】
■題名
プレパレーションに配慮した小児服薬指導タブレットアプリケーションの試用と課題
■著者
大阪府立病院機構大阪母子医療センター薬局1),同 リハ・療育支援部門2),大阪大谷大学薬学部実践医療薬学3),大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター薬局4),大阪府立病院機構大阪国際がんセンター薬局5)
永井 絵里子1)  初田 泰敏3)  後藤 真千子2)  室井 政子4)  東 侑紀1)  豕瀬 有紗1)  浅原 章裕1)  庵森 靖弘1)  南 美穂5)  飯野 香菜子1)  北川 直4)  宮部 祐子4)  岸田 美和1)  寺岡 知香4)  小森 桂子1)  藤川 郁世1)  大津 由美子1)  石川 照久1)  藤田 敬子4)  名徳 倫明3)  望月 千枝1)

■キーワード
小児, 服薬指導, プレパレーション, タブレット端末, アプリケーション
■要旨
 小児自身の薬物療法への理解は重要である.そこで我々は小児服薬指導タブレットアプリケーション(以下,アプリ)を開発・運用したので報告する.開発にあたり「プレパレーション」の考え方を取り入れた.対象薬は散薬と点眼薬とし,斜視手術施行予定の小児(4〜9歳)と保護者255例にアンケートを実施した.保護者から見たアプリの理解のしやすさ,アニメーションの適切さ,説明時間の長さ,小児が興味をもったか,説明を理解できたか,また,小児自身が説明を面白いと感じたかについては90%以上が肯定的であった.説明後は概ね良好に薬剤を使用していたが,事前に嫌がりがあった場合はなかった場合と比較して,散薬では5歳以下で説明後に飲み込めたとした回答が有意に少なく,点眼薬では年齢にかかわらず恐怖心がなくなったとした回答が有意に少なかった.これは小児の認知発達と説明内容の違いが要因として考えられ,6歳以上では説明を概念化し服薬時に自身のこととして認識し実行できるが,5歳以下では概念化できず自身のこととして活用できないことと,散薬では苦味への対処方法を,点眼薬では恐怖心をそらす説明をしており,散薬は説明を実行できれば苦みは軽減されるが,点眼薬は実行できても恐怖心が消えなかったと考えられる.これらの要因も考慮することで,本アプリはより実用性が高くなると考えられる.

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