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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:21.7.12)

第125巻 第7号/令和3年7月1日
Vol.125, No.7, July 2021

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総  説

コロナウイルス感染症2019と小児気管支喘息

是松 聖悟,他  1001
原  著
1.

パルスオキシメータを用いた新生児呼吸抑制の連続モニタリング解析

箕輪 秀樹,他  1007
2.

乳幼児医療費の公費助成データからみた小児の受診動向

岩崎 智裕,他  1013
3.

中学生を対象とした病名・病状告知と治療の自己決定に関する意識調査

辻 恵,他  1021
症例報告
1.

地方中核病院で施行した新生児遷延性肺高血圧症に対する体外式膜型人工肺

大坪 善数,他  1029
2.

カルシウム拮抗薬の追加治療が著効した小児特発性肺動脈性肺高血圧

岩朝 徹,他  1035
3.

新生児期に放射線治療を行ったKasabach-Merritt現象における成長障害

堀口 明由美,他  1041
4.

新鮮凍結血漿にアナフィラキシー歴があり選択的血漿交換療法を選択した視神経脊髄炎例

伴 英樹,他  1048
5.

学童期に糖尿病を発症した先天性膵体尾部形成不全

城尾 正彦,他  1053
6.

結核高蔓延国から移住した5年後に発症した肺結核

鷲尾 真美,他  1059
7.

梅毒未治療の母体から出生し先天梅毒として治療を行った同胞例

廣上 晶子,他  1066
8.

室内で飼育されているヘビが感染源と考えられた生後2か月児の爬虫類サルモネラ症

河野 香,他  1072
9.

市販点眼薬誤飲による幼児の意識障害

小松 陽樹  1078
論  策

保育施設勤務者のウイルス性肝炎予防ガイドラインの認知度と感染予防の実態調査

高野 智子,他  1082

地方会抄録(埼玉・福井・福島・秋田・山形・岩手・大分・鹿児島・福岡・宮崎・熊本・東海・北海道・北陸・富山)

  1088

訂正

  1134
日本小児科学会倫理委員会主催
  第12回日本小児科学会倫理委員会公開フォーラム

─出生前診断を考える─報告

  1135
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合36

患者さんの視点,国民の視点…我が子の視点

  1141

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2021年63巻6号目次

  1143

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 383

  1146


【総説】
■題名
コロナウイルス感染症2019と小児気管支喘息
■著者
中津市立中津市民病院
是松 聖悟  佐脇 美和

■キーワード
コロナウイルス感染症2019, 気管支喘息
■要旨
 世界はコロナウイルス感染症2019(COVID-19)のパンデミックに直面している.アウトブレイクは2019年12月頃の武漢に始まり,2020年1月に世界保健機構はパンデミックであると発表した.多くの呼吸器感染症で気管支喘息は増悪するため,気管支喘息を持つ小児が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に感染しやすいのではないか,COVID-19に罹患した場合に重症化するのではないか,気管支喘息が急性増悪するのではないかが危惧されている.小児のCOVID-19例は少ないが,現時点までの情報からはSARS-CoV-2に感染しやすいことを示唆するデータもCOVID-19が重症化しやすいことを示唆するデータもない.
 SARS-CoV-2はアンギオテンシン変換酵素2を使って細胞内に侵入する.小児と気管支喘息患者では気道上皮細胞のアンギオテンシン変換酵素2の発現が少なく,吸入ステロイドにて誘発喀痰中のアンギオテンシン変換酵素2が減少することも示されており,むしろその病態と治療は保護的に働くことが示唆されている.
 その病態は十分に解明されていないが,2020年12月までの知見を示した.


【原著】
■題名
パルスオキシメータを用いた新生児呼吸抑制の連続モニタリング解析
■著者
奈良県総合医療センター新生児集中治療部
箕輪 秀樹  扇谷 綾子  恵美須 礼子  安原 肇

■キーワード
新生児, 無呼吸発作, 低酸素血症, モニタリング, brief resolved unexplained event
■要旨
 連続モニタリング解析により新生児呼吸抑制の詳細を検討した.在胎36週以上かつ出生体重2,000 g以上の健常新生児の中で,両親がスクリーニングへの参加を希望する新生児を対象とした.呼吸抑制の定義は哺乳や啼泣後,嘔吐後の呼吸抑制によって中心性チアノーゼを呈し,SpO2が70%未満に低下するものとした.対象は1,231例であり呼吸抑制は599例(48.7%)にみられた.呼吸抑制の内訳は哺乳時が516例(41.9%),啼泣後が263例(21.4%),嘔吐後が32例(2.6%)であった.呼吸抑制の危険因子は双胎,経産婦,短い在胎週数であった.啼泣後の呼吸抑制を呈する新生児の多くは退院までに改善した.哺乳時の呼吸抑制を呈する新生児のうち約半数の児は退院時も授乳の調節を要した.哺乳時や啼泣後の呼吸抑制を繰り返す頻度が多いほどSpO2の最低値および70%未満の持続時間は重症化していた.呼吸抑制は多くの新生児にみられる病態であり,新生児をケアするスタッフへの知識の普及が望まれる.さらに,哺乳時の呼吸抑制を繰り返す新生児の母親には丁寧な授乳指導が必要である.


【原著】
■題名
乳幼児医療費の公費助成データからみた小児の受診動向
■著者
国東市民病院小児科1),中津市立中津市民病院小児科2)
岩崎 智裕1)  是松 聖悟2)

■キーワード
乳幼児医療費, 医療圏, 小児科医師数, 受療行動, 医療計画
■要旨
 2008〜2015年の大分県の乳幼児医療費の公費助成データから,その受診動向を検討した.
 乳幼児1人あたりの外来受診件数は年平均9.40件,入院件数は年平均0.15件であった.年平均の外来医療費は約60億円,入院医療費は約23億円であった.1人あたりの外来受診件数,入院件数,外来医療費,入院医療費には一次医療圏間で差がみられ,外来受診件数は一次救急診療に従事する小児科医数と正の相関を示した(相関係数0.51,p=0.03).
 また,一次医療圏内の医療機関への外来医療費の支払割合が80%を超えていたのは5市のみで,それ以外の13市町村は20〜66%であった.外来医療費支払割合は一次救急診療に従事する小児科医数と正の相関を示した(相関係数0.61,p<0.01).二次医療圏内の医療機関への入院医療費の支払割合が80%を超えていたのは2医療圏のみで,それ以外の4医療圏は32〜63%であった.
 本検討から,一次医療圏内で外来診療が,二次医療圏内で入院診療が完結できていない地域が少なからずあることが示唆された.県の全乳幼児の医療費公費助成データを解析した検討はこれまでにはないが,この方法はその地域の小児の受診動向を把握することにつながり,小児医療体制をどのように整備するかを検討する上で有用なツールと考えた.


【原著】
■題名
中学生を対象とした病名・病状告知と治療の自己決定に関する意識調査
■著者
神奈川県立こども医療センター倫理コンサルテーションチーム1),同 神経内科2),同 小児がん相談支援室3),同 児童思春期精神科4),同 集中治療科5)
辻 恵1)2)  竹之内 直子1)3)  庄 紀子1)4)  永渕 弘之1)5)

■キーワード
自己決定, 告知, 中学生, インフォームド・アセント, 意識調査
■要旨
 【緒言】子どもが医療受診をする場合,発達段階に応じた病状説明が推奨されている.一方,子ども本人がどの程度病名・病状を知りたいか,治療の決定に参加したいかについて調査した研究は国内になく,現状を明らかにすることを目的として調査を行った.【対象と方法】2018年4月1日から2019年3月31日に来院した中学生の初診患者(緊急入院を除く)369名への質問紙による調査を行った.【結果】17診療科を初回受診した185名から有効回答を得た.児童思春期精神科が最多で28.0%,整形外科21.5%,総合診療科13.9%と続いた.「病名を知りたいですか」の質問には「知りたい」80.5%,「どちらでもない」16.8%,「知りたくない」2.7%と回答があった.治療の選択について「絶対に自分で決めたい」10.8%,「だいたい自分で決めたい」34.9%であり4割以上で自己決定の意思があった.【考察】米国小児科学会では自己決定支援のため発達段階に応じた理解が得られるように病状説明をすべきとしているが日本には指針がなく,主治医の裁量に委ねられている.本調査により我が国の中学生は,自身の病名・病状ならびに治療方針の自己決定に関心を持っていることが明らかとなった.日本においても小児患者の自己決定支援のため,子どもの希望や発達段階に応じた病状説明を行えるような体制づくりが必要である.


【症例報告】
■題名
地方中核病院で施行した新生児遷延性肺高血圧症に対する体外式膜型人工肺
■著者
佐世保市総合医療センター小児科1),同 集中治療科2)
大坪 善数1)  松平 宗典2)  横川 真理1)  林田 拓也1)  江崎 裕幸1)  木下 麻莉子1)  島崎 敦1)  小泉 理沙1)  松尾 友里子1)  角 至一郎1)

■キーワード
新生児体外式膜型人工肺, 新生児遷延性肺高血圧症, 高肺血流性肺高血圧, 小児集中治療, コロナウイルス感染症2019
■要旨
 新生児呼吸障害に伴う新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)症例に対し,長崎県では初めてとなる新生児体外式膜型人工肺(ECMO)症例を経験した.当県には3か所の小児科基幹病院があるが,小児の集中治療目的に集中治療室(ICU)入室時も小児科医が主科となり,集中治療医が介入しない状況が続いていた.この状況を鑑み,当院ICUでの小児集中治療体制として集中治療医の介入,小児集中治療認定看護師を軸とした小児看護体制作り,特にECMO施行時には県内関連施設の小児外科医派遣によるカニュレーション,小児ECMO経験のある当院臨床工学技士の常駐体制を整えた.
 コロナウイルス感染症2019(COVID-19)パンデミックに伴い重症呼吸不全に対するECMOの有用性は新生児・小児領域でもクローズアップされている.九州沖縄地区でも小児COVID-19対応ネットワークが構築され,ECMO施行可能な施設の選定と広域搬送の議論がなされている.しかし集約化の議論は途上であり,搬送タイミングの見極めも困難である.搬送困難かつ緊急ECMO導入時に,単施設スタッフのみでECMO導入困難であれば,地域単位でECMOに習熟した医療者が集約することでECMO導入は可能である.新生児・小児ECMO症例の集約化が確立されるまでの対応策の一つとして検討する必要がある.


【症例報告】
■題名
カルシウム拮抗薬の追加治療が著効した小児特発性肺動脈性肺高血圧
■著者
国立循環器病研究センター小児循環器内科
岩朝 徹  中島 公子  鈴木 大  坂口 平馬  大内 秀雄  津田 悦子  白石 公  黒嵜 健一

■キーワード
肺動脈性肺高血圧, カルシウム拮抗薬, 急性血管反応, 一酸化窒素
■要旨
 カルシウム拮抗薬は一部の肺動脈性肺高血圧患者に有効であることが知られてはいるが,本邦の小児での使用報告は乏しい.今回我々はカルシウム拮抗薬の追加が有効であった特発性肺動脈性肺高血圧(IPAH)の小児例を経験した.
 症例は当院初診時9歳女児.6歳時に他院で肺動脈圧80/41(52)mmHgのIPAHと診断された.肺血管拡張薬の3剤併用療法を導入し改善が見られたが,2年の経過で増悪し,当院へ紹介となる.
 当院の検査でも肺動脈圧72/40(50)mmHg,肺血管抵抗係数(PVRI)10.68 Wood単位・m2の肺動脈性肺高血圧であった.一酸化窒素(NO)吸入での急性血管反応が良好で,肺動脈圧38/17(23)mmHg,PVRI 4.68 Wood単位・m2まで大幅に改善が見られた.このためタダラフィルをリオシグアトに変更した.
 投薬変更後,肺動脈圧54/25(37)mmHg,PVRI 7.55 Wood単位・m2と一定の改善が見られていたが,NO吸入で更に大幅な改善が認められたことから,カルシウム拮抗薬(ニフェジピン)を追加した.後の検査で,肺動脈圧34/12(23)mmHg,PVRI 3.45 Wood単位・m2と正常に近い肺動脈圧となった.
 カルシウム拮抗薬は本邦でも一部の小児肺動脈性肺高血圧患者では有効であると考えられるが,症例を選びながらの慎重な使用が望ましい.


【症例報告】
■題名
新生児期に放射線治療を行ったKasabach-Merritt現象における成長障害
■著者
埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科1),同 総合周産期母子医療センター新生児科2)
堀口 明由美1)2)  荒川 ゆうき1)  柳 将人1)  閑野 知佳2)  川畑 建2)  清水 正樹2)  康 勝好1)

■キーワード
血管腫, 播種性血管内凝固症候群, 放射線照射, 晩期合併症
■要旨
 Kasabach-Merritt現象(Kasabach-Merritt phenomenon,以下KMP)を伴う血管腫は,重篤な血小板減少と凝固異常によって播種性血管内凝固症候群をきたし,しばしば重篤化することから,早急な治療が必要となる.第一選択はステロイド療法だが,難治例では無効である場合も多い.放射線治療は,比較的早く治療効果が得られるが皮膚障害や成長障害などの晩期合併症が問題となる.今回我々は,新生児期に難治性KMPに対し放射線治療を行った3症例の晩期合併症について検討した.3例ともステロイド療法を先行し効果が不十分であったため,放射線治療をおこなった.1例はVincristineも併用した.放射線治療は1 Gy×10回(2例X線,1例電子線)を選択した.そのうちX線を使用した2例では長管骨を避け,血管腫に対して対向二門照射を行った.この2例では成長障害は見られていない.残りの1例は血管腫が下肢に全周性に見られており電子線で治療を行い,5歳時に成長障害が出現した.成長とともに脚長差が明らかとなる場合があり継続的な観察が必要と考えられた.また,放射線治療は効果発現が早く有用な治療であるが,晩期合併症を考慮し症例毎に照射線量や照射方法を工夫すべきである.


【症例報告】
■題名
新鮮凍結血漿にアナフィラキシー歴があり選択的血漿交換療法を選択した視神経脊髄炎例
■著者
熊本赤十字病院小児科1),東京女子医科大学腎臓小児科2),熊本赤十字病院腎臓内科部臨床工学課3),熊本大学病院小児科4),東北大学脳神経内科5),東京女子医科大学血液浄化療法科6)
伴 英樹1)2)  平井 克樹1)  田中 小百合3)  黒田 彰紀3)  森 正樹3)  小篠 史郎4)  高橋 利幸5)  花房 規男6)  三浦 健一郎2)  服部 元史2)

■キーワード
小児, 選択的血漿交換療法
■要旨
 アフェレシス療法には,単純血漿交換療法(plasma exchange:PE),二重濾過血漿分離交換療法,免疫吸着療法があるが,凝固因子の低下が問題となる.近年,膜型血漿分離器(エバキュアプラス®,川澄化学工業)が発売され,選択的血漿交換療法(Selective plasma exchange:SePE)が可能となったが,小児の報告は少ない.症例は12歳男児.原疾患は再発を繰り返す抗myelin oligodendrocyte glycoprotein抗体陽性視神経脊髄炎である.過去のPEで,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP)によるアナフィラキシー歴の既往があり,今回,FFPの使用を回避するためにSePEを選択した.血漿処理量は循環血漿量の1.5倍とし,4日間連続で施行した.各回の除去率の中央値(範囲)は,免疫グロブリンG(immunoglobulin G:IgG)79(72〜80)%,フィブリノゲン25(24〜29)%であった.SePEは,FFPの使用を回避し,かつ,自己免疫疾患の病因物質とされるIgGを除去することができた.SePEは小児のアフェレシスでも選択されるべき治療法の一つである.


【症例報告】
■題名
学童期に糖尿病を発症した先天性膵体尾部形成不全
■著者
独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院小児科1),同 小児外科2)
城尾 正彦1)  宗内 淳1)  中島 佑1)  杉谷 雄一郎1)  濱田 洋2)  上村 哲郎2)  高橋 保彦1)

■キーワード
先天性膵体尾部形成不全, 膵体尾部欠損症, 糖尿病, GATA6
■要旨
 先天性膵体尾部形成不全(広義の膵体尾部欠損症)はそれ自体に特有の症状はなく,腹部のスクリーニング検査または合併症に関連する症状で偶然診断されることが多い.中でも糖尿病を合併した報告は散見されるが,その多くは成人発症である.今回我々は9歳という若年でインスリン依存状態の糖尿病を発症し,速やかに膵体尾部欠損症による糖尿病の診断に至った1例を経験したため報告する.
 症例は9歳男児.3か月前より口渇,多飲多尿,約5 kgの体重減少を認めていたが体調は良いため様子を見ていた.学校検尿で尿糖3+を指摘され,近医を受診し血糖値235 mg/dL,HbA1c>14%と糖尿病が強く疑われ当科紹介となった.明らかな高血糖症状が3か月継続しているにもかかわらず,受診時の血液ガスでアシドーシスは軽度であり血糖値が200 mg/dL台とそれほど高血糖ではない点から急性発症1型糖尿病以外の糖尿病を疑い実施した腹部CT検査で膵体尾部欠損状態が指摘され,膵体尾部欠損症と診断した.精査の結果,児はインスリン依存状態であり,インスリン頻回注射法で血糖管理を開始した.膵体尾部欠損症の合併症には,糖尿病以外にも若年発症成人型糖尿病V型(MODY5)や膵炎,膵癌などの報告もあり,合併症の観点から膵体尾部欠損状態の有無を正確に診断する必要がある.そのため,小児期発症の糖尿病の場合でも腹部の画像検査を実施することが好ましい.


【症例報告】
■題名
結核高蔓延国から移住した5年後に発症した肺結核
■著者
国家公務員共済組合連合会浜の町病院小児科
鷲尾 真美  上田 圭希  内田 理彦  武本 環美

■キーワード
成人型肺結核, 小児結核, 思春期, 輸入感染症
■要旨
 本邦の結核罹患率は,戦後着実に低下しており,近年,小児の新規結核患者数は年間50人前後と少ない.今回,幼少期をフィリピンで過ごし,日本へ移住した5年後に肺結核を発病した男児例を経験した.14歳男児が,3週間続く湿性咳嗽と,2週間続く弛張熱を主訴に受診した.フィリピンでの居住歴より,肺結核を疑った.ツベルクリン試験,インターフェロンガンマ遊離試験(interferon-γ release assays:IGRA)ともに陽性であり,胸部高分解能CT(high-resolution computed tomography:HRCT)画像では,右肺尖部に小葉中心性の粒状影があった.喀痰から抗酸菌は検出されなかったが,発熱や咳嗽の症状が1か月以上遷延し,抗結核薬治療開始後より症状と画像所見が緩徐に改善したことから,肺結核と診断した.
 結核高蔓延国出生の思春期児は,結核発病のリスクを持つ.外国出生の年長児が長引く症状を訴え受診した際は,移住の時期を問わず,輸入感染症としての結核を鑑別に挙げるべきである.出生国の結核蔓延度を確認し,積極的に喀痰抗酸菌検査,ツベルクリン試験,IGRA,胸部HRCTなどの検査を実施するべきである.


【症例報告】
■題名
梅毒未治療の母体から出生し先天梅毒として治療を行った同胞例
■著者
手稲渓仁会病院小児科
廣上 晶子  及川 純子  小杉山 清隆  齋藤 光里  齋 秀二  南雲 淳  岩田 正道

■キーワード
先天梅毒, 梅毒スクリーニング検査, Jarisch-Herxheimer反応, 未受診妊婦, TORCH症候群
■要旨
 梅毒未治療の母体から出生し先天梅毒として治療を行った同胞例を報告する.母体は第1子妊娠時の梅毒スクリーニング検査は陰性であった.第1子は出生時より炎症反応の上昇と,複数の表皮剝離や水疱性病変を認めた.TORCH症候群の検査を行い,日齢3に母子ともに梅毒の診断となった.児は先天梅毒として抗菌薬治療を行った.母も抗菌薬治療を開始したが,通院を自己中断した.第2子は母体の梅毒治療が不十分なまま出生となった.出生時,児には先天梅毒を示唆する身体所見はなく,また血清学的検査からも先天梅毒の確定診断とするには不十分であった.しかし児に軽度の炎症反応上昇を認め,母体が活動性梅毒の状態にあると考えられたため,先天梅毒の可能性が否定できず抗菌薬治療を行った.両児とも退院後の経過観察で先天梅毒の再燃を認めていない.近年梅毒患者数は増加の一途を辿っており,今後梅毒感染母体から出生した児に遭遇する機会は増加すると考えられる.母子の梅毒感染症について十分な知識を持ち,予防と早期発見・早期治療に結びつけることが必要である.


【症例報告】
■題名
室内で飼育されているヘビが感染源と考えられた生後2か月児の爬虫類サルモネラ症
■著者
総合母子保健センター愛育病院小児科1),東京女子医科大学小児科2)
河野 香1)  伊藤 康1)2)  溝口 枝里子1)  石井 のぞみ1)

■キーワード
乳児, サルモネラ, ヘビ, ペット, 感染予防対策
■要旨
 近年,爬虫類などの野生由来の動物はペットとして人気が高い.ペットとして室内で飼育されていたボールニシキヘビが感染源と考えられたサルモネラ胃腸炎の早期乳児を経験したので報告する.症例は2か月の女児.嘔吐,発熱,活気不良,哺乳緩慢を主訴に来院した.尿,髄液検査は正常であったが,CRPが4.00 mg/dLと上昇しており,潜在性菌血症を疑い抗菌薬治療を開始した.入院翌日より解熱し,経過は良好で入院6日目に退院した.食中毒を考えにくい母乳栄養児であるが,便培養からSalmonella O4群が分離された.その後,再度ペットの飼育歴や動物との接触歴を確認したところ,自宅室内でヘビを飼育していることが判明した.ヘビの糞便からも,薬剤感受性が患児からの分離菌と同一のSalmonella enterica serovar Paratyphi B variant Javaが同定された.家庭でのヘビ飼育に対する衛生管理が不十分であった.ペットの多様化に伴い,爬虫類サルモネラ症を防ぐことは重大な課題である.乳幼児がいる家庭において,爬虫類は危険なペットであることを認識する必要もある.飼育者には,衛生管理に加えて,特に乳幼児がいる家庭では感染予防・安全対策を学ぶことが徹底されなければならない.


【症例報告】
■題名
市販点眼薬誤飲による幼児の意識障害
■著者
東邦大学医療センター佐倉病院小児科
小松 陽樹

■キーワード
中枢神経, 小児, 塩酸テトラヒドロゾリン, イミダゾリン誘導体, 中毒
■要旨
 「目の充血」や「疲れ目」の改善を目的とした処方不要(over-the-counter:OTC)の点眼薬が多数販売されている.これらの点眼薬には充血改善目的で血管収縮作用をもつイミダゾリン誘導体が含まれている.しかし,乳幼児はイミダゾリン誘導体を誤飲した場合,傾眠傾向や嗜眠などの意識障害,呼吸抑制,血圧低下,徐脈,縮瞳など中毒症状が出現する.OTC点眼薬を誤飲した1歳女児が意識障害を生じた症例を報告する.OTC点眼薬(イミダゾリン誘導体である塩酸テトラヒドロゾリン0.05%含有)を誤飲し,約30分後に意識障害が出現したため救急搬送された.心拍数低下,呼吸数の減少がみられた.Pediatric Glasgow Coma ScaleはE1,V3,M4(痛み刺激で開眼せず,痛み刺激で啼泣あり,痛み刺激から逃避する)であった.血液検査の血算,生化学,血糖に異常はなかった.入院経過観察中,経皮的酸素飽和度の低下はみられなかったが,一過性に心拍数が70〜80回/分まで低下した.来院から24時間後には意識レベルが完全に回復した.海外では乳幼児のOTC点眼薬の誤飲によるイミダゾリン誘導体中毒が多数報告されており,呼吸抑制に対して気管挿管による人工呼吸管理が必要な場合もある.イミダゾリン誘導体を含んだOTC点眼薬を誤飲した場合は,少なくとも24時間の注意深い経過観察が必要である.


【論策】
■題名
保育施設勤務者のウイルス性肝炎予防ガイドラインの認知度と感染予防の実態調査
■著者
大阪急性期・総合医療センター小児科1),国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト2),静岡厚生病院小児科3),日本大学医学部小児科4),東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野5)
高野 智子1)  田尻 仁1)  酒井 愛子2)  田中 敏博3)  森岡 一朗4)  四柳 宏5)

■キーワード
ウイルス性肝炎, 感染予防ガイドライン, 保育施設, B型肝炎ウイルス, C型肝炎ウイルス
■要旨
 『保育の場において血液を介して感染する病気を防止するためのガイドライン―ウイルス性肝炎の感染予防を中心に―』に対する保育施設勤務者の認知度と保育における感染予防の実態について大阪市内の保育施設勤務者にアンケート調査を行った.回答のあった319施設の1,405名のうちガイドラインを知っているのは258名(18%)と低かった.B型とC型肝炎が血液感染と知っているのは27%,B型肝炎が体液からも感染する可能性があることを知っているのは13%であった.ガイドライン認知群と非認知群で比較検討すると,ガイドライン認知群の方がウイルス性肝炎の知識が有意に高かった.処置時の手袋の着用を必ず行っているのは便排泄おむつ交換時が81%であったが,傷の手当てでは17%,軟膏塗布時は39%であった.ガイドライン認知群の方が保育ケア時の手袋装着率が有意に高かった.保育施設勤務者による入園時のワクチン接種確認は75%で行われ,その半数で接種漏れワクチンの接種勧奨が行われていた.しかし,保育施設勤務者のB型肝炎ワクチン接種率は10%と低かった.ガイドライン認知群では入園時のワクチン接種確認や接種漏れの接種勧奨を行っている割合が有意に高かった.ガイドライン認知と保育における感染予防には関係があると考えられ,今後,ガイドラインのさらなる周知を図り,保育施設における感染予防を徹底していく必要がある.

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