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日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:24.1.23)

第128巻 第1号/令和6年1月1日
Vol.128, No.1, January 2024

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日本小児神経学会推薦総説

熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023の改訂ポイントと課題

夏目 淳  1

ADHD病態の不均一性に立ち向かう臨床研究と未来

門田 行史  6
原  著
1.

Mycobacterium abscessus院内感染事例

竹本 潔,他  14
2.

当院で経験した6例および既報例に基づく急性胃短軸捻転の診断と治療選択

服部 晶人,他  21
症例報告
1.

COVID-19患者との濃厚接触急性期に心原性ショックを呈した小児多系統炎症性症候群

西川 慶也,他  28
2.

下腿浮腫を伴う体重増加を呈した思春期小児Basedow病

近藤 聡美,他  36
3.

ネグレクトを背景に発症した巨赤芽球性貧血

山鹿 友里絵,他  42
4.

急性呼吸不全小児における病院間搬送時の高流量鼻カニュラ酸素療法の可能性

三浦 慎也,他  48
論  策
1.

二次医療機関における地域カンファレンスの現状と今後の課題

井上 久美子,他  53
2.

診療報酬算定からみた小児集中治療の現状

前澤 身江子,他  59

地方会抄録(秋田・中部・山梨・石川・山陰)

  63

子どもへの性虐待に関する提言

  87
日本小児科学会新生児委員会報告

2023年度研修開始専攻医の小児科領域専門研修プログラムに関するアンケート

  88
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会報告

おたふくかぜワクチン接種後の副反応に関する全国調査報告

  92
日本小児科学会ダイバーシティ・キャリア形成委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合46

北の国から

  105

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2023年65巻11月掲載分目次

  107

2024年度日本小児科学会分科会開催予定

  109

雑報

  110


【原著】
■題名
Mycobacterium abscessus院内感染事例
■著者
大阪発達総合療育センター小児科1),同 看護部2),国立病院機構近畿中央呼吸器センター臨床研究センター感染症研究部3),酪農学園大学獣医学研究科4),結核予防会結核研究所抗酸菌部5)
竹本 潔1)  鞍谷 沙織1)  船戸 正久1)  飯島 禎貴1)  片山 珠美1)  柏木 淳子1)  塩見 夏子1)  梶原 綾2)  吉田 志緒美3)  露口 一成3)  能田 淳4)  御手洗 聡5)

■キーワード
非結核性抗酸菌, Mycobacterium abscessus, 院内感染, 交差感染, 重症心身障害児
■要旨
 医療型障害児入所施設の同一病棟で,寝たきり状態で気管切開管理の重症心身障害児(者)6名の気管内吸引痰からMycobacterium abscessusが分離され,反復配列多型(variable numbers of tandem repeats)パターンが一致したため院内感染が強く疑われた.感染経路解明のために調査を実施したところ,症例の処置直後の手袋をした状態の職員の手指と,室内の床頭台,吸引器の圧力調整ダイアル,人工呼吸器の前面パネル,ベッド柵,洗面台より同じ菌が検出され,症例周囲の環境汚染と職員を介した交差感染が強く示唆された.医療機器,水道水,空気中のエアロゾルからは菌は検出されなかった.気管切開による生理的バリアの破綻と,寝たきりで咳嗽力が著しく低下していることによる高度の気道クリアランス低下が交差感染成立の一因になっている可能性が考えられた.


【原著】
■題名
当院で経験した6例および既報例に基づく急性胃短軸捻転の診断と治療選択
■著者
母恋天使病院こどもメディカルセンター小児科1),同 小児外科2)
服部 晶人1)  青山 歌穂1)  佐々木 理1)  鈴木 大介1)  脇口 定衞1)  湊 雅嗣2)  大場 豪2)  奥原 宏治1)  外木 秀文1)  山本 浩史2)  高橋 伸浩1)

■キーワード
胃軸捻転, 急性腹症, 腹部膨満
■要旨
 急性胃短軸捻転は稀であるが致死的となりうる疾患であり,早期診断が重要であるが,診断方法と治療選択は確立していない.過去10年間に当院で経験した6例の急性胃短軸捻転の臨床像について,後方視的に検討した.5例に横隔膜弛緩症や腸回転異常などの合併奇形や基礎疾患を認めた.主症状は嘔吐が最多であり,Borchardtの3徴として知られる腹部膨満,胃管挿入困難,吐物なき嘔吐のうち,腹部膨満は全例で認めたがすべてを伴った症例はなかった.腹部エックス線では胃泡の拡張を全例で認め胃軸捻転に特徴的な所見と考えられた.診断に際して全例で上部消化管造影を行い,4例はCTも併用したが,上部消化管造影のみから診断した例も2例あった.急性胃軸捻転を疑った場合には,胃拡張に起因する胃穿孔などを防ぐためにすみやかに胃内の減圧を開始する必要がある.全身状態が安定していて穿孔が疑われない場合は,続けて上部消化管造影を施行することで確定診断を得ることができる.自験例では該当しなかったが,穿孔やショックが疑われる場合はCT検査を行いすみやかに緊急手術の準備をすべきと考えられた.非穿孔例や全身状態の安定した症例は保存的加療,内視鏡的整復の選択肢もあるが,再発例も認められるため初発時からの手術も検討されるべきである.


【症例報告】
■題名
COVID-19患者との濃厚接触急性期に心原性ショックを呈した小児多系統炎症性症候群
■著者
大津赤十字病院小児科1),東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学2)
西川 慶也1)  田中 孝之1)  石塚 潤1)  三木 智貴1)  中島 光司1)  大塚 沙樹1)  末廣 穣1)  大封 智雄1)  赤杉 和宏1)  美馬 隆宏1)  金子 修也2)  清水 正樹2)  樋口 嘉久1)

■キーワード
小児多系統炎症性症候群, コロナウイルス感染症2019, 川崎病, ショック, サイトカイン
■要旨
 コロナウイルス感染症2019(COVID-19)に続発して多臓器に渡る強い炎症を起こす小児多系統炎症性症候群(MIS-C)は,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の流行に伴い日本からの報告例が増加している.MIS-CはSARS-CoV-2感染から約1か月後に発症し,学童期以降の小児に好発すると報告されている.今回,明確なCOVID-19の罹患歴はないが,濃厚接触急性期に発熱を伴う心原性ショックを来した1歳女児例を経験した.周囲の流行状況や身体所見・検査所見を踏まえて,循環管理に加えてMIS-Cへの治療として免疫グロブリン静注,ステロイド投与を開始することで救命することができた.COVID-19患者との濃厚接触歴のある児が心原性ショックを来した際には,年少児で濃厚接触から発症までの日数が短くても,MIS-Cを想定した治療が有効である可能性がある.


【症例報告】
■題名
下腿浮腫を伴う体重増加を呈した思春期小児Basedow病
■著者
埼玉医科大学病院小児科
近藤 聡美  武者 育麻  川名 宏  菊池 透  大竹 明  秋岡 祐子

■キーワード
体重増加, 浮腫, 体液貯留, Basedow病
■要旨
 小児のBasedow病では,びまん性甲状腺腫,頻脈,体重減少,成長率増加などを呈することが多いが,下腿浮腫や体重増加は稀である.今回,圧痕性下腿浮腫を伴う体重増加にもかかわらずBasedow病と診断した症例を経験した.
 症例は,14歳女子.下腿浮腫,甲状腺腫大を指摘され当科紹介受診した.受診時,頻脈,甲状腺腫さらに両下腿に著明な浮腫を認めた.受診前4か月間で体重が3 kg増加していた.甲状腺ホルモン著明高値と甲状腺刺激ホルモン(TSH)著明低値,TSH受容体抗体および甲状腺刺激抗体陽性,甲状腺中毒症状,甲状腺腫大と血流増加のエコー所見より確からしいBasedow病と診断した.胸部エックス線写真で軽度心拡大を認めたが,心臓超音波検査で駆出率低下はなく,心嚢水の貯留や弁膜異常も認めなかった.心電図検査は洞調律で心房細動などの不整脈は認めなかった.抗甲状腺薬とβ遮断薬で治療を開始し,甲状腺機能亢進状態は改善した.それに伴い,下腿浮腫の消失,体重減少も認めた.本症例では,心拍出量の増加に比べ,循環血漿量の増加が過剰に惹起され,体液貯留が生じ,体重増加・圧痕性下腿浮腫を呈したと考えられた.甲状腺ホルモンには種々の生理作用があり,その発現は症例ごとに異なる.甲状腺腫および体重増加,下腿浮腫のある症例が,甲状腺機能低下症とは限らない.甲状腺機能亢進症も勘案した診療が重要である.


【症例報告】
■題名
ネグレクトを背景に発症した巨赤芽球性貧血
■著者
北九州市立八幡病院小児血液・腫瘍内科1),同 小児科2)
山鹿 友里絵1)  興梠 雅彦1)  稲垣 二郎1)  松石 登志哉1)  森吉 研輔2)  佐藤 哲司1)  安井 昌博1)

■キーワード
巨赤芽球性貧血, ネグレクト, 問診
■要旨
 症例は,重症貧血,血小板減少のある2歳女児.食欲不振,顔色不良,易疲労性を主訴に近医受診し,貧血,血小板減少の精査目的に当院紹介された.末梢血には過分葉好中球と大小不同の赤血球が,骨髄検査では赤芽球過形成像と大型の杆状核球や過分葉好中球が確認された.同時に血清ビタミンB12と葉酸の低下があり,巨赤芽球性貧血と診断した.ビタミンB12,葉酸を含むアミノ酸・水溶性ビタミン加総合電解質液を輸注したところ,汎血球減少の進行は止まり改善に転じた.家族への聞き取りにより,主に食事提供に関する不適切な療育環境と,それによる極端な偏食が明らかとなった.貧血の改善に伴い食欲も増進し,体重が増加した.栄養士による食事指導と行政介入による養育環境の再構築を行った.
 不適切な療育環境や極端な偏食では長期的なビタミン摂取不足により様々なビタミン欠乏症状を発症しうる.本症例は特殊な家庭環境にあり,自宅での食事摂取状況を問診にて詳細に聞き取れたことから,ネグレクトの実態が明らかとなった.
 巨赤芽球性貧血は汎血球減少を示すこともあるため,血液疾患を鑑別におきつつ,児の栄養状態の評価とともに日常における食生活を問診で詳細に聴取することが,疾患との関連性を捉える一助として非常に重要である.また,児の健康を守るためには時として速やかに行政介入を決断することも必要である.


【症例報告】
■題名
急性呼吸不全小児における病院間搬送時の高流量鼻カニュラ酸素療法の可能性
■著者
聖マリアンナ医科大学小児科1),同 臨床工学技術部2)
三浦 慎也1)  五十嵐 義浩2)  加藤 匡人1)  川口 敦1)

■キーワード
搬送, ネーザルハイフロー, 高流量鼻カニュラ, 急性呼吸不全, 小児集中治療
■要旨
 小児の急性呼吸不全診療においては,重症度に応じた呼吸補助選択が重要となる.高流量鼻カニュラ酸素療法は呼吸補助効果と簡便性から,集中治療室に加え一般小児病棟や救急外来でも近年使用されている.特に一般病棟で高流量鼻カニュラ酸素療法を使用する場合は,次の治療エスカレーションの可能性に備え,集中治療と観察加療を目的に小児集中治療施設へ搬送されることになる.諸外国では高流量鼻カニュラが搬送中の呼吸補助デバイスの一つとして認知され,搬送中を含め「途切れのない」呼吸集中治療を行う体制が導入されている.一方で国内における搬送中の高流量鼻カニュラ酸素療法の報告はほとんどなく,実施する上での課題およびその効果,役割についての議論が進んでいない.本症例は,気管支喘息様病態に対して,喘息治療薬と高流量鼻カニュラ酸素療法を開始後も,呼吸状態と意識レベルが悪化し小児集中治療施設への病院間移送が行われた.搬送中も高流量鼻カニュラ酸素療法を継続し,小児集中治療室入室後は気管支喘息治療の強化を合わせて実施した.結果,転院後も呼吸補助デバイスのエスカレーションをせずに診療を継続できた.国内においても,搬送時高流量鼻カニュラ酸素療法という選択肢を加える事で,重症度に応じた適切な呼吸補助を,小児集中治療室内で加療している患者と同様に途切れることなく継続できる.


【論策】
■題名
二次医療機関における地域カンファレンスの現状と今後の課題
■著者
埼玉県済生会川口総合病院小児科1),同 感染対策室2)
井上 久美子1)  乃木田 正俊1)  中道 伸彰1)  伊藤 正範1)  西崎 淑美1)  萩尾 真理1)  岩丸 良子1)  内藤 朋巳1)  有井 直人1)  大山 昇一2)

■キーワード
地域カンファレンス, 多職種, 在宅医療, 養育支援, 児童虐待
■要旨
 当院では在宅移行支援,養育支援,虐待対応,発達障害,いじめ,不登校などに対して多職種地域カンファレンスを実施している.カンファレンスには院内,院外から様々な関係者が集まって情報共有と対応方針の決定を行う.2019年1月から2022年12月に当院で実施した59症例,のべ103回のカンファレンスを後方視的に検討した.当院では1つの病院で様々な領域で地域カンファレンスを開催していた.36%で2回以上の複数回のカンファレンスが必要であり,多数回カンファレンスが必要な症例は入院中だけでなく外来通院中も継続的なカンファレンスを必要とする症例,複合する領域での問題を抱えている症例が多かった.現時点でカンファレンスの開催基準は提示されておらず継続基準も定かではない.そして,カンファレンス実施には毎回,多くの人出と時間を要する(参加人数 中央値11人,開催時間 中央値60分)が,現時点では診療報酬を請求できない場合が多い.それらの問題に対する当院での取り組みと今後の課題について報告した.


【論策】
■題名
診療報酬算定からみた小児集中治療の現状
■著者
東京大学医学部小児科
前澤 身江子  内田 要  太田 英仁  林 健一郎  松井 彦郎

■キーワード
集中治療, 小児医療, 地域格差, PICU, NDBオープンデータ
■要旨
 目的:小児集中治療の現状を示す指標として特定集中治療室管理料の診療報酬算定データを用いて,全国および都道府県別の小児集中治療の現状を調査した.
 方法:2021年1月現在の行政ホームページに掲載されている厚生労働省保険算定・政府人口統計を用いて,全国と都道府県の小児(0〜14歳)に対する小児特定集中治療室管理料もしくは特定集中治療室管理料1〜4の算定回数を比較した.
 結果:全国の小児特定集中治療室管理料の算定回数は経年的に有意に増加していた.一方で特定集中治療室管理料1〜4の算定回数は変化がなかった.都道府県別の比較では,小児に対して小児特定集中治療室管理料もしくは特定集中治療室管理料と小児加算を算定したものの算定回数は小児特定集中治療室管理料を算定している医療機関のある7都道府県で有意に多かった.3都道府県においては特定集中治療室管理料と小児加算の算定回数がゼロであった.
 結論:小児に対する小児特定集中治療室管理料または特定集中治療室管理料1〜4の算定回数は全国では経年的に増加しているが,都道府県間の格差がある.小児特定集中治療室管理料を算定できる体制の整備や,特定集中治療室管理料1〜4と小児加算の算定回数の少ない都道府県での原因を調査し,適切な管理料を算定できる医療機関で集中治療を行えるようにすることは,地域における小児の重症患者に対する集中治療の体制整備に重要である.

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