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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:16.6.15)
第120巻 第6号/平成28年6月1日
Vol.120, No.6, June 2016
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原 著 |
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余谷 暢之,他 961 |
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池田 裕一,他 969 |
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山本 裕子,他 978 |
症例報告 |
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橋田 祐一郎,他 986 |
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庄司 圭介,他 993 |
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清水 博之,他 1000 |
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横山 桃子,他 1007 |
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松井 鋭,他 1015 |
論 策 |
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坂本 好昭,他 1020 |
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1026 |
日本小児科学会福島第一原発事故の健康障害を検討するワーキンググループ報告 |
日本小児科学会 |
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福島第一原発事故の健康障害を検討するワーキンググループのまとめ
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1045 |
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1051 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2016年58巻5号5月号目次
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1055 |
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【原著】
■題名
在宅重症児の社会サービス利用の現状と不満足度に関連する因子
■著者
独立行政法人国立成育医療研究センター総合診療部1),神戸大学大学院医学研究科先端緩和医療学分野2) 余谷 暢之1)2) 石黒 精1) 中村 知夫1) 阪井 裕一1)
■キーワード
医療ケア, 在宅, 重症児, 社会サービス, 不満足度
■要旨
在宅重症児の社会サービスの利用状況と現状のサービスへの不満足度について調査し,不満足度に関連する因子について検討した.都内在住の在宅重症児を対象に医療情報手帳を配布し,1年後にアンケートを郵送した.手帳およびアンケートから社会サービスの利用状況,不満足度および不満足度に関連する因子について抽出し解析をした.解析対象は76人,平均年齢は16.5(SD:12.2)歳.各種社会サービスの利用状況・利用希望は,往診23%・54%,訪問看護63%・36%,訪問リハビリ34%・32%,入浴介助44%・32%,送迎介助25%・41%,デイサービス15%・23%,自宅預かり16%・38%,通園64%・21%,ショートステイ66%・11%,家事手伝い5%・64%,長期入所―%・74%であった.多変量解析の結果,往診の利用希望は年下のきょうだいありと有意な負の相関(OR=0.29,p=0.05)を,自宅での短時間預かり・家事手伝いの利用希望は気管切開+人工呼吸管理ありと有意な負の相関(OR=0.19,p=0.03,OR=0.30,p=0.05)を,長期入所の利用希望と年下のきょうだいありとの間には有意な負の相関(OR=0.17,p=0.03)を認めた.家族構成は社会サービスの不満足度に関連する重要な因子であり,社会サービスの調整の際に考慮する必要があると考えられた.
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【原著】
■題名
Bladder and Bowel Dysfunctionの臨床背景と便秘治療
■著者
昭和大学藤が丘病院小児科 池田 裕一 渡邊 常樹 布山 正貴 磯山 恵一
■キーワード
Bladder and Bowel Dysfunction, 下部尿路症状, 昼間尿失禁, 便秘症, 下部尿路症状スコア
■要旨
Bladder and Bowel Dysfunction(以下;BBD)とは,昼間尿失禁などの下部尿路症状に便秘症を合併した病態である.BBDはVURの自然寛解率を低下させ,予防的抗菌薬内服中の尿路感染症再発の一因になることにより近年注目されている.BBDの臨床的背景や便秘治療の効果について海外からの報告がみられるが,本邦では十分な検討がなされていない.今回,昼間尿失禁に便秘症を伴ったBBD症例の臨床背景ならびに便秘治療による昼間尿失禁の改善効果について後方視的に検討した.過去2年間に週に1回以上の昼間尿失禁を認めた5歳以上15歳未満の患者206名を対象とした.便秘症の診断にはRome III診断基準を用いた.昼間尿失禁に便秘症を伴ったBBD群は95名(46.1%),便秘症を認めない非BBD群は111名(53.9%)であった.BBD群では尿路感染症と再発性尿路感染症の既往が非BBD群に比較して有意に多く,下部尿路症状スコアの検討では尿失禁の頻度が有意に高かった.12週間の便秘治療により,82%の症例で便秘症の改善を認め,58%の症例で昼間尿失禁の消失もしくは50%以上の頻度減少を認めた.BBDは尿失禁の頻度も高く,かつ再発性尿路感染症のリスクとなるため,昼間尿失禁を含めた下部尿路症状の診療においては便秘症の合併を適切に診断し,便秘治療を優先させて行うことが重要である.
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【原著】
■題名
水痘ワクチン公費助成,定期接種化の効果
■著者
吉備医師会1),川崎医科大学小児科学2) 山本 裕子1) 三宅 真砂子1) 上田 美子1) 高杉 尚志1) 中野 貴司2)
■キーワード
水痘ワクチン, 公費助成, 定期接種化, 2回接種
■要旨
総社市では,H26年10月の水痘ワクチン定期接種化に先立ちH25年4月から1歳以上5歳未満児に対する公費助成が開始された.その前後の水痘患者数,年齢,予防接種歴,重症度等,および保育園幼稚園小中学校での水痘による出席停止者数を調査し,ワクチン普及による効果を検討した.
H27年3月末時点で,1〜5歳児で最低1回のワクチン接種歴がある者は80.9%であった.水痘患者数はH24年度の342人からH26年度には171人と減少し,なかでも5歳未満児の患者数はH24年度217人,H25年度135人,H26年度69人と有意に減少した.保育園の出席停止者数も有意に減少した.一方,年長児の患者数や出席停止者は減少しなかった.接種率の高くない年長児の患者がさらに増加しないか,今後注意が必要である.
1回接種済みの児においては水痘の軽症化が明らかに確認されたが,患者415人のうち1回接種歴のある者が157人(37.8%)を占め,1回接種による発症予防効果は十分ではなかった.水痘の流行を制御するためには,2回接種の徹底が必要と考えられた.1回の接種歴を有する水痘患者のうち,0.9%は接種後3か月以内,7.0%は接種後3〜6か月,16.7%は接種後6〜12か月で水痘を発症しており,1回目接種後3か月を経過したら早い時期に2回目接種を行うことで,より効果的な患者数の減少が期待できると考えられた.
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【症例報告】
■題名
急速に心不全が進行したEmery-Dreifuss型筋ジストロフィー
■著者
鳥取大学医学部周産期・小児医学分野1),同 医学部脳神経小児科2) 橋田 祐一郎1) 坂田 晋史1) 倉信 裕樹1) 美野 陽一1) 船田 裕昭1) 辻 靖博1) 白井 謙太朗2) 神崎 晋1)
■キーワード
Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー, 心不全, 心臓移植, 補助人工心臓
■要旨
Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー(EDMD)は,骨格筋異常による筋力低下,関節拘縮および心伝導障害を伴う心筋症を3主徴とし,重度の心機能障害や不整脈などの心合併症が致命的で予後を規定する.症例は16歳の女性.4歳時に筋生検にて筋ジストロフィーと診断された.8歳時の心エコーで右房拡大と三尖弁閉鎖不全を認め,11歳より2度房室ブロックと心房細動が出現し,その後心房静止となった.12歳より左室機能低下が出現し,β遮断薬を含めた内科的治療を行うも,16歳より急速に悪化し,強心薬の点滴から離脱困難となった.臨床経過よりEDMDと診断し,骨格筋障害は軽度のため心臓移植を目指す方針とした.しかし,突然の心室細動により心肺停止となり,後遺症なく蘇生されたがこれ以上の内科的管理は困難と判断し,移植への橋渡しとして補助人工心臓(VAD)を装着した.しかし,脳梗塞と脳出血を合併し,術後44日目に死亡した.内科的治療に抵抗性の重症心不全を合併したEDMDでは心臓移植も念頭に置く必要がある.また,移植待機中に心不全が進行し内科的管理が困難な場合はVADも含めた管理を考慮すべきである.
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【症例報告】
■題名
SCN2Aに変異を認めた新生児期発症のリドカイン依存性てんかん
■著者
鶴岡市立荘内病院小児科1),国立病院機構西新潟中央病院小児神経科2),新潟大学医歯学総合病院総合周産期母子医療センター3),山形大学医学部附属病院小児科4) 庄司 圭介1) 齋藤 なか1) 堀口 祥1) 新井 啓1) 佐藤 聖子1) 佐藤 紘一1) 吉田 宏1) 伊藤 末志1) 眞柄 慎一2) 和田 雅樹3) 中村 和幸4) 加藤 光広4)
■キーワード
SCN2A, 新生児けいれん, リドカイン, てんかん
■要旨
SCN2Aは,電位依存性Naチャネルの主要構成蛋白であるNav1.2をコードする遺伝子である.その変異は,種々のてんかん症候群,発達障害など多様な病態に関与する事が知られている.SCN2A変異を有する難治性てんかん症例において,リドカイン(Ld)が著効したので報告する.
症例は1歳9か月の男児.1生日からけいれん発作が群発し,振幅圧縮脳波(aEEG)で発作波が認められた.発作は主に部分発作の群発で,一時的に焦点移動性の発作を認めた時期もあった.種々の抗けいれん剤を投与したが無効で,Ldの持続静脈内投与により発作を抑制できた.点滴からLdテープ貼付に移行し,外来での治療が可能となった.現在もLdテープを貼付し発作は抑制できているが,精神運動発達遅滞を認めている.全エクソーム解析による原因遺伝子の検索を行い,SCN2Aにヘテロ接合性のミスセンス変異(c.788C>T(p.A263V))を認めた.既知の新生変異であり,疾患原因と考えられた.
SCN2A変異によるNaチャネル異常が原因と考えられる難治性てんかんに対し,Naチャネル拮抗薬であるLdテープ貼付が有効な場合があり,考慮すべき治療選択肢の一つである.
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【症例報告】
■題名
高サイトカイン血症を合併したヒトメタニューモウイルス感染症の2例
■著者
横浜市立大学附属市民総合医療センター小児総合医療センター1),金沢大学医薬保健研究域医学系小児科2),東京医科歯科大学薬害監視学講座3) 清水 博之1) 菅原 秀典1) 神垣 佑1) 清水 正樹2) 森 雅亮1)3)
■キーワード
ヒトメタニューモウイルス, 血球貪食性リンパ組織球症, 高サイトカイン血症, ステロイド
■要旨
ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)は乳幼児に喘鳴をきたす呼吸器感染症ウイルスである.ウイルス感染を契機に高サイトカイン血症をきたす病態は,二次性血球貪食性リンパ組織球症として知られているが,hMPVがこの病態を引き起こした報告はない.今回,発熱の持続とともに細胞障害マーカー(AST/CK/LDH),血管内皮障害(FDP/D-dimer),サイトカイン誘導タンパク(フェリチン/尿中β2マイクログロブリン)が上昇し,高サイトカイン血症を示唆する検査値の推移を認めたhMPV感染症2例を経験した.症例1は脊椎骨端骨異形成症の4歳男児で,AST 121 IU/l,LDH 1,065 IU/l,フェリチン737 ng/mlまで上昇した.症例2はWest症候群,脳性麻痺の12歳女児で,AST 53 IU/l,LDH 946 IU/l,フェリチン518 ng/mlまで上昇した.両症例ともステロイド治療により軽快した.サイトカインプロファイルは急性期にIL-6,neopterin,sTNFR-II(soluble tumor necrosis factor receptor II)が上昇し,回復期には速やかに低下しており,既知のウイルス性血球貪食性リンパ組織球症のパターンに類似した.hMPV感染症も高サイトカイン血症を合併する可能性があることを認識する必要がある.
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【症例報告】
■題名
WHOガイドラインによる栄養管理が奏功した重症栄養失調例
■著者
島根大学小児科1),同 子どものこころ診療部2),島根県立中央病院小児科3) 横山 桃子1) 美根 潤1) 岸 和子1)2) 堀江 昭好1)3) 山口 清次1)
■キーワード
栄養失調, 虐待, ネグレクト, WHOガイドライン
■要旨
開発途上国では,栄養失調による小児の死亡例はいまだに多いが,栄養失調児に対するWorld Health Organization(WHO)ガイドラインの導入により,死亡率が著明に減少したといわれている.現在の日本では,乳幼児の栄養失調に遭遇する機会は稀で,WHOガイドラインの存在もあまり知られていない.しかし,虐待等による栄養失調児に遭遇する機会が増加するかもしれず,遭遇したとき,適切な対応が行われないと乳幼児が重大な健康被害を受ける可能性がある.我々は,重度栄養失調の8か月女児に対してWHOガイドラインに沿った栄養管理を行って回復に成功した症例を経験した.
両親のネグレクトにより生後4か月時から急激に体重減少があり,8か月時に児童相談所保護のもと入院とした.Weight for length −3 SD以下で,WHOのSevere malnutritionの定義を満たしたので,WHOガイドラインに沿った栄養管理の方針をとることに決定した.経過中下痢や肝障害,低血糖などを認めたが,重大な合併症なく,順調に体重は増加し,入院62日目に退院となった.
重度栄養失調の管理では通常の脱水などと違って注意すべき点が多く,WHOガイドラインにそった適切な対応が必要である.ガイドラインの導入に際しては,開発途上国とは環境の違う面もあるので,日本の実情に合った工夫も必要である.
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【症例報告】
■題名
多職種連携により円滑な搬送が実現し良好な予後を得た小児心筋炎症例
■著者
国立成育医療研究センター救急診療科1),同 集中治療科2) 松井 鋭1) 辻 聡1) 伊藤 友弥1) 六車 崇2)
■キーワード
搬送医療, ヘリコプター, 体外循環, 心肺蘇生, 経皮ペーシング
■要旨
小児の急性心筋炎は,早期に体外補助循環を導入できる施設へ搬送する必要がある一方で,循環が不安定な患者を搬送するには専門チームによる搬送が望ましいとされる.今回多職種の連携により専門チームによる円滑な搬送が実現した症例を経験したので報告する.3歳男児,第1病日に嘔吐,下痢あり,第3病日夜に数秒間の眼球上転を複数回認め,第4病日に顔色不良と脈不整を指摘され前医へ紹介となった.前医診察時にIII度房室ブロックを伴う循環不全を認め,経口気管挿管下に経皮ペーシングを開始され当院へ搬送依頼となった.依頼直後に前医へ向けて陸路で搬送チームが出動したが約40 kmあり,前医へ消防防災ヘリコプター要請を依頼した.迅速に設定されたランデブーポイントで搬送チーム,患者,ヘリコプターが合流し,当院へ空路搬送することができた.集中治療室入室後より経皮ペーシング不良となり心停止となったがすぐに心肺蘇生を開始し,2分で自己心拍再開した.体外式膜型人工肺導入を要したが,入院5日目に離脱し,入院18日目に後遺症なく独歩退院となった.今回は多職種の連携が有効に働き円滑な搬送が実現したが,今後は地域や施設毎に時間帯や搬送先に応じて利用できる搬送手段を事前に確認すべきであり円滑な搬送を常に可能とするような定型的プロトコールの策定が必要と考えられた.
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【論策】
■題名
頭蓋骨縫合早期癒合症の診断治療の現状
■著者
慶應義塾大学医学部形成外科1),同 医学部小児科2),同 医学部脳神経外科3) 坂本 好昭1) 武内 俊樹2) 三輪 点3) 冨田 健太郎2) 高橋 孝雄2)
■キーワード
頭蓋骨縫合早期癒合症, チーム医療, 早期発見, 乳児健診
■要旨
【背景】頭蓋骨縫合早期癒合症(CS)は,何らかの原因で頭蓋縫合が癒合する先天性疾患である.治療は正常な脳発育を阻害しないよう生後1年以内に外科的治療を行うことがよいとされている.本疾患の発見には健診を行う小児科医の役割が重要となるが,非常に稀な疾患であるが故に本疾患を疑う機会が少ない.
【方法】小児科医512名を対象とし書面によるアンケート調査を施行した.早期発見を行うための糸口を検討した.
【結果】有効回答数は388通であった(回答率75.8%).両親から児の頭の形について相談を受けたことがある小児科医は92.6%に及んだ.そして相談されたときの対応として最も多かった回答は「経過観察」であり,その理由としては「寝るときの向き癖による変形だと思った」という回答が多かった.一方で「寝るときの向き癖による変形」か,あるいは「CS」かを鑑別する設問においてその正解率は38.9%であった.また紹介先として「頭の形外来」の設立や,小児科医向けのセミナーの開催の要望が多かった.
【考察】時間の限られた日常診療の中で様々な疾患をスクリーニングする必要性がある小児科医の負担はかなり大きい.今回の調査から本疾患に対する情報発信の必要性が示唆された.そしてこの報告が,発見の契機となる小児科と治療を行う形成外科・脳神経外科との連携強化となり,患者の早期発見・治療の一助になることを期待したい.
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