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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:20.12.15)
第124巻 第12号/令和2年12月1日
Vol.124, No.12, December 2020
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日本小児精神神経学会 推薦総説 |
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小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害(PANDAS)および小児急性発症神経精神症候群(PANS)
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小泉 慎也 1697 |
原 著 |
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大木 康史,他 1706 |
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藤村 友美,他 1713 |
症例報告 |
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松尾 友里子,他 1721 |
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山田 佳奈,他 1727 |
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高瀬 雄介,他 1733 |
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石井 茂樹,他 1740 |
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久米 英太朗,他 1746 |
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近藤 康宏,他 1753 |
論 策 |
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網塚 貴介,他 1758 |
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1764 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2020年62巻11号目次
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1801 |
【原著】
■題名
新生児末梢穿刺中心静脈カテーテル挿入時の高度無菌遮断予防策実施の寄与因子
■著者
新生児感染症管理予防研究会PICCリスク因子研究グループ1),桐生厚生総合病院小児科2),京都第一赤十字病院新生児科3),順天堂大学医学部小児科4),県立広島病院新生児科5),西埼玉中央病院6),国際医療福祉大学未来研究支援センター7) 大木 康史1)2) 木下 大介1)3) 松永 展明1)4) 羽田 聡1)5) 坂木 晴世1)6) 藤田 烈1)7)
■キーワード
末梢穿刺中心静脈カテーテル, 高度無菌遮断予防策, 寄与因子, 新生児
■要旨
【目的】1,500 g以下児の末梢穿刺中心静脈カテーテル挿入時のカテーテル関連血流感染症リスク因子研究の二次解析として,高度無菌遮断予防策(MSB)実施に寄与する要因を探索する.【方法】2014年から2017年に26施設から前方視的に集計した2,383例を対象とした.MSB実施例(n=332)と非実施例(n=2,051)との手技内容について,単変量解析および多変量ロジスティック回帰分析を行い寄与因子を探索した.【結果】背景の平均値は,在胎28.5週,出生体重1,025 gであった.MSB実施を目的変数とする多変量ロジスティック回帰分析で,アプガースコア1分値,初回での挿入成功,術者が卒後8年未満,消毒薬が10%ポビドンヨード・その他の皮膚消毒薬でないこと,消毒薬接触時間の遵守,ダブルルーメンカテーテルが独立して有意な寄与因子として選択された.MSB群は97.0%が開放環境で挿入しており,両者は密接な関係のため,開放環境での挿入を説明変数として検討することはできなかった.【結語】MSB実施に寄与する複数の因子を特定した.人的資源の整備,1.0%以上のCHGエタノールによる消毒と消毒薬接触時間の遵守,開放環境での挿入によりMSB実施率向上につながる可能性がある.
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【原著】
■題名
ポリエチレングリコール製剤による小児便秘症患者と養育者のQOL改善効果
■著者
国立成育医療研究センター消化器科/小児炎症性腸疾患センター1),同 教育研修センター2),同 総合診療部3) 藤村 友美1)2) 竹内 一朗1) 伊藤 夏希1) 宇佐美 雅章1) 佐藤 琢郎1) 清水 泰岳1) 窪田 満3) 石黒 精2) 新井 勝大1)
■キーワード
慢性便秘症, 小児, 養育者, quality of life, ポリエチレングリコール製剤
■要旨
【背景】慢性便秘症は患児のみならず,養育者のquality of life(QOL)にも影響を与える.本邦では2018年にポリエチレングリコール製剤であるマクロゴール4000+電解質(以下PEG+E,商品名モビコールⓇ配合内用剤)が承認されたが,患児と養育者のQOLに与える影響を検討した報告は乏しい.本研究では,PEG+Eが小児便秘症患者と養育者のQOLに与える影響を検討した.
【方法】当センターでPEG+Eを導入した2歳以上の便秘症患者と養育者を対象に,導入前後のQOLに関する自己記入式質問紙調査を行った.患児QOLを評価する「患児QOL調査票」を本研究用に独自に作成し,患児が6〜14歳の場合は本人と養育者の両者が記入し,2〜5歳では養育者のみが記入した.養育者QOLを評価する「養育者QOL調査票」は,養育者のみが記入した.各調査票結果から,PEG+E導入に伴うQOL下位尺度の変化を検討した.
【結果】26例の患児と養育者から回答が得られた.養育者が記入した「患児QOL調査票」では,PEG+E導入後に全下位尺度が改善したが,患児が記入した19例では「治療効果の実感」のみ改善が認められなかった.「養育者QOL調査票」の解析では,PEG+E導入後に全ての下位尺度が改善していた.
【結論】PEG+Eは,便秘症患児と養育者のQOL改善に有用である可能性が示唆された.
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【症例報告】
■題名
複雑先天性心疾患・慢性心不全治療中に発症した肝芽腫
■著者
長崎医療センター小児科1),長崎大学病院小児科2),同 病理診断科3),現:関西医科大学臨床病理学講座4) 松尾 友里子1)2) 本村 秀樹1) 桑原 義典1) 谷岡 真司2) 伊藤 暢宏2) 舩越 康智2) 福永 啓文2) 蓮把 朋之2) 石田 佳央理3)4) 森内 浩幸2)
■キーワード
肝芽腫, 先天性心疾患, 慢性心不全, 腹腔内出血, 肝腫大
■要旨
肝芽腫は症状が乏しいため早期診断が難しい.また,心不全をきたしうる基礎疾患がある場合は肝腫大や腹水の原因として肝芽腫は鑑別に上がりにくい.慢性心不全の治療強化中に肝芽腫と診断した幼児を経験したので報告する.
症例は2歳女児.出生後にEbstein奇形,心室中隔欠損症(VSD),左室心筋緻密化障害と診断した.肺高血圧,右室不全,左室収縮能低下を認めたため,生後4か月でVSD閉鎖術と三尖弁形成術,1歳で両方向性Glenn手術を行った.2歳時に肝腫大と腹水が徐々に増強し,嘔吐と発熱のため緊急入院となった.病歴,腹部単純CT・超音波検査から肝膿瘍を疑い,抗菌薬投与を行ったが改善せず,入院17日目に急激な貧血の進行と腹部膨満が出現した.同日のα-fetoprotein(AFP)は546,952 ng/mLと著増し,腹部造影CT・MRIでは肝右葉を中心に内部不均一な巨大腫瘤を認めた.肝芽腫を疑い,肝動脈塞栓術,ドレナージ術,化学療法を行ったが入院44日後に死亡した.病理解剖により胎芽型肝芽腫と診断した.
肝芽腫は超低体重出生児では酸素,フロセミド,X線写真撮像回数が発症に関与するとされており,先天性心疾患でもリスクが高くなる可能性がある.そのため,心疾患があっても治療抵抗性の肝腫大,腹水貯留があれば年齢にかかわらず肝悪性腫瘍を積極的に疑った画像検査やAFP測定を行う必要がある.
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【症例報告】
■題名
急性汎発性発疹性膿疱症を合併した難治性川崎病
■著者
鹿児島市立病院小児科1),同 皮膚科2) 山田 佳奈1) 野村 裕一1) 馬場 淳徳2) 池田 尚弘1) 久保田 知洋1) 櫨木 大祐1) 新小田 雄一1) 楠生 亮1) 鮫島 幸二1)
■キーワード
小膿疱, 薬疹, 急性汎発性発疹性膿疱症, 川崎病, Infliximab
■要旨
症例は1歳男児.第2病日に川崎病(KD)の診断でaspirin(ASA),免疫グロブリン大量療法(IVIG)とprednisolone(PSL)で治療が開始された.速やかに解熱し皮疹も消失したが,第4病日に再発熱し治療前と異なる皮疹が出現した.IVIG追加後も改善せず第6病日に転院した.口唇腫脹が著明で全身に大小不同の紅斑と一部に小膿疱形成がみられた.6主要症状があり難治性KDと考えInfliximab(IFX)を投与した.薬疹も考慮しPSLを継続しASA等の被疑薬は中止した.翌日に解熱し紅斑は一部小膿疱をきたした後に軽快した.皮膚生検で角層の海綿状膿疱と膿疱内好中球浸潤があり急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)と診断した.
【考案】AGEPは重症の薬疹で高熱と小膿疱のある紅斑が特徴である.本例は皮疹が変化した時点でAGEPを発症したことが考えられる.AGEPの治療は被疑薬中止やPSLであるが,今回はPSL継続と被疑薬中止,IFXが奏功した.本例はPSL高用量でも悪化した難治性のAGEPであり,過去の報告からもIFX治療は検討すべき選択だった.また,難治性のKDでもありIFX使用は適切だったと考えられた.
【結語】KD再発熱時に皮疹の変化を伴う場合はAGEPを含む薬疹の可能性の検討が重要である.AGEPを伴うKD再燃時にはIFXが有効な治療のひとつと考えられた.
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【症例報告】
■題名
IgA優位沈着性感染関連糸球体腎炎の病理像を呈した急性腎炎症候群の小児例
■著者
長崎みなとメディカルセンター小児科1),長崎大学病院小児科2) 高瀬 雄介1)2) 中山 裕介1) 浦川 立貴1) 明石 周爾1) 山田 洸夢1) 坂本 綾子1) 白川 利彦2) 中嶋 有美子2) 森内 浩幸2) 中嶋 一寿1)
■キーワード
急性腎炎症候群, IgA, 感染関連糸球体腎炎, 腎生検, 病理診断
■要旨
IgA優位沈着性感染関連糸球体腎炎は,主に糖尿病などの基礎疾患を有する成人において,多くがブドウ球菌感染に関連して発症する糸球体腎炎として近年報告されている.今回我々は,溶連菌感染後急性糸球体腎炎を疑ったが血清学的に溶連菌の関与が証明されず,腎生検の結果IgA優位沈着性感染関連糸球体腎炎と病理診断した小児例を経験した.症例は10歳男児.発熱・咽頭痛・咳嗽から2週間後に眼瞼浮腫などの症状が出現した.急性腎炎症候群として塩分・水分制限や利尿薬投与を行い,比較的速やかに浮腫は改善した.その一方で,経過および血清C3低値から想定した溶連菌感染後急性糸球体腎炎の臨床診断が,アンチストレプトリジンOの上昇を認めないために確定できず,診断確定目的に腎生検を実施した.病理組織学的には,管内増殖像を認め,C3・IgGとともにIgAが糸球体係蹄壁に沈着しており,hump様の上皮下electron dense depositを認めたことから,IgA優位沈着性感染関連糸球体腎炎と診断した.腎生検後よりアンジオテンシン変換酵素阻害薬を開始し,血清クレアチニン値の正常化と蛋白尿の消失が得られている.小児におけるIgA優位沈着性感染関連糸球体腎炎の頻度や予後は不明であり,腎生検を施行されていない溶連菌感染後急性糸球体腎炎以外の急性腎炎症候群の中に潜在している可能性も考えられるため,今後の実態解明が必要である.
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【症例報告】
■題名
市中型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌によるトキシックショック症候群を発症した幼児例
■著者
宮崎県立宮崎病院小児科1),宮崎大学医学部発達泌尿生殖医学講座小児科学分野2),鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野3) 石井 茂樹1) 鈴東 昌也1) 横山 亮平1) 高村 一成1) 日高 倫子1) 山村 佳子1) 大平 智子1) 下之段 秀美1) 盛武 浩2) 藺牟田 直子3) 西 順一郎3) 中谷 圭吾1)
■キーワード
熱傷, 市中型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌, トキシックショック症候群, エンテロトキシン, TSST-1
■要旨
トキシックショック症候群(Staphylococcal toxic shock syndrome,TSS)は,黄色ブドウ球菌が産生する種々の菌体外毒素がスーパー抗原としてT細胞を過剰に刺激し,続発する高サイトカイン血症から全身の組織障害を引き起こす重篤な疾患である.本症例は4歳の健常男児で6日前に熱傷を受傷したが,明らかな感染徴候はなかった.入院前日から発熱を認め,入院当日朝に代償性ショック,全身性紅斑で発症した.重症敗血症やTSSを疑い抗菌薬および免疫グロブリン製剤の投与を開始し,重篤化することなく改善した.後日,頭部の皮膚培養からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)が検出され,追加検査で毒素産生能を有する市中型MRSAであることが判明した.他の病原体は検出されず,診断基準も満たしたことから,最終的に本症例を市中型MRSAによるprobable TSSと診断した.
近年,本邦健常小児における市中型MRSAの保菌率は上昇傾向であり,皮膚感染症の原因菌としても同菌が一定の割合を占めるなど,その臨床的意義は少なくない.熱傷等の皮膚障害を伴う小児において,発熱,紅斑,ショック等の全身症状を認める場合,市中型MRSAによるTSSも鑑別として挙げる必要がある.
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【症例報告】
■題名
服薬遵守不良による薬剤耐性獲得回避に経胃瘻投与を選択したHIV感染極低出生体重児
■著者
神戸市立医療センター中央市民病院小児科1),同 新生児科2) 久米 英太朗1)2) 宮越 千智1)2) 菅原 勝美2) 鶴田 悟1)2) 山川 勝1)2)
■キーワード
ヒト免疫不全ウィルス, 後天性免疫不全症候群, 早産児, 極低出生体重児, 胃瘻
■要旨
妊婦検診でのHIV母子感染予防策導入後,HIV 母子感染例は減少したが,近年は5年間で4例の報告がある.その中でも未熟児の感染例は少なく,抗HIV薬のエビデンスは未だ不十分である.
症例は未治療のHIV感染母体から出生した早産極低出生体重児で,血液検査でHIV-RNA量(viral load:VL)高値を認めHIV感染と診断し,ジドブジン(ZDV),ラミブジン(3TC),ネビラピン(NVP)による治療を開始した.経過中,薬剤性好中球減少を認め,ZDVをアバカビル(ABC)に変更した.初期治療への反応良好で速やかにVLが低下したが検出限界以下とはならず,原因として内服アドヒアランス低下によるウィルスの薬剤耐性獲得が考えられたため,確実な抗HIV薬の投与方法として胃瘻造設を選択した.胃瘻造設後,3TC,ABC,ZDV,ロピナビル・リトナビル合剤(LPV/r)による治療に変更したところ,VLは速やかに検出限界以下となり,その後も大きな有害事象なく経過した.
本症例では既存のガイドラインを参考に,他施設・他診療科と連携しながら薬剤及びその用量用法を決定し,重篤な有害事象なく管理することができた.また,抗HIV薬の投薬アドヒアランス向上のために行った胃瘻造設に関して,過去の報告例を参考に,その利点や問題点を考察した.
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【症例報告】
■題名
皮膚生検と腱鞘内液の細胞診が診断の契機となったBlau症候群
■著者
名古屋第二赤十字病院小児科 近藤 康宏 神田 康司 石井 睦夫
■キーワード
Blau症候群, NOD2遺伝子, 細胞診
■要旨
4歳男児,3歳頃より腹部,大腿部に散在する皮下結節を主訴に皮膚科を受診した.抗菌薬の内服とは無関係に軽快と増悪を繰り返すため皮膚生検を施行,病理組織診で類上皮肉芽腫を認めたため,全身疾患の可能性を考慮して小児科に診察依頼となった.受診時は皮下結節に加え,両側の手背,足背に自覚症状のない囊腫状の腫脹を認めていたが,皮下結節と囊腫状腫脹を一疾患として捉えていなかった.超音波検査で手背の囊腫状腫脹は伸筋腱腱鞘内に液体貯留を認め,整形外科にて穿刺細胞診を施行,顆粒球の集簇を認め,その時点で自己炎症性疾患を強く疑うことが可能となった.Blau症候群を疑い,NOD2遺伝子を検査し,p.Met513Thr変異が確認された.本症例は滑膜囊腫の細胞診を施行したことで皮下結節と一元的な病態と考えることが可能となり診断に至った.本疾患は皮疹だけで見逃されることも多く,早期診断が患者QOLの向上につながるため,両側手背足背の囊腫状腫脹を本症に特徴的な所見として心得えておくべきである.
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【論策】
■題名
新生児科医師の勤務状況と働き方改革の観点から考察した医師供給に関する調査
■著者
日本新生児成育医学会診療委員会1),青森県立中央病院成育科2),東邦大学医療センター大森病院新生児科3) 網塚 貴介1)2) 与田 仁志1)3)
■キーワード
働き方改革, 新生児科医, 勤務状況, 時間外労働時間
■要旨
「医師の働き方改革に関する検討会」において,勤務医の時間外労働時間の上限に関する検討が行われているが,新生児医療に携わる医師の働き方の現状に関しては十分なデータが示されているとは言えない状況にある.そこで,現時点で直近の全国調査であり2017年に実施された「新生児科医師の勤務状況と医師育成・供給に関するアンケート調査」で得られた結果を医師の働き方改革の枠組みに沿って再検討することにより,医師の時間外労働時間の上限が定められた場合に必要な医師数算出を試みた.
働き方改革関連法案により明記された年間総時間外勤務上限を960時間(月80時間)とした場合の不足医師数を試算したところ,月80時間の時間外勤務が可能な医師数が全国で420.2人分不足していた.一方,当直をしていないもしくは時間外勤務が月80時間未満の医師が全体で31.4%を占めており,必ずしも時間外勤務上限まで働ける医師ばかりではない.このことを考慮し,時間外勤務月80時間未満医師比率で補正すると医師数は612.6人分不足しており,現在の医師数に加えて75.4%の増員が必要であると考えられた.
今後,働き方改革の進行に伴う混乱を避けるためには施設集約化や新生児医療に関わる医師の実数を増やすための具体的な方策を平行して遅滞なく進めることが必要と考えられる.
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