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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:16.10.20)

第120巻 第10号/平成28年10月1日
Vol.120, No.10, October 2016

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第119回日本小児科学会学術集会
  会頭講演

RSウイルス感染症とロタウイルス感染症;疫学と病態,および予防

堤 裕幸  1429
  教育講演

熱性けいれん診療ガイドライン2015の活用方法

夏目 淳  1439
日本小児循環器学会推薦総説

動脈管閉鎖のメカニズム―分子機序に基づく治療への再考―

赤池 徹,他  1444
日本小児臨床薬理学会推薦総説

本邦における小児医薬品開発推進のための提言

中川 雅生,他  1453
原  著
1.

TREC定量による重症複合免疫不全症の新生児マススクリーニング

小島 大英,他  1462
2.

小児期発症全身性エリテマトーデス患者におけるSLICC分類基準の感度,特異度

白木 真由香,他  1468
症例報告
1.

先天性前頭蓋底髄膜脳瘤の3例

藤野 修平,他  1474
2.

1歳で1型糖尿病を発症しカーボカウントとCSIIが有効だったDown症候群

川北 葵,他  1482
3.

新生児期に著明な脳萎縮をきたしたメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損症

大塚 敬太,他  1488
4.

エンテロウイルスD68型感染症の6例

森 里美,他  1495
5.

鼻出血を契機にループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症と診断したSLE

益岡 壮太,他  1502
論  策

全国各市区町村の人口重心と中核病院小児科・地域小児科センターとの最短距離

江原 朗  1508

地方会抄録(埼玉・沖縄・宮城・山形・栃木・静岡・福岡)

  1514

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2016年58巻9号9月号目次

  1570

日本小児保健協会のご案内

  1573
平成28年度公益財団法人小児医学研究振興財団
  研究助成事業等のお知らせ

市民公開講座「気になる子どもの支援〜発達特性・発達障害の理解と支援〜」ご報告

  1574

雑報

  1577

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 336

  1578


【原著】
■題名
TREC定量による重症複合免疫不全症の新生児マススクリーニング
■著者
名古屋大学大学院医学系研究科小児科学1),同 総合周産期母子医療センター新生児部門2),中津川市民病院小児科3)
小島 大英1)  杉山 裕一朗2)  村松 秀城1)  近藤 大貴2)  安井 正宏3)  木戸 真二3)  佐藤 義朗2)  早川 昌弘2)  小島 勢二1)

■キーワード
重症複合免疫不全症, 新生児マススクリーニグ, T-cell receptor excision circles(TREC)
■要旨
 【背景】重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency;SCID)に対する,新生児マススクリーニングが世界的に進められている.健康な日本人新生児集団および日本人SCID患者の検体を用いてT細胞の産生の指標であるT-cell receptor excision circles(TREC)の定量解析を行った.
 【対象・方法】2015年に名古屋医学部附属病院等で出生した新生児213例を対象とした.乾燥濾紙血を用いて,TRECを測定した.さらにSCID患者6例および遅発性複合免疫不全症(late onset CID;LOCID)患者3例,同年齢の健常児18例の末梢血由来の保存DNA中のTRECについても測定した.
 【結果】新生児乾燥濾紙血のTREC中央値は139(32〜473)copies/μLで,全例で海外で用いられるカットオフ値29 copies/μL以上であった.保存DNA検体を用いた検討ではSCID患者およびLOCID患者のTRECの中央値(範囲)は4(3〜8)copies/μLで,健常児の中央値(範囲)は455.5(44〜473)copies/μLであった.
 【考察】本研究により,日本人集団においてもTRECを用いた新生児マススクリーニングが有用である可能性が示された.我が国においても,早急に本マススクリーニングの導入を考慮すべきである.


【原著】
■題名
小児期発症全身性エリテマトーデス患者におけるSLICC分類基準の感度,特異度
■著者
あいち小児保健医療総合センター感染免疫科1),同 アレルギー科2)
白木 真由香1)  杉浦 至郎2)  中瀬古 春奈1)  河邉 慎司1)  岩田 直美1)

■キーワード
小児期発症全身性エリテマトーデス, 分類基準, 感度, 特異度, the Systemic Lupus International Collaborating Clinics分類基準
■要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の診断に関して,成人では米国リウマチ学会(ACR)分類基準に加え,2012年にthe Systemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準が作成された.小児においては,国内ではACR分類基準に低補体血症を加えた「小児SLE診断の手引き」(小児の手引き)が用いられている.成人ではSLICC分類基準はACR分類基準に比べ感度は高いが,特異度は低いと報告されている.今回我々は小児期発症SLE患者で,ACR分類基準,小児の手引き,SLICC分類基準の感度,特異度を比較検討した.対象は当院を受診した18歳以下のSLE50例,その他リウマチ性疾患(若年性皮膚筋炎,混合性結合組織病,シェーグレン症候群)37例.感度はACR76%,小児の手引き94%,SLICC 100%,特異度はACR100%,小児の手引き94.6%,SLICC89.2%であった.小児においてもSLICC分類基準はACR分類基準に比べ感度は高いが特異度は低く,他のリウマチ性疾患との鑑別に注意が必要である.


【症例報告】
■題名
先天性前頭蓋底髄膜脳瘤の3例
■著者
国立成育医療研究センター新生児科
藤野 修平  甘利 昭一郎  兼重 昌夫  宮原 史子  濱 郁子  和田 友香  高橋 重裕  藤永 英志  五石 圭司  塚本 桂子  伊藤 裕司

■キーワード
先天性前頭蓋底髄膜脳瘤, 経蝶形骨型, 上気道狭窄症状, DTPA脳槽シンチグラフィー, 上顎体
■要旨
 先天性頭蓋底髄膜脳瘤は胎生早期の頭蓋底形成異常により脳組織が頭蓋底より脱出する疾患である.頻度は35,000〜40,000出生に1例と稀で,生後早期の上気道狭窄症状や髄膜炎などに注意を要する.新生児期に本疾患と診断され当院で管理した3例を経験したので報告する.
 経験した3症例の在胎週数は38〜41週で,出生体重は2,300〜3,202 gの範囲であった.本疾患に関して出生前診断例はなかった.全例で生後の上気道狭窄症状を契機に頭部CTおよびMRIで診断に至った.症例1では日齢15に,症例2は日齢7に,いずれも気道狭窄による閉塞性呼吸障害のため気管挿管された.症例3は上顎体を合併しており,生直後より上気道狭窄症状が強かったため生後10分で気管挿管され,その後修復術に際し気管切開を行い管理した.髄膜脳瘤修復術は日齢25〜34に経口蓋法で行った.全例で眼間開離,視神経乳頭異常を認め,症例1,3で唇顎口蓋裂,症例3で上顎体の合併があった.術後髄液漏の評価に111InDTPA脳槽シンチグラフィーによる核種カウントを用いた.
 先天性頭蓋底髄膜脳瘤は上気道狭窄症状や髄膜炎などが問題となり,口腔内腫瘤と呼吸障害の存在,眼間開離や口唇・口蓋裂などの顔面正中異常から本疾患を疑うことが重要である.また,上気道の狭窄が強い症例では,経口的手術に先立って気管切開が選択肢となりうる.


【症例報告】
■題名
1歳で1型糖尿病を発症しカーボカウントとCSIIが有効だったDown症候群
■著者
産業医科大学医学部小児科
川北 葵  山本 幸代  五十嵐 亮太  江口 真美  後藤 元秀  石井 雅宏  保科 隆之  楠原 浩一

■キーワード
カーボカウント, 21トリソミー, 幼児, インスリンポンプ
■要旨
 1歳で1型糖尿病を発症したダウン症候群の男児に対してContinuous subcutaneous insulin infusion(CSII)とカーボカウント併用で血糖コントロールを行った.急性期管理後Multiple daily injections(MDI)を導入し,入院8日目からCSIIを導入した.インスリンポンプはMedtronic社のパラダイムインスリンポンプ722®を用い,基礎および追加インスリンの最小単位がそれぞれ0.05単位,0.1単位と微量調節可能となった.食後高血糖の管理が不十分であったため,入院25日目よりカーボカウントを併用した.その後は食事摂取量の変動や自律哺乳にも対応可能であったが,最少設定の基礎インスリン量でも夜間低血糖を生じることがあった.保険適応となり使用可能となったMinimed 620G®に変更し,基礎インスリン注入の最小量が0.025単位/hrに設定可能となり,1か月でHbA1cは9.6%から8.3%に改善した.
 乳幼児期のダウン症候群に合併した1型糖尿病の血糖コントロールにCSIIを用いた報告はこれまでなく貴重な症例と考えられた.インスリン投与量の微調節,低血糖リスクの軽減,穿刺回数減少による患者と患者家族のQOL改善といった利点はダウン症候群でない1型糖尿病にCSIIを導入した場合と同様で,このような例にも積極的に導入を行うべきである.


【症例報告】
■題名
新生児期に著明な脳萎縮をきたしたメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損症
■著者
奈良県立医科大学附属病院総合周産期母子医療センター新生児集中治療部門1),同 小児科2),東北大学医学系研究科小児病態学分野3)
大塚 敬太1)  西久保 敏也1)  利根川 仁1)  西本 瑛里1)  中川 隆志1)  釜本 智之1)  内田 優美子1)  榊原 崇文2)  坂本 修3)  高橋 幸博1)

■キーワード
5, 10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損症, ホモシスチン尿症, ベタイン, 新生児マススクリーニング, メチオニン
■要旨
 5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(5,10-methylenetetrahydrofolate reductase;MTHFR)欠損症はまれな葉酸代謝異常症である.我々は,生後1か月間で急速に脳萎縮が進行したMTHFR欠損症の1例を経験した.
 症例は,日齢5の男児.出生時から哺乳不良と活動性低下を認め,日齢33の頭部CT検査で著明な脳室拡大と脳萎縮を認めた.入院時の血液検査や新生児マススクリーニングは「正常」であったが,日齢31の血漿アミノ酸分析で高ホモシスチン血症および低メチオニン血症を認め,MTHFR欠損症が疑われた.直ちに,葉酸,ビタミンB6,ビタミンB2,カルニチンの内服およびビタミンB12(ヒドロキソコバラミン)の筋注を開始し,日齢45からベタインを投与した.遷延する低メチオニン血症に対して日齢83からメチオニン内服を開始した.その結果,全身状態が改善し,脳萎縮の進行は認めなくなった.遺伝子解析でMTHFR遺伝子にc.1122C>Gとc.1539dupAの複合ヘテロ変異を確認した.原因不明の哺乳不良や活動性低下,急速な脳萎縮を認めた場合は,新生児マススクリーニングが「正常」であっても,MTHFR欠損症を鑑別する必要がある.また,新生児マススクリーニングで低メチオニン血症が要精査として報告されるシステムの導入が強く望まれる.


【症例報告】
■題名
エンテロウイルスD68型感染症の6例
■著者
松江赤十字病院小児科
森 里美  遠藤 充  内田 由里  小西 恵理  瀬島 斉

■キーワード
エンテロウイルスD68, 気管支喘息, 急性弛緩性麻痺
■要旨
 エンテロウイルスD68型(以下EV-D68)は呼吸器感染症を引き起こすウイルスである.2014年からアメリカやヨーロッパを中心に流行し,2015年には本邦でも急性呼吸不全,気管支喘息発作,急性弛緩性麻痺の症例から,EV-D68の検出が報告された.
 当院では,2015年8月から11月にかけて気管支喘息発作による入院例が35例あり,これは過去3年の同時期と比較して2.4倍に著増していた.このうち6例の咽頭拭い液からEV-D68が検出され,1例は気管支喘息発作の回復期に急性弛緩性麻痺をきたした.EV-D68感染が気管支喘息発作による入院患者数の増加,急性弛緩性麻痺に関与していることが示唆されたので報告する.
 EV-D68陽性症例は3歳から8歳で,いずれも喘鳴や呼吸困難を主訴に来院し,気管支喘息発作と診断した.気管支喘息中発作から呼吸不全まで重症例が多く,3例でイソプロテレノールの持続吸入を必要とした.呼吸不全をきたした1例では人工呼吸管理を要し,気管支喘息発作の回復期に急性弛緩性麻痺と嚥下障害を呈した.メチルプレドニゾロンパルス療法,免疫グロブリン療法を行ったが麻痺の改善は乏しかった.
 EV-D68のアウトブレイクに伴って,様々な重症度の呼吸器疾患や気管支喘息発作の増加,さらには急性弛緩性麻痺の発生が懸念される.今後,EV-D68について継続的な調査を行い,動向を注視する必要があると考える.


【症例報告】
■題名
鼻出血を契機にループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症と診断したSLE
■著者
四国こどもとおとなの医療センター教育研修部1),同 小児腎臓内科2),同 小児科3)
益岡 壮太1)  近藤 秀治2)3)  岡田 隆文3)  横山 明人3)  岩井 艶子3)  岩井 朝幸3)  横田 一郎3)

■キーワード
ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症, 全身性エリテマトーデス, 鼻出血, 出血傾向, クロスミキシングテスト
■要旨
 ループスアンチコアグラント(LA)は全身性エリテマトーデス(SLE)など自己免疫疾患や感染症の患者で検出され,抗リン脂質抗体症候群で見られる血栓症と強い関連を持つことで知られている.一方,LA陽性に加えて低プロトロンビン血症を伴う,ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症(LAHPS)では出血症状をきたすことがある.
 症例は15歳女児.長時間止血しない頻回の鼻出血の精査でPTとAPTTの延長を認めた.クロスミキシングテストはインヒビターパターンを示し,LA陽性であった.追加の検査で低補体血症,抗ds-DNA抗体陽性などを認め,SLEと診断した.同時に第II因子(プロトロンビン)活性低下と抗プロトロンビン抗体陽性を認めたため,出血症状はSLEに併発したLAHPSが原因と考えられた.LAを含む複数の抗リン脂質抗体が陽性であったが,血栓症状は認めなかった.SLEに対する治療後,PTとAPTTは改善,第II因子活性も正常化し,鼻出血などの出血症状も認めていない.
 ウイルス感染症に伴うLAHPSは症状が一過性で,多くが無治療で寛解するのに対し,SLEなど自己免疫疾患に伴うLAHPSでは症状が持続性であり,治療を要することが多く,再発例や死亡例も報告されている.鼻出血などの軽微な出血であっても,PTとAPTTの延長を認めた場合には,LAHPSを鑑別に挙げて精査を進める必要がある.


【論策】
■題名
全国各市区町村の人口重心と中核病院小児科・地域小児科センターとの最短距離
■著者
広島国際大学医療経営学部
江原 朗

■キーワード
中核病院小児科, 地域小児科センター, アクセス, 地理情報システム, 球面三角法
■要旨
 【目的】地域における小児専門医療の中心となる「中核病院小児科・地域小児科センター」のリストが平成25年11月に日本小児科学会の会員専用ホームページ上に公開されており,各市区町村の代表的な地点から最も近い中核病院小児科・地域小児科センターまでの距離を明らかにして,利便性を検討する.
 【方法】1,901の市区町村の人口重心(住民の居住地の緯度・経度の平均)と501の中核病院小児科・地域小児科センターとの距離を緯度・経度の差から計算し,市区町村ごとにその最小値を求める.
 【結果】最も近い中核病院小児科・地域小児科センターまでの距離の中央値は11.22 kmであった.市区町村の人口規模別に中央値を見ると,20万以上30万人未満が1.79 kmと最も短く,1万未満が27.78 kmと最も長かった.地方ごとに中央値を見ると,最短は近畿の4.49 kmであり,最長は北海道の38.20 kmであった.中核病院小児科・地域小児科センターからの圏域の広さによる15歳未満人口のカバー率は,5 km圏内65.2%,10 km圏内82.5%,20 km圏内92.8%,30 km圏内96.8%,50 km圏内99.2%であった.
 【結論】全国の15歳未満の小児の90%は中核病院小児科・地域小児科センターから20 km圏内,99%は50 km圏内に居住したが,少数ではあってもアクセスが十分ではない小児もおり,受診環境の整備が必要である.

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