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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:21.3.16)
第125巻 第3号/令和3年3月1日
Vol.125, No.3, March 2021
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第123回日本小児科学会学術集会 |
会頭講演 |
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香美 祥二 385 |
教育講演 |
1. |
英語の論文:査読者のコメントへの対応のポイント―採択を勝ち取るために―
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真部 淳 397 |
2. |
治療用特殊ミルクの使用実績と安定供給上の課題〜適正使用に向けての取り組み〜
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大浦 敏博,他 401 |
日本小児感染症学会推薦総説 |
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子どもにとってのコロナウイルス感染症2019(COVID-19)
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森内 浩幸 409 |
原 著 |
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長濱 明日香,他 422 |
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高橋 保彦,他 429 |
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五十嵐 恒雄,他 437 |
症例報告 |
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神徳 穂乃香,他 446 |
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土橋 智弥,他 450 |
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熊本 愛子,他 456 |
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藤井 隆,他 461 |
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蓮見 純平,他 467 |
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野谷 梨紗子,他 472 |
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落合 雄人,他 478 |
短 報 |
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古賀 大貴,他 484 |
論 策 |
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矢ヶ崎 英晃,他 487 |
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494 |
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496 |
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502 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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No. 99 乗用田植機の歯車による手指挫滅創・骨折
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505 |
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No. 100 自転車後部荷台同乗中のスポークによる右足部裂創(スポーク外傷)
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508 |
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512 |
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No. 102 キャスターボード使用中の転倒による外傷
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515 |
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会報告 |
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会および日本集中治療医学会小児集中治療委員会 |
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日本小児集中治療連絡協議会COVID-19ワーキンググループ活動報告(*)第2報
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521 |
日本小児科学会災害対策委員会報告 |
第123回日本小児科学会学術集会 |
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528 |
日本小児科学会小児救急委員会報告 |
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未就学児の家庭内入浴時の溺水トラブルに関するアンケート調査結果
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534 |
日本小児科学会働き方改革検討ワーキンググループ報告 |
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540 |
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告 |
リレーコラム キャリアの積み方─私の場合34 |
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The best doctor in the world is the pediatrician?
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545 |
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告 |
はじめの一本4 |
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それは医師の名刺であり,世界への扉であり,また巨人の一細胞でもあり…
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546 |
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548 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2021年63巻1号目次
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550 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2021年63巻2号目次
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554 |
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555 |
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556 |
【原著】
■題名
医療的ケアを要する障害児者に対する成人内科系医療機関の受け入れ実態調査
■著者
坂ノ市病院小児科1),中津市立中津市民病院小児科2),恵の聖母の家3),大分県立病院新生児科4) 長濱 明日香1) 是松 聖悟2) 佐藤 圭右3) 赤石 睦美4) 飯田 浩一4)
■キーワード
在宅医療, 移行期医療, 重症心身障害者, 医療的ケア
■要旨
大分県内の成人内科系医療機関に対して,小児期からの医療的ケア児者の受け入れについての実態調査を,無記名自記式質問紙にて実施した.432施設中201施設(回収率47%)から回答を得た.医療的ケア児者の主治医が可能な医療機関は9施設と少ないが,何らかの形で診療が可能と回答した施設は73施設あった.医療的ケア児者の診療不可の理由として,81%が医師の知識・技能不足を,66%が看護師の知識・技能不足を挙げ,重症心身障害者の場合はさらにその割合が上昇し,かつ保護者対応に慣れていないとの回答も41%に認めた.在宅医療が必要な移行期患者の主治医が可能な成人医療機関は限られるが,限定された診療であれば外来・訪問診療可能と回答した医療機関は一定数存在する.移行期患者の在宅医療体制構築には,小児科医が併診など状況に応じた移行の在り方を認識しサポート体制を構築することが必要である.そのため内科医のニーズに応じた講習会の開催や,保護者へ移行期医療に関する心理面への配慮・教育やアドバンス・ケア・プランニングを日頃から勧めておくことが望ましいと思われる.
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【原著】
■題名
超・準超重症児が急性期病院小児科にレスパイト入院中に生じた偶発的骨折
■著者
九州病院小児科 高橋 保彦 芳野 三和 中村 涼子 米田 哲 宗内 淳 山本 順子
■キーワード
超・準超重症児, 医療的ケア児, 重症心身障害児, レスパイト入院, 骨折
■要旨
在宅医療の進歩に伴い医療的ケアを要する超・準超重症児は年々増加し一般病院小児科でのレスパイト(医療観察)入院は徐々に広まりつつある.対象児の多くは寝たきりで頻回の吸引や体位変換などの様々なケアや介護に際し予期せぬ偶発症が生じうる.なかでも骨折は患児自身の苦痛のみならずスタッフと家族間の信頼関係に影響する.2010年〜2019年の10年間に当科にレスパイト入院した医療的ケアを要する超・準超重症児に偶発的に発症した骨折について検討した.対象はこの間に当科にレスパイト入院した84名,延入院回数1,905回,延入院日数は13,328日であった.骨折は10例に生じうち4例は複数か所の骨折であり,合計15部位を骨折した.骨折部位は大腿骨10部位,上腕骨3部位,脛骨2部位であった.
骨折症例は全例寝たきりでJCS100以上の重度意識障害があり,単純気管切開もしくは喉頭気管分離術に加え在宅人工呼吸器を装着している超重症の医療的ケア児であった.
超・準超重症のレスパイト入院は急性期病院小児科が担うことを期待されている.今回の検討では,のべ1,905回のレスパイト入院1回7日間あたり,骨折の危険性は0.8%であった.超・準超重症は長期に渡る非荷重状態による骨脆弱性や関節拘縮にともなう可動域制限などから,日常的なケアや介護にともなうわずかな外力が骨折を引き起こす危険性がある.
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【原著】
■題名
小児救急電話相談の役割
■著者
群馬県小児科医会1),高崎総合医療センター小児科2),大山小児科医院3),重田こども・アレルギークリニック4),ながしま小児科5),田口小児科6) 五十嵐 恒雄1)2) 大山 碩也1)3) 重田 誠1)4) 長嶋 完二1)5) 田口 勉1)6)
■キーワード
電話相談, 入院率, 適正受診, 小児救急
■要旨
小児救急電話相談事業(#8000)には,夜間の急病やけがの相談に応じると同時に,緊急の受診を必要としない軽症患者の適正受診が促進され,患者・医療者双方にとっての時間外診療の負担を軽減させる効果も期待される.
この点での#8000の効果を検証する目的で,群馬県小児科医会では,平成26年までの群馬県小児救急医療支援事業(二次輪番)の実績と,#8000の実績データをもとに,#8000と二次輪番の受診動向の推移を検討した.
群馬県の#8000は,平成17年に月曜から金曜の8時30分から22時の時間帯で開始され,年次の経過とともに休日・夜間の実施時間を拡大して,平成23年度以降は翌朝8時までとなり,相談件数も年次ごとに増加していた.一方,二次輪番の受診者数は,平成17年度以降,電話相談件数の増加とともに減少しており,二次輪番受診者の入院率は平成22年度以降13%前後の比較的高い水準で推移していた.#8000の相談結果で直ちに受診することを勧められなかった群を電話相談上の軽症者とすると,軽症相談件数の増加とともに,二次輪番受診者数は減少し,軽症相談件数と輪番受診者数の合計数は平成18年度以降でほぼ一定であった.
年度ごとの#8000の相談件数と二次輪番受診者数の間には強い負の相関がみられ,#8000は小児救急の適正受診に貢献している可能性が強く示唆されたが,適正受診を促進する他の因子とのかかわりにおいては,さらなる検討を要すると考えられた.
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【症例報告】
■題名
動脈管閉鎖術に使用したクリップが気管内に脱落した超低出生体重児
■著者
茨城県立こども病院新生児科1),同 心臓血管外科2),同 小児外科3) 神徳 穂乃香1) 新井 順一1) 鎌倉 妙1) 雪竹 義也1) 梶川 大悟1) 星野 雄介1) 淵野 玲奈1) 阿部 正一2) 坂 有希子2) 東間 未来3)
■キーワード
動脈管開存症, 動脈管閉鎖術, 動脈管クリップ, 高頻度振動人工換気, 合併症
■要旨
超低出生体重児のチタンクリップ(以下,クリップ)による動脈管閉鎖術後に,クリップが気管支を穿通し気管内に移動した症例を経験した.
在胎22週3日で出生した男児の動脈管開存症に対し,日齢20にクリップによる動脈管閉鎖術を行った.手術翌日から高頻度振動人工換気を行った.術後18日目の胸部X線写真でクリップが気管内に移動していた.頭部を低位にした状態で,閉鎖式吸引カテーテルを用いて気管チューブ内にクリップを誘導し,気管チューブごとクリップを抜去した.超低出生体重児にとって,動脈管閉鎖術のクリップは相対的に大きく,組織も脆弱なため,思わぬ合併症をきたすことがあることに留意する必要がある.
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【症例報告】
■題名
一卵性双胎同胞の突然死翌日に急性心筋炎と診断された乳児例
■著者
広島市立広島市民病院循環器小児科1),興生総合病院小児科2) 土橋 智弥1) 鎌田 政博1) 中川 直美1) 石口 由希子1) 森藤 祐次1) 岡本 健吾1) 川田 典子1) 野村 博昭2)
■キーワード
急性心筋炎, 一卵性双胎, 心筋トロポニンT, ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N末端フラグメント
■要旨
乳児期の急性心筋炎は非特異的症状で発症することが多く,初期診断は困難で劇症型では急激に循環不全を来す.今回双胎同胞の突然死という家族歴から心筋炎を疑い,早期診断に至った乳児例を経験した.児は8か月女児.一絨毛膜二羊膜双胎(MD twin)第1子,在胎36週5日,2,352 gで出生し,第2子と共に発育は正常であった.感冒症状で前医受診時,軽度の喘鳴を認めたが,明らかな心雑音やギャロップリズムは認めなかった.しかしその前日,第2子が感冒症状から心肺停止に陥り劇症型心筋炎が疑われていたため,血液検査が施行された.BNP異常高値,TnT陽性で心筋炎を疑い当院搬送となった.心臓超音波検査で左室拡張末期径は対正常122%値で,左室駆出率は57%と低下,12誘導心電図でV6誘導T波の陰性化を認め,急性心筋炎と診断した.ステロイドパルス,ガンマグロブリン大量療法を行い心機能は改善,第15病日に後遺症なく退院した.2児共に咽頭ぬぐい液からライノウイルスが同定され,同ウイルスによる急性および劇症型心筋炎と診断された.
一卵性双胎同胞に同時期に発症した心筋炎であり,早期診断の重要性と急性心筋炎の発生に遺伝的要素の関与を示唆する重要な症例と考えられ報告する.
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【症例報告】
■題名
Holter心電図で交感神経活動の亢進が示唆された心因性発熱
■著者
佐賀大学小児科1),佐賀県医療センター好生館2) 熊本 愛子1)2) 尾形 善康1) 西村 真二2) 松尾 宗明1)
■キーワード
心因性発熱, 交感神経, Holter心電図, ストレス, 体位性頻脈症候群
■要旨
心因性発熱とは心理的ストレスにより体温が上昇することであり,感染や炎症によって生じる発熱とは機序が異なり,ストレスにより交感神経活動が亢進し生じる高体温とされている.一般に,発熱以外に随伴症状や炎症所見がなく特定の状況で発熱を認める場合や,慢性の心理社会的ストレスの影響が推定される場合に心因性発熱と診断される.今回Holter心電図で交感神経活動の亢進が示唆された心因性発熱を経験した.
症例は14歳女児.3か月持続する高体温を主訴に受診した.理学所見,血液検査,画像検査は異常なく体温は登校時のみ40℃台まで上昇し,解熱剤は無効であった.Holter心電図の心拍変動スペクトル解析で,登校時に交感神経の活動の指標とされるLF/HFが顕著に上昇しそれに一致して高体温を認めたが,欠席した日ではLF/HFの上昇は認めなかった.詐熱は否定され,心理社会的なストレスが背景にあることから心因性発熱と診断し,三環系抗うつ薬と心理療法,環境調節により軽快した.
心因性発熱は現状では診断に直結する検査所見がなく,除外診断や治療的診断が用いられており診断確定までに時間を有することが多い.心因性発熱の診断補助としてHolter心電図による評価も有用な可能性がある.
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【症例報告】
■題名
HRAS G12V変異による最重症のCostello症候群
■著者
山形大学医学部小児科学講座1),東北大学大学院医学系研究科遺伝医療学分野2) 藤井 隆1) 須藤 陽介1) 佐々木 綾子1) 永井 康貴2) 青木 洋子2) 三井 哲夫1)
■キーワード
Costello症候群, 多源性上室性頻拍, 肥大型心筋症, 乳び胸水, 肝腫瘤
■要旨
Costello症候群はHRASの変異に起因する稀な疾患である.その症状は多岐にわたり,通常は肥大型心筋症と悪性腫瘍が生命予後を大きく左右する.多くは乳児期から幼児期にかけて診断され,成人に到達する症例も認められる.今回,我々はCostello症候群の中でも稀なHRASのG12V変異により新生児期に重篤な転帰を辿った症例を経験した.症例は日齢0の男児.胎児期に頸部浮腫と羊水過多,胎児頻脈を認めていた.在胎28週3日に前期破水と胎児徐脈のために緊急帝王切開で出生した.出生時より心筋肥大と上室性期外収縮,著明な浮腫を認めた.日齢2より胸腹水が出現し,難治性の経過で頻回の穿刺を必要とした.コントロール不良の上室性頻脈による血圧低下,肺水腫による換気不全のため日齢29に死亡した.循環器合併症や浮腫などからRAS/MAPK症候群を疑い,遺伝子解析の結果HRAS c.35_36delinsTT(G12V)ヘテロ接合性変異が同定された.この変異は既知の変異であったが稀であり,かつ最重症型とされる変異であり,既報では出生例の大半が生後2か月以内に死亡していた.小児領域においてしばしば遭遇するNoonan症候群には酷似した臨床像をもつCostello症候群があり,同症候群では例外的に最重症の経過を呈し得る変異型がある.そのため,生後早期に遺伝子解析を行うことは予後予測のために有用と考えられた.
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【症例報告】
■題名
トリメチルアミン尿症の女児例
■著者
佐久総合病院佐久医療センター小児科1),昭和薬科大学薬物動態学教室2) 蓮見 純平1) 山崎 浩史2)
■キーワード
トリメチルアミン, トリメチルアミン尿症, FMO3
■要旨
トリメチルアミン尿症(trimethylaminuria:TMAU)は,魚臭の原因であるトリメチルアミン(trimethylamine:TMA)の生体内濃度が何らかの理由で上昇し,身体から魚臭を発する疾患である.疾患そのものは全く致死的ではないが,その特性から患者の社会生活に大きな悪影響を及ぼすことがある.症例は世界各国から報告されているが,本邦ではまだ報告数が少なく,認知度も低い.今回,典型的な症状と経過からTMAUが疑われ,尿と口腔粘膜擦過物を用いた解析で,速やかに診断に至った症例を経験した.低侵襲で安全性が高い診断方法で,病型や重症度の分類まで可能であり,結果から得られる情報の有益性は極めて高かった.TMAUとその診断アプローチが広く認知され,適切に診断される症例が増えることが望まれる.
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【症例報告】
■題名
反復性肺炎球菌性髄膜炎の原因が経篩骨型頭蓋底髄膜脳瘤であった学童
■著者
兵庫県立こども病院救急総合診療科1),同 感染症科2) 野谷 梨紗子1) 笠井 正志2) 三星 アカリ1) 張 慶哲1) 倉橋 幸也1) 伊藤 雄介2)
■キーワード
反復性髄膜炎, 肺炎球菌, 経篩骨型頭蓋底脳瘤, 経蝶形骨型頭蓋底脳瘤, 腰椎ドレナージ術
■要旨
症例は出生歴,発育歴に異常を指摘されたことのない10歳男児.幼児期には年1回急性副鼻腔炎に罹患していた.5歳時と8歳時に肺炎球菌性髄膜炎を発症し,10歳時にも肺炎球菌性髄膜炎を発症した.いずれも定型的な治療で軽快したが,原因精査目的に当院に紹介となった.免疫学的精査では,免疫グロブリン,好中球,リンパ球の機能は正常で,肺炎球菌莢膜多糖体抗原に対する抗体は上昇を認めていた.原因となった肺炎球菌の莢膜血清型は,5歳時は15B/C,8歳時は35B,10歳時は不明であった.頭部画像検査にて鼻腔内腫瘤と篩骨欠損を指摘され,硬膜内カテーテルによる腰椎ドレナージ術を施行したところ腫瘤は縮小したが,腰椎ドレナージ術を終了すると再発した.この結果から経篩骨型頭蓋底髄膜脳瘤と確定診断し,経鼻的に内視鏡下脳瘤切除術・頭蓋底形成術が行われた.術後1年以上経過しているが,鼻腔内腫瘤の再発を認めていない.また,髄膜炎もその後は罹患していない.
反復性髄膜炎の原因は解剖学的異常が半数以上だが,その多くが外傷に伴うものであり,頭蓋底髄膜脳瘤は稀である.さらに,経篩骨型頭蓋底髄膜脳瘤では外表奇形などを伴わず,本症例のように,反復性髄膜炎をきたすまで指摘されないことも多い.反復性髄膜炎の原因として,非外傷性の原因が疑われる際には本疾患を念頭においた画像検査とその解釈が重要である.
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【症例報告】
■題名
糞便中へのウイルス排泄が6か月以上持続した小児A型急性肝炎
■著者
藤沢市民病院こども診療センター1),同 臨床検査科2),岡山済生会総合病院肝臓病センター3),自治医科大学医学部感染・免疫学講座ウイルス学部門4) 落合 雄人1) 清水 博之2) 市川 和志1) 川上 万里3) 高橋 雅春4) 岡本 宏明4)
■キーワード
A型肝炎, 家族内感染, 急性肝炎, 遺伝子解析, 分子系統解析
■要旨
A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)に汚染された飲食物あるいは感染者の排泄物から経口感染をする急性疾患である.小児では不顕性感染や発熱,消化器症状のみの軽症のことが多い.今回我々は海外渡航後に家族内感染をして急性肝炎を発症した症例を経験した.
症例は10歳女児.インドネシアへの渡航後に,母親がA型肝炎を発症し,その時点で症例の便中にHAV-RNAが検出されたが急性肝炎の発症を示唆する所見は認められなかった.その1か月後に症例は発熱,倦怠感,血液検査で肝逸脱酵素の上昇を認めて急性A型肝炎を発症した.
嘔気,嘔吐と食事摂取量低下を呈し,対症療法で症状改善を認めて,退院した.外来での経過観察では1か月程度で肝逸脱酵素改善を認めたが,数か月にわたり,血中,便中のHAV-RNAは陽性であった.
女児は発症時期より母親からの家族内感染と判断されたが,分離されたHAV株の塩基配列はインドネシア由来のHAV株よりも中国からの輸入アサリを感染源として2017年に国内で流行したHAV株と近縁であり,母親の感染原因の特定には至らなかった.小児におけるA型急性肝炎を長期間にわたりウイルス学的に解析した報告は少なく,貴重な症例と考え報告する.
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【短報】
■題名
コロナウイルス感染症2019拡大に伴う医療機関受診抑制下における重症百日咳乳児例
■著者
九州大学大学院医学研究院成長発達医学1),九州大学病院救命救急センター2),同 グローバル感染症センター3) 古賀 大貴1)2) 本村 良知1)3) 松岡 若利1)2) 奥園 清香1) 鉄原 健一1)2) 賀来 典之1)2) 大賀 正一1)
■キーワード
百日咳, コロナウイルス感染症2019, 予防接種, Vaccine preventable disease
■要旨
百日咳は,生後6か月以内のワクチン未接種児が罹患した場合,特に重症となる.2020年,コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の流行により,政府から学校の臨時休校および不要不急の外出の自粛が要請され,さらに医療機関での集団感染が報じられるなど,受診機会減少への影響は少なくない.今回,COVID-19の流行により医療機関受診を自粛した結果,ワクチン接種が遅れ,百日咳に罹患し,重症化した乳児例を経験した.予防接種は不要不急ではなく,Vaccine preventable diseaseから子どもを守るために必要であることを啓発すると同時に,安全に予防接種を行うための感染対策が必要である.
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【論策】
■題名
6年次選択制クリニカルクラークシップへの基準準拠型ポートフォリオ評価の導入
■著者
山梨大学医学部小児科1),山梨県立中央病院小児科2),同 新生児内科3),諏訪中央病院小児科4),甲府病院小児科5),山梨厚生病院小児科6),山梨赤十字病院小児科7),富士吉田市立病院小児科8),都留市立病院小児科9) 矢ヶ崎 英晃1) 沢登 恵美1) 合井 久美子1) 中根 貴弥1) 星合 美奈子2) 内藤 敦3) 佐藤 広樹4) 内田 則彦5) 池田 久剛6) 佐野 友昭7) 小鹿 学8) 太田 正法9) 犬飼 岳史1)
■キーワード
クリニカルクラークシップ, ポートフォリオ, ルーブリック
■要旨
医学教育モデル・コア・カリキュラムの改定や国際基準に沿った医学教育の実施の必要性から,我が国の医学教育は大きな変遷の時期を迎えている.山梨大学では6年次に選択制のクリニカルクラークシップを行っており,小児科実習では大学病院,地域中核病院,小児科クリニック,小児初期救急医療センターで臨床実習を行っている.医学生の診療参加型実習,形成的評価が行えることを目標に,2017年より地域中核病院での臨床実習を推進し,その評価のため統一した基準準拠型ポートフォリオを導入した.ポートフォリオの導入により医学生の診療参加型実習が推進できるかに関して,医学生のアンケート結果や指導医のフィードバックをもとに教育上の成果を検討した.3年の間に地域中核病院での実習を選択する医学生が増加し,診療参加型実習ができたと回答した医学生が増加した.その理由として医学生がプロフィールや実習目標を明確にしてから実習を開始できること,指導医と達成度を確認しながら実習を行い振り返りができること,形成的評価が可能となったことなどがあげられた.臨床実習においてポートフォリオを導入することは,多施設での診療参加型実習をスムーズに行うこと,医学生の形成的評価において有用であると考えられた.
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