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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:20.6.16)

第124巻 第6号/令和2年6月1日
Vol.124, No.6, June 2020

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原  著
1.

症例対照研究によるロタウイルスワクチンの有効性評価とワクチン導入後の遺伝子型変化

中田 修二,他  955
2.

ポリエチレングリコール製剤で治療した小児慢性便秘症患者へのアンケート

須田 絢子,他  967
3.

重篤小児患者の診療実態と課題

石原 唯史,他  975
症例報告
1.

血糖上昇により相対的チアミン欠乏による乳酸アシドーシスを発症した極低出生体重児

宇根岡 慧,他  982
2.

カテコラミン産生神経芽腫治療中に発症した接合部異所性頻拍

林 勇佑,他  988
3.

出生直後からblepharoclonusを認めた脳幹小脳形成異常

山本 陽子,他  995
4.

骨髄移植後に侵襲性肺炎球菌感染症を発症した若年性骨髄単球性白血病

佐治木 大知,他  1002
5.

T+/low BNKの表現型を呈した非典型的X連鎖性重症複合免疫不全症

江口 勇太,他  1009
6.

初期に潰瘍性大腸炎と診断され,病理組織像の変化により好酸球性腸炎と診断した2例

浅井 霞,他  1015
論  策

学校検尿での尿糖強陽性緊急受診システムの現状

山本 幸代,他  1022

地方会抄録(兵庫・山梨・甲信)

  1028

訂正

  1053
日本小児医療保健協議会重症心身障害児(者)・在宅医療委員会報告

学校における医療行為の判断,解釈についてのQ&A

  1054

日本小児科学会理事会議事要録

  1061

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2020年62巻5号目次

  1065

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 372

  1068


【原著】
■題名
症例対照研究によるロタウイルスワクチンの有効性評価とワクチン導入後の遺伝子型変化
■著者
なかた小児科1),NTT東日本札幌病院小児科2),札幌医科大学医学部小児科3)
中田 修二1)  森 俊彦2)  大野 真由美3)  津川 毅3)

■キーワード
ロタウイルスワクチン, ロタウイルス胃腸炎, 外来受診減少, Test-negative design症例対照研究, 遺伝子型
■要旨
 Test-negative design症例対照研究を用いて小児科外来におけるロタウイルス(RV)ワクチンの有効性を評価するため,2011年10月から2018年9月までの期間,主に5歳未満の急性胃腸炎患者744例を対象としてRV抗原を検出した.RV陽性例はRT-PCR法により遺伝子型を決定した.ワクチンの有効率(VE)は(1-OR [odds ratio])×100%より計算し,ORは年齢,性別,発症月で調整し,統計学的検討はロジスティック回帰分析を用いた.
 744例の中でRVワクチン既接種者は,RV陽性の「症例」248人中の46人(19%),RV陰性の「対照」496人中の231人(47%)であった.外来受診に対するRVワクチンのVEは73%(95% 信頼区間[CI]:61 to 81)で,1価RVワクチンが69%(95% CI:50 to 81),5価RVワクチンが78%(95% CI:64 to 87)であった.2歳まで有効性がみられ,重症化予防効果も認められた.遺伝子型別に見ると,G1P[8]とG9P[8]に対して有効性が見られたが,non-G1P[8]に対してはワクチンにより差がある可能性が示唆された.最後の2シーズンは稀な遺伝子型(ウマ様G3P[8],G8P[8],G12P[8])が流行した.ワクチン接種率が高まるとVEの判定に影響する可能性が示唆された.


【原著】
■題名
ポリエチレングリコール製剤で治療した小児慢性便秘症患者へのアンケート
■著者
信州上田医療センター1),信州大学医学部小児医学教室2)
須田 絢子1)2)  中山 佳子2)  島崎 英1)  丸山 悠太1)2)  清水 純1)  古井 優1)  加藤 沢子2)

■キーワード
小児, 慢性便秘症, ポリエチレングリコール製剤, モビコール配合内用剤, マクロゴール4000
■要旨
 【背景】小児の慢性便秘症の治療として,欧米ではポリエチレングリコール製剤が第一選択薬となっている.本邦では,2018年にマクロゴール4000配合内用剤(PEG3350+E)が2歳以上の慢性便秘症に保険収載された.【対象・方法】2019年3月から7月に信州上田医療センターを受診し,PEG3350+Eを処方された20例の慢性便秘症の患者を対象とした.治療後の全般的な排便状況の改善の有無,満足度,副作用などについて,アンケート調査を用いて検討した.【結果】投与後2週で18例(90.0%),投与後4週で17例(85.0%)からアンケートを回収した.3例は味が許容できない,連日の内服継続が困難で脱落した.4週間投与が可能であった17例全例で,排便状況が改善し,患者と保護者が治療に満足していた.効果発現までの日数は中央値2日であった.排便回数が2日に1回以上の症例は投与前8例であったが,投与後2週で17例(94.4%)となり,投与後4週でも効果は持続していた.また,Bristol便形状スケールのType4〜5は,投与前4例から投与後4週では17例(100%)まで増加した.副作用は投与後2週で下痢を2例(11.1%)に認めたが,PEG3350+Eを減量し継続投与が可能であった.【結論】小児の慢性便秘症に対して,PEG3350+Eは有効で,患者の満足度が高く,忍容性が高いことが示唆された.


【原著】
■題名
重篤小児患者の診療実態と課題
■著者
順天堂大学医学部附属浦安病院こども救急センター1),同 救急診療科2),東京女子医科大学八千代医療センター小児科3),千葉県小児救命集中治療ネットワーク4)
石原 唯史1)2)4)  濱田 洋通3)4)  田中 裕2)

■キーワード
集中治療, 重篤小児患者, 小児救急, 救命救急センター
■要旨
 【背景】千葉県では救命救急センターが中心となって重篤小児患者の治療に関わってきたが,近年PICUが2施設に新設され3施設となった.本研究では千葉県における重篤小児患者の診療実態や課題を検討した.【対象と方法】千葉県重篤小児患者データベースを用いて,15歳未満を対象とし,2017年1月から12月までの一年間を調査期間とした.患者特性,疾患カテゴリー,治療内容,転帰をPICU(3施設)と救命救急センター(7施設)で比較した.【結果】630人が登録され,PIM2による予測死亡率はPICU(1.7%)の方が救命救急センター(0.8%)より高値であったが,死亡率は両者で差がなかった(4%,4%).PICUには呼吸不全・循環不全(57%,22%)の入室が多く,救命救急センターには神経学的異常(54%)の入室が多かった.【結語】呼吸・循環不全のより重症例がPICUへ集約化されつつある傾向を把握できた.重症度の違いがある状況で,PICUと救命救急センターで生命予後に有意差はなかった.医療資源の乏しい地域および,救命救急センターとの更なる連携の強化が今後の課題である.


【症例報告】
■題名
血糖上昇により相対的チアミン欠乏による乳酸アシドーシスを発症した極低出生体重児
■著者
宮城県立こども病院新生児科
宇根岡 慧  内田 俊彦  名和 達郎  三浦 雄一郎  渡邉 達也

■キーワード
チアミン欠乏, 乳酸アシドーシス, Refeeding syndrome, 早産児, 極低出生体重児
■要旨
 チアミン(ビタミンB1)は,解糖系で重要な補酵素の一つであり,不足した場合に脚気等を起こす.一方,refeeding syndrome(RS)は低栄養の状態で経静脈栄養を開始する際にみられ,チアミン欠乏の一因となる.今回チアミン投与下にも関わらず,出生早期にチアミン欠乏による乳酸アシドーシスを発症した極低出生体重児を経験した.症例は在胎31週3日,体重1,113 gの男児.胎児発育不全のため緊急帝王切開で出生した.生後早期から中心静脈栄養と経腸栄養を開始した.生後23時間で乳酸アシドーシスが進行したため,チアミンを大量投与したところ速やかに改善した.また,乳酸アシドーシスのほかに,高血糖,低リン血症および低マグネシウム血症を合併しており,RSの病態と判断した.生後早期から中心静脈栄養にチアミン0.13 mg/kgを添加しており,チアミン大量投与直前の血中総チアミン濃度は基準値以上であったが,出生後の中心静脈栄養やステロイド投与によって血糖値が上昇したことでチアミンの需要は急速に増大し,その結果,相対的なチアミン欠乏が誘発され一過性のチアミン欠乏症が出現した可能性が高い.RSは,子宮内発育遅延の極低出生体重児で発症リスクが増大するとされる.本症例のように慢性的な低栄養状態で出生した児に,原因不明の乳酸アシドーシスが出現した場合,RSを背景としたチアミン欠乏を考慮する必要がある.


【症例報告】
■題名
カテコラミン産生神経芽腫治療中に発症した接合部異所性頻拍
■著者
静岡県立こども病院小児集中治療科1),同 循環器科2),同 血液腫瘍科3)
林 勇佑1)  芳本 潤2)  高地 貴行3)  佐藤 光則1)  冨田 健太朗1)  北村 宏之1)  粒良 昌弘1)  松田 卓也1)  相賀 咲央莉1)  渡邉 健一郎3)  川崎 達也1)

■キーワード
接合部異所性頻拍, 神経芽腫, 上室頻拍
■要旨
 接合部異所性頻拍(Junctional Ectopic Tachycardia,以下JET)は,先天性心疾患術後急性期に発症するものが大半で,生後6か月未満の先天性JETも知られているが,正常心構造の幼児での報告例は稀である.今回,神経芽腫治療中に発症したJETの1例を経験した.
 【症例】1歳8か月,女児.右眼周囲の出血斑を主訴に当院紹介となり,全身多発転移を伴う左副腎原発神経芽腫と診断.初回化学療法を開始後,翌日に右肺胞出血・左血胸・呼吸不全からPICUに入室.人工呼吸管理を開始し,血圧低下に対してノルアドレナリン投与も行った.同日,心拍数190/分のnarrow QRS tachycardiaを認め,発作性上室頻拍と診断した.ATP静注で一度洞調律に復したが,ノルアドレナリン中止後も頻拍発作を繰り返し,その都度ATP静注を行い,停止が得られた.デクスメデトミジン追加での鎮静強化,体温管理,電解質補正を行った.後日,発作時の心電図よりJETであったことが判明した.ノルアドレナリン中止後に提出した血中カテコラミン分画にてノルアドレナリン優位の上昇を認め,神経芽腫の腫瘍崩壊に伴うカテコラミン放出が頻拍発作の主因と考えられた.
 【結語】本症例のように上室頻拍の鑑別にはJETを含む必要があり,正確な不整脈診断に基づく迅速な対応,戦略的治療の必要性が示唆された.


【症例報告】
■題名
出生直後からblepharoclonusを認めた脳幹小脳形成異常
■著者
東京女子医科大学小児科1),同 母子総合医療センター新生児医学科2),同 八千代医療センター小児科3)
山本 陽子1)  平澤 恭子1)  今井 憲2)  佐藤 友哉1)  戸津 五月2)  和田 雅樹2)  高梨 潤一3)  永田 智1)

■キーワード
脳幹小脳形成異常, blepharoclonus, 眼瞼ミオクローヌス様症状
■要旨
 出生直後より眼瞼のミオクローヌス様症状を呈し,ビデオ脳波同時記録にて,てんかん性ではなく,脳幹小脳形成異常によるblepharoclonusと診断した乳児女児例を報告する.Blepharoclonusは,成人では脳幹部に病変をきたす様々な疾患に報告されているが,脳幹小脳形成異常を認める新生児や幼小児の報告はない.
 症例は,出生直後から眼瞼ミオクローヌス様症状を認めた.眼球の異常運動はなく,筋緊張なども含めて軽度の無呼吸発作以外に有意所見はなかった.一般検査も異常はなく,ビデオ脳波同時記録では発作時,間欠期ともにてんかん性異常波を認めず,抗けいれん薬も無効であった.月齢とともに本症状の出現頻度は減少し,緩徐な発達を認めているため髄鞘化を含めた脳の成熟による改善と推定した.
 脳画像で著明な脳幹小脳形成異常を認め,眼瞼ミオクローヌス様症状は脳幹部由来と判断した.橋小脳の異常をもつ乳児例の報告は散見され,その症状は多岐にわたる.今回見られた眼瞼ミオクローヌス様症状はその特徴からblepharoclonusと判断し,脳幹小脳形成異常に起因する症状と考えた.本症状はself-limitingに自然軽快したが,全般的な運動発達の遅れに留意した介入が必要と考えている.


【症例報告】
■題名
骨髄移植後に侵襲性肺炎球菌感染症を発症した若年性骨髄単球性白血病
■著者
名古屋第一赤十字病院小児医療センター血液腫瘍科
佐治木 大知  山下 大紀  前村 遼  坂口 大俊  吉田 奈央  濱 麻人

■キーワード
同種造血細胞移植, 慢性移植片対宿主病, 侵襲性肺炎球菌感染症, 急性感染性電撃性紫斑病, 13価肺炎球菌結合型ワクチン
■要旨
 侵襲性肺炎球菌感染症(IPI)は,免疫不全患者では生命に関わる重大な感染症であり,特に急性感染性電撃性紫斑病(AIPF)を合併した場合は高い死亡率を示し,生存例でも四肢切断率が高い.症例は4歳男児.3年前に再発若年性骨髄単球性白血病に対してHLA半合致血縁者間骨髄移植を受け,慢性移植片対宿主病(GVHD)に対してミコフェノール酸モフェチルを内服中であった.移植後に13価肺炎球菌結合型ワクチンを1回接種していた.今回,高熱,意識障害,両下肢痛のため当科を受診し,身体所見および検査・画像所見からインフルエンザ脳症,肺炎球菌(ワクチンに含まれない血清型24B)敗血症,播種性血管内凝固,およびAIPFと診断され入院した.人工呼吸管理,抗菌薬,抗凝固薬を含めた集中治療により神経学的後遺症なく救命し得た.AIPFによる四肢末端の壊死を来したが,形成外科介入の下,保存的治療によって指趾切断を回避できた.しかしながら,その8か月後に再度IPIを発症し,CTで著明な脾臓の萎縮と,末梢血塗抹標本でHowell-Jolly小体を有する赤血球を多数認め,脾機能低下が示唆された.肺炎球菌ワクチンが普及した現在においても,ワクチンに含まれない血清型株によるIPIは造血細胞移植後患者など免疫不全患者では特に注意が必要である.


【症例報告】
■題名
T+/low BNKの表現型を呈した非典型的X連鎖性重症複合免疫不全症
■著者
広島大学病院小児科
江口 勇太  土居 岳彦  野間 康輔  浅野 孝基  岡田 賢  小林 正夫

■キーワード
X連鎖性重症複合免疫不全症, γc鎖, 造血幹細胞移植, NK細胞
■要旨
 X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)は,IL-2レセプターγ鎖(IL2RG)遺伝子変異に起因する共通γ鎖の欠損によりB細胞数は保たれるがT細胞・NK細胞が欠失する.一方,IL2RG遺伝子の機能異常によるX-SCIDでは生後早期から重症感染症を発症するにも関わらず,T細胞・NK細胞が一部残存することがある.
 患者は5か月時より反復する上気道感染や難治性下痢を主訴に近医を受診し,紹介受診した前医で免疫不全症が疑われ,生後11か月時に当院に転院した.RSウイルス気管支炎,ニューモシスチス肺炎,サイトメガロウイルス抗原血症などの重複感染があり,末梢血リンパ球サブセット解析ではT細胞数は減少し,B細胞数は正常でNK細胞数は増加していた.SCIDを疑い遺伝子検査を行ったところIL2RG遺伝子にR222C変異を確認しX-SCIDと確定診断した.臍帯血ドナーを用いて造血幹細胞移植を行い生着したが,移植後30日頃から呼吸器感染症が増悪し,多臓器不全により移植後101日目に永眠した.
 本症例のようなIL2RG遺伝子の機能異常を主因とするX-SCIDではT細胞・NK細胞が残存することがあるため,スクリーニングとして一般診療で施行可能なリンパ球サブセットの確認のみでは不十分である.T細胞機能不全を示唆する感染歴からその可能性を疑った場合,すみやかに専門施設に相談し,遺伝子検査を行うことが重要である.


【症例報告】
■題名
初期に潰瘍性大腸炎と診断され,病理組織像の変化により好酸球性腸炎と診断した2例
■著者
旭川医科大学小児科学講座1),旭川厚生病院小児科2)
浅井 霞1)  長森 恒久1)  島田 空知1)2)  吉田 陽一郎1)  高橋 弘典1)2)  東 寛1)

■キーワード
好酸球性腸炎, 消化管粘膜生検, 病理組織, 潰瘍性大腸炎
■要旨
 好酸球性胃腸炎(Eosinophilic Gastroentelitis;EGE)は,消化管粘膜,筋層,漿膜などへ高度に好酸球が浸潤することで機能障害を起こす疾患である.また,臨床症状や内視鏡所見が非特異的なため他の炎症性腸疾患との鑑別に苦慮する例も多い.今回,初期に潰瘍性大腸炎(Urcerative Colitis;UC)と診断されて本症の確定診断までに5年および3年を要し,その間の経時的な消化管粘膜病理像の変化を観察できた2例を経験した.2例とも初期の大腸粘膜内の好酸球浸潤数は正常範囲にとどまっていたが,時間をかけて粘膜内の好酸球浸潤像が完成した.臨床的にEGEが疑われる症例では初期に粘膜内好酸球浸潤数が正常範囲であったとしても,長期視点での内視鏡評価および粘膜生検が必要と考える.


【論策】
■題名
学校検尿での尿糖強陽性緊急受診システムの現状
■著者
九州学校検診協議会成長発達・小児生活習慣病等専門委員会1),産業医科大学医学部医学教育担当教員2),池田医院3),坂井医院4),中津市立中津市民病院5),きのしたこどもクリニック6),長谷川医院7),熊本大学小児科8),宮崎大学基礎看護学9),鹿児島市立病院小児科10),鹿児島県医師会11),琉球大学小児科12),中頭病院小児科13)
山本 幸代1)2)  香月 きょう子1)3)  徳永 剛1)4)  是松 聖悟1)5)  木下 英一1)6)  長谷川 宏1)7)  松本 志郎1)8)  澤田 浩武1)9)  鮫島 幸二1)10)  鹿島 直子1)11)  吉田 朝秀1)12)  宮里 善次1)13)

■キーワード
学校検尿, 尿糖, 緊急受診, 尿ケトン検査, アンケート調査
■要旨
 学校検尿の一次検尿での尿糖陽性者緊急受診システムは,一部の地域で導入されているが,統一された基準はなく,広域での実施状況の報告はない.今回,九州沖縄地区における尿糖強陽性者緊急受診システムの現状と問題点を明らかにするため,各県の郡市医師会にアンケート調査を行った.
 各県医師会を通じ,101の郡市医師会を対象としてアンケート調査を行い,100医師会から回答を得た.尿糖強陽性緊急受診システムを有するのは36.0%で,対象基準は尿糖2+以上が最も多かった.保護者への連絡は,55.6%で検査機関から教育委員会や医師会,委員会など数ステップを介して学校,保護者に連絡されていた.61.1%では受診医療機関の指定や紹介がされていなかった.尿ケトン検査は19.5%で実施されていたが,尿ケトン陽性の場合に緊急受診対応を行っていたは,そのうちの半数であった.
 尿糖強陽性者緊急受診システムが存在しても,保護者への連絡方法やスムーズに医療機関を緊急受診できる紹介の様式を含め,改善や工夫が必要である.また,緊急受診した児童・生徒の受診結果が報告され,集計,解析されることによって,システムの有効性を九州沖縄地区全体として検証するためにも,統一した基準での導入が必要である.

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