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日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:22.11.17)

第126巻 第11号/令和4年11月1日
Vol.126, No.11, November 2022

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第125回日本小児科学会学術集会
  教育講演

出生前診断・着床前診断の現状と課題

山本 俊至  1459
日本新生児成育医学会推薦総説

母乳栄養について

水野 克己  1465
総  説
1.

無症候性一側肺動脈欠損例の臨床像

岩田 健一,他  1473
原  著
1.

超低出生体重児の大動脈縮窄に対するカテーテル治療

石垣 瑞彦,他  1480
2.

乳幼児・児童のスマートフォン,タブレットの利用状況と生活実態調査

小沢 愉理,他  1489
症例報告
1.

初発症状として致死性不整脈を呈した複数副伝導路を有するWPW症候群の幼児

山内 真由子,他  1498
2.

重症貧血を伴う心不全の原因検索中に判明した自己瀉血

平野 瑶子,他  1505
論  策
1.

不活化ポリオワクチン就学前追加接種の助成をしている自治体へのアンケート

久保田 恵巳,他  1512
2.

群馬大学小児科医師の会で働き方改革のために実施した勤務時間調査

松井 敦,他  1517

地方会抄録(滋賀・千葉・佐賀・長崎)

  1524
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 116 ビーズ玩具による外耳道異物・鼓膜穿孔

  1540

No. 117 ヘアターニケット(毛髪)による頸部絞扼

  1542

No. 118 ヘアアイロンによる手指熱傷

  1545
日本小児科学会小児医療委員会主催

小児在宅医療実技講習会報告

  1548
日本小児科学会小児医療委員会グリーフケア小委員会報告

救急外来での子どもの死─この場面,あなたならどうしますか?─

  1550
日本小児科学会専門医制度運営委員会報告

小児科専門医の職責・貢献・勤務実態に関する調査研究報告 第1報:ウェブアンケート集計結果

  1557

小児科専門医の職責・貢献・勤務実態に関する調査研究報告 第2報:小児科専門医の全国動態

  1570
日本小児科学会社会保険委員会報告

急性期後のリハビリテーションを要する小児患者の受け入れ実態調査報告書

  1581
日本小児科学会働き方改革検討ワーキンググループ報告(第2報)

これからの小児科医がめざす小児保健・医療の方向性〜2022年6月までの進捗状況の分析〜

  1587

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2022年64巻9月掲載分目次

  1591

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 395

  1593


【総説】
■題名
無症候性一側肺動脈欠損例の臨床像
■著者
名古屋記念病院小児科1),名古屋大学大学院医学系研究科成長発達医学2)
岩田 健一1)  西尾 洋介1)  末永 佑佳1)  北井 文恵1)  佐藤 有沙1)  徳永 博秀1)  鈴木 道雄1)  武藤 太一朗1)  森田 誠1)  加藤 太一2)  長谷川 真司1)

■キーワード
一側肺動脈欠損, 気管支喘息, 喘鳴, 縦隔偏位, 肺過膨張
■要旨
 一側肺動脈欠損は,肺動脈が主肺動脈から片側のみに分岐し一側の肺動脈を認めない先天異常である.心不全や肺高血圧症などを伴った喀血や喘鳴を呈する症例もあるが,無症状で経過し成人期に診断される症例も存在する.
 本症例は発熱と喘鳴の症状で入院した3歳女児で,右肺野の呼吸音減弱を認め,反復する喘鳴の既往とβ刺激薬吸入の奏効から気管支喘息急性増悪と診断した.入院時の胸部X線で縦隔の右方偏位と左優位の肺過膨張,右肺血管陰影の減弱を認め,気管支喘息急性増悪の軽快後も画像所見が残存した.心臓超音波検査,胸部造影CT検査で右肺動脈欠損を認め,一側肺動脈欠損と診断した.肺高血圧や気管支拡張症を認めず,喘鳴は気管支喘息に伴う症状と判断して気管支喘息の治療にとどめ,経過観察とした.
 小児期に診断された無症候性一側肺動脈欠損の22例の検討を行った.診断時年齢の中央値は6.5歳で,14例が右肺動脈欠損だった.19例の診断契機は胸部X線所見であり,全例で診断後の胸部X線に異常所見を認めた.また無症状であっても5例で内科,外科的治療が行われた.
 胸部X線で縦隔偏位や片側肺過膨張,肺血管陰影減弱所見を認めた際は,一側肺動脈欠損の可能性を念頭におく必要があり,無症候性でも治療適応になることもあるため,心臓超音波や胸部造影CT検査などの精査が考慮される.


【原著】
■題名
超低出生体重児の大動脈縮窄に対するカテーテル治療
■著者
静岡県立こども病院循環器科
石垣 瑞彦  金 成海  佐藤 慶介  芳本 潤  満下 紀恵  新居 正基  田中 靖彦

■キーワード
ステント, 動脈管, 一絨毛膜性双胎
■要旨
 動脈管開存以外の先天性心疾患を伴った超低出生体重児は,体重増加後の外科手術まで待機できなければ,予後不良である.心室中隔欠損など他の心血管奇形を伴わない単純型大動脈縮窄では,左心室の後負荷不適合および動脈管の維持に伴う高肺血流により心不全をきたす.根本的な治療は外科的な大動脈形成術となるが,超低出生体重児での外科手術は技術的困難を伴い一般的ではない.狭窄の程度が軽く血管作動薬等による内科的治療で病状が安定した場合には待機的な外科手術が可能であるが,狭窄の程度が強いものに関しては従来救命が難しかった.
 カテーテル治療は,より低侵襲な治療が可能となる血管内治療で,関連機器の進歩とともに,先天性心疾患の領域でも報告が増加している.我々は,2014年以降に4例の重篤な単純型大動脈縮窄を伴った超低出生体重児に対してカテーテル治療を実施し,救命例を経験した.本治療法は,待機的な外科手術が難しい重症の単純型大動脈縮窄を伴った超低出生体重児の救命に繋がる可能性がある.


【原著】
■題名
乳幼児・児童のスマートフォン,タブレットの利用状況と生活実態調査
■著者
島田療育センターはちおうじ神経小児科1),同 児童精神科2),慶応義塾大学文学部3),日本学術振興会特別研究員RPD4),日本大学文理学部自然科学研究所5),ヘルシンキ大学医学部脳認知研究ユニット6)
小沢 愉理1)  小沢 浩1)  杉浦 信子2)  白川 由佳3)4)5)  北 洋輔3)6)

■キーワード
スマートフォン, タブレット, 睡眠, 発達障害
■要旨
 島田療育センターはちおうじの一般小児外来または療育外来を受診している乳幼児・児童を対象に,スマートフォン(以下,スマホ)・タブレットの使用状況を調査し,適切な使用方法について検討した.2018年10月〜12月に当センターを受診した保護者にアンケートを実施し,承諾を得た165名のうち不備があるものを除いた107名を対象とし,低年齢群(4歳以下),中年齢群(5歳〜8歳),高年齢群(9歳以上)に分け,年齢とスマホ・タブレットの使用状況,使用時間と睡眠状況との関連を,異なる外来間で年齢に有意差のない4歳以上10歳未満の76名を対象に使用状況の差異を検討した.低年齢児ほどスマホ・タブレットを初めて視聴・操作した年齢が低かった.高年齢児ほど使用時間が長かった.両親の使用時間による影響は認められなかった.使用時間「30分以上」が「30分未満」に比し,有意に就寝時間が遅かった.各年齢群における危険使用時間(睡眠状況を悪化させるスマホ・タブレットの使用時間)は,「低年齢群」「中年齢群」で30分,「高年齢群」で60分であった.小児一般外来と療育外来の児において,初めて視聴・操作した年齢に有意差は認められなかったが,使用時間は療育外来の児が有意に長く,使用頻度が高かった.スマホ・タブレットの家庭での保有率が高くなり,視聴の低年齢化が進んでいる.使用時間が長くなれば睡眠や依存に対する対策が必要である.今回の調査により,使用に関するルール作りで使用時間の目安になるのではないかと考えている.


【症例報告】
■題名
初発症状として致死性不整脈を呈した複数副伝導路を有するWPW症候群の幼児
■著者
倉敷中央病院小児科1),大阪市立総合医療センター小児不整脈科2)
山内 真由子1)  土井 悠司1)  岡部 礼恵1)  佐藤 一寿1)  上田 和利1)  荻野 佳代1)  林 知宏1)  脇 研自1)  鈴木 嗣敏2)  新垣 義夫1)

■キーワード
房室回帰性頻拍, 心室細動, 高周波カテーテルアブレーション
■要旨
 症例は3歳男児.自宅で啼泣後に意識消失しているところを母に発見され,救急要請.通信指令員の指示で母による胸骨圧迫が開始された.救急隊到着時の初期波形は無脈性電気活動(PEA),途中に心室細動があり除細動を1回施行.その後もPEAとして胸骨圧迫継続され自己心拍再開.当院搬送後,集中治療およびリハビリを行い,神経学的後遺症を残さず回復.来院時の心電図でデルタ波を認め,他の原因検索で心停止の誘因となりうる疾患は指摘されず,WPW症候群による致死性不整脈と判断.他院にて高周波カテーテルアブレーション(RFCA)を施行した.僧帽弁輪後壁と三尖弁輪側壁に2つの副伝導路(AP)を認め,AP間の房室回帰性頻拍はHR=300で循環破綻をきたす不整脈であった.両側のAPを離断して終了.病棟帰室後に三尖弁輪側APのみ再発したが頻拍を認めることはなく,フレカイニド内服を開始して再度RFCAを行う方針となる.リハビリでActivities of daily livingは完全回復し,現在は頻拍発作なく安定して待機中である.WPW症候群における致死性不整脈リスクを全例で評価することは困難であり,発症時に市民レベルでの適切な蘇生および自動体外式除細動器(AED)の使用により,神経学的予後を良好に保つことができる可能性がある.また,医療者はAED波形の妥当性を判断する必要があり,それによりプレホスピタルケア向上につながると考えられる.


【症例報告】
■題名
重症貧血を伴う心不全の原因検索中に判明した自己瀉血
■著者
東京大学医学部附属病院小児科
平野 瑶子  絹巻 暁子  梶保 祐子  高橋 千恵  神田 祥一郎  加藤 元博

■キーワード
自己瀉血, 鉄欠乏性貧血, 自傷行為, 思春期, 小児
■要旨
 近年,インターネットの普及により,子どもを取り巻く環境は急激に変化している.自傷行為や薬物乱用など有害情報へのアクセスが容易となり,自己破壊的行動の多様化,低年齢化が危惧される.
 今回,重症貧血を伴う心不全で緊急入院し,自己瀉血が判明した15歳女児を報告する.12歳から不登校となり,手首自傷や処方薬,市販薬の乱用を開始した.複数の小児科,精神科を受診したが,通院の中断を繰り返した.入院2か月前から浮腫,顔色不良,労作時呼吸困難が出現し,次第に増悪した.そして,入院当日に呼吸不全に至り,当院に緊急入院した.入院時の検査では,高拍出性心不全を伴った高度の貧血(Hb 3.1 g/dL)がみられた.しかし,精密検査で貧血の原因は特定できなかった.最終的に患者からの申告で自己瀉血が判明し,繰り返された故意の脱血による鉄欠乏性貧血と診断した.瀉血行為は半年前から家族にも気づかれずに行われ,聴取した病歴から推定した瀉血量は,月に1,000〜1,500 mLに上った.多職種と連携して,医療,社会的支援に繋げたうえで自宅退院した.
 原因不明の貧血を認める患者では,故意の脱血を鑑別に挙げ,心理社会的背景に配慮して丁寧に診療を進めることが重要である.小児科医は,小児期,思春期の自己破壊的行動の実情を把握し,多角的な視点から支援を行うことが求められる.


【論策】
■題名
不活化ポリオワクチン就学前追加接種の助成をしている自治体へのアンケート
■著者
くぼたこどもクリニック1),埼玉医科大学総合医療センター小児科2),ユーカリが丘アレルギーこどもクリニック3),外房こどもクリニック4),川崎医科大学小児科5),せきばクリニック6)
久保田 恵巳1)  是松 聖悟2)  松山 剛3)  黒木 春郎4)  中野 貴司5)  関場 慶博6)

■キーワード
ポリオ, 不活化ポリオワクチン, 野生型ポリオウイルス, 伝播型ワクチン由来ポリオウイルス, 予防接種費用助成
■要旨
 ポリオウイルス感染症は世界ではここ数年,報告数が増加傾向にあり,日本小児科学会などでは小学校入学前の時期に不活化ポリオワクチン(IPV)の追加接種を推奨している.そこで,就学前に不活化ポリオワクチンの追加接種の費用助成を行っている自治体へアンケートを行い,この事業に対する意識調査や,助成方法などの実際の取り組みを調査した.10自治体に送付し,9自治体から返答があった.助成方法は全額補助が3自治体,一部助成が4自治体(上限10,400円,2,000円,10,318円,および,自己負担5,000円)や,2自治体が接種に使える助成券(2,000円×2枚,2,000円×3枚)の配布を行っていた.2020年度の接種率(IPV接種人数/接種対象者人数)は,それぞれ87%(108/124),92%(78/85),86%(182/211),55%(69/126),0.8%(4/約500),88%(98/112),46%(412/900),0%(0/128),0%(0/1,548)であり,費用助成額が低い自治体の接種率が低い傾向にあったが,視点を変えると,助成理由に「子育て支援」と記載した自治体がIPVの公費助成額,接種率が高いという傾向もみられた.住民や医療機関に向けて,不活化ポリオワクチン追加接種の重要性を啓発するような働きかけも必要であると考えられた.


【論策】
■題名
群馬大学小児科医師の会で働き方改革のために実施した勤務時間調査
■著者
前橋赤十字病院小児科1),藤岡総合病院小児科2),群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野3),群馬大学小児科医師の会医師の働き方と小児医療を改革するワーキンググループ4)
松井 敦1)4)  岩脇 史郎2)4)  西澤 拓哉3)4)  池内 由果3)  石毛 崇3)  滝沢 琢己3)

■キーワード
働き方改革, 勤務時間, 連続勤務, インターバル, タイムスタディ
■要旨
 群馬大学小児科医師の会では働き方改革の第一歩として会員の勤務時間調査を行った.タイムスタディ調査は2019年9月から11月までの,新型コロナウイルス感染症が流行する前に行われ,三次医療機関49人,二次医療機関36人,その他施設8人からデータを収集した.全体の平均労働時間は1週間65.6時間で,1週間の労働時間が60時間以上,80時間以上だったものは,それぞれ67.7%,32.3%を占めていた.時間外の業務は救急対応を含む当直,日直,入院診療などの,患者や家族と直接対面する業務が多く,時間外業務全体の80.9%を占めていた.連続勤務については,28時間を超える勤務がのべ34件,当直明け後の次の仕事までのインターバルが18時間未満だったものが32件,当直明け以外でインターバルが9時間未満だったものが6件あった.勤務に対する意識調査では,仕事に疲れて辞めたいと考えているものは少なく,仕事にやりがいを感じている会員が93.4%という結果だった.
 タイムスタディ調査を行いその結果を共有することで,自施設における労働の実態を客観的に把握することができ,適切な医療提供体制の提案のみならず,自らの仕事を振り返り,やりがい・満足度を再認識することにもつながった.他方,タイムスタディを有効に利用するためには高い回収率が必要と考えられ,手間を減らしつつ効率的に情報を集める手立てを講ずる必要がある.

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