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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:16.7.12)

第120巻 第7号/平成28年7月1日
Vol.120, No.7, July 2016

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総  説

左心低形成症候群に対する両側肺動脈絞扼術の術後経過と問題点

元野 憲作,他  1059
原  著
1.

経過良好な低ホスファターゼ症の臨床像と遺伝学的診断

河野 智敬,他  1066
2.

小児多臓器不全患者におけるDIC診断基準の臨床的意義

永渕 弘之  1072
症例報告
1.

腫瘍崩壊症候群を契機に肝芽腫の診断に至った18トリソミー

前田 剛志,他  1081
2.

大脳白質障害を認めた新生児ヒトパレコウイルス感染症の2例

萩原 秀俊,他  1087
3.

大腿骨骨髄炎を続発した川崎病

福井 舞,他  1094
4.

保育所,中学校で発生した小児心肺停止

平田 悠一郎,他  1099
短  報

ロタウイルスワクチン導入前後の入院患者調査

中村 圭李,他  1105

地方会抄録(新潟・京都・中国四国・群馬・鹿児島・福岡)

  1108
男女共同参画推進委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合8

名古屋大学小児科の子育て支援制度を利用して

  1157

日本小児科学会理事会議事要録

  1158

日本小児科学会通常総会議事要録

  1163

日本小児科学会理事会議事要録

  1168

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2016年58巻6号6月号目次

  1169

日本小児保健協会のご案内

  1171

雑報

  1172

医薬品・医療機器等安全性情報 No.333

  1174


【総説】
■題名
左心低形成症候群に対する両側肺動脈絞扼術の術後経過と問題点
■著者
静岡県立こども病院循環器集中治療科1),同 循環器科2)
元野 憲作1)  濱本 奈央1)  櫨木 大祐1)  大崎 真樹1)  小野 安生2)

■キーワード
左心低形成症候群, 両側肺動脈絞扼術, 動脈管, プロスタグランジン製剤, 敗血症
■要旨
 【背景】左心低形成症候群(HLHS)に対する初回手術として両側肺動脈絞扼術(BPAB)が普及しつつあるが,周術期管理の問題を検討した報告は少ない.BPABの術後経過と問題点につき周術期管理の観点から検討する.
 【方法】2007年6月から2012年10月(約5年間)に初回BPABを施行されたHLHS 24症例の診療録を後方視的に検討した.
 【結果】24症例のうち21症例(88%)が第二期手術に到達し,Norwood+Blalock-Taussig(BT)シャント/右室―肺動脈(RV-PA)シャント手術を施行した.初回手術後3名が敗血症で死亡した.動脈管開存目的にプロスタグランジンE1製剤を持続投与したが,第二期手術待機中に8例(33%)で動脈管狭窄を認め(2例においては経過中2度の狭窄化を認めた),うち3例で動脈管維持が困難となり緊急Norwood手術を施行した.肺血流再調節のため再肺動脈絞扼術(re-PAB)を5例に要した.
 【結論】BPAB後周術期では敗血症,動脈管狭窄,肺血流再調整が問題であった.特に低体重児では3例を術後早期に敗血症で失っており要注意である.いずれの児も血行動態の変動が急激であり,詳細な内科的評価・外科治療がいつでも可能な体制が必須であった.


【原著】
■題名
経過良好な低ホスファターゼ症の臨床像と遺伝学的診断
■著者
埼玉県立小児医療センター代謝・内分泌科1),大阪府立母子保健総合医療センター研究所環境影響部門2),大阪大学大学院医学系研究科小児科学3)
河野 智敬1)  鈴木 秀一1)  小澤 綾子1)  会津 克哉1)  道上 敏美2)  大薗 恵一3)  望月 弘1)

■キーワード
低ホスファターゼ症, TNSALP遺伝子, 残存酵素活性, 成長障害, 骨変形
■要旨
 当科で経験した予後良好な低ホスファターゼ症(HPP)のうち,早期にTNSALP遺伝子解析を行い確定診断に至った症例の臨床像と遺伝学的診断について検討した.
 対象は診断時年齢7か月〜3歳7か月の3例(男2例・女1例)で,低身長や乳歯早期脱落,胎児期からの骨変形をきっかけに診断された.いずれも受診当初から治療を要さず,うち2例にみられた骨変形は自然に軽快した.同遺伝子解析では全例に複合ヘテロ接合性変異を同定し,少なくとも片アリルに野生型と比較して30%以上の残存酵素活性を有する遺伝子型を認め,良好な臨床経過と一致していた.
 HPPではTNSALP遺伝子解析を行うことで遺伝学的な確定診断が得られるだけでなく,残存酵素活性を評価することにより,その後の臨床経過を予測できる可能性もあるため,検討するべきと考えられた.


【原著】
■題名
小児多臓器不全患者におけるDIC診断基準の臨床的意義
■著者
神奈川県立こども医療センター集中治療科
永渕 弘之

■キーワード
多臓器不全, 急性期DIC診断基準, 厚生省DIC診断基準, 線溶抑制型DIC, 小児
■要旨
 【目的】小児多臓器不全患者における急性期DIC診断基準(JAAM基準)および厚生省DIC診断基準(JMHW基準)の臨床的意義について検討する.
 【方法】40名を対象として,JAAMスコア,JMHWスコア,thrombin-antithrombin complex(TAT),plasmin-alpha2 plasmin inhibitor complex(PIC),plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1),不全臓器数などに関して後方視的に検討を加えた.
 【結果】JAAM基準を満たした(JAAM+)症例は22例,JMHW基準を満たした(JMHW+)症例は10例であり,JAAM+JMHW+:10例,JAAM+JMHW−:12例,JAAM−JMHW+:0例,JAAM−JMHW−:18例であった.線溶抑制型DICの指標であるTAT,PAI-1,TAT/PICは,JAAM−JMHW−群,JAAM+JMHW−群,JAAM+JMHW+群の順に上昇傾向を示した.また,JAAM−JMHW−群に対してJAAM+JMHW+群では,TAT(p=0.02),PAI-1(p=0.02),不全臓器数(p<0.01)の有意な上昇を示した.
 【結論】JAAM+は線溶抑制型DICの合併を意味し,その進行したJMHW+の段階では,高度な多臓器不全の状態にあるものと考えられた.


【症例報告】
■題名
腫瘍崩壊症候群を契機に肝芽腫の診断に至った18トリソミー
■著者
岡崎市民病院小児科1),名古屋大学医学部附属病院総合母子周産期センター新生児部門2)
前田 剛志1)  林 誠司1)  松沢 麻衣子1)  加藤 徹1)  長井 典子1)  早川 昌弘2)

■キーワード
腫瘍崩壊症候群, 肝芽腫, 18トリソミー
■要旨
 腫瘍崩壊症候群を契機に肝芽腫の診断に至った18トリソミーの1例を経験した.症例は在胎28週4日,出生体重618 gの女児である.出生後より人工換気療法,経鼻経管栄養および心室中隔欠損症に対する心不全管理を継続していた.日齢220に発熱,高カリウム血症,心室性不整脈を呈し,グルコン酸カルシウム投与およびグルコースインスリン療法を必要とした.日齢222に逸脱酵素の著明な上昇に加え,著明な高リン血症,高尿酸血症を認めた.腹部超音波検査および腹部CT検査で肝実質内に不均一な充実性病変を認め,血清α-フェトプロテインが114,345 ng/mLであったことから充実性病変は肝芽腫と診断し,本病態は肝芽腫に伴う自然発症の腫瘍崩壊症候群と考えられた.18トリソミーの長期生存例においては,フォロー中に悪性腫瘍の発生に留意するとともに,自然発症の腫瘍崩壊症候群を呈しうることも念頭に置き診療にあたるべきである.


【症例報告】
■題名
大脳白質障害を認めた新生児ヒトパレコウイルス感染症の2例
■著者
防衛医科大学校病院小児科1),新潟大学小児科2)
萩原 秀俊1)  松本 浩1)  橋本 逸美1)  藤田 基資1)  野村 智章1)  田村 義輝1)  茂木 陽1)  若松 太1)  川口 裕之1)  相澤 悠太2)  齋藤 昭彦2)  野々山 恵章1)

■キーワード
ヒトパレコウイルス, 白質脳症, 高フェリチン血症, 血球貪食性リンパ組織球症
■要旨
 ヒトパレコウイルス(human parechovirus,HPeV)は新生児・乳児において,敗血症様症状・中枢神経症状を伴う重症感染症を呈することが知られている.今回2014年夏期に脳MRIで大脳白質障害を認めた新生児HPeV感染症の2例を経験した.いずれも発熱,無呼吸,けいれん,哺乳不良,発疹などの新生児敗血症様症状で発症した.血液・髄液検査では白血球数の上昇はなく,CRPの上昇は軽度で,髄液細胞数増多もなかったが,血清AST,LDH,フェリチン,sIL-2Rの上昇や凝固機能障害を認め,高サイトカイン血症および血球貪食性リンパ組織球症様の病態の存在が示唆された.1例で挿管・人工呼吸管理を,1例で経鼻持続気道陽圧呼吸を行ったが,ステロイド治療は行わずに症状の改善を認め,明らかな神経学的後遺症を認めなかった.患者血清あるいは髄液から逆転写PCRでHPeVゲノムが検出され,HPeV感染症と診断した.
 HPeVは中枢神経親和性の高いウイルスであり,新生児,早期乳児に重篤な中枢神経合併症・後遺症を生じうるため,特にICU入院や補助呼吸を必要とする症例では脳MRI検査による評価と長期的な発達のフォローアップが必要と考える.HPeV感染症の病態として,高サイトカイン血症が重症化に寄与する可能性があり,今後の検討課題である.


【症例報告】
■題名
大腿骨骨髄炎を続発した川崎病
■著者
昭和大学医学部小児科学講座
福井 舞  中村 俊紀  阿部 祥英  矢川 綾子  山崎 武士  三川 武志  岩崎 順弥  板橋 家頭夫

■キーワード
川崎病, 骨髄炎, γグロブリン大量療法, 免疫抑制薬
■要旨
 川崎病に大腿骨骨髄炎を続発した2か月の男児を経験した.初回の免疫グロブリン大量療法に不応であり,川崎病の改善に免疫グロブリン計11 g/kgのほか,プレドニゾロン,シクロスポリンも要した.第33病日に川崎病に対する治療を完了したが,第34病日に右下肢の自発運動が乏しくなり,大腿から膝関節周囲に熱感・腫脹・他動時の不機嫌が出現した.血液検査にて炎症反応の上昇を認め,画像検査所見で右大腿骨遠位端の骨髄炎を示唆する所見を認めた.血液培養で細菌は検出されず,膝関節の関節穿刺液は漿液性で細菌は検出されなかったが,右下肢病変のほか,炎症反応および画像所見は計6週間の抗菌薬投与と同部位の穿刺排液で改善した.川崎病に関連する骨髄炎の発症は報告がないが,難治性川崎病に対する免疫抑制剤使用後に発熱や炎症反応を認めた際には川崎病の再燃や再発のみならず,骨髄炎のような深部病変の存在にも留意する必要がある.


【症例報告】
■題名
保育所,中学校で発生した小児心肺停止
■著者
九州大学病院救命救急センター1),同 小児科2),日本臨床救急医学会学校へのBLS教育導入検討委員会3)
平田 悠一郎1)2)  李 守永1)2)  賀来 典之1)2)  山村 健一郎2)  馬場 晴久1)  漢那 朝雄1)3)  杉森 宏1)  原 寿郎2)

■キーワード
保育所, 学校, 突然死, 心肺蘇生, 一次救命処置
■要旨
 保育所および中学校で心肺停止した小児に対し職員による心肺蘇生(CPR)が行われ,良好な経過をとった2症例を経験したので報告する.症例1は3歳男児.保育所の豆まき中に失神し,呼びかけに反応なく救急要請された.保育士が心肺停止と判断して胸骨圧迫を開始.失神から26分後に当院搬入となったが,この間心電図はTorsade de Pointesと洞調律を交互に示し85分後に洞調律に復調した.脳低温療法を含む集中治療を行い,第41病日に後遺症なく退院した.症例2は14歳女児.5か月時に心室中隔欠損症根治術を施行後,洞不全症候群と大動脈弁狭窄症を合併し,強い運動が制限されていた.中学校の体育で持久走2,000 m走行後に失神し,呼びかけに反応なく救急要請された.一次救命処置(BLS)講習経験者の教諭がBLSに則り自動体外式除細動器(AED)を装着し,ショックを1回施行後に胸骨圧迫と人工呼吸を開始.救急隊到着後もCPRを継続,失神から14分後に自己心拍再開した.前医を経て当院搬送後,脳低温療法を含む集中治療を行い,第13病日に神経学的後遺症なく前医へ転院した.2症例とも現場で職員による早期のCPRが行われ,後遺症なき生存に繋がった.小児は保育所や幼稚園,学校で突然死に至る可能性があり,かかる症例を通じて職員によるBLSの重要性を再認識するとともに,全国の現場にBLSが広く普及することが期待される.


【短報】
■題名
ロタウイルスワクチン導入前後の入院患者調査
■著者
独立行政法人地域医療機能推進機構徳山中央病院小児科
中村 圭李  小林 聡子  有吉 平  岡崎 史子  堀田 紀子  伊藤 智子  立石 浩  内田 正志

■キーワード
ロタウイルス胃腸炎, ロタウイルスワクチン, 入院患者数, 腸重積症
■要旨
 2010年1月から2014年12月までの5年間に,当院小児科に入院したロタウイルス(RV)胃腸炎の191例(1か月〜8歳)について検討した.2013年以降,RV胃腸炎を主病名とする入院症数は有意に減少し,2014年には0歳の入院症例を認めなかった.期間中の腸重積症は54例であり,RV胃腸炎に伴う腸重積症を1例認めた.RVワクチン接種による腸重積症の増加は認めなかった.

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