gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:17.9.22)

第121巻 第9号/平成29年9月1日
Vol.121, No.9, September 2017

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日本新生児成育医学会推薦総説

インタクトサバイバル時代の早産児の黄疸管理・治療とアンバウンドビリルビン

森岡 一朗,他  1491
日本小児感染症学会推薦総説

小児期のヘルペスウイルス感染症

木村 宏  1500
総  説
1.

敗血症の病態解明と治療の発展

稲田 雄  1508
原  著
1.

小児におけるメトロニダゾール静注液の使用経験

山中 崇之,他  1516
2.

水痘ワクチン定期2回接種の抗体産生

尾崎 隆男,他  1523
3.

小児機能性便秘症診断におけるRome III基準日本語版問診票の有用性

龍城 真衣子,他  1528
4.

リドカイン,アドレナリン,テトラカイン配合液による創傷の疼痛緩和効果と安全性

時田 裕介,他  1534
症例報告
1.

一過性チアミン欠乏性高乳酸血症を呈した超早産児の2例

江頭 政和,他  1540
2.

疾患特異的な病歴聴取をもとに診断したAndersen-Tawil症候群

伏間江 真由美,他  1546
3.

構音・嚥下障害を認めた若年性皮膚筋炎

今市 悠太郎,他  1550
4.

胎児水腫にて発症したPearson症候群

大城 登喜子,他  1555
5.

複合ヘテロ接合性変異が同定された重症血友病Aの女児例

野木 歩美,他  1560
6.

呼吸器症状を主訴としたライソゾーム病の2例

久野 はる香,他  1566
7.

声門下喉頭膿瘍の学童例

石井 茂樹,他  1571
8.

慢性食道異物4例の主要症状と臨床経過

白根 正一郎,他  1578
論  策

市中病院小児科における小児在宅医療と課題

大山 昇一,他  1584

地方会抄録(秋田・山陰)

  1590
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 72 グラウンドで発生した腹部外傷

  1601

Follow-up報告 No. 7

  1605
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会主催

第12回思春期医学臨床講習会報告

  1610
日本小児科学会小児救急委員会主催

第5回小児診療初期対応コース開催報告

  1611
日本小児科学会・日本小児保健協会・日本小児科医会・日本小児期外科系関連学会協議会共催
  第1回乳幼児健診を中心とする小児科医のための研修会Part III

〜一歩進んだ乳幼児健診をめざして〜報告

  1612
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方―私の場合15

素晴らしい職場に恵まれて

  1613
日本小児医療保健協議会重症心身障害児(者)・在宅医療委員会報告

各地における小児在宅医療実技講習会実施状況についてのアンケート調査

  1614

日本小児科学会理事会議事要録

  1623

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2017年59巻8号目次

  1629

日本小児科学会分科会活動状況

  1632

日本小児保健協会のご案内

  1634

雑報

  1635

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 345

  1636


【総説】
■題名
敗血症の病態解明と治療の発展
■著者
大阪母子医療センター集中治療科
稲田 雄

■キーワード
小児, 敗血症, 全身性炎症反応症候群, 適確医療, エンリッチメント戦略
■要旨
 「感染に対する制御不全の宿主反応によって惹起される生命を脅かす臓器障害」である敗血症は,医療の進歩した現在でも,死亡率が高く,生存者にも後遺症を残しうる重篤な病態である.敗血症の定義とガイドラインの普及,敗血症バンドルの実践により敗血症の治療成績は向上し,病院前治療や院内迅速対応システムなど,さらに迅速な治療を実現するための取り組みも行われている.本邦でも,小児も対象とした日本版敗血症診療ガイドライン2016が公開され,小児敗血症診療のさらなる改善が期待される.一方で,敗血症治療薬の開発はことごとく失敗に終わっている.その主因は,敗血症の病態の不均一性と複雑さに他ならず,患者によって宿主反応が異なるだけでなく,同一患者においても遺伝子発現および病態が刻々と変化するためである.そこで,適確医療の概念を応用して,明確な分子生理学的機序に裏付けられた疾患亜型(エンドタイプ)に患者を分け,治療反応性の予測や予後予測に基づいて治療を選択する方法が模索されている.また,治療効果の出やすい患者集団を選択し臨床試験の対象とするエンリッチメント戦略が,敗血症の臨床試験にも応用され始めている.小児の敗血症生存率は改善しているが,生存者が増加するにつれて後遺症に苦しむ小児や再入院の増加が予想され,急性期診療だけでなく長期予後管理という観点からも,小児科医の果たす役割は少なくない.


【原著】
■題名
小児におけるメトロニダゾール静注液の使用経験
■著者
新潟市民病院小児科1),東京都立小児総合医療センター感染症科2),あいち小児保健医療総合センター3)
山中 崇之1)2)  伊藤 健太2)3)  堀越 裕歩2)

■キーワード
メトロニダゾール, 嫌気性菌, 小児, 有害事象
■要旨
 メトロニダゾール(Metronidazole;MNZ)静注液は抗嫌気性菌薬として世界中で使用されているが,本邦では小児適応がなく,2014年に販売されたばかりで本邦での小児への使用経験は少ない.2014年10月1日から2015年7月31日までに東京都立小児総合医療センターでMNZ静注液の投与を受けた症例について電子診療録を後方視的に検討し,MNZ投与終了時の症例転帰,MNZ投与に伴う有害事象について評価を行った.29例に対して検討を行い,MNZ投与終了時の症例転帰は27例(93%)が治癒/改善であり,2例(7%)で悪化/中止であった.投与例の45%に有害事象を認めた.有害事象としては検査値異常(11例,38%)と消化器症状(9例,31%)が多くみられた.有害事象の多くは軽微であったが,1例で因果関係は不明であったが有害事象によりMNZ投与を中止した.
 MNZ静注液の投与を受けた症例の多くで臨床的な改善を認め,1例を除きMNZでの治療を完遂できた.MNZ静注液は小児でも抗嫌気性菌薬の選択肢となりうる.


【原著】
■題名
水痘ワクチン定期2回接種の抗体産生
■著者
江南厚生病院こども医療センター
尾崎 隆男  西村 直子  後藤 研誠  竹本 康二

■キーワード
水痘ワクチン, 定期2回接種, 抗体産生, 副反応
■要旨
 2014年10月,日本において水痘ワクチンは1回の任意接種から,1歳から3歳に至るまでに少なくとも3か月以上空けて2回接種する定期接種に変更された.今回,定期2回接種の免疫原性を検証するため,その抗体反応を調査した.
 2014年10月〜2016年2月に,健常児28名に水痘ワクチン定期2回接種を実施した.初回接種時の平均年齢は1.4歳,2回目接種時の平均年齢は2.0歳で,接種間隔の中央値は207日であった.2回の接種において,接種直前および接種後(4〜6週)のIAHAおよびgpELISA抗体価を測定した.
 初回接種において,接種前のIAHA抗体陽性(≥2)率は0%,接種後のIAHA抗体陽性率は70.4%であり,接種前のgpELISA抗体陽性(≥50単位)率は7.1%,接種後の陽性率は78.6%であった.2回目接種前には,IAHA抗体陽性率は25.9%と初回接種後から低下したが,gpELISA抗体陽性率では低下を認めなかった.2回目接種後には,IAHAおよびgpELISA抗体陽性率は共に100%となり,初回接種後より高い陽性率が得られた.2回目接種後の平均IAHA抗体価(Log2)は6.9,平均gpELISA抗体価(Log10)は4.0であり,初回接種後の平均抗体価に比べて大幅に上昇した.結論として,水痘ワクチン定期2回接種の良好な抗体産生が示された.


【原著】
■題名
小児機能性便秘症診断におけるRome III基準日本語版問診票の有用性
■著者
群馬大学大学院医学系研究科小児科学1),さいたま市立病院小児外科2),群馬大学未来先端研究機構3),パルこどもクリニック4)
龍城 真衣子1)  羽鳥 麗子1)  中野 美和子2)  石毛 崇1)  井手野 由季3)  友政 剛4)  荒川 浩一1)

■キーワード
機能性便秘症, Rome III基準, 遺糞症, 診断, 小児
■要旨
 小児における機能性便秘症では,適切な治療により予後の改善が期待できるため,的確な診断が重要となる.海外では,機能性便秘症の診断にRome III基準が用いられることが多いが,本邦での有用性は不明である.本研究では,機能性便秘症と診断された小児における,Rome III基準との診断の一致率を検討するため,Rome III基準日本語版問診票を作成し,その有用性について検討した.
 専門家が問診および身体所見から総合的に機能性便秘症と診断した0〜15歳の初診患者398名(1歳6か月未満78名,1歳6か月以上4歳未満183名,4歳以上137名)の養育者に対し,問診票の記載を依頼した.記載項目はRome III基準に基づき,便回数,便性,その他排便に関する症状とした.Rome III基準の各項目の陽性率を算出し,2項目以上満たす症例をRome III基準の陽性者とした.また,Rome III基準では明記されていないが,排便時の出血についても検討を行った.
 診断基準6項目の中で最も陽性率の高いのは,痛みを伴う,あるいは硬い便通の既往で,対象者全体の76%に認められた.排便時の出血の既往は,全体の33%に認められた.Rome III基準の陽性率は全体では74%であり,1歳6か月未満では53%,1歳6か月以上4歳未満では77%,4歳以上では82%と低年齢群で低い傾向であったが,排便時の出血の既往を加えると,それぞれ,64%,83%,85%と診断率が向上した.


【原著】
■題名
リドカイン,アドレナリン,テトラカイン配合液による創傷の疼痛緩和効果と安全性
■著者
東京都立小児総合医療センター救命救急科
時田 裕介  萩原 佑亮  井上 信明

■キーワード
LAT液, 浸潤麻酔, 疼痛緩和, 救急外来, 創傷処置
■要旨
 目的:針を用いずに疼痛緩和を図る方法として,リドカイン,アドレナリン,テトラカイン配合液(LAT液)による浸潤麻酔が,海外では既に報告されている.しかし,我が国でのLAT液の使用報告はほぼない.疼痛の感じ方は人種や文化が影響するため,我が国におけるLAT液の疼痛緩和効果と安全性を評価することを目的に,本研究を実施した.
 方法:前向き観察研究として,2014年12月から2016年3月に当院救急外来を創傷のために受診した患者のうち,担当医が局所麻酔薬を注射して処置が必要と判断した8歳以上16歳未満の症例を対象にした.当院薬剤科で作製したLAT液を綿球に浸して創部への浸潤麻酔を実施した.主要評価項目としてLAT液使用前後の疼痛スケールを100 mm-Visual Analogue Scaleで記録し,疼痛緩和効果を評価した.また,有害事象の有無を処置時と抜糸時の2点で調査した.
 結果:研究期間中に157例が対象となり,51症例(33%)から調査結果が得られた.LAT液使用前と使用後の疼痛スケールの平均値は,それぞれ45 mm(95%CI:38 mm〜51 mm),18 mm(95%CI:13 mm〜23 mm)であり,疼痛緩和効果の平均値は27 mm(95%CI:20 mm〜33 mm,p<0.0001)であった.局所麻酔薬の注射を追加することなく,LAT液の浸潤麻酔のみで処置を完遂できた症例は69%(35/51症例)であった.また,LAT液使用による重篤な有害事象は認めなかった.
 結論:我が国においても,LAT液は重篤な副作用を生じることなく,小児に効果的な疼痛緩和をもたらすことができた.


【症例報告】
■題名
一過性チアミン欠乏性高乳酸血症を呈した超早産児の2例
■著者
国立病院機構佐賀病院総合周産期母子医療センター小児科1),徳島赤十字ひのみね総合療育センター小児科2),島根大学医学部小児科3)
江頭 政和1)  江頭 智子1)  古賀 佳代1)  七條 了宣1)  宮村 文弥1)  西川 小百合1)  内藤 悦雄2)  長谷川 有紀3)  山口 清次3)  碾法―啗1)

■キーワード
チアミン欠乏, 高乳酸血症, 超低出生体重児, 超早産児
■要旨
 チアミン(ビタミンB1)投与により高乳酸血症が著明に改善した超早産児の2例を経験した.何れも在胎25週,出生体重500 g未満で出生し,生後早期より経腸栄養は順調であったが,新生児早期以降乳酸性アシドーシスが進行し,症例1は日齢72,症例2は日齢46に代謝的危急状態に陥った.ビタミンB製剤投与を試みたところ乳酸値は速やかに低下した.急性期に採取した尿有機酸分析にて2例とも乳酸,ピルビン酸,分枝鎖アミノ酸代謝産物であるαケト酸や2-ケトグルタル酸の著しい排泄増多を認めたことに加え,チアミン補充を漸減中止後に症状が再燃しなかったことからチアミン欠乏に伴う一過性の高乳酸血症と診断した.経腸栄養が順調であっても極めて未熟な症例の栄養管理においてはチアミン欠乏を念頭に置く必要がある.


【症例報告】
■題名
疾患特異的な病歴聴取をもとに診断したAndersen-Tawil症候群
■著者
日野市立病院小児科1),慶應義塾大学医学部小児科2)
伏間江 真由美1)2)  和田 ちひろ1)2)  大門 佑美1)2)  常松 健一郎1)2)  江崎 隆志1)2)  七尾 謙治1)2)  福島 裕之2)

■キーワード
Andersen-Tawil症候群, 周期性四肢麻痺, 心電図異常, 外表小奇形, 病歴聴取
■要旨
 歩行障害を主訴に来院し,Andersen-Tawil症候群の診断に至った2歳女児例を経験した.Andersen-Tawil症候群は,周期性四肢麻痺,心電図異常・心室性不整脈および外表小奇形を3主徴とする稀な常染色体優性遺伝疾患であり,個々の症例により症状の発現が大きく異なることが知られている.
 本症例では,低カリウム血症を伴う歩行障害,心電図異常(著明なU波)および特異的顔貌を認め,Andersen-Tawil症候群を疑うことができた.本症候群を念頭に置き,特異的なキーワードを用いて家族歴を聴取し直したところ,父方叔母と父方祖母にQT延長の診断歴が判明し,同症候群の可能性が強まった.原因遺伝子であるKCNJ2の遺伝子解析により児と父親にミスセンス変異を同定し,Andersen-Tawil症候群の確定診断に至った.
 網羅的な病歴聴取に加えて,特定の疾患・症候群を想定した特異的な病歴聴取の重要性を再認識したので報告する.


【症例報告】
■題名
構音・嚥下障害を認めた若年性皮膚筋炎
■著者
聖隷三方原病院小児科
今市 悠太郎  木部 哲也  野村 武雅

■キーワード
若年性皮膚筋炎(JDM), 嚥下障害, 構音障害, 不顕性誤嚥, ビデオ嚥下造影検査(VFSS)
■要旨
 若年性皮膚筋炎(juvenile dermatomyositis;JDM)では18〜44%に構音・嚥下障害が合併するとされており,潜在的に致命的となりうる.一方小児ではその評価や対応は難しく報告例は少ない.今回我々は,プレドニゾロン経口投与開始10日目より,構音・嚥下障害を発症した7歳のJDM男児例を経験した.ビデオ嚥下透視検査(videofluoroscopic swallow study;VFSS)で咽頭筋群の運動低下による咽頭残留,上部食道括約筋の弛緩不全,食道期の停滞,液体の不顕性誤嚥の所見を認めた.とろみ付加水分の誤嚥は認めなかったことから,増粘剤の使用で誤嚥予防を図った.プレドニゾロン経口投与では治療として不十分と判断し,ステロイドパルス療法,ガンマグロブリン大量療法,メトトレキサート投与などを行った.構音・嚥下障害は徐々に改善し約3か月後の再検査では異常を認めなかった.小児科医はJDMの経過において構音・嚥下障害の出現,特に不顕性誤嚥のリスクを常に念頭に置き,他覚的臨床所見の出現に注意し,VFSSなどの評価を考慮すべきである.


【症例報告】
■題名
胎児水腫にて発症したPearson症候群
■著者
琉球大学医学部育成医学講座1),大阪市立総合医療センター2)
大城 登喜子1)  浜田 聡1)  知念 安紹1)  屋宜 孟1)  宮本 二郎2)  飯田 展弘1)  呉屋 英樹1)  吉田 朝秀1)  百名 伸之1)

■キーワード
胎児水腫, 鉄芽球性貧血, ピアソン症候群
■要旨
 出生時に胎児水腫および汎血球減少を認めたPearson症候群の3か月男児例を経験した.生後19日の骨髄検査では骨髄低形成像のみの所見であったが,生後3か月には巨核球の異型性および鉄芽球,骨髄前駆細胞の空胞化が指摘された.ミトコンドリアDNA遺伝子解析を行ったところ,4977 bpの欠失が認められ,Pearson症候群の診断に至った.貧血および血小板減少に対して生後14か月までは輸血を要したが,徐々に造血機能は改善した.初診時において骨髄異形成症候群やDiamond-Blackfan貧血との鑑別を要する症例を経験するが,経時的に骨髄検査を評価し,鉄芽球および骨髄前駆細胞の空胞化を確認することが重要である.胎児水腫を呈するPearson症候群は稀であるが,先天性骨髄不全症の鑑別診断として留意する必要がある.造血器障害は月齢とともに改善がみられることが報告されているが,その他の臓器障害に関しては注意深いフォローアップを要する.


【症例報告】
■題名
複合ヘテロ接合性変異が同定された重症血友病Aの女児例
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療科1),同 臨床遺伝科2),同 血液腫瘍科3),国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部4),慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター5)
野木 歩美1)  吉橋 博史1)2)  朽方 豊夢2)  斎藤 雄弥3)  金子 隆3)  鏡 雅代4)  上原 朋子5)  武内 俊樹5)  小 健次郎5)  幡谷 浩史1)

■キーワード
X連鎖劣性遺伝, 女児, 重症血友病A, F8遺伝子, 遺伝カウンセリング
■要旨
 重症血友病Aを発症した女児例における臨床像と遺伝学的検討について報告する.4歳女児,広範な下腹部皮下血腫を主訴に救急外来を受診した.凝固時間延長および著しい第VIII因子凝固活性低下を認め重症血友病Aと診断した.F8遺伝子に対する網羅的ゲノム解析とサンガーシーケンシングによる変異解析を,X染色体上のAR遺伝子に関するコピー数多型と不活化解析を実施した.両親解析の結果から,本女児では父由来の胚細胞系列に生じたスプライシング変異と母由来で受け継いだミスセンス変異により複合ヘテロ接合性変異を来たし,血友病Aを発症した可能性が高いと考えた.X染色体の母由来アレルに生じた選択的不活化が,本女児における血友病Aの重症化に関する要因と考えられた.重症血友病A女児は稀であり,妊娠,出産に向けた健康管理および遺伝的問題に関する疫学情報の蓄積が少ない.複合ヘテロ接合性変異により血友病Aを発症した本女児では,将来的な課題に対し遺伝カウンセリングによる慎重な対応が必要と考えられた.


【症例報告】
■題名
呼吸器症状を主訴としたライソゾーム病の2例
■著者
草加市立病院小児科1),埼玉県立小児医療センター総合診療科2),国立成育医療研究センター総合診療部3),同 臨床検査部・ライソゾーム病センター4)
久野 はる香1)  菅原 祐之1)  長谷川 毅1)  奥津 美夏1)  南部 隆亮2)  窪田 満3)  奥山 虎之4)  土屋 史郎1)

■キーワード
ライソゾーム病, Gaucher病, ムコ多糖症, 呼吸器症状, 喘鳴
■要旨
 ライソゾーム病の治療法として酵素補充療法が開発され,その有効性が報告されているが,罹患臓器の不可逆的変化に対する治療効果は乏しいため,早期診断,早期治療開始の重要性が増している.乳児期後半から出現した吸気性喘鳴を主訴とするGaucher病II型の1歳男児,および新生児期から出現したいびきと睡眠時無呼吸を主訴とするムコ多糖症I型の4か月女児を経験した.ライソゾーム病の臨床症状は多彩であるが,中枢神経障害や気道への基質蓄積を背景として喘鳴やいびきという非特異的な呼吸器症状を主訴に受診する例があることを,一般小児科医に向けて,より広く啓蒙することが必要と考えられた.


【症例報告】
■題名
声門下喉頭膿瘍の学童例
■著者
宮崎県立宮崎病院小児科1),宮崎大学医学部小児科2)
石井 茂樹1)  三原 由佳1)  中谷 圭吾1)  高村 一成2)  原田 雅子2)  近藤 恭平2)

■キーワード
声門下喉頭膿瘍, 気管挿管, 気管切開, 喉頭内視鏡, 頸部造影CT
■要旨
 声門下喉頭膿瘍は抗菌薬の普及した現在では稀な疾患となっている.近年では種々の基礎疾患を背景とした成人報告例が散見されるのみであり,15歳以下の健常小児での報告はない.我々は急性声門下喉頭炎と類似の症状で来院し,最終的に声門下喉頭膿瘍と診断した1例を経験した.
 症例は香港から旅行中の中国人10歳女児.気管挿管やステロイド内服の既往はない.入院5日前から発熱,咳嗽などの上気道症状を認めていたが,入院3日前に来日した.入院当日の夕方に咽頭痛,吸気性喘鳴,呼吸困難感を認めたため急患センターを受診し,急性声門下喉頭炎を疑われ当科に紹介された.胸部単純X線で肺炎像を認め,喉頭内視鏡で軽度の声門下狭窄を認めたが喉頭蓋の腫脹や異物,周囲組織による気道圧迫等は認めなかった.肺炎および急性声門下喉頭炎として治療を開始したが,治療への反応が乏しかったため,入院6時間後に頸部CTを撮影した.CTで喉頭の腫瘤性病変などを疑わせる所見と共に気道狭窄を認めたことから,精査および気道管理目的で同日高次医療機関に転院搬送した.気管挿管の後,造影CTで声門下喉頭膿瘍と診断された.人工呼吸管理および抗菌薬投与等の保存的治療で順調に軽快したため,第7病日に抜管し,第14病日に合併症なく退院した.
 声門下喉頭膿瘍は稀な疾患であるが,窒息の危険性を孕んだ病態であり,早急な診断および気道確保が肝要である.


【症例報告】
■題名
慢性食道異物4例の主要症状と臨床経過
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療科1),同 消化器科2),同 外科3),同 呼吸器科4),同 集中治療科5)
白根 正一郎1)  立花 奈緒2)  村越 孝次2)  小森 広嗣3)  宮川 知士4)  清水 直樹5)  幡谷 浩史1)

■キーワード
異物誤飲, 食道異物, 喘鳴, 気管偏位
■要旨
 異物誤飲の多くは認知され,また自然排泄されるが,一部の症例では食道に長期間残存し,重症合併症を呈するものが多い.しかし慢性食道異物自体が稀であり,広く知られていない.その主要症状や経過について検討するため,当院で経験した慢性食道異物4例の臨床的特徴を調査した.男女各2例,診断時年齢は1歳3か月から5歳7か月,症状出現から診断までの期間は6か月から3年7か月だった.1例は基礎疾患に食道重複症が存在した.初発症状は3例が喘鳴・咳嗽などの呼吸器症状,1例は嘔吐だった.全例が局所的縦隔炎・縦隔膿瘍を合併,2例が気管穿通を合併し,うち1例は気管狭窄による呼吸原性心停止に至った.全例が治療に手術を要した.異物は全例でX線透過性のプラスチックだった.3例は診断時の胸部単純X線検査において右方への気管偏位と狭窄を認めた.
 慢性食道異物は初発症状として呼吸器症状が前面に現れ,気管支喘息として治療を受けていることがある.咳嗽・喘鳴のようなありふれた主訴にも関わらず,重症合併症を起こしうる.呼吸器症状を有する場合,診断時の胸部単純X線検査で右方への気管偏位や狭窄を認めることがあり,診断の一助となる.
 喘鳴・咳嗽の診療において,慢性経過をたどるもの,消化器症状を伴う症例では,慢性食道異物を鑑別に挙げる必要がある.疑う場合は胸部単純X線検査を行うと,気管偏位・狭窄の所見が診断の手がかりになることがある.


【論策】
■題名
市中病院小児科における小児在宅医療と課題
■著者
済生会川口総合病院小児科
大山 昇一  新井 真理  渋谷 聖月  小池 良子  井上 久美子  成高 中之  馬嶋 恒博  五十嵐 麻依子  内藤 朋巳  及川 奈央

■キーワード
小児在宅医療, 在宅療養後方支援病院, 在宅支援診療所, 退院時共同指導料, 退院支援加算
■要旨
 在宅療養後方支援病院の運営上の課題を明らかにするため,済生会川口総合病院小児科(以下,当院)が在宅医療に関わった24例を対象に検討した.当院主治医の症例13例,当院以外の施設(以下,他院)が主治医の症例11例で,初診時の平均年齢はそれぞれ1.19歳,3.64歳だった.主治医訪問診療は,当院が主治医症例の4例,他院が主治医症例では1例のみだった.全体の中で訪問看護ステーションの関与は11例だった.当院主治医の場合も他院主治医の場合も大島分類1〜4の症例がそれぞれ10例,重症度スコアが25点以上の症例がそれぞれ6例で,観察期間(当院が主治医症例の平均観察期間3.50年,他院が主治医症例の平均観察期間2.80年)の間に当院が提供した入院治療は,それぞれ平均6.54回,平均3.36回で,ショートステイはそれぞれ平均3.23回,平均1.36回であった.高次医療機関のスタッフの在宅医療に対する理解の不足が在宅療養後方支援病院の利用の仕方に影響していると推測された.また,将来のTransitionを見据えて在宅療養後方支援病院と地域の在宅支援診療所等との連携を図るべきと思われた.こうした課題を解決するためには,それぞれの医療機関で働く小児科医の小児在宅医療に対する視点の変革,行動の変容が必要であると考えられる.

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