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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:17.11.20)

第121巻 第11号/平成29年11月1日
Vol.121, No.11, November 2017

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日本小児神経学会推薦総説

小児期の片頭痛および関連病態2017

斎藤 義朗  1789
日本栄養消化器肝臓学会推薦総説

小児の消化器内視鏡検査と内視鏡治療

中山 佳子  1801
原  著
1.

新生児領域における抗菌薬の使用実態

岡崎 薫,他  1811
2.

医療的ケアを要する障害児(者)の在宅医療調査

坪内 祥子,他  1819
3.

地域流行にみる小児百日咳の実態

犀川 朋子,他  1827
4.

小児Helicobacter pylori感染症診療の現状

吉年 俊文,他  1835
症例報告
1.

プリックテストと好塩基球活性化試験が陰性であったエリスリトールアレルギー

坂井 聡,他  1841
2.

二期的生体肝腎移植を施行した常染色体劣性多発性嚢胞腎の2例

苗代 有鈴,他  1846
3.

橋本病を契機に診断した低身長を認めないTurner症候群

井口 英幸,他  1852
4.

インフルエンザ菌非莢膜株による眼窩蜂窩織炎の1か月例

山本 啓央,他  1857
5.

タンデムマス法が診断に有用であったピボキシル基含有抗菌薬によるカルニチン欠乏症

梶原 和華,他  1862
6.

生後2か月でY字開口胆管を伴う先天性十二指腸閉鎖症と診断した21トリソミー

能登 孝昇,他  1867
論  策

Down症候群をもつ乳児とその家族に対する集団外来の取り組み

植田 紀美子,他  1872

地方会抄録(京都・北海道・東京・山形・岩手・長野・静岡・北陸・福井・鳥取)

  1879
日本小児科学会医療安全委員会報告

小児科専門医研修施設におけるMRI検査時鎮静の現状

  1920
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方―私の場合16

みんなちがって,みんないい

  1930

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2017年59巻10号目次

  1932

日本小児保健協会のご案内

  1934

雑報

  1935

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 347

  1936


【原著】
■題名
新生児領域における抗菌薬の使用実態
■著者
東京都立小児総合医療センター新生児科1),同 感染症科2)
岡崎 薫1)  伊藤 健太2)  堀越 裕歩2)  近藤 昌敏1)

■キーワード
新生児, 抗菌薬, days of therapy, 新生児集中治療室
■要旨
 周産期母子医療センター25施設の抗菌薬22種類の使用状況を,抗菌薬使用日数(DOT,days of therapy)を用いて多施設で比較検討した.2014年4月1日から2015年3月31日までの1年間において,総入院数は8,808名(うち,在胎28週未満506名,極低出生体重児1,280名),総のべ入院日数242,424日であった.総のべ抗菌薬使用日数は38,588日で,ampicillin(ABPC)(13,622日)が最も多かった.総DOT値は,中央値126.6(最小値27.1,最大値338.5)で,最大約12倍の違いがみられた.総DOT値は,ペニシリン系・アミノグリコシド系・セフェム系のDOT値と有意な正の相関がみられた.使用率をDOT率(各抗菌薬のDOT値÷総DOT値)として検討すると,アミノグリコシド系のDOT率が高い施設ほど,総DOT値が有意に高値であった(p=0.012).また,在胎28週未満で出生した児の割合が高いほど,ペニシリン系DOT率が低く,カルバペネム系DOT率が高値であった.抗菌薬の使用状況は施設間で大きな違いがみられた.極低出生体重児や在胎28週未満の割合が大きいほど抗菌薬の使用日数が多いが,このような施設では,抗菌薬の適正使用を推進することがより重要である.


【原著】
■題名
医療的ケアを要する障害児(者)の在宅医療調査
■著者
独立行政法人国立病院機構米子医療センター小児科1),鳥取大学脳神経小児科2)
坪内 祥子1)2)  玉崎 章子2)  板倉 文子2)  前垣 義弘2)

■キーワード
障害児(者), 在宅医療, 医療的ケア, アンケート調査
■要旨
 医療的ケアを必要とする在宅障害児(者)が増加しているが,鳥取県ではその医療のほとんどを三次医療機関と療育施設が担っており,地域医療体制の整備が必要となっている.医療機関の現状と意識を分析し地域医療連携構築の課題を検討することを目的に,鳥取県内の内科・小児科・神経内科を標榜する診療所,および総合病院の小児科と神経内科の部長医師310人を対象にアンケート調査を実施した.88名から回答が得られ,回収率は28.4%であった.現在,医療的ケアを必要とする障害児(者)の診療をしている医師は10名(11%)で,そのうち今後も家庭医・担当医として関わることができると回答した医師は7名(70%)であった.現在診療をしていない医師のうち家庭医・担当医として関わることができると回答したのは16名(21%)であった.診療できないと回答した医師からは,不安(63%),時間がない(40%)といった理由が挙げられた.家庭医・担当医として診療する場合に必要なことは,緊急時の受け入れが92%と最も高かった.自由記載には「在宅医療がイメージできない」「家族の理解と同意が必要」「診療時間外のバックアップが必要」との回答が多数あった.以上の結果から,病院主治医は家庭医・担当医に対して丁寧な診療情報提供を行うこと,緊急時や診療時間外のバックアップ体制を整えること,在宅医療についての理解を広めることが必要であると考えられた.


【原著】
■題名
地域流行にみる小児百日咳の実態
■著者
公立南砺中央病院小児科1),同 検査科2),金沢大学医学部小児科3)
犀川 朋子1)  前田 恵美2)  渡辺 麻香2)  和田 泰三3)  太田 邦雄3)

■キーワード
小児百日咳, 地域流行, 百日咳診断, 感染予防
■要旨
 2015年10月から2016年5月にかけて富山県南砺市で小学生を中心に百日咳が流行した.臨床的に百日咳と診断した患者は52名,うち血清検査或いは培養かloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法により確定診断した例は30名であった.患者は南砺市内の隣接する5地区で発生した.分離された5株の百日咳菌の遺伝子型解析の結果,4株はmultiple-locus variable-number tandem repeat analysis(MLVA)型27aを示し,残り1株はMLVA型28を示した.この事から今回の流行期間中には複数の遺伝子型の百日咳菌感染が混在したことが示唆された.血清検査では発症後早期の抗百日咳毒素―IgG抗体価が10 EU/mL未満の低値を示した症例を複数例認め,当該地域における小学生の百日咳菌感受性者の存在が明らかになった.百日咳の血清診断には発症後2週間以上を要し,診断の遅れが感染拡大につながると考えられた.LAMP法によるDNA検査は発症後2週間以内であれば検出率は44%と高く早期診断に有用と考えられた.
 今回の地域流行では最終的な流行終息までに約8か月を要し,早期乳児への感染拡大が危惧された.百日咳流行時には早期から地域の医療保健機関および教育機関との連携した取り組みが必要と考えられた.


【原著】
■題名
小児Helicobacter pylori感染症診療の現状
■著者
沖縄県立中部病院小児科
吉年 俊文  岩間 達  辻 泰輔  蟹江 健介  又吉 慶  金城 さおり  小濱 守安

■キーワード
Helicobacter pylori, クラリスロマイシン耐性, 除菌療法
■要旨
 【背景】Helicobacter pylori(以下H. pylori)は抗菌薬耐性による除菌率低下のため,適切な治療選択とその有効性の評価が重要である.沖縄県立中部病院(以下当院)における小児H. pylori感染症診療の現状を検討したので報告する.
 【方法】2003年4月から2016年3月に当院でH. pylori除菌を施行した15歳以下の小児を対象に,患者背景,上部消化管内視鏡検査(以下EGD)結果を診療録から後方視的に検討した.さらに,薬剤感受性結果に関わらず一次除菌薬剤を選択した2011年までの前期群と,結果を参照した2012年以降の後期群に分け,薬剤感受性結果と除菌率を比較検討した.
 【結果】対象者は29名(前期群14名,後期群15名)で,EGDでは全例に異常所見を認めた.クラリスロマイシン(CAM)耐性は前期群2/2例,後期群11/15例に認めた.一次除菌は,前期群は全例にPAC(PPI,アモキシシリン:AMPC,CAM)療法が用いられ,除菌成功率44.4%であったが,後期群では4例にPAC療法,11例にPAM(PPI,AMPC,メトロニダゾール:MNZ)療法を施行され,除菌成功率93.3%であった.
 【結語】沖縄県はH. pyloriのCAM耐性率が高く,小児H. pyloriの治療にEGDと薬剤感受性検査が有用であった.


【症例報告】
■題名
プリックテストと好塩基球活性化試験が陰性であったエリスリトールアレルギー
■著者
浜松医科大学小児科
坂井 聡  夏目 統  加藤 由希子  田口 智英  福家 辰樹

■キーワード
エリスリトール, 甘味料, アレルギー, 好塩基球活性化試験, プリックテスト
■要旨
 我々は皮膚プリックテスト(skin prick test;SPT)および好塩基球活性化試験(Basophil activation test;BAT)が陰性のエリスリトールアレルギーを経験した.症例は5歳男児.こんにゃくゼリー摂取後に,顔面の腫脹・喘鳴・膨疹が出現した.こんにゃくゼリーおよびその原材料によるSPTを施行したところ陰性であったが,こんにゃくゼリーによる経口負荷試験は陽性であった.エリスリトールを用いたBATは10 μg/ml,100 μg/ml,1,000 μg/mlの全てで陰性,SPTは300 mg/mlでも陰性であったが,エリスリトールの経口負荷試験を行ったところ,陽性のためエリスリトールアレルギーと診断した.原因の特定できない食物アレルギーにおいて,SPTおよびBATが陰性であっても本疾患を念頭に置き,負荷試験を行うことで診断につながると考えた.


【症例報告】
■題名
二期的生体肝腎移植を施行した常染色体劣性多発性嚢胞腎の2例
■著者
東京女子医科大学病院腎臓小児科
苗代 有鈴  三浦 健一郎  石塚 喜世伸  神田 祥一郎  金子 直人  薮内 智朗  多田 憲正  宮井 貴之  菅原 典子  近本 裕子  秋岡 祐子  服部 元史

■キーワード
常染色体劣性多発性嚢胞腎, 急性胆管炎, 生体肝腎移植, Caroli症候群
■要旨
 常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease;ARPKD)は腎病変と肝病変を合併する遺伝性嚢胞性腎疾患である.ARPKDの末期腎不全に対する治療方針の決定においては,肝合併症の状態が重要である.一般に肝機能は良好に保たれ,肝移植の適応となることは少ないが,急性胆管炎を反復する例は肝腎移植の適応となる.しかし胆管炎をどの程度反復すれば肝移植の適応となるのか,また肝腎同時移植と二期的肝腎移植のどちらが良いのかについては不明である.
 今回我々は,末期腎不全の管理中に急性胆管炎を反復したARPKDの2例に二期的生体肝腎移植を施行した.2例とも新生児期にARPKD,Caroli症候群と診断された.症例1は13歳の男児で,5歳より発熱を反復し抗菌薬を開始したが急性胆管炎を反復した.症例2は8歳の男児で,予防的抗菌薬内服下で胆管炎の再発が抑えられ,8歳時に末期腎不全に対して腎単独移植の方針となったが,移植直前に急性胆管炎が再燃した.2例とも最終的に急性胆管炎のコントロールが困難であったため,同一ドナーから二期的生体肝腎移植を施行した.移植後1〜3年が経過し,胆管炎の再燃はなく移植腎機能も良好である.末期腎不全に至ったARPKDでは肝合併症の状態を十分に評価し,個々の症例に応じた治療方針を立てることが重要である.


【症例報告】
■題名
橋本病を契機に診断した低身長を認めないTurner症候群
■著者
新潟県立新発田病院小児科1),新潟大学医歯学総合病院小児科2)
井口 英幸1)  泉田 侑恵1)  佐藤 英利1)  松永 雅道1)  長崎 啓祐1)2)

■キーワード
Turner症候群, 橋本病, 低身長, 卵巣機能不全, 自己免疫性甲状腺疾患
■要旨
 Turner症候群(TS)は,X染色体の欠失により,低身長,卵巣機能不全,種々の身体奇形,内臓奇形などを呈する疾患である.新生児期のリンパ浮腫や先天性心疾患,幼少期・学童期での低身長,思春期での卵巣機能不全などが診断の契機となる.TSの臨床症状は多様であり,低身長や卵巣機能不全を認めない例では,診断までに時間を要する場合がある.
 症例は12歳女児.7歳時に前頸部の腫脹を認め,精査で橋本病と診断し,レボチロキシンナトリウムの内服を開始した.初診時の身長は118.3 cm(−0.3 SD)と低身長はなかった.経過観察中に高口蓋や小顎症の所見から,10歳時に染色体検査を施行し,末梢血G分染色法で46,X,idic(X)(p11.4)[14]/45,X[6]であり,TSと診断した.11歳時より自然に乳房腫大を認めている.現時点で,低身長は認めていない.
 TSでは自己免疫性甲状腺疾患の発症頻度が高いことが知られているが,本例のように小児期に橋本病を契機としてTSと診断された症例は,みあたらない.小児期に橋本病と診断した症例では,Turner骨格徴候,低身長,卵巣機能不全の有無などを確認し,TSの可能性を考慮する必要がある.また小児期の橋本病はTSの発見契機となりうる.


【症例報告】
■題名
インフルエンザ菌非莢膜株による眼窩蜂窩織炎の1か月例
■著者
神戸市立医療センター中央市民病院小児科・新生児科1),兵庫県立こども病院感染症科2),同 救急総合診療科3),鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野4)
山本 啓央1)  伊藤 雄介2)  笠井 正志2)  竹田 洋樹3)  西 順一郎4)  宮越 千智1)  小林 由典1)  鶴田 悟1)

■キーワード
眼窩蜂窩織炎, インフルエンザ菌非莢膜株, インフエンザ菌, 血液培養, 乳児
■要旨
 乳児期早期に,インフルエンザ菌非莢膜株(NTHi;non-typeable Haemophilus influenzae)による眼窩蜂窩織炎を生じた1例を経験した.症例は1か月女児.随伴症状のない発熱を主訴に来院した.血液検査で白血球増多があったため,重症細菌感染症を考慮し,血液培養を複数セット採取した.全身状態は保たれており,バイタルサインにも著明な逸脱はなかったことから,抗菌薬を投与せずに経過を見る方針とした.その後,血液培養1セットのみからNTHiが検出された.また経過中,眼瞼腫脹が顕在化したことから造影CTを撮像し,乳児期での発症は稀な眼窩蜂窩織炎の診断に至った.重症細菌感染症を考慮して血液培養を複数セット採取し,さらに血液培養陽性確認後,熱源検索のため身体所見を綿密にフォローしたことにより,乳児期早期の発症は稀であるNTHiによる眼窩蜂窩織炎を遅滞なく診断することができた.


【症例報告】
■題名
タンデムマス法が診断に有用であったピボキシル基含有抗菌薬によるカルニチン欠乏症
■著者
もりおかこども病院小児科1),岩手医科大学小児科2)
梶原 和華1)  土屋 繁国2)  佐々木 美香1)  高橋 明雄1)  高砂子 祐平1)  米沢 俊一1)

■キーワード
タンデムマス法, ピボキシル基含有抗菌薬, 二次性カルニチン欠乏
■要旨
 症例は1歳6か月女児.来院4日前から感冒のため近医でセフジトレンピボキシル(CDTR-PI)を処方されていた.2日前から食欲がなく,来院当日早朝にけいれんと意識障害があり当院へ救急搬送となった.来院時に著しい低血糖を認め,ブドウ糖静注で意識回復した.受診時のろ紙血でタンデムマス法を行ったところC0低下とC5高値が確認され,ピボキシル基含有抗菌薬投与による二次性カルニチン欠乏に矛盾しない結果であった.鑑別となる全身性カルニチン欠乏症とイソ吉草酸血症について後日否定され確定診断にいたった.新生児期以降のタンデムマス法は一般的でないが,代謝疾患のスクリーニング検査として有用であり救急外来で活用されるべきと考えられた.


【症例報告】
■題名
生後2か月でY字開口胆管を伴う先天性十二指腸閉鎖症と診断した21トリソミー
■著者
沼津市立病院小児科1),日本大学医学部小児科学系小児科学分野2)
能登 孝昇1)  殿内 亮介1)  金 尚英1)  福原 淳示1)  村林 督夫1)  高橋 昌里2)

■キーワード
遅発性先天性十二指腸閉鎖症, Y字開口胆管, double bubble sign, 非胆汁性嘔吐, 羊水過多
■要旨
 21トリソミーの2か月の女児.出生後から溢乳を多く認め体重増加は不良であった.妊娠分娩歴で羊水過多は認めず,日齢10の腹部単純X線でdouble bubble signを認めなかった.嘔吐回数の増加を認めたため精査目的で上部消化管透視検査を施行した.十二指腸下行脚で造影剤の一時鬱滞を認めたが通過を確認した.その際胆管の造影を認めた.上部消化管内視鏡検査を施行し十二指腸の盲端を確認,十二指腸閉鎖症の疑いで転院した.手術を施行しY字開口胆管を伴った先天性十二指腸閉鎖症と診断した.
 繰り返す嘔吐を認めた際は,羊水過多やdouble bubble signを認めない場合でも早期に上部消化管透視検査を施行すべきである.上部消化管透視検査にて造影剤の鬱滞がみられた場合は乳幼児期であっても先天性十二指腸狭窄,遅発性先天性十二指腸閉鎖症の可能性を考慮すべきである.


【論策】
■題名
Down症候群をもつ乳児とその家族に対する集団外来の取り組み
■著者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター遺伝診療科1),同 消化器・内分泌科2),同 血液・腫瘍科3),同 小児循環器科4)
植田 紀美子1)  惠谷 ゆり2)  井上 雅美3)  青木 寿明4)  萱谷 太4)  岡本 伸彦1)

■キーワード
Down症候群, 発達支援, 家族支援, 集団外来
■要旨
 Down症候群は,知的障害の原因疾患として代表的な染色体異常で,現在は平均寿命が改善し,心身ともに豊かに過ごすことが重要となっている.出生後早期の医学的管理のみならず,家族への正しい情報の提供や心理的支援,多職種によるサポートなど包括的な支援が必要である.大阪府立病院機構大阪母子医療センターでは,Down症候群をもつ乳児を対象とした集団外来(以下,すくすく外来)を月1回1年のコースとして行っている.Down症候群をもつ乳児の母の育児負担感や母子間愛着感情を明らかにし,すくすく外来によるこれらの変化を検証し,乳児期の集団外来の役割を考察するため,すくすく外来を利用したDown症候群をもつ子どもの母66名を対象にコース開始時と修了後に記名式自記式質問票により調査を行った.あわせて修了後には無記名式質問票による満足度調査を行った.コース開始時調査60名,修了後調査36名,満足度調査49名の回答を解析した.対象者とその子どもの平均年齢は35±4歳,8±4か月であった.母の育児負担感は,健常児の母よりも有意に低かった.1年間のすくすく外来により母の育児負担感が有意に低下し,母子間愛着感情も増した.対照群を設けない介入前後比較で調査限界はあるが,Down症候群をもつ乳児とその家族への包括的な支援を提供する集団外来は,医療機関ができる有益な支援方策の一つであることが示唆された.

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