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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:20.8.18)
第124巻 第8号/令和2年8月1日
Vol.124, No.8, August 2020
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日本小児心身医学会推薦総説 |
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小児期発症慢性疾患患者の成人科移行における最近の話題
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石崎 優子 1201 |
原 著 |
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大竹 正悟,他 1208 |
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冨本 和彦 1214 |
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松原 優里,他 1224 |
症例報告 |
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衛藤 恵理子,他 1234 |
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林 賢,他 1239 |
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岡田 健太朗,他 1246 |
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森脇 千咲,他 1251 |
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石井 茂樹,他 1257 |
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坂東 賢二,他 1263 |
論 策 |
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南條 浩輝,他 1270 |
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地方会抄録(鹿児島・中国四国・宮城・岡山・群馬・北海道・山口・広島)
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1274 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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1320 |
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No. 91 ランニングマシンに巻き込まれて受傷した前腕擦過傷
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1326 |
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1328 |
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1331 |
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1335 |
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日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2020年62巻7号目次
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1348 |
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1350 |
【原著】
■題名
夜間小児急病センターにおける抗菌薬適正使用の現状
■著者
松戸市立総合医療センター小児医療センター小児科1),兵庫県立こども病院感染症内科2),国立国際医療研究センター病院国立感染症センターAMR臨床リファレンスセンター3),たつみこどもクリニック4) 大竹 正悟1)2) 日馬 由貴3) 岡田 広1) 辰巳 憲4) 森 雅人1) 平本 龍吾1) 笠井 正志2)
■キーワード
抗菌薬適正使用, 休日・夜間急患センター, A群溶連菌感染症, 急性気道感染症, 皮膚軟部組織感染症
■要旨
休日・夜間急患センターは抗菌薬が多く処方される傾向にあり,抗菌薬適正使用の重要な対象である.我々は松戸市夜間小児急病センターにおける抗菌薬適正使用の推進のため,抗菌薬処方動向を評価し適正化が行われているかを検証した.2015年から2018年に来院した15歳以下の小児について,100受診患者数に対する抗菌薬処方数,抗菌薬種類別の処方割合を調査し,2018年の1年間は各種抗菌薬を処方した医師の専門分野,患者の傷病名も調査した.当日に他院へ紹介した症例は除外した.2015年から2018年にかけて100受診患者数に対する全抗菌薬処方数は8.03から5.08へ減少し,抗菌薬種類別の処方割合はアモキシシリンが56.8%から73.7%に増加した.アモキシシリンは非小児科医よりも小児科医で多く処方され,セフジニルは非小児科医で多く処方された.最も抗菌薬が処方された傷病名はA群溶連菌感染症であり,その96.9%にアモキシシリンが処方された.当急病センターは既報と比較して内服抗菌薬の適正化が行われていたが,その要因として採用抗菌薬を限定している点,抗菌薬適正使用を推進している松戸市立総合医療センターが隣接している点が考えられた.本検討から休日・夜間急患センターで適正使用の推進につながる可能性がある要因が示唆された.
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【原著】
■題名
プライマリケアにおける小児慢性機能性便秘症の治療
■著者
とみもと小児科クリニック 冨本 和彦
■キーワード
小児慢性便秘, 治癒率, 難治性便秘, 排便トレーニング, 直腸拡大
■要旨
【背景】小児期慢性機能性便秘症の治癒率は12か月後で36〜59%とされるが,本邦プライマリケアでの報告はなく,維持療法のコントロール目標も示されてはいない.
【目的と方法】当院で管理した小児期慢性機能性便秘症患児において,その治癒率と治療期間に関わる因子を検討し,さらに緩下剤を中止して治癒した群と再燃した群での中止試行4週間前の状態を比較し,維持療法のコントロール目標を明らかにする.
【結果】患児225例の12か月後の治癒率は25.2%であったが,初診時4歳以上の群では49.2%であった.治療期間には初診時年齢のみが関連していた.治癒群133例と再燃群106例との比較で,治癒には排便日数と便性状,腹痛の有無が関連したが,過去の最大直腸径で示される直腸拡大は治癒に関連しなかった.排便日数の確保には排便トレーニングの確立が関連していた.
【考察および結論】
本邦の小児期慢性機能性便秘症の短期的予後は,排便トレーニングが可能な年齢層において治癒率が高かった.また,維持療法では,繰り返す排便時痛・排便忌避が難治化につながることを考慮し,緩下剤治療によってtype5程度に便を軟化させ,可能な児では排便トレーニングを併用して排便日数を確保することが重要であった.軟便でも腹痛を訴える児は比較的難治であり,便秘型過敏性腸症の辺縁にある臨床病型と考えられた.
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【原著】
■題名
自治体の調査からみた在宅医療的ケア児の生活状況と課題
■著者
自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門 松原 優里 青山 泰子 小佐見 光樹 阿江 竜介 牧野 伸子 石川 鎮清 中村 好一
■キーワード
医療的ケア, 重症心身障害児, 在宅ケア
■要旨
近年,医療的ケア児は増加し,在宅での現状やニーズは地域毎に異なる.本研究では,栃木県の調査データを二次利用し,今後の支援策構築のため分析した.
栃木県を実施主体とし質問票を自宅へ郵送した.調査対象は,栃木県在住の20歳未満の者で(1)小児慢性特定疾病医療費受給者,(2)日常生活用具支給や障害福祉サービス支給状況から市町が把握した者とした.これ以外の者は,(3)かかりつけ医療機関を通じ質問票を配布した.2017年5月〜6月末の期間に,対象者の運動・知的機能及び生活状況と介護者の健康状態を調査し,医療的ケアの種類により課題やニーズに差がみられるかを解析した.
回収率は54.3%で,医療的ケア児は県内に約300人,20歳未満人口1,000人対0.91みられた.6歳未満で50%を占め,寝たきりや座位の児が50%,歩行や走ることが可能な者が31%であった.サービスでは,人工呼吸器使用者で「送迎がない」,「利用できるサービスの量が不足」,「費用負担が大きい」などの項目が有意に高かった.また,介護者の睡眠5時間未満の者は,経管栄養がある場合に有意に高かった(睡眠5時間未満73.7%,睡眠5時間以上44.7%,オッズ比2.51[95%信頼区間]:1.08〜5.86).
栃木県での在宅医療的ケア児の割合は全国と比較しやや多い.運動・知的機能には個人差があり,個々に応じたサービスの提供が必要である.
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【症例報告】
■題名
無呼吸発作,低血糖で発症し高アンモニア血症を合併した先天性複合型下垂体機能低下症
■著者
大分大学小児科学講座 衛藤 恵理子 糸永 知代 松田 史佳 関口 和人 前田 美和子 前田 知己 井原 健二
■キーワード
先天性複合型下垂体機能低下症, 高アンモニア血症, 低血糖, 新生児, 小陰茎
■要旨
新生児期早期の急性循環不全と呼吸不全を伴う高アンモニア血症は,尿素サイクル異常症や有機酸代謝異常症が強く疑われるため,持続血液ろ過透析を中心とした急性血液浄化療法導入を念頭においた集中治療が必要である.一方,その鑑別診断に先天性複合型下垂体機能低下症が報告されているが,発生頻度が10万出生に1人の稀少疾患であること,非特異的な症状と臨床像の個体差が大きいことから早期診断は必ずしも容易ではない.症例は,生後8時間で無呼吸,低血糖を認めた男児.カテコラミン不応性の低血圧と低血糖,高アンモニア血症(NH3 183 μmol/L)を認め,NICU管理下で先天代謝異常症を念頭においた血液浄化療法を考慮されたが,小陰茎等の臨床所見から複合型下垂体機能低下症を疑い内分泌学検査を同時に進めることにより生後20時間で先天性複合型下垂体機能低下症の確定診断に至った.その後各種ホルモン補充療法により,呼吸循環不全は速やかに改善した.日齢32の頭部MRIで下垂体低形成と後葉T1高信号の消失を認めた.新生児期早期に発症,診断される複合型下垂体機能低下症では,軽度のアンモニア高値を示すことに注意が必要である.
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【症例報告】
■題名
中枢神経疾患を契機に発症した小児たこつぼ心筋症
■著者
兵庫県立こども病院循環器内科 林 賢 田中 敏克 三木 康暢
■キーワード
たこつぼ心筋症, Stress-induced cardiomyopathy, 神経疾患, 肺水腫
■要旨
たこつぼ心筋症は閉経後の高齢女性に精神的ストレスが原因で発症することが多い.小児においてもたこつぼ心筋症の報告は散見されるが,神経疾患を契機とするのはまれである.今回,2017年4月から2019年3月の間に兵庫県立こども病院小児集中治療科で管理を行った344症例の中で,小児で神経疾患を契機にたこつぼ心筋症と診断され治療を要した3症例を経験した.各々水頭症,二相性脳症,硬膜下血腫といった神経疾患が契機で,3症例ともに心尖部優位の収縮低下を来し,内2例で肺水腫を伴っていた.原疾患の治療とともに脳灌流圧維持の目的で循環サポートを行い,1週間で循環作動薬を中止する事ができた.小児の日常診療において神経疾患を経験することが多いが,循環障害を伴いたこつぼ心筋症の可能性が高いと考えた場合は,直ちに侵襲的な検査は行わず,また循環作動薬の選択や開始の際に心機能が逆に悪化しないか注意が必要である.
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【症例報告】
■題名
5年の経過で再発したGQ1b抗体陽性Fisher症候群
■著者
熊本赤十字病院小児科1),同 神経内科2) 岡田 健太朗1) 武藤 雄一郎1) 和田 邦泰2) 平井 克樹1) 右田 昌宏1)
■キーワード
Fisher症候群, 再発, 小児
■要旨
Fisher症候群はGuillain-Barré症候群の亜型とされる疾患で急性に外眼筋麻痺,運動失調,深部腱反射消失を呈する.多くは単相性の経過をたどり,再発に関する報告は稀である.今回,我々は9歳時にFisher症候群を発症した後,5年後に再発した男児の症例を経験した.初発時と同様に再発時も先行感染の後に外眼筋麻痺,運動失調,深部腱反射消失を認めたが,再発時は外眼筋麻痺が顕著で眼球運動が全くなく,運動失調が強く立位もとれず体動困難で,初発時と比較し症状は重篤であった.初発時,再発時ともに血清抗GQ1b抗体が陽性であり,免疫グロブリン大量療法(Intravenous immunoglobulin:IVIG)で症状は改善傾向を示した.小児期においてもFisher症候群を再発し,再発時には症状が重篤になる可能性がある.
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【症例報告】
■題名
バイパス療法中にネフローゼ症候群を発症したインヒビター陽性血友病B
■著者
京都第一赤十字病院小児科1),京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学2),奈良県立医科大学小児科3) 森脇 千咲1) 奥村 保子1) 宮本 洋輔1) 林 耕平1) 今村 俊彦2) 野上 恵嗣3) 木崎 善郎1)
■キーワード
血友病B, インヒビター, バイパス療法, 活性化プロトロンビン複合体製剤, ネフローゼ症候群
■要旨
血友病におけるインヒビターの発生は,現在の血友病治療において重大な問題となっている.特にインヒビター陽性血友病B患者の治療については,いくつかの問題点が指摘されているが,ネフローゼ症候群の発症もその1つである.症例は,重症血友病Bの2歳男児で,9か月時より第IX因子(FIX)製剤の定期補充を開始したところ,インヒビター陽性となり,以降遺伝子組み換え活性型凝固第VII因子(recombinant activated factor VII:rFVIIa)製剤の出血時補充で止血管理を行っていた.1歳5か月時に左側頭葉出血を発症したため,以後は止血療法として血漿由来活性型プロトロンビン複合体製剤(Activated prothrombin complex concentrate:aPCC)の定期輸注療法を開始したが,10か月後の2歳3か月時にネフローゼ症候群を発症した.1か月間のステロイド治療では寛解に至らず,ステロイドパルス療法施行後に寛解した.これまで,免疫寛容導入療法中にネフローゼ症候群を来した症例は数例報告があるが,aPCC治療中のネフローゼ症候群の報告はない.aPCCによるバイパス療法中でもネフローゼ症候群を発症する可能性はあり,定期的な尿検査を行い,蛋白尿の監視をするべきである.
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【症例報告】
■題名
初回抗菌薬治療後早期に再感染もしくは再燃したと考えられる百日咳の乳児例
■著者
宮崎県立宮崎病院小児科1),刈谷豊田総合病院小児科2),福岡看護大学基礎・基礎看護部門基礎・専門基礎分野3) 石井 茂樹1) 横山 亮平1) 高村 一成1) 日高 倫子1) 山村 佳子1) 大平 智子1) 下之段 秀美1) 中谷 圭吾1) 三原 由佳2) 岡田 賢司3)
■キーワード
百日咳, 再感染, 家庭内感染, 無細胞精製百日咳ワクチン, 曝露後予防
■要旨
百日咳でクラリスロマイシン(CAM)を7日間内服した約1か月後に再感染もしくは再燃したと考えられる百日咳の乳児例を経験した.症例は日齢59の男児.本児発症の約2週間前に同居の7歳叔母が百日咳と遺伝子診断され,CAM内服治療を受けていた.本児は入院約1週間前から咳嗽が出現し,徐々に連続性咳嗽や吸気性笛声など百日咳特有の症状を呈し当院へ紹介された.遺伝子検査で百日咳と確定診断しCAM7日間内服で治療した.症状は軽快していたが,治療終了約3週間後から百日咳特有の咳症状が再燃した.再検査でリンパ球優位の白血球増多,培養で百日咳菌が分離され,百日咳再感染もしくは再燃と診断した.CAM内服で治療し,重症化することなく軽快した.後の問診で濃厚接触者である家族らへの曝露後予防(antimicrobial postexposure prophylaxis,PEP)が十分でなかったことが判明した.
米国疾病管理予防センターは百日咳を診断した場合,PEPとして濃厚接触者に対する抗菌薬投与を提案しているが,わが国での実態は不明である.PEPに関しては有効性を疑問視する意見や保険上の課題はあるが,他に有効な予防対策が乏しい現状と,早期乳児感染とのリスクを鑑みた場合,国内でも実施すべき対策と考えられる.
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【症例報告】
■題名
肺胞出血で発症し11か月後に自己抗体が陽性化した抗糸球体基底膜抗体病
■著者
和泉市立総合医療センター小児科 坂東 賢二 村上 城子 澤田 智
■キーワード
抗糸球体基底膜抗体病, 肺胞出血, 特発性肺血鉄症, 抗糸球体基底膜抗体, seroconversion
■要旨
抗糸球体基底膜抗体病(抗GBM病)は糸球体基底膜に対する自己抗体(抗GBM抗体)により惹起される稀な免疫複合体型小型血管炎である.急速進行性糸球体腎炎および肺胞出血をきたしうるが,稀ながら肺に限局する病型(肺限局型抗GBM病)が存在する.診断には酵素結合免疫吸着法(ELISA)などの血清学的検査が感度も高く有用であるが,抗GBM病のなかには血中に抗GBM抗体が検出されず腎生検で診断される症例も存在する.今回,我々は当初,肺胞出血で発症し,後に抗GBM抗体の陽性化により抗GBM病と診断できた1例を経験した.症例は11歳女児,喀血,貧血で発症し,発症時の抗GBM抗体は陰性であった.特発性肺ヘモジデローシス(IPH)と診断し,ステロイドによる治療を開始したが,再燃を繰り返した.発症11か月後の血中の抗GBM抗体が13.9 U/mLと陽性化したため,抗GBM病と診断した.アザチオプリン追加後は増悪なく,発症30か月後の時点で吸入ステロイドのみで寛解を維持している.経過を通じて腎機能(血清クレアチニン,検尿)は正常であった.肺限局型抗GBM病では病初期には抗GBM抗体は検出されないことが多いため,肺胞出血を繰り返すIPHでは抗GBM抗体を複数回検査する必要があると考えられた.
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【論策】
■題名
障害児・医療的ケア児の同胞児の予防接種をめぐる諸問題
■著者
医療法人輝優会かがやきクリニック1),おおうえこどもクリニック2),南大阪小児リハビリテーション病院3) 南條 浩輝1) 大植 慎也2) 和田 浩3) 船戸 正久3)
■キーワード
小児在宅医療, 同胞児, 予防接種, 医療的ケア児
■要旨
小児在宅医療において,定期接種を含めた予防接種を訪問診療時に行うことは大きなニーズとなっている.訪問診療の対象となる障害児や医療的ケア児本人のみではなく,その同胞児においても,予防接種の必要性は高いものである.両親はケアに追われ,同胞児を予防接種のために計画的に医療機関に連れて行くことが困難なため,訪問診療時に同胞児にも予防接種を行ってほしいという要望は多い.しかし,「定期接種実施要領」の内容のとらえ方や,定期接種の自治体間での相互乗り入れの進んでいない地域の委託契約の問題などにより,同胞児に対して自宅で定期接種を行うことが認められない自治体があり,それによって推奨されるスケジュール通りに定期接種を受けられない同胞児が少なからず存在する.この問題の解決は,定期接種に関わる制度の運用の改善によって可能である.同胞児は,訪問診療の対象となる児と同様に通院困難な状況であることについて,広く日本全国の自治体で理解が深まり,現実のニーズに即した対応を行うことにより,予防接種を受けられない子どもを減らすことができると考える.
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