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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:17.8.21)
第121巻 第8号/平成29年8月1日
Vol.121, No.8, August 2017
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第119回日本小児科学会学術集会 |
教育講演 |
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白髪 宏司 1315 |
日本小児感染症学会推薦総説 |
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Respiratory Syncytial Virus感染症における疫学研究からみた罹患病態解析
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川崎 幸彦 1323 |
原 著 |
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豊川 富子,他 1333 |
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多久 佳祐,他 1338 |
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小保内 俊雅,他 1344 |
症例報告 |
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山下 文也,他 1349 |
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倉信 裕樹,他 1356 |
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岡田 朝美,他 1362 |
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江渕 有紀,他 1369 |
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橋本 真理,他 1376 |
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本間 利生,他 1382 |
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尾崎 理史,他 1391 |
論 策 |
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伊藤 友弥,他 1397 |
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吉田 之範,他 1405 |
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地方会抄録(和歌山・新潟・福島・甲信・東海・岡山・岩手・佐賀・広島・山口・栃木・北陸・富山)
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1411 |
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1473 |
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1474 |
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1475 |
日本小児科学会小児救急委員会主催 |
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第3・4回小児診療初期対応コース,第2回JPLS講師養成コース開催報告
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1484 |
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日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2017年59巻7号目次
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1485 |
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1488 |
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1489 |
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1490 |
【原著】
■題名
心疾患を合併した歌舞伎症候群の臨床像
■著者
大阪府立母子保健総合医療センター小児循環器科1),同 遺伝診療科2),日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院循環器小児科3) 豊川 富子1) 稲村 昇1) 萱谷 太1) 河津 由紀子1) 濱道 裕二1)3) 岡本 伸彦2)
■キーワード
歌舞伎症候群, 先天性心疾患, 左室閉塞性疾患, 合併症
■要旨
歌舞伎症候群は精神発達遅滞を伴う先天性疾患で心疾患を合併することがある.心疾患を合併する歌舞伎症候群の臨床像を明らかにするために,当センターで経験した歌舞伎症候群37例のうち,心疾患を合併した18例(49%)の臨床記録を後方視的に検討した.対象18例を大動脈縮窄などの左室閉塞性疾患(left-sided obstructive lesions;LOL)12例とそれ以外の心疾患6例に分けて検討した.心疾患を合併する歌舞伎症候群は18例中17例が生後0日に受診していた.なかでもLOLは胎児診断例が多く,診断がより早期であった.合併症は,全例に発達遅滞を認め,口腔外科疾患83.3%,腎疾患61.1%,消化器疾患55.5%,てんかん5.5%であった.LOL(+)の合併症は消化器疾患,特に胃食道逆流が多かった(p<0.05)が,他の合併症は2群間で差はなかった.心臓手術はLOL(-)で6例中1例,LOL(+)は12例中9例で行われていた.死亡例は両群に1例ずつ認めたが,いずれも感染症が契機であった.
心疾患を合併した歌舞伎症候群は胃食道逆流などの消化器症状,口蓋裂を多く認め,感染症を繰り返す例が多い.特にLOL(+)は胃食道逆流を多く合併した.これは他の合併症により肺血圧に影響する可能性のある歌舞伎症候群にとって予後を左右するものである.LOL症例の心疾患に対する治療は慎重な検討を要する.
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【原著】
■題名
発熱を主訴に救急外来を受診した生後6か月未満の乳児への対応に関する後方視的検討
■著者
北九州総合病院小児科1),産業医科大学小児科2) 多久 佳祐1)2) 波呂 薫1)2) 保科 隆之2) 神代 万壽美1) 楠原 浩一2)
■キーワード
幼若乳児, 発熱, 入院率, 全身性炎症症候群
■要旨
小児科医には,幼若乳児が発熱した際に重症細菌感染症を鑑別に挙げる必要があるという認識があり,十分な精査を行うことが多い.わが国では,発熱を主訴に受診した幼若乳児に対して,入院の上,精査加療を行う傾向が強いという報告があるが,外来受診時に比較的軽症だった幼若乳児の対応について検討した報告はない.今回,我々は発熱を主訴に救急外来を受診した月齢6未満の乳児に対する医師の対応の傾向について検証した.2014年1月から12月に,発熱を主訴に北九州総合病院救急外来を受診した月齢1から5の乳児を対象とし,診療録をもとに月齢ごとの入院率,入院期間および全身性炎症症候群(SIRS)診断基準に該当する児の割合などを算出した.対象となった176名の乳児の分析を行ったところ,月齢別の入院率は低月齢ほど高かった.一方,入院症例のうちSIRS診断基準を満たした児の割合は,低月齢ほど低かった.月齢3未満と月齢3以上の2群に分けてこれらを比較したところ,入院率は月齢3未満群で有意に高く,SIRS診断基準を満たした児の割合は月齢3未満群で有意に低かった.低月齢の児では,軽症例でも入院する傾向が強かった.わが国には発熱した幼若乳児の救急対応についての明確な基準はないが,適切な評価を行うことで不要な入院転帰を減少させる可能性があることが示唆された.日本の現状を反映したより簡便で精度の高い指標の作成が望まれる.
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【原著】
■題名
我が国における乳幼児突然死症候群発生率の変遷
■著者
公益財団法人東京都保健医療公社多摩北部医療センター小児科1),東京女子医科大学母子総合医療センター2) 小保内 俊雅1)2) 五島 弘樹1) 仁志田 博司2)
■キーワード
乳幼児突然死症候群(SIDS), 予期せぬ乳幼児の突然死(SUDI), 死亡率, Back to sleep campaign(仰向け寝キャンペーン)
■要旨
乳幼児突然死症候群(SIDS)は,1歳未満乳児の主要死亡原因の一つである.世界的に発生率は減少しており,仰向け寝キャンペーン効果と考えられているが,定義の厳格化に伴う診断の移行もその要因として挙げられている.
我が国のSIDS発生率の変遷に関する報告はなく,我が国の現状のみならず,発生率抑制に寄与した因子は明らかでない.これ等を検討するために,人口動態統計を基にSIDSおよび,SIDSとの鑑別を要する原因不明と窒息について発生率の年次推移を,1995年から2015年まで調査した.
乳幼児の死亡全体は順調に減少しているが,SIDSを含む予期せぬ突然死(SUDI)の減少は2004年以降停滞している.SIDSは仰向け寝キャンペーンの翌年に発生率は著しく減少し,その後も順調に減少している.2005年の診断定義改訂で,診断に解剖が必須とされて以降SIDSは減少しているが,原因不明の診断は増加しており,SUDIの発生率も2005年以降横這いである.
我が国でも先進諸国同様に,仰向け寝キャンペーンがSIDS抑制に大きな効果を顕した.しかしながら,近年のSIDSの減少はむしろ見かけ上の減少で,SUDIの減少は停滞からむしろ増加傾向も認められた.
SUDI発生率を抑制するためには,死亡後調査を徹底し原因や危険因子を明らかにすることが必要と考えられた.
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【症例報告】
■題名
生後3週で診断され自然軽快した緩徐発症型後頭蓋窩硬膜下血腫
■著者
独立行政法人国立病院機構小倉医療センター 山下 文也 中嶋 敏紀 緒方 怜奈 酒見 好弘 渡辺 恭子 山下 博徳
■キーワード
新生児, 後頭蓋窩硬膜下血腫, 吸引分娩, 分娩外傷, 保存的治療
■要旨
後頭蓋窩硬膜下血腫(Posterior fossa subdural hematoma:PFSDH)は新生児頭蓋内出血の約10%を占め,多くは分娩外傷により発症し脳幹圧迫と二次性水頭症が生直後より急速に進行し,緊急手術を要することが多いとされている.我々は遷延する黄疸と脳室拡大をきっかけに生後3週でPFSDHの診断に至り,保存的管理にて良好な経過を辿った1例を経験した.症例は在胎37週5日に吸引分娩で出生した体重3,402 gの男児.日齢3に新生児黄疸の診断で入院,その際の頭部超音波検査では軽度脳室拡大を認めたが,後頭蓋窩を含め明らかな頭蓋内出血を指摘できなかった.2度の光線療法で黄疸は徐々に改善したが,日齢15の頭部超音波検査で脳室拡大の進行あり,頭部CTでPFSDH,二次性水頭症と診断した.脳幹圧迫症状や頭蓋内圧亢進症状がなく手術は行わず良好な経過を辿り,2歳となった現在も軽度脳室拡大は残存しているが,発達遅滞はない.緩徐発症型で手術に至った報告は散見されるが,保存的管理のみの報告は少なく,非特異的症状のみで自然軽快する軽症例は気付かれていない可能性がある.小児期の水頭症は後に発達障害のリスクとなり得るため,新生児期に軽症PFSDHを見逃さずに診断しておくことは重要であり,分娩時のリスクがある症例には積極的に超音波検査を行うなど,PFSDHの発症の可能性を念頭に置く必要がある.
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【症例報告】
■題名
急性心筋炎に腎梗塞を合併した12歳男児例
■著者
鳥取大学医学部周産期・小児医学 倉信 裕樹 橋田 祐一郎 坂田 晋史 美野 陽一 船田 裕昭 神﨑 晋
■キーワード
急性心筋炎, 血栓塞栓症, 抗凝固療法
■要旨
心筋炎に合併する左心内血栓の報告は稀である.今回私達は急性心筋炎に腎梗塞を合併した1例を経験したので報告する.
症例は12歳男児.ジョギング中に気分不良が出現,その後意識消失と数秒の痙攣発作があり,当院救急搬送された.胸部レントゲン:CTR 55%,著明な肺うっ血あり.心エコー:左室駆出率(EF)39%で,左室のび慢性収縮低下があり,左房と肺静脈の著明な拡大を認めた.急性心筋炎としてγグロブリンや血管作動薬で加療し,徐々に心機能改善した.しかし,入院3日目に突然左側腹部痛が出現,腹部造影CTにて左腎梗塞と診断し緊急腎動脈造影を施行した.左腎動脈本幹は近位部で血栓閉塞しており,局所的にウロキナーゼ計18万単位動注にて再灌流を得たが,血栓は硬く溶解困難であり,別の部位でできた陳旧性の血栓が塞栓を起こしたものと思われた.経胸壁心エコーにて明らかな血栓を認めず,左心耳内の血栓が原因と考えた.
著明な肺うっ血を伴う左心不全を来たした心筋炎ではあらかじめ抗凝固療法による血栓形成予防をすべきである.
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【症例報告】
■題名
水痘罹患4年後に脳梗塞をきたした学童例
■著者
徳島県立中央病院小児科 岡田 朝美 森 一博 大西 康裕 藤岡 啓介 佐々木 亜由美 庄野 実希 寺田 知正 永井 隆 井上 美紀
■キーワード
脳梗塞, 水痘, 再活性化, 血管症, 経頭蓋ドプラ
■要旨
水痘罹患4年後に脳梗塞を来たし,水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella zoster virus:VZV)の再活性化による血管障害の関与が疑われた症例を経験した.症例は12歳男児で,水痘罹患4年後に学校で頭痛と意識障害を来して救急搬送された.翌日から右片麻痺が明らかとなり,MRIで左線条体と前頭葉皮質に新鮮梗塞を認めた.このときのMRAでは主幹動脈に明らかな異常所見を認めなかったが,第7病日のMRAでは左中大脳動脈近位部に広範囲に数珠状の狭窄病変が出現していた.臨床的に帯状疱疹の所見は認めず,ペア血清でVZV IgGの上昇もみられなかったが,PCRにて髄液中のVZV DNAが陽性で,VZVの再活性化に伴う動脈性血管障害が考えられた.経頭蓋超音波ドプラ法(Transcranial Doppler:TCD)による評価では,左中大脳動脈本幹のカラーシグナルは乏しく,収縮期最高流速は著しく低速であった.また,収縮期波の下行脚から全拡張期を通じてなだらかに減速する特徴的パターンであった.エダラボン,アスピリンに加えてアシクロビルを2週間投与し臨床症状は改善傾向を認めたが,MRAおよびTCDの所見は改善なく,病変は持続固定している.本病態において脳血管の狭窄病変を経時的に観察した報告は少なく,脳梗塞の再発リスクとの関連なども含めて,症例の蓄積が望まれる.
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【症例報告】
■題名
初期に起因菌が特定できず鑑別に苦慮した大腸菌O165による溶血性尿毒症症候群
■著者
独立行政法人国立病院機構岡山医療センター小児科1),同 小児外科2) 江渕 有紀1) 清水 順也1) 兵頭 勇紀1) 古城 真秀子1) 久保 俊英1) 片山 修一2)
■キーワード
志賀毒素産生性大腸菌O165, 溶血性尿毒症症候群, 非典型溶血性尿毒症症候群, エクリズマブ
■要旨
小児期発症の血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy,TMA)はShiga toxin associated hemolytic uremic syndrome(STEC-HUS)がほとんどを占めるが,通常の検査で起因菌の確認が困難な場合は治療判断に難渋することがある.症例は1歳男児.下痢,血便が先行し,第6病日にHUSを発症した.経過からSTEC-HUSを疑ったが,初期には起因菌が特定できなかった.腎機能悪化と溢水を認め第7病日より血液透析を開始した.TMAの家族歴が疑われたため血栓性血小板減少性紫斑病や非典型HUS(atypical HUS,aHUS)を否定できず,血漿交換を施行したが著明な改善はなかった.a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13活性の著減がないことを確認し,第9病日にエクリズマブを投与した.第15病日から自尿を認め,透析を離脱できた.後に国立感染症研究所での精査にて大腸菌O165によるSTEC-HUSと診断した.O157以外のSTEC-HUS,aHUSを早期確定診断あるいは除外診断できる検査体制の確立が望まれるが,発症初期の便検体の適切な保存,地方衛生研究所や国立感染症研究所との連携も重要である.
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【症例報告】
■題名
中枢神経系に多発結核腫を認めた粟粒結核の小児
■著者
高崎総合医療センター小児科1),群馬大学医学部附属病院小児科2) 橋本 真理1)2) 村松 一洋2) 神尾 綾乃1) 五十嵐 恒雄1) 荒川 浩一2)
■キーワード
粟粒結核, 中枢神経結核, 脳結核腫, paradoxical enlargement
■要旨
症例は,発熱と咳嗽を主訴に受診した生来健康な14歳男児.当初市中肺炎としてミノサイクリンにて治療を行っていたが改善せず,胸部CT(computed tomography)や胸水所見から結核感染が疑われた.胃液培養より結核菌が検出され抗結核薬4剤にて加療したが,解熱せず,頭痛や嘔吐が出現した.頭部MRI(magnetic resonance imaging)では脳結核腫が多発しており髄膜炎の所見も認めたため,ステロイド薬を追加投与したところ速やかに症状は消退した.1か月後よりステロイド薬を漸減し,144病日に退院.リファンピシン,イソニアジドを1年間投与し治療を終了した.現在まで後遺症,再発なく経過している.
本症例は低栄養や免疫不全など基礎疾患を有さず,頭部MRIで特徴的な結核腫の所見を呈した.小児では結核は過去の疾患と思われがちであるが,粟粒結核をみた場合,治療経過中に脳結核腫のparadoxical enlargementが出現することがあるため中枢神経系の画像検索が必要である.
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【症例報告】
■題名
中学生スポーツ選手に発症した黄色ブドウ球菌による菌血症合併化膿性恥骨骨髄炎の2例
■著者
総合病院国保旭中央病院小児科 本間 利生 北澤 克彦 本多 昭仁 青木 義紘 荒畑 幸絵 小林 宏伸 仙田 昌義
■キーワード
化膿性恥骨骨髄炎, 化膿性恥骨結合炎, 菌血症, スポーツ, 黄色ブドウ球菌
■要旨
近年,高校生スポーツ選手に発症した化膿性恥骨骨髄炎の報告例が散見される.われわれは,黄色ブドウ球菌による菌血症合併化膿性恥骨骨髄炎と診断した中学生スポーツ選手2例を経験した.症例1はバレーボール部所属の13歳女児.発熱,下腹部から両側鼠径部の疼痛,歩行困難を訴え救急外来(ER)を受診した.白血球数6,800/μL,CRP 0.68 mg/dL.腹部骨盤CTで異常所見を認めなかったが経過観察目的で入院した.入院時の血液培養でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が発育し,入院18日目のMRI所見と合わせて化膿性恥骨骨髄炎と診断した.cefazolinを含む8週間の抗菌薬治療で後遺症なく軽快した.症例2は野球部ピッチャーの14歳男児.発熱と左鼠径部痛で前医を受診した際には,白血球数14,600/μL,CRP 0.65 mg/dL,骨盤CT,MRIで異常を認めなかった.ceftriaxone静注後帰宅したが,翌日も症状が持続するため当院ERを受診し入院した.入院時の血液培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が発育し,入院3日目のMRI所見と合わせて化膿性恥骨骨髄炎と診断した.vancomycinを含む計6週間の抗菌薬治療を行い後遺症なく軽快した.2例の共通点として,運動部でのスポーツ活動,下腹部や鼠径部など恥骨から離れた部位の強い疼痛,初診時血液検査での軽微な炎症所見と乏しい画像所見,菌血症の合併,があげられた.化膿性恥骨骨髄炎の早期診断は困難であるが,日常的にスポーツを行っている学齢期小児が下腹部痛や鼠径部痛で受診した場合には緊急疾患の一つとして鑑別診断に挙げるべきである.
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【症例報告】
■題名
頸椎MRI所見から診断に至った乳幼児揺さぶられ症候群
■著者
自治医科大学小児科1),同 小児画像診断部2),芳賀赤十字病院小児科3) 尾崎 理史1) 宮内 彰彦1) 松本 歩1) 門田 行史1) 保科 優3) 菊池 豊3) 古川 理恵子2) 小坂 仁1) 相原 敏則2) 山形 崇倫1)
■キーワード
虐待, abusive head trauma, shaken baby syndrome, 頸椎MRI, 両側性低酸素性虚血性脳損傷
■要旨
虐待関連頭部外傷(Abusive head trauma:AHT)は,乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken baby syndrome:SBS)を含む虐待による脳,脊髄,頭蓋損傷の総称である.乳児の頭部外傷ではAHTと偶発的外傷との鑑別が必要となるが,身体所見,眼底所見,頭部画像所見などから総合的な判断が求められ,しばしば鑑別が困難である.今回,頸椎MRI所見がAHTの鑑別に有用であった症例を経験した.症例は3か月男児で,父と入浴中に心肺停止状態となった.受傷機転不明の急性硬膜下血腫,眼底出血を認めたことからAHTを疑ったが,入院時の問診では虐待を疑うエピソードは確認できなかった.硬膜下血腫のみでは説明困難な心肺停止状態とびまん性脳浮腫を認めたことから頸髄の損傷を疑い,頸椎MRIを撮像した.STIR(Short Tau Inversion Recovery)矢状断像では項靭帯や棘間靭帯などの椎体支持組織および頸髄内部が高信号を示し,頸髄損傷を示唆する所見を認めた.後日,父が本児を強く揺さぶったことが確認され,SBSによる上位頸髄損傷から呼吸停止および心肺停止状態に至ったと判断した.受傷機転が不明あるいはSBSが疑われた乳児頭部外傷で,びまん性脳浮腫を認める場合には頸椎MRI所見がAHT鑑別の客観的指標として有用であると考えられた.
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【論策】
■題名
災害時小児周産期リエゾンという新たな災害支援
■著者
日本小児科学会災害対策委員会1),日本小児救急医学会災害医療委員会2),国立病院機構災害医療センター臨床研究部3),あいち小児保健医療総合センター救急科4),九州大学病院救命救急センター5),東京都立小児総合医療センター救命・集中治療部6) 伊藤 友弥1)2)4) 岬 美穂1)2)3) 賀来 典之5) 井上 信明2)6) 齊藤 修2)6) 清水 直樹1)2)6)
■キーワード
災害時小児周産期リエゾン, 災害医療
■要旨
平成23年3月に発災した東日本大震災では多くの尊い人命が失われたと同時に,多くの医療機関が被災し,地域での医療提供が困難となった.小児周産期医療も例外ではなく,被災直後の現場では臨機応変に対応をすることで困難を乗り越えていた.日本小児科学会では東日本大震災の経験を総括し,報告書としてまとめている.その中で,被災した地域における小児周産期医療ニーズへの対応体制の構築,小児医療ネットワークの形成,支援物資の供給体制構築,DMAT(Disaster Medical Assistance Team)との連携体制の構築が必要であると報告した.また,厚生労働省の研究班でも,災害時の小児周産期医療システムと行政の連携,災害拠点病院と総合周産期母子医療センターとの連携の必要性等が提言されている.そのような背景の中,災害時に小児周産期医療の情報収集・医療調整・保健活動に関するコーディネート機能を持ったリエゾンの設置が検討されたのと同時に,厚生労働省では「災害時小児周産期リエゾン」設置に向けた対応がされた.
平成28年4月に熊本県を中心に発災した地震では,熊本県庁内で初めて災害時小児周産期リエゾンが活動した.実際には災害時小児周産期リエゾンは小児医療と周産期医療(産科医療)の両者を扱うが,本稿では熊本での活動実績とともに小児科医の視点で小児医療を中心とした災害時小児周産期リエゾンの有効性と今後の課題について報告する.
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【論策】
■題名
重症心身障害児の病院における医療型短期入所のアクシデント・インシデントの分析
■著者
大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター小児科 吉田 之範 室谷 貴弘 釣永 雄希 高橋 真市 重川 周 井庭 憲人 高岡 有理 亀田 誠 土居 悟
■キーワード
重症心身障害児, ショートステイ, インシデント, アクシデント, 医療的ケア
■要旨
近年,在宅で医療的なケアが必要な重症心身障害児(以下,重症児)は増加し,短期入所のニーズは高まっている.しかし,他院がかかりつけ医である児のショートステイを受け入れる場合は,日ごろ慣れていない医療機器を扱うため,アクシデントやインシデントが発生しやすいとも言える.我々は大阪府から医療型短期入所(空床利用型)実施の依頼を受け,準備期間を経て2015年2月から小児病棟でショートステイ1床を開始した.実施に当たりアクシデントやインシデントが発生した時に院内医療安全室への報告を徹底し,その都度改善すべき点の検討や研修を行った.今回,報告されたアクシデントやインシデントを分析し,かかりつけ医でない医療機関でショートステイを安全に行うために求められる対策を検討した.【対象】2015年2月から2016年7月の間に,ショートステイで利用した児11名.【方法】アクシデントやインシデントの件数と内容を後方視的に検討した.【結果】アクシデント0件,インシデント34件であった.患者影響レベルの低いものが多かった.インシデントは実施日数が増えるに従い開始4か月目から増加したが,9か月目以降は減少した.【考察】かかりつけ医でない医療機関が安全にショートステイを行うための具体的対策の一つは,低いレベルのインシデントでも報告を徹底し,改善すべき点の検討や研修を反復することである.
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