 |
日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:17.6.16)
第121巻 第6号/平成29年6月1日
Vol.121, No.6, June 2017
バックナンバーはこちら
|
 |
|
総 説 |
|
松野 良介,他 985 |
原 著 |
|
船戸 正久,他 993 |
|
石井 隆大,他 1000 |
|
大橋 正博,他 1009 |
|
清水 圭祐,他 1017 |
|
石川 悟,他 1024 |
症例報告 |
|
山田 慎吾,他 1030 |
|
前田 仁美,他 1035 |
|
永原 敬子,他 1040 |
|
大貫 裕太,他 1049 |
|
萩原 秀俊,他 1054 |
|
山口 陽子,他 1059 |
短 報 |
|
戸石 悟司,他 1063 |
論 策 |
|
川瀬 昭彦,他 1067 |
|
地方会抄録(茨城・岩手・福岡・千葉・山梨・鹿児島・宮城・青森・静岡・北陸・石川)
|
|
1075 |
|
1138 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2017年59巻5号5月号目次
|
|
1142 |
|
1145 |
|
1146 |
|
1148 |
|
1149 |
|
1150 |
【総説】
■題名
国際神経芽腫病理分類の解説とその実際
■著者
ロサンゼルス小児病院病理学教室 松野 良介 嶋田 博行
■キーワード
神経芽腫, 神経堤細胞, シュワン細胞, 国際神経芽腫病理分類
■要旨
神経芽腫群腫瘍(以下本群腫瘍:神経芽腫,神経節芽腫,神経節腫を含む)は脳腫瘍以外で最も多く見られる小児固形腫瘍である.本群腫瘍は自然退縮または成熟する予後良好症例と治療抵抗性で致死率の高い予後不良症例に大別される.これら生物学的/臨床的に特性の異なる腫瘍群に対して,より効果的で副作用の少ない治療戦略を構築するため,Children's Oncology Group(COG)Neuroblastoma Biology Studyでは様々な予後因子を組み合わせることによって作成したリスクグルーピングシステムをもとに症例を低,中間,および高リスクに層別している.COG神経芽腫Pathology Reference Laboratoryでは米国,カナダ,オーストラリア,ニュージーランドからCOGに登録された本群腫瘍全例を国際神経芽腫病理分類によりFavorable Histology GroupまたはUnfavorable Histology Groupに分類している.我々はこの中央病理診断により症例の層別化に貢献して適切な臨床試験の運用を促すとともに,さらにTranslational Researchの一翼を担うべく努力を続けている.本稿前編ではこの中央病理診断において日常的に気をつけている点を中心に組織像と病理分類について解説する.
|
|
【原著】
■題名
在宅移行中間施設としての療育施設の役割
■著者
大阪発達総合療育センター小児科 船戸 正久 竹本 潔 飯島 禎貴 和田 浩 羽多野 わか 藤原 真須美 片山 珠美
■キーワード
医療型障害児入所施設, 超重症児, 在宅移行支援プログラム, 多職種協働, 中間施設
■要旨
目的:NICUなどでの長期入院児が全国で大きな問題となり,在宅移行を行う中間施設が求められるようになっている.当施設は医療型障害児入所施設であるが,多職種協働で在宅移行の中間施設としての役割を2011年以降担ってきたのでその経験を報告する.
対象および方法:当センターで2〜3か月転院し,在宅移行支援・総合リハビリテーション支援・ショートステイ利用準備を目的に,多職種協働支援プログラムを作成した.対象は,在宅生活を希望しているが,その移行が困難なNICUなどの長期入院児である.2011年4月から5年間に28例を受け入れた.
結果:大阪NMCS(新生児診療相互援助システム)病院を中心に18病院からの問い合わせが42件あった.5年間で当センター在宅移行支援プログラムの実利用人数は28例,内在宅移行できた例は21例(75%)であった.内1例は在宅移行後他の施設に入所,1例は在宅移行後2年で家族に看取られて家庭で永眠した.在宅移行症例の全例(100%)が,当センターや他のショートステイを利用しながら在宅生活を継続している.
結語:医療型障害児施設は,多職種協働による生活モデルとしての療育支援・生活支援などのノウハウがあり,人材や財源が充分確保されれば本人と家族の最善の利益を中心に中間施設の役割を担える可能性が示唆された.
|
|
【原著】
■題名
小児心身症評価スケール(Questionnaire for triage and assessment with 30 items)
■著者
久留米大学小児科1),久留米大学バイオ統計センター2),長崎県立こども医療福祉センター小児心療科3),八尾徳洲会総合病院小児科4),青山学院大学教育人間科学部教育学科5),石谷小児科医院6),聖マリア病院小児科小児総合研究センター・レット症候群研究センター7),OD低血圧クリニック田中8),日本小児心身医学会9) 石井 隆大1) 永光 信一郎1) 櫻井 利恵子2) 小柳 憲司3) 神原 雪子4) 古荘 純一5) 石谷 暢男6) 角間 辰之2) 山下 裕史朗1) 松石 豊次郎7) 田中 英高8) 日本小児心身医学会研究委員会9)
■キーワード
小児, 心身症, トリアージ, アウトカム評価, 質問紙
■要旨
日本小児心身医学会では,心の問題を示す子どもを早期にスクリーニングするために,また医療的支援による心の症状の改善を経時的に評価するために,心身症のトリアージ・アセスメント評価ツール(QTA30)を開発した.小学4年生から高校1年生まで5,778名を対象に,QTA30,日本語版KINDLRを実施した.QTA30は心身医学診療で聴取される患児の身体症状,精神症状の主訴,心理社会的背景などに関する質問30項目を「はい」「ときどき」「いいえ」の3尺度で答える自記式を採用した.因子分析で「身体症状(9項目)」「抑うつ症状(5項目)」「自己効力感(8項目)」「不安症状(6項目)」「家族機能(2項目)」の5因子を抽出し,クロンバックのα係数は0.74〜0.79,KINDLRとの相関係数は0.80,再テストの相関係数は0.84で,本質問紙の妥当性,信頼性を認めた.小児心身症群90名との比較解析において,「身体症状」の因子に3倍の重み付け配点を行うことでスコアは0点から92点に設定され,カットオフ値37点(感度71%,特異度80%)を算出した.QTA30は,学校保健の視点から心の問題をきたす子どもの早期スクリーニングと,治療による子どもの心の症状変化を経時的かつ客観的に評価する質問紙としての活用が期待される.
|
|
【原著】
■題名
水痘ワクチン2回接種の接種間隔による抗原特異的免疫能の比較
■著者
豊川市民病院小児科1),藤田保健衛生大学医学部小児科学2) 大橋 正博1) 三浦 浩樹2) 河村 吉紀2) 藤田 彩乃2) 安藤 仁志1) 吉川 哲史2)
■キーワード
水痘ワクチン, 接種間隔, 免疫誘導能, 細胞性免疫, 接種後罹患
■要旨
水痘ワクチン2回接種の接種間隔による免疫誘導能を比較するため,異なった3群の接種間隔に分け,ウイルス抗体価の推移と細胞性免疫能を評価した.全被験者39名(平均月齢16.05±6.15)の初回接種後抗体陽転率は,IAHA法で73.5%(25例/34例),gp-ELISA法で76.3%(29例/38例)であった.追加接種後の最終的な抗体陽転率は,A群(接種間隔3〜4か月,中央値3.5か月)12名,B群(5〜7か月,中央値6か月)17名,C群(8〜14か月,中央値11か月)10名の全例で両抗体測定法ともに100%であった.追加接種後抗体価は,IAHA法(log2)でA群5.83±1.11,B群6.33±1.62,C群6.40±1.17であったが,3群間に有意差はなかった.またgp-ELISA抗体価(log10)も,A群3.63±0.31に対し,B群3.86±0.42,C群3.79±0.26といずれも高値だったが有意差はなかった.さらに追加接種に伴う抗体価の平均上昇率は,IAHAではA群6.72倍,B群13.79倍,C群9.19倍,gp-ELISA抗体価では,A群24.6倍,B群67.7倍,C群52.3倍と高いブースター効果を認めたが有意差はなかった.追加接種後の皮内抗原検査陽性率は80.6%(29例/36例)であったが,3群間の陽性率に有意差はなかった.平均観察期間22か月におけるワクチン接種後罹患は,A群で1例(3.2%)確認された.
|
|
【原著】
■題名
眼周囲の蜂窩織炎が疑われる小児において医師がCT撮影の指標としていた因子
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療科1),同 感染症科2) 清水 圭祐1) 伊藤 健太2) 桜井 博毅2) 鈴木 知子1) 寺川 敏郎1) 堀越 裕歩2)
■キーワード
眼窩蜂窩織炎, 眼窩膿瘍, コンピューター断層撮影, 小児
■要旨
小児では眼周囲感染症を呈することが多く,眼窩蜂窩織炎や眼窩内膿瘍が疑われる場合にコンピューター断層撮影(computed tomography:以下CT)を推奨する報告はあるが,医師が実際に何を指標としているかを検討した報告は無い.本研究では救急外来で眼周囲蜂窩織炎が疑われた患児の初診時CT施行因子を調査し,既報のCT適応因子と比較検討することを目的とした.2010年3月から2015年5月に東京都立小児総合医療センターの救急外来で眼周囲の蜂窩織炎が疑われた108例を後方視的に抽出し,初診時にCTが施行された群と施行されなかった群に分け,背景,初診時現症,採血所見,最終診断について調査した.CT施行因子を分析するため多重ロジスティック回帰分析を行った.既報の緊急CTの適応因子中,3歳以上,好中球数10,000/μl以上,抗菌薬先行投与については2群で有意差を認めなかった.初診時体温38.0℃以上である事が初診時CT施行に関連する唯一の独立した因子であった(調整オッズ比6.0,95%信頼区間1.5〜24.4,P=0.012).既報において発熱と眼窩内病変の相関は明らかではないが,本検討では発熱が重視されていたことが示された.救急外来で眼周囲の蜂窩織炎が疑われた小児に対し医師が初診時のCT施行を検討する際の指標が,既報の緊急CT適応因子と差がある可能性が示唆された.
|
|
【原著】
■題名
薬剤感受性試験に基づくHelicobacter pylori感染症の除菌療法
■著者
埼玉県立小児医療センター総合診療科1),東京慈恵会医科大学小児科学講座2),国立成育医療研究センター総合診療部3) 石川 悟1)2) 萩原 真一郎1) 南部 隆亮1) 原 朋子1) 松岡 諒1)2) 窪田 満3) 鍵本 聖一1) 井田 博幸2)
■キーワード
Helicobacter pylori感染症, 一次除菌, 薬剤感受性試験
■要旨
【目的】小児に対するHelicobacter pylori(H. pylori)の除菌療法は,耐性菌の増加に伴い,除菌の失敗例が増加している.当科では上部消化管内視鏡検査で得られた胃粘膜生検材料を培養した上で薬剤感受性試験を行い,その結果に基づいて除菌レジメを決定している.当科での検査結果・治療成績を検討し,H. pyloriの耐性菌の割合と薬剤感受性試験に基づいたH. pylori除菌治療の有効性について調べることを目的とした.
【方法】2007年10月から2014年9月までの7年間に当科で薬剤感受性試験または除菌治療を施行したのべ19症例(男児13人,女児5人)を対象とし,診療録を用いて薬剤耐性率,除菌結果を後方視的に検討した.
【結果】薬剤感受性試験は13例で施行した.耐性菌は,13例中amoxicillin(AMPC)7例(53.8%),clarithromycin(CAM)5例(38.5%),metronidazole(MNZ)は0例であった.一次除菌は19例中18例(94.7%)で成功した.
【結語】当科で採用している除菌レジメにより,耐性菌が増えつつある現状においても一次除菌成功率は高かった.当科が採用しているH. pylori除菌治療戦略は有効であると思われ,今後さらなる症例の集積が待たれる.
|
|
【症例報告】
■題名
High Flow Nasal Cannulaにて低換気を改善できたKlippel-Feil症候群
■著者
伊勢赤十字病院小児科/新生児科 山田 慎吾 馬路 智昭 坪谷 尚季 服部 共樹 倉井 峰弘 吉野 綾子 松田 和之 伊藤 美津江 一見 良司 東川 正宗
■キーワード
Klippel-Feil症候群, high flow nasal cannula, 新生児
■要旨
High Flow Nasal Cannula(以下HFNC)を使用して在宅ケアに移行できたKlippel-Feil症候群(以下KFS)の1男児例を経験したので報告する.
母体は30歳,0経妊0経産,凍結融解単一胚盤移植にて妊娠した.妊娠17週に胎児超音波とMRIにて小脳低形成が指摘された.胎児機能不全のため在胎37週4日に緊急帝王切開で出生した.Apgar scoreは7点/9点(1分/5分),体重は2,358 gであった.出生時に短頸と頸部の前屈困難が認められた.呼吸窮迫のため気管挿管され,人工呼吸器管理を7日間要した.日齢13の頭部,頸部,咽頭の3D-CTで,気道狭窄は認められないが,頸椎の癒合・環軸椎形成不全・蝶形椎体・肋骨癒合が認められた.短頸,頸部可動域制限,後頭部毛髪線低位の三徴と3D-CTの所見から,KFSと診断された.抜管後,多呼吸のため十分な経口哺乳ができず,体重増加も不良であった.血液ガス分析では高二酸化炭素血症が認められた.肋骨の形成不全による胸郭の拡張不全が一回換気量の低下を招くと考え,日齢22に二酸化炭素を洗い出すためにHFNCを使用した.HFNC開始直後から哺乳困難,高二酸化炭素血症は改善した.十分な経口哺乳,体重増加を確立し,日齢72で在宅移行した.HFNCは胸郭変形に基づく低換気による高二酸化炭素血症を改善するための有用な機器の一つと考えられた.本症例はKFSにおけるHFNCの有効性を示す初めての報告である.
|
|
【症例報告】
■題名
バルプロ酸によるFanconi症候群を発症した重症心身障害児の骨密度変化
■著者
茨城県立医療大学付属病院小児科 前田 仁美 中山 純子 中山 智博 伊藤 達夫 新 健治 岩崎 信明
■キーワード
Fanconi症候群, バルプロ酸ナトリウム, 骨密度, 二重エネルギーX線吸収測定法, 重症心身障害児
■要旨
バルプロ酸ナトリウム(VPA)を内服した長期臥床例や抗てんかん薬の多剤併用例に,Fanconi症候群(FS)およびそれに伴う骨軟化症を呈することは知られている.重症心身障害児においてVPAによるFSを発症し,骨密度の経過を定量的に分析したので報告する.
症例は4歳7か月男児と11歳5か月男児.ともに長期臥床状態で抗てんかん薬を多剤併用し,VPAによるFSを発症し骨軟化症を呈した.定期的な尿中β2マイクログロブリン(β2MG)を含む尿検査と二重エネルギーX線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry,以下DXA)による骨密度を測定し,FS発症前から尿細管機能改善後の長期にわたり経過観察した.2例とも尿検査による尿蛋白,尿中β2MG高値を契機にFSが発見された.尿細管機能はVPA中止後約2か月で改善し,骨密度はVPA中止後15〜18か月でFS発症前と同程度に回復した.その回復は成人特発性FS患者における報告に比べて,時間を要し,尿検査所見改善後も骨の脆弱性は継続していた.
重症心身障害児は骨密度が低下しやすく,FS発症によりさらに骨折のリスクが高まることから,これらの患者に対しては症状がなくても定期的に尿中β2MGを含む尿検査を行うことでFSを早期に発見し,また,骨密度測定により骨折予防を含めた適切なケアができる可能性があると思われる.
|
|
【症例報告】
■題名
可溶性IL-2受容体測定の有用性が示唆された好酸球性蜂巣炎
■著者
昭和大学医学部小児科学講座1),町田市民病院小児科2),済生会横浜市南部病院小児科3) 永原 敬子1)2) 阿部 祥英1) 佐藤 祐子2) 鈴木 徹臣3) 山口 克彦2) 佐藤 裕2) 板橋 家頭夫1)
■キーワード
Wells症候群, 可溶性IL-2受容体, 好酸球性蜂巣炎, 蜂窩織炎, flame figure
■要旨
Eosinophilic Cellulitis(EC)は1971年にWellsにより報告された原因不明の再発性炎症性皮膚疾患で,病勢を反映する検査値に関する報告は少ない.症例は4歳の女児である.第1病日に発熱,第2病日に体幹に不定形発疹,第4病日に両側眼周囲の腫脹を認め,入院した.細菌性眼窩蜂窩織炎を疑い,抗菌薬を投与したが,解熱せず,発疹は全身に拡大した.第8病日の血液検査で好酸球数増加を認めたが,その前日の第7病日に可溶性IL-2レセプター値(sIL-2R)が異常高値(4,920 U/ml)であった.第8病日,PSL投与により,速やかに解熱し,発疹は消退したため,sIL-2Rが高値(2,240 U/ml)であったが,第15病日にPSL投与を中止した.しかし,第16病日に両側手指に水疱を伴う硬性浮腫が出現し,第17病日からPSL投与を再開する必要があった.第27病日の皮膚生検ではECに特徴的な真皮下層から皮下脂肪織に強い好酸球浸潤とflame figureを認め,ECと確定診断した.本症例の経過から,sIL-2RがECの病勢と関連している可能性があり,第29病日にはsIL-2Rが705 U/mlに低下した.PSLを計5週間投与して中止後,再発なく経過している.ECの小児例はまれであるが,ECの早期診断に末梢血中好酸球数よりsIL-2R値が有用である可能性が示唆された.
|
|
【症例報告】
■題名
膀胱尿管逆流症を伴う再発性尿路感染症を便秘治療により予防し得た膀胱直腸障害
■著者
昭和大学藤が丘病院小児科 大貫 裕太 池田 裕一 小宅 千聖 平林 千寿 布山 正貴 渡邊 常樹 磯山 恵一
■キーワード
膀胱直腸障害, Bladder and Bowel Dysfunction, 膀胱尿管逆流, 便秘治療, 腎瘢痕形成
■要旨
【緒言】膀胱直腸障害(Bladder and Bowel Dysfunction:BBD)は下部尿路症状に排便障害を合併した病態であり,再発性尿路感染症(recurrent Urinary Tract Infection:rUTI)の一因である.今回,便秘治療を先行することでrUTIを予防できた症例を経験したので報告する.
【症例】7歳女児.トイレトレーニング終了後も1日数回の昼間尿失禁を認めていた.5歳時にUTIに罹患,両側gradeIIIの膀胱尿管逆流(VUR)及び右腎に腎瘢痕形成(Renal Scars:RS)を指摘された.予防的抗菌薬内服を開始されたが,UTIを繰り返すため6歳時に当院を紹介受診した.問診にて3歳時からの排便頻度の低下,腹部超音波検査にて直腸部に大きな便塊を認めた.昼間尿失禁に慢性便秘症を伴っており,rUTI発症の原因としてBBDを考え,便秘治療と行動療法を開始した.治療開始後,昼間尿失禁は改善し,rUTIも制御できた.
【結論】本症例は昼間尿失禁があり,便秘の合併からBBDの存在が示唆された.またBBDにVURが合併しrUTIを生じ,その結果としてRSに至ったと考えられた.早期にBBDを疑い,便秘治療を優先することの重要性を示唆する貴重な症例であると考えられた.
|
|
【症例報告】
■題名
不登校女子にみられた多嚢胞性卵巣症候群の2例
■著者
防衛医科大学校小児科1),国立病院機構西埼玉中央病院小児科2) 萩原 秀俊1) 茂木 陽1)2) 小澤 綾子2) 橋本 逸美1) 鈴木 秀一1) 野々山 恵章1)
■キーワード
多嚢胞性卵巣症候群, 不登校, 肥満, 月経異常, 学校保健
■要旨
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian syndrome,PCOS)は,月経異常・多嚢胞卵巣・血中男性ホルモン高値を呈する症候群である.その病因は解明されておらず,多彩な臨床症状を呈することが知られている.今回我々は不登校女子に見られたPCOSの2例を経験した.1例は初診時から不登校,肥満,月経異常を認め,臨床症状,検査所見,MRI画像からPCOSと診断した症例で,もう1例は不登校,肥満でフォローしていた際に月経異常に気付き,同様にPCOSと診断しえた症例であった.PCOSは診断が困難であるが,この2症例では,不登校・肥満・月経異常の3症状がPCOS診断の契機となった.PCOSは早期診断と早期治療が重要であり,不登校女子の中には肥満,月経異常を伴っている場合があり,PCOSと診断すべき症例を見落とさないように注意する必要がある.
|
|
【症例報告】
■題名
慢性IgA血管炎の腹痛・紫斑に対するコルヒチン併用の有効例
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療科 山口 陽子 大久保 祐輔 松島 崇浩 仁後 綾子 鈴木 知子 榊原 裕史 寺川 敏郎 幡谷 浩史
■キーワード
慢性, IgA血管炎, コルヒチン, 腹痛, 再燃
■要旨
8歳男児が2日間の嘔吐・腹痛・紫斑を認め,IgA血管炎(IgAV)と診断した.腹痛に対しプレドニゾロン全身投与を開始し速やかに改善した.しかし,ステロイド投与後も紫斑は全く改善せず,さらにステロイド漸減に伴い腹痛の再燃を7回繰り返した.コルヒチン開始後,大半の紫斑は急激に消退し,腹痛の再燃なくステロイドの漸減・終了に初めて成功した.
IgAVの病態生理は血管壁周囲への好中球浸潤,IgAや補体の沈着による血管の炎症が特徴である.ステロイドの抗炎症作用とコルヒチンの好中球遊走能阻害作用が本症例の血管炎の治療に有効であったと考えられる.よって,ステロイドを長期的に必要とする慢性IgAVにはコルヒチンの併用を検討すべきである.
|
|
【短報】
■題名
パリビズマブ投与児に対するワクチン同時接種の安全性
■著者
成田赤十字病院新生児科1),千葉大学真菌医学研究センター感染症制御分野2),君津中央病院新生児科3),千葉大学医学部附属病院小児科4),千葉県こども病院循環器科5),千葉県循環器病センター小児科6),帝京大学ちば総合医療センター小児科7),東京女子医科大学八千代医療センター小児科8),船橋市立医療センター小児科9) 戸石 悟司1) 石和田 稔彦2) 大曽根 義輝3) 遠藤 真美子4) 菱木 はるか4) 中島 弘道5) 川副 泰隆6) 太田 節雄7) 浜田 洋通8) 寺井 勝8) 佐藤 純一9)
■キーワード
パリビズマブ, ワクチン, 同時接種, 安全性
■要旨
パリビズマブ投与とワクチン同時接種の安全性調査に関しては,海外も含めこれまで報告がない.パリビズマブ投与の際に,ワクチン同時接種を希望された保護者に対して,接種後の状況に関して調査を行い同時接種の安全性を検討した.試験デザインは,多施設共同・非盲検・観察研究である.調査した結果,パリブズマブ投与とワクチン同時接種を行った場合,局所反応以外の副反応はほとんどなく安全に実施出来ることが観察できた.ワクチンをパリビズマブ投与と同時接種することは,感染症を的確に予防するという点のみならず,医療機関への受診回数を減らし,患者・家族の負担軽減につながるという点からも有用である.
|
|
【論策】
■題名
熊本地震からの教訓:大規模総合周産期母子医療センターの機能喪失と入院児の緊急避難
■著者
日本新生児成育医学会災害対策本部1),熊本市民病院新生児内科2),久留米大学小児科学教室3),熊本大学小児科学教室4),福田病院新生児科5),鹿児島市立病院新生児内科6),九州大学病院小児科学教室7),国立病院機構佐賀病院小児科8),福岡聖マリア病院新生児科9),聖隷浜松病院総合周産期母子医療センター新生児科10),埼玉医科大学総合医療センター小児科11),東京女子医科大学新生児科学教室12),大阪大学医学部付属病院13) 川瀬 昭彦1)2) 岩田 欧介1)3) 近藤 裕一1)2) 岩井 正憲1)4) 三渕 浩1)4) 高橋 大二郎1)5) 前出 喜信1)6) 平川 英司6) 落合 正行1)7) 高柳 俊光8) 久野 正9) 七種 護3) 大木 茂1)10) 田村 正徳1)11) 楠田 聡1)12) 和田 和子1)13)
■キーワード
大規模災害, 総合周産期母子医療センター, 新生児搬送, DMAT, 災害連絡網
■要旨
2016年4月16日1時25分に発生した熊本地震本震により,熊本市民病院総合周産期母子医療センターは深刻なダメージを負い,38名の入院児の緊急転院が決定された.3階の病棟から1階リハビリ室に児を避難させた後,市内の周産期母子医療センター2施設への21名の搬送が開始された.近隣県の周産期母子医療センターによる迎え搬送もこれに続き,午前9時までには安定期の児1名を除く全児の避難が完了した.九州地区の施設の動きを,日本新生児成育医学会災害対策本部がモニター・調整することで多層的な支援が可能であった.施設間連絡には携帯電話の他,新生児医療連絡会防災ネットワークの登録情報が活用された.被災病棟は耐震脆弱性が指摘されていたが,予算不足で建て替えが延期されていた.高度医療施設の機能維持には,建物に加えて内部設備が守られる必要があるため,全国の中核医療施設の早期免震化が望まれる.今回,九州地区の公的患者搬送手段の大半が熊本県DMAT調整本部の管理下に置かれた.38名の児が待機したリハビリ室では保育器や人工呼吸器が使用できず,低体温や肺損傷への懸念から,ヘリ搬送を軸にした一刻も早い搬送が期待されたが,結果的に重症児の大半は各施設が独自手配した手段で搬送された.必ず訪れる次の大規模災害までに,DMAT調整本部の設置と共に適切な周産期搬送の調整が行われ,入院児の安全が確保されるシステムを構築する必要がある.
|
|
|
バックナンバーに戻る |
|