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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:22.4.20)

第126巻 第4号/令和4年4月1日
Vol.126, No.4, April 2022

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日本小児循環器学会推薦総説

学校教諭と小児循環器医師の連携による「いのちの授業」

内田 敬子  611
日本小児アレルギー学会推薦総説

牛乳アレルギー発症予防と母乳の役割

田知本 寛  622

抗原タンパク早期導入による食物アレルギー発症予防

崎原 徹裕  627
日本小児感染症学会推薦総説

小児Coronavirus disease 2019の話題

松原 知代  638
総  説
1.

なぜ今,さらなるポリオ予防が必要なのか?

是松 聖悟,他  646
原  著
1.

地域中核病院における小児科心理外来の実績と役割

市川 和志,他  651
2.

COVID-19全国緊急事態宣言が重症児・者の生活に与えた影響

岩本 彰太郎,他  659
症例報告
1.

糖尿病性ケトアシドーシスに非閉塞性腸間膜虚血を合併した思春期2型糖尿病

永山 雄貴,他  667
2.

家庭浴室及びバスタオルの共有が感染経路と考えられた淋菌性外陰腟炎の前思春期姉妹例

森内 優子,他  674
3.

好酸球増多を伴う肝機能障害を繰り返し肝生検により診断した特発性好酸球増多症候群

中川 良太,他  679
4.

関節炎症状に乏しく診断に苦慮した全身型若年性特発性関節炎の3例

金井 保澄,他  686
5.

画像での診断に苦慮した新生児の腸回転異常症

成瀬 創太,他  692
論  策

コロナウイルス感染症2019流行下での障害をもつ児童生徒と家族支援の現状と課題

山田 祐也,他  699

編集委員会への手紙

  705

地方会抄録(北海道・山梨・熊本・鹿児島・福井・中国四国・青森・甲信・北陸・石川)

  708
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 111 ドラム式洗濯乾燥機内での窒息死

  743
日本小児科学会予防のための子どもの死亡検証委員会主催

第4回小児死亡時対応講習会 開催報告

  746
日本小児科学会社会保険委員会報告

病院小児科における小児入院医療管理料に対する意識調査

大野 拓郎,他  747

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2022年64巻2月掲載分目次

  758


【総説】
■題名
なぜ今,さらなるポリオ予防が必要なのか?
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科1),くぼたこどもクリニック2),ユーカリが丘アレルギーこどもクリニック3),外房こどもクリニック4),川崎医科大学小児科5),せきばクリニック6)
是松 聖悟1)  久保田 恵巳2)  松山 剛3)  黒木 春郎4)  中野 貴司5)  関場 慶博6)

■キーワード
ポリオ, 不活化ポリオワクチン
■要旨
 ポリオは0.1〜2%に急性麻痺が生じ死に至ることもあるほか,後遺症としての四肢の麻痺を残すこともある感染症である.わが国でも1960年代まで多く発生していたが,生ワクチンの導入によって1980年の1例を最後に野生型ポリオ患者の発生はない.そして2012年から定期接種は生ワクチンを不活化ワクチンに変更された.不活化ワクチンは安全性が高いものの,最近の報告で4回接種後5年以降の抗体価の低下が指摘されている.
 世界的にはポリオは根絶された感染症ではないため,日本小児科学会は不活化ポリオワクチンを三種混合ワクチンとともに任意接種として就学前年に追加接種することを推奨している.2021年時点で定期接種化は実現しておらず,国内では独自でこれらのワクチンを公費助成している自治体もある.
 本稿ではわが国におけるこれまでのポリオ対策を振り返り,今の課題と行うべき対策を論じる.


【原著】
■題名
地域中核病院における小児科心理外来の実績と役割
■著者
藤沢市民病院こども診療センター
市川 和志  石田 奈津子  佐近 琢磨

■キーワード
心理外来, 臨床心理士, カウンセリング, 心身症, 不登校
■要旨
 【背景】小児科外来には心の問題を抱え,身体症状を主訴に受診する子どもや発達障害を心配する受診がよくみられる.地域中核病院小児科の心理外来の実績を解析し,子どもの心の診療について考察する.
 【対象と方法】2016年1月から2020年12月に心理外来に予約のあった193名の受診目的,受診時期,主訴,疾患名,通院期間,転帰を後方視的に解析した.受診目的はカウンセリング群,知能検査群,ハイリスク新生児の発達評価群に分類した.
 【結果】カウンセリング群148名,知能検査群21名,発達評価群24名だった.カウンセリング群は初診平均年齢11.0歳,6歳と13歳にピークを認めた.男女比は男児62名,女児86名,12歳以降に女児が多かった.初診の症状は腹痛,不登校,頭痛が多く,疾患名は起立性調節障害と過敏性腸症候群が多かった.心理外来の転帰は継続中39名,終結52名,キャンセルによる中断51名,未受診6名だった.検査群は平均年齢9.5歳,発達障害,知的障害の疑いが74.1%だった.発達評価群は3歳前後が多かった.
 【考察】心理外来の目的はカウンセリングが大部分を占め,症状や通院期間に年齢や性別による特徴がみられた.小児科に併設する心理外来は心の問題を抱える子どもの診療への利点は大きいが,転帰にキャンセルによる中断が34.5%あることは課題となった.心理外来との連携では小児科医も臨床心理士やカウンセリングの役割について理解し,情報共有とアセスメントのうえ目標設定や役割分担を明確にすることが重要である.


【原著】
■題名
COVID-19全国緊急事態宣言が重症児・者の生活に与えた影響
■著者
三重大学医学部附属病院小児科
岩本 彰太郎  淀谷 典子  平山 雅浩

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, 緊急事態宣言, 医療的ケア児, 重症児・者, サービス事業所
■要旨
 2020年4月,コロナウイルス感染症2019の流行に対して全国緊急事態宣言が発出されたことで,重症児・者の生活は一変し,様々な自粛を余儀なくされた.今回,全国緊急事態宣言下における三重県在住の重症児・者の支援サービス利用の制限と体調変化について,保護者と重症児・者が利用可能な医療・福祉サービス事業所にアンケートを実施した.アンケート配布先は1,599か所に配布し,回答を得た521か所(32.6%)のうち,医療的ケア児の保護者からは79名で,県内医療的ケア児全体の約4割を占めた.医療的ケア児の医療・福祉サービス事業所の利用を自粛する割合は,児童・生徒では未就学児より低かったが,筋緊張の亢進や生活リズムの乱れを認めた.居宅介護・重度訪問介護事業所を除くサービス事業所の自粛率は約4割で,感染拡大への慎重な対応が見受けられた.一方,児童・生徒のニーズや経営課題を反映してか変更なく運営したサービス事業所は約4割であった.本調査を通し,小児科医は,COVID-19流行中での重症児の学校生活が安全に継続できるよう,地域保健行政および教育委員会と連携するとともに,障がい福祉サービス事業所に関わる嘱託医とも協力し,その環境整備等について助言する役割が期待されると考えられた.


【症例報告】
■題名
糖尿病性ケトアシドーシスに非閉塞性腸間膜虚血を合併した思春期2型糖尿病
■著者
順天堂大学医学部小児科学講座1),東京都保健医療公社豊島病院小児科2),同 内科3),同 検査科4),順天堂大学医学部附属浦安病院小児科5),神栖済生会病院6)
永山 雄貴1)2)  田久保 憲行1)  村野 弥生1)2)  真弓 怜奈1)2)  矢澤 里絵子1)2)  川村 隆貴3)  藤波 竜也3)  伊藝 孔明3)  岩嶋 富美子3)  鄭 子文4)  深江 俊愛1)  石川 有希美5)  庄野 哲夫6)  春名 英典1)  東海林 宏道1)  中澤 友幸2)  清水 俊明1)

■キーワード
糖尿病性ケトアシドーシス, 非閉塞性腸間膜虚血
■要旨
 症例は14歳男子.生来健康であったが小学校低学年より肥満度の増加傾向が始まり,小学4年生から肥満を指摘されていた.入院11日前より,嘔吐が出現しスポーツ飲料を多飲していた.意識障害を主訴に救急外来を受診,血糖718 mg/dL,HbA1c 13.4%と日本糖尿病学会の診断基準より糖尿病の病態と判断した.また高血糖(≧200 mg/dL),pH 6.983(<7.3),血中ケトン高値,尿ケトン体陽性と糖尿病性ケトアシドーシス(DKA:diabetic ketoacidosis)の診断基準を満たし入院となった.膵島関連自己抗体は陰性で,内因性インスリン分泌は維持されており2型糖尿病と診断した.
 十分な輸液とインスリン投与,カリウム補充により血糖値と電解質は安定し意識状態も改善したが,入院12時間後に排尿を認めなくなり心肺停止に至り,その後の心肺蘇生や全身管理に反応せず死亡した.剖検の結果,腸管の拡張と壁の非連続性の菲薄化を認め,病理組織では腸管壁の粘膜から筋層に至る部位の壊死がみられ非閉塞性腸間膜虚血(NOMI:non-occlusive mesenteric ischemia)の診断となった.NOMIは高齢者や周術期の患者に好発し,診断が困難かつ予後不良な疾患である.DKAでは若年でもNOMIを発症する可能性があり,DKAの致死的な合併症のひとつとして念頭に置き診療する必要がある.


【症例報告】
■題名
家庭浴室及びバスタオルの共有が感染経路と考えられた淋菌性外陰腟炎の前思春期姉妹例
■著者
イムス富士見総合病院小児科1),日本大学医学部小児科学系小児科学分野2)
森内 優子1)2)  渕上 達夫1)2)  杉山 千央1)2)  高橋 智子1)2)  根岸 潤1)  森岡 一朗2)

■キーワード
淋菌, 性的虐待, 非性的接触感染, 前思春期女児, 家庭浴室
■要旨
 小児の淋菌感染症では性的虐待を疑うことが一般的である.今回我々は,性的虐待ではなく,家庭浴室及びバスタオルの共有が感染源と考えられた淋菌性外陰腟炎の前思春期姉妹例を経験した.
 症例は10歳と8歳の姉妹.緑色帯下を認め,real-time PCR法により淋菌陽性であることから淋菌性外陰腟炎と診断した.性的虐待の可能性も考慮し,院内子ども家族支援委員会で保健師を交えて検討したが,行政機関の介入歴はなく,面会時の親子の接し方に違和感はなかった.家庭での入浴状況を確認したところ,淋菌感染症の母親と一緒に入浴していた同胞にも感染症状があることが判明した.こうした状況から,家庭浴室及びバスタオルの共有による接触感染が考えられた.家族全員に抗菌薬加療を行った他,感染者との入浴を避ける,バスタオルを共有しないなどの衛生指導を行った.
 小児の淋菌感染症では,性的虐待だけでなく,非性的接触による感染の可能性もあるため,衛生環境の確認や衛生指導を行うことは重要である.特に,前思春期女児では,低エストロゲン環境下にあることや衛生管理が不十分であることから,非性的接触による淋菌感染が成立しやすいと考えられる.また,適切な抗菌薬加療が行われない場合,不妊症の原因となったり,他者へ感染する可能性があるため,小児でも排尿痛や尿道分泌物,帯下などの症状を認める場合は,積極的に淋菌検査を行う必要がある.


【症例報告】
■題名
好酸球増多を伴う肝機能障害を繰り返し肝生検により診断した特発性好酸球増多症候群
■著者
公立相馬総合病院小児科1),福島県立医科大学小児科2)
中川 良太1)  武山 彩1)  塚田 洋樹1)  伊藤 正樹1)  細矢 光亮2)

■キーワード
好酸球増多症候群, 好酸球, 肝機能障害, 肝生検, 原発性硬化性胆管炎
■要旨
 好酸球増多症候群(Hypereosinophilic syndrome:HES)は好酸球浸潤に伴う臓器障害を呈する稀な疾患である.今回我々は好酸球増多を伴う肝機能障害を繰り返し,二次性好酸球増多症を来す疾患について鑑別を行った後,肝生検所見等により特発性HESの診断に至った1女児例を経験した.症例は12歳女児,眼球黄染と感冒症状を主訴に受診した際に末梢血中好酸球増多を伴う肝機能障害を指摘された.一度症状および検査所見は改善したが,再度感冒罹患後に末梢血中好酸球増多を伴う肝機能障害が再燃したため精査を行った.肝機能障害の明らかな原因は認められず,好酸球増多に関しても喘息やアトピー性皮膚炎の既往はなくアレルギー検査も陰性,寄生虫感染は証明されず,画像検査や骨髄検査では明らかな異常所見は指摘されなかった.家族の同意を得た上で肝生検を施行したところ,肝実質を中心とした著明な好酸球浸潤があり,慢性活動性肝炎の組織像を認め,HESと診断した.ステロイド投与開始後は肝機能障害と末梢血好酸球増多が速やかに改善し,ステロイド漸減終了後も肝機能障害の再燃なく経過している.


【症例報告】
■題名
関節炎症状に乏しく診断に苦慮した全身型若年性特発性関節炎の3例
■著者
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学(小児科)1),同 小児地域成育医療学2),同 生涯免疫難病学講座3)
金井 保澄1)  阿久津 裕子1)  毛利 万里子1)  清水 正樹2)  森尾 友宏1)  森 雅亮3)

■キーワード
全身型若年性特発性関節炎, サイトカインプロファイル, 山口基準
■要旨
 全身型若年性特発性関節炎(systemic juvenile idiopathic arthritis:sJIA)は2週間以上続く発熱を認め,サーモンピンク疹,全身のリンパ節腫脹,肝腫大,脾腫大,漿膜炎を伴う原因不明の関節炎と定義されている.sJIAの診断には国際リウマチ学会(International Leagues of Associations for Rheumatism;ILAR)の分類基準が現在広く使用されているが,関節炎は必須項目となっている.関節炎を伴わない場合には他疾患との鑑別が困難であることも多い.関節炎を伴わず,弛張熱・サーモンピンク疹・白血球増多・血清フェリチン値の上昇などの臨床経過と血清サイトカインプロファイルからsJIAと考えられた3症例を経験した.発症初期に関節炎を伴わなくても,原因不明な発熱や皮疹を呈する症例ではsJIAを鑑別に挙げる必要があり,その診断には成人発症Still病に対する山口分類基準や血清サイトカインプロファイルが診断に有用である可能性がある.


【症例報告】
■題名
画像での診断に苦慮した新生児の腸回転異常症
■著者
岡崎市民病院小児科1),名古屋大学医学部附属病院小児外科2)
成瀬 創太1)  住田 亙2)  安藤 将太郎1)  林 誠司1)  加藤 徹1)  長井 典子1)

■キーワード
腸回転異常症, 中腸軸捻転, 新生児, 超音波検査, 消化管造影検査
■要旨
 新生児期における腸回転異常症は,ミルクアレルギーや他の器質的疾患との鑑別が必要で,非典型例では診断に難渋することがある.また,診断の遅れにより重大な合併症を伴うこともある.症例は日齢7の女児.日齢6から頻回に非胆汁性嘔吐を認め,日齢7に当院を受診し入院となった.入院日の腹部エックス線検査,腹部超音波検査,消化管造影検査では腸回転異常症を疑う所見はなく,比較的全身状態は良好のため慎重に経過観察とした.翌日,腹部超音波検査を再検したが,腸回転異常症を積極的に疑う所見は認めなかった.しかし,検査後に胆汁性嘔吐や血便が見られ,腸回転異常症が否定できず,手術可能な施設へ転院搬送し,追加検査後に腸回転異常症による中腸軸捻転に伴う症状の可能性が高いとして緊急手術となった.腸回転異常症に伴う中腸軸捻転は,腸回転異常症の分類や,中腸軸捻転の捻転部位や程度によって,特徴的な症状や画像所見が得られないことがある.新生児の腸回転異常症や中腸軸捻転は緊急性の高い疾患であり,診断に難渋する時は,複数の画像検査を組み合わせることや,慎重に全身状態を観察することが重要である.


【論策】
■題名
コロナウイルス感染症2019流行下での障害をもつ児童生徒と家族支援の現状と課題
■著者
奈良県総合医療センター新生児集中治療部
山田 祐也  西本 瑛里  安原 肇  恵美須 礼子  扇谷 綾子  箕輪 秀樹

■キーワード
COVID-19, 重症心身障害, 多職種連携, 特別支援学校, 療育訓練
■要旨
 障害をもつ子どもは,普段から日常生活に多くの制限があり,コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の流行による影響は大きいものと考えられる.子どもとその家族の心身の状態,医療や福祉の利用状況等を把握し,今後の行うべき支援について検討した.肢体不自由児特別支援学校に在籍する児童生徒を対象に,外出制限が厳しく休校期間であった2020年3月から5月の前期と,制限が緩和され登校が再開した9月から11月の後期に分けて,保護者へのアンケートを実施した.前期において,児童生徒と家族の心身の不調に相関を認めた(P<0.001).医療的ケアの有無は児童生徒や家族の心身の不調と関連はなかった.地域で支援を行っているデイサービス,訪問看護,訪問ヘルパー,移動支援の利用はほぼ減少することなく継続していた.一方で,特に前期において,医療機関への受診を控える,ショートステイや訓練が休止するなど子どもと家族のサポート体制が脆弱化していた.自由記載欄では,休校によって時間にゆとりができ,子どもと向き合う時間が増えたとの回答が17名(27%)にみられた.感染対策を十分に施行する,オンラインを活用するなど,途切れないサポート体制の構築が望まれる.

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