gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:15.4.28)

第119巻 第4号/平成27年4月1日
Vol.119, No.4, April 2015

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

原  著
1.

不活化ポリオワクチン(ソークワクチン)を含む新規4種混合ワクチンの有効性と安全性

中山 哲夫,他  669
2.

X連鎖性低リン血症性くる病におけるTmP/GFRの有用性

武田 良淳,他  680
3.

夜間救急受診患者を対象とした小児救急電話相談の認識調査

福井 聖子,他  687
症例報告
1.

生後2か月時に啼泣時意識消失発作を契機に診断した肺動脈性肺高血圧症の乳児例

菅本 健司,他  695
2.

ロタウイルス胃腸炎経過中にグラム陰性桿菌による菌血症を発症した2例

笠木 実央子,他  702
3.

限局性結節性過形成を伴い思春期早期に発見された先天性肝外門脈体循環短絡の1例

巨田 元礼,他  710
論  策
1.

フィリピン台風被害への国際緊急援助隊医療チームに参加して

浅野 祥孝,他  716
2.

小児科外来を訪れる受診者家族のインターネットの医療情報の利用実態

西藤 成雄,他  721

地方会抄録(和歌山・北日本・石川)

  729

小児科医の到達目標─小児科専門医の教育目標─

  751

編集委員会への手紙

  799

日本小児科学会理事会議事要録

  800


【原著】
■題名
不活化ポリオワクチン(ソークワクチン)を含む新規4種混合ワクチンの有効性と安全性
■著者
北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学講座I1),第一三共株式会社2),Sanofi Pasteur S.A.3),サノフィ株式会社4)
中山 哲夫1)  山内 英征2)  Ortiz Esteban3)  Valérie Bosch Castells3)  仁科 哲史4)

■キーワード
不活化ポリオワクチン, ソークワクチン, 混合ワクチン, 臨床試験, 定期接種
■要旨
 北里第一三共ワクチン株式会社のDTaPとサノフィパスツール社のIPV(ソークワクチン)を混合した新規の4種混合ワクチン(DTaP-wIPV)の免疫原性及び安全性を検討した.
 日本人小児377名をDTaP-wIPV群(A群)とDTaP+OPV群(B群)に2:1の割合で無作為に割り付けた.A群にはDTaP-wIPVを,B群にはDTaPを初回免疫として3回,追加免疫として1回それぞれ皮下接種し,また,A群にはOPVプラセボを,B群にはOPVを2回経口接種した.
 初回免疫1か月後のA群の各ポリオウイルスに対する発症防御レベル以上の抗体保有率はいずれも100%であり,各抗原に対する抗体保有率について,DTaP+OPVに対するDTaP-wIPVの非劣性が示された.さらに追加免疫1か月後のA群のポリオウイルスに対する抗体保有率はいずれも100%であり,全ての抗原に対するGMTの顕著な上昇が確認された.
 副反応の発現率は両群で同程度であり,また,治験薬接種後7日以内に発現した主な副反応である注射部位反応や発熱の発現頻度も両群で大きな違いはなかった.
 DTaP-wIPVは,日本人小児に対し高い免疫原性を有し,安全性に大きな問題はないことが示唆された.


【原著】
■題名
X連鎖性低リン血症性くる病におけるTmP/GFRの有用性
■著者
東京都立小児総合医療センター内分泌・代謝科1),熊本大学生命資源研究支援センター疾患モデル分野2),あいち小児保健医療総合センター内分泌代謝科3),群馬県立小児医療センター内分泌代謝科4),国立病院機構東京医療センター小児科5),東京都立小児総合医療センター遺伝子研究科6)
武田 良淳1)  宮井 健太郎1)  高木 優樹1)  後藤 正博1)  有安 大典2)  井澤 雅子3)  井垣 純子4)  鈴木 絵理5)  中村 由恵6)  長谷川 行洋1)6)

■キーワード
低リン血症性くる病, PHEX遺伝子, %TRP, TmP/GFR
■要旨
 X連鎖性低リン血症性くる病(XLH)は,尿中リン再吸収率(%TRP)および最大尿細管リン排泄閾値(TmP/GFR)の低下により臨床的に診断される.TmP/GFR算出の際,腎糸球体濾過量(GFR)が十分に保たれることが必要である.今回我々は,PHEX遺伝子変異が同定されたXLH患者26名を対象に,(1)随時検体より算出した%TRP, TmP/GFRと基準値の比較,(2)水分負荷による%TRP, TmP/GFRの経時的変化,(3)水分負荷後の検体より算出した%TRP, TmP/GFRと基準値の比較について検討した.(1)随時検体で測定したXLH患者26名286検体と基準値の比較では,%TRPは64検体,TmP/GFRは4検体で基準値内であった.(2)XLH患者4名での検査前日からの水分負荷では%TRP, TmP/GFRは検査日には2時間にわたり一定の値をとったが,検査開始時からの水分負荷では経時的に低下傾向を示した.(3)水分負荷を行ったXLH患者22名48検体と基準値の比較では%TRPは25検体が基準値内でありTmP/GFRは全検体が基準値以下であった.3歳未満発症の重症男性例でも同様の傾向を認めた.XLH患者の尿細管リン再吸収能の指標として%TRPよりもTmP/GFRが有用であり,GFRが維持された状態での測定が重要である.


【原著】
■題名
夜間救急受診患者を対象とした小児救急電話相談の認識調査
■著者
大阪小児科医会1),真美会中野こども病院小児科2),箕面市立病院小児科3),かたぎりこどもクリニック4)
福井 聖子1)  圀府寺 美1)2)  山本 威久1)3)  片桐 真二1)4)  藤谷 宏子1)  武知 哲久1)  小川 實1)

■キーワード
小児夜間救急, 小児救急電話相談, 保護者意識調査, 受診理由
■要旨
 大阪府小児救急電話相談(#8000)は平成20年以後1日平均100件以上の相談を行ってきた.現時点における小児夜間救急患者の電話相談の利用状況と役割等を検討するため,小児夜間救急外来を受診した患者の保護者を対象にアンケート調査を行った.回答数は644で,比較のため日中受診313も合わせて検討した.夜間受診者における電話相談の周知率は67%で,電話を『今後も利用』または『知らなかったが利用したい』の回答は計460例,全体の71%であった.電話を利用する理由の70%が受診の相談で,電話を利用しない理由は,夜間救急受診者では『受診した方がいい』が,比較とした日中受診者では『機会がない』が最も多かった.夜間『電話を利用せず受診』する群は夜間受診者の16%で,インターネットの利用率は低く,医療機関受診のみを頼る傾向があり,夜間小児医療体制を検討する際考慮すべき対象と考えられた.夜間救急外来を受診した理由は,『今の症状がすごく心配』が7割と圧倒的に多く,『電話相談等で受診を勧められた』も6%認められた.受診理由別に転帰を比較すると,『電話相談等で受診を勧められた』は最も入院率が高く『診察または投薬のみ』が少なかった.電話を利用するという回答にもかかわらず当日『今の症状がすごく心配』で受診した例が多く,今後は保護者が電話相談を利用しながら自ら判断し行動できるように,理解しやすい受診の目安を啓発することが重要と考えられた.


【症例報告】
■題名
生後2か月時に啼泣時意識消失発作を契機に診断した肺動脈性肺高血圧症の乳児例
■著者
埼玉県立小児医療センター循環器科1),同 総合診療科2)
菅本 健司1)  小川 潔1)  星野 健司1)  菱谷 隆1)  齋藤 千徳1)  藤本 義隆1)  鍵本 聖一2)  窪田 満2)  萩原 真一郎2)

■キーワード
肺高血圧, 乳児, エポプロステノール, チアノーゼ発作, 肺生検
■要旨
 生後2か月時からのチアノーゼを伴う意識消失発作で発症した乳児特発性肺動脈性肺高血圧症を経験した.チアノーゼ発作は時に心肺蘇生を必要とする程に重度であったが,非発作時には心不全症状やチアノーゼはなかった.心臓超音波検査でも非発作時には肺高血圧症の存在を指摘できなかったが,発作時には著明な右室圧上昇と三尖弁閉鎖不全,卵円孔での右左短絡を認めた.深鎮静下での心臓カテーテル検査では中等度の肺高血圧を認めた.チアノーゼ発作は経口肺血管拡張薬(ベラプロスト,シルデナフィル,アンブリセンタン)の内服でも抑制できなかった.再度,カテーテル検査を行ったところ,鎮静下の肺高血圧は中等度であったが,覚醒傾向になると肺動脈圧は著明に上昇し大動脈圧を凌駕した.その後,プロスタグランジンI2の持続静注を開始したところ,チアノーゼ発作は消失した.肺生検では肺小動脈の中膜肥厚に加え直径150 μm以下の肺小動脈の低形成を認めた.これらに肺血管の発作的スパスムが加わり,チアノーゼ発作に繋がっていたものと考えられた.
 乳児期発症の特発性肺動脈性肺高血圧症では突発的な症状で発症することがあり,非発作時には所見に乏しいことがある.乳児に対してプロスタグランジンI2持続静注を長期に行うことには困難を伴うが,肺血管の易刺激性を示す乳児期発症の特発性肺動脈性肺高血圧症では有効な治療と考えられる.


【症例報告】
■題名
ロタウイルス胃腸炎経過中にグラム陰性桿菌による菌血症を発症した2例
■著者
国保旭中央病院小児科1),静岡県立こども病院小児集中治療科2)
笠木 実央子1)  高寺 侑1)  西村 竜哉1)  松原 健1)  森本 健司1)  荒畑 幸絵1)  小林 宏伸1)  仙田 昌義1)  北澤 克彦1)  本多 昭仁1)  小林 匡2)

■キーワード
ロタウイルス感染症, 胃腸炎, 菌血症, グラム陰性桿菌, bacterial translocation
■要旨
 ロタウイルス胃腸炎治療中にグラム陰性桿菌による菌血症を合併した2症例を経験した.症例1は著患のない7か月男児.嘔吐,下痢を主訴として第5病日に治療目的で入院した.輸液療法により下痢は軽快傾向にあったが,入院5日目に39℃の発熱を認めた.白血球数13,100/μl, CRP 14.81 mg/dlと上昇しておりcefotaximeの静脈内投与を開始したところ3日目より解熱した.血液培養でKlebsiella pneumoniaeが検出されたが尿培養は陰性であった.症例2はMayer-Rokitansky-Kuster-Hauser症候群の3歳女児.下痢,活気不良を主訴として第2病日に治療目的で入院した.輸液療法後下痢は軽快傾向にあったが,入院5日目に39℃台の発熱を認めた.白血球数9,900/μl, CRP 0.68 mg/dlと炎症反応は軽微であり,尿検査にも異常を認めなかったが,基礎疾患を考慮しcefotaxime+ampicillinの静脈内投与を開始したところ翌日には解熱した.血液培養でEscherichia coliが検出されたが尿培養は陰性であった.2症例とも入院時の便中ロタウイルス抗原が陽性であった.ロタウイルス胃腸炎に続発する菌血症の多くは基礎疾患のない乳幼児に発症するが,重篤例や死亡例が報告されており,ロタウイルス胃腸炎回復期の合併症として注意を要する.


【症例報告】
■題名
限局性結節性過形成を伴い思春期早期に発見された先天性肝外門脈体循環短絡の1例
■著者
福井大学医学部病態制御医学講座小児科1),自治医科大学移植外科2)
巨田 元礼1)  吉野 智美1)  畑 郁江1)  水田 耕一2)  大嶋 勇成1)

■キーワード
限局性結節性過形成, 先天性肝外門脈体循環短絡, 肝移植
■要旨
 限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia;FNH)は,まれな肝の良性腫瘍様病変で,先天性肝外門脈体循環短絡(congenital extrahepatic portosystemic shunt;CEPS)に伴うことがある.症例は12歳男子.右背部痛を主訴に受診.高γ-GTP血症と腹部エコーで肝内の多発結節を認め,各種画像検査によりCEPSに合併したFNHと診断した.頭部MRS検査で慢性的な高アンモニア血症による基底核病変を認め,肺血流シンチグラフィーでは肺内シャント率の上昇を認めたため,父をドナーに生体肝移植を施行した.移植後,背部痛は消失し,基底核病変は改善した.肝腫瘤の鑑別としてCEPSに伴うFNHを考え,不可逆的高次脳機能障害や門脈肺高血圧症を回避するために早期から肝移植を含めた治療を考慮することが重要と考えられた.


【論策】
■題名
フィリピン台風被害への国際緊急援助隊医療チームに参加して
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科1),医療法人社団聖仁会白井聖仁会病院小児科2)
浅野 祥孝1)  長田 浩平1)  李 権二2)  田村 正徳1)

■キーワード
国際緊急援助, 災害支援, 小児, 外傷
■要旨
 平成26年11月8日早朝にフィリピンを通過した台風ヨランダは,フィリピンに甚大な被害をもたらした.日本国政府は11月10日午後フィリピン政府からの要請を受け,国際緊急援助隊医療チーム(Japan Disaster Relief Team.以下JDR)の派遣を決定した.二次隊に参加し主として小児患者を担当した.JDR二次隊カルテを後方視的に検討した.合計1,186名の患者を診察した.5歳未満の小児患者は220名(19%)であった.小児患者においては,外傷は少なく,感冒を中心とする呼吸器疾患が多数を占めた.災害医療の現場でも,小児患者において求められた医療はまさに日常的な医療であった.


【論策】
■題名
小児科外来を訪れる受診者家族のインターネットの医療情報の利用実態
■著者
西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニック1),やまもと小児科2),守山市民病院3),国立病院機構紫香楽病院4),滋賀医科大学小児科5)
西藤 成雄1)  山本 尚2)  野々村 和男3)  鳴戸 敏幸4)  目方 由子4)  高野 知行5)  竹内 義博5)

■キーワード
インターネット, 医療情報, 外来患者, 世帯, 子ども
■要旨
 平成9年より滋賀県内の5つの医療機関を定点と定め,概ね3年毎に外来家族のインターネット(以下,INET)の医療情報の利用実態についてアンケート調査を行った.調査世帯の情報技術(以下,Information Technologyの略でIT)機器所有率は,調査開始時より内閣府調査の一般世帯よりも高く平成15年には95.2%に達していた.IT利用者のいる世帯の割合も平成22年には98.0%に達した.INETの医療情報の利用経験は,平成22年には81.3%の世帯で行われていた.INETの医療情報の利用時の感想は「医師の説明がよく理解できた」「役立つ情報が得られた」などの肯定的な意見が多く,調査を重ねるに連れ増えており,患者にINETの利用を強く止める理由にはならない.INETの医療情報の利用意向は,76.8%から87.4%と調査開始時より高い割合を維持している.
 受診者家族の多くがINETから医療情報を得られる事を認識して,外来診療を行わなくてはならない.アクセスし易いWorld Wide Web(以下,Web)ページに適切な医療情報を配置する事は,医師と患者の信頼関係に構築に役立つであろう.生活のインフラと化したINETを,患者やその家族が安心して利用できるように,医療機関からWebページへの情報提供の在り方についての議論が進む事を期待する.

バックナンバーに戻る