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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:16.11.17)
第120巻 第11号/平成28年11月1日
Vol.120, No.11, November 2016
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日本小児循環器学会推薦総説 |
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森崎 裕子 1579 |
日本小児リウマチ学会推薦総説 |
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山西 愼吾 1587 |
原 著 |
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玉井 望雅,他 1597 |
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余谷 暢之,他 1601 |
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舩越 康智,他 1609 |
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新谷 亮,他 1614 |
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星野 直,他 1624 |
症例報告 |
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中谷 恵理,他 1631 |
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松岡 明希菜,他 1637 |
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友田 昂宏,他 1643 |
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小原 隆史,他 1649 |
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久保 裕,他 1657 |
論 策 |
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佐藤 洋一,他 1664 |
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地方会抄録(秋田・宮崎・高知・島根・東京・山陰・長崎・青森・北陸・福井)
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1671 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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1709 |
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1713 |
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No. 65 コンセントに鍵を差し込んだことによる手掌電撃傷
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1717 |
医療安全委員会主催 |
第3回Sedation Essence in Children Under Restricted Environment(SECURE) |
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1721 |
男女共同参画推進委員会報告 |
リレーコラム キャリアの積み方─私の場合10 |
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1722 |
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1724 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2016年58巻10号10月号目次
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1729 |
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1731 |
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1732 |
【原著】
■題名
胆汁性嘔吐を主訴にNICUに入院した児の転帰
■著者
山梨県立中央病院総合周産期母子医療センター新生児科1),山梨大学附属病院小児科学2) 玉井 望雅1)2) 根本 篤1) 高田 献1) 小林 真美1) 駒井 孝行1) 杉田 完爾2) 内藤 敦1)
■キーワード
胆汁性嘔吐, 新生児, 腸回転異常症
■要旨
新生児における胆汁性嘔吐は消化管の通過不良を示唆する重要な症候であり,外科的介入を要する疾患によって生じている場合も少なくない.胆汁性嘔吐を認めた新生児の転帰に関する報告は欧米からは幾つか存在するが,我が国からの報告はまだ無い.我々は2006年から2015年にかけて胆汁性嘔吐を主訴に当院NICUへ入院した当院出生8例,院外出生16例を含む新生児症例24例について当院の新生児データベースを用いて後方視的に検討した.胆汁性嘔吐を初めて認めた日齢は日齢0から8(平均日齢2.5)であった.13症例(54%)で開腹手術を行っており,過去に報告されている頻度より高かった.嘔吐回数が複数回に及んだものは15例,単回の嘔吐のみであったのは7例,不明は2例であった.嘔吐が複数回みられたものの中で開腹手術を要した症例は12例(80%)であったが,嘔吐回数が単回であったものの中で開腹手術を要した症例はなかった.従って複数回の胆汁性嘔吐を認める場合は外科的介入を要する疾患を念頭に置く事が肝要である.本報告は胆汁性嘔吐を認める新生児症例に遭遇した際のマネジメントに有用と思われる.
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【原著】
■題名
在宅重症児に対する連携手帳「和(なごみ)手帳」の使用状況と有用性
■著者
国立成育医療研究センター総合診療部1),神戸大学大学院医学研究科先端緩和医療学分野2),東京都立東部療育センター3),東京都立府中療育センター4),東京都立小児総合医療センター5),東京都立東大和療育センター6),島田療育センターはちおうじ7) 余谷 暢之1)2) 岩崎 裕治3) 福水 道郎4) 田沼 直之4) 冨田 直5) 曽根 翠6) 小沢 浩7) 深津 修4) 中村 知夫1) 石黒 精1) 阪井 裕一1)
■キーワード
在宅重症児, 連携手帳, 短期入所, 医療ケア, 在宅人工呼吸
■要旨
在宅で医療ケアを必要とする重症児の情報を集約した連携手帳を開発し,その使用状況および有用性について検討を行った.在宅重症児診療の専門家で,重症児支援の連携において必要な情報について検討し,医療・リハビリ・生活介護の3つの内容についてまとめた連携手帳「和(なごみ)手帳」を作成した.対象は都内の小児病院2施設,大学病院1施設および療育センター6施設を受診している医療ケアを必要とする重症児として,2011年8月より手帳を配布し,1年後にアンケートを郵送した.手帳およびアンケートから手帳の使用状況及び,手帳が有用であると答えた患者家族に共通する関連因子について解析を行った.対象は80人,平均年齢は15.9(SD:12.1)歳.36名(46%)が手帳を普段持参していると答えた.医療のページでは,救急外来を3回以上受診した患者家族の75%が手帳は役に立ったと答えた.いずれのページでも短期入所を利用している患者家族は手帳が役に立ったと答える割合が高い傾向がみられた(医療のページ;OR=3.35,p=0.04,リハビリのページ;OR=2.91,p=0.09,生活介護のページ;OR=2.89,p=0.08).連携手帳は在宅重症児に網羅的に配布するより,必要な群にターゲットを絞って配布するほうが効果的に使用できる可能性がある.
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【原著】
■題名
過去11年間に当院で診療した小児脳腫瘍の終末期医療
■著者
長崎大学病院小児科 舩越 康智 北島 翼 伊藤 暢宏 岡田 雅彦 森内 浩幸
■キーワード
小児, 脳腫瘍, 緩和医療, 在宅医療
■要旨
脳腫瘍での死亡は小児がんの中で比較的高い割合を占める.その特有の症状や臨床経過のため終末期医療の方針決定に迷う事も多い.小児脳腫瘍の終末期医療について当院の症例をもとに検討した.
方法:2004年4月〜2015年4月の期間に当科で診療し死亡した脳腫瘍患者14例について後方視的に検討を行った.
結果:死亡時年齢は0〜5歳が4例,6〜15歳が8例,16〜24歳が2例であった.性別は男性9例,女性5例であった.診断は膠芽腫,脳幹部腫瘍や再発例,二次がん等の予後不良なもので,再発・増悪の時点で根治が望めない状況であった.診断から再発・増悪までの期間は1年未満が7例,1年以上〜3年未満が4例,3年以上が3例であった.再発・増悪から意識障害までの期間は3か月未満が8例であった.意識障害が出現してから死亡するまでの期間は,人工呼吸器を使用しなかった8例は全例3か月未満で,人工呼吸器を使用した6例では3例が3か月以上生存した.終末期に在宅移行が行われたのは人工呼吸器を装着した3例で,在宅主治医,在宅看護サービスとの連携のもと自宅で死亡確認まで行われた.
結論:緩和的医療に移行後の患児に残された時間は短く,終末期の希望確認は早期から行う必要がある.人工呼吸器を使用した3例のみが自宅での看取りを行った.小児脳腫瘍患者の在宅での終末期医療の為には在宅医療資源の拡充と地域連携の充実が必要である.
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【原著】
■題名
近年の小児細菌性髄膜炎の発生動向
■著者
聖マリアンナ医科大学小児科1),社会福祉法人聖テレジア会小さき花の園2),東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科薬害監視学講座3),湘南東部総合病院小児科4) 新谷 亮1) 高橋 協2) 森 雅亮3) 徳竹 忠臣4) 文元 礼1) 森内 巧1) 品川 文乃1) 宮地 悠輔1) 中村 幸嗣1) 勝田 友博1)
■キーワード
細菌性髄膜炎, インフルエンザ菌b型, 肺炎球菌, 予防接種, 疫学
■要旨
本調査は,神奈川県において小児入院施設を有する病院を対象に2008〜2013年までの6年間に発生した16歳未満の細菌性髄膜炎症例に関する質問紙調査を行い,インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)ワクチン,肺炎球菌結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine:PCV)の接種環境が大きく変動した調査対象期間における神奈川県内の細菌性髄膜炎の発生動向を,接種費用の公費負担とワクチンの供給状況に着目して検討した.
神奈川県においては,Hibワクチン,PCVの接種費用が公費助成されていなかった2010年までの間は両ワクチンの供給指数が30〜50%に留まっており,小児細菌性髄膜炎の発生動向に著変を認めなかったが,公費助成が導入された2011年にはHibワクチン,PCVの供給指数が120%前後まで上昇しHib,肺炎球菌髄膜炎患者は2010年と比べてそれぞれ23例から6例,10例から6例へ減少した.一方,有効なワクチンが存在しないB群レンサ球菌や大腸菌による髄膜炎は調査期間中,疫学的変動を認めなかった.
髄膜炎の疫学には多因子が関与することが想定されるが,本調査によりHibワクチン,PCV接種費用の公費助成が,安定したワクチン普及を介して実際のHib,肺炎球菌髄膜炎の減少に寄与した可能性が示唆された.
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【原著】
■題名
小児脳膿瘍9例の経験
■著者
千葉県こども病院感染症科1),同 循環器科2) 星野 直1) 深沢 千絵1) 徳武 翔子1) 奥井 秀由起1) 中島 弘道2)
■キーワード
脳膿瘍, 小児, 先天性心疾患, Streptococccus anginosus group
■要旨
2001年1月〜2015年6月に千葉県こども病院に入院した小児脳膿瘍患者について後方視的に検討した.患者数は9名(男児7名,女児2名)で,基礎疾患は7名で明らかとなった(チアノーゼ性先天性心疾患6名,副鼻腔炎1名).2名が各1回再罹患したため,症例数は全11例であった.発症時平均年齢の中央値は4歳3か月であり,5例が3歳未満の発症であった.9例で経過中に神経学的症状(巣症状は4例)を呈したが,のべ36件認められた臨床症状のうち20件を発熱や頭痛などの非特異的症状が占め,診断までに時間を要した(中央値6日).脳実質病変を呈したのは10例で,前頭葉,頭頂葉が各3例と多く,2例で2か所の病変を認めた.残る1例は側脳室内に病変が確認された.原因菌は9例から15菌株検出され,最多はStreptococccus anginosus groupの8株であり,複数菌感染は4例であった.初期治療は全例カルバペネム系薬で開始され,7例で原因菌判明後に狭域抗菌薬に変更されていた.外科的治療は9例で行われ,脳実質に2 cm以上の膿瘍を呈した8例では小開頭ドレナージ術が,側脳室内病変を認めた1例では脳室ドレナージ術が施行されていた.2例で再罹患を,3例で神経学的後遺症を認め,死亡は1例であった.現状では小児脳膿瘍に関する明確な診療指針はなく,症例の集積とともにその確立が望まれる.
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【症例報告】
■題名
Rathke嚢胞に伴う一過性尿崩症例
■著者
滋賀医科大学医学部付属病院小児科学講座 中谷 恵理 松井 克之 丸尾 良浩 竹内 義博
■キーワード
Rathke嚢胞, 尿崩症, 一過性, 治癒
■要旨
今回,Rathke嚢胞に伴う尿崩症が改善した症例を経験した.症例は11歳女児で,激しい頭痛・嘔吐,夜間の多尿を初発症状として受診し,MRIで下垂体に腫瘍を認め,3日目に精査および摘出術目的で入院となった.入院4日目,多尿は一時的に消失したが,入院7日目に発熱と頭痛を伴い再発した.Rathke嚢胞の自壊による下垂体炎に対してヒドロコルチゾンを投与し発熱と頭痛は改善したが,多尿は持続した.中枢性尿崩症と診断し,酢酸デスモプレシンを開始した.嚢胞の自壊により腫瘍が縮小したため摘出術は中止となった.永続的な中枢性尿崩症を呈することが予想されたが,半年程度で症状が消失し,投薬不要となり,中枢性尿崩症の再発を認めていない.本症例ではRathke嚢胞が自壊し自然消退したことや,下垂体炎に対してヒドロコルチゾンを投与したことが尿崩症治癒の原因ではないかと考えた.
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【症例報告】
■題名
極端な偏食でビタミンD欠乏性くる病を発症した自閉症スペクトラム障害
■著者
滋賀医科大学医学部付属病院小児科 松岡 明希菜 松井 克之 松井 潤 西倉 紀子 吉岡 誠一郎 丸尾 良浩 高野 知行 竹内 義博
■キーワード
自閉症スペクトラム障害, 偏食, ビタミンD欠乏性くる病, 痙攣
■要旨
近年小児のビタミンD欠乏性くる病が増加している.その背景には,母乳栄養や母体のビタミンD欠乏,生活習慣の変化や不適切な食事制限などがあるが,児自身の要因も散見される.
我々は極端な偏食でビタミンD欠乏性くる病を発症した自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)の1例を経験した.症例は3歳11か月の男児で,痙攣発作で入院した.血液検査にてCa,25水酸化ビタミンD(25OHD)著明低値,intact PTH高値,心電図検査でQT延長を認め,骨X線検査でくる病変化が見られた.以上よりビタミンD欠乏性くる病と診断し,ビタミンD,カルシウムの内服を開始した.児は食へのこだわりがあり,言語発達遅滞やコミュニケーション障害よりASDと診断した.また両親が児の障害を理解しておらず不規則な生活リズムであったことや,医療介入が拒否されており,児の養育環境は不適切であった.両親には栄養指導に加え,ASDに関する理解を促し,関わり方を指導した.また退院後地域保健師や養育スタッフと連携できるよう情報を共有した.
ASD児における栄養障害は食行動異常に加え,不適切な養育環境と不十分な医療介入がリスクであると考えた.このような症例を早期発見,介入を進めるためには,小児科医のみならず地域保健福祉関連スタッフの発達障害児への理解と小児の栄養障害に関する啓発が必要である.
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【症例報告】
■題名
ロタウイルスワクチン株の便中持続排泄を認めた重症複合免疫不全症
■著者
東京医科歯科大学大学院発生発達病態学分野1),聖路加国際病院小児科2),東京医科歯科大学大学院茨城県小児・周産期地域医療学講座3),東京医科歯科大学医学部附属病院輸血部4) 友田 昂宏1) 満生 紀子1) 岡野 翼1) 田中(久保田) 真理1) 宮本 智史1) 木村 俊介1)2) 高木 正稔3) 今井 耕輔3) 梶原 道子4) 金兼 弘和1) 森尾 友宏1)
■キーワード
重症複合免疫不全症, ロタウイルスワクチン, 新生児マススクリーニング, T-cell receptor excision circles, 臍帯血移植
■要旨
重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:SCID)の9か月男児において,便からロタウイルスの持続的排泄を認めた.移植前に消化器症状は認められず,臍帯血移植後一過性に症状を認めたが,3週間でロタウイルスの排泄が認められなくなった.ロタウイルスワクチン接種後であったため,排泄されていたロタウイルスがワクチン株由来の可能性が考えられた.そこで患者より排泄された便におけるロタウイルス遺伝子配列をサンガー法で確認したところ,ワクチン株由来のものと一致したため,生後2か月に接種されたロタウイルスワクチン株の持続感染であると診断した.SCID罹患者の便から排出されたロタウイルスをワクチン株由来であることをわが国で初めて同定した.米国ではSCIDと診断される前に接種されたロタウイルスワクチンによる重症な脱水症状を呈した症例が報告されている.SCID患者では生ワクチンによる顕性感染が起こりうるが,通常,ロタウイルスワクチン接種が始まる生後2か月までには,罹患を疑わせる身体所見が顕在化しないため,早期診断することは困難である.すなわちSCID患者をロタウイルスワクチン接種前に対象者から除外し,ワクチン株による感染を防ぐことは極めて難しい.わが国においても米国同様,乾燥ろ紙血を用いた新生児マススクリーニングによるSCIDの早期診断を導入すべきである.
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【症例報告】
■題名
母体ZnT2遺伝子変異に基づく低亜鉛母乳による亜鉛欠乏性皮膚炎
■著者
熊本赤十字病院小児科1),京都大学大学院生命科学研究科統合生命科学専攻生体情報応答学2) 小原 隆史1) 小松 なぎさ1) 逸村 直也2) 神戸 大朋2) 武藤 雄一郎1) 西原 卓宏1) 平井 克樹1) 右田 昌宏1)
■キーワード
亜鉛欠乏, 低亜鉛母乳, ZnT2遺伝子, SLC30A2, TNZD(Transient neonatal zinc deficiency)
■要旨
小児における亜鉛欠乏症は,吸収障害や摂取不足が原因となり皮膚炎・脱毛・低身長などを来す疾患であるが,近年Transient neonatal zinc deficiency(TNZD)いう遺伝性亜鉛欠乏症が注目されている.その病態は,母親の生体内で母乳中への亜鉛分泌に関わるタンパク質ZnT2(Zn transporter2)をコードする遺伝子(SLC30A2)変異が発端で,遺伝子変異とは無関係な児が低亜鉛母乳を哺乳することで亜鉛欠乏に陥るものである.症例は5か月女児.在胎32週1日1,772 gにて出生した.生後2か月頃から鼻唇溝や関節部の皮膚炎を繰り返し5か月時に来院した.身長60.0 cm(−1.95 SD),体重6.075 kg(Kaup指数16.9)と低身長や接触部の皮膚炎・脱毛を認めた.児の血清亜鉛濃度は15 μg/dlと低く,母体血清亜鉛濃度81 μg/dl,母乳亜鉛濃度31 μg/dlと乖離を認めた.母体ZnT2遺伝子(SLC30A2)を解析したところc. 652C>Tのヘテロ接合性変異が確認されTNZDと判断した.亜鉛製剤内服開始後皮膚所見は改善し,成長発達のフォローを継続している.患児は早産児による亜鉛蓄積不足に加え,母体ZnT2遺伝子異常による低亜鉛母乳により著明な亜鉛欠乏に陥っていた.ヘテロ接合体変異でも発症に関与したことを考えると,潜在的な患者数は多い可能性がある.
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【症例報告】
■題名
冠動脈病変を認め,血漿交換後,ステロイド大量療法で寛解した結節性多発動脈炎例
■著者
京都府立医科大学付属病院小児発達医学1),同 小児循環器・腎臓科2) 久保 裕1) 齋藤 多恵子1) 堂 淳子1) 大内 一孝1) 池田 和幸2) 濱岡 建城2) 秋岡 親司1) 細井 創1)
■キーワード
結節性多発動脈炎, 川崎病, 冠動脈病変, ステロイド, 血漿交換
■要旨
冠動脈病変を認め,川崎病との鑑別に苦慮した結節性多発動脈炎の15歳男児を経験した.病初期から発熱,紅斑様の皮疹,全身の疼痛,下痢を認め,冠動脈の拡大病変を合併した.大量免疫グロブリン静注療法不応で,血漿交換を行い拡大病変の退縮と解熱を認めたが,CRPの陰性化は得られなかった.第32病日に再び発熱,冠動脈病変も再出現し,大量免疫グロブリン静注療法,シクロスポリン,インフリキシマブに不応であったが,再度行った血漿交換により拡大病変は退縮した.血行障害を示唆する病理所見,CT,超音波およびMRI検査による右腎嚢胞内への穿破性出血および下腿血管周囲の炎症所見より,結節性多発動脈炎と診断した.血漿交換に続いて行ったステロイドパルス療法により解熱した.現在,免疫抑制薬のみで後遺症および再発なく寛解状態にある.病初期に確定診断を得ることが難しい血管炎症例では,病態に則した治療を,安全に配慮し進めるべきである.特にOrgan-threatening病変に留意し,血漿交換など適切に臓器保護的介入を行うことが,後遺症を含め,臓器予後の改善には重要であると考えられた.
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【論策】
■題名
貧困世帯で暮らす小中学生の健康状態と家庭の特徴〜外来診療での多施設共同調査より〜
■著者
生協こども診療所1),千鳥橋病院小児科2),健和会病院小児科3),佛教大学社会福祉学部4) 佐藤 洋一1) 山口 英里2) 和田 浩3) 武内 一4)
■キーワード
子どもの貧困, 健康格差, 外来診療, 貧困の可視化, 社会的排除
■要旨
本研究の目的は貧困世帯に暮らす小中学生の健康状態や家庭の状況を明らかにすることである.2015年2月に外来を受診した小中学生が暮らす745世帯に無記名質問紙調査を行い,貧困群と非貧困群で比較検討をした.
「児の肥満」「時間外受診」「母親の喫煙」「母子世帯」「3世代以上の同居」「国民健康保険(国保)加入」「生活保護受給」は,貧困群に有意に多かった.(P<0.05)「インフルエンザワクチン接種」「母親の就労」「母親が正社員」「母親の学歴」「持ち家」「部屋数」は貧困群に有意に少なかった.(P<0.05)「保護者の主観的健康状態」「現在の生活実感」「幸福度」「保護者が15歳時の生活実感」は,貧困群に有意に悪かった.(P<0.05)
多変量解析にて,「インフルエンザワクチンの未接種」「母親が正社員でない」「母親が未就労」「母子家庭」「3世代以上の同居」「国保加入世帯」の6項目が貧困世帯の予測因子と考えられた.Receiver Operating Characteristic(ROC)解析にて,貧困世帯であるカットオフ値は3項目でROC曲線下の面積は0.858(95%CI 0.817〜0.899),特異度は85.1%,感度は71.4%であった.
わが国でも貧困は子どもの健康に影響を及ぼすことが示唆されたが,その詳細を明らかにするためには,更なる研究が必要である.
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