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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:22.9.16)
第126巻 第9号/令和4年9月1日
Vol.126, No.9, September 2022
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第125回日本小児科学会学術集会 |
日本小児科学会賞受賞記念講演 |
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血友病Aおよび血友病Bの病因・病態解明と新規止血治療薬の開発
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吉岡 章 1253 |
日本小児精神神経学会推薦総説 |
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高木 一江 1265 |
総 説 |
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稲田 雄,他 1276 |
原 著 |
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北岡 寛己,他 1287 |
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井神 健太,他 1298 |
症例報告 |
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成瀬 和久,他 1304 |
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牧野 宏俊,他 1310 |
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原 佑太朗,他 1318 |
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若林 伊織,他 1322 |
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1328 |
地方会抄録(熊本・長崎・愛媛・島根・福岡・岩手・北陸・福井)
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1329 |
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告 |
はじめの一本6 |
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論文は自らの足跡であり,文化的情報(ミーム)を伝承する手法である
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1349 |
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日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2022年64巻7月掲載分目次
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1351 |
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【総説】
■題名
患者中心の視点で考える小児医療の質とその評価
■著者
大阪府立病院機構大阪母子医療センター集中治療科1),大阪市立大学(現大阪公立大学)大学院医学研究科医療の質・安全管理学講座2),大阪公立大学医学部附属病院医療の質・安全管理部3) 稲田 雄1)2) 山口(中上) 悦子2)3)
■キーワード
患者中心医療, 児童の権利擁護, 患者報告アウトカム, 品質指標, 患者の安全
■要旨
小児の死亡率低下に伴い,機能的予後や生活の質などのアウトカムが患者・家族にとって重大な関心事となり,患者・家族にとっての価値に基づく医療の質の向上が望まれている.医療の質とは,患者にとって望ましいアウトカムを医療が達成しうる度合いということができ,質の高い医療は,有効かつ安全で,患者中心的であるべきとされている.同時に,医療の社会的な価値を高めるために,医療システムは効率的でなければならない.医療の質を改善するには,医療の質の測定と評価を推進する必要がある.その過程で患者中心志向を見失わないためには,医療の質の評価に患者参加が求められる.患者による評価指標の例としては,患者報告アウトカム指標や患者報告経験指標があり,近年これらの指標の選択や開発にも患者参加が求められている.しかし,小児医療の中心はあくまで子どもであり,患者参加も子どもの権利の保護なしには達成できない.また,子どもを支援する家族も共に中心に据えるのが患者・家族中心のケアである.以上より,日本の小児医療の質改善のためには,子どもの権利を尊重し,医療現場で患者・家族参加,すなわち子どもと家族の医療への参加を促進することが必須である.小児医療においても,患者・家族参加は医療従事者・患者・家族の安全性や有効性に対する意識を高め,医療の質の向上につながると考えられる.
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【原著】
■題名
腹膜刺激症状を伴う腹痛を初発症状とした不全型川崎病および既報例のまとめ
■著者
東京大学医学部附属病院小児科1),焼津市立総合病院小児科2) 北岡 寛己1)2) 梶保 祐子1) 大和田 啓峰1) 大橋 瑛梨1) 高橋 千恵1) 神田 祥一郎1) 張田 豊1) 岡 明1)
■キーワード
川崎病, 不全型川崎病, 消化器症状, 腹痛
■要旨
川崎病には主要症状に先立ち消化器症状を呈し,早期診断が困難な例が存在する.腹膜刺激症状を伴う腸炎で始まり第9病日に診断に至った不全型川崎病の1例を報告し,既報の考察を行った.症例は生来健康な6歳男児.心窩部痛と発熱を主訴に第2病日に受診した.歩行により増強する右下腹部痛があり,徐々に腹膜刺激症状が出現した.超音波検査では上行結腸に限局した腸管浮腫を認めた.細菌性腸炎や腹膜炎を鑑別に挙げ抗菌薬を投与したが症状は改善せず,便培養ではエルシニア菌を含め有意菌は検出されなかった.第8病日に眼球結膜充血と手指硬性浮腫が出現し,第9病日に不全型川崎病と診断した.免疫グロブリン大量静注療法とアスピリン内服治療を行い,第10病日に解熱し,腹部症状・腸管浮腫も速やかに改善した.冠動脈病変の合併は見られなかった.本症例では腸炎を初発症状とし,川崎病症状の出現が遅れたため,診断に時間を要した.腹痛で発症した川崎病例について文献の網羅的検索を行ったところ,不全型の合併率が高く,一般頻度よりも冠動脈病変の合併率が高かった.腹痛を初発症状とする川崎病は不全型が多く,冠動脈病変の合併率が高いことに留意すべきである.
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【原著】
■題名
川崎病による環軸椎回旋位固定
■著者
順天堂大学医学部附属練馬病院小児科 井神 健太 丘 逸宏 佐藤 望 日比生 武蔵 藤井 明日香 松田 慎平 加藤 芽美 大石 賢司 遠山 雄大 新井 喜康 吉田 登 辻脇 篤志 櫻谷 浩志 池田 奈帆 鈴木 恭子 大友 義之
■キーワード
川崎病, 環軸椎回旋位固定, Grisel症候群, Fielding分類, 斜頸
■要旨
環軸椎回旋位固定(atlanto-axial rotatory fixation:AARF)は環軸関節が回旋変形した位置で固定された有痛性斜頸を呈する疾患である.特に頸部の炎症性疾患に伴って生じる環軸椎回旋位固定はGrisel症候群と呼ばれ,近年川崎病に合併した報告例が散見される.今回,2013年から2020年までの7年間に当院で経験した川崎病患者362症例のうち,AARFを合併した9症例について電子診療録を用い,患者背景,血液検査,画像検査を後方視的に検討した.性別は男児2例,女児7例と女児が多く全例で頸部リンパ節腫脹を伴っていた.年齢中央値(合併例4歳8か月,非合併例2歳2か月),CRP中央値(合併例10.1 mg/dL,非合併例6.5 mg/dL)が合併例で有意に高値だった(p<0.05).AARFの病型の内訳としてはFielding分類type Iが6例,type IIが3例であった.全例が非観血的治療のみで改善し(経過観察:4例,ネックカラー:4例,Glisson牽引:1例),その後再発をみとめなかった.Glisson牽引を要した1例のみ症状改善に3か月を要した.3D-CTでFielding分類Type Iと診断され,斜頸発症から1週間以内であればネックカラーのみで軽快が期待できる.AARFを合併する川崎病症例は稀ではあるが,観血的処置や牽引を回避するためには早期発見しなければならない.
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【症例報告】
■題名
Fontan型手術後の低身長3例に対する成長ホルモン治療と蛋白漏出性胃腸症の関連性
■著者
中津川市民病院小児科1),岡崎市民病院小児科2),JCHO中京病院小児循環器科3),名古屋大学小児科4),中部大学生命健康科学部5) 成瀬 和久1)2) 長井 典子2) 永田 佳敬2)3) 西川 浩3) 加藤 太一4) 馬場 礼三5)
■キーワード
Fontan型手術, 蛋白漏出性胃腸症, 成長ホルモン治療, 先天性心疾患, 低身長症
■要旨
Fontan型手術後の患者は低身長であることが多く,成長ホルモン(GH)治療がしばしば適応となり得る.しかしながら,GHにはアルドステロン様作用があり,GHの投与は中心静脈圧の上昇と水分の貯留を伴い,蛋白漏出性胃腸症(PLE)の発症リスクを高める可能性がある.我々は3例のFontan型手術後患者にGH治療を行った.最初の1例はGH治療により低身長の改善だけでなく,心不全の改善も得られた.しかし,続く2例はGH治療中にPLEを発症し,治療を断念せざるを得なかった.Fontan型手術後患者にGH治療を行う場合は,PLEの併発に注意しながら慎重にフォローする必要がある.
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【症例報告】
■題名
新生児期より経過を追えたDRC1変異による原発性線毛運動不全症の同胞例
■著者
三重県立総合医療センター 牧野 宏俊 西森 久史 高祖 惇 原田 智哉 伊藤 雄彦 小林 舞 鈴木 尚史 山口 佳子 大森 雄介 太田 穂高 杉山 謙二
■キーワード
原発性線毛運動不全症, Dynein Regulatory Complex Subunit 1, 鼻腔一酸化窒素測定, 鼻腔粘膜生検, PICADAR score
■要旨
原発性線毛運動不全症候群(Primary ciliary dyskinesia,PCD)は,線毛運動に関連する遺伝子変異を機序とした,慢性副鼻腔炎,中耳炎,気管支拡張症,不妊,内臓逆位などをきたす疾患である.
症例は4歳差の内臓逆位のない兄弟例で,乳児期以降,湿性咳嗽,鼻汁,鼻閉を繰り返し,気管支炎,副鼻腔炎に対して適宜,β刺激薬,去痰剤の投薬,鼻腔吸引を実施されPCDが疑われた.鼻粘膜の電子顕微鏡所見が特異的でなく,2017年に全エクソーム解析を実施した結果,Dynein Regulatory Complex Subunit(DRC)1遺伝子のコピー数欠失が認められ,PCDの診断に至った.
近年,PCDを来す原因遺伝子の変異の種類が新たに発見されている.本兄弟例で見出されたDRC1の変異は内臓逆位を伴わず,欧米と比べて本邦で多いことが明らかになりつつある.咳嗽,鼻汁など非特異的な症状を呈する本症であるが,十分な管理を怠ることで気管支拡張症へ進行しうるため,呼吸機能の予後は必ずしも良好ではない.新生児期からの咳嗽,鼻汁,呼吸障害を呈する際には,既知の変異とは異なる遺伝子変異による本症の可能性も考慮して慎重に経過を観察し,時期をみて診断的アプローチを行うべきと考えられる.
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【症例報告】
■題名
NACC1ミスセンスバリアントをモザイクで認めた重度発達遅滞の小児
■著者
一宮市立市民病院小児科1),名古屋大学環境医学研究所発生・遺伝分野2),名古屋市立大学医学研究科新生児・小児医学分野3) 原 佑太朗1) 豊島 雅大1) 田中 佳孝1) 鵜飼 啓1) 野田 紗季1) 福島 秀晃1) 南木 那津雄1) 河嵜 翔太1) 羽田 なつみ1) 河邉 宏幸1) 岡村 淳1) 長屋 嘉顕1) 佐橋 剛1) 三宅 能成1) 荻 朋男2) 齋藤 伸治3)
■キーワード
NACC1遺伝子, 全エクソーム解析, 発達遅滞
■要旨
Nucleus accumbens associated 1(NACC1)遺伝子(MIM *619672)の病的バリアントは重度精神運動発達遅滞とけいれん発症を伴う症候群(Neurodevelopmental disorder with epilepsy,cataracts,feeding difficulties,and delayed brain myelination,MIM #617393)の原因となるが,これまで数例の報告があるのみで日本人での報告はない.今回我々は,NACC1にミスセンスバリアント(NM_052876.4:c.892C>T[p.Arg298Trp])を認め,重度精神運動発達遅滞,難治性てんかん,白内障などを呈する1例を本邦で初めて経験した.バリアントアレル頻度は12.2%であり,モザイクの可能性を考えた.本症例では既報で全例認められていた哺乳不良や嚥下障害,胃瘻造設を要する重度の食事摂取障害を伴わず,モザイクと臨床症状との関連が示唆された.
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【症例報告】
■題名
多数のネオジム磁石誤飲により多発腸管穿孔を生じた乳児
■著者
旭川医科大学小児科学講座1),同 外科学講座小児外科2) 若林 伊織1) 石羽澤 映美1) 吉田 陽一郎1) 長森 恒久1) 石井 大介2) 宮城 久之2) 平澤 雅敏2) 高橋 悟1)
■キーワード
小児, 誤飲, 磁石, 腸管穿孔
■要旨
小児の異物誤飲はしばしば遭遇する疾患であるが,誤飲した物品やその量によって症状や重症度は大きく異なる.磁石の誤飲は単体であれば自然排泄を期待できるが,複数摂取した場合は腸閉塞,穿孔,瘻孔のような合併症を引き起こすことがある.今回,多数のネオジム磁石の誤飲により多発消化管穿孔を来した症例を経験したので報告する.患者は11か月男児.受診前日に磁石で遊んでいた際に咳き込んだことから誤飲が疑われたが,呼吸苦や腹部症状はなかったため医療機関は受診せずに経過がみられていた.第2病日の朝に嘔吐が出現したため前医を受診し,腹部エックス線検査で大量の小腸内異物が発見された.腹痛や頻回の嘔吐など腸閉塞を疑う所見はなかったため経過観察となっていた.第3病日に再度嘔吐がみられたため前医を再診し,外科的処置を要する可能性を考慮して当院へ転院となった.転院同日夕方ごろより不機嫌が持続し,腹部診察を拒絶するようになったため緊急手術となった.術中所見では小腸内,胃内に計58個の磁石を認め,小腸に多数の腸管穿孔を認めた.近年のネオジム磁石誤飲による重篤な事故の多発を受け消費者庁から調査報告書も出された.改めて我々がネオジム磁石誤飲の危険性を認識し一般へ啓発していくと共に,国際基準に準拠し法的拘束力を持つ規制が確立されるよう働きかけていくべきであると考える.
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