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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:21.10.12)

第125巻 第10号/令和3年10月1日
Vol.125, No.10, October 2021

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第124回日本小児科学会学術集会
  会頭講演

難病の子どもたちに導かれて

細井 創  1391
原  著
1.

先天性一過性高インスリン血症における最終低血糖観察日齢

林谷 俊和,他  1403
2.

先天性心疾患を有する児に発症した川崎病の臨床像

田邊 雄大,他  1409
3.

自然予後からみた胎児泌尿器科学会分類grade 2水腎症の経過観察法再考

鈴木 貴大,他  1419
4.

小児専門医療施設で2020年に経験したコロナウイルス感染症2019の臨床像

宇田 和宏,他  1426
症例報告
1.

胃腸炎嘔吐症状後に抗凝固効果過剰となったワルファリン内服児

塙 孝哉,他  1434
2.

Sjögren症候群関連血栓性血小板減少性紫斑病と診断した小児例

大砂 光正,他  1439
3.

類白血病反応を伴った高IgE症候群

藪本 佳奈子,他  1445
4.

血糖コントロールに難渋した糖原病III型の乳児

本多 愛子,他  1452
5.

マルチプレックスPCRによる呼吸器病原体の観測が有用であった重症複合免疫不全症

森下 あおい,他  1458
6.

侵襲性肺炎球菌感染症に合併した急性感染性電撃性紫斑病

越智 元春,他  1465
短  報

コロナウイルス感染症2019流行に伴う急患センターにおける小児診療状況の変化

籔下 広樹,他  1471

編集委員会への手紙

  1475

地方会抄録(千葉・静岡・鹿児島・京都・岩手・北陸・福井・富山・東海・栃木)

  1476

訂正

  1503

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2021年63巻9号目次

  1504

令和3年度公益財団法人小児医学研究振興財団研究助成事業のお知らせ

  1507

雑報

  1508

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 385

  1509


【原著】
■題名
先天性一過性高インスリン血症における最終低血糖観察日齢
■著者
長浜赤十字病院小児科1),滋賀医科大学医学部付属病院小児科2),長浜赤十字病院新生児科3),済生会滋賀県病院小児科4)
林谷 俊和1)2)  小豆澤 敬幸3)  梅原 弘1)4)  安齋 祐子1)  清水 恭代1)  山本 正仁3)  成宮 正朗1)

■キーワード
先天性高インスリン血症, ジアゾキシド
■要旨
 先天性高インスリン血症は新生児低血糖症の原因となり,薬物治療としてはジアゾキシドの内服が第一選択である.しかし,ジアゾキシドは重篤な副作用も報告されており,その適応については慎重に検討するべきである.一過性高インスリン血症における最終低血糖観察日齢について統一された見解はなく,ジアゾキシド開始時期に苦慮することが多い.ジアゾキシドの適応と投与開始時期について検討することを目的に,高インスリン性低血糖症を認めた児を後方視的に調査した.該当期間内に当院NICU/GCUに入院した1,482例中,高インスリン血症を認めたものは40例であった.最終低血糖観察日齢の中央値は7.5であった.最終低血糖観察日齢は出生体重と在胎週数,血清インスリン値と相関関係を示したが,出生体重のSD値とは相関しなかった.生後2〜3週間以内に血糖値コントロール可能な症例が多く,CHIであってもブドウ糖投与などで血糖値コントロールが可能な症例では生後3週間程度までジアゾキシドの投与開始を待機することで不必要なジアゾキシド投与を避けることができる可能性がある.また,先天性高インスリン血症は既報よりも多い可能性があり,ハイリスク児に対する血糖値測定と低血糖時のクリティカルサンプル採取が重要であると考えられた.


【原著】
■題名
先天性心疾患を有する児に発症した川崎病の臨床像
■著者
静岡県立こども病院循環器科1),あいち小児保健医療総合センター循環器科2)
田邊 雄大1)  金 成海1)  鬼頭 真知子1)2)  石垣 瑞彦1)  佐藤 慶介1)  芳本 潤1)  満下 紀恵1)  新居 正基1)  田中 靖彦1)

■キーワード
川崎病, 先天性心疾患, 冠動脈病変, 心臓カテーテル検査, 心エコー検査
■要旨
 【背景】先天性心疾患(congenital heart disease:CHD)の救命率が向上し,複雑CHDを有する児も長期生存するようになった.2000年代以降,CHDに対するカテーテル治療や外科治療の成績が向上したことが要因である.そしてCHD児が成長過程で,川崎病(Kawasaki disease:KD)に罹患する可能性がある.しかし,その転機や冠動脈病変の頻度などに関する報告は皆無である.
 【目的】先天性心疾患を有する児に発症した川崎病の臨床像を明らかにする.
 【対象・方法】当院通院中のCHD患者からKDを発症した患者を抽出した.その経過や治療内容,冠動脈病変の頻度などを後方視的に検討した.
 【結果】1977年4月から2019年12月にKDを発症したCHD患者(CHD-KD)は52例で,単心室系疾患は12例,二心室治療対象疾患は40例であった.CHD-KD児における急性期冠動脈病変は5例(10%),遠隔期冠動脈後遺症は2例(4%)であり,非CHD-KD児と同等の結果であった.また,外科治療を行ったCHD児において16/30例(53%)でしか冠動脈を観察出来ていなかった.
 【結論】CHD-KDの冠動脈後遺症の頻度などは非CHD-KD児と有意差はないが,CHDに対する外科治療後は,冠動脈の評価が困難であり,必要に応じて,KD罹患後早期に心臓カテーテル検査を行う必要がある.


【原著】
■題名
自然予後からみた胎児泌尿器科学会分類grade 2水腎症の経過観察法再考
■著者
東京都立小児総合医療センター腎臓内科1),同 総合診療科2),同 診療放射線科3)
鈴木 貴大1)2)3)  原田 涼子1)  濱田 陸1)  三上 直朗1)  赤峰 敬治1)  寺野 千香子1)  本田 雅敬1)  幡谷 浩史1)2)

■キーワード
先天性水腎症, grade 2, SFU分類, 予後, 経過観察方法
■要旨
 【背景】胎児泌尿器科学会分類grade 3,4の先天性水腎症は,腎機能障害の進行や再発性尿路感染症等に陥り,手術を要するリスクが高いとされる.一方でgrade 2先天性水腎症は概ね予後良好とされているが,その改善時期や経過観察方法は十分に検討されていない.
 【目的】1歳未満で診断されたgrade 2水腎症の予後を調査し,改善割合ならびに改善,増悪の時期,経過観察方法を検討する.
 【方法】東京都立小児総合医療センターにおいて2010年3月1日から2012年7月31日の間に水腎症が疑われ,初回超音波検査でgrade 2水腎症と診断された1歳未満の児を対象とし,観察期間内のgrade 2水腎症の改善割合,改善・増悪月齢を後方視的に調査した.
 【結果】対象は28例(男児23例,82%),32腎(左23腎,72%)であった.観察期間の中央値3.3年の水腎症の自然経過は改善25腎(78%),不変5腎(16%),増悪2腎(6%)で,改善確認月齢の中央値は9.6(四分位範囲:4.1〜26.7)であった.増悪例は月齢5と8で初めて増悪し,1例は乳児期に腎盂形成術を要した.
 【考察】grade 2水腎症は78%が自然軽快し不変例も含めると94%であり,多くは予後良好であると思われた.一方6%が乳児期に増悪して腎盂形成術を要したことから,経過観察方法として生後半年と1歳時点での再評価を提案する.

本論文は日児誌第126巻1号P116に著者訂正を掲載
http://www.jpeds.or.jp/modules/publications/index.php?content_id=71


【原著】
■題名
小児専門医療施設で2020年に経験したコロナウイルス感染症2019の臨床像
■著者
東京都立小児総合医療センター感染症科1),同 総合診療科2),同 細菌検査室3),同 分子生物研究室4),世界保健機関マレーシア,ブルネイ,シンガポール国事務所5)
宇田 和宏1)  榊原 裕史2)  谷口 公啓1)  樋口 浩3)  木下 和枝4)  堀越 裕歩1)5)  舟越 葉那子1)  芝田 明和1)  鈴木 知子2)  幡谷 浩史2)

■キーワード
SARS-CoV-2, coronavirus disease 2019, ウイルス量, 小児
■要旨
 本邦でのコロナウイルス感染症2019は,成人領域を中心に知見が蓄積されてきているが,小児での臨床像に関する報告は限られている.今回,我々は当院で経験した小児のコロナウイルス感染症2019の詳細な臨床像を明らかにすることを目的とし検討を行った.2020年1〜12月に当院を受診した18歳以下の患者を対象とし,患者背景,感染経路,臨床症状,重症度,他の病原体との共検出の有無,ウイルス量,後遺症について調査した.対象症例は46例で,年齢の中央値は6歳(四分位範囲:4歳〜10歳)であった.コロナウイルス感染症2019患者と接触歴のある症例は41例(89%)で,成人からの感染が35例(76%)であった.無症候性患者が16例,症候性患者が30例で,頻度の多い症状は,発熱(73%),鼻汁(53%),咳嗽(30%)であった.発熱の期間の中央値は1日間(四分位範囲:1〜2日間)であった.重症度は全例が軽症で,他の病原体との共検出は7例(16%)でみられた.鼻咽腔および便検体ともに症候性患者と無症候性患者でウイルス量に統計学的に有意な差は認めなかった(p=0.43,p=0.16).入院中の症状が退院後に残存した症例が4例あったが,発症1か月以内に改善していた.今回の検討では,当院の小児例は全例軽症で,臨床症状による感冒との鑑別は困難と考えられた.研究期間内では接触歴のある症例がほとんどであった.


【症例報告】
■題名
胃腸炎嘔吐症状後に抗凝固効果過剰となったワルファリン内服児
■著者
東京大学医学部小児科
塙 孝哉  秋山 実季  中野 克俊  中川 良  浦田 晋  朝海 廣子  平田 陽一郎  犬塚 亮  岡 明

■キーワード
ワルファリン, 胃腸炎, 抗菌薬, ビタミンK, 抗凝固効果過剰
■要旨
 ビタミンK作用に拮抗するワルファリンは,出血性合併症予防のため,種々の変動要因が知られている.抗菌薬など新規薬物投与に伴う相互作用の研究は多いが,それ以外の因子に関する報告は少ない.とりわけ小児領域では,内服者が極めて少数の患者に限られるため,抗菌薬投与以外のワルファリン効果過剰に関する知見は乏しい.
 今回我々は,新規抗菌薬投与がないにも関わらず,嘔吐後に著しい抗凝固効果過剰の生じた2例を経験した.これらにおいては腸管吸収障害に伴うビタミンKの相対的不足がワルファリン効果過剰に繋がったと推測された.小児における薬物相互作用以外のワルファリン効果増強機序を示唆する貴重な症例と思われたため報告する.
 ワルファリン内服中の小児が嘔吐症状を呈し,胃腸炎による腸管からのビタミンK吸収障害が懸念される場合,抗菌薬投与のない経過観察であったとしても抗凝固効果過剰に注意し,ワルファリンの中止・減量や頻回の凝固検査が必要と考える.


【症例報告】
■題名
Sjögren症候群関連血栓性血小板減少性紫斑病と診断した小児例
■著者
横浜市立大学附属病院小児科1),同 臨床検査部2)
大砂 光正1)  竹内 正宣1)  服部 成良1)  西村 謙一1)  高石 祐美子2)  飯塚 敦広1)  吉富 誠弘1)  佐々木 康二1)  柴 徳生1)  伊藤 秀一1)

■キーワード
血栓性血小板減少性紫斑病, Sjögren症候群, 破砕赤血球, ADAMTS13, 溶血性貧血
■要旨
 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は全身の微小血管に血小板血栓が形成されることで発症する致死的な疾患であり,血栓性微小血管症に分類される疾患である.自己免疫疾患に伴い二次性に発症するTTPの原疾患の多くは全身性エリテマトーデスと強皮症であり,Sjögren症候群(SS)を背景にTTPを合併した報告は稀である.反復性耳下腺炎の既往のある8歳男児が紫斑,血小板減少を認め,前医で免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)と診断された.免疫グロブリン療法を施行されたが,血小板数の増加なく,徐々に貧血が進行したため,当院に転院した.ITPとクームス試験陰性自己免疫性溶血性貧血の合併したEvans症候群と診断し,プレドニゾロン(PSL)1 mg/kg/dayで治療を開始した.経過中に破砕赤血球を認めたことからTTPを疑い精査,ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性の著減,ADAMTS13インヒビター陽性を確認し,後天性TTPと診断した.また抗SS-A抗体陽性より,SSの精査を行い,SSと診断し,SS関連TTPと診断した.TTPの確定診断時には血小板数は増加傾向となっていたため,血漿交換療法(PE)は施行せず,PSLを継続し,外来で漸減した.発症後12か月の時点でTTPの再燃なく経過している.本稿はSS関連TTPと診断した世界で初めての小児例報告である.


【症例報告】
■題名
類白血病反応を伴った高IgE症候群
■著者
京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学1),東京医科歯科大学小児科2),京都大学大学院医学研究科発達小児科学3),宇治徳洲会病院小児科4)
藪本 佳奈子1)  大曽根 眞也1)  今村 俊彦1)  岡本 圭祐2)  井澤 和司3)  金兼 弘和2)  牧野 茂4)  今宿 晋作4)  細井 創1)

■キーワード
高IgE症候群, 類白血病反応
■要旨
 高IgE症候群は,反復性の皮膚および肺の感染症,新生児期から発症する難治性湿疹,血清IgEの高値を3徴候とする稀な原発性免疫不全症である.一方,類白血病反応は,ある特定の基礎疾患の存在下で,反応性に白血病と類似した血液像を呈する病態である.これまで高IgE症候群に類白血病反応をきたした報告は乏しい.
 症例は1か月の男児.小水疱と膿疱が多数出現し,哺乳不良となったため近医で抗菌薬の投与を受けるも白血球数が著明に上昇し,当院へ紹介となった.経過中,発熱を認めなかった.入院時,肺炎を合併し,好中球と好酸球を主体とした著明な白血球増多(102,000/μL)と血清IgEの上昇を認めた.骨髄検査で白血病芽球を認めず,細菌検査の結果をもとに抗菌薬を変更したところ,肺炎と白血球増多は改善した.母が高IgE症候群と診断されていたことから高IgE症候群を疑い,母子で同一のSTAT3変異が同定され確定診断に至った.
 自験例では細菌感染症の遷延による好中球増加に加え,STAT3の機能喪失に関連したTh2への偏移による好酸球増加を併発した結果,類白血病反応をきたしたと考えられた.類白血病反応では造血器腫瘍との鑑別が重要となるが,好酸球増多が高度の場合は原発性免疫不全症も鑑別に含めて診断を進めることが重要である.


【症例報告】
■題名
血糖コントロールに難渋した糖原病III型の乳児
■著者
国立成育医療研究センター総合診療部1),同 教育研修センター2)
本多 愛子1)2)  中尾 寛1)  飯島 弘之1)  石黒 精2)  窪田 満1)

■キーワード
糖原病III型, 肝型糖原病, 低血糖
■要旨
 糖原病III型は,グリコーゲン脱分枝酵素の欠損により,肝臓や筋肉にリミットデキストリンが蓄積し,空腹時低血糖,成長障害,肝腫大,筋力低下や心筋症をきたす先天代謝異常症である.本疾患ではグリコーゲン分解のみ障害されるため,グルコース-6-ホスファターゼが障害されることにより,グルコース6リン酸からグルコースへの産生も影響を受ける糖原病I型と比較して低血糖の程度は軽症であることが知られている.今回われわれは糖原病III型の児で,治療開始後も低血糖を繰り返し血糖コントロールに難渋した症例を経験した.症例は10か月女児で,著明な肝腫大と哺乳後の呼吸障害を主訴に当院へ搬送された.受診時筋力低下があり,血液検査では肝逸脱酵素および血清CK値の上昇を認めた.入院後,各種負荷試験および白血球酵素活性の測定を行い,肝臓と骨格筋でグリコーゲン脱分枝酵素が欠損する糖原病IIIa型と診断した.血糖維持のため,非加熱コーンスターチ投与と糖原病用ミルクによる食事療法を開始したものの,頻回に低血糖症状をきたし厳密な栄養調整と血糖管理を要した.低月齢であり,糖新生が未熟であったことや,タンパク摂取が少なかったこと,非加熱コーンスターチを消化するアミラーゼが足りなかったことなどが原因として考えられる.乳児の糖原病III型では,低血糖発作を繰り返し,厳密な血糖測定やミルク調整が必要となることがある.


【症例報告】
■題名
マルチプレックスPCRによる呼吸器病原体の観測が有用であった重症複合免疫不全症
■著者
東京医科歯科大学発生発達病態学分野1),同 小児地域成育医療学2),東京医科歯科大学医学部附属病院臨床試験管理センター3),総合病院土浦協同病院小児科4),東京医科歯科大学茨城県小児・周産期地域医療学5)
森下 あおい1)  磯田 健志1)  山下 基2)  高瀬 千尋1)  山野 春樹1)  友田 昂宏1)  岡野 翼1)  神谷 尚宏3)  柳町 昌克1)  遠藤 明史3)  徳本 惇奈4)  渡邊 友博4)  渡部 誠一4)  高木 正稔1)  金兼 弘和2)  今井 耕輔5)  森尾 友宏1)

■キーワード
重症複合免疫不全症, インフルエンザ, マルチプレックスPCR
■要旨
 T細胞,B細胞両者の機能低下による複合免疫不全症のうち,最重症型が重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:SCID)である.そのうち最多がX連鎖SCID(X-linked SCID:X-SCID)であり,根治治療を行わなければ乳児期にほとんどが致死性の感染症のため死亡する非常に予後不良な疾患である.今回,インフルエンザAに罹患し,臍帯血移植後の骨髄回復期まで持続的にマルチプレックスPCR法にてウイルスが検出されたX-SCIDの1例を経験した.移植患者や免疫不全者の診療では,インフルエンザに対する治療が通常の投与量や期間では不十分な可能性があり,より感度の高いPCR法が有用と思われた.自験例は,インフルエンザなどの感染症を合併したが,呼吸器疾患関連マルチプレックスPCR法を用い,より精密に感染症の管理を行い,全身状態が損なわれないまま造血細胞移植を行うことができたため良好な経過となった.日和見感染症に適合したマルチプレックスPCR検査の普及が望まれる.SCIDでは,早期診断と感染症罹患前の移植を行うことが重要である.今後,SCIDを含む免疫不全症において,呼吸器疾患関連マルチプレックスPCR法を用いた感染症のスクリーニング,治療モニタリングと治療成績について検討を重ねていきたい.


【症例報告】
■題名
侵襲性肺炎球菌感染症に合併した急性感染性電撃性紫斑病
■著者
岡山医療センター小児科
越智 元春  土屋 弘樹  井上 拓志  清水 順也  久保 俊英

■キーワード
電撃性紫斑病, 侵襲性肺炎球菌感染症, 播種性血管内凝固
■要旨
 電撃性紫斑病は急速に血管内血栓形成,循環不全,皮膚梗塞が進行する致死的な症候群で,重症感染症を契機とするものは急性感染性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans:AIPF)とも呼ばれる.
 症例は生来健康な生後6か月女児で,発熱,末梢冷感,チアノーゼを主訴に受診した.循環不全があり,顔面・四肢に紫斑を認めた.血液検査で炎症反応上昇,播種性血管内凝固の所見を認めたため,早期から抗菌薬投与を開始し,トロンボモジュリンアルファ,アンチトロンビンIII製剤,新鮮凍結血漿投与などを行った.血液培養で肺炎球菌が検出され,播種性血管内凝固に伴い四肢に紫斑が出現する経過からAIPFと診断した.右上腕に黒色壊死が生じ小さな瘢痕が残った以外には大きな後遺症なく回復した.早期抗菌薬投与が良好な転帰につながったと考える.
 検出された肺炎球菌の血清型は13価肺炎球菌ワクチンに含まれていない33Fで,AIPFをおこしうることが示唆された.
 肺炎球菌ワクチンが普及したが血清型置換が起こっており,侵襲性肺炎球菌感染症によるAIPFが生来健康な児に発症しうる.本症が疑われる場合には早期に抗菌薬投与を行うことが重要である.


【短報】
■題名
コロナウイルス感染症2019流行に伴う急患センターにおける小児診療状況の変化
■著者
兵庫県立こども病院感染症内科1),神戸こども初期急病センター薬剤部2),姫路赤十字病院小児科3)
籔下 広樹1)  大竹 正悟1)  木村 誠2)  神吉 直宙3)  笠井 正志1)

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, 休日・夜間急患センター, 異物誤飲, 救急受診者数, 受診忌避
■要旨
 兵庫県下3地域の急患センターにおけるコロナウイルス感染症2019流行に伴う小児診療状況の変化を調査した.2019年3月から5月,2020年3月から5月に受診した15歳以下の小児を対象として,受診者数は73.6%減少した.疾患割合について胃腸炎などの伝染性疾患が減少し,尿路感染症などの非伝染性疾患や家庭内事故である異物誤飲が増加したことから外出自粛を始めとする政策的介入の効果が示唆された.流行前後で救急搬送での受診者数の割合は0.9%から1.6%,高次医療機関への紹介患者数の割合は3.0%から4.3%といずれも有意に増加しており,受診忌避による影響をうけた可能性が示唆された.

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