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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:20.5.26)

第124巻 第5号/令和2年5月1日
Vol.124, No.5, May 2020

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原  著
1.

生後3〜4か月の睡眠リズムの確立と自閉スペクトラム症

星野 恭子,他  819
2.

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群における抗菌薬の有用性

本多 愛子,他  825
症例報告
1.

二重供給を伴う肺動静脈瘻からの出血に難渋した遺伝性出血性毛細血管拡張症

田中 敏克,他  832
2.

リファンピシン投与に関連してマクロファージ活性化症候群を合併した慢性肉芽腫症

大原 智子,他  838
3.

発達遅滞と過食を伴う出生後成長障害を呈したKIAA2022遺伝子異常症

橋本 佑樹,他  845
4.

小児急性骨髄性白血病に対する遠心分離法を用いた白血球除去療法

伴 英樹,他  852
5.

超大量ビオチン投与に加え栄養療法を要したホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症

市之宮 健二,他  858
論  策
1.

学童保育における食物アレルギー児の実態と対応の課題

山田 裕美,他  864
2.

里親制度への医療機関の理解度と里親・養親が小児医療従事者に望むこと

石崎 優子,他  870

地方会抄録(栃木・東海)

  876
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 89 乗用車3列目シート(座席)における心肺停止

  887
専門医にゅ〜す No. 19

「小児科専攻医臨床研修手帳」(改訂第5版)のお知らせ

  890

小児科専攻医 臨床研修手帳 改訂第5版

  891
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会報告

新興・再興感染症対策小委員会およびCOVID-19ワーキンググループ 活動中間報告

  918
日本小児科学会小児医療委員会報告

全国の小児リハビリテーション施設調査

  922

重症RSウイルス感染症の実態調査─基礎疾患,医療ケアとの関係について─

  927
日本小児医療保健協議会栄養委員会主催

「第14回子どもの食育を考えるフォーラム」報告

  937
日本小児科学会学術委員会研究活性化小委員会主催

「網羅的遺伝子解析ハンズオンセミナー」報告

  938

「生物統計ハンズオンセミナーアドバンスコース」報告

  939
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合31

二足のわらじ

  940
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告
  はじめの一本3

長年の診療結果がはじめての一本に

  941

日本小児科学会理事会議事要録

  943

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2020年62巻4号目次

  947
公益財団法人小児医学研究振興財団
  令和元年度 研究助成事業・優秀論文アワード

海外留学フェローシップ 選考結果

  950

日本小児保健協会のご案内

  952

雑報

  953

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 371

  954


【原著】
■題名
生後3〜4か月の睡眠リズムの確立と自閉スペクトラム症
■著者
昌仁醫修会瀬川記念小児神経学クリニック1),国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的障害研究部治療研究室2)
星野 恭子1)  長尾 ゆり1)  木村 一恵1)  林 雅晴1)  北 洋輔2)

■キーワード
乳児期の睡眠覚醒リズム, 自閉スペクトラム症, 夜泣き, 幼児期の睡眠覚醒リズム, 睡眠覚醒リズムの発達
■要旨
 背景:生後3〜4か月の睡眠覚醒リズムが後の睡眠リズムに与える影響と自閉スペクトラム症(ASD)の発症を検討した.対象:小児神経専門クリニックを初診した52名.方法:(1)生後3〜4か月の昼夜の区別(2)夜泣きの有無(3)1歳までの睡眠覚醒リズムの良否(4)幼児期早期の睡眠覚醒リズムの良否,について診療録を後方視的に検討.(1)が(2)(3)(4)に与える影響(検討1),睡眠覚醒リズムとASDの関連(検討2)を検討した.結果:検討1;「生後3〜4か月に昼夜の区別がついた」34名中 (2)「夜泣きがなかった」28名(82%)(3)「1歳時の睡眠覚醒リズムが良」30名(88%)(4)「幼児期前期の睡眠リズムが良」22名(76%)となり「昼夜の区別のない」例に比し有意に高かった(Fisherの正確確率検定および残差分析:all ps<.05).検討2;「生後3〜4か月に昼夜の区別がついてない」18名中ASD11名(61%)は「区別がある」よりも有意に高かった(p=.006).さらに「生後3〜4か月に昼夜の区別がついていない」「夜泣きがある」「1歳時の睡眠のリズムが不良」がASDの発症に関連する要因となった.考察:生後3〜4か月は中枢神経発達に重要な時期であり,この時期に「昼夜の区別がつく」ことは後の睡眠リズムやASDの発症に関与することが示唆された.


【原著】
■題名
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群における抗菌薬の有用性
■著者
国立成育医療研究センター教育研修センター1),同 総合診療部2),同 感染症科3)
本多 愛子1)2)  小川 英輝3)  庄司 健介3)  窪田 満2)  石黒 精1)  宮入 烈3)

■キーワード
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群, 黄色ブドウ球菌, MRSA
■要旨
 ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(Staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)は乳幼児期に発症する黄色ブドウ球菌の外毒素の影響で広範な表皮剝離をきたす疾患であるが,培養検査や抗菌薬治療の必要性に関する一定の見解はない.しばしば皮膚や鼻腔ぬぐい液の培養検査を参考にした抗菌薬治療が行われるが,このような治療戦略の有用性についての報告は少ない.2006年11月から2018年1月に登録病名および臨床症状がSSSSに合致し,いずれかの培養検査で黄色ブドウ球菌が分離された入院患者を本研究の母集団とした.薬剤感受性検査の結果から感受性のある抗菌薬が5日間以上投与された症例を感受性一致群と定義した.患者背景,臨床経過,検査データなどを後方視的に収集し,感受性一致群と不一致群の臨床経過を比較検討した.対象症例は34例で,月齢は17か月(中央値)であった.眼脂,紅斑,Nikolsky現象はそれぞれ18例,33例,31例で認められた.培養検査では34例中22例でMRSAが分離され,全例で抗菌薬が投与されていた.感受性一致群17例と不一致群17例で,有症状期間(6日間対5日間,p=0.27)や入院期間(7日間対7日間,p=0.43)に有意差を認めなかった.培養検査結果を参考にした抗菌薬治療は,SSSS患者の有症状期間や入院期間を短縮させない可能性がある.


【症例報告】
■題名
二重供給を伴う肺動静脈瘻からの出血に難渋した遺伝性出血性毛細血管拡張症
■著者
兵庫県立こども病院循環器内科1),加古川中央市民病院小児科2)
田中 敏克1)  上村 和也2)  三木 康暢1)  松岡 道生1)  亀井 直哉1)  小川 禎治1)  富永 健太1)  城戸 佐知子1)

■キーワード
遺伝性出血性毛細血管拡張症, 肺動静脈瘻, 気道出血, 肺切除
■要旨
 遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT)は高率に肺,肝臓,脳脊髄などに多発性の動静脈動瘻を合併する常染色体優性遺伝疾患である.肺動静脈瘻(pulmonary arteriovenous malformation:PAVM)は,致死的な重度の肺出血を生じることがあり,また,右左短絡により,低酸素血症,奇異性塞栓や脳膿瘍などの中枢性神経合併症などの原因ともなる.
 今回,われわれは,肺循環と体循環の二重供給(dual circulation)を伴ったPAVMを原因とする,繰り返す重度の気道出血を呈した,多発性のPAVMを合併するHHTの15歳男児の症例を報告する.1回目のコイル塞栓術は肺動脈側から行ったが効果なく,2回目のコイル塞栓術の際に大動脈造影を行ったところ右肺に向かう側副動脈を認めたため,コイル塞栓術を大動脈側から追加した.その後も重度の気道出血を繰り返すため,外科的な肺部分切除術を施行した.肺動脈側からのコイル塞栓術後も気道出血を繰り返す症例では,dual circulationのPAVMである可能性を念頭に置いて,大動脈造影を行う必要がある.また,コイル塞栓術が有効ではない症例においては,早期の外科的治療への切り替えを考慮すべきであると考えた.


【症例報告】
■題名
リファンピシン投与に関連してマクロファージ活性化症候群を合併した慢性肉芽腫症
■著者
東京北医療センター小児科1),東京医科歯科大学小児科2),国立成育医療研究センター生体防御系内科部免疫科3)
大原 智子1)  宮井 健太郎1)  谷田 けい2)  平石 知佳1)  福山 希央1)  田村 英一郎3)  河合 利尚3)  今井 耕輔2)  金兼 弘和2)  清原 鋼二1)

■キーワード
慢性肉芽腫症, マクロファージ活性化症候群, BCG感染症, 抗結核薬
■要旨
 慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease:CGD)は活性酸素産生障害を呈する食細胞機能異常症である.乳幼児期からの易感染性と,過剰炎症の結果としての肉芽腫形成を特徴とする.一方,マクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome:MAS)はリウマチ性疾患においてサイトカインの過剰な産生による組織球の増殖・活性化からマクロファージの活性化が持続する状態で,血球貪食性リンパ組織球症を発症しさまざまな臨床症状を呈する.これまで,CGDにMASを合併する際には感染症への罹患が原因であるとの報告がほとんどであり,感染と無関係にMASを生じた報告は2例のみで,いずれも誘因不明であった.今回,われわれはMASを合併したCGD症例を経験し,BCG感染症治療に用いたリファンピシン投与と関連していると考えられた.症例は肺炎で入院した1歳男児.既往に難治性肛門周囲膿瘍と鼠径部リンパ節炎があり,他院で加療中であった.BCGリンパ節炎も合併しており,精査の結果,CGDと診断した.複数の抗菌薬加療で肺炎は軽快傾向にあったが,BCG感染症に対し抗結核薬の内服を開始した後に再発熱を認めた.高フェリチン血症,AST上昇,トリグリセリド上昇,低フィブリノーゲン血症を呈しMASと診断した.自験例におけるMASの発症について,考察を交えて報告する.


【症例報告】
■題名
発達遅滞と過食を伴う出生後成長障害を呈したKIAA2022遺伝子異常症
■著者
名古屋第一赤十字病院小児科1),名古屋大学医学部附属病院小児科2),愛知県医療療育総合センター中央病院小児内科・遺伝診療科3),慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター4)
橋本 佑樹1)  村松 友佳子1)2)3)  安田 彩子1)  上原 朋子4)  小崎 健次郎4)  大城 誠1)

■キーワード
KIAA2022遺伝子, X連鎖性, 知的障害, 成長障害
■要旨
 KIAA2022遺伝子異常症はX連鎖性知的障害の1つである.今回我々は,全エクソーム解析でKIAA2022遺伝子にフレームシフト変異[c.3530delA,p.(Lys1177Argfs*11)]を認めた5歳男児を経験したので報告する.
 症例は,妊娠経過は問題なく,正期産児として身長50.0 cm(+0.3 SD),体重2,775 g(−1.0 SD)で出生した.出生後に著明な成長障害が進行し,5歳時には身長89.6 cm(−4.7 SD),体重12.9 kg(−2.2 SD)と低身長優位であった.発達は全体的に遅く,5歳時の運動発達はつかまり立ちまでで,有意語は認めなかった.簡単なジェスチャーを使用し,人に対する興味を示し,自閉傾向はなかった.過食や断続的に繰り返す嘔吐,一過性の甲状腺機能異常を認めた.
 過去の報告にあるKIAA2022遺伝子異常症の臨床症状や顔貌の特徴は非特異的であり,今回の症例の特徴からもKIAA2022遺伝子異常症を想起することは困難であった.原因不明の精神発達遅滞の診療では,正確な診断,エビデンスに基づく遺伝カウンセリングには全エクソーム解析が有用だと考えられた.
 KIAA2022遺伝子異常症に関する知見はまだ少なく,症例の集積が求められる.


【症例報告】
■題名
小児急性骨髄性白血病に対する遠心分離法を用いた白血球除去療法
■著者
熊本赤十字病院小児科1),東京女子医科大学腎臓小児科2),熊本赤十字病院腎臓内科部臨床工学課3),東京女子医科大学血液浄化療法科4)
伴 英樹1)2)  藤戸 祥太1)  永芳 真理子1)  横山 智美1)  余湖 直紀1)  平井 克樹1)  右田 昌宏1)  鳥越 和就3)  江口 めぐみ3)  花房 規男4)  三浦 健一郎2)  服部 元史2)

■キーワード
小児, 急性骨髄性白血病, 白血球増多症, 遠心分離法, 白血球除去療法
■要旨
 白血病による白血球増多症は,著増した白血病細胞による血管閉塞を生じ,脳梗塞や肺梗塞,梗塞後出血を引き起こす.さらに,寛解導入療法開始時に,腫瘍崩壊症候群,急性腎障害,播種性血管内凝固異常などの致死的な合併症を生じるリスクの高いoncologic emergencyとすべき病態である.我々は,白血球増多症を呈した小児急性骨髄性白血病に対する遠心分離法を用いた白血球除去療法を経験した.症例は10歳の女児.白血球数263,340/μL(芽球96%)と著明に上昇しており,骨髄検査で急性骨髄性白血病と診断した.白血球増多症の症状として,低酸素血症,頭痛,両側下腿腫脹および疼痛を認め,遠心分離法を用いた白血球除去療法を2回施行した.いずれも,全血量の4倍の処理血液量で行い,1回目75%,2回目71%の白血球減少が得られた.白血球数の改善とともに施行中より白血球増多症の症状は改善した.小児急性骨髄性白血病による白血球増多症に対する遠心分離法を用いた白血球除去療法は,安全に大量の白血球を除去し,症状を改善させる有効な治療法である.


【症例報告】
■題名
超大量ビオチン投与に加え栄養療法を要したホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症
■著者
群馬県立小児医療センター新生児科1),同 遺伝科2),埼玉医科大学病院小児科3),国立成育医療研究センター総合診療部4)
市之宮 健二1)  丸山 憲一1)  小泉 亜矢1)  福田 一代1)  山崎 優1)  鏑木 浩太1)  宮川 陽一1)  山口 有2)  味原 さや香3)  大竹 明3)  窪田 満4)

■キーワード
ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症, ビオチン, 栄養療法, タンデムマス・スクリーニング, 有機酸代謝異常症
■要旨
 【はじめに】ホロカルボキシラーゼ合成酵素(HCS)欠損症は,高乳酸血症,有機酸血症,脂肪酸合成障害をきたすまれな先天代謝異常症で,ビオチン大量投与が奏効するとされる.我々はビオチン大量投与に加え非常に厳密な栄養療法を要したHCS欠損症を経験した.
 【症例】在胎37週4日,出生体重2,240 g,男児.母は初産で近親婚なし.出生後,多呼吸を認め,日齢7に代謝性アシドーシスのため当院に搬送された.タンデムマス・スクリーニングではC3,C5-OHの上昇を認め,尿中有機酸分析でHCS欠損症と診断した.遺伝学的検査ではHLCS遺伝子の複合ヘテロ接合性変異(p.Leu237Pro/p.Gly261fs)を認めた.超大量のビオチン(100 mg/day)を投与したがアシドーシスと高アンモニア血症が遷延し,血液透析を実施した.状態安定後もビオチンを継続したが,経腸栄養の増量に伴い急性代謝障害を認め,アミノ酸制限(1.3〜1.5 g/kg/day)と脂質優位の栄養管理(PFC比5〜7%:52〜57%:37〜42%)を行い改善した.栄養療法は生後11か月に中止することができた.
 【考察】本例に認めた変異では,超大量ビオチン投与でも酵素活性の回復は限定的で,臨床的にpartial responderとなりうる.変異アレルによってはビオチンに加え厳密な栄養療法を要する重症例もあり注意が必要である.


【論策】
■題名
学童保育における食物アレルギー児の実態と対応の課題
■著者
やまだ胃腸内科小児科クリニック1),獨協医科大学医学部小児科学2)
山田 裕美1)  吉原 重美2)

■キーワード
食物アレルギー, 学童保育, 放課後児童クラブ, 質問紙調査, 小学校
■要旨
 〔背景および目的〕放課後保育を担う学童保育(放課後児童クラブ)は補食を提供する一方で,食物アレルギー児の状況や対応についての実態は明らかになっていない.また,食物アレルギー児に関する小学校との情報共有や連携についても不明である.そこで,質問紙調査によって学童保育の現状を把握し,今後の取り組むべき課題について考察した.
 〔方法〕宇都宮市内全66所の学童保育施設を対象に質問紙調査を実施した.
 〔結果〕有効回答率は95.4%で,学童保育指導員が回答した.食物アレルギー児は,施設全体の82.2%に在籍し,罹患率は3.5%であり,補食提供の対応は「代替食」が多かった(56.4%).食物アレルギー児の把握方法は「保護者からのみ」が多く(90.3%),小学校が利用している「学校生活管理指導表」を71.0%が知らないと回答し,小学校との情報共有が行われているのは9.7%にとどまった.直近3年間の施設内での食物アレルギー症状の誘発事象は16.1%の施設で発生している一方で,施設内での緊急時対応マニュアルの策定は93.5%の施設で整備されていなかった.
 〔考察〕学童保育における食物アレルギー対応策は十分には整備されておらず,管理者や指導員・職員の食物アレルギーの知識習得の推進や,小学校との情報の共有と連携体制を確立することが急務である.


【論策】
■題名
里親制度への医療機関の理解度と里親・養親が小児医療従事者に望むこと
■著者
関西医科大学小児科1),畿央大学2),関西福祉大学看護学部3),摂南大学看護学部4),たけなかキッズクリニック5)
石崎 優子1)  古川 恵美2)3)  池田 友美4)  柳本 嘉時1)  竹中 義人5)  金子 一成1)

■キーワード
社会的養護, 里親, 養親, 特別養子縁組, 医療券
■要旨
 社会的養護を要する子どもの家庭的養育に向けて,里親・養親を推進するために里親・養親が医療機関で困った経験と医療機関に望むことに関する調査を行った.方法は,全国の19歳までの子ども293人の里親・養親に質問紙を郵送し,無記名で記入を求めた.返送数は138人(回答率47.1%),うち男子が64人(46.4%),引き取り時の平均年齢は児2.4歳,養父42.9歳,養母41.8歳,子どもの現在の年齢は9.6歳であった.集計の結果,「養子縁組成立前に医療機関を受診して困った経験」として,「子どもの実家族の病歴に関する情報提供」は50.7%,「医療券(受診券)の理解がない」は41.3%,「養親と子の姓が違うことへの無理解」は44.9%,「予防接種の同意書への署名」は12.3%が経験ありと回答した.「小児医療従事者に相談したいこと」は,「子どもの病気全般に関する事柄」,「心の成長に関する事柄」,「身体発育に関する事柄」,「育てにくさに関する事柄」,「思春期の特徴に関する事柄」の順に多かった.以上より,わが国の小児医療従事者の多くが里親家庭の医療制度を理解していないこと,里親・養親は子どもの既往歴や実親の病歴聴取に困惑していること,里親・養親は小児科医に心身の様々な問題を相談したいと考えていることが明らかになった.小児医療従事者が里親家庭の医療制度を理解し,里親・養親を支援することが望まれる.

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