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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:19.6.17)

第123巻 第6号/令和元年6月1日
Vol.123, No.6, June 2019

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日本小児神経学会推薦総説

チック,Tourette症候群の診療について

星野 恭子  957
原  著
1.

頸部リンパ節の腫脹または疼痛が著明な川崎病患者の臨床的特徴

田部井 容子,他  965
2.

小児専門医療施設におけるrapid response system導入の効果

藤原 直樹,他  971
症例報告
1.

先天性肺リンパ管拡張症3例の臨床的・病理学的検討

藤田 雄治,他  978
2.

蛋白漏出性胃腸症を合併したパルボウイルスB19による収縮性心膜炎

加納 佳奈子,他  986
3.

思春期にQT時間が短縮したQT延長症候群の2男子例

山田 洸夢,他  991
4.

遺伝性プロテインC欠乏症による動脈性脳梗塞

野崎 章仁,他  996
5.

Kasabach-Merritt症候群にステロイド,ビンクリスチンを投与した3例

池側 研人,他  1001
6.

ミコフェノール酸モフェチルが奏効した総合感冒薬による尿細管間質性腎炎

柏戸 桃子,他  1008
7.

思春期早発徴候を呈しGnRHアナログ治療を先行した原発性卵巣機能不全

山村 日向子,他  1015
8.

大腸菌性髄膜炎に脳室炎を合併した2新生児

奥野 安由,他  1022
9.

エチレングリコール中毒に対し血液透析とホメピゾールを併用し救命した小児

村上 将啓,他  1032
短  報

重症心身障害児のレスパイト入所中における医療的介入の実態

水谷 祐喜子,他  1038
論  策
1.

乳幼児突然死の死後検査をめぐる課題

小保内 俊雅,他  1041
2.

日本小児腎臓病学会の男女共同参画の課題と今後の取り組み

張田 豊,他  1048

地方会抄録(東京・新潟・北日本・香川・福岡・北陸・石川・佐賀・山口)

  1055

日本小児科学会理事会議事要録

  1093

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2019年61巻5号目次

  1097

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 362

  1099


【原著】
■題名
頸部リンパ節の腫脹または疼痛が著明な川崎病患者の臨床的特徴
■著者
国立病院機構仙台医療センター1),群馬大学医学部附属病院小児科2)
田部井 容子1)2)  久間木 悟1)  緒方 朋実2)  山村 菜絵子1)  堅田 有宇1)  石田 智之1)  日下 奈都子1)  大沼 良一1)  野口 里恵1)  貴田岡 節子1)

■キーワード
川崎病, 頸部リンパ節腫脹, ガンマグロブリン大量療法, 冠動脈病変, 血清アミロイドA
■要旨
 川崎病患者において,頸部リンパ節腫脹と免疫グロブリン大量療法(IVIG)に対する反応性や冠動脈病変との関連については一定の見解が得られていない.今回我々は2010年7月から2013年6月までの3年間に国立病院機構仙台医療センター小児科に入院した川崎病患者154例を対象とし,頸部リンパ節の腫脹または疼痛が著明な26症例と著明でない128症例の2群に分け,臨床的特徴とIVIG反応性を後方視的に検討した.その結果,頸部リンパ節の腫脹または疼痛が著明であった群は著明でなかった群に比べ年長であり,診断時の血液検査所見では白血球数,好中球数,CRPおよび血清アミロイドA(SAA)が高値で,IVIG不応例が有意に多かった.また,急性期に冠動脈拡張を呈した症例も有意に多かった.さらにIVIG不応予測スコアである群馬スコアを用い,IVIGに対する反応が良好であるとされる4点以下に限定して多変量解析を行ったところ,著明なリンパ節腫脹または疼痛を認めた症例は著明でなかった症例に比べIVIG不応例が有意に多かった.以上より著明な頸部リンパ節腫脹または疼痛はIVIG不応や冠動脈病変のリスク因子のひとつになりうることが示唆された.


【原著】
■題名
小児専門医療施設におけるrapid response system導入の効果
■著者
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児集中治療科1),兵庫県立こども病院小児集中治療科2)
藤原 直樹1)  差波 新1)  制野 勇介2)

■キーワード
院内迅速対応システム(rapid response system), 院内急変対応チーム(medical emergency team), 小児院内心停止, 小児集中治療室(PICU), 医療安全
■要旨
 【背景】我が国において小児を対象としたrapid response system(RRS)は認知度・実施率ともに低く,RRS導入効果を示した報告は限定的である.【目的】小児専門医療施設によるRRS導入効果を検証する.【方法】当院にて2013年1月より全医師・看護師が起動可能なRRSを導入した.システム導入後3年間(2013〜2015年)の臨床データを前方視的に記録し,導入前3年間(2010〜2012年)と前後比較検討した.【結果】RRS起動件数は97件(1,000入院あたり10.2件),RRS導入前後で一般病棟における予期せぬ心停止の低下は有意ではなかったが[同前0.75,後0.53;RR(relative risk)0.70(95% CI 0.23〜2.15)],院内死亡率は有意に減少した[同前8.16,後5.58;RR 0.68(95% CI 0.48〜0.98)].病棟からのPICU予定外入室患者において,病棟内での緊急気管挿管実施率はRRS導入後に有意に低下した[前17%,後8%;RR 0.48(95% CI 0.24〜0.95)].【結語】小児RRS導入前後3年間の比較により,院内死亡率の改善を認めた.病棟における緊急気管挿管実施率が著しく減少しており,RRSがセーフティーネットとして一定の機能を果たしていると考えられた.


【症例報告】
■題名
先天性肺リンパ管拡張症3例の臨床的・病理学的検討
■著者
君津中央病院新生児科1),千葉大学大学院医学研究院小児病態学2),君津中央病院病理診断科3)
藤田 雄治1)2)  石田 智己1)  佐々木 恒1)  井上 泰3)  大曽根 義輝2)  富田 美佳1)

■キーワード
先天性肺リンパ管拡張症
■要旨
 先天性肺リンパ管拡張症(CPL)は,先天的な肺のリンパ管拡張によって肺胞の拡張障害を来し,出生後重篤な呼吸不全となる予後不良な疾患である.その病態は明らかでないところが多く,有効な治療法がないのが現状である.これまで当院で経験した3例のCPL症例を臨床的・病理学的に検討した.
 症例1は原発性,症例2と3はそれぞれ肺静脈閉鎖症,総肺静脈還流異常症による二次性であった.症例1は羊水過多を認め,胎児水腫のため在胎32週で出生となったが,症例2と3は胎児期に異常なく,正期産であった.Apgar Scoreは症例1で1/2点,症例2と3は8/3点,7/8点と症例1の方が出生時の仮死の程度は強かった.NICU入室後の経過は大きく変わらず,いずれも出生後48時間以内に死亡となった.病理学的にはいずれも明らかなリンパ管の拡張が確認されたが,肺重量/体重やRadial Alveolar Countなどに差は認めなかった.VEGF familyはリンパ管の発生において重要なシグナルと考えられ,本疾患の発症に関与している可能性が指摘されているが,本検討ではいずれの症例も抗VEGF受容体3抗体による免疫染色では明らかな過剰発現を認めなかった.
 本疾患は疾患認知度の向上,胎児期のスクリーニング法,病態の解明,そして治療法の確立など課題は多く,今後も症例の集積が必要である.


【症例報告】
■題名
蛋白漏出性胃腸症を合併したパルボウイルスB19による収縮性心膜炎
■著者
国立成育医療研究センター循環器科1),東京医科大学病院小児科2)
加納 佳奈子1)2)  小野 博1)  鈴木 孝典1)  中野 克俊1)  真船 亮1)  林 泰佑1)  清水 信隆1)  三崎 泰志1)  賀藤 均1)

■キーワード
収縮性心膜炎, 蛋白漏出性胃腸症, パルボウイルスB19
■要旨
 症例は2歳11か月の男児で,蛋白漏出性胃腸症の精査でパルボウイルスB19感染,僧帽弁閉鎖不全を指摘された.2年の経過で収縮性心膜炎の診断に至り,術中採取した心膜からPCRでパルボウイルスB19が検出された.蛋白漏出性胃腸症は,常に収縮性心膜炎を念頭におき精査することが必要である.


【症例報告】
■題名
思春期にQT時間が短縮したQT延長症候群の2男子例
■著者
長崎大学病院小児科1),国立病院機構長崎医療センター小児科2),国立病院機構鹿児島医療センター小児科3),国立循環器病研究センター心臓血管内科部門不整脈科4)
山田 洸夢1)  本村 秀樹1)2)  横川 真理1)  蓮把 朋之1)  中垣 麻里1)  伊達木 澄人1)  吉永 正夫3)  相庭 武司4)  森内 浩幸1)

■キーワード
QT延長症候群, テストステロン, 意識消失発作, 成長曲線, 二次性徴
■要旨
 QT延長症候群の一部は,性ホルモンの影響を受けて重症度,臨床経過に性差が認められることがある.このうちQT延長症候群1型の男子では,QT時間が思春期発来で短縮し,不整脈発作が改善することが期待される.今回私たちは,思春期発来前後での臨床像,心電図の経過を観察することができたQT延長症候群の2男子例を経験した.2症例とも思春期発現前はβ-blocker等による内服治療の効果は乏しく,失神発作を繰り返していた.しかし,それぞれ11歳,16歳頃からQT時間は短縮し始め,失神発作は減少,もしくは消失した.QT時間が短縮し始めた時期は,それぞれ成長曲線における身長のスパートのピーク期と終了時期であった.本症のように思春期に病態が変化する疾患を診療する際には,思春期開始時期を考慮にいれ治療方針を検討する必要がある.成長曲線は,簡便に作成でき,専門的な外性器の診察がなくても,思春期開始の時期や性ホルモンの変化を視覚的に推測できる有効なツールである.


【症例報告】
■題名
遺伝性プロテインC欠乏症による動脈性脳梗塞
■著者
滋賀県立小児保健医療センター小児科1),九州大学大学院医学研究院成長発達医学2)
野崎 章仁1)  熊田 知浩1)  柴田 実1)  大賀 正一2)  楠 隆1)

■キーワード
プロテインC, 遺伝性プロテインC欠乏症, 脳性麻痺, 片麻痺, 脳梗塞
■要旨
 遺伝性プロテインC(protein C:PC)欠乏症は遺伝性血栓性素因で,血栓塞栓症の原因となる.新生児と乳児の生理的血漿PC活性は成人より低いため,活性値から遺伝性PC欠乏症の診断は難しい.我々は,新生児期に脳梗塞を認めた患児で遺伝性PC欠乏症と診断に至った例を経験した.症例は8歳男児.家族歴は血栓症を含め特記事項なし.32週,2,290 gで仮死なく出生した.日齢1に無呼吸を認めた後,異常はなかった.経過観察目的に行った日齢28の頭部MRIで左中大脳動脈領域の脳梗塞が判明した.心臓超音波検査に異常なし.血漿PC活性34%は月齢から異常と判断されなかった.7か月時に当院に紹介され,脳性麻痺の痙直型片麻痺と診断した.8歳時の再評価で,PC抗原量70%(成人基準値70〜150%)とPC活性48%(成人基準値64〜146%)より遺伝性PC欠乏症を考えた.なおプロテインS(protein S:PS)活性は132%で,PC/PS活性比は0.364であった.遺伝カウンセリングを行い,PC遺伝子解析でp.Arg348Gln(c.1043G>A;exon 9)と既報告のミスセンス変異をヘテロ接合性に認め,遺伝性PC欠乏症と診断した.周産期あるいは新生児期発症の動脈性脳梗塞を呈した症例では遺伝性PC欠乏症を考える必要がある.


【症例報告】
■題名
Kasabach-Merritt症候群にステロイド,ビンクリスチンを投与した3例
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療科1),同 血液・腫瘍科2)
池側 研人1)  鈴木 知子1)  斎藤 雄弥2)  湯坐 有希2)  幡谷 浩史1)

■キーワード
Kaposiform hemangioendothelioma, Tufted angioma, Kasabach-Merritt現象, ビンクリスチン, シロリムス
■要旨
 Kasabach-Merritt現象(KMP)を合併した血管性腫瘍は予後不良であり,従来ステロイドによる治療が第一選択とされてきたが,治療抵抗性を示す症例も多い.近年,KMPを伴う血管性腫瘍に対して,ステロイド,ビンクリスチン併用療法の有効性が確立されつつある.今回,当院においてステロイド,ビンクリスチン併用療法を行ったKMP合併の血管性腫瘍3例の治療経験を報告する.急性期においては全例,速やかに治療に反応したが,全例でKMPの再燃を反復し,慢性期管理に難渋した.最も難渋した1例には,mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬であるシロリムスを導入,治療効果を得た.現在,全例で全ての薬剤を中止し,再燃なく外来経過観察中である.急性期治療の一つとして,ステロイド,ビンクリスチン併用療法の有効性を確認することができたが,慢性期管理に難渋した.その原因として,投与期間が短かった可能性が考えられたが,現在投与期間は統一されておらず,今後の検討課題である.一方でビンクリスチンに抵抗性を示す場合,mTOR阻害剤が次期治療の1つとなり得ると確認できた.しかしmTOR阻害剤に関しても導入のタイミング,投与期間などの統一が必要である.KMPは適切な治療がなされない場合,死亡率が高く,慢性期管理を含めた標準治療の早期確立が重要と考える.


【症例報告】
■題名
ミコフェノール酸モフェチルが奏効した総合感冒薬による尿細管間質性腎炎
■著者
山梨大学医学部附属病院小児科1),峡南医療センター富士川病院小児科2)
柏戸 桃子1)  沢登 恵美1)  金井 宏明1)  小林 杏奈1)  後藤 美和1)  三井 弓子2)  佐藤 和正2)  東田 耕輔1)  杉田 完爾1)

■キーワード
薬剤性, 尿細管間質性腎炎, イブプロフェン, ぶどう膜炎, ミコフェノール酸モフェチル
■要旨
 尿細管間質性腎炎(tubulointerstitial nephritis:TIN)の原因の多くは薬剤であるが,原因薬剤中止後も遷延するTIN症例,特にステロイドに抵抗性や依存性を示す例に対する治療は確立していない.今回我々はステロイド依存性の薬剤性TIN例に対し,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)併用でプレドニゾロン(PSL)が中止できた症例を経験した.
 症例は15歳男児.軽度疲労感と微熱を認め総合感冒薬を9日間内服した.微熱,膿尿が持続し当初は尿路感染症が疑われたが,抗菌薬で改善しなかった.徐々に食欲低下,体重減少を認め,腎機能は低下(血清Cr 1.4 mg/dL)し尿中β2MGが上昇した.腎生検で尿細管間質にリンパ球・形質細胞・好酸球の高度浸潤を認め急性TINと診断した.PSL 60 mg/日投与で解熱し腎機能も正常化し,尿中β2MGも改善傾向となったが,漸減したところまもなく再燃した.PSL単独では治療困難と考え,MMFを併用することで約1年後PSLが減量中止できた.薬剤性TINに対するMMF治療はステロイド節約効果としても有用で安全な選択肢と考えられた.リンパ球幼若化試験の結果から複数の薬剤過敏を呈したアレルギー機序による薬剤性TINと診断した.PSL終了後の一過性のぶどう膜炎についても同様の機序によるものが推測された.


【症例報告】
■題名
思春期早発徴候を呈しGnRHアナログ治療を先行した原発性卵巣機能不全
■著者
旭川医科大学小児科
山村 日向子  古谷 曜子  鈴木 滋  棚橋 祐典  東 寛

■キーワード
中枢性思春期早発症, 原発性卵巣機能不全, GnRHアナログ
■要旨
 原発性卵巣機能不全の表現型は,思春期徴候欠如から不完全な思春期進行を認めるものまで幅広い.今回,思春期早発徴候が先行したまれな症例を経験したので報告する.
 症例は16歳女児.在胎25週,826 gで出生.急性期脳室内出血,脳室周囲白質軟化症による脳性麻痺,精神遅滞を合併した.7歳より乳房発育,成長促進,8歳より陰毛が出現し,8歳2か月時,骨年齢10歳6か月と進行を認めたが,LHRH負荷試験では前思春期反応であった.8歳9か月時,LH 8.28 mIU/mL,FSH 54.48 mIU/mL,エストラジオール(E2)<10 pg/mLにてGnRHアナログ開始.12歳まで治療継続し思春期は抑制された.その後16歳になっても月経発来がなく精査.この時,Tanner分類:乳房3度,陰毛3度.LH 46.66 mIU/mL,FSH 88.54 mIU/mL,E2<5.0 pg/mL,テストステロン30.04 ng/dL,染色体46,XXであった.腹部MRIでは,右卵巣は同定できず,小さな子宮を認めた.
 本症例の身体所見は思春期早発症に矛盾しなかったが,GnRHアナログ開始時より高ゴナドトロピン血症があり,卵巣機能は当初より不十分であったと考えられる.思春期早発症の臨床像があっても,ゴナドトロピン高値にもかかわらずE2の上昇がない場合には,卵巣機能不全の合併も念頭に置くべきである.


【症例報告】
■題名
大腸菌性髄膜炎に脳室炎を合併した2新生児
■著者
国立国際医療研究センター小児科1),東京大学医学部附属病院小児科2)
奥野 安由1)  山中 純子1)  吉本 優里1)  大熊 喜彰1)  兼重 昌夫1)  田中 瑞恵1)  瓜生 英子1)  水上 愛弓1)  五石 圭司1)  佐藤 典子1)  佐藤 敦志2)  七野 浩之1)

■キーワード
大腸菌性髄膜炎, 脳室炎, 新生児
■要旨
 新生児の大腸菌性髄膜炎は,B群ベータ溶血性連鎖球菌髄膜炎と比較すると脳室炎の合併が多いと報告されている.脳室炎は特異的な症状がなく診断が困難だが,診断には磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging;MRI),特に拡散強調像が有用と報告されている.今回,我々は大腸菌性髄膜炎に脳室炎を合併した新生児2例を経験した.1例は標準的な抗菌薬の治療後も発熱が持続し,第3病日に頭部造影MRIを施行し,脳室炎の早期診断が可能であった.もう1例は,抗菌薬開始後速やかに解熱し,脳室炎の合併は指摘されず,抗菌薬終了後に髄膜炎の再燃を認め,頭部造影MRIで脳室炎と診断した.過去の報告と異なり,2症例とも拡散強調像では診断できず,造影MRIで診断可能であった.本症例のように単純MRI検査では脳室炎を指摘できないことがあり,そのような場合には造影を含めた種々の条件で評価することが重要と考える.また,脳室炎に対する抗菌薬の投与期間に関しては明確な基準はなく,抗菌薬終了時期の決定に苦慮することが多い.本症例では臨床経過や重症度,血液検査,髄液検査,画像検査などを総合的に判断し,治療方針を決定した.大腸菌性髄膜炎は脳室炎の合併に注意し,治療方針を決定する必要がある.


【症例報告】
■題名
エチレングリコール中毒に対し血液透析とホメピゾールを併用し救命した小児
■著者
富山大学医学部小児科1),同 医学部第2内科2),岩手医科大学高度救命救急センター薬物毒物検査部門3)
村上 将啓1)  種市 尋宙1)  田中 朋美1)  草開 祥平1)  志田 しのぶ2)  山崎 秀憲2)  小池 勤2)  藤田 友嗣3)  足立 雄一1)

■キーワード
エチレングリコール, 不凍液, 血液透析, ホメピゾール, 中毒
■要旨
 致死量相当と思われるエチレングリコール含有の不凍液を摂取した14歳男子例に対して,わが国では報告の少ない小児へのホメピゾール投与と血液透析にて良好な転帰を得た.児は意識障害と代謝性アシドーシスで発症し,紹介医で大量輸液,胃管からのウイスキー注入,ビタミンB1投与,炭酸水素ナトリウム投与,気管挿管を施行された後に当院に搬送された.摂取後6時間より血液透析を開始し,摂取後8時間にホメピゾールの初回投与を行った.その後,順調に代謝性アシドーシスと浸透圧ギャップの改善を認め,血液透析は7時間で終了し,同時に2回目のホメピゾール投与を行った.ホメピゾール投与による副作用はなく,入院2日目に意識障害は改善し,入院9日目に後遺症なく独歩退院となった.小児のエチレングリコール中毒に対し,血液透析との併用でホメピゾールを投与することは重症化を阻止するという点で,有用な手段であると考える.


【短報】
■題名
重症心身障害児のレスパイト入所中における医療的介入の実態
■著者
淀川キリスト教病院小児科
水谷 祐喜子  中河 秀憲  佐々木 満ちる  水谷 聡志  鍋谷 まこと

■キーワード
重症心身障害児(者), 短期入所, 医療的ケア, 小児在宅医療, 呼吸サポート
■要旨
 淀川キリスト教病院こどもホスピスにおける重症心身障害児(者)の利用実態,特に入所中の体調悪化について検討した.5年間でレスパイトとして利用登録された重症心身障害児は387人で,のべ3,035回のレスパイト利用があった.レスパイト中の体調悪化により107回の医療的介入がなされ,62回でかかりつけ医療機関への転院を要した.医療的介入や転院の回数は呼吸サポートの有無で差はなかった.呼吸サポートの有無に関わらず全ての入所者の体調の変化を敏感に捉える必要がある.また体調悪化時にかかりつけ医療機関と連携し転院調整を行うなどの取り組みにより重症心身障害児の安全なレスパイト入所を継続して行うことができている.


【論策】
■題名
乳幼児突然死の死後検査をめぐる課題
■著者
東京都保健医療公社多摩北部医療センター小児科1),国立精神神経医療研究センター神経研究所疾病研究第2部2),北九州市立八幡病院3),東京女子医科大学母子総合医療センター4)
小保内 俊雅1)4)  伊藤 雅之2)  市川 光太郎3)  仁志田 博司4)

■キーワード
乳幼児の予期せぬ突然死(SUDI), 乳幼児突然死症候群(SIDS), 解剖率, こどもの死亡登録検証制度(CDR)
■要旨
 我が国では異状死体の解剖率が低いことが指摘されている.その原因として,社会が解剖に忌避的であること,監察医制度が整備されていないこと,自治体予算の制約で死後検査を回避する傾向があるなどが指摘されているが,確証はない.
 乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断定義が2005年に改訂され,診断に解剖が必須とされたことから,SIDSを指標にそれと鑑別が必要な乳幼児の予期せぬ突然死(SUDI)症例の解剖率の年次推移および都道府県別の解剖率を調査した.SUDI全体では解剖率は50%に満たないが,SIDS診断に占める解剖率は上昇した.原因不明でも被解剖症例が上昇していた.2005年以降を年次別に見ると,原因不明に占める被解剖症例数の増加分と,解剖件数の増加分がほぼ同数であり,解剖しても診断確定に苦慮していることが示唆された.また,SIDSの都道府県別解剖率の差は大きく,監察医制度が実施されている地域が必ずしも解剖率が高いとは限らなかった.また,自治体ごとの警察予算と解剖率には相関は認められなかった.これらの結果は,推定されている要因は解剖率改善を妨げてはいるが,主たる要因ではないと考えられた.解剖率を改善し診断精度を向上するには,突然死に遭遇した医師の対応や,法医と臨床医の情報共有を円滑にすること,そして,これらを実現するために異状死体取扱い指針の策定が必要と考えられた.


【論策】
■題名
日本小児腎臓病学会の男女共同参画の課題と今後の取り組み
■著者
日本小児腎臓病学会男女共同参画委員会
張田 豊  田中 絵里子  大森 多恵  浅野 貴子  松村 千恵子  久野 正貴  秋岡 祐子

■キーワード
女性医師, 男女共同参画, 日本小児腎臓病学会
■要旨
 我が国の女性医師の割合は他国に比べて低い.小児医療を維持発展し,質の高い小児専門診療を日本全体で実践する観点からは,男女を問わず小児科医一人一人が一般診療や専門分野でその能力を発揮し幅広く活躍することが求められる.日本小児腎臓病学会男女共同参画委員会では学会員のキャリア形成の実情を認識し,今後の学会運営に反映させるために日本小児腎臓病学会員のデータ及びアンケート調査を実施し,男女別の会員の動向とその推移,学会活動,勤務形態,各地域の特徴等を解析した.この調査により(1)女性比率は全体として緩やかに増加しているが,地域差が大きく存在すること,(2)小児科医としての働き方は男女で大きく異なること,(3)学会活動に男女間で大きな差があること,(4)専門学会への参加の意義が若い医師に十分伝わっていないこと,などの現状が明らかになった.調査の結果を踏まえたキャリア形成支援の取り組みとともに報告する.

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