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日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:23.12.27)

第127巻 第12号/令和5年12月1日
Vol.127, No.12, December 2023

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日本外来小児科学会推薦総説

地域における取り組みからみた小児生活習慣病予防健診の現状と今後の問題点

尾崎 貴視,他  1489
原  著
1.

小児循環器疾患患者におけるプロプラノロール処方の実態調査

東 浩二,他  1499
2.

成長障害を伴う中枢性先天性甲状腺機能低下症に対するホルモン補充の成長率改善効果

合田 武司,他  1505
3.

5〜11歳児BNT162b2ワクチンの対オミクロン株発症防止効果

角谷 不二雄,他  1513
症例報告
1.

単一冠動脈および冠動脈対側冠動脈洞起始を呈した7症例

羽田野 裕,他  1522
2.

慢性嘔吐を呈し,食物蛋白誘発胃腸炎と鑑別を要した中腸軸捻転の乳児例

和田 拓也,他  1529
3.

SIADHでの低Na血症にトルバプタンを使用しNa過剰補正を生じた重症心身障害児

儀間 香南子,他  1534
論  策

COVID-19による大学病院の面会・付き添い制限の現状と課題

齋藤 昭彦,他  1540

地方会抄録(東京・奈良・山形・福岡)

  1546
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告
  はじめの一本11

論文作成は退院サマリーを作成する感覚で!

  1571

日本小児科学会理事会議事要録

  1573

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2023年65巻10月掲載分目次

  1578


【原著】
■題名
小児循環器疾患患者におけるプロプラノロール処方の実態調査
■著者
千葉県こども病院循環器内科1),東京都立小児総合医療センター循環器科2),国立成育医療研究センター循環器科3),国立循環器病研究センター小児循環器内科4),国立成育医療研究センター臨床研究センター多施設連携部門ネットワーク推進ユニット5)
東 浩二1)  三浦 大2)  小野 博3)  坂口 平馬4)  中國 正祥5)  中野 孝介5)

■キーワード
プロプラノロール, 小児用剤形, 粉砕処理
■要旨
 【背景】プロプラノロールは小児循環器系疾患において多くの適応を有するβ受容体遮断薬で,幅広い年齢の患者に使用されている.しかし適応剤形は錠剤のみであり,錠剤が服用できない患者には粉砕して供給せざるを得ない.【目的】小児循環器系疾患患者に対するプロプラノロール処方の実態を明らかにする.【研究デザイン】小児医療施設等から網羅的に医療情報を収集した小児医療情報収集システムデータベースを用いたコホート研究.【方法】2016年4月から2021年3月にプロプラノロールが処方された15歳未満の患者2,151名のデータを抽出し解析した.【結果】対象患者のうち小児循環器系疾患のプロプラノロール適応症該当患者は1,222名.初回処方時月齢は中央値5か月,年齢区分は新生児241名(19.7%),乳児504名(41.2%),幼児238名(19.5%),学童239名(19.6%).総処方件数13,085件中,錠剤処方件数は11,743件(89.7%),その内,粉砕処方された件数は9,676例(82.4%)だった.粉砕処理された1日量の中央値は8.0 mg/日(四分位範囲3.0〜15.0 mg/日)だった.
 【結語】小児循環器系疾患患者に対するプロプラノロールの適応剤形不足の実態が明らかとなった.錠剤粉砕処方は小児患者のみならず臨床現場にも様々な不利益をもたらすため,小児用の適応剤形開発の推進が強く望まれる.


【原著】
■題名
成長障害を伴う中枢性先天性甲状腺機能低下症に対するホルモン補充の成長率改善効果
■著者
京都中部総合医療センター小児科1),京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学2),京都府立医科大学小児科3)
合田 武司1)  平山 圭1)  堀口 剛2)  森 潤3)  木原 明生1)

■キーワード
中枢性先天性甲状腺機能低下症, レボチロキシンナトリウム水和物, 成長ホルモン分泌不全症, 低身長, 成長率
■要旨
 中枢性先天性甲状腺機能低下症(central congenital hypothyroidism,CCH)は,成長障害を契機に診断されることが多い.レボチロキシンナトリウム水和物(LT4)の補充療法を行うが,補充による成長率の改善効果については既存の報告が乏しい.本研究では,成長障害を伴うCCHに対してLT4の補充を行った際,どの程度成長率の改善が認められるかを明らかにすることを目的とし,診療録から得られた情報を用いた後ろ向き観察研究により,2016から2021年までに当院でCCHと診断され,LT4の補充療法のみを行った5症例の成長率を解析した.補充開始後3か月の時点で成長率SDスコアを計算し得た3例において,成長率SDスコアの平均(±SD)は−3.63(±1.84)から+10.6(±11.2)まで改善を認めた.成長障害を伴ったCCHの自験例に対しておよそ3か月間のLT4補充を行うことで明確な効果が得られたことから,3か月間のLT4補充を経て効果が乏しい場合には他の下垂体ホルモン分泌異常による影響や他疾患の可能性を念頭に,追加検査および治療を考慮する必要があると考えられる.


【原著】
■題名
5〜11歳児BNT162b2ワクチンの対オミクロン株発症防止効果
■著者
北海道社会事業協会富良野病院小児科1),同 臨床検査科2)
角谷 不二雄1)  小野田 ひかる1)  大久保 仁史1)  藤保 洋明1)  印鑰 史衛1)  杵渕 貴洋2)

■キーワード
オミクロン株, コロナウイルス感染症2019, BNT162b2ワクチン, 小児, 効果
■要旨
 2022年,オミクロン株優勢の富良野で5〜11歳児335例対象にコロナウイルス感染症2019PCR検査確定例に対する発症防止ワクチン効果(vaccine effectiveness:VE)を推定した.
 全体の補正後VEは1回以上接種(n=115)63%(95% confidence interval[CI],36〜79),2回接種完了(n=73)66%(95% CI,28〜83)であった.1回以上接種補正後VEは5〜6歳(n=22)31%(95% CI,−102〜76),7〜8歳(n=41)72%(95% CI,23〜90),9〜11歳(n=52)79%(95% CI,43〜92),12〜20週(n=67)68%(95%CI,41〜83),21〜27週(n=48)57%(95% CI,−22〜85)であった.2回接種完了補正後VEは5〜6歳(n=13)15%(95% CI,−246〜79),7〜8歳(n=26)85%(95% CI,20〜97),9〜11歳(n=34)79%(95% CI,24〜94),12〜20週(n=26)68%(95%CI,41〜83),21〜27週(n=47)57%(95% CI,−22〜85)であった.
 発症防止VEは有意な関連が認められたが,時間経過とともに低下した.


【症例報告】
■題名
単一冠動脈および冠動脈対側冠動脈洞起始を呈した7症例
■著者
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院小児科1),公益社団法人日本海員掖済会名古屋掖済会病院小児科2),独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院小児循環器科3),同 心臓血管外科4)
羽田野 裕1)  福見 大地1)  三井 さやか1)  松本 一希2)  大橋 直樹3)  櫻井 一4)

■キーワード
心臓突然死, 冠動脈対側冠動脈洞起始, 単一冠動脈
■要旨
 単一冠動脈,冠動脈対側冠動脈洞起始(AAOCA:anomalous aortic origin of coronary artery)は小児において突然死の原因となる疾患だが,臨床経過や転帰に関する報告は少ない.2012年1月から2021年2月の期間で造影CT検査または冠動脈造影にて他に血行動態異常を呈する先天性心疾患を伴わない単一冠動脈,AAOCAと診断された15歳以下の小児について冠動脈起始部および血管走行に着目して分類し,診療録より後方視的に経過,術式と予後を検討した.対象は7例で診断時の年齢中央値は11歳(6〜13歳),男女比:5:2であった.1例が右単一冠動脈,4例(年齢中央値:13歳 男女比:3:1)が左冠動脈右冠動脈洞起始(AAOLCA:anomalous aortic origin of left main coronary artery)かつ左冠動脈が大動脈と肺動脈に挟まれる血管走行であった.この5例中3例(年齢中央値:13歳 男女比:2:1)で症状を認め,手術を施行して症状は消失した.無症状の2例でも手術を行った.残り2例は左単一冠動脈で手術せずに無症状で推移している.小児の単一冠動脈およびAAOCAでは,右単一冠動脈またはAAOLCAで左冠動脈が大動脈および肺動脈に挟まれる血管走行は心筋虚血の可能性があり,積極的に外科的介入を術式も含め,慎重に検討する必要がある.


【症例報告】
■題名
慢性嘔吐を呈し,食物蛋白誘発胃腸炎と鑑別を要した中腸軸捻転の乳児例
■著者
富山市立富山市民病院小児科1),富山赤十字病院小児アレルギーセンター2),黒部市民病院小児科3),富山赤十字病院小児科4)
和田 拓也1)  足立 雄一2)  西島 孝治3)  仲岡 佐智子4)

■キーワード
食物蛋白誘発胃腸炎, food protein-induced enterocolitis syndrome, 腸回転異常症, 中腸軸捻転症, 乳児
■要旨
 食物蛋白誘発胃腸炎(food protein-induced enterocolitis syndrome:FPIES)を診断する際,感染症,消化器外科疾患,頭蓋内疾患など鑑別疾患の除外が重要である.
 症例は1か月,男児で胆汁性嘔吐を主訴に初診した.腹部超音波検査では異常なく,絶食による症状消失,母乳負荷で症状再燃を認め,加水分解乳へ変更し嘔吐がないことを確認したこと,抗原特異的リンパ球刺激試験でラクトフェリン陽性であることから乳によるFPIESと診断した.
 しかしながら,その後も週に1回の嘔吐が続き,体重増加不良を認めた.診断の再考が必要と判断し,有症状時の腹部超音波検査で小腸および上腸間膜静脈が渦巻き状に描出されるwhirlpool signを認め,中腸軸捻転と診断した.鑑別疾患の除外が重要であることを改めて認識した症例であった.FPIESに対する基本治療でも症状が続く場合は,再度鑑別疾患を見直すことが重要である.


【症例報告】
■題名
SIADHでの低Na血症にトルバプタンを使用しNa過剰補正を生じた重症心身障害児
■著者
兵庫県立こども病院総合診療科
儀間 香南子  南川 将吾  合田 由香利  仲嶋 健吾  石田 悠介  水田 麻雄  中岸 保夫

■キーワード
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群, トルバプタン, 低ナトリウム血症, 重症心身障害児, ナトリウム過剰補正
■要旨
 近年,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が原因の低Na血症の治療に対してトルバプタンが薬事承認された.しかし小児での治療報告は少なく,治療効果や有害事象,適正投与量について不明な点が多い.今回,重症心身障害児のSIADHが原因と考えられる難治性低Na血症に対してトルバプタンによる治療を行ったので報告する.症例は2歳男児の重症心身障害児.SIADHによる慢性低Na血症に対して,水制限と塩化ナトリウムの内服を行っていた.経腸栄養剤の変更後に下痢症を発症し,高張性脱水で入院した.高Na血症の補正後に上気道炎を発症し,血清Na値は114 mEq/Lまで低下した.再度水分制限や塩化ナトリウム負荷を行うも改善乏しく,トルバプタン0.15 mg/kgの単回投与を行った.投与後より尿量が急増し,トルバプタンを中止し水分を負荷したが翌日の血清Na値は141 mEq/Lまで上昇した.その後内服量を調整し,最終的に初回投与量と同量の0.15 mg/kg/日で低Na血症は改善し退院した.トルバプタンでのNa過剰補正の報告は多数あり,SIADHに対して以前から水分制限を行っていた状態であったことに加え,児は重症心身障害児であり口渇を訴えることができず,過剰補正に至るリスクが高かったと考えられた.ハイリスク症例に対してトルバプタンを使用する際は,少量から開始し,綿密な血清Na値のモニタリングが必要である.


【論策】
■題名
COVID-19による大学病院の面会・付き添い制限の現状と課題
■著者
小児科チェアパーソンの会1),新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野2),横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学3),杏林大学医学部小児科学教室4),名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野5),九州大学大学院医学研究院成長発達医学/九州大学病院小児医療センター6),北海道大学大学院医学研究院小児科学教室7)
齋藤 昭彦1)2)  伊藤 秀一1)3)  成田 雅美1)4)  齋藤 伸治1)5)  大賀 正一1)6)  真部 淳1)7)

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, 面会制限, 付き添い, 外泊, 大学病院
■要旨
 コロナウイルス感染症2019(COVID-19)のパンデミックは,様々な側面から子どもたちに大きな影響を与え続けている.大学病院の小児病棟,新生児集中治療室(NICU)などに入院する子どもの多くは,長期入院を必要とするが,パンデミックによる病院内の面会・付き添い制限によって,その家族と共に大きな負の影響を受けてきた.一方で,変化の速いCOVID-19の疫学に対応できる病院内の面会・付き添い制限の基準はなく,その対応は各施設に一任されている.
 今回,国内の82の大学病院の小児病棟,NICU・新生児室における2022年8〜9月時点での病院内の面会・付き添い制限についての横断的調査を実施し,その現状を明らかにした.回答率は79/82(96%)であった.小児病棟では,付き添いのみ(49%)と付き添いと面会を認める施設(46%)がほぼ同数で,付き添いの人数は1名に限定されていた.NICU・新生児室では,面会のみが83%で,60分以内の制限時間を設けている施設が93%を占めていた.また,病院と患児の家庭を非対面で結ぶビデオ通話は75%で利用可能であったが,小児病棟内のWifi環境は,39%の施設で病院側からの提供はなく,改善が必要であることが分かった.今後,COVID-19の感染対策が更に緩和されていく中で,子どもたちとその家族を第1に考えた面会・付き添い制限の再評価と見直し,環境の整備が必要と考える.

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