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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:18.5.17)
第122巻 第5号/平成30年5月1日
Vol.122, No.5, May 2018
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総 説 |
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長谷川 聡,他 855 |
原 著 |
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尾崎 佳代,他 860 |
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瀧澤 有珠,他 867 |
症例報告 |
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水野 将徳,他 874 |
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安藤 理恵,他 879 |
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立石 裕一,他 884 |
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田上 和憲,他 890 |
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藤原 香緒里,他 896 |
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山田 晶子,他 903 |
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若林 大樹,他 909 |
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村上 瑛梨,他 915 |
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大坪 善数,他 922 |
論 策 |
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伊藤 史幸,他 928 |
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地方会抄録(東海・福島・静岡・佐賀・岩手・福岡・北陸・石川)
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933 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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No. 75 チャイルドロック機能付ウォーターサーバーによる熱傷
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961 |
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No. 76 プロカテロール塩酸塩水和物(定量噴霧剤)の過量吸入
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964 |
日本小児科学会小児医療委員会報告 |
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967 |
日本小児科学会倫理委員会主催 |
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973 |
日本小児科学会学術委員会研究活性化小委員会主催 |
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978 |
日本小児科学会小児救急委員会主催 |
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第8・9・10回小児診療初期対応(JPLS)コース 第3回JPLS講師養成コース開催報告
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979 |
日本小児医療保健協議会重症心身障害児(者)・在宅医療委員会報告 |
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入院から在宅療養への移行に係る中間施設の在り方に関する提言
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980 |
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告 |
リレーコラム キャリアの積み方─私の場合19 |
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983 |
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985 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2018年60巻4号目次
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992 |
公益財団法人小児医学研究振興財団からのご案内 |
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平成29年度研究助成事業・優秀論文アワード 海外留学フェローシップ 選考結果
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994 |
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996 |
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【総説】
■題名
Psychological First Aidで評価する被災地での小児科需要
■著者
新潟県立新発田病院小児科 長谷川 聡 松永 雅道
■キーワード
災害医療,小児,Psychological First Aid,心理的応急処置
■要旨
東日本大震災を機に災害時の小児医療支援の必要性が認識されるようになった.しかしこれまで災害弱者である小児の声が表に出ることはあまりなかった.また急性期に被災地入りする医療関係者の中に小児医療に精通しているものも少なかったため,そのニーズが注目されることは少なかった.2016年の熊本地震で被災地入りした際に,ニーズがありながら発信できなかった被災者の方々と接する機会があり,また小児科医が来るというだけで表出するニーズがあることを経験した.災害支援の心構えと対応を「見る・聞く・つなぐ(Look-Listen-Link)」の活動原則でまとめたPsychological First Aidに則り,災害時に小児・保護者にも目を配り,その「小さな声」を聞きとり,それを代弁してしかるべき情報・支援につなげる役割が小児科医に求められていると考えた.
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【原著】
■題名
21水酸化酵素欠損症患者におけるTNXA/TNXBキメラ遺伝子の頻度と臨床的特徴
■著者
兵庫県立こども病院代謝内分泌科1),虎の門病院小児科2),神戸大学大学院医学系研究科小児科学分野3) 尾崎 佳代1) 向山 祐理2) 奥野 美佐子1) 飯島 一誠3) 郷司 克己1)
■キーワード
TNXA/TNXBキメラ遺伝子, 関節可動亢進型Ehlers-Danlos症候群, 21水酸化酵素欠損症, TNXBハプロ不全
■要旨
21水酸化酵素欠損症(21OHD)の病因遺伝子CYP21A2は,隣接するTNXB遺伝子と一部が重複している.CYP21A2,TNXBには偽遺伝子,CYP21A1P,TNXAが存在するため,TNXBとTNXAの間で非相同組換えが発生し,TNXA/TNXBキメラ遺伝子を形成すると21OHDに加えて関節可動亢進型Ehlers-Danlos症候群(EDS)を発症する可能性がある.今回,私達の経験した21OHD症例の26家系29例に対しTNXA/TNXBキメラ遺伝子の存在の有無と臨床的特徴を検討した.方法:CYP21A2を含む大欠失の有無は,CYP21A2とCYP21A1P全長をPCR法で増幅した後,制限酵素で処理する方法で検討.TNXA/TNXBキメラ遺伝子の存在の有無は,TNXB特異的プライマ2個とTNXA特異的プライマ1個を用いたPCR法で検討.結果:3家系3例で,TNXA/TNXBキメラ遺伝子が存在した.そのうち臨床的評価が可能であった2例中2例とTNXA/TNXBキメラ遺伝子を有した両親3例中1例で関節可動性亢進を認めた.まとめ:21OHD患者の,約10%の症例でTNXA/TNXBキメラ遺伝子を有していた.TNXA/TNXBキメラ遺伝子を有する21OHD患者とその家族の約半数で関節可動性亢進型EDSとしての症状を呈する可能性がある.
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【原著】
■題名
発熱源不明の有熱時けいれんにおける菌血症診断率と肺炎球菌結合型ワクチン接種の関連
■著者
東京歯科大学市川総合病院小児科1),慶應義塾大学医学部小児科2) 瀧澤 有珠1) 佐々木 悟郎1) 佐藤 公則1) 本田 美紗1) 石崎 怜奈1) 末吉 真衣1) 萩原 揚子1) 須永 友香1) 平野 泰大1) 水野 風音1) 新庄 正宜2) 高橋 孝雄2)
■キーワード
潜在性菌血症, 肺炎球菌, 熱性けいれん, 予防接種, 血液培養
■要旨
有熱時けいれん小児において,局所感染や敗血症症状を伴わない菌血症が存在し,いわゆる熱性けいれんとの鑑別が困難である.今回われわれは,発熱とけいれんを呈した小児において,菌血症の占める割合(菌血症診断率)と,肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の接種状況を,後方視的に検討した.
対象は2010年から2016年までの7年間,腋窩温38℃以上の発熱と全身性けいれんを認めて緊急入院した0〜7歳(中央値1歳11か月)の小児163例.局所感染またはウイルス感染が判明した症例(それぞれ7例または28例)を除外した.残る128例中,血液培養が行われていた107例(84%)を検討対象とした.
107例中6例で肺炎球菌,1例でA群β溶血性連鎖球菌が検出され,7例(6.5%)が菌血症と診断された.菌血症診断率は肺炎球菌の検出数減少に伴い,年々低下する傾向にあった.また,対象のPCV未接種率は,2013年の定期接種化を経て,91%から0%に減少していた.接種の有無による菌血症診断率は,PCV未接種で10%,既接種で4.5%であり,3例の既接種者からは現行PCVに含まれない莢膜血清型肺炎球菌(15Aまたは15C),またはA群溶連菌が検出された.
以上は,PCV定期接種が乳幼児の菌血症リスクを減少させる可能性を示す.ワクチン非含有型の肺炎球菌やその他の細菌による菌血症への対策は今後の課題である.
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【症例報告】
■題名
幼児拡張型心筋症における左室補助循環着脱前後の左心機能と心電図の変化
■著者
国立循環器病研究センター小児循環器科 水野 将徳 津田 悦子 佐々木 理 白石 公
■キーワード
拡張型心筋症, 心電図, 左室補助循環, T波, 心不全
■要旨
5歳男児.姉2人に拡張型心筋症を認める.生後1か月時に拡張型心筋症と診断され,5歳時にNYHA III度まで増悪し当院へ転院した.身長103 cm,体重14.9 kg,脳性ナトリウム利尿ペプチド2,471 pg/mL,心胸郭比65%,心エコー図における左室拡張末期径58.2 mm(176% of normal),左室短縮率4.6%,心電図ではST-Tのストレインパターンを認めた.左室補助循環を導入し,遠心ポンプによるサポートを開始した.術後5日頻回の血栓形成のため拍動式のToyobo-NCVC LVADⓇへ変更した.左側胸部誘導のT波は装着後5日で陽転化し,左室拡張末期径と左室短縮率は改善した.術後6日に右中大脳動脈領域に広範な脳梗塞を認め,その後も血栓形成を繰り返すため術後26日に補助循環を離脱した.その後感染を併発したため,心不全は増悪し,それに伴いT波も陰転化した.左側胸部誘導のT波の変化は心エコー図の左心機能指標に先行して出現した.T波の陽転化は,補助循環装着により心負荷が軽減され,左室の電気的な逆リモデリングを示唆するのではないかと推定する.
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【症例報告】
■題名
夏期に発症した急性一過性発作性寒冷血色素尿症
■著者
杏林大学医学部小児科1),同 臨床検査医学2) 安藤 理恵1) 吉野 浩1) 伊藤 雄伍1) 杉本 雅子1) 弦間 友紀1) 大西 宏明2) 楊 國昌1)
■キーワード
発作性寒冷血色素尿症, 夏期発症, 寒冷刺激, 小児
■要旨
発作性寒冷血色素尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)は溶血性貧血の約1%と稀な疾患であり,ほとんどの例が冬期の寒冷暴露を契機に発症する.今回,我々は夏期に発症したPCHの3歳女児の1例を経験した.7月初めに発熱,嘔気,腹痛,活気低下さらに赤褐色尿があり入院した.入院時,顔色不良,皮膚黄染,眼球結膜黄染,眼瞼結膜貧血を認めた.血液検査では正球性正色素性貧血(Hb 9.8 g/dL,MCV 85.3 fL,MCH 29.3 pg,MCHC 34.4%),間接ビリルビン優位の黄疸(総ビリルビン4.2 mg/dL,間接ビリルビン3.4 mg/dL),LDH 1,478 IU/Lの上昇,直接クームス陽性(IgG陰性,C3d陽性),ハプトグロビンは正常下限(21 mg/dL)であった.尿は肉眼的血尿であったが,尿沈査では赤血球は観察されなかった.最終的にDonath-Landsteiner(D-L)試験が陽性であり,PCHと診断した.治療としてprednisolone投与と保温を行ったが,入院翌日にHb 6.2 g/dLまで貧血が増強し輸血を行った.経過中,明らかな腎障害はなかった.その後,貧血は改善し,再発はしていない.本疾患は,冬季の寒冷暴露を契機に発症することが多いが,本症例は発症当時,冷菓子を頻繁に摂取しており,それが寒冷刺激になった可能性が考えられた.
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【症例報告】
■題名
薬剤性過敏症症候群経過中の1型糖尿病例
■著者
JA尾道総合病院小児科 立石 裕一 岡野 里香 藤原 信 玉浦 志保 岩瀧 真一郎 吉光 哲大 内海 孝法 大野 綾香
■キーワード
薬剤性過敏症症候群, 1型糖尿病
■要旨
薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome;DIHS)は特定の薬剤に対するアレルギーと様々なウイルスの再活性化が複合した重症型薬疹のひとつである.内服開始後数週間で発症し,典型DIHSでは発症から2〜3週後にヒトヘルペスウイルス6型の再活性化を認める.DIHSは多彩な臓器障害をもたらす疾患であり主要所見に含まれる皮疹,肝機能障害の他に腎障害,糖尿病,甲状腺炎なども生じる可能性がある.今回DIHS経過中に1型糖尿病を発症した例を経験したので報告する.
症例は6歳男児.骨髄炎に対しST合剤にて加療中に発熱と全身の多形紅斑様の皮疹が出現し当科紹介となった.血液検査にて異型リンパ球の増加と肝機能障害,HHV-6再活性化を認め,DIHSと診断した.免疫グロブリン静注,ステロイド内服にて症状は改善したが,外来でステロイド減量中に糖尿病性ケトアシドーシスを発症,1型糖尿病と診断された.現在は強化インスリン療法を行っている.
DIHSに1型糖尿病などの自己免疫性疾患を続発したという報告は散見される.成人例ではDIHSに1型糖尿病を続発したという報告が近年増加している.薬剤内服開始から数週間後の発熱,発疹を認めた場合はDIHSの可能性を考慮することが重要であり,急性期の症状が改善した後も続発症を念頭に置いた慎重な外来経過観察が必要である.
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【症例報告】
■題名
アニサキスアレルギーの小児
■著者
あいち小児保健医療総合センターアレルギー科1),藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院小児科2) 田上 和憲1) 古田 朋子1) 杉浦 至郎1) 近藤 康人2) 伊藤 浩明1)
■キーワード
アニサキスアレルギー, 好塩基球活性化試験, アレルゲンコンポーネント, 思春期, 食事指導
■要旨
魚介類を摂取後に即時型アレルギー症状を認めた場合,アニサキスが原因である可能性がある.我々は,アニサキスアレルギーの17歳女性を経験した.イワシの酢漬け,ホタルイカを摂取した30分後にアナフィラキシーショックを呈し,アドレナリン筋注を要した.アニサキス特異的IgE≥100 UA/mL,アニサキス抗原を用いた皮膚プリックテストと末梢血好塩基球活性化試験がいずれも陽性を示した.魚介類そのものへのアレルギーの可能性は,病歴と経口負荷試験で否定した.以上より,アニサキスアレルギーと確定診断し,加工品も含めた魚介類の完全除去を指導したが,恐怖心も重なって除去食品が多岐に渡り,生活に大きな制約を生じた.
アニサキスアレルギー患者への食事指導は,各魚介類へのアニサキス寄生率やアニサキスアレルゲンの性質についての知識を要する.アレルゲンの特性を把握した上でのイムノブロット,リコンビナントアレルゲンを用いた原因アレルゲンの同定はアニサキスアレルギー患者への食事指導において有用であり,更なる発展が望まれる.若年のアニサキスアレルギー患者では更に,その後の長期にわたる患者本人の食生活,成人してからは同居する家族への食事の提供など,各ライフステージを考慮した指導が必要である.家族による食事管理から自己管理への移行,社会との関わりの増加など若年患者特有の食環境変化に伴う問題への配慮も重要と考えられた.
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【症例報告】
■題名
3歳児検尿での軽微な蛋白尿を契機に診断した常染色体優性遠位尿細管性アシドーシス
■著者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター腎・代謝科1),医療法人木村小児科小児科・アレルギー科2),神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野3) 藤原 香緒里1) 道上 敏美1) 山村 なつみ1) 里村 憲一1) 木村 三郎2) 松野下 夏樹3) 野津 寛大3) 飯島 一誠3) 山本 勝輔1)
■キーワード
常染色体優性型遠位尿細管性アシドーシス, 腎石灰化, 尿路結石症, SLC4A1遺伝子, 3歳児検尿
■要旨
常染色体優性型遠位尿細管性アシドーシス(Autosomal dominant distal renal tubular acidosis:ADdRTA)は通常成人期まで無症候性で,尿路結石症を呈して発見されることが多い.一方,ADdRTAの臨床像は幅広く,成長障害を認める症例や,腎不全の原因となる腎石灰化を幼児期から生じる症例も存在する.今回,3歳児検尿で軽微な検尿異常を呈した患児に対して尿化学検査,腎臓超音波検査等の精査を施行し,遺伝子検査にてADdRTAと確定診断した.ADdRTAでは適正な治療介入を行うことで成長障害の改善が得られ,尿中カルシウム排泄を減少させることにより新たな腎石灰化の形成を予防できる可能性があるため,本疾患を早期発見することは有益である.本症例では治療開始から2年8か月経過した時点で腎石灰化の増悪はなく,身長に関しても低身長傾向であったがSDスコアの改善を認めている.
本疾患をはじめ,多尿や希釈尿を呈する腎疾患では,軽微な蛋白尿は気付かれにくい.現在,3歳児健診の健康診査票には検尿の項目が含まれているが,その内容についての規定等はない.代表地区で試験的に運用中の3歳児検尿モデル案では軽微な蛋白尿に対しても尿蛋白/Cr測定,低分子蛋白尿の確認,必要に応じて腎臓超音波検査を推奨している.これらの検査は,本症例におけるADdRTAの早期診断にも有用であった.
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【症例報告】
■題名
軽微な転落を契機に硬膜下血腫,網膜出血を呈したグルタル酸血症I型
■著者
筑波大学附属病院小児科1),筑波大学医学医療系小児科2) 山田 晶子1) 岩淵 敦2) 大内 香里1) 城戸 崇裕1) 榎園 崇1) 大戸 達之2) 福島 敬2) 須磨崎 亮2)
■キーワード
グルタル酸血症I型, 硬膜下出血, タンデムマススクリーニング, 頭部外傷, 痙攣重積
■要旨
グルタル酸血症I型(GA1)はグルタリル-CoA脱水素酵素の活性低下による有機酸代謝異常症であり,中間代謝産物の大脳基底核への蓄積によって発達遅滞などを呈する.タンデムマススクリーニング(TMS)の全国導入以後,新生児期からの早期治療が可能となり,神経学的予後の改善が期待されている.
症例は現在2歳男児.TMSによりGA1と診断され栄養療法・ビタミン補充を受けた.乳児期に頭部MRIで無症候性の慢性硬膜下血腫が見られたが粗大発達遅滞はなかった.1歳6か月時にこたつからの転落に引き続いて痙攣重積となり近医へ救急搬送され,急性硬膜下血腫・陳旧性硬膜下血腫・網膜出血を指摘され当初は虐待を疑われた.痙攣はフェノバルビタールにより頓挫し,血腫は保存的に軽快し,意識の回復は良好であり運動麻痺を残さず11日後に退院した.その後日常的に頭部保護具を装着し,現在2歳3か月で言語発達遅滞があるが,粗大運動は正常である.
近年,早期治療によるGA1の発達予後改善に伴い,1歳から2歳にかけて歩行を獲得する例が増えている.一方本疾患特有の大きな頭蓋により転倒・転落を起こしやすく,軽微な外傷に続発する急性硬膜下血腫が報告されており,一部では重篤な後遺症を残している.本例の経過を分析し既報と比較し,出血の早期診断について報告する.
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【症例報告】
■題名
3か月未満の百日咳の4例
■著者
SUBARU健康保険組合太田記念病院小児科 若林 大樹 宗永 健志 後藤 安那 梅沢 洸太郎 福島 秀彰 畑岸 達也 宮路 尚子 草野 知江子 堀 尚明 佐藤 吉壮
■キーワード
百日咳, DPTワクチン
■要旨
百日咳はワクチン未接種の新生児・乳児に感染するとその約半数が入院し,時に重症化し生命を脅かす可能性もある細菌感染症である.VPD(vaccine preventable disease)の中で百日咳は,ワクチン接種によっても十分にコントロールされておらず,世界各国で再興が報告されている.
現在先進国で接種されている無菌体百日咳ワクチンは4〜12年で消失すると報告されているが,近年,獲得した免疫が減弱する青年・成人期に発症する百日咳症例の増加の結果,重症化しやすい新生児・乳児への感染リスクも増大している.
当院では,過去5年間に3か月未満の百日咳を4例経験した.1例は外来管理で軽快し,3例は入院加療を要した.入院症例のうち,1例は感染を契機とした急性呼吸急迫症候群および多臓器不全をきたし入院9日目に死亡,1例は入院2〜4日目に人工呼吸器管理を要したが,入院13日目に退院,1例は抗菌剤治療のみで入院14日日に退院となった.
新生児・乳児の罹患率減少のための解決策として,1)学童期,成人への追加接種導入,2)妊婦への思春期・成人用三種混合(Tdap)接種,3)乳児を対象とした従来の百日咳ジフテリア破傷風混合(DTap)ワクチンの接種時期を早める,等が挙げられる.4例の経過を示し,百日咳のワクチンの必要性と今後の課題について検討した.
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【症例報告】
■題名
高血圧が遷延したIII度熱中症の学童例
■著者
国立成育医療研究センター総合診療部1),同 集中治療部2),同 教育研修部3),同 救急診療部4) 村上 瑛梨1)3) 中尾 寛1) 加久 翔太朗4) 西村 奈穂2) 窪田 満1) 石黒 精3)
■キーワード
熱中症, 高血圧, 中枢神経障害, 高拍出状態, Paroxysmal sympathetic hyperactivity(PSH)
■要旨
【はじめに】III度熱中症は多臓器不全を伴う重症熱中症である.一般的に重症熱中症は低血圧を合併するが,熱中症が循環に及ぼす影響に関する報告は少ない.われわれはIII度熱中症に罹患し,高血圧が遷延した学童例を経験したため報告する.【症例】生来健康な12歳男児.8月野球の練習中に意識を消失し前医に搬送された.意識障害,42℃の高体温,けいれんを認め,III度熱中症と診断した.人工呼吸器管理と十分な輸液を含めた初期治療を行ったが,体温および血圧の管理困難,多臓器不全徴候を認め,当院ICUに転院した.ICU入室時,体温38℃,血圧166/75 mmHgであり,体温管理とニカルジピン持続点滴を行った.一般病棟に転棟後も,意識障害,頻脈,高血圧が持続した.降圧剤2剤(ニフェジピン,カンデサルタン)と頻脈に対しβ受容体遮断薬(カルベジロール)を追加後,血圧は正常化した.経時的に意識は改善し,その後,降圧剤を漸減中止したが,血圧の再上昇はなかった.【考察】本症例では,重症熱中症による中枢神経障害と頻脈,高血圧を呈し,β受容体遮断薬が奏功した.その病態の機序は不明だが,paroxysmal sympathetic hyperactivity(PSH)や高拍出性の循環動態が関連した可能性がある.重症熱中症では,高血圧をきたす可能性があり,β受容体遮断薬が治療の選択肢となり得る.
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【症例報告】
■題名
1歳男児の脳死下臓器提供の経験から見えた我が国の小児臓器移植システムの問題点
■著者
佐世保市総合医療センター小児科1),熊本大学医学部付属病院小児科2),長崎大学病院小児科3) 大坪 善数1) 坂本 理恵子2) 横川 真理1) 角 至一郎1) 橋本 邦生3) 大西 愛3)
■キーワード
小児脳死, 脳死下臓器提供, 小児移植システム, 心臓移植
■要旨
生体肝移植のレシピエントとなった1歳児が脳死下臓器提供のドナーに至る特殊なケースを経験した.生来健康の男児が原因不明の急性肝不全を発症し,母親からの生体肝移植を施行したが,移植後も意識レベルの回復は見られず,移植2週間後に脳死に至った.児の不可逆的状態を理解した家族は脳死の状態での治療継続を望まず脳死下臓器提供を選択した.
2010年7月の改正臓器移植法施行から約7年経過したが,小児の脳死下臓器提供は非常に稀で,本例は6歳未満のドナーとしては7例目となる.1歳児が順次レシピエントとドナーとなり,母親は自らがドナーとして肝臓を提供した我が子の脳死を受け容れ臓器提供を決心するという特殊な状況を通して,小児の脳死下臓器提供における問題点を考察した.脳死後は看取り,在宅医療を含めた長期脳死という選択肢の中,長期脳死生存を望まないのであれば脳死下臓器提供の選択肢が生まれる.小児の集中治療施設では避けられない事例であるが,その方針や体制には違いが見られる.小児の脳死下臓器提供を進めるにあたって,小児ドナーの小児への優先移植,小児専門の移植コーディネーターや臨床心理士の拡充,情報公開の方法策定,小児医療従事者の臓器移植に関するトレーニングの場の確保などが必要である.臓器提供による救命あるいはQOLの改善を多くの子ども達とその家族が待っており,早急にこれらの問題点を解決する必要がある.
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【論策】
■題名
東京都小児救急医療政策の効果と課題
■著者
東京都保健医療公社多摩北部医療センター小児科1),東京女子医科大学周産母子センター新生児部門2),松平小児科3),日本小児科医会4),埼玉医科大学総合医療センター小児科5),東京大学医学部小児科6) 伊藤 史幸1) 小保内 俊雅1)2) 松平 隆光3)4) 阪井 裕一5) 岡 明6)
■キーワード
小児死亡率,東京都こども救命センター,子どもの死亡登録検証制度,自殺
■要旨
我が国の小児死亡率を諸外国と比較すると,1歳〜4歳の死亡率が高く,不慮の事故による死亡が多いことが判明した.背景として,重篤な小児救急患者が小規模医療施設の小児科で対応されるなど,小児救急体制の不備が明らかにされた.この結果を踏まえ東京都は東京を4ブロックに分割し,其々に高次医療実施可能なこども救命センターを指定し,2010年から運用を開始した.この政策の効果を検証するため,人口動態調査を用いて全国と東京の小児死亡率を比較した.
14歳以下の小児の死亡率は全国および東京ともに減少している.東京では1〜4歳の死亡率が施策後顕著に抑制され,特に不慮の事故による死亡は施策前より40%以上減少した.しかし,5〜9歳と10〜14歳の死亡は抑制されていない.死因では自殺が東京のみならず全国でも顕著な上昇傾向を示し,また,被虐待症候群を含むその他の外因も増加傾向を示した.しかし,東京都の人口動態統計にその他の外因に関する詳細は示されておらず,虐待の現状は不明である.
こども救命センターは目的に適った成果を挙げることができた.次の課題は自殺の抑制であることが明らかになった.また,政策決定に先立ち課題とその要因が明らかになっていたことが,有効な政策決定を可能にしたことを示している.今後も有効な小児医療政策を立案し実施するために,子どもの死亡登録検証制度を実施する必要があると考えられた.
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