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日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:23.8.16)

第127巻 第8号/令和5年8月1日
Vol.127, No.8, August 2023

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タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

原  著

小児患者での静注用アセトアミノフェンによる血圧低下

大野 令央義,他  1047
症例報告
1.

完全DiGeorge/CHARGE症候群の診断における新生児スクリーニングの有用性

高島 悟,他  1053
2.

心房中隔欠損に左室緻密化障害を合併し,ACTC1遺伝子新規病的バリアントを認めた要胎

大坪 善数,他  1060
3.

在宅診療への移行に成功し,発達を獲得している透明脊椎異骨症の幼児

菅原 碧,他  1067
4.

金属片内蔵加熱式タバコ誤飲症例と類似症例

山田 実希,他  1074
論  策

小児病院における小児科専門研修の環境変化が専攻医に与える影響

中尾 寛,他  1080

地方会抄録(栃木・青森・佐賀)

  1088
日本小児科学会情報管理委員会報告

病院における小児科及び新生児科の診療体制に係る調査(2021年度病院調査)

  1097

日本小児科学会理事会議事要録

  1133

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2023年65巻6月掲載分目次

  1138

日本小児科学会分科会一覧

  1140

日本小児科学会分科会活動状況

  1141

雑報

  1153


【原著】
■題名
小児患者での静注用アセトアミノフェンによる血圧低下
■著者
広島赤十字・原爆病院小児科
大野 令央義  樋口 公章  津田 玲子  村上 洋子  三木 瑞香  藤田 直人

■キーワード
静注用アセトアミノフェン, 血圧低下, 低血圧
■要旨
 【緒言】静注用アセトアミノフェンは成人領域では血圧低下を起こすことが知られているが,小児での報告は少ない.【対象と方法】2020年7月から2021年10月に入院した18歳未満の小児科患者を後方視的に検討した.静注用アセトアミノフェンの投与前,投与後15〜30分,それぞれで体温,心拍数,血圧を測定した.血圧は投与後15%以上の変化率の低下を有意な血圧低下と定義した.【結果】24例116回の静注用アセトアミノフェンの投与が行われた.体温,心拍数,平均血圧,収縮期血圧,拡張期血圧のすべてで,投与後の有意な低下を認めた.15%以上の変化率の低下を伴った血圧低下は,平均血圧,収縮期血圧,拡張期血圧で,それぞれ,19.0%,6.9%,31.0%で認めた.介入が必要な低血圧を発症した症例は認めなかった.【考察】拡張期血圧が収縮期血圧に比べ下がる機会が多く,末梢血管拡張の関与が示唆されていることを考慮すると,循環血液量が少ない場合での静注用アセトアミノフェンの投与は注意が必要と考えられた.【結語】静注用アセトアミノフェンは安全に使用できる薬剤と考えられたが,小児でも血圧低下を起こす事が示唆された.


【症例報告】
■題名
完全DiGeorge/CHARGE症候群の診断における新生児スクリーニングの有用性
■著者
熊本市民病院総合周産期母子医療センター新生児内科
高島 悟  猪俣 慶  藤戸 祥太  西村 円香  片山 太輔  大塚 里奈  吉松 秀隆  井上 武

■キーワード
完全DiGeorge/CHARGE症候群, CHARGE症候群, 重症複合免疫不全症, 新生児スクリーニング
■要旨
 在胎37週6日,体重2,346 gで出生した女児.口唇口蓋裂,小眼球,耳介低形成などの先天異常があり,他検査において動脈管開存症,心房中隔欠損症の先天性心疾患,網膜コロボーマ,三半規管形成不全,後鼻腔形成不全の所見を認めた.これらの先天異常に加え,遺伝学的検査ではCHD7のバリアントを認めたことからCHARGE症候群の診断とした.また,重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency disease:SCID)の新生児スクリーニングである,T-cell receptor excision circles(TREC)が感度未満であった.リンパ球サブセット解析ではCD3陽性T細胞が8/μLと低値であり,先天性心疾患や副甲状腺機能低下症,胸腺無形成などDiGeorge症候群の合併を認め,完全DiGeorge/CHARGE症候群の診断とした.自験例は,生後1か月より感染予防対策を開始し,感染症の発症なく,日齢70をDay0として同種造血細胞移植を行った.
 完全DiGeorge/CHARGE症候群の診断に,SCIDの新生児スクリーニングであるTERCが有用であった.感染症発症後の治療成績は不良であり,早期診断が大切である.


【症例報告】
■題名
心房中隔欠損に左室緻密化障害を合併し,ACTC1遺伝子新規病的バリアントを認めた要胎
■著者
佐世保市総合医療センター小児科1),富山大学医学部小児科2)
大坪 善数1)  石橋 信弘1)  横川 真理1)  廣野 恵一2)

■キーワード
心筋緻密化障害, 心房中隔欠損, ACTC1遺伝子, 心筋症
■要旨
 左室心筋緻密化障害(LVNC)は,心室壁の過剰な網目状の肉柱形成と深い間隙を形態的特徴とし,WHO分類ではunclassified cardiomyopathyの1つとして分類されている.小児の心筋症の約9.5%を占めるが,臨床像は無症状の症例から高度の心機能障害を有し,心移植の対象になるものもあり極めて多彩である.
 先天性心疾患にLVNCを合併することが知られているが,今回我々は心房中隔欠損(ASD)にLVNCを合併した要胎例を経験した.遺伝子解析ではactin,α-cardiac muscle(ACTC1)遺伝子のヘテロ接合体のミスセンス変異(c.496C>T,p.Pro166Ser)が見出された.在胎35週で出生し,ASDと診断された3人を含めて,4人ともにASDに合致しない心電図異常を認め,エコー所見からLVNCの診断に至った.家族内検索で母親,姉も心電図異常,LVNC所見を有し,同一の遺伝子変異を認めた.
 同一の遺伝子変異ながらASDを合併しない症例もあり浸透率,表現度が一様でないことが示唆された.ACTC1遺伝子は心筋症関連遺伝子として知られているが,ASDとLVNCを合併した本例の遺伝子変異がアクチン機能だけではなく心形態形成への関与も示唆され,重要な症例と思われたので報告する.


【症例報告】
■題名
在宅診療への移行に成功し,発達を獲得している透明脊椎異骨症の幼児
■著者
国立成育医療研究センター教育研修センター1),同 総合診療部2),同 放射線診断科3),横浜市立大学発生成育小児医療学4),同 大学院医学研究科遺伝学5)
菅原 碧1)2)  中尾 寛1)2)  中村 知夫2)  宮嵜 治3)  平石 のぞみ4)  岩間 一浩4)5)  窪田 満2)  石黒 精1)

■キーワード
透明脊椎異骨症, 坐骨脊椎異骨症, BMPER関連骨系統疾患, 小児在宅医療
■要旨
 透明脊椎異骨症(Diaphanospondylodysostosis:DSD)は,7番染色体短腕上のbone morphogenetic protein-binding endothelial regulator(BMPER)の病原性変化(OMIM*608699)により引き起こされる常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の遺伝性疾患である.周産期死亡率が非常に高い稀な骨系統疾患の1つであるが,今回われわれは4歳5か月まで生存しているDSDの女児を経験した.出生時よりベル型胸郭に伴う呼吸不全が存在したが,単純気管切開と人工呼吸器管理を行い呼吸状態は安定した.その後在宅医療への移行が進み,言語理解は良好で,表出性言語にやや遅れが見られるもつたい歩きができるまでに発達した.検出されたバリアントは,ナンセンス(NM_133468.4:c.1672C>T,p.Arg558Ter)と,エクソン1〜3が欠失したアレルとの複合ヘテロ接合性バリアントであった.検出されたバリアントは,より軽症な坐骨脊椎異骨症(Ischiospinal dysostosis:ISD)の病原性変化としてすでに報告されていた.しかし,自験例の表現型はISDの通常の表現型よりも重症であった.DSDとISDは同一の疾患であり,重症度がスペクトラムを形成するBMPER関連骨系統疾患といわれている.現実の表現型に合わせた医学的介入により,予後の改善が期待される.周産期死亡率が非常に高い疾患として報告されている本症であるが,自験例のように乳児期を超えて成長する経過も報告されてきており,今後の症例集積が望まれる.


【症例報告】
■題名
金属片内蔵加熱式タバコ誤飲症例と類似症例
■著者
名古屋記念病院小児科
山田 実希  武藤 太一朗  西尾 洋介  尾関 翔子  鬼頭 周大  藤城 尚純  徳永 博秀  長谷川 真司

■キーワード
加熱式タバコ, 誤飲, 金属片, 消化管異物, 金属片内蔵加熱式タバコ
■要旨
 2021年9月に金属片内蔵加熱式タバコが販売された.6 mgのニコチンを含有したタバコ葉が12 mmの長さに充填され,同部位に幅4 mm薄さ0.06 mmの金属片が内蔵されている.この金属片内蔵加熱式タバコの誤飲症例について報告し,日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)から類似症例の検討を行った.
 症例は2歳男児で,金属片内蔵加熱式タバコを誤飲し,30分後に嘔気を主訴に受診した.意識は清明で,瞳孔左右差や縮瞳はなく,エックス線写真で胃内に金属片を確認した.胃洗浄と活性炭投与を実施,1泊入院の後,経過観察を継続した.退院後,症状や便性状に異常はなく,8日後まで便への排出が確認できなかった.腹部CTで金属片を認められず,便中に排泄されたと判断した.
 金属片内蔵加熱式タバコの問題点として,タバコ葉充填部分が短く容易に誤飲しうる形状であること,ニコチン含有量が多いこと,薄く鋭利な金属片を含有し消化管損傷の可能性があること,エックス線写真の評価で描出しにくい場合があることなどが挙げられ,危険性を十分に認識して対応する必要がある.Injury Alertでも類似症例の報告がされている.加熱式タバコの誤飲は近年増加しており,誤飲時の胃洗浄や内視鏡的摘除の適応などの対応について検討を要する.金属片内蔵加熱式タバコ誤飲の危険性についてについて,小児科医のみならず,養育者に対しても広く周知し,誤飲事故の防止に努める必要がある.

本論文は日児誌第127巻10号P1335に著者訂正を掲載
http://www.jpeds.or.jp/modules/publications/index.php?content_id=71


【論策】
■題名
小児病院における小児科専門研修の環境変化が専攻医に与える影響
■著者
国立成育医療研究センター教育研修センター1),同 総合診療部2),弘前大学大学院医学系研究科医学教育学講座3)
中尾 寛1)2)  野村 理1)3)  窪田 満2)  石黒 精1)

■キーワード
小児科専攻医, 小児科専門研修, 精神衛生, 勤務時間, オーナーシップ
■要旨
 はじめに 国立成育医療研究センターの小児科専門研修において,2011年に夜勤シフトワークシステムを導入し,その長期効果として,夜勤後の日中休みを取ることのできる専攻医が増加したこと,シフトワークが専攻医の精神衛生に好影響であることを報告した.しかし,シフトワーク以外の研修環境の変化については解析できていなかったため,今回は質的分析を用いて検討した.
 方法 2012年フォーカスグループ記録と,2019年専攻医アンケート自由記述のテキストを質的分析し,さらに研究者の参与観察および指導医ミーティングでの匿名聞き取り記録から研修環境の変化を抽出した.
 結果 2012年に抽出したバーンアウト関連因子のうち半分程度は,診療責任の指導医へのシフトにより,また一部は指導医ミーティングでの話し合いの強化により,2019年には専攻医への業務負荷が軽減していた.また2019年に新たに見出された問題点のうち,対処されているものもあったが,特にオーナーシップ低下の懸念については,課題であった.
 結論 研修環境の改善に伴い,専攻医の業務負荷が軽減していることを見出した.働き方改革の時代において,専攻医の精神衛生を保ちつつ,オーナーシップを高めるような専門研修を追求することが,次の課題である.

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