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日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:23.9.20)

第127巻 第9号/令和5年9月1日
Vol.127, No.9, September 2023

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タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

第126回日本小児科学会学術集会
  会頭講演

小児の炎症性腸疾患-Past and Future-

清水 俊明  1155
  教育講演

原因不明の小児急性肝炎に関する最近の知見

細矢 光亮  1163
原  著

コロナウイルス感染症2019が地域総合病院小児科の入院診療に与えた影響

田上 和憲,他  1175
症例報告
1.

脳梗塞を合併したProteus mirabilisによる新生児髄膜炎

白石 結香,他  1186
2.

MRIが診断に有効であった新生児化膿性顎下腺炎の早産児

長柄 俊佑,他  1191
3.

繰り返す腹痛に創部感染を併発し,免疫グロブリン製剤が有効であったIgA血管炎

星野 美麗,他  1195
論  策

教員による特定行為の実施がない自治体の特別支援学校における医療的ケアヒヤリハット

亀井 淳,他  1202

地方会抄録(山口・宮崎・京都・愛媛・島根・鹿児島・岩手)

  1208
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 128 電子レンジで加熱した飲食物による喉頭熱傷

  1243

No. 129 未破裂コーンの誤嚥による窒息

  1246
日本小児医療保健協議会(日本小児科学会・日本小児保健協会・日本小児科医会・日本小児期外科系関連学会協議会)重症心身障害児(者)・在宅医療委員会主催

第1回重症児・医療的ケア児診療若手セミナー開催報告

  1250
日本小児科学会専門医制度運営委員会報告

小児科専門医の職責・貢献・勤務実態に関する調査研究報告 第3報:女性小児科医の現状について

  1254
日本小児科学会災害対策委員会報告
  第126回日本小児科学会学術集会

小児・周産期医療従事者向け災害医療研修会開催報告

  1261
日本小児医療保健協議会 重症心身障害児(者)・在宅医療委員会 日本小児科学会小児医療委員会 合同委員会報告

全国の小児在宅医療実技講習会実施状況についての報告

  1265
日本小児科学会ダイバーシティ・キャリア形成委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合44

事件は「現場」で起きています

  1270
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告
  はじめの一本10

教授回診から始まったはじめの一本

  1272

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2023年65巻7月掲載分目次

  1274


【原著】
■題名
コロナウイルス感染症2019が地域総合病院小児科の入院診療に与えた影響
■著者
春日井市民病院小児科1),同 小児アレルギーセンター2),あいち小児保健医療総合センター保健センター3)
田上 和憲1)  杉浦 至郎3)  田野 千尋1)  柴田 雄介1)  加藤 俊輔1)  前田 徹1)  中田 如音2)  小林 貴江2)  足達 武憲1)  河邊 太加志1)

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, 地域総合病院小児科, 入院数, 収益, DPC
■要旨
 コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の流行拡大以降,病院小児科の受診者数や収益が減少したことが報告されている.本研究は,NICU病床を有さない地域小児センターである春日井市民病院において,COVID-19流行拡大が小児科収益の変化に与えた影響を検討し,地域総合病院小児科に求められる役割を再考することを目的に行われた.
 2020,2021年度における当科全入院患者数及びDPC病名ごとの入院患者数,入院収益について2017〜2019年度の3年間の平均と比較した.小児科全入院患者数は2020,2021年度とも減少していた.この為,小児科病床数が削減され,RSウイルス感染症による入院数が急増した2021年度7月には病床管理に難渋したが,感染性疾患の入院者数は過去3年間の平均と比較して少なかった.一方非感染性疾患の入院数に大きな変化は認められなかった.
 病院全体と比較して小児科の入院数,収益減少が大きく,特に入院収益が大きく減少していた.疾患別に見た場合,急性感染症の入院収益が大きく減少していたが,慢性疾患の入院収益減少は小さかった.
 感染症の減少など病院小児科の疾病構造は大きく変化しており,小児科が存続していくためには専門的な慢性疾患への対応などが求められていると思われた.その一方で急性感染症の流行への対応は必須であり,新たな状況への適応が求められる.


【症例報告】
■題名
脳梗塞を合併したProteus mirabilisによる新生児髄膜炎
■著者
茨城県立こども病院新生児科1),同 小児感染症科2)
白石 結香1)  星野 雄介1)  新井 順一1)  石井 翔2)  雪竹 義也1)  梶川 大悟1)  日向 彩子1)  淵野 玲奈1)

■キーワード
新生児, 髄膜炎, 脳梗塞, Proteus mirabilis
■要旨
 Proteus mirabilisは動物の腸管に常在菌として存在するグラム陰性桿菌であり,尿路感染症や創部感染,そして感染防御機能の低下した患者において日和見感染を起こしうる.この菌が新生児の細菌性髄膜炎の起因菌であることは稀であり,その臨床像はあまり知られていないが,脳膿瘍の合併が多いと報告されている.今回,脳梗塞を合併したProteus mirabilisによる新生児髄膜炎の1例を経験したので報告する.
 症例は在胎39週2日,3,218 gで出生した女児.日齢3に39.2℃の発熱を認め当院に入院した.髄液検査から細菌性髄膜炎が疑われ抗菌薬治療を開始した.後日,血液および髄液培養検査よりProteus mirabilisが検出された.第19病日に行った頭部MRIでは同部位で梗塞の所見を認めた.第4病日には解熱し,その後再発熱なく,再検した血液および髄液培養検査が陰性であるため抗菌薬投与は21日間で終了した.生後1歳6か月で行った発達検査は正常であり,明らかな神経学的後遺症を認めていない.
 Proteus mirabilisが起炎菌の場合は頭蓋内合併症の頻度が高いため,頭蓋内病変スクリーニングの画像検査は病態把握や治療方針の決定に有用であると考える.


【症例報告】
■題名
MRIが診断に有効であった新生児化膿性顎下腺炎の早産児
■著者
高山赤十字病院小児科
長柄 俊佑  反中 絵美  臼井 新治  川尻 美和  山岸 篤至

■キーワード
新生児化膿性顎下腺炎, Wharton管, MRI, 早産児
■要旨
 新生児化膿性顎下腺炎は,細菌が口腔から顎下腺に上行感染することで発症し,感染部位は発赤,圧痛を認める.在胎32週で出生後の状態は安定し院内で経管栄養を行っていた.日齢14に体温上昇と左下顎角内側に圧痛を伴う腫瘤と発赤を認めたものの,アミラーゼの上昇は認められず超音波検査でも感染部位の特定が困難であった.最終的にMRI所見,鑑別疾患の除外にて新生児化膿性顎下腺炎と診断し抗菌薬投与で軽快した.同疾患は稀であるが,下顎の腫脹を認めた場合は同疾患を疑い,理学所見や画像検査による積極的な診断を行い,速やかな治療によって,膿瘍形成と敗血症の予防に努めることが重要である.


【症例報告】
■題名
繰り返す腹痛に創部感染を併発し,免疫グロブリン製剤が有効であったIgA血管炎
■著者
堺市立総合医療センター小児科
星野 美麗  高野 良彦  川上 展弘  高柳 恭子  入山 晶  岡村 隆行

■キーワード
腹痛, 血疱, IgA血管炎, 免疫グロブリン製剤, ステロイド薬
■要旨
 IgA血管炎の腹部症状に対してはステロイド薬が広く使用されているが,腹痛や紫斑の再燃を繰り返し,治療に難渋する症例も少なくない.今回,ステロイド薬の漸減中に腹痛の再燃を繰り返し,血疱が破綻して創部感染を起こしたIgA血管炎の児において,免疫グロブリン製剤の投与により,寛解に至った症例を経験したので報告する.
 症例は7歳男児.腹痛を主訴に来院した.ステロイド薬の投与で腹痛は消失するものの,漸減中に腹痛の再燃を繰り返した.また,掻痒の訴えが強く,紫斑に加えて血疱や潰瘍を形成し,創部にMRSA感染も認めた.第XIII因子製剤でも改善が得られず,免疫グロブリン製剤を投与したところ,腹部症状は消失し,皮膚症状も改善し,寛解に至った.
 本邦ではIgA血管炎に対する免疫グロブリン製剤の有効性に関する報告は少なく,海外で報告されている23例の検証を行った.結果,治療抵抗性のIgA血管炎において,免疫グロブリン製剤も選択肢の一つと考えられた.


【論策】
■題名
教員による特定行為の実施がない自治体の特別支援学校における医療的ケアヒヤリハット
■著者
岩手医科大学医学部障がい児者医療学講座
亀井 淳  浅見 麻耶  高清水 奈央

■キーワード
特別支援学校, 医療行為, 医療的ケア, 看護師, ヒヤリハット報告
■要旨
 岩手県内の県立特別支援学校で2012年4月から2022年7月までに集計された「医療的ケアヒヤリハット事例データベース」を用いて,結果を公表し,医療的ケア児の安全対策に係るマニュアル作成など,施策立案の基礎資料とすることを目的に,岩手県教育委員会の許可を受け内容を整理した.ヒヤリハットは看護師が行う医療行為に係る内容と,看護師と教員が協同し行う生活援助行為に係る内容に分類され,1年間のヒヤリハット報告件数は平均10件(中央値11件)で,内容は医療行為関連が7項目82件(経管栄養38件,吸引・気管切開17件,酸素8件,機器7件,人工呼吸器3件,導尿1件,その他8件),生活援助行為関連が6項目26件(食事・水分補給5件,姿勢介助5件,物品5件,異食2件,情報伝達2件,その他7件)であった.生活援助行為に分類される給食介助中に発生した食物嚥下困難や,姿勢介助中の転倒・転落未遂事例などは,看護師が行う医療行為実施中に発生する事例よりも重大事故につながる可能性が高いと思われた.医療的ケア児とその家族を支援し学校における安全な環境を整備するために,「切れ目ない支援体制整備事業」(文部科学省)を利用し適正な看護師配置をすすめ,自治体ごとに可能な支援・施策の立案を教育委員会が主導的立場で行うことが望ましい.

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