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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:17.7.18)
第121巻 第7号/平成29年7月1日
Vol.121, No.7, July 2017
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総 説 |
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松野 良介,他 1151 |
原 著 |
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松本 真輔,他 1161 |
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成相 昭吉,他 1166 |
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佐藤 大祐,他 1173 |
症例報告 |
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寺下 新太郎,他 1179 |
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井上 忠,他 1184 |
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飯田 貴也,他 1189 |
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阪口 嘉美,他 1196 |
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平野 瑶子,他 1203 |
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金井 瑞恵,他 1209 |
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杉浦 英恵,他 1216 |
論 策 |
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小保内 俊雅,他 1224 |
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江原 朗 1230 |
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地方会抄録(東京・滋賀・福井・山形・栃木・福岡・熊本・鹿児島・東海)
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1237 |
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1276 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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No. 71 自転車運転中の保護者に背負われた状態から転倒時に放出され重症頭部外傷を負った乳児
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1277 |
日本小児科学会災害対策委員会活動報告 |
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日本小児科学会災害対策委員会の熊本地震における支援活動と今後の課題
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1281 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会報告 |
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1289 |
日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告 |
リレーコラム キャリアの積み方─私の場合14 |
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1292 |
日本小児医療保健協議会重症心身障害児(者)・在宅医療委員会報告 |
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重症心身障害児(者)あるいは医療的ケアが必要な患者の在宅療養移行過程における親の付き添いと専門職のかかわりに関する調査
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1294 |
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1303 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2017年59巻6号6月号目次
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1310 |
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1312 |
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1313 |
【総説】
■題名
神経芽腫群腫瘍のリスク分類とPrecision Medicine
■著者
ロサンゼルス小児病院病理学教室 松野 良介 嶋田 博行
■キーワード
神経芽腫, MYCN遺伝子, ALK遺伝子, MYCタンパク
■要旨
本稿前編では神経芽腫群腫瘍(以下本群腫瘍)の国際神経芽腫病理分類について詳述した.この後編では病理分類以外の予後因子,すなわち臨床病期,診断時年齢,および分子生物学的マーカーを紹介し,Children's Oncology GroupとInternational Neuroblastoma Risk Groupそれぞれが提唱しているリスクグルーピングシステムについて説明する.さらに後半ではPrecision Medicineへと話を進め,特に高リスク腫瘍に対してより効果的で副作用の少ない治療戦略のためのActionable/Druggableな標的としてのALK遺伝子異常について言及するとともに,我々の最近の研究による“MYC family-driven neuroblastoma”という新概念を報告する.この概念は遺伝子増幅よりもタンパク過剰産生がより直接的に本腫瘍群の不良な予後と関係するというデータに基づく.“MYC family-driven neuroblastoma”では,MYCNまたはMYCタンパクの過剰発現があり,腫瘍細胞にはタンパク過剰合成に伴う核小体の大型化をみる.我々はこれらのタンパクと大型化した核小体が今後の神経芽腫研究のうえで臨床試験を発展させるための重要な標的になる可能性があると期待している.
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【原著】
■題名
A群溶連菌感染後の尿検査の必要性
■著者
松戸市立病院小児医療センター小児科 松本 真輔 平本 龍吾 江口 広宣
■キーワード
急性糸球体腎炎, A群溶連菌感染症, 尿検査, 合併症
■要旨
A群溶連菌(GAS)感染後の尿検査は,一般小児科の臨床現場で慣例として施行されていることも多いが,その必要性については様々な意見がある.本研究では,当科における溶連菌感染後急性糸球体腎炎(APSGN)35例の発見契機などをまとめ,GAS感染後の尿検査の必要性を中心に後方視的に検討した.まず,APSGNと抗菌薬治療の関連について考察した.GAS陽性で治療していた7例中5例は十分な抗菌薬を投与されていたにもかかわらずAPSGNを発症していた.つまり十分な抗菌薬が投与されていてもAPSGN発症の可能性はある.次に,GAS感染後の尿検査の必要性について考察した.GAS感染後の尿検査で発見されたのは3例であった.なお,この3例は当科受診時に眼瞼浮腫を認めていた.またGAS陽性で治療していても4例は眼瞼浮腫か肉眼的血尿で発見されていた.その他の症例もほとんどが眼瞼浮腫もしくは肉眼的血尿を主訴に発見されていた.したがって,眼瞼浮腫と肉眼的血尿を目安とすれば,ほとんどのAPSGNを発見できる可能性が高い.今回の検討からGAS感染後の尿検査を全例には実施する必要はないと考える.患児や保護者に対しては,十分な抗菌薬が投与されていてもAPSGN発症の可能性があること,また,APSGNのさまざまな症状,特に眼瞼浮腫や肉眼的血尿を説明し,理解してもらうことが重要である.
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【原著】
■題名
PCV13移行前後における乳幼児上咽頭から検出された肺炎球菌の耐性率
■著者
横浜南共済病院小児科 成相 昭吉 矢内 貴憲 金高 太一
■キーワード
肺炎球菌, 血清型, 肺炎球菌結合型ワクチン, ペニシリン耐性, マクロライド耐性
■要旨
7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)が導入された2010年以降,下気道感染症乳幼児例の上咽頭から分離検出された肺炎球菌株を対象に,血清型とともにペニシリン(以下PCG)耐性率およびマクロライド(以下EM)耐性率・高度マクロライド耐性率(クリンダマイシンにも耐性)を調べてきた.今回,13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)に移行される前の2011年から2013年10月までの各年度と,PCV13移行後の2013年11月から2014年10月まで(2014年度)の成績を,すでに報告した2010年度の成績と比較した.
2010年度に71%であったPCG耐性率は,2011年度以降,53%,55%,49%,43%と減少した.2010年度に検出された肺炎球菌株の61%がPCV7血清型で,そのPCG耐性率は82%と高率であった.2014年度にPCV7血清型の検出率は1%になっていたことから,PCV7導入・接種の普及,PCV13への移行はPCV7血清型を排除し,その結果,PCG耐性率が改善したと考えられた.
一方,2010年度のEM耐性率は97%,高度マクロライド耐性率は64%であった.2011年度以降もEM耐性率は96%を越え続け,高度マクロライド耐性率は50%,61%,69%,75%と上昇した.PCV接種の普及は,EM耐性率には影響を与えなかった.
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【原著】
■題名
日本における小児嚢胞性線維症の臨床的特徴
■著者
国立病院機構別府医療センター小児科 佐藤 大祐 古賀 寛史
■キーワード
膵臓外分泌不全, 体重増加不良, 胎便性イレウス, 嚢胞性線維症, 緑膿菌
■要旨
嚢胞性線維症Cystic Fibrosis(CF)はcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)遺伝子変異を原因として発症し,気道の反復性感染症や膵臓外分泌不全,胎便性イレウスを主症状とする常染色体劣性遺伝疾患である.1994年から2015年までの22年間に発表された日本国内の報告44編,52例に自験例1例を加えた53例について臨床特性を検討した.診断時の主要症状として最も多く認められたのは,新生児期は胎便性イレウス(100%),乳児期は体重増加不良(63%),1歳以降は慢性呼吸器症状(97%)であった.緑膿菌の気道内保菌率は全体の85%であった.表現型は国内外ともに同様であったが,国内で確認されたCFTR遺伝子変異の28%は国外で未報告であり,国内外で遺伝子変異型が異なっていた.従って国内では遺伝子検査よりも特徴的な症状に基づいた臨床診断が重要と考えられた.さらに我が国では診断時点で既に成長障害や呼吸障害が進行していることが判明した.国内では稀な疾患であるが,胎便性イレウスや乳児期の体重増加不良の鑑別診断の一つとしてCFを挙げることが早期診断治療のために重要である.
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【症例報告】
■題名
Williams症候群に特徴的な心血管病変のみを有したELN遺伝子異常症
■著者
富山大学大学院医学薬学研究部小児科1),富山県立中央病院小児科2),東京女子医科大学循環器小児科3) 寺下 新太郎1) 仲岡 英幸1) 伊吹 圭二郎1) 小澤 綾佳1) 廣野 恵一1) 足立 雄一1) 藤田 修平2) 中西 敏雄3) 市田 蕗子1)
■キーワード
Williams症候群, ELN遺伝子, 大動脈弁上狭窄, 末梢性肺動脈狭窄, 肺動脈弁上狭窄
■要旨
Williams症候群(Williams-Beuren syndrome:WBS)はELN遺伝子を含めた7q11.23領域の微細欠失が原因とされ,心血管病変として主に大動脈弁上狭窄,末梢性肺動脈狭窄を伴う.我々はWBSに特徴的な心血管病変を有するが7q11.23領域の欠失を認めず,ELN遺伝子のナンセンス変異を認めた1例を経験した.症例は日齢0の女児.胎児期に異常を認めず,出生後に大動脈弁上狭窄,肺動脈弁上狭窄と診断した.10か月時の心臓カテーテル検査により細い上行大動脈を伴う大動脈弁上狭窄,肺門部から狭小化する末梢性肺動脈狭窄,肺動脈弁上狭窄を認めた.また高血圧,高レニン血症を伴い,Multi Detector-row Computed Tomographyから両側腎動脈狭窄による腎血管性高血圧と診断しカルベジロールの内服を開始した.精神発達遅滞や外表奇形を認めなかったが特徴的な心血管病変を有することからWBSを疑い7q11.23領域のFISH法による欠失の有無を確認したが欠失は認めなかった.ELN遺伝子変異解析を行った結果未報告のExon 24のナンセンス変異を認め,一連の症状はELN遺伝子変異に起因する心血管病変と考えられた.WBSに特徴的な心血管病変を有する場合FISH法で陰性であってもELN遺伝子変異のみ存在する症例があり,合併症の検索を含めた病態把握が重要と考えられる.
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【症例報告】
■題名
ステロイド,血漿交換,インフリキシマブ治療後に真菌感染を合併した難治性川崎病
■著者
久留米大学医学部小児科学教室 井上 忠 岸本 慎太郎 鍵山 慶之 吉本 裕良 工藤 嘉公 山下 裕史朗 須田 憲治
■キーワード
川崎病, ステロイドパルス, infliximab, 血漿交換, 深在性真菌感染
■要旨
症例は5歳男児.種々の治療にも関らず発熱が約20日間続き,巨大冠動脈瘤を形成し,その後真菌症を合併した重症難治性川崎病の1例を経験した.5病日に大量ガンマグロブリン静注(intravenous immunoglobulin:IVIg),6病日から9病日にかけてステロイドパルスとIVIgの併用を反復したが炎症反応の改善を認めず,10病日から12病日にかけて血漿交換を3クール行い炎症反応は一過性に低下したが持続し,13病日にインフリキシマブ投与して炎症反応の陰性化を認めた.37度台の微熱が持続し,19病日に38度台の再発熱を認めたため,アスピリン増量,再度IVIgを行ったところ,解熱と手指の膜様落屑を認め川崎病は急性期から回復期に入ったと判断した.ところが23,29病日に川崎病症状の再出現なく,再度38度台の発熱を認めた.各種検査の結果,原発巣は不明であったがβ-Dグルカン上昇とアスペルギルス抗原陽性により深在性アスペルギルス感染と診断し,抗真菌剤を開始し解熱した.巨大冠動脈瘤に対しては抗血栓療法を行いながら定期的に冠動脈造影検査を行っている.川崎病の治療中に再発熱を認めた際,川崎病の再燃と感染との鑑別が難しい場合がある.我々は実際にアスペルギルス感染を起こした症例を経験した.重症川崎病の治療中に再発熱した場合,真菌感染の合併も視野にいれ検索する必要がある.
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【症例報告】
■題名
後期新生児期に発症した特発性脳軟膜下出血
■著者
神奈川県立こども医療センター総合診療科1),同 新生児科2),横浜市立みなと赤十字病院小児科3) 飯田 貴也1) 田上 幸治1) 松井 潔1) 柴崎 淳2) 田中 晶3) 安藤 枝里子3) 堀口 晴子3) 菊池 信行3)
■キーワード
軟膜下出血, 脳葉出血, 静脈血栓, Labbé静脈, 乳幼児揺さぶられ症候群
■要旨
特発性脳軟膜下出血(Spontaneous superficial parenchymal and leptomeningeal hemorrhage:SSPLH)はHuangらが報告した早期新生児期に発症する頭蓋内出血の一病型である.後期新生児期に哺乳不良と嘔吐で発症したSSPLHを報告した.頭位経腟分娩で出生した正期産女児で,日齢16の頭部エコーで右側頭葉に高輝度病変,CTで右側頭葉出血を認めた.痙攣と脳浮腫にフェノバルビタール,濃グリセリン・果糖を投与し有効だった.出血病変は数個の脳回におよぶ皮質下優位の実質出血と厚さ1.5 cmの髄軟膜下出血,左への正中偏位を認めた.MRIは急性出血の画像所見で,外科治療は行わず,日齢33に退院した.血小板低下,ビタミンK欠乏を含む凝固異常,血管奇形,静脈洞血栓,虐待による頭部外傷は検査等で除外しSSPLHと診断した.発達は正常範囲で,1歳のMRIで病変部は嚢胞変性し,ヘモジデリン沈着を認めた.磁気共鳴静脈撮影で右Labbé静脈の欠損を認め,病因として表在静脈血栓が疑われた.Huangの報告,過去の当院の4例,本邦の報告7例は全例日齢6までに発症しており,本例は非典型例と考えられた.新生児静脈洞血栓症には症状潜伏期があるとされ,SSPLHにも発症に関して同様の機序が存在する可能性がある.
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【症例報告】
■題名
エクリズマブが著効した抗H因子抗体陽性非典型溶血性尿毒症症候群
■著者
宮崎大学医学部発達泌尿生殖医学講座小児科学分野1),佐賀大学医学部小児科2) 阪口 嘉美1) 今村 秀明1) 田中 悦子1) 織田 真悠子1) 此元 隆雄1) 大塚 泰史2) 布井 博幸1)
■キーワード
非典型溶血性尿毒症症候群, 抗H因子抗体, CFHR蛋白, DEAP-HUS(Deficiency of CFHR plasma proteins and autoantibody-positive form of HUS), エクリズマブ
■要旨
非典型溶血性尿毒症症候群は補体第二経路の異常活性により発症する疾患であるが,抗C5モノクローナル抗体であるエクリズマブが本邦でも使用可能となり,予後の改善が期待される.
症例は生来健康な7歳男児.頭痛,嘔吐を主訴に受診し入院となった.溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害を認め,血栓性微小血管症の状態であった.血漿交換を行いながら鑑別をすすめ,志賀毒素産生性大腸菌感染やADAMTS13活性低下を否定し非典型溶血性尿毒症症候群と診断した.9病日にエクリズマブを投与し,数日で臨床所見,検査所見の著明な改善が得られ,後遺症なく退院した.補体精査で抗H因子抗体陽性ならびにCFHR3-CFHR1欠失を認め,非典型溶血性尿毒症症候群の一病型であるDEAP-HUS(deficiency of CFHR plasma proteins and autoantibody-positive form of hemolytic uremic syndrome)と診断した.急性期治療後に抗H因子抗体価は速やかに低下し,以後もエクリズマブ定期投与を継続し発症後18か月現在まで再発なく経過している.
DEAP-HUSは,CFHR異常を背景に感染等を契機として抗H因子抗体が産生される病態であるが,急性期のエクリズマブ使用の報告は少なく,その有効性が示された.また,維持治療では抗体産生抑制を目的とした免疫抑制剤が推奨されているが,その選択や効果は確立していない.他の補体因子異常の併存の可能性なども想定され,維持治療としてのエクリズマブも選択肢として考慮してよいと考えられた.
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【症例報告】
■題名
母体要因により新生児期に発症したビタミンD欠乏症
■著者
太田綜合病院附属太田西ノ内病院小児科 平野 瑶子 絹巻 暁子 生井 良幸
■キーワード
ビタミンD欠乏症, 母乳, 痙攣, 新生児, 低カルシウム血症
■要旨
新生児期に発症するビタミンD欠乏症は,母体のビタミンD欠乏症による胎児期からのビタミンD不足が主な要因であり,母児双方への対策が必要である.
母体要因による胎児期からのビタミンD不足が原因で,新生児期に発症したビタミンD欠乏症の1例を経験した.在胎38週,2,505 gで出生した男児は,日齢12に四肢のミオクロニー発作を発症した.日齢14の血液検査で,Ca 4.9 mg/dl,P 3.4 mg/dl,25-(OH)-D<4 ng/mlであり,ビタミンD欠乏症と診断した.母親の検査で,潜在性ビタミンD欠乏症が分かり,胎児期からのビタミンD不足が発症に関与していたことが示唆された.母親に基礎疾患はなく,著しい偏食によるビタミンD摂取不足に加え,冬季の妊娠であったことによる日照不足が重なり,児のビタミンD欠乏症を発症したと判明した.
新生児期に発症するビタミンD欠乏症を防ぐためには,出生後早期の児へのビタミンD補充と母体ビタミンD欠乏症の予防が重要であり,早急な対策が求められる.
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【症例報告】
■題名
先天梅毒の2例
■著者
成田赤十字病院新生児科 金井 瑞恵 戸石 悟司
■キーワード
先天梅毒, Congenital Syphilis, 未受診妊婦, 母子感染
■要旨
近年本邦で,20歳代を中心とする女性の梅毒および先天梅毒の報告数が増加している.未受診妊婦から出生した先天梅毒の2例を経験した.
症例1は日齢0,男児.母親は20歳未婚.分娩時に梅毒感染が判明した.児は出生体重1,526 g,梅毒性天疱瘡を認め,肝機能異常,IgM高値およびX線での梅毒性骨軟骨炎所見から診断した.髄液は軽度の細胞数増多,蛋白上昇を認めた.Ampicillin 7日間,Amoxicillin 7日間(計14日間)で加療し後遺症は認めない.症例2は日齢0,男児.母親は21歳未婚.妊婦健診の受診は不定期で梅毒の治療に至らず,胎児腹水,胎児機能不全のため緊急帝王切開術で児を出生した.児は出生体重2,196 g,老人様顔貌,梅毒性天疱瘡,肝脾腫を認め,児血清のfluorescent treponemal antibody-absorption(FTA-ABS)IgM陽性から診断した.髄液は細胞数増多,蛋白上昇,rapid plasma reagin(RPR)定量検査2倍を認めた.Ampicillin 12日間,Amoxicillin 2日間(計14日間)で加療した.
未受診妊婦から出生した児に対しては先天梅毒を考慮し,包括的な診療を行う必要がある.また,先天梅毒の予防のためには,妊婦への妊婦健診の定期受診と妊娠中の感染予防についての啓発を行うことが重要である.
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【症例報告】
■題名
重症肺炎随伴性胸水を合併した自己免疫性好中球減少症の幼児
■著者
金沢大学小児科1),独立行政法人地域医療機能推進機構金沢病院小児科2),福井県済生会病院小児科3) 杉浦 英恵1) 伊川 泰広1) 越野 恵理1) 谷内 裕輔1) 井上 なつみ1) 加藤 明子1) 和田 泰三1) 東馬 智子1) 岡本 浩之2) 加藤 英治3) 谷内江 昭宏1)
■キーワード
自己免疫性好中球減少症, 肺炎随伴性胸水, 抗好中球抗体
■要旨
自己免疫性好中球減少症(autoimmune neutropenia:AIN)は,好中球抗原に対する自己抗体により好中球が破壊され易感染性を呈する自己免疫性疾患である.重症先天性好中球減少症と比較して,3歳頃までに自然寛解するため好中球減少期間は比較的短期間であり,また,細菌感染症に罹患すると一時的に好中球数が増加することから,一般的に予後良好な疾患である.しかし,稀ではあるが重症感染症をきたした報告もあり,重症化の事前予測が困難であることから注意深い経過観察が重要である.今回我々は,細菌性肺炎に肺炎随伴性胸水を合併し胸腔鏡下洗浄・搔爬術を要したAINの2歳女児例を経験した.本例が重症化した要因ついて考察し,過去の重症化症例も含めて報告する.また,発熱を主訴に入院した患児5,343人の好中球数およびCRP値を年齢ごとに解析した.その結果,1歳未満の発熱罹患児にCRP値が高値にもかかわらず末梢血好中球数が500/μL未満の群が2歳以上の年齢層と比較して有意に高率に存在することが示され,潜在的にAINの症例が存在することが示唆された.日常臨床の中で好中球数が低下した症例を見逃すことなくAIN症例を確実に診断し,注意深い経過観察を行う事で,重症感染症の合併を未然に防ぐことが重要と考えられた.
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【論策】
■題名
安全で安心な保育環境の構築に向けて
■著者
公益財団法人東京都保健医療公社多摩北部医療センター小児科1),北九州市立八幡病院2),緑園こどもクリニック3),東京女子医科大学母子総合医療センター4) 小保内 俊雅1)4) 市川 光太郎2) 山中 龍宏3) 仁志田 博司4)
■キーワード
保育施設, Sudden Unexpected Death in Infant(SUDI), Child Death Review(CDR)
■要旨
近年保育需要の拡大に伴い,保育園児数が急速に増え,また預かり児の低年齢化も進んでいる.一方,保育施設で発生する死亡事案は年々増加傾向である.死亡事案のうち特に就寝中に発生する乳幼児の予期せぬ突然死(SUDI)は,一般的に発生するSUDIと異なる疫学的様相を呈している.その第一は,1・2歳児のSUDI発生数が高く,保育施設における1・2歳児のSUDI発生率は,日本社会全体のそれを超えていることである.次に,一般的には1歳を超えた児では危険度が低減していると考えられる腹臥位に関しても,保育施設では危険因子の一つであると考えられた.このように,保育施設で発生するSUDIは,保育施設固有の環境因子が関与していることが推察された.安全で安心な保育環境確立のために,これらの事案を集約し,法医病理学,病理学,小児科学などの専門家による解析を行い,死亡原因や死亡メカニズムを明らかにした上,この解析により抽出された危険因子を,保育などの専門家を加え,多職種による多職種の立場から検討し,予防可能性や予防法を検討するChild Death Reviewの実施が必要であると考えられた.
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【論策】
■題名
中核病院小児科・地域小児科センターへの自動車による60分到達圏の面積と小児人口
■著者
広島国際大学医療経営学部 江原 朗
■キーワード
中核病院小児科, 地域小児科センター, アクセス, 地理情報システム, ダイクストラ法
■要旨
【目的】中核病院小児科・地域小児科センターへの自動車によるアクセスに関する指標を提示する.
【方法】全国を217,186に分割した街区資料および全国の道路データをもとに,各中核病院小児科・地域小児科センターに自動車により60分以内で到達できる圏域の面積および居住する小児人口(0〜14歳人口)を地理情報システム(GIS)で計算し,国土および小児人口全体に占める比率を明らかにした.さらに,渋滞や天候不良によって速度が低下した場合を考慮して30分到達圏の計算も行った.
【結果】60分到達圏の面積および小児人口は,全国の国土面積および小児人口の50.9%および94.3%であった.地方間で比較すると,北海道や東北で面積,小児人口の比率がともに全国値を下回っていた.30分到達圏の面積および小児人口は,60分到達圏の0.39倍および0.88倍であった.
【結論】中核病院小児科・地域小児科センターへの自動車による60分到達圏に全国の小児の94.3%が居住していた.一方,30分到達圏の小児人口は60分到達圏の0.88倍であり,渋滞や天候不良により自動車の移動速度が低下しても,多くの小児は60分以内に中核病院小児科・地域小児科センターに到達可能であると思われた.
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