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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:15.10.20)
第119巻 第10号/平成27年10月1日
Vol.119, No.10, October 2015
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日本小児心身医学会推薦総説 |
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井口 敏之 1459 |
第118回日本小児科学会学術集会 |
日本小児科学会賞受賞記念講演 |
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ムコ多糖症の臨床的,生化学的,遺伝学的研究と治療法の開発
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折居 忠夫 1470 |
教育講演 |
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絹巻 宏 1483 |
原 著 |
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尾崎 隆男,他 1490 |
症例報告 |
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大坪 善数,他 1496 |
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本田 晃生,他 1503 |
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武井 麻里子,他 1509 |
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池田 圭,他 1514 |
論 策 |
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江原 朗 1518 |
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阿部 裕樹,他 1526 |
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1532 |
小児医療提供体制委員会報告 |
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1551 |
Sedation Essence in Children Under Restricted Environment(SECURE) |
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1567 |
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1568 |
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1573 |
【原著】
■題名
水痘ワクチンの流通・保管時の温度変化とウイルス力価
■著者
江南厚生病院こども医療センター1),国立病院機構三重病院小児科2),医療法人社団恒仁会くまがい小児科3),医療法人宏知会ばば小児科4),医療法人社団永井小児科医院5),藤田保健衛生大学医学部小児科6) 尾崎 隆男1) 西村 直子1) 庵原 俊昭2) 熊谷 卓司3) 馬場 宏一4) 永井 崇雄5) 吉川 哲史6) 浅野 喜造6)
■キーワード
水痘ワクチン, 流通, 保管, 温度管理, ウイルス力価
■要旨
水痘帯状疱疹ウイルスは熱に不安定で,流通・保管時の温度変化による水痘ワクチンの力価低下が懸念された.われわれはワクチン流通検討会を設立し,2008〜13年に年1回,水痘ワクチンの流通・保管時の温度変化とウイルス力価を調査した.今回,2013年の調査成績を報告し,これまでの成績と併せて総括した.
2013年の調査は全国6か所の医療施設で実施された.通常の流通方法で購入された水痘ワクチン(10本)について,流通・保管時の温度変化をワクチンに装着した自動温度記録計で調査した.ワクチンをドライアイス保冷下に回収し(5本は医療施設納品時,5本は医療施設で1か月間保管終了時),全品の力価(plaque-forming units(PFU)/dose)を測定した.
4特約店へ出荷されてから6医療施設への納品時まで適正な温度(5℃以下)が維持されていた.6医療施設(4施設冷凍保管,2施設5℃保管)においても,適正な温度が維持されていた.水痘ワクチンの平均力価は,医療施設への納品時31,000 PFU/dose, 1か月間保管終了時29,200 PFU/doseと生物学的製剤基準の力価(1,000 PFU以上/dose)を十分に超える値であった.2008〜12年の5回の調査においても,今回と同様の結果であった.水痘ワクチンの流通・保管の温度管理に問題がなく,力価の低下は認められなかった.
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【症例報告】
■題名
先天性心疾患を合併した超低出生体重児に対する低酸素濃度ガス吸入療法
■著者
佐世保市立総合病院小児科1),福岡市立こども病院小児循環器科2) 大坪 善数1) 神戸 太郎1) 牛ノ濱 大也2) 大園 恵梨子1) 橋本 和彦1) 湯浅 千春1) 濱口 陽1) 林田 拓也1) 福永 啓文1) 角 至一郎1)
■キーワード
低酸素濃度ガス吸入療法, 超低出生体重児, 高肺血流型先天性心疾患, 近赤外線分光法, 脳内酸素飽和度
■要旨
高肺血流型先天性心疾患を合併した新生児の術前管理において,窒素ガスを用いた低酸素濃度ガス吸入療法(N2吸入療法)は,肺血管抵抗を高めることにより肺血流増加を軽減し体循環を維持することが可能となる.しかし,N2吸入療法中の脳循環動態については不明な点が多く,特に超低出生体重児に長期のN2吸入療法を行った際の中枢神経系への影響については報告が少ない.
今回我々は,高肺血流型先天性心疾患(両大血管右室起始症)を合併した超低出生体重児(在胎31週6日,体重778 g)を経験し,肺動脈絞扼術(PAB)が可能となる体重までN2吸入療法を施行した.本療法中は低酸素による脳障害を予防する目的で近赤外線分光法(NIRS)を用いて脳内酸素化指標(c-TOI)の連続測定を行った.また頭部エコーによる脳血流評価と心エコーによる推定肺体血流比(Qp/Qs)の変化を評価した.日齢20から49日間にわたりN2吸入療法を行い,日齢69でPABを施行した.現在根治術待機中であるが,10か月時点で修正月齢相当の発達を認め,頭部MRI,脳波検査では中枢神経系の後遺症は認めていない.N2吸入療法の実際と各モニタリング値の変動について検討したので報告する.
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【症例報告】
■題名
急性膵炎を繰り返したSPINK1遺伝子変異例
■著者
奈良県立医科大学小児科1),順天堂大学小児科2) 本田 晃生1) 中川 智子1) 武山 雅博1) 鈴木 光幸2) 嶋 緑倫1)
■キーワード
急性膵炎, SPINK1遺伝子変異, 若年性膵炎
■要旨
特発性膵炎症例の中にはトリプシンインヒビターであるSPINK1(Serine protease inhibitor,Kazal type 1)の遺伝子変異を認めることがあり,同変異は慢性膵炎や膵癌発症の危険因子になり得る.【症例】13歳女児.1年前に急性膵炎の既往があり,腹痛,背部痛,嘔吐を主訴に来院.血液検査で膵酵素の上昇と腹部CTでびまん性の膵腫大があり,急性膵炎の再発と診断した.家族歴や外傷歴はなく,自己免疫疾患や感染症も否定的で,MRCP(Magnetic resonance cholangiopancreatography)でも明らかな膵胆管合流異常を認めず,原因不明であった.急性膵炎の治療後,脂質制限および蛋白分解酵素阻害剤の服用を継続したが,その1か月後に急性膵炎を再発した.遺伝子解析の結果,SPINK1遺伝子ヘテロ接合体p.N34S変異を認めたため,脂質制限強化と塩酸ブロムヘキシン錠を追加した.その1か月後にも膵炎を再発し,2年間で計4回発症したが,その後は現在まで約半年間は発症していない.【結語】SPINK1遺伝子変異を有する膵炎症例の7割が孤発例であるため,若年性膵炎や再発性膵炎では,家族歴がなくても遺伝子変異を疑うべきである.遺伝子変異例では,脂質制限を含めた管理,患者指導を行い,膵炎の再発を抑えることで慢性膵炎化や癌化,糖尿病などの合併症予防に努める必要がある.
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【症例報告】
■題名
腸管嚢腫様気腫症を合併した全身型若年性特発性関節炎
■著者
群馬大学大学院医学系研究科小児科学1),パルこどもクリニック2) 武井 麻里子1) 石毛 崇1) 羽鳥 麗子1) 龍城 真衣子1) 友政 剛2) 荒川 浩一1)
■キーワード
急性腹症, 腸重積症, 高圧酸素療法, 腸管嚢腫様気腫症, 全身性若年性特発性関節炎
■要旨
2歳5か月時に腸重積症を発症し緊急開腹手術にて腸管嚢腫様気腫症(PCI)を認めた1歳4か月発症の全身型若年性特発性関節炎(sJIA)の幼児例を経験した.本症例は手術による腸重積症の整復を行い,術後に高圧酸素療法を行いPCIの改善を確認した.トシリズマブ及びステロイドは術後も変更なく投与を継続し,再燃を認めていない.PCIは悪性腫瘍,膠原病などに合併し,発症の原因として免疫統御療法の関与が指摘されている.本邦小児の報告例41例の検討では膠原病・自己免疫疾患を基礎疾患とする症例は2例で,いずれもステロイドなど免疫統御療法が行われていた.本症例では腸重積症発症時にはステロイドおよびトシリズマブの定期投与を受けていたが,sJIA診断時のCT画像再構築を行い,PCIに合致する腸管壁の気腫性変化を確認した.このことからsJIAそのものがPCIの原因となりうることが示唆された.
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【症例報告】
■題名
ジェルボール型洗剤による誤飲事故
■著者
名古屋記念病院小児科 池田 圭 森田 誠 三輪田 俊介 野口 智靖 徳永 博秀 長谷川 真司
■キーワード
誤飲, ジェルボール型洗剤, 洗剤中毒
■要旨
ジェルボール型洗剤は2014年4月下旬にわが国において販売が開始された.今回我々は,この新しいタイプの洗剤を誤飲した7か月の男児を経験した.誤飲直後より嘔吐がみられ,前医救急外来を2回受診したが,経過観察を指示された.帰宅後に嘔吐や呼吸困難などの症状が増悪したため当院受診し入院となった.胃洗浄を行い,吸引,吸入などの処置を繰り返したが症状の改善はなく,高次医療機関に転送した.搬送先施設では,輸液,吸入,酸素投与,抗菌薬投与などの治療を行い,6日間の入院管理後,後遺症なく治癒した.
国内では未だジェルボール型洗剤による誤飲事故の危険性が十分に認識されていない可能性が示唆された.小児科医や救急医をはじめとする医療従事者はその危険性を十分に認識するべきであり,暴露された小児は速やかに医療機関を受診し適切な治療を受ける必要がある.また,事故防止の観点より保護者や保育者への啓蒙を行うことも急務と思われる.
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【論策】
■題名
小児救急患者の時間帯別地域外搬送率
■著者
広島国際大学医療経営学部 江原 朗
■キーワード
救急搬送, 消防本部, 管轄地域, 管外搬送, 集約化
■要旨
【背景】病院小児科の数が減少しているため,居住地から遠く離れた医療機関に小児の救急患者が搬送される比率が高まっていると思われる.
【方法】全国の救急搬送人員データベース(総務省消防庁)を用いて,平成20年から24年の新生児,乳幼児,少年の救急搬送における管外搬送率(消防本部の管轄地域外への搬送比率)を計算した.さらに,成人および高齢者のそれと比較した.
【結果】新生児,乳幼児および少年の各時間帯における管外搬送率は,平成20年から24年にかけて大きな変化を示さなかった.
各時間帯間の管外搬送率を比較すると,新生児,成人および高齢者では大きな差異を認めなかったが,乳幼児および少年では日勤帯では低く,準夜・深夜帯では高い傾向が認められた.
【結論】平成20年から24年にかけて病院小児科が1割弱減少したが,小児の管外搬送率が高くはなっていなかった.しかし,各年を通じて乳幼児と少年の管外搬送率は日勤帯で低く,準夜・深夜帯で高い傾向が認められた.
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【論策】
■題名
チャイルドシートが交通外傷の重症度に与える影響と小児科医による啓発
■著者
新潟市民病院小児科 阿部 裕樹 池野 観寿 松井 亨 佐藤 大祐 布施 理子 山崎 佐和子 上原 由美子 渡辺 徹 阿部 時也 佐藤 誠一
■キーワード
チャイルドシート, 交通事故, 外傷, 予防, 啓発
■要旨
過去5年間に受診した,6歳未満の交通外傷患児について,チャイルドシート装着の有無による重症度について調査を行った.154例の受傷者のうち,チャイルドシートを正しく装着していた者は74例,装着のなかった者(正しい方法で装着していなかった場合を含む)が80例であった.装着ありの場合は約95%の患児が何の外傷も負わなかったか,ごく軽い外傷ですんでいたのに対し,装着無しの場合には19%,約5人に1人の患児が中等症以上の外傷を負っていた.重傷者は装着のなかった場合に多く,死亡例2例も含まれた.
チャイルドシートを装着していない場合,全く補助具無し,保護者の抱っこ,車のシートベルトを装着などの場合が見られたが,チャイルドシートを正しい方法で装着していないことによる外傷も見られた.死亡例の1例は,シートにハーネスで固定されていないことが原因であった.
さらに保護者に対してチャイルドシートの使用に関する意識調査を行った.子どもが泣いたり嫌がったりすることが,最も使用の障害になっていた.
今回の調査で,チャイルドシートを正しく使用した際の保護効果の高さが改めて示された.小児科医は,チャイルドシート使用の対象年齢の子どもを有する保護者に接する機会が多い.それ故にその使用を積極的に啓発する必要があると考えた.
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