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日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:23.6.19)

第127巻 第6号/令和5年6月1日
Vol.127, No.6, June 2023

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原  著
1.

小児総合医療施設・小児がん拠点病院におけるがんリハビリテーション診療の取り組み

真野 浩志,他  813
2.

Klippel-Trenaunay症候群の診断におけるMRIと遺伝子解析の有用性

安江 志保,他  823
症例報告
1.

特発性拡張型心筋症の乳児例におけるイバブラジンの使用経験

島田 空知,他  833
2.

細菌性髄膜炎と初期診断された脳動静脈奇形の思春期小児

加藤 圭恵,他  839
3.

2度目の緑膿菌感染症で死亡したInterleukin-1 receptor-associated kinase 4欠損症

島袋 美起子,他  845
4.

POR遺伝子p.R457Hフレームシフトバリアントを持つ軽症P450オキシドレダクターゼ欠損症

齋藤 碧,他  851
5.

異なる臨床症状を呈した小児多系統炎症性症候群の同胞例

川見 愛美,他  859
6.

プロトンポンプ阻害薬による長期治療を要した十二指腸潰瘍合併好酸球性胃腸炎の3例

高橋 達也,他  866
7.

IgA血管炎を合併した小児全身性エリトマトーデス

榎木 美幸,他  874
論  策

千葉県における神経疾患の実態調査を踏まえた移行期医療支援推進の提言

日野 もえ子,他  880

編集委員会への手紙

  888

地方会抄録(宮城・東海・佐賀・京都・北陸・石川・広島・徳島・岩手・島根)

  890
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告
  はじめの一本9

あきらめずに挑み続けることが採択への筋道となる

  923

公益社団法人日本小児科学会通常総会議事要録

  925

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2023年65巻4月掲載分目次

  929


【原著】
■題名
小児総合医療施設・小児がん拠点病院におけるがんリハビリテーション診療の取り組み
■著者
静岡県立こども病院リハビリテーション科1),同 リハビリテーション室2),同 血液腫瘍科3)
真野 浩志1)2)  鈴木 暁2)  藤川 紀子2)  山本 広絵2)  小出 郁也2)  立花 真由美2)  成滝 叶2)  須藤 千春2)  鈴木 藍2)  横尾 友梨子2)  羽切 和加子2)  稲員 惠美2)  北村 憲一2)  渡邉 健一郎3)

■キーワード
小児総合医療施設, 小児がん拠点病院, がんリハビリテーション, がん患者リハビリテーション料
■要旨
 2010年4月から2022年3月の12年間において,当院血液腫瘍科より依頼のあった小児がん患児,及び原発性免疫不全症候群等の非腫瘍性疾患に対して造血幹細胞移植を行った児(以下小児がん等患児)に対するリハビリテーション診療の実施状況を調査した.当院にてがん患者リハビリテーション料の算定を開始した2020年度以降,小児がん等患児に対するリハビリテーション診療は,実施単位数,病院全体に占める割合とも増加し,リハビリテーション診療開始までの期間も短縮していたが,退院後の外来リハビリテーション診療を継続する患者は増加していなかった.リハビリテーション診療における有害事象については,レベル3b以上の事例はなかったが,レベル3a以下の事例はみられ,転倒や衝突が多かった.当院におけるがんリハビリテーション診療は,診療体制の整備により増加し開始までの日数も短縮したが,外来では種々の制約により充分実施できていない可能性が示唆された.リハビリテーション診療は,個々の児の状態や環境設定に配慮を行えば,充分安全に実施が可能であると考えられ,入院中における生活の質向上のほか,退院後の社会生活や活動・参加の拡大への支援においてさらなる役割を果たせる可能性がある.今後の小児がん患者のリハビリテーション診療の展望として,小児におけるさらなる科学的根拠の蓄積と,診療体制の整備が課題である.


【原著】
■題名
Klippel-Trenaunay症候群の診断におけるMRIと遺伝子解析の有用性
■著者
岐阜大学医学部附属病院小児科1),ARTham Therapeutics株式会社2),Axcelead Drug Discovery Partners株式会社3),岐阜大学医学部附属病院放射線科4)
安江 志保1)  小関 道夫1)  林 大地1)  野澤 明史1)  遠渡 沙緒理1)  國枝 香南子2)  坂口 和弥3)  加藤 博基4)  松尾 政之4)  大西 秀典1)

■キーワード
Klippel-Trenaunay症候群, 脈管異常, phosphatidylinositol-4,5-bisphosphate 3-kinase catalytic subunit alpha(PIK3CA), 過成長症候群, PIK3CA-related Overgrowth Spectrum
■要旨
 Klippel-Trenaunay症候群(Klippel-Trenaunay syndrome,以下KTS)は,患肢の骨軟部組織の過成長と低流速混合型脈管奇形を合併する疾患で,伝統的に臨床所見から診断されてきた.近年,KTSはPIK3CA-related overgrowth spectrumの一つであることが明らかとなり,臨床的診断と遺伝子解析結果に乖離が生じるケースが散見される.今回我々は,KTSと臨床診断されてきた11症例について,病変の生検検体を遺伝子解析し,臨床症状,MRI所見を後方視的に検討した.4例はPIK3CA遺伝子変異を認め,“真の”KTSと診断した.5例はPIK3CA遺伝子以外の変異(RASA1GNA11TEKGNAQMTOR遺伝子)を認め,臨床症状や画像所見と合わせて,他の脈管奇形,症候群と診断した.2例は有意な遺伝子変異が検出されなかった.PIK3CA変異を認めた4症例は,片側の四肢肥大と皮膚毛細血管奇形,内部の静脈/リンパ管奇形からなるKTSの3徴を全て満たしていた.MRIでは,皮下組織を主体とする局在,びまん性の分布,浸潤性発育を反映した不明瞭な境界,高度な脂肪の混在,拡張した血管の貫通などの共通した特徴を認めた.KTSとそれに類似する四肢の肥大,過成長を伴う脈管奇形の鑑別に,MRIと遺伝子解析が有用である可能性が示唆された.


【症例報告】
■題名
特発性拡張型心筋症の乳児例におけるイバブラジンの使用経験
■著者
旭川医科大学小児科
島田 空知  中右 弘一  伊藤 啓太  佐々木 勇気  今西 梨菜  岡 秀治  高橋 悟

■キーワード
特発性拡張型心筋症, 乳児, HCNチャネル阻害薬, イバブラジン, 洞性頻脈
■要旨
 イバブラジンは陰性変力作用なく心拍数を下げる薬剤であり,成人では左室駆出率が低下した心不全で有効性が確立されてきている.しかし小児での経験は限られており,日本人乳児の重症心不全に対するイバブラジンの使用報告はこれまでにない.
 症例は2か月男児.心不全症状を契機に特発性拡張型心筋症と診断し,入院時より薬物治療と高流量鼻カヌラ療法を開始した.β遮断薬を含む心保護薬を最大忍容量で投与しても心不全の急性増悪を繰り返したため,生後6か月よりイバブラジンを導入した.心拍数が約20%の減少を認めた段階で,経静脈治療と高流量鼻カヌラ療法から離脱可能となり,投与開始から4か月後に自宅退院できた.
 特発性拡張型心筋症の乳児例に対し,イバブラジンを症候性徐脈などの副作用の発現なく安全に使用でき,臨床的に有効であった.


【症例報告】
■題名
細菌性髄膜炎と初期診断された脳動静脈奇形の思春期小児
■著者
獨協医科大学医学部小児科学1),同 放射線医学講座2)
加藤 圭恵1)  安藤 裕輔1)  小森 慈海1)  今高 城治1)  桑島 成子2)  吉原 重美1)

■キーワード
脳動静脈奇形, 細菌性髄膜炎, MR-digital subtraction angiography, CT Angiography
■要旨
 インフルエンザ菌b型及び肺炎球菌の定期予防接種の導入後,細菌性髄膜炎の発症数は小児を中心に減少している.しかし,発症した際の死亡率や重篤な神経学的後遺症の割合は高いため,細菌性髄膜炎を疑う場合は速やかに治療を開始する必要がある.その一方で,細菌性髄膜炎に似た症状を呈する疾患は多岐に渡り,脳出血,脳炎,脳症など緊急性の高い疾患を鑑別することも重要である.
 症例は13歳男子で発熱,後頸部痛を主訴とし,髄膜炎を鑑別に行った髄液検査では血性髄液,髄液糖濃度の低値,多核球優位の細胞数増多を認め,細菌性髄膜炎と暫定診断し抗菌薬加療を開始した.しかし,意識は清明で後頸部痛から4日間,発熱してから3日間経過していた初診時の血液検査で重篤な細菌感染症を示唆する所見に乏しく,髄液マルチプレックスPCR検査で起因菌が検出されなかった.以上から,本症例が細菌性髄膜炎でない可能性を考慮し,後頸部痛の精査として頭部MRIを施行したところ脳室内出血を認めた.MR-digital subtraction angiography(MR-DSA)で左側脳室に小動脈瘤が疑われ,血管造影で左側脳室脈絡叢部脳動静脈奇形が確認された.その後,塞栓術とガンマナイフを施行し,再出血や後遺症なく退院した.初診時に細菌性髄膜炎を疑った症例でも,検査結果や経過が非典型的な場合はMR-DSA検査などを追加し,診断を見直すことが必要である.


【症例報告】
■題名
2度目の緑膿菌感染症で死亡したInterleukin-1 receptor-associated kinase 4欠損症
■著者
那覇市立病院小児科
島袋 美起子  上原 朋子  渡久地 鈴香  伊波 徹  屋良 朝雄

■キーワード
IRAK4欠損症, 緑膿菌, 臍帯脱落遅延, 先天性免疫不全症
■要旨
 Interleukin-1 receptor-associated kinase 4(IRAK4)は,Toll-like receptor(TLR)等からのシグナル伝達を介在する重要な細胞内タンパク質で,IRAK4欠損症はこれらのシグナル伝達障害により感染初期応答が遅延し,細菌感染症が重篤化する自然免疫不全症である.常染色体潜性遺伝の稀な疾患で,国内で10家系程が確認されている.
 症例は4歳の女児,発熱,嘔吐,意識障害を主訴に救急外来を受診した.緑膿菌性髄膜炎と診断し,抗菌薬治療を行うも不可逆的な脳障害を残し約1年後に死亡した.生後9か月時に観血的腸重積整復術後の緑膿菌菌血症罹患歴があるが,手術操作による術後感染症と考えられ免疫不全症は疑われなかった.今回2度目の緑膿菌感染症に罹患したことで免疫不全症を疑い,種々の検査を行ったが異常を認めず,髄膜炎発症時の白血球やCRPの上昇が軽微であることや,新生児期に臍帯脱落遅延を認めていたことなどからIRAK4欠損症を疑い,遺伝子検査で確定診断した.沖縄県では2010年に初めてIRAK4欠損症患者が報告され,その後5家系,7例の患者が相次いで確認されている.高い地域性が示唆されるため,臍帯脱落遅延を指標とした早期診断が可能か検討を開始した.


【症例報告】
■題名
POR遺伝子p.R457Hフレームシフトバリアントを持つ軽症P450オキシドレダクターゼ欠損症
■著者
兵庫医科大学小児科学1),同 遺伝子医療部2),慶應義塾大学病院臨床検査科3),慶應義塾大学医学部小児科学4),高槻病院遺伝診療センター5),国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部6)
齋藤 碧1)  李 知子1)  福田 典子1)  本間 桂子3)  玉置 知子2)5)  深見 真紀6)  長谷川 奉延4)  竹島 泰弘1)

■キーワード
P450オキシドレダクターゼ欠損症, 妊娠母体男性化, 新生児マススクリーニング17OHP高値, 多発関節拘縮
■要旨
 P450オキシドレダクターゼ(P450 oxidoreductase:POR)欠損症は先天性副腎酵素欠損症の一つで常染色体潜性遺伝形式を示す.臨床的には,46,XY及び46,XX両者における外性器異常,骨形成異常,ステロイド合成障害,妊娠中の母体男性化を特徴とし,個々の症例により症状の重症度が大きく異なることが知られている.今回我々は多発関節拘縮を認めた12歳男児を精査し,POR欠損症と診断した.
 本症例は関節可動域制限及び新生児マススクリーニングにおいて17α-ヒドロキシプロゲステロン(17OHP)高値(6.2 ng/mL)を認め,児妊娠中の母体男性化の病歴より,本症を疑った.尿ステロイドプロフィルによりPOR欠損症と診断.遺伝子解析では日本人創始者変異と考えられているc.1370G>A(p.R457H)と新規バリアントc.1864_1865insAAGT(p.L622)を同定した.
 p.R457Hバリアントと無機能バリアントとの複合ヘテロ接合症例は世界的にも重症な表現型を呈する報告が多いが,本症例の臨床症状は比較的軽症だった.我々の知る限り報告があった無機能バリアントのうち最も3´末端側にあり,なおかつ終止コドンの位置が最後から2つ目のエクソンの後半55塩基の範囲内のため,ナンセンス変異依存mRNA分解を受けず,完全長に近い蛋白合成が行われたと考える.


【症例報告】
■題名
異なる臨床症状を呈した小児多系統炎症性症候群の同胞例
■著者
国立病院機構国立埼玉病院小児科
川見 愛美  仲澤 麻紀  横張 博也  西袋 剛史  三島 芳紀  漢那 由紀子  朝戸 信家  上牧 勇

■キーワード
coronavirus disease 2019, multisystem inflammatory syndrome in children, 小児多系統炎症性症候群, サイトカインプロファイル
■要旨
 Multisystem Inflammatory Syndrome in Children(MIS-C)は発熱,消化器症状,皮膚粘膜症状のほか,神経症状を呈することが知られている.今回,異なる臨床症状を呈したMIS-Cの同胞例を経験した.
 症例はともに3週間前に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型に感染した同胞.兄は13歳男子.発熱3日目,経口摂取困難で入院した.頸部リンパ節腫脹とJCSI-1の意識障害を認め,入院2日目の脳波では前頭部領域にデルタ波が群発していた.入院4日目に眼球結膜充血,口唇発赤,手掌紅斑が出現したためMIS-Cと診断し,Intravenous immunoglobulin(IVIG)で改善した.退院6か月後に再検した脳波ではデルタ波は消失していた.弟は11歳男児.発熱4日目,激しい嘔吐・腹痛で入院した.眼球結膜充血以外の川崎病様症状も認め,MIS-Cと診断した.初回IVIGに不応だったが,2回目のIVIGおよびprednisolone(PSL)投与で改善した.ともに一過性の心嚢液貯留や僧帽弁逆流は認めたが,冠動脈病変は認めなかった.
 サイトカインプロファイルでは,不応例であった弟はIL-6が高値であり,neopterinやIL-18は神経症状を呈した兄でより高かった.この差異には発症機序の違いが関与している可能性があり,異なる臨床症状を呈した原因と考えられた.


【症例報告】
■題名
プロトンポンプ阻害薬による長期治療を要した十二指腸潰瘍合併好酸球性胃腸炎の3例
■著者
国立成育医療研究センター教育研修センター1),同 消化器科・小児IBDセンター2),同 病理診断部3),沖縄県立中部病院小児科4),福岡大学病院小児科5),国立成育医療研究センターアレルギーセンター消化管アレルギー科6)
高橋 達也1)  清水 泰岳2)  義岡 孝子3)  吉年 俊文4)  藤田 貴子5)  山本 陽子2)  宮田 恵理2)  藤川 皓基2)  竹内 一朗2)  石黒 精1)  野村 伊知郎6)  新井 勝大2)6)

■キーワード
好酸球性胃腸炎, 好酸球性消化管疾患, 十二指腸潰瘍, プロトンポンプ阻害薬
■要旨
 好酸球性消化管疾患は消化管に好酸球が浸潤し,炎症や機能障害を来たす慢性炎症性疾患である.近年,十二指腸潰瘍を合併した好酸球性胃腸炎の症例報告が散見され,中には,消化管穿孔や高度の貧血を合併した難治例もある.しかし,十二指腸潰瘍合併例の長期の治療経過をまとめた報告は限られている.われわれが経験した3例は,いずれも内視鏡検査で十二指腸球部に巨大な潰瘍を認めた.十二指腸球部の生検組織で著明な好酸球浸潤を認め,十二指腸潰瘍を合併した好酸球性胃腸炎と診断した.いずれもプロトンポンプ阻害薬が一定の効果を示したが,漸減・中止により潰瘍が再燃する難治性の経過であった.しかし,3例中2例では,プロトンポンプ阻害薬を継続することによって,症状の完全消失と潰瘍の治癒が得られ,最長で11年間,ステロイドを使用せずに寛解を維持し,適正な成長とQOLが維持されている.一方,残る1例は,プロトンポンプ阻害薬の継続により症状の改善は認めているものの,活動性のある潰瘍が残存しており,治療に難渋している.近年,好酸球性消化管疾患の患者数は増加傾向にあり,今後,同様の症例が増加する可能性もある.臨床像の解明とともに,より効果的で安全な治療の開発が望まれる.


【症例報告】
■題名
IgA血管炎を合併した小児全身性エリトマトーデス
■著者
鹿児島大学病院小児科1),鹿児島市立病院小児科2)
榎木 美幸1)  山崎 雄一1)  光延 拓朗1)  中村 陽1)  久保田 知洋2)  武井 修治1)  岡本 康裕1)

■キーワード
IgA血管炎, 全身性エリテマトーデス, 皮膚生検, 腎生検, 低補体血症
■要旨
 小児の全身性エリテマトーデス(SLE)は成人と比べループス腎炎の頻度が高く重症例も多い.尿所見陰性のサイレントループス腎炎が存在するため,本邦では原則全例で腎生検を行い治療方針を選択する.一方,IgA血管炎では紫斑病性腎炎を呈する症例もあるが,多くは自然軽快するため,ネフローゼ症候群や腎機能障害を伴う症例,蛋白尿が持続する症例でのみ腎生検を行う.今回,IgA血管炎の発症を契機にSLEの併発が判明した症例を経験した.症例は11歳女児.両下肢の紫斑と足関節痛で発症し,腹痛も認め,症状・経過からIgA血管炎と診断した.入院時検査で低補体血症と尿潜血及び尿蛋白を認め,抗核抗体および抗dsDNA抗体が陽性であり,SLEと診断した.紫斑部位の皮膚生検で血管壁にIgA沈着を認め,IgA血管炎とSLEを併発していると判断した.ステロイドパルス療法後に腎生検を行い,ループス腎炎class IV+Vの診断に至った.グルココルチコイド,ミコフェノール酸モフェチル,ヒドロキシクロロキンでSLEの活動性は徐々に安定した.SLEでは腎生検の結果が予後と治療方針に影響するため,IgA血管炎の診断時に高度蛋白尿を認める場合や,年長の女児で貧血を認める場合は,SLEの存在にも留意し,補体や自己抗体を検討する必要があると考えられた.


【論策】
■題名
千葉県における神経疾患の実態調査を踏まえた移行期医療支援推進の提言
■著者
千葉県移行期医療支援センター1),千葉大学大学院医学研究院小児病態学2),同 脳神経内科学3),千葉大学医学部附属病院患者支援部4),同 看護部5)
日野 もえ子1)2)  藤井 克則1)2)  竹内 公一1)4)  横内 宣敬1)4)  市原 章子1)4)  湯口 梓1)5)  桑原 聡1)3)  濱田 洋通1)2)

■キーワード
重症心身障害児・者, てんかん, トランジション, 移行期医療, 在宅診療
■要旨
 千葉県内の小児科(23施設)と脳神経内科(75施設)に対し同時に調査を行い,神経疾患における移行期医療の提供体制を分析した.全体で延べ323症例(小児科136例,脳神経内科187例)の経験があり,そのうち2/3はてんかんであった.移行の多くは20歳代に行われていたが,神経筋疾患は10歳代が中心であった.小児科医はコントロール不良のてんかんと重症心身障害児・者の入院・在宅管理の移行に困難を感じる一方,脳神経内科医は紹介時における医療サマリと緊急時のケアプラン作成が不十分と感じることが多かった.小児科医と脳神経内科医が移行に際し最も重視することは,患者・家族が納得することで一致しており,移行期医療支援センターに求める役割は,小児期と成人期の医療機関間の連絡調整・連携支援だった.重症心身障害児・者の移行では,慢性期の地域プライマリケアを把握し情報提供することが両者に必要であり,コントロール不良なてんかんの移行はてんかん診療拠点機関との連携支援が不可欠と考えられた.一方で成人期医療では疾患・臓器別,急性期と慢性期の管理先が明確に区別されていることから,小児期の医療者が成人期医療システムを学び,複数機関への情報提供と患者・保護者への成人期医療システムに関する啓発活動が望ましく,継続的な取り組みのためには診療報酬上の加算も不可欠と考えられた.

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