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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:18.7.13)

第122巻 第7号/平成30年7月1日
Vol.122, No.7, July 2018

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乳幼児の虐待による頭部外傷(AHT:Abusive Head Trauma)に関する共同合意声明

  1149
総  説

機能性運動障害を診る

桃井 眞里子  1152
原  著
1.

先天性心疾患における新生児期頭蓋内出血

粒良 昌弘,他  1159
2.

オセルタミビル耐性A(H1N1)pdm09インフルエンザの小流行に関する臨床的解析

中田 修二  1168
3.

集中治療を必要とする重症小児救急患者の疫学調査

籏智 武志,他  1177
症例報告
1.

ジヒドロコデイン中毒により致死的な呼吸抑制を来した新生児

近藤 立樹,他  1186
2.

呼吸不全をきたしたアセトアミノフェンによるStevens-Johnson症候群

砂川 ひかる,他  1191
3.

早期に予防的手術介入を行ったLoeys-Dietz症候群

羽生 直史,他  1198
4.

急性胃腸炎を契機に急性腎障害を発症した腎性低尿酸血症の2例

清水 真樹,他  1203
5.

歩行開始後に低身長と姿勢異常を契機に診断した両側先天性股関節脱臼

田中 真奈,他  1209
6.

コルチコステロイド減量により奇異性反応を繰り返した重症結核性髄膜炎・脳結核腫

野間 康輔,他  1213
7.

交通事故後に発症した外傷性乳び胸に対してオクトレオチドを投与した幼児例

新野 亮治,他  1220
論  策

「在宅小児かかりつけ医紹介事業」からみた小児在宅医療の考察

藤井 雅世,他  1225

地方会抄録(北日本・京都・福井・北海道・熊本・栃木)

  1231
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合20

偶然から生まれる出会い

  1267

日本小児科学会理事会議事要録

  1268

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2018年60巻6号目次

  1281

日本小児保健協会のご案内

  1283

雑報

  1284

日本医学会だより

  1285

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 353

  1286


【総説】
■題名
機能性運動障害を診る
■著者
自治医科大学名誉教授,両毛整肢療護園
桃井 眞里子

■キーワード
機能性運動障害, 機能性神経障害, 機能性神経症状症, 転換性障害
■要旨
 機能性運動障害は,年齢を問わず外来診療で高頻度に遭遇する疾患であり,FreudやCharcotの時代から知られている疾患であるにも関わらず,診断・治療に関するガイドラインは確立していない.麻痺,筋力低下,脱力,振戦・ジストニー等の異常運動,など症状はあらゆる運動症状を含み,その他に,非てんかん性発作,感覚障害,疼痛,自律神経症状などを呈し多くの例では極めて多彩な臨床像となるため,診断に苦慮する場合も少なくない.その神経症状の程度に比して日常生活の障害度が高いことを特徴とし,さらに,器質的病理がないにも関わらず,障害の予後は必ずしもよくないことが知られている.患者の疾病理解と受容が予後と密接に関連するため,早期の診断と適切な治療への導入は障害の軽減に不可欠である.従来は,医学的に説明がつかない症状として,器質性神経疾患を除外することで診断されてきた.しかし,除外診断にこだわると,不要な検査を繰り返すことになり,また,多くの検査をしても診断がつかないことで患者の疾病理解の歪みを助長することにもなり,症状の改善から一層遠ざかることになる.機能性運動障害を示唆する積極的な神経学的所見を検出することで早期に診断することができ,その所見の説明によって患者の理解も促進される.小児科医がその専門性にかかわらず機能性運動障害の診断ができ,早期治療につなげることができるように,診察法を中心に対応の基本を記載する.


【原著】
■題名
先天性心疾患における新生児期頭蓋内出血
■著者
千葉県こども病院 新生児未熟児科1),同 循環器科2)
粒良 昌弘1)  村上 智明2)  東 浩二2)

■キーワード
先天性心疾患:congenital heart disease, 頭蓋内出血:intracranial hemorrhage, 新生児期:neonatal period, 胎児診断:perinatal diagnosis, 脳神経発達:neurodevelopment
■要旨
 背景・目的:先天性心疾患(CHD)の生存率は飛躍的に向上したが,一方で生存例に脳神経発達異常を来すことを多く経験する.この要因の一つである新生児期における頭蓋内出血(ICH)について調査する.
 方法:2009年1月から2014年1月に千葉県こども病院NICUに入室した793例を後方視的に検討した.
 結果:ICHの発生率は,全症例中7%(57/793例),CHD群7%(18/241例),非CHD群7%(39/552例)であった.超低出生体重児,極低出生体重児を除いた検討では,CHD群で6%(14/232例),非CHD群で2%(10/463例)の発生率であった(p<0.01).CHDにICHを合併した例(CHD-ICH例)は,全例が新生児期に外科的介入を要するCHDであり,総肺静脈還流異常症が6例と最多であった.CHD-ICH例では6例が死亡し,生存した8例中5例に脳機能異常を残した.CHDにおいて胎児診断の有無でICHの発生率に差を認めなかったが,胎児診断例でICH合併が少ない傾向があり,CHD-ICH例のうち死亡した6例は全て非胎児診断例であった.
 結語:CHD児の新生児期におけるICH合併例は予後不良である.胎児診断に基づく周産期・新生児期,周術期管理は頭蓋内出血の発生を抑制し,脳機能予後を改善する可能性がある.


【原著】
■題名
オセルタミビル耐性A(H1N1)pdm09インフルエンザの小流行に関する臨床的解析
■著者
なかた小児科
中田 修二

■キーワード
インフルエンザA(H1N1)pdm09, オセルタミビル耐性, 地域内小流行, 小児科外来
■要旨
 2013年秋から2014年春までの期間に,札幌市においてオセルタミビル耐性A(H1N1)pdm09インフルエンザ(A(H1N1)pdm09耐性株)の小流行がみられた.A(H1N1)pdm09耐性株は全国で104例(104/2470;4.2%)検出され,そのうち札幌市では34例(34/113;30.1%)から検出された.遺伝子解析の結果34例中33例は同一株で,発症前に抗インフルエンザ薬の投与はなく,ヒトからヒトに伝播したと考えられている.
 札幌市にある小児科診療所で経験したA(H1N1)pdm09耐性株感染9例について,A(H1N1)pdm09感受性株感染11例,A(H3N2)株感染12例と臨床的に比較検討した.それぞれの株によるインフルエンザの発熱期間の中央値は2.0日間,3.0日間,3.0日間,最高体温の中央値は39.2℃,39.4℃,39.3℃で臨床的に差は見られなかった.抗ウイルス薬投与の有無で発熱期間の中央値(投与群28例;2.0日間,非投与群4例;4.0日間)に差は見られたが,投与薬剤の種類の違い(オセルタミビル群16例;2.0日間,ザナミビル群12例;2.0日間)による差は見られなかった.
 亜型の違いや薬剤耐性の有無は発熱期間に影響しないことが示唆された.遺伝子レベルでオセルタミビル耐性株であっても,臨床レベルではオセルタミビルがザナミビルと同定度に有効である可能性がある.


【原著】
■題名
集中治療を必要とする重症小児救急患者の疫学調査
■著者
大阪母子医療センター集中治療科1),兵庫県立こども病院救急総合診療科2),りんくう総合医療センター大阪府泉州救命救急センター3),近畿大学医学部小児科4)
籏智 武志1)  津田 雅世2)  京極 都1)  安達 晋吾3)  杉本 圭相4)  文 一恵1)  井坂 華奈子1)  稲田 雄1)  清水 義之1)  竹内 宗之1)

■キーワード
重症小児, 小児救急, 小児集中治療室, 脳症
■要旨
 【背景】日本は欧米豪と比較して小児集中治療室(pediatric intensive care unit:PICU)が大幅に少ない.適切なPICU整備のために重症小児救急患者に関する信頼性の高い疫学調査が必要である.
 【目的】重症小児救急患者の頻度,背景,経過,予後,および予後に関わる因子を明らかにすること.
 【方法】2015年4月から1年間に大阪府南部の3医療圏(小児人口約30.6万人)の小児病床を有する24施設を受診した15歳未満の重症小児救急患者を対象に前方視的な観察研究を行った.
 【結果】重症小児救急患者の定義に該当した患者は196人で,年齢中央値は2歳,男/女109/87人,基礎疾患を41%に認めた.受診の契機となった疾患は87%が内因性で,44%に感染症があり,10%は虐待の可能性があった.重症小児救急患者の頻度は小児人口1,000人あたり年間0.641人,死亡率は10%,神経学的評価が低下または死亡した予後悪化の患者は19%であった.心肺蘇生(OR 13.7 95%CI 2.55〜90.6),24時間以上の意識障害(OR 8.64 95%CI 2.55〜31.2),急性脳症(OR 5.29 95%CI 1.19〜25.2),人工呼吸(OR 4.56 95%CI 1.19〜19.9)が予後悪化と関連した.


【症例報告】
■題名
ジヒドロコデイン中毒により致死的な呼吸抑制を来した新生児
■著者
静岡済生会総合病院小児科1),静岡厚生病院小児科2)
近藤 立樹1)  福岡 哲哉1)  塩田 勉1)  佐久間 美佳1)  小松 賢司1)  太田 達樹1)  佐藤 恵1)  大久保 由美子1)  田中 敏博2)

■キーワード
ジヒドロコデイン, ジヒドロモルヒネ, 呼吸抑制, 新生児, シトクロムP450
■要旨
 症例は日齢23の男児.日齢21の時に咳嗽を認め,近医でジヒドロコデインを2 mg/kg/dayで処方され内服を開始した.第3病日に無呼吸発作による呼吸困難を来したため当院に救急搬送された.気管挿管の上,人工呼吸器管理を行い第6病日に抜管した.ジヒドロコデインは標準的な用量の2.5倍投与されており,ジヒドロコデインとその代謝産物であるジヒドロモルヒネの血中濃度は比較対照より約10倍高い値を示した.両物質ともに呼吸抑制作用があり,特に新生児や乳児は感受性が高いため作用が増強し易いとされる.また近年,シトクロムP450 2D6(CYP2D6)の遺伝子変異によりジヒドロコデインがジヒドロモルヒネに過剰に代謝される超迅速代謝者(ultra rapid metabolizer;UM)の存在が明らかとなった.UMはコデイン含有製剤を適正使用しても呼吸抑制を来すとされ,投与自体が致命的となる.本症例の遺伝子型はCYP2D631/310-36であり,その活性は正常と考えられた.以上より,本症例の呼吸困難の原因はジヒドロコデインが過量投与されたためと考えられた.2017年4月から,米国ではコデイン含有製剤を鎮咳薬や鎮痛薬として12歳未満の小児に使用することを禁忌としており,我が国でも2019年度から同様に規制される予定である.本症例はこの規制の必要性を裏付けるものと言えた.


【症例報告】
■題名
呼吸不全をきたしたアセトアミノフェンによるStevens-Johnson症候群
■著者
国立国際医療研究センター病院小児科
砂川 ひかる  山中 純子  古東 麻悠  吉本 優里  田中 瑞恵  大熊 喜彰  瓜生 英子  佐藤 典子  七野 浩之

■キーワード
Stevens-Johnson症候群, アセトアミノフェン, 呼吸障害, 閉塞性細気管支炎
■要旨
 アセトアミノフェンによるStevens-Johnson症候群(以下SJS)を発症し呼吸不全に至り,慢性期に閉塞性細気管支炎を合併した7歳女児の症例を経験した.高熱,痛みを伴う皮疹を主訴に受診し,疼痛緩和目的にアセトアミノフェン静脈内投与を行ったところ,投与開始3時間後より急激な呼吸状態の悪化を認め,集中治療管理を要した.入院当初は薬剤内服の有無がはっきりせず,薬疹を疑わなかったが,病歴の再聴取によりアセトアミノフェンの内服歴が判明し,臨床経過と薬剤リンパ球試験陽性よりアセトアミノフェンによるSJSと診断した.SJSはステロイド投与にて軽快したが,その後,急性期を過ぎても喘鳴が持続し,進行する閉塞性換気障害を認め,閉塞性細気管支炎と併発したと考えられた.閉塞性細気管支炎は現時点で有効な内科的治療はなく重症例では肺移植の適応となるが,本症例も薬剤治療を行うも明らかな改善なく,閉塞性換気障害は悪化傾向であり,今後の治療として肺移植も検討している.アセトアミノフェンは小児科領域では解熱鎮痛薬の第一選択薬として頻用されているが,時に重篤な薬疹の原因になり得ることに留意する必要がある.


【症例報告】
■題名
早期に予防的手術介入を行ったLoeys-Dietz症候群
■著者
東京医科大学病院小児科学分野1),同 遺伝子診療センター2)
羽生 直史1)  森島 靖行1)2)  志村 優1)  須田 和華子1)  鈴木 慎二1)  呉 宗憲1)  西亦 繁雄1)  柏木 保代1)  沼部 博直1)2)  河島 尚志1)

■キーワード
Loeys-Dietz症候群, 次世代シーケンサー, エクソーム解析, TGFBR2, 自己弁温存大動脈基部置換術
■要旨
 症例は15歳男児.幼少期より側弯症,漏斗胸がありMarfan症候群(MFS)を疑われて当院紹介受診となった.臨床所見上,眼間開離,幅広の口蓋垂,手首・親指徴候,扁平足があり,経胸壁心エコーにて大動脈弁Valsalva洞41 mmと著明な拡張を認めた.遺伝子解析の結果,TGFBR2の変異が認められ,Loeys-Dietz症候群(LDS)の診断となった.その後,β遮断薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬の内服にて血圧コントロールを行ったが,大動脈基部の拡大進行に伴う大動脈解離のリスクを懸念し,約10か月後,予防的に自己弁温存基部置換術(David手術)を施行した.本疾患はMFSと比較し,小児期早期からの動脈病変の発症,重症化が知られており,早期の確定診断,早期治療介入が重要となる.


【症例報告】
■題名
急性胃腸炎を契機に急性腎障害を発症した腎性低尿酸血症の2例
■著者
高松赤十字病院小児科
清水 真樹  梅田 真洋  大西 修平  竹廣 敏史  市原 朋子  大橋 博美  藤井 笑子  坂口 善市  幸山 洋子

■キーワード
急性腎障害, 腎性低尿酸血症, 急性胃腸炎, urate transporter 1(URAT1), glucose transporter 9(GLUT9)
■要旨
 腎性低尿酸血症における合併症として運動後急性腎障害の報告は多数認められる.しかし,運動負荷以外の要因により急性腎障害を発症した報告は極めて希である.我々は急性胃腸炎を契機に急性腎障害(AKI)を発症したと考えられた腎性低尿酸血症の2例を報告する.症例1は15歳,女児.1週間ほど持続する下痢,嘔気,嘔吐,食欲不振を主訴に近医を受診し,腎機能障害に気づかれた.尿酸1.0 mg/dL,尿酸排泄分画(FEUA)57.5%と著明な尿酸排泄亢進による低尿酸血症を認めたため,腎性低尿酸血症に伴うAKIと診断した.症例2は14歳,男児.5日前より持続する微熱,水様下痢,嘔気,嘔吐,食欲不振を主訴に近医を受診し,腎機能障害に気づかれた.尿酸0.3 mg/dL,FEUA 124%であり,腎性低尿酸血症に伴うAKIと診断した.症例2では,GLUT9の遺伝学的解析にて4つのmissense変異(G25R,R294H,P350LおよびR380W)をいずれもヘテロ接合体で認めた(この内,R380W以外は多型).2症例ともに発症前の運動負荷は認めなかった.基礎病態としての低尿酸血症による抗酸化力の相対的不足に,急性胃腸炎を契機とした腎血流の低下や,酸化ストレスの増大が加わることによりAKIに至ったと考えられた.腎性低尿酸血症では,運動負荷がなくても,急性胃腸炎を契機としてAKIを発症する可能性がある.


【症例報告】
■題名
歩行開始後に低身長と姿勢異常を契機に診断した両側先天性股関節脱臼
■著者
新潟県立中央病院小児科1),新潟大学医歯学総合病院小児科2)
田中 真奈1)  丸山 茂1)  須田 昌司1)  長崎 啓祐1)2)

■キーワード
先天性股関節脱臼, 低身長, 腰椎前弯, 乳幼児健診
■要旨
 先天性股関節脱臼例は過去の予防活動により激減したが,患者数の減少とともに認識が薄れ,歩行開始後に診断され治療に難渋する例がみられている.歩行開始後は装具治療での整復は不可能であり,早期発見が重要となる.今回,低身長と姿勢異常を契機に診断した両側股関節脱臼の1例を経験した.症例は2歳5か月女児.低身長,姿勢異常の精査のため当院整形外科・小児科を受診した.過去の乳幼児健診では異常を指摘されていない.低身長と脊椎前弯の増強を認め,レントゲンで両側先天性股関節脱臼と診断し,入院下で牽引整復法を開始した.牽引での整復は困難で,観血的治療を施行中である.本症例は股関節開排制限が軽度であったこと,また両側性のため股関節開排角度や大腿皮膚溝に左右差がなく,乳児健診で異常を指摘できなかった可能性がある.2015年に日本整形外科学会と日本小児整形外科学会から乳幼児股関節健診推奨項目が示され,本児は女児・骨盤位分娩出生児に該当し2次検診への紹介基準を満たしていた.視診触診のみで1次健診をしている地域では,遅診断を防ぐために,女児・骨盤位分娩出生児は全例2次検診への紹介を考慮すべきである.


【症例報告】
■題名
コルチコステロイド減量により奇異性反応を繰り返した重症結核性髄膜炎・脳結核腫
■著者
広島大学病院小児科
野間 康輔  土居 岳彦  古森 遼太  江口 勇太  小野 大地  松村 梨紗  望月 慎史  岡田 賢  小林 正夫

■キーワード
結核性髄膜炎, 脳結核腫, 奇異性反応, コルチコステロイド
■要旨
 結核性髄膜炎は重篤な神経学的後遺症を残す疾患であり,速やかな診断と抗結核薬とコルチコステロイドを主体とした適切な治療を行う必要がある.
 症例は14歳男児.10歳時に小脳腫瘤を発症し,13歳時に摘出手術が行われたが診断に至らなかった.手術から9か月後に発熱・頭痛が出現し入院した.全身状態は急速に悪化し,右感音難聴や痙攣,無呼吸,重度の意識障害を呈した.水頭症の増悪から切迫ヘルニアとなり,脳室ドレナージ術が施行されたが,その際に採取した脳脊髄液で抗酸菌塗抹・PCR検査が陽性となり結核性髄膜炎と診断した.また小脳病変の病理組織を再検討し,脳結核腫と診断した.ガイドラインに基づいてデキサメタゾン(DEX)併用下に抗結核薬投与を開始したところ,速やかに解熱した.しかしDEX減量時に発熱・頭痛が出現し,髄液・画像検査所見から奇異性反応を考え,DEXを増量した.またDEXを静注から内服に変更する際に症状の再燃があり,生物学的利用能を考慮してプレドニゾロンに変更した.その後も減量中に奇異性反応による脳動脈狭窄を認め,調整に難渋した.最終的に右感音難聴は改善しなかったが,復学することができた.
 結核性髄膜炎の診療において奇異性反応の出現は稀ではなく,その病態を認識して診療することは重要である.特に重症例ではその発症リスクは高く,重症度や病態にあわせたコルチコステロイドの使用が必要である.


【症例報告】
■題名
交通事故後に発症した外傷性乳び胸に対してオクトレオチドを投与した幼児例
■著者
松山赤十字病院小児科
新野 亮治  片岡 優子  津下 充  村田 慧  宮脇 零士  小笠原 宏  上田 晃三  近藤 陽一

■キーワード
外傷性乳び胸, オクトレオチド, 小児, ソマトスタチン
■要旨
 小児における乳び胸の成因は外傷性,非外傷性,および特発性に分類されるが,医原性以外の外傷性乳び胸の報告は非常に稀である.今回我々は交通事故を契機に発症したと考えられる外傷性乳び胸に対しオクトレオチドを使用した幼児例を経験した.小児の外傷性乳び胸の成因は交通事故や虐待,転倒など様々であるが外傷の状況によっては受傷から発症までの期間が長く,乳び胸以外の外傷所見を認めない症例もあり注意が必要である.外傷性乳び胸の幼児にオクトレオチドを使用した症例は我々が検索しえた限り皆無である.オクトレオチドは比較的安全に使用できる薬剤であり,小児の外傷性乳び胸の治療法の選択肢の一つとなりうると考えられる.


【論策】
■題名
「在宅小児かかりつけ医紹介事業」からみた小児在宅医療の考察
■著者
大阪小児科医会1),大阪母子医療センター新生児科2)
藤井 雅世1)  田中 祥介1)  春本 常雄1)  南條 浩輝1)  久保田 恵巳1)  望月 成隆1)2)  福田弥 一郎1)  竹中 義人1)  藤岡 雅司1)  武知 哲久1)

■キーワード
高度な医療的ケア, 小児在宅医療, 小児科開業医, かかりつけ医, 連携
■要旨
 近年,高度な医療的ケアを受けながら早期に在宅医療に移行する児が増えているが,小児在宅医療に関わる在宅医は少ない.われわれは一般小児科開業医が自身のできる範囲で地域の在宅医療児に関わることで在宅医の絶対数が増え,小児在宅医療全体が活性化すると考える.大阪小児科医会では,2013年2月から在宅医を探す病院に登録医を紹介する「在宅小児かかりつけ医紹介事業」を始めた.この事業では病院医師と在宅医の役割分担と連携を重視しており,2016年12月までに65例の依頼があり57例に在宅医を紹介した.高度な医療的ケアを受けている症例も多かったが,在宅医に専門的な医療的ケアへの関わりや24時間対応を依頼する例は少なく,在宅医を引き受けた医師に行ったアンケート調査でも,あまり大きな負担なく症例に関わっていることがわかった.この事業は小児の在宅医を増やす方策のひとつとして有用であると考える.

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