gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:23.10.18)

第127巻 第10号/令和5年10月1日
Vol.127, No.10, October 2023

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

原  著
1.

COVID-19対策での長期休校措置前後の小児心身症関連疾患受診者数の推移

土生川 千珠,他  1277
2.

小児COVID-19の中等症/重症例の基礎疾患の有無による臨床的特徴

大坪 勇人,他  1289
症例報告
1.

低ガンマグロブリン血症に対し免疫グロブリン療法を行っている乳児全身性ヒアリン症

小笠原 啓祐,他  1299
2.

頻回のリツキシマブ投与後に分類不能型腸炎を発症した難治性ネフローゼ症候群

中谷 諒,他  1306
3.

空洞化を伴うparadoxical reactionを認めた小児肺結核

小林 涼,他  1312
4.

繰り返す気管切開チューブ逸脱に対して固定用プレートを導入した医療的ケア児

植田 穣,他  1320
短  報
1.

小児がん経験者の長期フォローアップ外来における晩期合併症の網羅的スクリーニング

長井 静世,他  1326
2.

COVID-19の2022年流行期における小児の2回罹患例の実態調査

絹巻 宏,他  1331

訂正

  1335

編集委員会への手紙

  1336

地方会抄録(滋賀・熊本・静岡・長野・福島・北陸・福井)

  1337

日本小児科学会理事会議事要録

  1356

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2023年65巻8月掲載分目次

  1361

令和5年度公益財団法人小児医学研究振興財団研究助成事業のお知らせ

  1363


【原著】
■題名
COVID-19対策での長期休校措置前後の小児心身症関連疾患受診者数の推移
■著者
国立病院機構南和歌山医療センター小児アレルギー科1),日本小児心身医学会疫学研究班2),啓仁会堺咲花病院心身診療科3),久留米大学医学部医学科小児科学講座4),関西医科大学小児科学講座5),獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター6),岡山大学病院小児心身医療科7),大阪医科薬科大学小児科8),たけなかキッズクリニック9),イムス富士見総合病院小児科10),秋田県立医療療育センター11),あしかがの森足利病院小児科12),長崎県立こども医療福祉センター13),清恵会病院小児科14),帝塚山学院大学大学院人間科学研究科15),親と子の診療所16),国立成育医療研究センター総合診療科17),星ヶ丘マタニティ病院小児科18),福岡大学小児科19)
土生川 千珠1)2)  村上 佳津美2)3)  石井 隆大2)4)  柳本 嘉時2)5)  井上 建2)6)  岡田 あゆみ2)7)  吉田 誠司2)8)  竹中 義人2)9)  大谷 良子2)6)  作田 亮一2)6)  田中 知絵2)7)  藤井 智香子2)7)  重安 良恵2)7)  渕上 達夫2)10)  渡部 泰弘2)11)  藤田 之彦2)12)  小柳 憲司2)13)  松島 礼子2)14)  大堀 彰子2)15)16)  永井 章2)17)  井口 敏之2)18)  江島 伸興4)  永光 信一郎2)19)

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, 小児, 心身症, レセプト調査, 長期休校措置
■要旨
 目的:2020年3月から5月までコロナウイルス感染症2019(COVID-19)対策による長期休校措置が実施された.子どもの心身変化への対応整備のため,休校前後の小児心身症関連疾患患者の受診動向を調査した.
 方法:日本小児心身医学会会員が所属する12施設を対象に,2018年4月から2021年3月までの20歳未満の受診患者外来レセプトを用いて調査した.項目は,小児科受診者総数,国際疾病分類第10版による小児心身症関連疾患レセプト病名別患者数,心身症関連管理指導料件数,年齢,性別である.各項目を各月の延べ数で算出し,2018年度,2019年度,2020年度間比較で月別総数の有意な増減をPoisson分布の漸近正規性を利用して統計検定を行った.
 結果:2020年度の小児科受診者総数は,2019年度と比較してほとんどの月で有意に減少した.一方,多くの小児心身症関連疾患レセプト病名別患者数は,4月,5月は有意に減少したが,8月以降に小児心身症,摂食障害,睡眠障害,広汎性発達障害等が有意に増加に転じていた.2018年度との比較では,その他に不登校,起立性低血圧,身体表現性障害,多動性障害も有意に増加する月を複数認めた.心身症関連管理指導料総件数も2020年度は,多くの月で有意に増加していた.
 考察:COVID-19の長期の生活様式変化による心身症関連疾患に対応する診療体制が必要である.


【原著】
■題名
小児COVID-19の中等症/重症例の基礎疾患の有無による臨床的特徴
■著者
東京都立小児総合医療センター感染症科1),同 免疫科2),同 分子生物室3),同 総合診療科4),同 集中治療科5),岡山大学病院小児科6)
大坪 勇人1)  芝田 明和1)2)  車 健太1)  多田 歩未1)  谷口 公啓1)  舟越 葉那子1)2)  木下 和枝3)  幡谷 浩史4)  齊藤 修5)  宇田 和宏1)2)6)  堀越 裕歩1)2)

■キーワード
小児, COVID-19, 神経学的後遺症, 死亡
■要旨
 【目的】本邦の中等症/重症のコロナウイルス感染症2019(coronavirus disease 2019:COVID-19)小児例の報告は限られている.中等症/重症のCOVID-19で入院した患者の,背景,臨床像,治療,予後を,基礎疾患の有無毎に明らかにする検討を行った.【方法】2020年1月から2022年8月までの18歳以下のCOVID-19と小児COVID-19関連多系統炎症性症候群で入院した患者を対象とした.【結果】対象患者は713例,うち中等症が36例(5%),重症が51例(7%)であった.中等症/重症の87例のうち,基礎疾患がある患者は43例(49%)であった.呼吸器系病名による入院は基礎疾患がある患者で多く(p=0.002),神経系病名による入院は基礎疾患がない患者で多かった(p=0.006).呼吸器系病名で入院した基礎疾患のない患者は,他の呼吸器病原体の共検出が多く,COVID-19以外での増悪が考えられた.予後は,入院後28日時点で神経学的後遺症5例,死亡1例であり,そのうち5例は急性脳症,1例は心肺停止であった.退院時点で新規に在宅呼吸補助を導入した症例はなかった.【結論】中等症/重症例のうち,基礎疾患がある患者では呼吸器系病名で,基礎疾患がない患者では神経系病名での入院が多かった.


【症例報告】
■題名
低ガンマグロブリン血症に対し免疫グロブリン療法を行っている乳児全身性ヒアリン症
■著者
東京医科歯科大学小児科1),同 小児外科2),東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科包括病理学分野3),同 人体病理学分野4)
小笠原 啓祐1)  水野 朋子1)  神谷 尚宏1)  平田 航1)  田村 友美恵1)  山内 泰輔1)  鈴木 智典1)  鹿島田 彩子1)  水野 裕貴2)  岡本 健太郎2)  田中 陽典3)  小林 大輔4)  高木 正稔1)  森尾 友宏1)

■キーワード
乳児全身性ヒアリン症, 低ガンマグロブリン血症, 蛋白漏出性胃腸症, 免疫グロブリン療法, 下部消化管内視鏡検査
■要旨
 ヒアリン線維腫症は全身の結合組織にヒアリンが沈着することで皮膚の腫瘤,関節拘縮,慢性疼痛,成長障害などをきたす進行性の疾患である.原因遺伝子としてanthrax toxin receptor 2ANTXR2)が同定されており,常染色体潜性遺伝疾患である.遺伝子型と発症時期や重症度との関連が一部示唆されており,重症例は乳児全身性ヒアリン症(infantile systemic hyalinosis;ISH)と呼ばれる.ISHでは難治性下痢や易感染性により生命予後は不良だが,その病態や管理に関しては未解明な点が多い.
 今回我々は蛋白漏出性胃腸症による下痢,低ガンマグロブリン血症を認めたISHの重症例を経験した.大腸組織像ではヒアリンの沈着と慢性炎症を認め,蛋白漏出性胃腸症の原因と考えられた.漏出に伴った低ガンマグロブリン血症に対して定期的な免疫グロブリン製剤の補充を施行することで重篤な感染症を回避できており,重症例では検討すべき治療と考える.


【症例報告】
■題名
頻回のリツキシマブ投与後に分類不能型腸炎を発症した難治性ネフローゼ症候群
■著者
千葉県こども病院腎臓科1),東京女子医科大学腎臓小児科2),東京大学医学部小児科3),千葉県こども病院小児救急総合診療科4),同 病理診断科5)
中谷 諒1)2)  中村 実沙子1)3)  西村 竜哉1)3)  伊藤 貴伸4)  成毛 有紀5)  夏井 款子4)  久野 正貴1)

■キーワード
リツキシマブ, 分類不能型腸炎, 難治性ネフローゼ症候群
■要旨
 症例は14歳男子.3歳時発症の難治性ネフローゼ症候群に対して14回のリツキシマブ(RTX;rituximab)投与歴があり,プレドニゾロン(PSL;prednisolone)5 mg/日・シクロスポリン・ミコフェノール酸モフェチルを内服している.発熱・腹痛・血性下痢の精査のため当院に入院し大腸内視鏡検査で大腸全体に多数の潰瘍を認めたが,Crohn病や潰瘍性大腸炎の診断基準を満たさず暫定的にウイルス性腸炎と診断した.RTXによる低ガンマグロブリン血症に対して定期的に補充していた免疫グロブリン製剤を増量し,中心静脈栄養を行ったところ症状が改善した.RTX最終投与から5か月経過しており,RTXを投与して退院となった.しかし,2か月後,痔瘻・肛門周囲膿瘍を認め,血性下痢が再燃したことから大腸内視鏡検査を再検した.肉眼所見および病理所見に著変はなかったが,潰瘍部の免疫染色を追加したところ間質に浸潤するリンパ球のうちCD20陽性細胞をほぼ認めず,大腸炎の原因となる他の疾患が除外されており臨床経過をもとにRTX治療に伴う分類不能型腸炎と診断した.治療としてPSLを60 mg/日に増量したところ,血性下痢は消失し,痔瘻・肛門周囲膿瘍も改善したため2週間後に退院した.その後14週間かけてPSLを10 mg/日まで漸減し,症状の再燃はなく,ネフローゼ症候群の再発も認めていない.


【症例報告】
■題名
空洞化を伴うparadoxical reactionを認めた小児肺結核
■著者
沖縄県立中部病院小児科
小林 涼  荒木 かほる  辻 泰輔  吉年 俊文  岩井 剛史  川口 真澄  又吉 慶  金城 さおり

■キーワード
感染症, 小児結核, paradoxical reaction
■要旨
 Paradoxical reaction(PR)は結核治療中に治療コンプライアンスが保たれているにも関わらず予期しない肺野病変の悪化,リンパ節腫脹,発熱等を一時的に認める病態である.我々は一次型肺結核症の治療中に空洞化を伴うPRを示した小児例を経験した.
 1歳4か月男児.肺結核発症が明らかとなった祖母と濃厚な接触があり,適用された接触者健診にてツベルクリン反応強陽性が判明したため当院に紹介となった.無症状であったが,当院で実施したT-SPOT陽性,胸部エックス線写真にて右上肺野の索状影が確認され,さらに精査目的に適用した胸部造影CT検査にて右上肺野に石灰化を伴う腫瘤影,右肺門部・縦隔に石灰化を伴うリンパ節腫大も確認され,一次型結核型と診断し抗結核薬3剤による治療を開始した.尚,治療開始前に3日連続して胃液採取を行ったが,抗酸菌塗抹・培養,結核菌群polymerase chain reaction(PCR)検査は陰性であった.その後の外来での胸部エックス線写真で一旦右上肺野の陰影消失が確認されたのち,治療開始99日目に右上葉に浸潤影,されに113日目に空洞化を認めた.臨床症状はなく,この時点で再度実施した胃液塗抹及びPCR検査は陰性であったため,治療無効の可能性は否定しPRと判断した.服薬内容は変更せず外来で経過観察としたが,治療204日目に浸潤影の完全消失を確認し,治療270日目に内服治療を終了した.
 本症例は最終的にPRと判断したが,初期悪化の非典型例であり治療失敗の可能性を強く疑ってフォローすることが必要であった.
 肺結核症治療の小児症例においてもPRを念頭におき診療する必要がある.


【症例報告】
■題名
繰り返す気管切開チューブ逸脱に対して固定用プレートを導入した医療的ケア児
■著者
埼玉医科大学病院小児科1),同 新生児科2),同 医療安全対策室3)
植田 穣1)  筧 紘子2)  岡田 慶介1)  清水 貴寛1)  古賀 健史1)  盛田 英司1)3)  板澤 寿子1)  秋岡 祐子1)

■キーワード
医療的ケア児, SASAE™, 気管切開チューブ逸脱, 気管切開チューブ逸脱防止
■要旨
 近年,医療的ケア児の増加と「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の施行に伴い,在宅や保育園・学校等における支援体制の整備が求められている.とくに気管切開チューブ逸脱(以下,チューブ逸脱)は致死的状況に陥る可能性があり,様々な注意喚起が行われるも未だ事故は発生しており,気管切開チューブ逸脱防止(以下,チューブ逸脱防止)対策の強化は必須である.今回,チューブ逸脱を繰り返す気管切開下陽圧換気を行っている児に対し,気管切開チューブ固定用プレートの導入が有用であった症例を経験した.
 症例は10か月男児.在胎27週で出生し,新生児呼吸窮迫症候群のため気管挿管下人工呼吸管理を要し,4か月時に声門下狭窄症による抜管困難のため気管切開術を行い,8か月時に退院した.しかし,9か月時と10か月時に自宅で低酸素血症を来たすチューブ逸脱を繰り返し,当院救急搬送された.その後,チューブ逸脱防止目的に,気管切開チューブのフランジを頸部と体幹で固定するプレート“SASAE™”を導入した.以後3年間,在宅や保育園を含め日常生活においてチューブ逸脱は発生していない.
 今後,チューブ逸脱防止を目的としたSASAE™のような固定具を在宅や保育園・学校等に導入することで,気管切開を有する高度医療的ケア児が医療機関以外においても安全に生活できる可能性がある.


【短報】
■題名
小児がん経験者の長期フォローアップ外来における晩期合併症の網羅的スクリーニング
■著者
滋賀医科大学医学部附属病院小児科1),滋賀県立小児保健医療センター内分泌代謝糖尿病科2)
長井 静世1)  池田 勇八1)  山本 かずな1)  藤田 聖実1)  星野 真介1)  松川 幸弘1)  田川 晃司1)  木川 崇1)  坂本 謙一1)  坂井 智行1)  松井 克之1)2)  澤井 俊宏1)  多賀 崇1)  丸尾 良浩1)

■キーワード
小児がん経験者, 晩期合併症, 長期フォローアップ外来, 網羅的スクリーニング
■要旨
 小児がん経験者の適切な成長発達のサポートと晩期合併症の早期発見を目的に,当院では2019年に小児がん経験者長期フォローアップ外来を新規開設した.多様な合併症へ対応するためには,各領域専門医による網羅的スクリーニングが有用と考え,治療終了時と1年毎の外来で継続して行っている.自覚症状の乏しい疾病の早期発見,長期間経過した患者の合併症リスクの見直しになり,さらにヘルスリテラシーの獲得にも役立つと考えている.一方,成人期でのスクリーニング継続は難しく,リスクを絞って成人診療科へ移行している.施設間の情報共有が,効果的で持続可能なフォローアップ体制整備に役立つと思われ当院の取り組みを報告する.


【短報】
■題名
COVID-19の2022年流行期における小児の2回罹患例の実態調査
■著者
絹巻小児科クリニック1),ふじおか小児科2),ゆたかこどもクリニック3),こうどう小児科4),すくすくこどもクリニック5),おかだ小児科医院6),つちだ小児科7),にしむら小児科8)
絹巻 宏1)  藤岡 雅司2)  中村 豊3)  幸道 直樹4)  西原 信5)  岡田 清春6)  土田 晋也7)  西村 龍夫8)

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, COVID-19, 小児, 再罹患, オミクロン株
■要旨
 2022年のオミクロン株によるコロナウイルス感染症2019(COVID-19)の流行期に,小児の2回罹患例について多施設共同調査を行った.2022年1月〜10月に近畿地区の7か所の小児科診療所において診断した15歳未満のCOVID-19患者4,579人の中に2回罹患例が66例あった.1回目の罹患は1月〜3月,2回目は7月〜10月に集積し,それぞれオミクロン株BA.1/BA.2による第6波,BA.5による第7波の流行期と一致していた.1月〜5月に1回目を診断した1,765人のうち58人に10月末までに2回目の罹患が確認され,2回罹患の発生率は3.3%であった.

バックナンバーに戻る