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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:20.10.5)
第124巻 第9号/令和2年9月1日
Vol.124, No.9, September 2020
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日本国際小児保健学会推薦総説 |
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日本の小児医療をグローバルに活かす:世界に広がり変貌する母子健康手帳
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中村 安秀 1351 |
総 説 |
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堀越 裕歩,他 1361 |
原 著 |
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藤野 真帆,他 1374 |
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虫本 雄一,他 1380 |
症例報告 |
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荒河 純子,他 1385 |
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山本 薫,他 1391 |
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蟹江 信宏,他 1397 |
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塚田 洋樹,他 1403 |
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高橋 駿,他 1409 |
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谷本 綾子,他 1415 |
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地方会抄録(大分・東京・福井・静岡・福島・香川・福岡・岩手・北海道)
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1421 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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1455 |
日本小児科学会社会保険委員会報告 |
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1458 |
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1465 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2020年62巻8号目次
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1469 |
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1472 |
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1473 |
【総説】
■題名
アフリカにおけるポリオウイルス流行の終息と根絶に向けて
■著者
世界保健機関ナイジェリア事務所1),日本医療政策機構2),国立国際医療研究センター国立看護大学校3) 堀越 裕歩1) 徳本 惇奈1) 高松 優光1)2) 沖津 麻依1) 須藤 恭子1)3)
■キーワード
ポリオウイルス, 急性弛緩性麻痺, 経口生ポリオウイルスワクチン, 不活化ポリオウイルスワクチン, ワクチン由来株
■要旨
ポリオウイルスは,感染で麻痺による障害を生じさせることが問題である.予防には不活化ワクチンと経口生ワクチンの接種が有効である.1988年,ワクチンが普及していない開発途上国を中心に35万人のポリオウイルス性麻痺の患者がいたとされる.世界保健総会で世界ポリオウイルス根絶計画が採択,導入されたことで,多くの地域や国で野生株のポリオウイルス流行の終息に成功した.基本戦略は,定期接種の強化,一斉接種,残された集団に行うMop-up接種,サーベイランスの強化の4つである.1990年代には,ほとんどのアフリカ諸国でも流行終息が成し遂げられたが,2001年以降,蔓延国であるナイジェリアから周辺諸国へ野生株伝播による再燃がみられた.全ての地域でワクチン接種を行う計画が新たに見直されて,2015年には世界保健機関によってアフリカ大陸最後のナイジェリアでも野生株ポリオウイルス流行終息が宣言された.しかし,ナイジェリア国内の紛争による行政機能の停止により,野生株ポリオウイルス流行が再燃し,終息宣言は取り消された.公衆衛生の努力によって,2019年,再びアフリカで野生株の流行終息の定義を満たした.一方でワクチン由来株の流行は終息しておらず,ワクチン由来株2型が拡散している.引き続き質の高いワクチン接種プログラムおよびサーベイランスの継続が必要である.
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【原著】
■題名
NICUにおける抗菌薬適正使用プログラム
■著者
奈良県総合医療センター新生児集中治療部 藤野 真帆 北野 泰斗 青木 宏諭 新居 育世 安原 肇 恵美須 礼子 扇谷 綾子 箕輪 秀樹
■キーワード
抗菌薬適正使用プログラム, 新生児, 抗菌薬使用日数, NICU, プロトコール
■要旨
【緒言】抗菌薬適正使用プログラム(以下ASP)は,適切な抗菌薬を選択することによって感染症の治療を最適化し,副作用を最小とすることを目指すものである.小児感染症専門医のいないNICUにおいてASPを導入し,その効果を検討した.
【方法】2017年9月からASPを導入した.ASPは(1)プロトコールを用いた抗菌薬投与開始基準および48時間以上の抗菌薬加療を行う基準,(2)休日の血液培養結果の返却依頼制度,(3)翌日の抗菌薬オーダーの中止を定めた.ASP導入前後での1,000入院日あたりの抗菌薬使用日数(DOT)について分割時系列解析による比較を行った.
【結果】Pre-ASP群は913例,Post-ASP群は405例であり,平均在胎週数および出生体重はPre-ASP群が36.1±3.2週,2,374±702 g,Post-ASP群が36.4±2.9週,2,417±663 gであった.Pre-ASP期間中はDOT/1,000入院日に変化はなく,ASP導入によって116.67DOT/1,000入院日の減少(p=0.002)を認めた.その後のPost-ASP期間中もその傾向に変化は見られなかった.死亡率および治療失敗率の有意な増加はみられなかった.
【結論】小児感染症専門医不在のNICUにおいて,ASP導入により安全かつ有意に抗菌薬使用日数を減少させることができた.
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【原著】
■題名
低身長を主訴に受診した小児の5年後の現状
■著者
福岡市立病院機構福岡市立こども病院内分泌・代謝科 虫本 雄一 鈴木 秀一 河野 敦子 都 研一
■キーワード
低身長, 成長ホルモン分泌不全性低身長症, SGA性低身長症
■要旨
2008年10月以降の3年間に,低身長を主訴に受診した小児548名(男児263名,女児285名)を対象に,5年後の現状と診断を検討した.初診時平均(±標準偏差)年齢は,男児7.1±4.3歳,女児5.1±4.0歳,初診時平均(±標準偏差)身長SDスコアは,男児−2.32±0.60,女児−2.41±0.69であり,−2.0 SD以下の低身長者は417名であった.548名の初診5年後のフォロー状況は,診断確定126名,経過中に精査の必要なし,または精査の希望がなくフォロー終了204名,未精査フォロー中34名,診断確定前に転院54名,フォローが途切れたもの130名であった.診断が確定した126名の内訳は,成長ホルモン分泌不全性低身長症26名,SGA性低身長症13名,甲状腺機能低下症6名,Turner症候群6名,Prader-Willi症候群1名,その他の染色体異常・症候群等13名,非内分泌性低身長症61名であった.成長ホルモン治療の対象疾患が46名(548名の8.4%)であり,内分泌的治療の対象疾患は52名(548名の9.5%)であった.
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【症例報告】
■題名
川崎病冠動脈狭窄の急性閉塞に対する血行再建術
■著者
京都大学医学部附属病院小児科1),同 心臓血管外科2) 荒河 純子1) 馬場 志郎1) 赤木 健太郎1) 松田 浩一1) 吉永 大介1) 平田 拓也1) 山崎 和裕2) 滝田 順子1)
■キーワード
川崎病, 冠動脈瘤, 外科治療, 狭心症
■要旨
川崎病冠動脈合併症は0.2%に巨大瘤が残存し,血栓・石灰化を伴い急性閉塞のリスクとなる.急性閉塞に対する治療は内科的薬物治療,カテーテル治療,外科的治療が病態によって選択される.今回我々は,冠動脈瘤前後狭窄による不安定狭心症に対して解剖学的再建術を選択し良好な開通を得られた症例を経験したのでここに報告する.
症例は34歳男性.10歳時の川崎病罹患で右冠動脈中間部に8 mmの冠動脈瘤を生じた.冠動脈瘤前後に狭窄を有し,アスピリン内服を行っていたが,罹患16年後の心臓カテーテル検査で狭窄の進行を認め,ワーファリン・チクロピジンを追加内服とした.罹患24年後,マスター二段階試験で主にV5〜6にST低下を認め近日中に精査予定としたが,精査前に胸痛を主訴に救急外来受診.緊急カテーテル検査で同狭窄部の高度狭窄を認め不安定狭心症と診断した.若年齢であることと狭窄の病変部位から,静脈グラフトを使用したグラフト置換術を選択した.現在術後5年となるがアスピリン内服のみで良好な開通が得られており,同冠動脈再建術は川崎病冠動脈瘤の急性閉塞に対する術式選択肢の一つとして有用と考えられた.
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【症例報告】
■題名
小児血液・腫瘍性疾患の治療中にPRESによる非けいれん性てんかん重積を認めた2例
■著者
聖路加国際病院小児科1),同 放射線科2),北海道大学大学院医学研究院小児科学教室3) 山本 薫1) 代田 惇朗1) 長谷川 大輔1) 木村 俊介1) 吉本 優里1) 平林 真介1)3) 細谷 要介1) 野崎 太希2) 横山 美奈1) 真部 淳1)3) 荻原 正明1)
■キーワード
可逆性後部白質脳症, 非けいれん性てんかん重積, 小児がん, 長時間脳波記録
■要旨
血液・腫瘍性疾患治療中に可逆性後部白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome:PRES)を発症し,非けいれん性てんかん重積状態(non convulsive status epilepticus:NCSE)を認めた2例を報告する.【症例1】4歳女児.急性リンパ性白血病に対する寛解導入療法中に意識障害と右下肢の間代発作を認めた.その後も意識障害が持続し,3日後の脳波検査でNCSEと診断した.頭部MRI検査で両側頭頂,後頭葉の皮質下・深部白質にT2高信号を認めPRESと診断した.NCSEのコントロールに苦慮し,白血病の治療終了後も後遺症として焦点てんかんを残した.【症例2】7歳女児.全身転移を有する治療抵抗性横紋筋肉腫に対しパゾパニブを投与中に左上肢の間代発作を認めた.頭部MRI検査で両側後頭部と左前頭部の皮質下白質にT2高信号を認めPRESと診断した.その後,意識障害が遷延し脳波検査でNCSEと診断した.抗てんかん薬の投与でNCSEは消失し,意識状態は改善した.【考察】PRESは予後良好とみなされることが多いが,時にNCSEを呈し,治療の遅れにより神経学的後遺症を残す可能性がある.意識障害が遷延する場合は長時間の脳波検査を行うことでNCSEを早期発見し,積極的な抗てんかん薬による治療を行うことが重要である.
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【症例報告】
■題名
腸閉塞を契機に発見された小児がんの5例
■著者
多摩北部医療センター1),東京都立小児総合医療センター血液・腫瘍科2) 蟹江 信宏1) 小保内 俊雅1) 松井 基浩2) 斎藤 雄弥2) 湯坐 有希2)
■キーワード
腸閉塞, 小児がん, 大腸がん, Burkittリンパ腫
■要旨
小児での腸閉塞は背景に器質的疾患があることが多い.今回,腸閉塞を契機に発見された小児がん患者5例を経験した.Burkittリンパ腫が3例,大腸がんが2例であった.4例は10歳代に発症し,いずれの症例も腹痛や嘔吐の前駆症状出現から診断までに数週間から数か月を要し,緩徐な発症様式であった.学童期以降の発症や緩徐な発症様式をとる腸閉塞では悪性リンパ腫等,悪性腫瘍を念頭に診療にあたる必要性がある.
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【症例報告】
■題名
有熱期に血清補体価低下を伴う紫斑を認めたヒトパルボウイルスB19感染症
■著者
星総合病院小児科1),福島県立医科大学小児科学講座2) 塚田 洋樹1) 佐久間 弘子1) 鈴木 奈緒子1) 増山 郁1) 加藤 一夫1) 佐藤 晶論2) 細矢 光亮2)
■キーワード
ヒトパルボウイルスB19, 紫斑, 血管内皮細胞障害, 血清補体価
■要旨
今回,我々はヒトパルボウイルスB19(以下PVB19)感染症の有熱期に血清補体価低下を伴う紫斑を認めた2例を経験した.症例1は11歳の男児で,7日間続く発熱と紫斑を主訴に当院に入院した.血液検査で白血球数減少,血小板数減少,網状赤血球数減少,血清補体価低下を認めた.入院時の全血,血清,咽頭ぬぐい液および肛門ぬぐい液からPVB19 DNAが検出された.解熱とともに紫斑は消退傾向となった.症例2は8歳の男児で,4日間続く発熱と紫斑を主訴に当院に入院した.血液検査で白血球数減少,網状赤血球数減少,血清補体価低下を認めた.入院時の全血,血清,咽頭ぬぐい液および肛門ぬぐい液からPVB19 DNAが検出された.自験例ではDNA血症を伴う有熱期に紫斑が出現しており,また2例ともに血清補体価低下がみられたことから,PVB19感染による紫斑は血管内皮細胞障害や免疫複合体を介した血管炎によるものと考えられる.小児期で紫斑を呈する代表的な疾患として,特発性血小板減少性紫斑病やIgA血管炎などが挙げられるが,前者は末梢血中の血小板数が減少すること,後者は血清補体価低下がみられないことなどから,PVB19感染による紫斑とは鑑別が可能であると考えられる.有熱期に著明な血小板数減少がなく,網状赤血球数減少や血清補体価低下を伴う紫斑がみられた場合には,PVB19感染症を念頭におく必要がある.
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【症例報告】
■題名
Herbstの三徵を呈した食道裂孔ヘルニアに伴う逆流性食道炎
■著者
群馬大学小児科1),同 小児外科2),伊勢崎市民病院小児科3),日高病院歯科口腔外科4) 高橋 駿1) 小針 靖子3) 五十嵐 淑子1) 石毛 崇1) 西澤 拓哉1) 龍城 真衣子1) 鈴木 信2) 工藤 紗也子4) 滝沢 琢己1) 荒川 浩一1)
■キーワード
胃食道逆流症, 鉄欠乏性貧血, 蛋白漏出性胃腸症, ばち指, Herbstの三徵
■要旨
3歳男児が咳嗽と発熱を主訴に受診し,鉄欠乏性貧血,蛋白漏出性胃腸症およびばち指を呈していた.本症例は反復性嘔吐や胸焼け等の消化管症状が目立たず,Sandifer症候群を疑う姿勢異常も認めなかったことから,GERDの診断に難渋した.
年長児のGERDは,嘔吐や胸焼け等の主要症状の他に,呼吸器症状や体重減少など多様な食道外症状を示す.そのうち,貧血・蛋白漏出性胃腸症・ばち指からなるHerbstの三徵については,本邦における報告例がない.今回,Herbstの三徵を伴う小児発症GERDについて,海外文献の網羅的検討を行った.GERDは必ずしも胸焼けや嘔吐などの典型的な症状を伴わないことから,診断に難渋する例が存在する.幼児期および学童期のGERDの消化管外症状として,Sandifer症候群に加えてHerbstの三徵を念頭に診療を行うことが,的確な診断をするために重要であることが示唆された.
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【症例報告】
■題名
腹部超音波検査が診断に有用であった前皮神経絞扼症候群の2小児例
■著者
広島市立舟入市民病院小児科1),四国こどもとおとなの医療センター小児外科2) 谷本 綾子1) 浅野 孝基1) 大野 綾香1) 北村 佳子1) 二神 良治1) 佐藤 友紀1) 吉野 修司1) 藤井 裕士1) 下薗 広行1) 松原 啓太1) 浅井 武2) 岡野 里香1)
■キーワード
腹痛, 診断, Carnett徴候, Anterior cutaneous nerve entrapment syndrome, 腹部超音波検査
■要旨
前皮神経絞扼症候群(Anterior cutaneous nerve entrapment syndrome:ACNES)は腹壁由来の腹痛をきたす疾患として近年欧米諸国を中心に認知度が高まっているが,本邦では依然として認知度は低い.今回我々はACNESの小児例を2例報告する.症例1:14歳男児.8か月ほど前から右側腹部痛を繰り返していた.右下腹部に圧痛を認め,当初は虫垂炎を疑ったが,各種検査では異常を認めなかった.診断に難渋したが,Carnett徴候が陽性であったことからACNESを疑った.トリガーポイント注射を行ったところ,疼痛の改善を認め診断に至った.その後も腹痛が遷延したため神経切除術を行った.症例2:11歳男児.6か月ほど前から右上〜下腹部痛を繰り返していた.虫垂炎を疑ったが,各種検査で異常を認めなかった.Carnett徴候陽性であり,トリガーポイント注射で疼痛改善を認めたことからACNESと診断した.両症例ともにエコーで圧痛部位と一致した高輝度領域の存在を認めており,エコー所見はACNES診断の一助となると考えた.現在の小児科臨床ではACNESの潜在的未診断例は多く存在すると考えられる.ACNESは治療可能な疾患であり,早期診断は患者予後にもつながる.我々小児科医にとって腹痛の要因の一つである本疾患も念頭に置いて診療に当たることは重要である.
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